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米中対立のお陰で、漁夫の利を得るメキシコペソは依然、日本の投資家マネーをひきつける!

2023年上半期の米国にとって、モノの最大輸入国であった中国が15年ぶりに首位から転落、メキシコが比較可能な2001年以降で初めて首位になった。グローバル化から、経済安全保障重視に舵を切る米国の経済運営により、最大の受益者になりつつあるメキシコペソの現状を探った。


1.米国とメキシコの経済関係の現状

2023年上半期の米国のメキシコからの輸入額は、過去最高の2,360億ドルに達し、前年同期比5%以上増加した。一方、中国からの輸入は、前年同期比25%以上減少し、2,030億ドルとなり、カナダに次ぐ3位に転落している。特に自動車を中心とする輸送関連全般でメキシコからの輸入が前年同期比17%増加している。
また、電気自動車(EV)購入者に最大7,500ドルの税額控除を与える優遇策にメキシコとカナダで生産した車も入れたことで、今後もメキシコへの継続的な直接投資が期待できる状況にある。

2.メキシコの金融政策と国内金融情勢

昨年来の国内インフレ率の高騰に対処するため、メキシコ中銀は、政策金利を11.25%まで引き上げている。足元、国内インフレ率が、5%程度まで下落しているが、将来的なインフレ懸念から、現在の高金利を年末まで維持する意向を示してきた。
しかし、6%を超える実質金利が海外からの投機資金を呼び寄せ、足元のメキシコペソは、対ドルで図表1の通り、1ドル17ペソまで年初来一本調子に上昇してきている。

(図表1 ドルメキシコペソ推移チャート Trading Viewからの引用)

3.メキシコの金融政策の今後の課題

今後、足元のインフレ鎮静化を受け、行き過ぎたメキシコペソ高により、経常収支の赤字拡大が懸念される状況になりえる。また、経済成長率も現在の低空飛行から景気後退に陥るリスクを回避し、経済のソフトランディングを実現するために、いかに現在の高金利政策を修正し、インフレ抑制と成長維持の2つの経済目標を実現させていくかが、課題となる。

4.米国経済の恩恵を受けるメキシコ経済

メキシコは、国内経済の発展に加え、米国への出稼ぎ労働者の郷里送金が国内消費維持に重要な役割を担ってきたが、米国経済の好調を受け、今年上半期の郷里送金は前年同期比10%増で、過去最高の300億ドルを超える水準に達している。

5.メキシコペソ円の今後の行方

こうした海外からの直接投資資金や郷里送金は、足元のメキシコペソを大きく上昇させており、今後、国内インフレの鎮静化に伴い、現在の高金利政策を修正していけば、今までの行き過ぎたペソ高に歯止めがかかることになろうが、米国のメキシコ重視の経済運営に著変がなければ、健全な設備投資資金がメキシコペソを下支えしていくことが予想される。特に金融緩和を続ける日本円とのコントラストは、顕著であり、図表2の通り、メキシコペソ円相場は、年初来、一本調子に上昇している。理由としては、メキシコが6%を超える高い実質金利を維持する一方、日本の実質金利は、マイナス4%近い水準にあり、今後もメキシコ中銀は、インフレ率を中銀目標の3%±1%の水準まで低下させるまで、金融引き締めを継続すると表明している。これに対し、日銀は、YCC政策の柔軟化に乗り出したものの、基本的な金融緩和策は維持すると表明しており、マイナス金利解除までは、依然、距離があるとの姿勢であるため、現行のメキシコとの高い実質金利差が縮小していくには、相応の時間を要することが想定される。新興国の中で、10%を超える高い政策金利を維持しながら、経済ファンダメンタルズが良好で、オフショア※から気軽にアクセスできる通貨としてメキシコペソは、日本の個人投資家に根強い人気を博しており、今後も、継続的なメキシコペソ買い需要が見込まれるため、いずれ1ペソ10円をうかがう展開もあり得ると予想する。(※多くの新興国は、資本規制を導入し、海外市場からの通貨取引を規制している国が多く、メキシコの様に、海外からの取引を認める国は限られている。)

(図表2 メキシコペソ円相場推移チャート Trading Viewからの引用)

前回のメキシコ特集はこちら

20230810執筆 チーフストラテジスト 林 哲久



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