ドイツ@Sars-CoV-2 コロナウィルスアップデート(111)  2022/3/1(和訳)

ベルリンシャリテ ウィルス学教授、クリスティアン・ドロステン
聞き手 コリーナ・ヘニッヒ

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ちょうど、このポッドキャストを始めてから2年になります。その間に、世界中で590万人以上の人がコロナで亡くなりました。ドイツでも、122000人、ロベルト・コッホ研究所によると昨日はさらに235人が追加されたということです。ここまで発生指数が高かった感染の波はありませんでしたが、状況は変化しました。そして、多くの地域では感染者数が減少しています。夏に向けて、そしてオミクロンについて明らかになってきた点も希望が持てるものだと思います。それが、亜種であるBA2にも当てはまるのか。そのようなところも今日もベルリンシャリテのウィルス学教授であるクリスティアン・ドロステン先生にお話を伺います。聞き手は、コリーナ・ヘニッヒです。

今日は、この間の時点ではまだ不明なところが多かったBA2についてお伺いしたく思っています。デンマークの世帯調査からは、BA2が感染伝播においてBA1 よりもメリットが上がっている、つまり、感染力が上がっている、ということでしたが、デンマークではすでに優勢、ヨーロッパでも拡大していて、ドイツでも増加しています。ロベルト・コッホ研究所によると、先週の段階での割合は24%だということです。これは、その前の週と比較すると50%の増加です。この増加速度は予測されるものだったのでしょうか?

私はモデリングの専門家ではありませんが、、そうですね、他の国からもこのように増えていく傾向はみられていました。興味深いのはイギリスで、少し謎な現象がおきているのです。 BA.2に対するBA.1の割合、ということではなくて、今、半分半分の割合になっている地域がイギリスで出始めていて、 BA.2の割合が増えてくるにつれて全体の発生指数も上がるのかどうか。その辺りが注目されています。私はそうなるだろう、と思っていますが、もう数週間経てば、ドイツでも同じようなことが起こってくるでしょう。つまり、 BA.2の感染力の影響が全体の感染数に表れてくるのかどうか。別の言い方をすれば、現時点での方法では感染を抑え込んでいけなくなるのかどうか、という点です。 BA.2によってまた感染者が増えていくのか。その他の条件は変わらないものの、 BA.2が増えることによって感染防止が困難になってくる可能性はあります。もちろん、気温、という効果もこれからでてきて、暖かくなるにつれてまた感染は抑えられていくでしょうから、数は減ってくと思います。それと同時に、イースターの休みもきますし、もしかしたら、ドイツでは大きな問題なく乗り越えることもできるかもしれませんが、イギリスではその前にまた感染者の増加が起こる、ということは考えられるのです。しかし、現時点ではまだ憶測のレベルではあります。

先ほど、条件は変わらない、と仰いましたが、ドイツでは、政治側からも、「対策を緩和し、解除していく」という意向がでているところです。例えば、学校内でのマスク義務の解除、などですが。

そうですね。対策のなかにはこれから解除されていくものはあるでしょう。学校でのマスク義務に関しては、理解できなくもないです。長時間マスクをつけていなければいけない、というのは大変居心地が悪いでしょうから。しかしその一方で、マスクの着用というものは、、これは別に学校だけに当てはまることではなくて、、長期的にみてもかなり効果のある対策であり、何と言っても、一番簡単で持続が可能なものだと言えると思います。オミクロン、という大変感染力の高いウィルスを相手にしなければいけない今、やはり感染伝播、というところにフォーカスしていく必要があります。ここでの大きな問いは、「いつ、パンデミックは終息するのか」「どのように制御していけるのか」というところですが、それは追い追いまた話すことにしますが、まずは、ワクチンによって疾患の重症化を阻止することができる今、パンデミックの主な問題は感染伝播の問題である、と言えます。ですから、パンデミックはこの急激な感染の伝播、指数関数的な感染者の急増を抑えることができた時点で終わる、ということになります。これをワクチンだけではなかなか抑えることができないのは、今のウィルスに免疫回避の性質があるからです。さらに、現時点でのワクチンでは粘膜の保護効果が持続しないため、ワクチンでの感染伝播のコントロール効果は長い目でみるとあまり大きくありません。ですから、遅くても今年の冬にはまた感染が増えるシチュエーションになると思われます。重度も疾患経過になる人の数が幸いにも少なかったとしても、例えば、病欠、欠勤する人の数はまた増加するでしょう。そこが問題なのです。ここで、感染伝播を抑えるものは何か、というと、 FFP2マスク、ということになるのわけです。

感染伝播、という点でBA.2に戻りたく思うのですが、先ほど、観察からBA.2 はBA.1よりも感染力が強い、という傾向が出ているようですが、データとして何かあがってきているものはあるのでしょうか?

まだ少ないですね。勿論、現時点でのデータをみると、 BA.2のウィルス量が若干多い、という印象は受けます。確かなのは、本質的な変化は、どちらかというと適応性のメリットであって、免疫回避ではない、という点です。免疫回避に関しては同じくらいです。

本質的、とは、感染力が強い、ということですね。例えば、2回予防接種をしていても、など。

そうです。前回でも話ましたが、このウィルスでは馬力が少し増していて、これは解釈にもよる、と。しかし、BA.1とBA.2の機能的な面での違いに関しての始めの論文は出てきてはいるものの、まだ出始めのデータ、という位置付けだと思います。もう少し待つ必要があります。

例えば、2週間前くらいに日本からプレプリントが発表され、話題になっています。これは、培養細胞での実験、ハムスターを使った実験です。ここでは、BA.2のほうがBA.1と比べて病毒性が若干上がっている、という結果が出ていますが、人間でもそうなのであるか、という点ではまだデータが必要です。実際に人間ではどうなのか、というところでは、この亜種が優勢になっている他の国での観察データがあり、例えば南アフリカなどですが、そこではそのような傾向はない、ということですよね?

そうですね。問題は、ウィルスの進化の流れをみてみると、どんどん当初のラボのモデルから離れていっている、というところです。つまり、1年前、もしくはそれ以上前にハムスターで観察された病毒性は人間にもある程度当てはまっていたのが、今ではそうとも言えない。ウィルスはどんどん人間に適応していきますので、ハムスターモデルで起こっていることはあまり重要ではなくなってきているのです。さらに、この日本の研究では、使われているウィルスが、再構成されたものであるために病原性因子の替わりにレポーター遺伝子が含まれますから、これがどのて程度データへ影響を与えているのか、という点も不明です。ですから、このような研究は注意深くみていく必要があります。実験的な研究の結果を、直接人間にあてはめるのではなくて、もう少し別のデータを待つべきです。先ほどの、南アフリカのデータは臨床疫学のデータですが、BA.2がどのようにBA.1に対して変化していったのか、という観察です。時期的には1月に南アフリカではBA.2が優勢になりましたが、ここで入院した人たちが、BA.1とBA.2のどちらに感染していたのか。その結果は同じくらいでした。南アフリカでは、BA.2では約3,6%、BA.1では約3,4%が入院しています。統計的には違いはありません。そのうち、重症化の確率は、BA.2感染では、30,5%、BA.1感染では、33,5%です。ここでも統計的な違いはみられません。

しかし、南アフリカに関しては、2つポイントがあると思うのですが、まずは、南アフリカの平均年齢がドイツなどに比べると大変低い、という点と、集団での免疫がワクチンではなく自然感染によって獲得されたものだ、という点です。つまり、南アフリカでのデータは1対1でドイツには当てはまらない、ということなのではないでしょうか?

その通りです。南アフリカの免疫は別の特徴を持っている、と言っておくべきです。ドイツの免疫の特徴が、ワクチンによるものである、ということもありますが、それよりも高齢者が多い、というところが重要です。現時点は、これはBA.2に限ったことではなく、オミクロン全般にいえることですが、ドイツ国内の重症化ケースは比較的落ち着いています。ロベルト・コッホ研究所のデータをみると、60歳以上の数が徐々に上がってきている、SARIサーベイランスのデータ、ICOSARIをみるとその傾向があります。これは、ロベルト・コッホ研究所の疾患監視システムの一つですが、ここで、60歳以上の重度の呼吸器疾患の増加がみられるものの、過去の冬の感染流行と比較しても全体的には安定しています。これはまずは大変良い結果だと思います。60歳以上で増えていく、というのは仕方がないでしょう。それは常にそうなるだろうとわかっていたことです。オミクロンでは、今年の初めの段階で、発生指数の穴が高齢者層にありました。これは、分布の偏りによるもので、その時点ではまだ高齢者までには感染が拡がっていなかった。始めは、学校を中心にその保護者、中年層がメインでしたので、まだその祖父母の世代には及んでいなかったのが、今、その年齢層にも徐々に達しようとしています。これは普通のことです。しかし、去年のような規模ではありません。

日本の研究と南アフリカのデータを一緒にみていくと、逆に言えば、ワクチン未接種者は、 BA.1よりもBA.2のほうがより気をつけなければいけない、ということはありますか?それとも、まだその点もはっきりしないのでしょうか?

それはまだよくわかっていません。デンマークのデータからは、BA.2のほうがワクチン未接種者への感染伝播が強く起こる、という傾向もみられますし、そのような印象もあります。アルファ、デルタが出てきた際には、これらのウィルスのウィルス量が増え、適応メリットが増加し、重症化も若干増えたことが確認されましたが、南アフリカのデータからは、(オミクロンでは)幸いそのような傾向は出ていません。日本のハムスターデータもその裏付けをしています。しかし、まだはっきりとはわかりませんので、香港のデータでその傾向をみていく必要があるかもしれません。香港での問題は、高齢者のワクチン接種率が低い、というところで、オミクロンによる重度の疾患負荷が起こっています。ここから、もう少し経てば、BA.2とBA.1とで、ワクチン未摂取の高齢者での重症化の違いが出てくると思います。

1つ、この日本の研究でとても興味深く思ったところがあるのですが、結論に書かれている部分です。著者が言うには、実験で判明したBA.1とBA.2の違いがあまりにもあるために、BA.2には別のギリシャ文字を与えるべきである、つまり、VOC 、懸念する変異株として認識するべき、とあります。これはどのように解釈すれば良いのでしょうか?

これは少し、分類学的、実践免疫学的な問題です。この区別の根拠としては、一方の病毒性が上がったから、とかそのような理由ではなくて、BA.1とBA.2が血清学的にも、それぞれの抗原性が異なる、というところです。いままでのデルタを含む系統では亜種もかなり似通っていて、それは血清特性においても近かったのです。何が言いたいか、というと、BA.1とBA.2は同じように免疫を回避するが、その方向性は異なる、ということです。つまり、同じ方角でも、行く方法が違う。このような理由からBA.1とBA.2を血清学的に区別することもできると思います。違いがあれば、ということですが。今のところ、免疫学の研究においてそれがみられないのは、現時点で多くの人が古いタイプ、古い血清型に対する免疫をもっているからで、その場合には、この新しい変異株、BA.1とBA.2への免疫的距離に違いはないからです。そのようなことがデータから読み取れます。もう少しみていく必要はありますが、今のところ、ここが重要で決め手となるか、というとそうではないと思われます。もちろん、BA.1、BA.2、BA.3、BA.11、つまり、オミクロン株の全種類の遺伝子的な発祥地点となるとまた話は別です。遺伝子的な発祥地点は全て同じで、古い遺伝子型のバリエーションなわけで、例えば、デルタが遺伝子的に分かれていく可能性もあるのです。ですから、動物実験の結果で、病原性の違いがみられた、感染伝播面、もしくは血清学的違いがみられたからといって、新しいVOCになるか、というと、そうはなりません。今のところは、WHOも BA.2をVOCと定義するか、という検討はしていませんし、それをしない理由、というものもあるのです。

WHOのCovid-19に関する技術責任者であるマリア・ヴァン・ケルコーブ氏は、実際に観察されている特徴に重点をおいていましたが、病毒性、伝播性においての違いはどのくらい大きいのでしょうか?先ほど、免疫回避の傾向が異なる、とおっしゃいました。ここでお伺いしたいのは、これはどちらかというと典型的な消費者側からの質問、つまり、患者が知りたい内容だと思うのですが、今、オミクロンに感染したら、多分BA.1での感染だと思います。その直後に、BA.2に再度感染する可能性はあるのかどうか。前回、少しその話題は取り上げました。あの時には、デンマークからの明確ではないデータしかありませんでしたが、この問題は、研究的にはそこまで重要ではないかもしれませんが、個人レベルでは気になるところです。デンマークのプレプリントでは、180万の感染ケースから、純粋な初感染ケースだけを取り出したデータがありますが、そのようなケースは大変稀です。このデータは私たちにとって何か意味があるものなのでしょうか?

あまり過大評価はしないほうが良いと思います。そのようなケースを追跡した、追跡することができた、という点で興味深いことはたしかです。デンマークの情報分析のレベルは大変高いです。先ほどあったように、膨大な感染ケースから一人の患者から2つの陽性検体が存在するケース、つまり、その間が20日以上60日以下で、実際に BA.1かBA.2での再感染が起こった可能性が高いケースだけ抜粋していますが、この60日、という設定は、それ以上遡るとデルタでの感染になってしまう、という点で遡る意味がない、ということです。条件にあてはまるケースを特定して追跡されていますが、180万人中での確率などをこのカテゴリーで数値としてだすのは統計的に困難です。カテゴリーとしては、シークエンジングされていることが前提となっていたりしますので、これは疫学的なデータ、というよりも、条件が揃っているケースでの分析データだと言えます。ここでは2つの検体がしっかりシークエンジングされたケースが64名みつかっていて、この64名のなかで、2つ目の検体が再度 BA.1感染によるもの、、この64名は1回目の感染を BA.1でしていて、、47名が2回目はBA.2での感染でした。これは興味深いですが、ここから、これが何を意味するのか、統計的に分析するのは、、あまり意味がありません。というのも、 BA.1で2回感染ケースの時間的間隔が、BA.1の後にBA.2に感染した場合よりも短かったりしますから、これは免疫回避ではなく、多分、BA.1で2回陽性になったケースは、1回目の感染時のウィルスの残留が反応したものだと思われるからです。

つまり、同じ感染で、新しく罹患したのではない、ということでしょうか?

そういうことになりますね。いわゆる再感染ではない、という可能性が完全にない、とはこの研究デザインからは言い切れません。ちなみに、別の可能性もあって、例えば、BA.2のケース、1回目がBA.1で2回目がBA.2、と言う場合ですが、そこで検出されたBA.2のウィルス量が1回目のBA.1よりも少なかった、という結果が出ています。ここで、1回目の感染時につくられた免疫が2回目に影響を与えている、ということもみられます。36日間空いていましたので、免疫もできている。しかし、まだ間隔はかなり短いですから、明らかな違いを比較するにはもう少し間隔は空いていた方が良いです。そして、さらに、BA.1とBA.2に感染したケースだけではなくて、基礎免疫があった上で感染した場合や、そこにデルタやBA.1での感染があって、そこからBA.2に感染したケースなどを比較できるようになれば、選り分けすることができます。そうなれば、免疫も成熟しています。今の段階ではまだそれはできませんが、初めに出てきたデータとしては大変興味深いです。しかし、あまりこれを過大評価するべきではない、と思いますし、ここから次の冬の予測などをひっぱっていくこともしないほうが良いです。同じく、夏にもう一度感染するかしないか、というような予測もここからはたてられません。

しかも、これは若年層でワクチンを打っていない人達のデータですよね。

その通りです。それも言っておかなければいけません。とは言っても、興味深いことは確かです。対象となったケースの89%は一度も予防接種をしたことがない人達で、6%が2回接種、4%が1回の接種です。これを全体から引くと、残りは1%で、その割合が3回の接種を終えた人達、ということになりますが、これは無視しても良いでしょう。この1名が存在するのかどうかもわかりません。どちらにしても、年齢も関係があります。ここでの平均年齢は15歳、全体の70%が20歳以下です。つまり、このデータは青少年でのものであって、この年齢層ではまだワクチンの接種率が高くないですし、クリスマスの休みの間には接触回数も多かったでしょう。デンマークではそれが許されていましたので、かなりの勢いで感染が起こっていました。ですから、全くワクチンを接種していなくて、免疫もしっかりと成熟していない状態であれば、デルタでも同じように再感染した可能性はもちろんあると思います。

他の国で別の知見などはあるのでしょうか?

カタールのデータがあります。カタールのデータはそこまで詳しくは取り上げませんが、これはワクチン有効性デザインの研究です。基本的には、そこからも検査によってBA.1感染がBA.2での再感染に対する保護効果があるのかどうか。その逆もあるかどうか、という調査が可能です。少しだけ%をあげますが、BA.1感染からのBA.2に対する保護効果は、ほぼ95%、94,6%という数値がでています。BA.2感染からのBA.1への再感染の防止効果は89,9%です。少し少ないですが、統計的にはほぼ同じです。ここからも、この2つの免疫回避の度合いはほとんど変わらない、ということが言えると思います。

もう一度確認ですが、先ほど、デンマークのプレプリントの際には、1回目と2回目の感染の間隔によって再感染が定義されていると思うのですが、通常では、免疫応答が少なくなってくると、、オミクロン感染から回復、、どのような変異株でも同じでしょうけれど、、回復後、数ヶ月だったら、また感染する可能性はありますよね。

そうです。同じ種類に感染する可能性はあります。その際の感染はより軽症に、そして短く終わるでしょう。もちろん、幸いなことに全体的に軽いオミクロン感染の後にもう一度オミクロンに感染した場合に、さらに軽くすむ、ということが考えられます。

先ほど、別の血清型、ということがでましたが、BA.1と BA.2の違いが、別の変異株、例えば、アルファ、デルタ、ベータ、ガンマよりも大きい、と。ここから、将来的にどのようなワクチンが開発されていく、と思われますか?根本的には、どこの違いなのか、ということをカテゴライズする必要があると思うのですが、オランダから新しい論文が出ました。どのような分類ができるのか、ご説明いただけますか?

これは、Antigenic Cartographyと呼ばれるもので、初めにケンブリッジで開発され、インフルエンザの為につくられたものです。ここでは、中和力価の距離を様々なウィルス系統間で比較します。つまり、血清のそれぞれのウィルス系統に対しての力価レベルの違いをみていくのです。特に興味深くなるところは、単一感染血清、つまり、1回だけ感染したケースの血清を使った場合です。これはハムスターでも同様です。ここから、多次元マトリックス型につくっていくことができます。少なくとも、2つのレベルで構成することができるのでわかりやすいです。さらに、時間が経つにつれてどのように抗原性が変わっていくのか、というところもわかりますし、例えば、インフルエンザの場合には連続抗原変異と呼ばれるのですが、ウィルスが別のインフルエンザウィルスをベースにアップデートしたり、スキップしたり、という抗原性における現象が多次元で把握できます。

速くて、大きな変化、ということですね。

そうです。それが持続的に起こっていきます。この変異の大きさが重要で、それが起こる、ということは、インフルエンザのワクチンを対応していく必要がある、ということことではあるからです。そして、この大きさを予測する、ということも大きな目標でもあって、それができれば、いつ、どのタイミングでワクチンをアップデートしていなければいけないか、ということがわかります。どのくらいの距離で変異が飛ぶか、ということです。つまり、これまでの免疫学的な経験上、過去、いつワクチン有効性に変化が起きてワクチンを対応してこなければいけなかったのか。ウィルスがどのくらいこの地図上元々の位置から逸れてきたのか。その位置とワクチンがどのくらい離れてしまっているのか。ワクチンのアップデートが必要な領域に入ってきているのか。それらを判断するために必要なのが、このAntigenic Cartography、というわけです。今、このような地図をSARS-2ウィルスでもつくろう、と試みられているところですが、まだそれぞれの距離の単位がどのくらいなのか、という点ではまだよくわかっていません。しかし、この研究からわかってきたことは、このウィルスが大きな雲のような塊に集まっていること。そして、そこからBA.1が突出し、さらにそこからBA.2が突出している。しかし、これはまだハムスターの血清と、いくつかのウィルスアイソレートでのデータですから、別のラボからどのようなデータが出てくるのか、ということもみていく必要はあります。これから同じテーマで多くの研究からデータが出揃ってきて初めて、SARS-2ウィルスでは、3種類の血清型がある、もしくは、古い型が1つ、そして2つ目の血清型がでてきた、とみるのか、というところが明らかになっていくでしょう。それとも、最終的に、「私たちは勘違いをしていた。違いはあり区別をすることはできるけれども、比較的近いのでワクチンを変える必要はない。」という結果になるのか。というのも、、これは、全くの憶測で話していますが、、もし、全く異なる血清型がでてきた、として。そのようなシチュエーションはこの前の秋にも経験しましたが、デルタが出てきた時には、すでにかなりいままでのタイプとは違う、という認識だったのです。それが、オミクロンが出て、本当にウィルスの進化が一気に進むとどうなるのか、ということが明らかになりました。今、例えば、ラボでの検査ではワクチン接種者のこのウィルスに対する中和力価はほとんど検証不可能です。私はかなり始めから、(BA.1は)新しい血清型である、と言ってきました。それが、 抗原地図上ではBA.2がさらに個別に存在することがみてとれます。これから解明していかなければいけないのは、これがまたさらなる血清型なのかどうか。3つ目の血清型であるかどうか、です。それとも、2つ目の血清型の亜種なのか。

このポッドキャストでは憶測はしたことはあったものの、まだあまり詳しくは取り上げてこなかったことですが、、抗原原罪、という定義です。これは、インフルエンザで使われる定義ですが、私のような素人的には、ここからはあまり良い印象を受けません。言葉の響きとして何か決定的で不可逆のようなものであるように思ってしまいます。ざっくりと言うと、免疫応答が一番始めの接触を病原体としたときの記憶が深く刻まれてしまって、それ以降の別の変異株をあまり良く認識しなくなってしまう、というものですが、Immune Imprintingという言い方もあるようですね。

抗原原罪という言い方はメディアが使っているものではないですか?神の怒りに触れた、云々、という、、

メディアのストーリー的にはインパクトがあるでしょうけれど、、個人的には、そのようなものは欲しくない、、と思ってしまいます。

まず、Immune Imprinting、つまり、免疫の刻印、免疫が刻まれる、という現象があって、ここに以前のOriginal Antigenic Sin、抗原の遺伝子原罪、これはインフルエンザの疫学とワクチン学、そして勿論免疫学の分野からでたものですが、これはもう古い定義である、とするべきです。自然感染からの研究、そして、ワクチン免疫の面でも現在はもっと進んでいます。今は、どちらかと言えば、抗原遺伝的シニオリティの分野です。つまり、経験による優位性です。ですから、シニオリティという言葉のほうが適しているでしょう。抗原原罪、というと、もう一生変えられないもの、という感じになってしまいます。シニオリティ、となると、どちらかというと、免疫のシニアがジュニアに経験から教えてあげる、どのような決断をするべきなのか、というところに導く感じです。

そちらのほうが響きが良いです。

ですね。少し短くまとめて話してしまいましたが、根本的には、インフルエンザで観察されたことは、子供時代に一番初めに感染したインフルエンザのタイプ、、ここではわざと、タイプ、という曖昧な言葉を使いましたが、これは、特定のウィルス系統だけではなくてもう少し広い領域での話だと思われ、広範囲での多様性がこの現象をつくっている、と考えられるからですが、、この際、子供の頃に一番初めに接触したタイプのウィルスが一生免疫的に優勢となって残る。つまり、その後に別のタイプとの接触があった場合には、免疫はあるものの、メインとなる免疫はその前のタイプに対するものである、ということです。この所謂、抗原原罪の原理から言うと、免疫は古いタイプに対するものであって、その後の新しいタイプには対応しない。それは、一生、古いタイプへの免疫を優先させる、ということも意味します。そして、新しいタイプが古いタイプから遠ざかった場合には、免疫能力をなくすことになるのですが、それは幸いなことに現実にはそこまでになることはありません。実際にはどちらかと言うと、確かに血中には古い感染に対する抗体をつくる血清の割合が多いものの、新しい感染に対する抗体も必ずありますし、ワクチン接種の際にも、ワクチンに対するものもできます。これはかなり複雑なメカニズムです。抗体が成熟する、どんどん良くなっていく、ということはわかっていますし、これはリンパ球の一部で行われることです。このリンパ球で起きることは、根本的には常に改善されアップデートされていくのです。これを、体細胞超突然変異、と呼びます。ここからは、基本的には一方通行で、抗体は改善されてよりよく結合する方向にしか向かいません。最新に接触したウィルス、ワクチンへの対応です。新しい変異株、新しいワクチンに対応した抗体は古い抗体に劣る為に免疫がそれを採用しない、というのは、抗原原罪の古い解釈でしょう。今の免疫学は明らかにもっと先に進んでいて、このメカニズムの理解もワクチン学的にも実際の免疫応答についてさらに詳しい知見がありますから、この抗原遺伝的シニオリティ、というほうが新しい定義だ、と言えるでしょう。さらに、B細胞メモリーが常にアップデートを続けます。つまり、古い記憶のなかにある特徴は常に改善されていき、そこに新しい特徴の記憶が体細胞超突然変異、もしくは、リンパ球の核中心につくられるのです。古い免疫記憶から、新しい抗原、新しいワクチンに対する情報が生まれ、分類されて最前線に送られます。これがまず1つ目。もう1つは、新しいウィルスやワクチンは未熟なB細胞と接触することになりますから、これらも改善されていくことになります。これが実際に観察される免疫学的なメカニズムですが、疫学的にみたワクチンに関する観察では、アップデートされたワクチンを接種した場合に、血中にできる抗体の大部分はこの新しいワクチンに対するものである、という点で、この古い抗原原罪の原理が言う、「1度ワクチンを打ったら、アップデートを打つことはできない」ということにはならないのです。これは昔の知見です。

もしそうであれば、今後かなり問題となることですよね。さまざまなウィルスとの接触によって、免疫応答も多様化していく、ということでしょうか?つまり、一番初めの接触をデルタでした場合、その後でワクチンを打ったり、、私たちのように予防接種を先にした場合には、初めの接触は野生型のスパイクタンパク質、ということになるかと思うのですが、、その後で、例えば、私がオミクロンに感染したとして、、多分、その場合には BA.1での感染、となると思いますが、、そのように、各自、異なるステータスを持つことになりますよね?どのようなワクチン、どのような感染を経験したか、というところで。

インフルエンザではそうです。しかし、先ほどはSARS-2での話でしたので、その辺りはまだ明らかになっていません。インフルエンザに関してはもっとわかっていることが多いので、そうである、ということができ、コンビネーションが常に異なって、一番初めの接触がその後にも影響を与える、ということになるのですが、これも、先ほどの免疫のシニオリティであって、初めの感染時につくられた抗体がどんどん淘汰されていって、新しい感染によって最適化されいく。この最適化は常に、新しい変異株、新しいワクチンとの接触時に行われます。ですから、免疫的には、一番初めのウィルスに対しての最適化が一番長く行われた、ということになりますから、一番最適であって、一番役に立つのです。生まれてから、ある段階でウィルスと初めて接触することになりますが、それはその時にたまたま循環していたウィルスとの接触です。SARS-2では話は違います。これらのウィルスが十分に離れているか、ということがまだわかりません。つまり、私は、オミクロンが別の、2つ目の血清型である、と思っていますが、まだ十分に離脱していない、という人もいます。まだ全てが混沌としているのです。もし、オミクロンがそれまでの変異株と違うのであれば、それ以前の変異株に感染した人はそのウィルスでの免疫がメインということになります。現時点で動物実験や人間からのデータから、オミクロン感染によるオミクロン免疫が古い免疫をまた高いレベルまで引き上げることがわかってきていますので、これは免疫遺伝的シニオリティがある、という兆しなのではないか、と思われます。多分そうでしょう。しかし、古いタイプのウィルスに対応しているワクチンを打った場合、もしくは、感染した場合に、将来的にオミクロンや今後の変異株に対応する免疫に問題が出る、ということはありません。そうならない理由は2つあって、1つ目には、免疫がアップデートワクチンによってアップデートされない、というわけではない、ということ。インフルエンザでは、アップデートワクチンによって免疫が改善され持続する、ということがわかっています。これがまず一つ。もう一つは、現時点ではこれからSARS-2ウィルスの免疫回避型変異株がこの抗原遺伝の地図上のどのような方向に進んでいくか、ということは予測できません。地図上の大きな雲の真ん中が古い血清型だとすると、オミクロンは右のほうに移動しています。ここからオミクロン以降の変異株がもっと右に寄っていくのか。それとも左に飛ぶのか。そうなればオミクロン同士は離れることになりますが、古い血清型との距離は縮まります。特に、ウィルスが複数の発端から亜種に分かれている初めの段階、つまり、もともとのウィルスの違いから分かれている場合には、そこからどのように飛ぶか、ということが予測できません。これから抗原が連続変異していくのか、それともさまざまな方向に分かれていくのか。この基礎となる部分からみても、やはり、重症化を防ぐワクチン、というものは必然であって、この免疫学的なベースからもいままでのワクチンをスタート地点として使っていく、ということも最善の選択だと思われます。今、データが集まってくるにつれて本当にオミクロンに乗り換えていくべきなのか、という点で少し揺れてます。私自身も、数週間前の時点では、、多分、この場でも、今後はオミクロンワクチンに置き換えていくのが良いだろう、と発言していたと思うのですが、現時点では、特に動物実験のデータからみても、ワクチンを置き換える、というのはそこまで効果的とは言えないのではないか、と思っています。猿での研究結果があるのですが、、

モデルナワクチンでのものですね。

そうです。モデルナワクチンです。ここでは3回目の接種を古いワクチンと対応ワクチンでした場合を比較しています。猿に2回古いタイプのワクチンを打って3回目をオミクロン対応ワクチンか古いワクチンで打ったのですが、これは今置かれているシチュエーションに少し当てはまるものなのではないでしょうか。今、ブースター接種はオミクロンワクチンを待ってからしたほうが良いのではないか、と思っている人も多いと思うからです。これはいままでのポッドキャストでも何度も言っていると思いますが、この実験の結果からも、、答えは、ノー、です。待つべきではありません。3回目は古いタイプのワクチンで接種しても構わなくて、そのようにしてもきちんとアップデートはされます。猿での実験、、ここではアカゲザルが使われていますが、、このワクチンを打たれた猿達には、オミクロン対応ワクチンを3回目に打ってもオミクロン感染に対してそこまでのメリットがみられなかった。つまり、ブースター効果は同じだったのです。ブースター接種による免疫の反応はどちらのワクチンでも同じように良く、古いワクチンでも新しいワクチンでも変わりません。もちろん、これは人間に1体1で当てはめることはできません。例えば、私たちのように3回の接種を終えた場合に、時間を置いてからオミクロンワクチンを打った場合にどのような効果があるのか、ということはまだ明らかになっていません。夏にはオミクロン対応のワクチンが打てるようになりますが、その接種によるオミクロンへの効果はあるでしょう。ウィルスの変異が同じ方向に進めば、ということです。これに関しては今の時点ではまだわかりません。

今、長期でみて、というお話でしたが、この猿での研究でも、、私が正しく理解したならば、、ブースター接種の2週間後にオミクロンに感染させています。これはやはりちょっと早すぎるのではないでしょうか?免疫応答は成熟するのに時間がかかる、と学びました。もしかしたら、オミクロンワクチンは長い目でみると、やはり少し効果が増す可能性もあるのではないでしょうか。もちろん、これからウィルスがどのように変化していくか、ということもありますが。

もちろんです。気をつけなければいけない点はいくつかあります。これはその一部であって、「早すぎたのではないか」という点もそうですし、数ヶ月後にもう一度データを取った方が良いのでないか、という点もあります。それは多分この研究でもこれから調査されるでしょう。もっと重要な点としては、基礎免疫化からの間隔です。つまり、オミクロンアップデートワクチンを接種をするタイミング時に、基礎ワクチンによる抗体がかなり減少していたならば。かなり時間が経っていた場合にアップデート接種をすれば、免疫的にかなり強く効果がでて、抗原の方向的にもより高いアップデート効果が得られる可能性もあります。この間隔が短かった猿の場合ではみられなかった効果、ということです。この実験は、基礎免疫獲得においてもバリエーションであって、そのなかの3回目の接種を変えて比較している。しかし、実際に私たちが必要としてくるのは、3回の接種を終えて基礎免疫を獲得してから、4回目の接種をどうするのか。再来年には5回目の接種ももしかしたら必要になってくるかもしれません。オミクロン対応、もしくはその時に循環しているウィルスに対応するものです。これがこれからのワクチン開発の課題になるでしょう。

ということは、STIKOが高齢者のハイリスクへの2回目のブースターをいままでのワクチンで、という推奨にも一致しますよね。今までは、個人的な考察として、「1回目のブースター接種からまだ時間は経っていない。2回目はオミクロンワクチンを待った方が良いのだろうか」という考えがあったと思うのです。その必要はない、ということですね。

今の時点では、高齢者への推奨ですね。

70歳以上ですよね。

そうです。高齢者の場合は、今獲得できる保護効果は長期的なものではない、ということがわかっていますし、保護効果がそもそも削減していることも明らかです。ですから、4回目の接種によって、また3回目の接種のレベル、それよりも若干上回るレベルまであげる必要があります。これは念の為に、という安全面でのファクターであって、若い年齢層においては、3回の接種で十分な効果が得られている、と言えると思います。感染に対する保護効果も高齢者にとっては重要ですからブースター接種をする意味があるのです。オミクロンをどこに分類するべきか、ということがまだはっきりしていなかった、としてもです。若い世代に関しては、ブースター接種後には感染に対する保護効果はどんどん下がっていくものの、免疫記憶というものがありますので感染時には迅速に免疫応答がおこり、1週間も経てば完全に反応が起こりますから、発熱などで急激に撃退されるのです。オミクロンが古い免疫でも撃退できることはわかっています。

ワクチン開発に戻りますが、これから秋に目を向けていくと、ウィルスの進化、というものは大きな宿題でもあり、大きな疑問でもあると思うのですが、進化というものはどの程度予測できるものなのでしょうか?

根本的には、全く出来ません。とりあえず、データをみるかぎり、3回目の接種が間違っていたわけではなかった、ということ。それどころか、3回の接種による基礎免疫獲得をいままでのワクチンでするほうが若干メリットがある、とも言えると思います。これはまずは良いニュースです。これからどうなっていくのか。今、徐々に、これから数年間、ウィルスの連続変異が続いていく周期に入っていくでしょう。それが永遠に続くのか、ということはわかりません。インフルエンザではそうですが、このコロナウィルスがそうだとは限りませんし、他のコロナウィルスではそうではない、という点から、このコロナウィルスもそうならない可能性もあるわけです。長い目でみると、もしかしたら若干安定していて連続変異は起こっていかないかもしれない。しかし、パンデミック直後、エンデミックへの移行期間では、いくつもの飛躍、それは連続変異である必要はありません、、偶然起きる変異でもかまわないのですが、、そのようなことが起こるのではないか、と思われます。これはまた憶測の域になってしまいますが、、待つしかありません。オミクロンが軽症化した、というのはラッキーなことでしたが、免疫を持たない集団にとってはオミクロンは決して危険の少ないウィルス、とは言えないのです。

ということは、これからずっと常にワクチンの穴が、特に高齢者において存在し続ける、ということですね。これから、大きな進化面での飛躍があったとしても、3回の接種による基礎免疫は長期的に持続する、ということでしょうか?

それは確かです。推奨内容は今後も正しいと言えます。

これから少し先の事に目を向けて行きたく思うのですが、「オミクロンの進化はラッキーではあった」と先ほどおっしゃいましたが、高齢者の感染が増えてきて、集中治療への負担はそこまで大きくはないものの、まだまだ落ち着いた状況からは程遠いと思います。病院が完全に落ち着くまではまだかかりそうですよね?

勿論、病院への負担は通常病棟にかかっていますから、正直なところ、私にはドイツのシチュエーションが現在どうなのか、という詳細はわかりません。

地域によってかなり差がある、と思います。

地域によっては、通常病床に負担がかかっているところはあっても、集中治療はそうでもありません。他の国のデータでもそのような傾向が出ていますが、ドイツでは特に対策を持続させることによって、今後さらに抑え込むことができると思います。先ほども言いましたが、長期的にみると問題は感染伝播です。まだしっかりと自覚できていない人もいるかもしれませんので、もう一度言いますが、ここ数年の経験では気温が上がるにつれて発生指数も下がって落ち着いてきました。デルタが出てきてからまた感染者が増えてきてましたが、ドイツではっきりとした増加がみられたのは秋に入ってからです。因みにイギリスではもうすでに夏に増えていました。ワクチン接種率、というものもあったと思います。さて、「今年はどうなるのか」というのがここでの問いです。現時点でのワクチン接種に関してはこれ以上は進まないだろう、とみられていて、それと同時にかなりの数のオミクロン感染が起こっています。ですから、今年はいままでのような感染がない夏にはならないだろう、と私はみています。これには、数学的な裏付けもありますし、モデル試算もあります。例えば、南アフリカをみてみても、オミクロンの感染流行は真夏です。南アフリカでオミクロンが大流行したのは、南半球で真夏の時期だったのです。気温が高いのにも関わらず感染が爆発しました。ドイツで夏に感染が爆発する、ということを言いたいのではありません。しかし、全く感染がなくなるか、というと、それはないと思うのです。夏でもオミクロンに感染するでしょう。ですから、夏に室内でのマスク着用義務を完全に解除する、ということはお勧めできません。屋外では問題ないです。幸いなことに夏には屋外での活動が可能になります。しかし、密になる室内で全く何の対策もしない、となると、夏でも感染するリスクはあります。勿論、若くて完全な免疫を獲得していれば、そのリスクを犯しても良い、という見方もあるでしょう。その点の議論の余地はあると思いますが、去年の夏のように感染リスクが大変低くなるか、というと、そうではないと思うのです。そのあとで冬が来ます。冬がくればこの因子もなくなります。そうなれば、、オミクロンがこのまま残れば、、そのまま残って基本的なパラメータもそのままであれば、そこからまた冬の流行につながります。ワクチンによって重症化は避けられても、また大量の病欠、欠勤ケースが続出するでしょう。もう一度言いますが、パンデミックはワクチンで重症化が抑えることができれば終わる、というものではなくて、集団での感染伝播が止まって初めて終わるものなのです。そこにどのようにたどり着くことできるのか。それは現時点でのワクチンでだけでは困難であると思われます。この生物学的な理由、この高い感染力を生物学的に、医学的に押さえ込むには、粘膜の免疫、つまり、上気道の粘膜の免疫をつくること。他の呼吸器系感染症でそうであるのと同じように、それによって感染がそこまで速く伝播しないようにすることです。インフルエンザを例にとると、インフルエンザでは大人はそれまでの人生で何度も感染を喉で鼻で経験済みですから、それによって局部の粘膜免疫、というものができています。これが、クリスマスからカーニバル、イースターまでの感染流行時、インフルエンザシーズンのR値が、一時的に1,1から1,2くらいまで上がるものの、4週間、6週間後にはまた1以下に下がる理由です。SARS-2ではこのような状態には次の冬までには到底到着できそうにありません。ということは、感染防止対策をしなければ、重症化は置いておいても、またR値が2、もしくは3になってしまう。一番簡単な答えとしては、重症化問題はなくて、問題は感染伝播だけになったとしたら、社会活動を自由に行おうとするならば、解決方法はまずは、FFP2マスクです。それによって、勿論感染伝播は阻止されます。そして、中期的、長期的に見た場合には、リスクが少なく基礎免疫を獲得済みの若年層での感染、ということになります。つまり、簡単に言うと、3回の接種による基礎免疫をベースとした感染の論拠です。

それが前提ですよね。

勿論そうです。基礎免疫がない状態で感染を野放しにする、ということではありません。それは全く別の話です。最終的には、集団の伝播免疫の獲得の論拠なのです。そのようにみていかなければいけなくなるでしょう。勿論、反論はいくつもあるとは思います。Long Covidとか、そのような不確かなところもたくさんあります。しかし、それと同時に、2回、3回の予防接種がLong Covidを防ぐ高い効果がある、ということもわかっています。Long Covidもそうですし、疾患経過が長引くことも阻止されます。たしかに、神経的なもの、免疫的なものに関してはまだはっきりしません。ですから、これらの論拠もそこまで言い切ることはできないのですが、それでも、これがエンデミックへの道である、ということも言っておかなければいけないのです。代わりとなる案はありません。もし代案があるとすれば、生ワクチンというかたちでワクチンウィルスを直接粘膜に与える。例えば鼻スプレー、喉スプレーなどです、そうすれば、局部の粘膜免疫が形成されます。生ワクチンには微量に複製するものの疾患には繋がらないウィルスが含まれています。それを国民全体に接種させることができれば理想的です。しかし、そのようなワクチンはまだ承認されていません。ですから、そのようなワクチンが出てくるまでは、自然感染によって特にワクチンを接種済みの若年層で免疫を獲得することによって感染伝播にブレーキをかける。これがパンデミックの終息につながるのです。

ということは、そのような間には、ハイリスクをどのように守っていくか。感染防止対策が解除された後にどうなるのか、というところですね。例えば、就学する子供がいる家庭にハイリスクの兄弟や保護者がいる場合などです。

それらを全て含めてのエンデミックへの移行期、と言えると思います。ハイリスク患者のためには特別なコンディションをみつけていかなければいけません。幸いなことに、今では大変良い抗ウィルス剤がありますし、ここからは家庭医、かかりつけ医がそのようなハイリスク患者の相談先となる。例えば、パクスロビドなどの使いかたです。そのような治療薬があって、そのくらい早期に服用するべきなのか、早期診断をするためにはどのような症状に気をつけなければいけないのか、というような点です。これらは全てかかりつけの診療所と患者の間で行われることですが、このようなことをケアをすることができると思います。その他に方法としては、、少なくとも次の冬にはエンデミックには到達しないので、まだ感染伝播は起こります。簡単に計算して、集団での粘膜免疫を獲得するまでには、誰もが次の冬までにオミクロンに1回、2回感染する必要があるわけで、そのような状況を想像してみてください。感染をしたからといってすぐに安定した粘膜免疫ができるわけではないのです。数回必要ですから、これは単純に規模的に不可能です。ですから、次の冬には、重症化だけではなくて、感染伝播の制御をしていく必要があります。FFP2マスクの着用だけで、今冬で行なってきたようなさらなる非医薬的介入をする必要がないことを祈りますが、これが目を背けてはいけない現実です。長期戦の問題なのです。私は、このポッドキャストももう数週間に1回の頻度でする必要もなく、それが例え新しい知見が出てきたとしても長期での見解はもうすでに確立されている、と思うのです。あのようなこと、このようなことが起こる、と。感染フリーの夏にはならない、ハイリスクの保護の必要性、感染伝播の制御、ワクチン免疫をベースとした自然感染による免疫の獲得、といったことです。

先生は、かなり前からおっしゃっていました。秋の段階ですでに、「パンデミックの全容、大きな流れはみえている」と。科学は全て掲示した。研究からの知見は出たので、そこからは政治の番である、と。そこから、秋、冬になってオミクロンがでてきたので、また話し合う必要が出てきたのです。しかし、先生的には、また「これからは研究に集中したい」というところに来た、ということですね?

そういうことです。これは私の仕事的な理由もありますが、もうすでに秋の段階で「研究からは全て出た」と言いました。ここからは政治の問題です。正しく状況を把握できるように、感染防止対策への正しい理解と、情報が必要な人のところに情報を与える、という必要性はもうないのです。秋に全員分のワクチンが出揃った時点で、情報を得ようとしない人、興味を持たない人、協力体制がない人たちにこれ以上理解を求めるのは困難だ、と感じていました。ですから、基本的にはここからは政治に委ねるしかない、と思ったのです。その時にオミクロンが来て、また全てを変えていかなければいけなくなってしまって、、また混乱状態に陥ってしまったのです。しかし、それもいまでは落ち着いて、方向性がみえてきましたし、オミクロンでは重症化の面でもワクチンの有効性の面でも幸運なことに良い方向に進んだわけなので、次の情報的なアップデートは、第二四半期くらいだと思われます。どちらかと言えば、後半、でしょうか。「アップデートワクチンはそうなるのか?」「必要なのか否か」「メリットは何か」などという問いもでてくると思いますが、それまではもうほとんど話すことはありません。ですから、このポッドキャストを引き続きやる意味、というものもない、と思うのです。私は前から言っているように、メディアで目立とうとか、有名になろう、とかそういうことには全く興味はありません。私がしたことは、パンデミックにおける介入とサポートとしての情報提供であって、もうそれは必要ないのです。

具体的には、、今回がまずは最終回、ということになりますね。先生単独の回、という意味で、ですが。4週間後に、チーゼック先生と一緒にもう一度お話を伺う機会を設けたく思っています。とはいっても、状況はまだ変わる可能性はありますよね。パンデミックはまだ終息していません。先ほど、まずは最終回、ということにする、と言ったのですが、先生と今生の別れ、ということでありません。もし、状況が急激に変化して、ウィルス学的な説明が必要になればまたお話しいただく、ということになるでしょうか。

そうですね。新しい情報が出てくれば、その都度なんらかのインタビューでお話することはできると思います。しかし、状況がまたガラリと変わるようなことになれば、ポッドキャストを再開する、という可能性もあるでしょうね。

今日もありがとうございました。また4週間後によろしくお願いいたします。

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