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#15 労働者の「金質」

労働生産性も上がらず、企業も高コスト体質からぬけだせない背景には「終身雇用」という日本の組織に独特の仕組みがある。
ただ、そうは分かっていても労働者から見ると(特に公務員の場合)一度雇用されるとなかなか抜けにくい経済的な事情がある。退職金という制度を盾にした「人質」ならぬ「金質」という問題だ。

具体例を示そう、私の勤める大学の退職金規程には、退職金の算定について次のように記載れている。

勤務先の勤務規定より

30歳で講師として採用され、35歳で准教授、45歳で教授に昇任したと考えよう。退職金に影響するのは給与の他に各種手当等があるが、単純化するため5%として計算してみる(あくまでもおおよそということで)。端数は端折って特別昇給等はなかったものとしてざっくりと計算してみよう。

30歳講師初採用の場合、退職金算定の基礎となる基本給は月給と手当などで28万円ほどだ。
その後給与は大体次のように変化していく

35歳(准教授昇進時)・・約33万円
40歳・・・・・・・・・・約38万円
45歳(教授昇進時)・・・約42万円
50歳・・・・・・・・・・約47万円
55歳・・・・・・・・・・約52万円
(以降は昇給停止)

10年(40歳)で自己都合で退職した場合は38×10×0.6=273.6万円だ

20年(50歳)で自己都合で退職した場合は
{(47×10)+(47×5×1.1)+(47×5×1.6)}×0.8=883.6万円となる

65歳までつとめた場合は
(52×10)+(52×5×1.1)+(52×5×1.6)+(52×5×2)+(52×5×1.6)+(52×5×1.2)=2470万円と計算される。

実際の金額は係数や細則などを含めた計算よって若干違ってくるが、
それにしても35年間つとめると10年間で自己都合退職した人の約9倍の退職金になるというのは、すごい差といえるではないだろうか?

もちろん、法人によっても給与規程の細部は変わってくるが、公務員の場合には上で挙げた傾向はある程度共通していると言えるだろう。
つまり、若い頃少ない給与で組織に貢献しておいた分の給与を退職金で取り返すという仕組みなのだ。

加えてこの退職金には、次のように税負担が所得税の半分程度になるという手厚い税制優遇が適用される。

課税退職所得金額=(退職金の収入金額-退職所得控除額)×2分の1

これだけ違うと、転職しよう考えても、行動に移すまでには二の足を踏むのは当然だ。

もちろん、終身雇用を主張する側の言い分も分からないわけではない。若手、新人には実践力となる前に研修やサポートをする必要がある。人材育成に膨大なコストをかけた後にやめられてしまったら、人材への投資が無駄になってしまう。だからできるがけ長く会社に勤めてもらうことは合理的であるという考え方だ。

しかし、今や明らかに終身雇用の弊害の方が大きくなってきている。この仕組みを何とかしないことには、組織が停滞していくのは当然のなりゆきなのではないだろうか?