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現実味を帯びる米国政府機関閉鎖の危機!

17日に期限を迎える米国つなぎ予算に関し、ジョンソン下院議長は、1月19日までと2月2日までの2本立てで、つなぎ予算再延長の準備を進めているが、民主党のみならず、共和党内からも反対意見が出ており、つなぎ予算が無事延長されるのか不透明な状況にある。今後の金融市場への影響を追った。


1.ジョンソン下院議長が選出された背景

今回、ジョンソン下院議長が選出された背景は、もともとトランプ前大統領に近い保守強硬派でありながら、共和党内での知名度が低いことが幸いし、特段の反対意見が出なかったことで選出された、いわゆるnegative choiceの結果であって、民主党とのパイプがあるわけでもなく、共和党内をまとめる手腕があるわけでもないことがそもそもの前提としてあることに留意する必要がある。

2.つなぎ予算可決への道筋

ジョンソン下院議長は、元来、保守強硬派であり、マッカーシー下院議長のように民主党との妥協を探る中道派ではないため、共和党保守派に近い予算編成を組む蓋然性が高い議長である。しかし、今回は、ウクライナ支援のみならず、イスラエル支援も除外する形ではあるが、保守派が主張する歳出の3割削減や移民政策の変更は盛り込まず、民主党への一定の配慮を示すつなぎ予算案を準備している。これに民主党が賛同すれば、共和党内の保守派の造反があっても、下院を通過させることができることになる。

3.小さな政府と大きな政府の対立

共和党は、元来、「小さな政府」を志向し、巨額な財政支出には反対の立場である。一方、バイデン大統領率いる民主党は、「大きな政府」を志向し、財政出動に積極的な政党である。従って、つなぎ予算が仮に成立したとしても、本予算が無事に上下両院で可決される道筋は容易ではないのが現状である。図表1の通り、バイデン政権に移行後、コロナショックもあり、米国の財政赤字は大きく拡大しており、移民政策、気候変動・エネルギー対策、外交政策など、民主党の「大きな政府」政策への共和党のアレルギーは根強く、予算審議での合意形成を難しくしている。

(図表1 米国財政赤字推移予測チャート Bloombergからの引用)

4.米国金融市場への影響

こうした最悪の事態を懸念してか、米国格付け会社、ムーディーズが、10日、米国の信用格付け見通しを「安定的」から、「ネガティブ」に引き下げた。これは、今後、想定される政府機関閉鎖への警告と考えられ、もし、実際に政府機関が閉鎖すれば、米国の格付けを格下げすることを意味しているものと思われる。主要格付け機関で唯一トリプルAを維持してきたムーディーズが格下げすれば、もう当面、米国がトリプルAに回帰する道は閉ざされるだけでなく、他の格付け機関が更なる格下げに動く可能性も出てくる。図表2の通り、格付け機関フィッチが8月に米国信用格付けを引き下げて以降、米国債券売り、米長期金利上昇が加速しており、主要格付け機関の格下げは、米債券市場には、悪材料となり、米国金融市場は、長期金利上昇、株安で反応する蓋然性が高い。

 (図表2 米国10年国債金利推移チャート 右軸:単位 % Trading Viewからの引用)

5.政府機関閉鎖後の市場の反応

今のところ、政府機関の閉鎖確率は大きくないものの、もし閉鎖の事態に陥れば、130万人の現役軍人や200万人の連邦政府職員への給与の支払いがとまるだけでなく、行政機関が閉鎖され、雇用統計など米国経済指標の発表も差し止められるなど、内外に大きな悪影響を与える。また、政府機関閉鎖の事態が長引けば、1週間ごとにGDP経済成長率が0.2%押し下げられるとの試算も出ている。
それにもかかわらず、来年の大統領選挙を控え、共和、民主両党の溝は深まっており、両党が財政支出に関して折り合える余地は少なくなっているのが現状である。もし、2024年度本予算の成立が遅れ、政府機関閉鎖が長期化するような事態になり、主要格付け機関の格下げが行われると米国予算運営に関する市場の信認が損なわれる。その結果、内外投資家が米国金融資産を投資対象から自動的に外す動きが活発化し、米国金融市場がトリプル安に直面するリスクには注意が必要である。

前回の米国財政運営に関する記事はこちら

20231114執筆 チーフストラテジスト 林 哲久


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