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メキシコ中銀、為替ヘッジプログラム縮小発表の衝撃!

8月31日、メキシコ中銀により2017年にペソ安定のために導入された為替ヘッジプログラムが今後段階的に縮小される予定と表明されたことで、メキシコ為替市場では、ペソ安、株式市場では、ボルサ指数が急落となった。この政策変更の背景と、今後のメキシコペソ円相場の行方を探ってみた。


1.為替ヘッジプログラム導入の経緯

図表1の通り、過去長期にわたり、ドル高メキシコペソ安に悩まされてきたメキシコ中銀は、2017年に55億ドル規模の為替ヘッジプログラム枠を設け、ペソ安定に向けた取り組みを開始した。具体的なスキームは、企業がペソ売りヘッジを望む場合、メキシコ中銀が、NDF取引(ノンデリバラブル・フォワード取引)のカウンターパーティーとしてペソ売りを引き受けるスキームである。その狙いは、企業が為替市場で、ペソ売りを行うとペソが下落してしまうのを回避しつつ、ペソ売りヘッジと同じ経済効果を与える事にある。また、メキシコ中銀が、為替直物市場で、直接の取引相手となってペソ売りを引き受けると、外貨準備高が減少してしまうため、外貨準備高の減少を回避しつつ、企業のペソ売りニーズに応じる手段として、NDFという差金決済取引が導入されることとなった。

(図表1 ドルメキシコペソレート Trading Viewからの引用)

2.ドルメキシコペソ相場上昇の背景

8月31日、図表2の通り、ドルメキシコペソが上昇した(ドル買い・メキシコ売り)要因は、中銀が引き受けるNDF枠を縮小したことで、企業がペソ売りヘッジを行う際、為替市場で直接、ペソ売りヘッジを行う必要が出てくるという連想が働いたからである。
しかしながら、最近の好調なメキシコ経済を背景に、メキシコの経常収支は黒字転換しており、また、米国による消費地に近い場所に生産拠点を設けるニアショアリングの動きが活発化したことで、メキシコへの直接投資も急増しており、こうした豊富な資金流入が最近のペソ相場の安定に繋がっている。
直近のメキシコペソも、2018年の1ドル17ペソの高値を抜け、ペソ高に振れたことで、今後のペソ相場の安定に自信を持ったメキシコ中銀が今般のヘッジプログラムの縮小に動いたものと推察される。むしろ、今までのような一本調子のメキシコペソ高を防ぐアナウンスメント効果を狙ったとも言える。また、最近の巨額なメキシコへの郷里送金金額などに鑑みると、為替ヘッジプログラムの縮小で、ドルメキシコペソが上昇し続けることは想定しがたい。

(図表2 ドルメキシコペソ4時間足短期チャート Trading Viewからの引用)

3.メキシコペソ円相場の行方

メキシコペソ円相場は、好調なメキシコ経済を背景に、図表3の通り、15年ぶりに1ペソ8円70銭まで上昇した。しかし、行き過ぎたペソ高は、メキシコの交易条件を悪化させ、GDP成長率を引き下げる可能性があるため、今回の為替ヘッジプログラムの縮小が一定のペソ高抑制効果を持つことも想定される。
メキシコ中銀は、メキシコのインフレ率を中銀目標内に引き下げるため、当面、現行の金融引き締め政策を維持することを発表しており、ドルメキシコペソ相場が大きくペソ安転換する可能性は低い。
むしろ、メキシコペソ円相場を形成する、もう一方のドル円相場に関して、日本のインフレ率が継続的に上昇傾向にある状況を踏まえ、日銀の金融政策正常化のスピードが早まる公算が大きく、1年半にわたり30円以上進んだドル高円安相場が早晩転機を迎え、ドル円相場が円高地合いに転じるリスクの方により注意する必要がある。
かつてメキシコペソ円のような新興国通貨が急落する場合、まずドルが対メキシコペソで上昇する一方、ドル円相場はリスク回避の円買いにより下落する、いわゆる、また裂き相場での急落となるケースが多かったが、今回は、ドルメキシコペソ相場は比較的安定する中、ドル円相場下落主体でのメキシコペソ円相場の調整を予想しており、メキシコペソ円が下落する場合も、より緩やかなペースでの下落に留まろう。

(図表3 メキシコペソ円チャート Trading viewからの引用)

前回のメキシコ特集はこちら

20230904執筆  チーフストラテジスト 林 哲久


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