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街に自由と寛容を 多様性が生む魅力 ことでん代表、真鍋康正さん

ナイスタウン出版は来年、設立から45周年を迎えるのを機に社名をナイスタウンに変更する。「若者文化をもっと楽しく、活気あふれる街をつくろう」という創業の理念に立ち返り、香川県で活躍する人に「理想の街」を問う連載企画を始めた。聞き手は、地域交流会「テラロック」を主宰する寺西康博。初回に登場した、ことでんグループ代表の真鍋康正さんは、異なる価値観を認め合い多様な人々が行き交う「自由」をキーワードに、魅力的な街の姿を語ってくれた。

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▽自由を運ぶ

寺西 「真鍋さんが考える『いい街』とは。実現のために何が必要か。ご自身の会社がやっていることは」

真鍋 「自由な街。固定観念に縛られず、人が思い思いの生き方を表現できる街。自由という価値観がベースにあると街の文化は多様になる。国籍、年齢、職業を問わず、どんな人でも生きやすい街はいい街だ。ことでんのポスターには地方におけるマイノリティーの方がたくさん登場する。外国人、体に障害のある車いすの方、そしてLGBTカップルも。少数者が暮らしやすい街をつくるべきだし、その人たちが集まる移動手段として公共交通は存在する。自由な街に自由な人を運ぶ。僕はそういう気持ちで経営している。地方におけるマジョリティーは車を持っている大人。子どもや車を持っていない人も集まることができる街にしたい。話が何だかナイスタウンっぽくないな(笑)。天然酵母のパン屋の話のほうがいいか」

寺西 「誰でも天然酵母のパン屋に行ける街がいい街だと」

真鍋 「そうそう。そのために、いくつか条件がある。居場所、安全、交通手段。街に『自分がいてもいい』と思える居場所が必要だし、そもそも治安が悪かったら街に人は集まらない。そして僕らはその街へのアクセスにかかわる会社。公共交通はお客さんを選ばず、数百円を持っていれば誰でも街に行ける。人の自由を守るために僕らは運行し続けないといけない。僕は小さい頃、高松市の屋島に住んでいて、ことでんで市中心部を訪れる時は『街に行く』と言った。行くこと自体に価値があった。大人になった今もなんとか街の中心部が維持されている。一方、鉄道やバスなど公共交通がない地方都市は街に人を集める機能が弱く、衰退しつつある。公共交通網が貧弱だと、子どもは車で送ってくれる親の都合に左右されてしまう。子どもの自立を促していくことも街の機能なのに」

寺西 「商店街が充実している街はワクワクする」

真鍋 「ショッピングモールにはさまざまな商店が集まっているけれど、街にはさらに多様な店や人間を受け入れる自由がある。本屋、喫茶店、ライブハウス、服屋、居酒屋といった場所が必要で、自分にとっての居場所があるのがいい街だと思う。居場所があると街に帰属しているという意識が芽生える。顧客あるいは消費者として訪ねるだけの場所ではなく、街は訪れる人が、自分も主体者、メンバーの一人だと思える場所だ」

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▽外国人も障害者も

真鍋 「多様な人が集まると文化も面白くなる。世界を見渡しても、外国人が多い港町は独特の雰囲気がある。高松は港町。英国のリバプールやフランスのマルセイユなどは人種も多様で魅力的な港町。高松はもともと転勤族が多い街だし、人の出入りが激しい」

寺西 「新型コロナウイルスの感染拡大で、街にどんな影響が出ているか」

真鍋 「まず、ここ数年で外国人が急増し、日本人以外の視点で高松を見てくれるようになった。経済効果だけでなく、地域の価値を再発見する効果があった。それが消えたのが寂しい」

寺西 「なるほど、価値の再発見。街を語る上で自由から入るのは面白い。多様性から入る議論は多いが、根底にあるのは自由だ」

真鍋 「よく企業は多様性が大切と言う。女性管理職を増やしたり、外国人を採用したり。でも、数合わせでは意味がない。多様性が生む文化が大事。お互いの違いを認め合うことに価値がある。例えば、全身にタトゥーが入っているけど、それもクールだよね?みたいな。男同士が手をつないで歩いているけど、それもありだと。異質を理解するためには触れ合わないといけない。とはいえ、好き勝手に振る舞えばいいわけでもない。街には車いすの人、妊娠している女性、白杖を突いている視覚障害者、外国人もいる。自由とともに思いやりが必要。困っている人を助ける。人が自由に生きるために、余裕のある人が支えないと」

寺西 「電車にはさまざまな人が乗る。公共交通は学びの場とも言えそうだ」

真鍋 「都会の子どもたちは電車によく乗るからいろんな人と触れ合っている。地方の子どもは学校と家を往復する毎日。下手をすれば、習い事は親が車で送ってくれる。学校関係者、家族、友達ぐらいしか会わない。たまたま集まった人たちが、同じ空間で過ごす公共交通。困っている人を助けたり、迷っている人を案内したりもする。公共性を学ぶ場だ」

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▽同じ街に住む意味

寺西 「私自身、車がメインの移動手段になった瞬間、公共交通が持っている多様性を見落としがちになる。今、新型コロナで乗車密度を落とさなきゃいけないという経営課題がある中で、公共交通の意義や必要性をみんなで考えるときかも」

真鍋 「やっぱり公共交通は必要。皮肉なことに、新型コロナで行動が制限された結果、時々は人と会わないと寂しいことが分かった。以前のようにしょっちゅう集まる機会はないから、楽しく人と会いたい。同じ物を食べ、同じ空間にいることでつき合いが深くなる。車に乗らない人も街に運んで多様な出会いをつくるためにも公共交通はある。他者との出会いと公共交通はセットで発達してきた。」

寺西 「同じ体験を共有する」

真鍋 「打ち合わせはオンラインで済む。それでも人と会う理由は何か。オンライン以上に深くつながるためだろう。それをお手伝いするのが公共交通。みんながオンラインで完結するなら、人が集まる街は成り立たない。人が同じ地域に住む意味は何か。時々は会えるという安心感ではないか」

寺西 「あとは所属しているという意識。これから選ばれる街になるには」

真鍋 「残酷な言い方をすると、現状は都会の方が自由。地方は緑豊かで生活の質は高いと言われるけど、やはり異質なものが排除され、一度失敗した人間がいづらくなる面がある。新型コロナ感染者への非難をみるとそれが露呈しつつある。地方都市にも懐の深さや失敗を許す寛容さが求められている」

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▽選ばれる街に

寺西 「街の魅力の一つに偶然の出会いがある。とりわけ若い人にとって素敵な人と出会うチャンスが多いのは魅力だ」

真鍋 「欧米の都市では新型コロナ以降、密にならないようできるだけ道路を使って屋外でご飯を食べようという流れになっている。屋内に比べて気持ちも開放的になるし、隣のテーブルの人と話しやすい。立ち飲み屋もそう。かちっと座る店より、立ち飲みのパブのほうが話しやすい。そうやって過ごし方が多様化すると面白い。普通、道路の使用に規制はあるが、新型コロナをきっかけに規制を緩和している」

寺西 「真鍋さんは以前、地方に創造的な人材が少ないのは、面白くて給料が高い仕事が少ないからだと言った。いい街には魅力的な仕事も欠かせない」

真鍋 「人が集まるには、ちゃんと稼げる仕事が必要だ。僕はライフワーク的に新しい産業育成に取り組んでいる。テクノロジーを基盤に、才能が集まる企業を育てないと。そのためには産官学の連携が大事。知性がそろう大学に外界との回路をつくる。民間企業がその知性を活用して産業をつくる。それを行政もバックアップする。今は外国から人が来ない。自分でモノ、サービスをつくって外に売りに行く能動的なビジネスが必要だ。付け加えると、人は仕事だけで住む場所を決めるわけではない。暮らしも大事。家族がいたら子どもの教育も考えて決める。人は街の文化とともに生きていく。もし人口を増やしたいなら、そこはセットで考えないと。なんだかナイスなタウンの話じゃない(笑)」

寺西 「インバウンドだけでなく、産業づくりも文化もひっくるめて街に必要だと」

真鍋 「すみません、まとめていただいて(笑)」

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▽技術で未来をつくる

寺西 「真鍋さんは産業づくりに対し問題意識があるから、テクノロジー関係の会社を支援している」

真鍋 「そうそう。ドローン会社にロボット会社などなど。公共交通で駅から駅へ、どれだけ安全・定時に人を運んでも、人口が減っていくなら、当然先細りする。街の豊かさ自体にコミットしないと公共交通は成り立たない。その課題解決を個人的には楽しんでやっている」

吉田 「支援先を具体的に教えてほしい」

真鍋 「例えば、離島にドローンで物を運ぶためのシステムを開発している高松市の『かもめや』。これから人手が減る中で、ドローン輸送が増える。建設現場で作業を省力化するロボットを開発する三木町の『建ロボテック』も支援している。テクノロジーを利用し、新型コロナ以前から始まっていた社会の変化をさらに加速していく。そこにビジネスチャンスがあり、雇用を生む。そういう企業が増え、人が集まる街が面白い」

吉田 「まちづくりをすでに実践されている」

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▽原点

寺西 「街の価値を上げるために、出会いの質を高められないか。視野が広がり、成長につながるような」

真鍋 「鍵は、どれだけ肩書やバックグラウンドから自由になれるかだ。僕自身、教える側だけでなく学ぶ側にもなりたい。地域のこと、経営のこと、交通のこと、知りたいことは山ほどあるが、会社の社長然として振る舞っていると学べない。肩書を捨てて学びにいかないと」

寺西 「街に肩書を取り払う装置をつくれないか」

真鍋 「本来は街自体が肩書を外す装置であるはず。オフィスだけなら郊外でいい。通勤して仕事をして家に帰るだけなら。でも街はそうじゃない。仕事と離れたサードプレイス、つまりカフェ、美術館、飲み屋、芝居小屋、ライブハウス、映画館、本屋などがあるから街になる」

寺西 「多様な場が生まれることで街の価値が高まるかもしれない」

真鍋 「どれだけ出会いの場をつくれるかが重要だ。いい出会いがあるから街に行く。ショッピングはオンライン化し、買い物のために街を訪れる機会は減った。カルチャースクールのクラスメートが楽しいとか、飲み屋に面白い人がいるとか店主が魅力的な本屋があるとか。そうした出会いの多い街がいい街だと思う。一番うまい飲み屋が一番はやるわけではなく、居心地のいい店がはやる。そんなお店で、お店の人が、人と人をつなげてくれることもある」

寺西 「その場所が存在する価値、意味を捉え直す機会になっている」

真鍋 「消費だけではなく、学び、出会いの場。それがこれからの街の議論の原点だと思う」

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初回に登場した真鍋さんは、異なる価値観を認め合う「自由」をキーワードに、理想の街を語ってくれた。偶然の出会いから生まれる学び。誰も排除せず、みんなが自分らしく過ごせる街。考えるだけでわくわくする。堅苦しい議論は要らない。私たち自身の心を偏見や固定観念から解き放つことで理想に近づける。

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