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新NISAスタートが、ドル円相場を押し上げる?!

過去30年のデフレ、円全面高の時代から、インフレ、円安の時代にシフトしつつあると国民の認識が変化しつつあるタイミングで、新NISAがスタートすることが、家計資産の外貨投資シフトを後押しすることは大いにあり得る。毎月2,000億円以上の積立NISA予約が入っているとの報道もあり、この外貨投資ブームが円相場に与える影響を解説する。


1.現在のドル円相場を取り巻く市場環境

米国のインフレがピークアウトし、来年は利下げ局面入りするとの市場の見方が台頭しており、金利低下は、株式市場に追い風となる一方、日米金利差縮小は、ドル安円高要因となる。外貨投資に、日本国民が消極的であった背景には、日本円に対する信認が厚く、1985年プラザ合意以降の大幅円高の記憶が生々しく残っていることが大きい。従って、今後、米国がリセッションに陥ったり、日銀の金融正常化の道筋が早まり、日米金利差が更に縮小に向かうことで、ドル円が大きく下落する可能性もあり、今後の金融市場の動向を注意深く見届けたいとの意見も根強い状況である。

2.円高から円安に変わる為替需給構造

上記の通り、景況感に基づくファンダメンタルズからは円高観測が根強い一方、国際収支統計から見て取れる日本の為替需給には、以前とは大きな変化が見られる。プラザ合意以降の大幅な円高進行により、日本企業の海外シフトが進んだが、昨今では、少子高齢化による国内市場の縮小を受け、海外に活路を見出すために、日本企業による対外直接投資が、顕著な増加傾向を続けている。この流れは、製造業に留まらず、金融やサービス業に至る幅広い分野に広がっており、最近では、年間20兆円を超える資本収支赤字を記録している。これはかつてない規模の日本企業による外貨買い円売り需要となっている。
一方、貿易収支に関しては、今年の大幅円安にもかかわらず、中国経済減速による対中輸出の減少により、図表1の通り、基調的な赤字傾向から抜け出せていない。今後、米国の利下げ観測により、ドル円上昇トレンドが一服すると交易条件が悪化し、貿易赤字が更に続くことも考えられる。これは円高圧力を弱める要因となる。
こうした資本収支、貿易収支の両面での赤字継続は、構造的な円安要因となり、円高圧力が弱まることで、家計の外貨投資マインドを改善させ、家計による円売りを活発化させる可能性がある。

(図表1 日本の貿易収支推移チャート 右軸:単位 億円 Trading Economicsからの引用)

3.来年の円相場の行方

このようにマクロファンダメンタルズからのドル売り圧力が強まっても、ドル円市場での需給が円余剰であるため、今年11月頃、ドル円が下落しても、クロス円では円安が進行することで、円安の実態が見えにくくなる「隠れ円安」という現象が発生した。今年はドル一強相場となる中、特にドル円上昇が目立つことで、クロス円も上昇となった。来年は、ドル一強相場が崩れる中、円の弱さだけが一層際立つ「隠れ円安」相場が顕在化する一年となるのか、注目していきたい。

前回の国際収支統計に関する記事はこちら

20231226執筆 チーフストラテジスト 林 哲久



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