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増え続ける日本の対外直接投資がドル円市場に与える影響とは?!

財務省が発表した2023年1-10月累計では、日本企業による対外直接投資金額が、20兆円に達し、3年連続20兆円超えの高水準を記録することが明らかとなった。対外直接投資増を中心とする資本収支赤字がドル円相場に与える影響を考察した。


1.過去3年の国際収支統計から垣間見える為替需給

図表1の通り、日本の対外直接投資は、この数年大きく拡大しており、年間20兆円超えが常態化しつつある。2021年から2023年10月までの累計金額は、65.7兆円となるのに対し、同期間の経常収支黒字額は、50.3兆円に留まっている。因みに同期間の貿易収支は、19.4兆円の赤字となっている。これを見るとモノ、カネ両面において、日本は資本流出国に転換しており、これが為替市場における円売り外貨買い需要の高まりに繋がっている。

(図表1 日本の対外直接投資推移チャート 左軸:単位 億円 出典:株式マーケットデータ)

2.資本流出の意味するもの

資本流出=キャピタルフライトという悪いイメージを持つ向きもあるが、日本の対外直接投資の主体は企業によるM&Aが中心であり、その結果、日本は32年連続世界一の400兆円を超える対外純資産国となっている。

3.今後の対外純資産増を支えるもの

対外直接投資が右肩上がりで上昇を続ける一方、資本収支のもうひとつの構成要素である対外証券投資はこの数年伸び悩んできた。背景としては、大手生保などの機関投資家が円高リスクを恐れて為替ヘッジ無しでの外債投資を手控えてきたことに加え、為替ヘッジ付き外債投資※が、この数年の米国長短金利の逆イールドにより、巨額の損失を抱え、売却を迫られてきたことが大きい。しかし、本年から新NISAがスタートすることで、個人投資家が中長期的スタンスから為替ヘッジ無しでの対外証券投資を活発化させる公算が大きく、今後は、企業部門による対外直接投資と個人投資家による対外証券投資の両輪で、対外純資産が増加していくことが考えらえる。
(※通常短期金利は、長期金利より低いため、4%の長期国債を購入しつつ、1%の短期金利コストで為替ヘッジを行うと、為替リスクをとらずに3%の利鞘やを稼ぐことが出来たが、一昨年来の急激な金融引き締めにより、短期金利5.5%が長期金利4%を上回ることで、為替ヘッジコストが長期債利回りを上回り、損失が発生。)

4.今後のドル円相場への影響

このように趨勢的に増加が予想される資本収支赤字に加え、日本の貿易収支の恒常的な赤字基調が継続している以上、今後、日銀が金融正常化に着手し、日米金利差縮小による円買い圧力が強まったとしても、持続的な円高圧力とはならず、図表2の通り、昨年7月同様、140円割れの円高水準となっても一時的な動きに留まり、中長期的な円安トレンドは継続されるものと判断する。

(図表2 ドル円チャート 右軸:単位 円 Trading Viewからの引用)

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20240109執筆 チーフストラテジスト 林 哲久


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