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「空飛ぶゴールド」が金相場を史上最高値まで押し上げる?!

3/6、金相場が史上最高値の1トロイオンス2,158ドルまで上昇した。その背景に金の需要、供給両面での構造的変化が垣間見える。今後の金相場の行方を占った。


1.経済指標から見た金高騰の背景

図表1の通り、金相場は昨年12月に付けた史上最高値を更新した。経済指標から見た背景は2つある。まず、2/29発表された米国1月個人消費支出コア価格指数が、前年同月比2.8%上昇と前月の2.9%から小幅に伸び率を縮小し、2021年2月以来の低さとなった。インフレ率の低下によるドル下落が金買いを誘発した。更に3/1発表された2月米ISM製造業景況指数が47.8と市場予想比大幅に下振れ、16ヵ月連続50割れを記録し、約22年ぶりの長期低迷となったことも金相場を後押しした。
弱い経済指標が連続した事で年始からの長期金利上昇が一服し、ドルインデックス(※)が下落したことが、ドルと逆相関の関係にある金相場を1トロイオンス2,150ドル台まで押し上げる原動力となった。
※ドルインデックスとは、ユーロ、日本円、英ポンドなど他の主要通貨に対する米ドルの総合的価値を示す指標、現在は103近辺で推移。

(図表1 金相場推移チャート 右軸:単位 ドル/トロイオンス Trading View提供のチャート)

2.金をめぐる需給構造の変化

金の供給面に関しては、金採掘の人件費、エネルギーコスト、鉱脈の探索費増から2023年の平均生産コストが、2019年比40%近く上昇し、過去最高を記録している。この結果、金鉱山世界大手企業の採算が軒並み悪化、最大手の米ニューモントの2023年10-12月期決算は、31億ドルの赤字と前年同期の14億ドルの赤字から更に損失を拡大させている。今後は、埋蔵量の制約から低グレードの金鉱石を取り出すために、更に電気代や化学薬品代のコストがかさむことが予想される。こうした採算の悪化が今後の金採掘を鈍らせ、供給が減るとの見方が出ている。
一方、需要面に関しては、世界全体のゴールドETF残高は、米国長期金利が3%台から5%まで一本調子に上昇した事を嫌気して、2023年6月から2024年1月まで、8ヵ月連続減少し、累計300トン以上の売り越しとなっている。一方、需要を増やしているのは、インドや中国などアジア地域の一般個人中心と言われている。欧州で精錬されたゴールドバーが旅客機で空輸されることから、昨今「空飛ぶゴールド」と言われているようだ。新興国の経済発展により、一般個人の所得水準が上がったことで宝飾品や投資目的での金需要が増していることが背景にあるものと思われる。また、新興国の中央銀行が、外貨準備に占める米国債の保有割合を減らし、金準備を増やす動きを強めていることも、金需要を増やす要因となっている。

3.今後の金相場の行方

今後、米国経済が景気減速に伴い、利下げ局面に移行していくと予測すると、世界の投資家は、ドルへの需要を減らし、金への需要を増やすことが考えられる。加えて、アジア諸国の所得水準の向上により、金需要が中間層レベルにまで拡大したことで、一般個人がマクロ経済環境に左右されない構造的な買い手となることから、趨勢的な金相場の下支え要因となっていくものと考えられる。一方、金の生産量は、供給制約から現在の年間3,500トン前後から、今後3,000トン程度まで減少するとの見立てもあり、需給バランスが趨勢的に需要超過に傾いていくことが予想され、今後、金相場は2,500ドル/トロイオンス方向に緩やかに上昇していくものと予測する。

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20240307執筆 チーフストラテジスト 林 哲久



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