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米国利上げ打ち止め観測から、再浮上する金相場の行方!

米国の経済指標の悪化やインフレ率の低下を受け、ドル相場が全般的に低下する中、金相場が再度1トロイオンス当たり2,000ドルを回復してきた。今後の金相場を占った。


1.今年の金相場動向

今年の金相場は、年始の1,800ドルから10%高い水準にある。通常、金相場は、ドル相場やドル金利と逆相関の関係にある。今年は、図表1の通り、米国長期金利が年始の3%台前半から1%高い水準まで上昇しているが、金相場も上昇する珍しい年となった。

 (図表1 米国10年国債金利推移チャート Trading Viewからの引用)

2.金相場上昇の背景

金相場が上昇した背景には、昨年来のウクライナ戦争に終結の見込みが立たない状況が続いている中、先月にパレスチナ紛争も勃発したことで、地政学リスクが一層高まり、安全資産としての金が選好されたことが挙げられる。
また、米国長期金利上昇の主たる理由は、FRBによる金融引き締めではあるが、これに加え、8月に米国債券が格付け機関フィッチにより格下げ(AAA→AA+)されたことの影響も大きい。通常、米国債も安全資産として、地政学リスクが発生した際には、質への逃避の受け皿となってきたが、今年は、米国の信用格付けが下がったことを嫌気して、先月のハマスによるイスラエル攻撃以降も、米国債はむしろ売り込まれ、一時5%を付けるまで下落している。従って、図表2の通り、米国債の分も、金に資金が殺到したと考えられる。

(図表2 今年の金価格推移チャート 右軸:単位 ドル/トロイオンス Trading Viewからの引用)

3.金が選好されている需給要因

ウクライナ戦争とパレスチナ紛争の長期化は、金融市場におけるリスク回避の動きを長期化させる意味において、金への継続的な資金流入を促すことになろう。加えて、西側諸国と中国ロシア(以下、中ロ)の政治的対立も深刻化しており、中ロは外貨準備おける米国債券保有比率をゼロにするか、減少させており、その受け皿として、金の保有割合を増やす傾向にある。また、中央銀行の中で金の保有比率を高めているのは、中ロに限らず、トルコ、インド、メキシコなどいわゆるグローバルサウスと呼ばれる国々に共通の傾向であり、将来の米国による制裁リスクを懸念した動きと考えられる。

4.来年の金相場の行方

来年初に期限が来る米国つなぎ予算の審議では、民主、共和両党の意見の相違が大きく、予算が円滑に可決される見通しは全く立っていない。年始から、政府機関が閉鎖される事態に陥れば、格付け機関ムーディーズによる米国債格下げの公算が高まり、米国債券が売り込まれる事態も想定される。こうした事態は明らかに金市場への資金流入に繋がる。金相場は、図表3の通り、過去数年、1トロイオンス2,000ドル台後半で、3度跳ね返されてきた経緯があるが、今回は、史上初めて、2,100ドルを超えて上昇するポテンシャルを秘めていると思う。

(図表3 過去4年の金価格推移チャート 右軸:単位 ドル/トロイオンス Trading Viewからの引用)

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20231122 チーフストラテジスト 林 哲久


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