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祭りは元気を伝播する

コロナ禍が漸く過ぎ去ろうとしており、各地の祭りが再開され、それぞれ賑わっている。祭りは経済効果を生み出すのみならず、参加者ひいては社会の活力となる。行祭事・イベントの客数は各地方の大都市圏を抱える県が多い傾向がある。祭りへの規制が目立ったように感じたが、祭りのエナジーや参加者の満足度に配慮した規制が求められる。


祭りが戻ってきた


富岡八幡宮の例祭、俗に「深川八幡祭り」の神輿連合渡御を見てきた。53基の神輿が連合渡御し、沿道から神輿の担ぎ手への清めの水を浴びながら進む姿は勇壮である。
江戸三大祭りの一つに数えられる富岡八幡宮の例祭は、3年に一度行われる本祭りで神輿連合渡御が行われる。前回は2020年に開催されるはずだったが、コロナ禍で延期となり、本祭りは6年ぶりの開催となる。今回の神輿連合渡御は8月13日に行われ、報道によるとおよそ30万人の来場者があったそうである。なお、江戸三大祭りのあと二つは、赤坂にある日枝神社の山王祭、神田明神の神田祭である。
コロナ禍が収束しつつあった昨年(2022年)10月15日、16日に3年ぶりに開催された川越まつりも凄い賑わいであった。国指定重要無形民俗文化財の「川越氷川祭の山車行事」がみどころである。市制100周年記念を兼ねた昨年のまつりの際は、29台の全山車が勢揃いしたそうである。川越市によると、来場者数は2日間で延べ57万4千人だったそうである。
筆者が社会人になるまで住んでいた与野の夏祭りは7月15日、16日に4年ぶりに開催された。上町、仲町、下町、上峰の各地区のメインの神輿を中心に女神輿、子供神輿なども練り歩く。前述した二つの祭りに比べれば規模は小さいものの、あまり広域ではない範囲に多くの人が集まるので賑わい感は他の祭りに劣ることなく、地元の祭りという感じがして味がある。肌感覚では、例年よりも人出が多かったように感じた。なお、現さいたま市中央区がほぼ旧与野市の領域である。
以上は、全て筆者が実際に体験した話である。報道等によると、昨年秋ごろから日本各地の祭りが再開され、主要な祭りはどれも大賑わいであったそうである。日本に祭りが戻ってきたのである。
なお、本稿では基本的には「祭り」と表記するが、公式サイトなどで「まつり」「祭」と表記されている場合はその表記に従っている。

祭りはエナジーの発露


経済面から見れば、集客力のある祭りやイベントが開催されれば、人が動き、お金も動く。祭りやイベントは観光業にとっても重要である(「観光は成長産業かつソフト・パワー」2023年7月28日も参照)。
祭りに関して言えば、屋台・出店での飲食や射的や金魚すくいといった遊びなど客の消費行動がある。広域から客が集まるような祭りは交通費や宿泊費も発生する。祭りそのものの準備のための様々な用具やサービス購入、神輿の担ぎ手や山車の引き手の衣装や飲食費なども含め、様々な領域への波及効果が想定できる。コロナ禍では多くの祭りが中止となり、こうした経済効果が消失した。
経済効果と並んで大きいのは、祭りの参加者ひいては社会に活気をもたらすことである。この場合の参加者は、神輿の担ぎ手や踊りの踊り手、見物客、屋台・出店の店員のみならず、交通規制などの警察、市役所の所管部署、もちろん神社や寺の関係者などを含む。特に神社に由来する祭りの場合は、神人合一ともいうような境地が生じることもあり、神も人もともに楽しむといった日本古来のエナジーの発露の場となる。賑わう祭りの場にいれば、日本の活力はまだまだ潜在的に大きいという気持ちになり、明日への希望が沸々と湧いてくる気分になる。祭りは元気を伝播する。と感じるのは、筆者だけだろうか。

行祭事・イベントの客数は各地方の大都市圏を抱える県が多い傾向


観光庁「共通基準による観光入込客統計」の都道府県別の行祭事・イベントにおける観光入込客数を図示した。東京、愛知、兵庫、広島、福岡など政令市などの大都市圏が県内に存在する県が、各地方で観光入込客数が多い傾向にある。イベントにはコンサート、スポーツ観戦なども含まれるので、そうした施設がある都道府県の観光入込客数が多くなっている可能性がある。例外的に東北は宮城よりも青森が多い。なお、大阪は共通基準未導入であり、数値は不明である。
青森ねぶた祭、秋田竿燈まつり、盛岡さんさ踊り、仙台七夕まつり、山形花笠まつり、などの東北の夏祭りは集客数が多いことでも知られているが、今のところ観光庁ウエブサイトから入手できる統計では個別の祭りの数値は把握できない。

図:都道府県別行祭事・イベント観光入込客数(延べ人数)

出所:観光庁「共通基準による観光入込客統計」より筆者作成(図の注を文末に記載)。

より良い祭りに向けて


コロナ禍を経たせいか、あるいはそれ以前からの流れであるような気もするが、以前よりも警察や役所の祭り等に対する規制が強化されているような気がする。安全に配慮するのは重要であるが、あまり規制が過ぎると、本来の祭りのエナジーが削がれてしまうように思われる。
事実関係を確認したわけではないが、筆者が行った川越まつり、与野の夏祭り、富岡八幡宮の連合渡御のいずれも以前よりも祭り会場内での見物客の行動が規制されているように感じた。与野の夏祭りでは、以前であれば道の両側に屋台・出店が並んでいたが、今夏は片側だけに屋台・出店があり、数も以前より大幅に少なかった。そのため、個別の屋台・出店の行列が物凄く、買うのを諦めた食品が多数ある。個々の屋台・出店の方は儲かったであろうが、祭り全体としての売上は減少したように思われるし、見物客も猛暑の中での長蛇の行列に不満が募ったであろう。ちなみに気象庁のデータによると、与野の夏祭り2日目の7月16日のさいたま市の最高気温は、今夏2番目の暑さ(8月17日現在)となる38.7度であった。
安全はもちろん大事だが、祭りのエナジーを削いだり、警察や役所以外の参加者の満足度を大幅に下げてしまうようでは困る。どの程度の規制が望ましいか、様々な調整を経て、着地点を見極めることが求められる。
日本はお祭大国でもある。未来永劫に亘って、我が国の活力が持続することを願い、各地の祭りが盛り上がることを期待する。


図の注
注1:行祭事・イベントは、行・祭事、花見、初詣、花火大会、郷土芸能、地域風俗、博覧会、コンサート、スポーツ観戦、映画祭、コンベンション・国際会議、他に分類されない行祭事・イベント。
注2:2010年のみ年度、2011年以降は暦年。共通基準は2010年4月から開始しているため、2010年3月以前の集計結果はない。
注3:共通基準は計46都道府県で導入されている。大阪府は未導入。各都道府県の数値が欠落している年は、前半の方の年は未導入、後半の方の年は集計中。


20230818 執筆 主席研究員 中里幸聖


前回レポート:
LRT、路面電車を起爆剤にした街活性化」(2023年8月7日)


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