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変わる米国金融市場のテーマ、インフレからスタグフレーションへ

マッカーシー下院議長が米国憲政史上初めて解任されるという珍事が発生した。9月末、可決した11月半ばまでのつなぎ予算に共和党が賛成したことに、共和党保守強硬派が反発し、解任動議が提出、可決されたことにより起こったようだ。しかし、この解任により、民主・共和両党の溝が深まり、11月半ばでの2024年度本予算可決のハードルは大きく上がった。米国の政治情勢が、米国の金融市場に与える影響と今後の金融市場の動向を探った。


1.共和党と民主党の対立点

共和党は、従来から小さな政府を公言し、大幅な財政支出には反対の姿勢を示してきた。一方、民主党は、歴史的に大きな政府を志向し、積極財政を標榜してきた。しかし、今回の騒動を経て、共和党中道派が、民主党との妥協を拒否することで、本予算の成立が遅れ、実際に政府閉鎖が発生してしまう可能性が高まったと考えられる。

2.金融市場への悪影響

今年8月、英国格付け会社フィッチが、民主・共和両党の政治対立により政府閉鎖一歩手前まで、つなぎ予算成立が遅れたことで米国財政運営に関する信頼性が損なわれた事態を重く見て、米国債の格付けをトリプルAからダブルAプラスに引き下げたことは記憶に新しい。しかし、この決定以降、米国債券の下落が続き、直近では図表1の通り、10年物国債金利が4.80%をつけるまで上昇している。
今後、政治対立が続き、11月以降、政府閉鎖の事態に陥れば、主要格付け機関で唯一トリプルAを維持してきたムーディーズが格下げに動く可能性が取り沙汰されている。
こうした状況は、米国の財政に対する市場の信認を揺るがし、更なる債券下落=金利上昇に繋がる可能性があることから注意が必要な状況となっている。

(図表1 米国10年債金利チャート 右軸:単位 % Trading Viewからの引用)

3.現在の金融市場の動向と今後の展開

こうした米国長期金利の上昇を受け、ドルインデックスは、図表2の通り、この数か月一本調子に上昇を続けてきた。しかし、今後もこのペースで、金利上昇、ドル高が進めば米国の経済の下押し圧力となることは間違いなく、インフレが鎮静化しないまま、米国経済が景気後退入りするスタグフレーション経済に陥るリスクが相応に高まってきたと言える。
来年の大統領選挙を控え、民主・共和両党との駆け引きが激しさを増すことは疑いなく、予算成立に向けてのハードルが上がり、今までのような積極財政に歯止めがかかり、バイデン政権が歳出削減に追い込まれれば、更に景気に悪影響を及ぼす可能性がある。
その場合、これまで強い米国経済に惹かれて集まってきた投資資金が一斉に引き揚げられることで、ドル安、株安、債券安のトリプル安相場に移行する蓋然性が高まると予想され、ドル高相場の転機が意外に近い可能性には留意していきたい。

(図表2 ドルインデックスチャート Trading Viewからの引用)

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20231006執筆 チーフストラテジスト 林 哲久


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