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来年こそ「隠れ円安」相場が顕在化する?!

来年の主要内外金融機関のドル円相場予想を見ると、上限150円、下限123円レンジで平均レートは、137円となり、円高予想が多いが、私としては、ドル円下落だけを見て円安一服と判断すると、対他通貨での円安進行の実態を見誤る「隠れ円安」の危険性を国際収支統計から読み解く必要性があると考えた。


1.マクロ金融環境からのドル安円高予想が信用できない理由

米国の利上げ打ち止め後、景気減速に合わせ、緩やかな利下げ局面に移行するとの予測が多い一方、日本は、金融正常化に向かう公算が高く、日米金利差縮小がドル安に働くとの見立てがある。しかし、米国の景気減速が発生するかどうかは、今の堅調な雇用状況を見ると、定かではない。また、仮に米国が景気減速局面に移行する過程において、日本経済が悪影響を受けるのは必然であり、日本だけが、景気逆風下で金融正常化に動けるかは疑問が残る。その結果、ドル円の大幅な下落は想定し難いというのが正直な思いである。

2.日本の貿易収支動向から見えるドル不足状況

足元のエネルギー価格の下落は貿易収支の赤字縮小効果を持つが、一方で中国経済の減速は、対中輸出を減少させており、その結果、日本の貿易収支は、図表1の通り、円安でも基調的な赤字傾向から脱却できていない。来年も、世界的な景気減速により、原油価格が低下しても、中国の不動産不況が構造的なもので、短期的な改善が期待できない以上、日本の対中輸出の低迷が続くと見るのが自然であろう。従って、昨今の円安にもかかわらず、日本の貿易収支黒字化の道は容易ではなく、円買い需要は高まらないものと予測する。

(図表1 日本の貿易収支推移チャート 右軸:単位 億円 Trading Economicsからの引用)

3.日本の資本収支動向から見えるドル需給の逼迫

次に、お金の流れを表す資本収支の中で、為替市場に直接的なインパクトを与える対外直接投資動向を見ると、図表2の通り、この数年大幅な増加傾向にあり、年間20兆円を超える状態が恒常化しつつある。これは、日本企業が、国内の少子高齢化を受け、グローバル市場へ活路を見出すべく、積極的な海外進出を果たしている結果である。こうした対外資本流出は、構造的な流れであり、足元の金融環境には左右されない動きとして注目する必要がある。
更に、特筆すべきは、図表3の通り、今年に入り、日本の対外商業用不動産投資が急増していることが挙げられる。これは、海外投資家が欧米の金融引き締めにより、資金調達コストが上がり、不動産投資に及び腰になっているのに対し、日本の投資家は、日本の低金利を背景に対外投資のチャンスと捉えているものと思われる。
更に、来年からは、新NISAがスタートすることで、日本国民が年間新たに2兆円規模の海外証券投資を行うとの試算もある。
こうした対外資本流出を合計すると、日本の年間経常黒字を上回る規模に達する公算も高く、為替市場のドル需給を継続的に逼迫させていくことが考えられる。

(図表2 日本の対外直接投資推移チャート 左軸:単位 億円 株式マーケットデータからの引用)
(図表3 日本の対外商業用不動産投資推移チャート Bloombergからの引用)

4.来年のクロス円相場予測

今年は、①ドルが一番強く、次に②その他通貨、最後に③日本円の順番であったが、来年は、全般的なドルの方向性を表すドルインデックスではドル安傾向が強まりそうである。その結果、来年末は、日本円の為替需給を見ると、円余剰が常態化することも考慮し、①その他通貨、②ドル=日本円の順番となると予測する。即ち、ドルが対主要通貨、対新興国通貨でドル安基調に入っても、対円での下落幅は限定的となり、オセアニア通貨や、メキシコペソなどの高金利通貨などが対円では底堅く推移し、今年の高値を上抜けて上昇する相場展開が増えるものと予測する。

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20231207執筆 チーフストラテジスト 林 哲久


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