見出し画像

植田ショックで縮む日本株式市場?!

7/31植田日本銀行(以下、日銀)総裁は、前回金融政策決定会合時と経済ファンダメンタルズに何ら改善が見られない中、記者会見において継続利上げの可能性を示唆した。その後、日経平均株価は急落となり、8/2一時2,000円以上下落、1987年ブラックマンデーに次ぐ史上2番目の下げ幅となり、取引時間中ではあるが7月の42,224円の高値からは6,000円以上の暴落となっている。株価急落の背景と今後の株式市場の行方を占った。


1.流れが変わった日本の株式市場

日経平均株価は、図表1の通り、7/11の財務省による円買い介入以降、つるべ落としの様な急落となり、7/31の日銀の利上げ以降、更に下落幅を大きくし、2月以来の水準まで下落している。
植田総裁は、物価に将来的な上振れリスクがあることを利上げの根拠の一つに挙げている。しかし同時に発表された展望レポートによる物価見通しでは、2024年以降3年連続物価は右肩下がりで、2026年には1.9%まで低下する見通しとなっており、レポートと齟齬をきたす会見となっている。
2024年1-3月期GDP成長率はマイナスに沈み、需給ギャップも16四半期連続マイナスとなる中、円安是正のために不必要な利上げを行うだけでなく、今後の継続的な利上げを示唆したことに市場は準備できておらず、ポジション調整の日本株売りが加速する事態となっている。

(図表1 日経平均株価日次推移チャート 右軸:単位 円 Trading View提供のチャート)

2.日銀が円安是正を優先させた背景

7月に入り、ドル円相場が一時162円に迫る水準まで上昇したことを受け、経済界中心に円安批判が高まり、その意向を受けて、河野デジタル大臣、茂木幹事長、岸田総理が相次いで、日銀に利上げを迫る発言を行ったことに日銀が配慮した可能性がある。しかし、為替安定を政策目標としない日銀が、物価目標の達成以前に、景気の腰を折る利上げ判断を行うことは本末転倒であり、今後の景気下振れリスクを高めたと言っても過言ではない。

3.円高・株安を増幅させた植田総裁の豹変

財務省による円買い介入も、日銀の利上げも明らかに金融引き締めの協調行動といえるが、円安が輸入物価に影響を与えていないというこれまでの植田総裁の発言とは矛盾する。その証拠に、日銀による国債買い入れ減額については、4,000億円から始めるということで、市場の予想を大幅に下回る消極的なスタンスを見せている。
外国人投資家が日本株を為替ヘッジ付きで購入する場合、購入と同時に円売りドル買いを行うため、株高円安を助長する効果を持つが、逆に売却した場合、円買戻しを行うため、株安円高を加速させる悪循環に陥ることになる。植田総裁の豹変が市場の混乱を増幅させた事例と言える。

4.ドル円相場から見る今後の日経平均株価

米国の利下げ観測の高まりもありドル円相場は、図表2の通り、一時148円台まで急落となった。しかし、米国経済に関しては、インフレ指標に鎮静化の動きが見られる一方、雇用情勢には減速の動きは見られていない。その意味で、8/2発表の7月米雇用統計が市場の予想通り減速するのかどうかが、注目される。しかし、米国長期金利は、9月利下げを完全に織り込み、4%割れの水準まで低下していることから、非農業部門雇用者数が15万人程度まで増加幅が減少したとしても、更なる円高圧力は限定的と考える。
日経平均株価は、PERが15倍程度まで下がったことで割高感が薄れてきており、ドル円相場の底入れを確認しながら、35,000円台では底を打つ確率が高いのではないか。

(図表2 ドル円日次推移チャート 右軸:単位 円 Trading Viewからの引用)

情報は、X(旧Twitter)にて公開中

前回の記事はこちら

20240802執筆 チーフストラテジスト 林 哲久





この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?