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動くのか、植田日銀!

12/27、NHK放映の単独インタビューで、植田日本銀行(以下、日銀)総裁は、中小企業の賃上げ状況がある程度、確認できる状況になれば、金融正常化に動く可能性について初めて示唆した。来年こそ、2013年以来続く現行の大規模金融緩和政策に変更があるのか、ドル円相場への影響と併せて占った。


1.見方が分かれた金融政策決定会合における主な意見

12/27発表された12/18,19開催の金融政策決定会合での主な意見を見ると、来年の賃金上昇率は、今年を上回る蓋然性が高いとする意見がある。中小企業の賃上げやサービス業における価格転嫁の広がりが、賃金と物価の好循環の進展を見る上で重要との意見もあった。
また、今後の金融政策運営に関しては、金融緩和の継続を通じて賃上げのモメンタムを支えることが重要で、賃金と物価の好循環を通じた2%目標の実現の見極めは十分な余裕を持って行うことが必要との意見が出ていた。その一方で、金融正常化のタイミングは近づいている。拙速はよくないが、巧遅は拙速に如かずという言葉もあり、タイミングを逃さず金融正常化を図るべきとの意見もあった。

2.植田総裁の12/19記者会見と12/27放映単独インタビューとの相違点

12/19の記者会見で植田総裁は、米国の利下げ前に日本が利上げを行うことは不適切、金融緩和継続の副作用は大きくない、国債買い入れオペ減額は国債市場のボラティリティーを高めるなど、早期の金融緩和解除に否定的な発言が多く、金融正常化への出口戦略に着手するヒントすら与えなかった印象が強かった。
しかし、12/27放映の単独インタビューでは、金融正常化に着手するタイミングについて、序文で述べた通り、中小企業の賃上げ動向が出そろわなくても、全体的な方向感が見えてきた段階で金融政策の正常化に着手することはあり得ると発言し、場合によっては来年6月以降にマイナス金利解除に動く可能性を暗に示唆する発言を行っている。

3.今後の日銀の金融政策運営に関する考察

日銀が来年の賃上げ動向を確認した上で、マイナス金利の解除に動いたとしても、現在のマイナス0.1%というデフレ下での超緩和政策をゼロに戻すだけの話であり、これが継続的な利上げに繋がるかどうかは別問題である。12/19の記者会見で植田総裁は、現行のイールドカーブ・コントロール政策を撤廃したり、国債の買いオペを停止するかについては、将来的な国債市場のボラティリティーを抑える手段をどう確保するかも議論しながら長期的に考えていきたいと述べていた。今後、日銀が現行の大規模金融緩和政策の修正に動き始めても、その後の行程は一気に進むわけではなく、慎重に金融市場への影響も考慮しながら進められていく公算が大きい。

4.今後のドル円相場への影響

来年、いよいよ日銀がマイナス金利解除に動いたとしても、その後の出口戦略は景気動向や金融市場への影響を勘案しながら慎重に進めると予想すると、現在、ドル円相場が140円台前半まで下がる過程において、来年の日銀の金融政策正常化への着手は相当程度市場に織り込まれてきていると判断するのが妥当であろう。従って、今後のドル円相場は、米国の金利低下がどこまで進むかにもよるが、米国の利下げ織り込みも、FRBが想定する倍以上の織り込みとなっていることを勘案すると、図表1の通り、年初の円高は、138円台程度に留まるものと予想する。

(図表1 ドル円チャート 右軸:単位 円 Trading Viewからの引用)

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20231228執筆 チーフストラテジスト 林 哲久


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