#16 年俸制とクロスアポイントメント
前回述べたように、終身雇用制度とは、60歳満期で税制優遇を受けられる「退職金」という金融商品を、入社と同時に有無を言わさずに購入させられて、るしくみだ。
これは雇用者にとっても、労働者にとっても合理的とは言えない。
国もできれば、変えたいと考えているが、急になくすと影響が大きい。そこで選択的・漸次的に終身雇用制度から移行する仕組みを整えつつある。国立大学の場合にはそれが「年俸制」と「クロスアポイントメント」という仕組みだ。
「年俸制」とはざっくり言うと退職金をもらう代わりに毎年の給与に、退職金分を積み重ね、それによって退職金の負担を軽減しようとする仕組みだ。けれども、すでに雇用されている人の場合には、結果的に給与と退職金の合計額が少なくなる可能性が高い。これを希望する人はできるだけ早く私学や海外の大学への異動を考えている場合で例外的だ。そこで新規採用などの場合には、年俸制に限定するスキームを採用する国立大学が増えている。
「クロスアポイントメント」とは複数の大学に勤務することことで、人件費を抑制する仕組みだ。例えばA大学とB大学二つの大学に籍を置いて、仕事も半分にして、給与も半分ずつ折半するというものだ。仕組みとしては合理的だが、実際にはあまり進んではいない。というのも、教員による仕事量に著しい偏りがすでに生じているからだ。だから二つの大学に勤務する結果、給与は同じ、仕事は倍ということもあり得る。
どちらも国は大学の評価指標やインセンティブを使ってかなり強力に後押ししているが、実際にはそれほど進んではいない。難しい問題だ。