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間近に迫ったインドネシア大統領選挙の行方

2024年2月に迫ったインドネシア大統領選挙を控え、3選を禁じられているインドネシアにおいて、ジョコ・ウィドド大統領は、出身母体の闘争民主党と袂を分かち、プラボウオ国防相を次期大統領候補として支援しつつ、自らの長男ギブラン氏を副大統領候補に立て、実質的に院政を敷く体制を目指しており、その行方とインドネシア経済の今後を追った。


1.ジョコ大統領の生い立ち

ジョコ大統領は、中部ジャワの家具職人の息子として生まれ、スラカルタ市長時代の実績が、闘争民主党党首メガワティ氏の目に留まり、大統領にまで上り詰めたインドネシアでは庶民出身初の大統領として注目された。

2.ジョコ大統領の政権運営

インドネシアは、歴史的に非同盟中立を標榜し、東西両陣営には属さない東南アジア最大の民主国家としてこの10年大きな成長を遂げてきた。しかし、資源国でありながら、国内に付加価値のある国内産業が存在しないことで、長く安い原油を輸出して、高いガソリンを輸入する発展途上国の地位に甘んじてきた。こうした状況に歯止めをかけ、国内産業の高付加価値化に舵を切り、ニッケルの輸出を禁止して国内での精錬所建設を義務化するなど、インドネシア経済の構造転換を図ってきたのがジョコ政権であった。
また、首都ジャカルタの慢性的な渋滞と地盤沈下に対応すべく、首都の政治機能をカリマンタン島に移転する大胆な計画を打ち出したのも、ジョコ大統領である。

3.現在の大統領選挙予想

ジョコ大統領が自らの長男を副大統領候補に据えたことで、プラボウオ候補の支持率が急伸し、闘争民主党が推すガンジャル候補を10%以上引き離している。この人事案に対しては、縁故主義との批判がある一方で、プラボウオ候補の支持率が上がったのは、ジョコ大統領の人気にあやかったものであることは疑いなく、プラボウオ候補が当選しても、ジョコ大統領の政治的影響力は残ることは否めない。

4.現在のインドネシア経済と金融市場動向

インドネシア銀行(中央銀行、以下中銀)は、10月の月例理事会(金融政策決定会合)において、足元インフレ率が図表1の通り、基調的に低下傾向にあるにもかかわらず、米国長期金利急騰の影響から、インドネシアルピアが急落するリスクを回避するため、4年ぶりに6%まで政策金利を引き上げている。一方で、第3四半期GDP成長率は、2年ぶりに5%を割り込むなど、少し景気に陰りも見え始めている。しかし、今月に入り、米国の経済指標やインフレ指標が鈍化の傾向を示したことで、米国の長期金利は急低下しており、インドネシアルピアも図表2の通り、対ドルで反転上昇トレンドに入っている。また、インドネシアのインフレ率は、既に4%の中銀目標を下回っており、今後は、景気浮揚のため、利下げに転じる余裕が生じている。

(図表1 インドネシアインフレ率推移チャート Trading Econnomicsからの引用)
(図表2 ドルインドネシアルピア推移チャート 右軸:単位 ルピアTrading Viewからの引用)

5.インドネシアの潜在力と将来展望

インドネシアは東南アジア最大の民主国家で、安定した経済成長に加え、平均年齢が30代前半と若く、穏健なイスラム国家として、今後も持続的な発展が見込まれる。加えて、ジョコ大統領のリーダーシップにより、国内でのEV向けバッテリーのサプライチェーンを構築すべく、中国・韓国の企業を積極的に誘致するなど、経済の高付加価値化にも努力した結果、恒常的な経常収支赤字国から脱皮しつつある。こうした国際収支の改善は、国内のインフレ率を基調的に低下させ、インドネシアルピアの安定に繋がることは疑いがない。しかし、インドネシアの首都移転までには、あと20年以上の年月がかかることから、ジョコ大統領が今後のインドネシア政治経済の後ろ盾となって、新大統領を支えていくことが必要となろう。

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20231128執筆 チーフストラテジスト 林 哲久


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