ドイツ@Sars-CoV-2 コロナウィルスアップデート(91)  2021/6/1(和訳)

フランクフルト大学病院 ウィルス学教授、サンドラ・チーゼック
ドイツ予防接種常設委員会(STIKO)委員長 トーマス・メルテンス
聞き手 コリーナ・ヘニッヒ

————————————————

ここ数日はあっと言う間に過ぎて行きました。R値が1を大きく下回り、新規感染者の減少しています。ウィルス学者とモデリング専門家も予測していた通り、指数関数的な削減です。 今日は、子供のワクチンについて取り上げたく思います。このテーマは特に感情的に議論されることも多いですし、不明な点や疑問も多く、専門家の間でも意見が大変分かれています。そして勿論、変異株について、アストラゼネカの接種の後の異種接種についての新しい知見について、フランクフルト大学病院、医療ウィルス学教授、サンドラ・チーゼック先生にお伺いします。

新規感染者数が減少しています。予防接種率と連邦緊急ブレーキの効果、緩和と天気なども関係があると思うのですが、どのくらい安定している、とお考えでしょうか? わかりやすい指標としては検査数があり、特に陽性率があげられると思うのですが、検査数の変化をみていくと先週の検査数ではその前の週に比べると明らかな増加がみられ、150000件多く検査されましたが、陽性率は2%減っています。この陽性率の変化は先生の研究所でもみられる傾向なのでしょうか?

そうですね。大体そのような感じです。陽性数も少なくなっているのは、私も常に保健所に通知しなければいけないのでよくわかっています。状況はかなり落ち着いてきました。ALMレポートをみて気がつく点は、1つ目に、PCR検査のキャパの50%以下しか使われていないのにもかかわらず、陽性率が6%である、ということ。これは、去年のウィーク35、ウィーク36に比べるとまだまだ低い陽性率である、とはいえません。8月末には、0,7でしたので。州ごとのデータをみてみると、陽性率にばらつきがあるのも気になります。 例えば、ザクセン=アンハルトでは2,6%、ハンブルグで3,8%、ヘッセン12,1%、チュービンゲンでは12,3%です。これは178の検査ラボから集計されたデータですが、どれだけ国内でのバラつきがあるかがわかると思います。差は州の間だけではなく、ラボでも出ます。これはよく誤解される点なのですが、発生指数は、検査したラボの所在地ではなくて、陽性者の在住地で決まるのです。例えば、私はフランクフルトに住んでいますが、空港で検査されたケースは全て陽性だ、といった場合。これはフランクルトで検査されたことが重要ではなくて、その人たちがどこに住んでいるかというところです。 つまり、この場合にはフランクフルトの数にはカウントされません。都市のなかでも、ラボによってもかなり数には差があるのですが、私の大学病院で入院の際のスクリーニングをすると、陽性率はかなり低く、3とか、3,5%ですが、有症状時のみの診療をする病院であったり、ラボだったりすると、21%などという割合になりますから、ドイツ国内でも地域によって大きな差があるのです。

そして、社会経済的な次元でも大きな差がありますよね。NDRのデータ処理スタッフが地理的な分布を調べてみたのですが、ツァイト紙の科学編集部もそのような調査を行なっていて、いまだに、「ホットスポット」、、この言葉を使って良いのかどうかはわからないのですが、、、ホットスポットが都市のなかに散らばって存在し、それは、大勢が狭い部屋に住んでいたり、経済的に困難な人たち、貧困リスクをかかえたところに多い、と。

そうなのです。その記事を今朝ちょっと流し読みしました。残念ながらフランクフルトは入っていませんでしたが、別も都市、例えばエッセンなどが取り上げられていて、エッセンは北と南に分かれていることで有名です。境界線はアウトバーンのA40線ですが、南には一軒家が立ち並ぶ高級住宅街があって、北には団地が並んでいる。社会経済的な面でみると北のほうが恵まれていません。これが発生指数にも反映している、ということがエッセンの例をとってもよくわかります。同じような調査が様々な都市で行なわれていますが、地区で分類もされていて大変興味深いです。この説明はよくつくことで、この場でも何度も取り上げていますが、大人数が同じ世帯で生活している場合、罹患した場合の隔離は困難です。庭付き一軒家に三人で暮らしているのに比べて生活空間が狭い、ということは言うまでもありません。容易に想像がつくことです。 それと、職業的な選択肢も限られてきます。テレワークが可能な職種と、工業製造分野の違いです。アメリカでの研究からも出ているデータですが、農業や食品製造業の感染発生率が高い。これは、それぞれの都市の発生指数をみても納得が行く結果です。大変興味深く思います。

チーゼック先生、先生はフランクフルトにお住まいです。フランクフルト空港は大きなハブとなっていますが、旅行者も多い中変異株における意味合いはどのようなもなのでしょうか?

大変重要な意味を持ちます。シークエンス解析をしている、ということはお話したことがありますが、勿論、フランクフルトでは大変多様なウイルスゲノム配列がみつかりますから、これが持ち込まれないように厳重な注意が必要なのです。とはいっても、状況は落ち着いてきています。外を歩いていても、このパンデミックの全体のシチュエーションからみても明らかにリラックスして、人々の気分も上がってきていることを感じます。

ニュースでは新しいベトナムからの変異株で持ちきりですが、ベトナムの状況はかなり長い間コントロールされてきていました。感染者の増加はみられますが、数的にみるとヨーロッパの比ではありません。良い意味で、ですが。そこからの報道では、2つの性質がミックスされたもの、インドとイギリスの変異株の性質の両方を持つ変異株だ、ということでした。私にとっては、この報道内容には納得することができなかったのですが、というのも、初歩的な情報しかありませんでしたし、本当に危険なものなのか、という点では何も説明されていないからです。先生はどのようにお考えでしょうか?何か重要なことをご存知ですか?

まず、結論から言ってしまいますが、私は特に心配はしていません。これはインドとイギリスの変異株の特徴を持ち、空気中をかなり速い速度で拡散する、という発表でしたが、まず、これはハイブリッドでも、ウィルスの交配でも、組み替えでもない、ということです。このようなことはよく言われますが、それは間違いで、この変異株はB1617ー2変異株です。つまり、インドの亜種ですね。欠失は、114のポジション、つまり、チロシン欠失で、これはスパイクタンパク質の中にあります。このポジション114の欠失は、イギリスのB117型にもみとめられるものです。 言っておかなければいけないことは、インド型のような変異株は、さらに進化したり別の変異を起こす可能性が大変高いということ。これは珍しいことはありません。このゲノム配列のままで行く、ということはほぼなくて、どこかでまた変異が起こります。そのようなことは今まで何度も観察されてきています。この欠失、これはB117型の時にも憶測されていたことですが、この部分が免疫回避をするのではないか、と言われたものの、B117に関してはほとんどありませんでした。かなり多くのデータが出ています。ですから、このベトナムの変異株に関してもあまり大きな影響はない、という見方ができると思います。というのも、ベトナムはまだ集団免疫に近づいていませんし。かなり少ない割合でアストラゼネカでの予防接種がされています。ベトナムは他の国に比べると、まだまだ予防接種が行き渡っていないのです。それに加えてこの変異株、この欠失があるB1617ー2は、ベトナム以外でも22回みつかっていて、ドイツ、アメリカ、イギリスでもみつかっています。ウィルス学的にみても、これが特別に危険であるとか、インド株よりもひどい、という点は見当たりません。インドの変異株では、他の変異株よりも感染力が強い、ということがわかってきていますし、イギリスで拡がってきています。それ以外は、ウィルス学的にもはとりあえず特に危険である、という要素はなく思います。

ということは、空気中を激しく感染、というのは、感染した人たちのいた環境のこと、ということなのでしょうか?

多分、そうではないか、と思います。ベトナムの状況を考えてみると、3月、4月には何週間も感染者がゼロでした。私たちにとっては夢のような状態です。それが今、5月初めからまた感染者が出てきて、10万人中の発生指数が1,9です。先ほども言いましたが、ドイツは今35くらいで、それでも安堵しているところですから、1,9という2以下の指数というのは全く次元が違います。勿論、検査数との比較はできないにしても、です。とはいっても、いままではベトナムにはほとんど感染者がいなく約3000人の陽性感染者が確認されています。 5月の初めから明らかな新規感染者の増加がみられ、10億人ほどの人口で1週間で1800人の新規感染者ということですから、イベントか何かから大きめのクラスターが出ればすぐにそのくらいの感染者はでます。この件に関する新聞記事を見つけることができなかったのですが、このうちのどのくらいの割合がベトナムの変異株で起きたものなのか、という点がはっきりしません。ベトナムではあまりシークエンス解析が行われなく、レポートには、この1800人の新規感染者のうちの4ケースのみが解析された、ということです。あとは、ベトナムでの感染状況はかなり地域的に偏りがあるものだ、ということも言っておかなければいけないでしょう。何万人もの労働者が働く工業地帯で起こった集団感染もありますし、そこでは労働者の20%が感染しています。ホーチミンは、900万人都市ですが、教会での集団感染も報告されています。礼拝後に85%が感染しています。全国民の1%ほどしか予防接種をしていない、ということはほとんど免疫が存在しない、ということです。これは、去年の夏から秋にかけて起こったドイツ国内の精肉工場や教会での集団感染を思い出させます。インドの変異株は大変感染力が高いタイプです。ですから、この変異株が拡大できるチャンスが与えられたら瞬く間に拡がっていくのです。それが、大勢が集まる場所、工場など、です。大きな集団感染が起こったら一度に大勢の感染者がでます。ベトナムのように、です。状況を見極め感染抑制に速攻でとりかかっていることは大変良いことです。これは残念ながら去年の晩夏に私たちが阻止することができなかったことでもあります。どちらにしても、ベトナムの状況は、10万人辺り2人、と。ヨーロッパからみると、比較的コントロールの効く感染状況です。

先ほど、B1617がでましたが、こちらは危険な内容ではないものの、興味深いテーマで、、WHOが、変異株に名前をつけました。名前、というにはちょっと大げさかもしれません。というのも、変異株はこれからギリシャのアルファベットで呼ばれることになります。やっと数字に慣れてきた頃なのですが、アルファがB117型に、ベータが南アフリカのB1351型、ガンマがブラジルのP1、そして、インドの変異株B1617−2はデルタです。

そうです。せっかく暗記をしたというのに、、、またこれを覚えなくてはいけなくなってしまいました。笑 頭を柔らかくしておけ、ということなのでしょうか。わかりませんが。WHOがギリシャのアルファベットで命名しました。WHOが挙げている理由としては、変異株が初めに発見された国の名前で差別が起きないように、ということのようですが、Variants of Interest(注目すべき変異株)もアルファベットで整理されています。ユプシロンから始まり、カッパで終わりますが、ユプシロンが、アメリカのB1427とB1429、そして、カッパがインドの亜種です。このポッドキャストでもどの変異株の話をしているのか、ということを理解するためにも、、全て新しく覚えなければいけませんね。

記憶に関する研究からも、名称としての名前のほうが記憶に適している、という結果が出ていますが、勿論、どの国も差別されるわけにはいかない、というのは理解できます。しかし、研究で使用される名称は引き続き残りますよね?

そうだと思います。このウィルス自体も途中で名称が変わりましたが、その時も、せっかく慣れてきたのに、、、と文句を言ったことを覚えています。数週間のうちに新しい名前にも慣れましたが。どの名称が通称として残っていくのか、というところでしょうね。

デルタ、というのは、B1617−2ですね。この変異株のテーマの最後にドイツの数値を見て行きたく思います。この間は、この変異株がドイツ国内では1桁のはじめのほうの割合だ、と言いましたが、このインドの変異株は2%ほどです。ここでの変化はありません。しかし、特殊な亜種に関しては、若干増えています。

それに対して南アフリカの変異株が、、、ちょっと、今みてみますが、、、

1,1%減少しています。P1、新しくはガンマですね、こちらは 0,3%です。ドイツ国内では大変稀で、幸いなことに拡がっていません。先生はフランクフルトというハブ都市にいらっしゃいますが、これら変異株に関しては、夏に旅行者が増えると共に増加していく、とお考えでしょうか? それとも、入国規制などで十分コントロールできるのでしょうか?

難しい質問ですね。私は増えると思います。去年もそうであったように、旅行によってウィルスが持ち込まれますから、勿論監視しなければいけません。今から今後の手順を考えることには大変意味があります。予防接種をした人と、まだしていない人ではどうするか。今後、空港でも、予防接種者とそうではない人が入り混じるでしょうから、それをどう対処していくか。しかし、ここで言いますが、空港だけが、大きな問題だけではない、ということです。それよりも、車での移動なども大きな意味を持ちます。特に東ヨーロッパやイギリスからなどからは、飛行機ではなく車でドイツに入ってきますから、ここの監視も大変重要なのです。

一般的には、数的にも今は大変良い傾向にあると思います。新規感染者数も急激に減少しています。しかし、先生も、他の専門家もこの効果は予防接種によるものだけではない、と言っています。つまり、これから、対策が緩和され、飲食店のテラス営業、小売業も再開されて、学校も通常運営に戻ったあとでまた増加傾向に移行するのか、それともこのまま持続できるのか、というところですが。

ベトナムの例をもう一度思い出していただきたいのですが、ウィルスにチャンスを与えると、つまり、大きな集会などですね、大勢の予防接種をしていない人たちが集まる機会があると、ウィルスはこの機会を利用します。特に、感染力が強い、往来型よりも感染力がアップしている変異株であれば尚更です。私が思うには、これから去年起こったような集団感染が起こるであろう、ということと、ベトナムのようなことも起こるでしょう。1000人単位のイベントを開催したりすると、勿論、大きな集団感染に繋がるリスクは大変大きいからです。

その反対で、保健所はまた接触追跡をしやすくなっていますよね。

そうですね。そして、予防接種を終えている人たちもいますから、感染のチェーンが断ち切られることを願います。しかし、根本的にはそこまで状況は変わっていません。つまり、ウィルスが免疫を持たない宿主を見つけたら迷いなく感染させようと試みる、ということなのです。

今日は、ゲストをお招きしています。「子供とコロナワクチン」というテーマを少し掘り上げるために、トーマス・メルテンス教授とアプリで繋がっています。メルテンス先生はウィルス学者であり、4年前からSTIKOの委員長を勤めていらっしゃいます。ドイツ予防接種常設委員会は、独立した無報酬の委員会で、予防接種に関する事全般と推奨をする機関です。メルテンス先生、保健相をはじめ、多くの政治家が、もうすでにかなり乗り気になり子供の予防接種の推奨を始めていますが、STIKOからの推奨はまだ出ていません。決議中ということのようですが、メディアを注意深く追っている人は読み取れることだと思うのですが。STIKOの姿勢は今のところ大変慎重です。慎重になる理由は何なのでしょうか?

トーマス・メルテンス  今我々のところで行われているのは決議、というよりもデータの分析と推奨に必要となるエビデンスを集結させることです。STIKOからの視点では、子供達の健康とメリットになる決定的なものが推奨には必然だと考えます。子供達の為に最善な健康的メリットがなければ推奨をすることはできない、というのが最優先されるのです。STIKOは何年もかけて推奨する際の過程というものを改善してきました。STIKOでもっとも重要とされる点は、存在する全てのエビデンスをベースに推奨を打ち出していく、というところです。多くの人たちは、STIKOでは専門家が集まって議論している、という印象を持っているでしょうが、そのようなことは行われません。そのような会議が行われるのではなくて、現在存在するデータを集め分析し、そこから推奨というかたちでの決断がされます。

サンドラ・チーゼック  SNSなどで批判、ほのめかされている、と言いましょうか、よく読むのは、決断は、どこから一番お金が流れるのか、というところで決まる、というものですが、STIKOへのなんらかの報酬はあるのでしょうか?

トーマス・メルテンス  それはありません。我々の機関は無報酬です。私を初めSTIKOのメンバーは一銭ももらうことはないのです。

ということは、政治からも独立している、ということですね。先ほど、エビデンス、とおっしゃいましたが、メルテンス先生、子供達が罹患することは大変稀であることはわかっています。たとえ罹患しても重症化は基本的にしません。しかし、いくつかリスクとして考えていかなければいけない事があることは、このポッドキャストでもチーゼック先生にご説明いただいています。例えば、Long Covid、つまり長期に渡る後遺症に関するデータもまだ少ないですし、ケース数が圧倒的に足りません。Long Covid対する予防という面でも明確ではなく、つまり頻度もはっきりしません。しかし、そのようなことがある、ということは事実ですよね?子供にもある、と。

トーマス・メルテンス  ご指摘されたように、子供のLong Covidに関しては、我々が行なった文献分析でも単純にデータが少ない、というのが問題点です。子供の病像がはっきりと定義できない、というところから始まり、イギリスからの論文にはパーセンテージは明記されているものの、対象となる子供、ここでは12〜17歳ですが、この予防接種を検討される年齢層においては、今現在存在するデータは十分ではない、という結論に達すると言えます。 しかし、ここで言っておかなければいけないことは、Covidがこの年齢層にどのような意味を持つのか、というところです。数から言うと、188000名の子供、つまり12〜17歳の感染が確認されています。実際にはこの188000名よりも多くの感染者が存在するでしょうが、登録されたこのケースのうち、約1%、1800名ほどが入院して治療を受けています。そして、この1800名のなかの1%が集中治療が必要だったケースです。大体、18名の子供と青少年、という計算になりますが、そのなかの死亡ケースは2名です。これを%にすると、0,001%ですが、この2名の死亡者は既に緩和医療での闘病中であり、重度の疾患を患っていました。さらに、言っておかなければいけない点は、子供の感染の多くが病院や入院中に偶然発見されたものであること。つまり、例えば、子供が急性虫垂炎で入院した場合などにSARS-CoV-2の検査がされ、PCR陽性だった。しかし、入院した理由は急性虫垂炎です。勿論、このようなケースは稀ですが、2名の死亡ケースもCovidに感染する前から重度の疾患を持っていました。

ここで気になるのは、国際的な評価に差があることです。アメリカでは、200万人以上の子供、この年齢層の予防接種が行われています。EMA、欧州医薬品庁は承認を推奨しています。国での判断の違い、子供の疾患リスクへのデータ違いはどのように評価されますか?

トーマス・メルテンス  まず、はっきりとさせておかなければいけないのは、STIKOの推奨と、EMAやFDAにおける承認は全く別物であることを理解しなければいけません。アメリカではFDAがワクチンを承認しますが、これはEMAがヨーロッパ、パウル・エルリッヒ研究所がドイツで行うことと同じです。さらに、アメリカにはACIP、これはドイツではSTIKOにあたる委員会があり、ここで承認されたワクチンが実際にどのように使用されるべきであるのか、という点が決められるのです。このように全く役割が違います。勿論、国によってシチュエーションも異なりますし、判断も様々であることは確かです。どちらにしても、STIKOはEMA が承認する時よりも、より多くの視点を考慮しながら判断していかなければいけません。

その視点を順をおってみていきたいですよね。チーゼック先生?

サンドラ・チーゼック 今それをお聞きしようと思っていました。時には、STIKOが子供の予防接種を推奨しないのは、子供にワクチンを打つ事ができないからだ、という印象を与えることがあると思いますし、例えば、保険がきかない、とかそのような理由もあると思います。そして、接種後に何か問題が起きれば、法的な問題にも発展するかもしれませんし、このあたりの整理ができれば、と思います。STIKOの推奨とは何を意味するのでしょうか? 例えば、開業医が推奨なしでワクチンを打ったりした場合などですが。

トーマス・メルテンス  まずここでは、今回のCovid-19ワクチンと、他の一般的なワクチンとは区別されなければいけません。他のワクチンでは、医療費負担は、まずはSTIKOからの推奨があるかどうか、そしてそれを連邦が決議したかどうか、で決まるのです。つまり、通常のワクチンでは、STIKO推奨とGDAの決断との関連性が保険適用にも存在します。 Covid-19ワクチンの場合は、全く例外中の例外です。ワクチンの調達も中央、つまり連邦で一貫して行われますし、そこから配分されます。ここには全く別の規約メカニズムがあって、ワクチンが承認された時点で医師はワクチンを打つ事ができるので、これ自体は間違ってはいません。予防接種を行なっても法的にもなんら問題はありませんし、その点では、シュパーン保健相の発言、「ワクチンは承認後に接種が可能である」というのは正しくて、ワクチンを接種する医師には法的な束縛は生じません。

ということは、もし、STIKOがワクチンを推奨しなかったとしても、それは積極的に予防接種をしない方が良い、という推奨ではない、という理解で正しいでしょうか?

トーマス・メルテンス その両方のケースが今までにもありました。基本的には、制止する、ということはあまりありませんが、いままでにそのようにSTIKOがワクチンの接種に対する警告を出したことはあります。どちらもある、ということです。しかし、今のシチュエーションではそれはありません。

少し、根拠について掘り下げていけるかと思うのですが、この決断の難航ぶりは長引いているところからも容易に想像がつきます。このテーマは大変感情的に議論される事が多く、特に保護者の間では白熱する場合が多いです。先ほど、Long Covidというキーワードを出しましたが、それ以外でも保護者が心配している点は、小児多臓器炎症症候群です。これは感染の数週間後に起こる稀な疾患で、PIMSと略されますが、これについては過去のポッドキャストでもとりあげています。自覚がなく感染後に起こり、確率としては1000人に1人、もしくは、5000人に1人と言われています。ここでのリスク評価はどうなのでしょうか?1000人、5000人に1人、というのは確率的には低いですよね。

トーマス・メルテンス  ドイツには勿論ドイツ小児感染症協会による大変良いデータがありますし、しっかりと議論も行われています。事実としてこの疾患は存在しますし、2020年から2021年の4月30までには、12〜17歳で390ケースが報告されています。このうちの131人がCovid-19で入院していますが、この関連として重要なのは、PIMSが起こった子供の約50%、約半分には、併存疾患、つまり、別の疾患があった、という点です。そして、誰も死亡していません。一部は集中治療が必要なケースもありましたが、PIMSでの死亡はドイツでは起こっていません。 小児感染の専門家によると、この子供達は、その病像から念の為に入院、もしくは集中治療室に入っていた、とあります。勿論、きちんと観察もされていますが、PIMSに対するリスクは低いと言えます。見通しは悪くありません。このような面からも、PIMSは健康体の子供達への予防接種に対する指標ではない、と言えるかと思います。基礎疾患を持つ子供に関しては、勿論明確な定義もされたのちに、予防接種の推奨はされるでしょう。これをしない、という理由は見当たりません。絶対に子供には予防接種をするな、と言っているわけれではありません。基礎疾患を持つ子供に対しては、文献のデータからもハイリスクとみなし予防接種がされなければいけないでしょう。

サンドラ・チーゼック  決断をする際には、インフルエンザ、インフルエンザワクチンとの比較も考慮されているのでしょうか? インフルエンザワクチンもドイツでは推奨されていませんよね。

トーマス・メルテンス  そうです。数年に渡るデータもしっかりと分析されていますが、根本的に言えることは、この年齢層でのCovid-19の罹患リスクはインフルエンザ罹患リスクよりも大きくはない、という認識です。この間の比較は勿論されましたし、結果も明確です。

インフルエンザが出ましたが、チーゼック先生、先生は医師でもいらっしゃいます。子供のインフルエンザ予防接種はSTIKOは推奨していませんが、罹患時に重症化する可能性があることは医師としてもウィルス学者としてもご存知でしょう。子供にインフルエンザワクチンを打たせる親もいます。Covidに関しても心配をする保護者の気持ちも理解できる、と思うのですが。

サンドラ・チーゼック  それはそうだと思います。インフルエンザに関しては子供への推奨はありませんが、毎年予防接種をしたほうが良い子供も存在します。例えば、基礎疾患がある子供であったり、臓器移植などのケースです。インフルエンザで重症化することはありますし、入院することもあります。それは、青少年でも子供でも同じです。ですから、心配する気持ちはよくわかります。インフルエンザの予防接種に関しては保護者が子供のためにケースバイケースで決断していかなければいけないことです。生活環境にもよる、ということは私が常に言っていることでもあるのですが、例えば、家族のなかに免疫不全者がいた場合、抗がん治療中であったりする際には子供への予防接種も検討されたほうが良いでしょう。その反対に予防接種はさせない、という意見もあるでしょうから、これは環境にも密接に左右されるそれぞれが判断すべき決断だと思います。

メルテンス先生、別な要素も重要だと思うのですが、先ほども、子供達でのCovid-19による後遺症のリスク評価についてありました。その一方で、12歳以上の子供達へのワクチンの影響についてはどのくらいわかっているのでしょうか?バイオンテックファイザーは、子供に関する治験データをは発表しました。どのような結果が出ていますか?まだ不確かな部分はどこなのでしょうか?そして、解明された部分、というのはあるのでしょうか?

トーマス・メルテンス この治験では、約1100人の子供での予防接種時のデータが集められています。接種後2ヶ月間の観察データです。期間としても短いですし、規模も小さいです。先ほども、実際の子供のリスク、もしくは、リスクの可能性については挙げましたが、なんらかの形での後遺症に繋がるリスクは常に存在します。例をあげると、Pandemrixの場合の(新型インフルエンザH1N1ワクチン)ナルコレプシー、、

豚インフルエンザワクチンですね。

トーマス・メルテンス  あるいは、ベクターワクチンの際の、TTSケースはあげられると思います。

TTSとは、血小板欠乏を伴う静脈洞血栓症ですね。

トーマス・メルテンス  そしてこの年齢層では、安全面で評価すると、予防接種時のリスクが罹患時のリスクを上回る域に到達するのが早い、ということなのです。言うまでもないことですが、この点が明確であることが条件ですから、我々が消極的である理由もここにあります。アメリカでは200万人の子供の予防接種が行われているから、ということは論拠にはなりません。副作用などのデータも出ていませんし、予防接種後に何が起こる可能性があるか、という点が不確か過ぎます。統計的な数は、臨床試験の替わりとなるものではないのです。接種された子供の1,3%、これはたった1100人中の割合ですが、その割合で重度の副反応があった、と。このワクチンの子供への作用は強く、この1,3%を500万人の予防接種対象の子供に当てはめると、かなりの数の重度の急性ワクチン反応につながりダメージが出る可能性があります。このような点も決断の際に重要になってくるのです。

サンドラ・チーゼック  少し付け足しますが、この治験では1000人の子供達が治験対象となっていますが、接種後の観察期間が短く、全員を対象とはしていません。全体の60%からしかデータがとられていませんので、さらに少ない数です。このような規模では、稀に起こる副作用の把握は不可能です。アストラゼネカのワクチンでもわかったように、血栓症という稀な副作用がでてきましたが、これも治験時にはそこまできちんと調査することはできないのです。

反応度、つまり、どのくらいワクチンの反応があるか、という点に関しては、12歳〜15歳と16〜25歳での差はそこまでない、ということですが。

トーマス・メルテンス  それは正しいです。しかし、反応度はそれ以降の年齢層と比較すると高いのです。ですからこのワクチンが高反応である、ということは間違い無く、この場で言えることは、、実際に子供の予防接種に関しての推奨をする前に、確実にデータを集め多くの数値を分析する必要がある、ということを理解していただきたく思うのです。mRNAワクチンと心筋炎の相互関係もまだ明確になっていませんし、 兆し、という意味では大変ぎりぎりの域であることは間違いありません。後から、「健康体の子供達全員に予防接種をする、ということは子供達にとってはベストな決断ではなかったかもしれない 」と後悔する可能性があることは容易に想像できるシナリオなのです。この1100人の予防接種された子供達のデータからは、副作用が起こらない、ということも、この5%についても何も導き出すことはできません。この数は、この年齢層での安全性に関する判断をするには単純に少なすぎるのです。

先ほどの心筋炎の説明ですが、これは心臓の筋肉の炎症で、mRNAワクチン接種の際に特に若い男性にみられたものです。関連性についてはまだ詳しいことはわかっていません。先ほど、ギリギリの域、と仰いましたが、これは専門的にみて、ですね。ワクチンとの関係性があるかどうか、という兆しがある、という意味で。

トーマス・メルテンス そういうことです。

メルテンス先生、先ほど、後遺症について挙げられました。今、感染症への不安よりも、予測不可能なワクチンの後遺症への不安のほうが勝る人たちも多いと思うのですが、このCovid-19ワクチンに関しては、他のワクチンよりも注目度が高く議論もより多くされていることも確かです。ここでの疑問は、ワクチンとの関連性をみていく場合には、接種後2週間くらいのことを指し、何ヶ月も後のことは通常想定していません。しかし、子供の場合には実際にそのような長期間での副作用なども考えられるのでしょうか?

トーマス・メルテンス  これは子供だけに当てはまることではなく、正直なところ、大人のワクチンでも同様なのです。理論的な考察、可能なメカニズムからどのようなダメージが起こる可能性があるか、ということはわかっていますし、稀なことではあっても、何ヶ月も後に副作用が出る可能性もゼロではありません。これは特に子供だけの問題、というわけではなく、全体の問題でしょう。この点がはっきりしない今、やはり、子供に予防接種をする際には本当に必要であるのかどうか。ベネフィットがあるのかどうか、という点を明らかにしなければいけないのです。そして、子供のワクチン全般での責任問題、という論拠が発生します。

後遺症や後から発生する副作用についてもう一度お伺いしたいのですが、これはかなり不安を煽る内容だと思うのです。どのような原因が考えられるのでしょうか?基本的には、ワクチンとして身体に入ってくる成分はその後分解されます。これは医薬品のように効能成分が身体のなかに残るようにできているものとは異なると思うのですが、例えば、ワクチンによるスパイクタンパク質の形成がなんらかの反応を引き起こすなど、感染時に起こるようなことが考えられるのでしょうか?

トーマス・メルテンス  一般的な問いとしては、ワクチンが後になんらかの形で自己免疫反応を引き起こすことがあるかどうか、ということです。これは疾患的には勿論多様だと思います。これは実験や考察でも解明できることだとは思いますが、最終的には長期に渡る観察を経ないと明確にはわからないことです。 次に、ワクチンの長期的な影響としては、神経的な合併症が考えられます。これも場合によっては、自己免疫プロセスとも関係するでしょう。つまり、いくつもの小さな引き出しがあって、そこを覗いてみては、その都度特に重要な症状ではない、ということを確認する作業を地道に続けていかなければいけない、ということなのです。完全に安全だ、と断言はどちらにしてもできません。今、子供達に渡されようとしているのは、飴などではなく、医療行為なのですから、明確な指針がされなければいけない事です。

サンドラ・チーゼック  免疫機能について少し付け足したく思いますが、例えば、理論的には、先天性の疾患などが判明する、ということもあるのです。つまり、なんらかの先天的な自己免疫疾患を持っている人が、ワクチンを接種することで免疫反応が刺激されて発症してしまう。そのようなことは予測できないことです。幸いなことに頻度的には高くはありませんが、これはワクチン種類とは関係なくどのようなワクチンでも引き起こされる可能性はあります。

メルテンス先生、先ほど、神経的な合併症と自己免疫疾患と仰いましたが、これらの単語は感染時の症状としてもよく聞くものです。特に大人の場合ですが。ウィルスが引き起こす合併症です。可能性としては、アメリカからもっと多くのデータが入ってきたら、ワクチンについてや、子供のワクチン接種後の後遺症などのデータが十分に集まれば、子供の罹患リスク評価は変わらなくてもSTIKOのスタンスが変化する、ということは考えられますか?

トーマス・メルテンス  勿論です。STIKOによって今まで推奨されてきたことは、全てそのような基準で決められてきています。常に十分なデータを集め、調査し、分析した後に推奨を出すのが我々の仕事です。今後も引き続きそのようにしていきます。それが世間で時には、「STIKOは自分でも何がしたいのかわからない」と言われる原因になることも十分承知です。しかし、これは受け入れなければいけないことです。国民のなかには、残念ながら、、このような素敵なポッドキャストがあるのにも関わらず、、科学的な過程というものをあまり理解していない人も多いのも現実です。これが、ここ数ヶ月、去年からみせつけられてきた事実です。科学は常に最新のデータによって決まります。そして、そのデータをベースに最終的な決断をしていくしかないのです。それが推奨が時には変わっていく、という理由でもあります。別にSTIKOの意見が変わったから、というわけではないのです。

科学全般でそうですよね。

サンドラ・チーゼック  重要なのはデータそのものではなく、データの質です。つまり、それがどこかに書いてある内容と、高名な学術誌に掲載されている内容との違いです。そこの違いははっきりとさせなければいけません。

根本的に科学が新しい知見によって修正されていく、ということは、正しく理解をしたならば、頑なに変えない姿勢よりもずっとありがたいことだ、と思います。残念ながら理解されないことも多いのですが。 過去にもSTIKOの推奨が改正されたことがあります。例えば子供へのロタウィルスワクチンが激しい下痢疾患を引き起こすことがありますが、この疾患はCovid-19とは違いかなり頻繁に激しい症状がでます。そのワクチンではこの場合は腸が巻き込まれる、という副作用がでていますが、これはどのような判断だったのでしょうか?ご説明いただけますか?

トーマス・メルテンス  勿論、これは大きな問題でした。状況としては、ロタウィルスから引き起こされる小児の胃腸炎は、ドイツ国内である一定の年齢層ではかなりの頻度で入院ケースがでる疾患です。それによる子供とその家族の疾病負荷が大変高かった。次のポイントは、予防接種後に十分なケアがされれば、腸重積症、先ほど挙げられた疾患症状ですね、それが起こる頻度は低い。完全に起こらないわけではありませんが。ちなみに、自然感染後にもケアをすれば何かひどいことがおこることもありません。この腸重積症のリスクというものがロタウィルスの予防接種の場合でも検討されたのです。最終的には、リスクベネフィット分析の結果、ワクチンのベネフィットのほうが高い、という決断を下しました。

リスクを最小限に抑えるために、接種期間というものが限定されています。年齢の制限ですよね?

トーマス・メルテンス  そうです。年齢制限と、予防接種後の監視ケアです。監視ケアとは何か、というと、、子供達に何か異変があれば、例えば、腹部の痛みであるとか、稀な症状が出た場合に迅速に受診をする、ということです。年齢を制限することでリスクは最小限に抑えられますから、重度の副作用が起こることは、ほとんどゼロに近いです。

メルテンス先生、最後に、今後の秋に向かっての展開についてお伺いします。これからの展開に関してはまだはっきりしないことも多いと思いますが、ドロステン先生をはじめとする専門家は、「大人が予防接種を受けない、という選択をしたならば、それはいつか感染をする、ということを選択したことに等しい」と言っています。この点での子供の疫学的な重要性については何度も議論をしてきました。 つまり、子供達の全体を守る集団免疫という意味合いでの役割はどうなのでしょうか? 子供達の個人個人のリスクプロフィールをみながら判断すると、前面には来ないと思うのですが、秋には状況が変わってくる、ということはあるのでしょうか?変異株もありますし、その点での圧もでてくるでしょう。ウィルスにとって、唯一の宿主が子供達になってきた場合、淘汰圧も発生し、子供の間で感染しやすいウィルスが出てきたり免疫回避なども起こる可能性もありますよね?

トーマス・メルテンス  私が考える点はいくつかありますが。まずこの点をはっきりさせておきたいのですが、予防接種が検討されているのは、12〜15歳です。ですから、この予防接種を学校の再開と結びつけることにはあまり意味がありません。というのも、12歳以下の小学生はワクチンでの保護がないわけです。ですから、このようなことを論拠とすることは間違いだと思います。STIKOをはじめとする、、理性のある人々であれば、この子供達が普通に生活することができるように予防接種をするんだ、というような表現の仕方が全く見当違いであることを理解するでしょう。 さて、パンデミック対策に関してですが、勿論、これに関しての数学的なモデリングはされています。ワクチンの重要性などですが、もし、今、子供の予防接種を推奨し、何割かの子供にワクチンを打ったとします。何が起こると思いますか? 感染は起きます。この事実を無視するわけにはいきません。想定されることです。しかし、入院率など、これは子供だけではなく全体のですが、致死率、死亡数を、大人の予防接種とハイリスクの子供達で比較しなければいけません。ここで出る差、というものは、発生指数には関係なくごくわずかである、ということ。つまり、モデルの試算で出てくる差というものはほとんどありません。 これが何を意味しているかというと、子供を予防接種することによる疫学的効果を過大評価するべきではない、ということです。しかも、この年齢層の幅も狭いものです。それに加え、もし、疫学的な効果を求めて子供達の予防接種をするとすれば。現時点のシチュエーション的には、子供達に与えられるワクチンは40代や50代の人の分だということです。この点の誤情報は先日首相によって訂正されましたが、つまり、最終的には、先ほども言ったような条件を全て理解した上で子供に優先的に予防接種をするのか。それとも、罹患するとリスクが高く感染伝播も同じようにする40代、50代にワクチンを打つのか。その決断をしなければいけないのです。様々な巷で言われている論拠はそのような視点からみると全て説得力に欠ける、というのが私の見解です。

40代、50代といえば、この子供達の親にあたる世代ですよね。子供から感染して重症化する可能性もある年齢層です。

トーマス・メルテンス  そうなのです。ですから、この今突然盛り上がっている「子供達のためのワクチンを確保しよう!」などという大規模な学校ワクチンキャンペーンには意味がないのです。ロジスティックにおいても困難ですし、ポジティブな効果は望めない、というのが私の見解です。少し考えれば、誰もが同じような結論に達するでしょう。

もう一度お聞きしますが、先ほど、疫学的な感染対策的には、この年齢層の役割は、年齢層の幅も広くない、ということもあってそこまで大きくはない、という事でした。これはウィルスの進化的な変化におけても同様だということになるのでしょうか?

トーマス・メルテンス  変異株、というのは、全く別問題だ、と始めから言っておきます。実際に免疫回避型変異株が入ってきたとしたら、これは全ての分野においてもう一度考え直さなければいけません。その時点で必要になるのは、修正されたワクチンです。この点がどの程度12〜15歳の予防接種に対する論拠となるのか、という意味では私が個人的に言えることはありません。

最後になりますが、メルテンス先生、他のワクチンが使えるようになると状況は変わってくるのでしょうか?例えば、ノババックスなどは進行具合によっては来年の初めには使えるようになるかもしれません。タンパク質ベースのワクチンで、今までにも多く使用されてきたワクチンタイプで経験値が高いものです。このタイプだと子供へのリスクも低いかもしれませんよね。

トーマス・メルテンス  そうですね。ノババックスのようなタイプのワクチンには私は大きな期待を寄せています。多くの人々がそうでしょう。しかし、ここで言っておかなければいけないことは、まだ議論されなければいけない点がある、ということです。SARS-CoV-2に対しては、効果が高い生ワクチンも良い選択肢ではないか、ということです。アメリカでは、少なくとも始めの治験が生ワクチンで始まっています。新しいコンセプト、ということを検討する際には、勿論、ペプチドワクチンを挙げることができると思いますが、生ワクチン、という可能性も外すことはできません。

ということは、今後もSTIKOで話し合われなければいけないテーマはたくさんある、ということですね。まずは、始めの決断が下されると思うのですが、先生の立ち位置は明確に示していただきました。STIKOから発表があるのはいつくらいなのでしょうか?

トーマス・メルテンス  来週の月曜日には声明を出せれば、と思っています。声明手続きというものは、基本的には非公開のものです。しかし、大勢の手に渡るので情報を非公開のままにするのは不可能ですから、このまま上手く進めば月曜日にでも発表するまでにこぎつけるのではないか、と思っています。正式には、それから2〜3日後かかりますが、これは内容をもう一度議論しなければいけないからで、とにかく徹底的に議論されます。しかし、ご存知のように、非公開で何かを進める、ということは今現在ほとんど不可能なのです。

メルテンス先生、今日はお時間をいただきありがとうございました。この後はもう少しチーゼック先生にお話しを伺います。

サンドラ・チーゼック  私からも感謝の意を表します。

チーゼック先生、大変難しい決断だ、ということはわかりました。STIKOから決断が下されますが、私たちはそれをどう受け止めれば良いのでしょうか?どちらにしても、子供を持つ親としては、各自が一人一人もう一度考える必要はあると思います。先生も個人的に友人、同僚、知人などから、子供への予防接種についての相談を受けることはあるのでしょうか?

世間の意見、というものもあると思います。私も無関係というわけではないですが、個人的には、いまのところは少し距離を置いて外から傍観者としてみている、という感じでしょうか。私にとっても大変分極している問題です。賛成派と反対派の両方の論拠も理解できます。どちらにしても、闘病中や基礎疾患を持つ子供に対しての予防接種に関しては意見は一致していると思います。しかし、子供全般での予防接種に案しては、どちらの意見も尤もだと思うのです。 重要なのは、お互いに責めてはいけない、ということ。SNSなどでは、相手を攻撃するようなことがよくみられますが、これは、その家庭が各自でそれぞれ決めていかなければいけないことであって、状況は多様であるわけですから個人の事情同士を比べることはできないのです。予防接種をするか、しないかで、プレッシャーを感じたり、罪悪感を持ったり、ということはあってはなりません。これがエスカレートしないことを望みます。誰の得にもなりませんから。そうであってほしいです。 先ほども言いましたが、私自身もまだはっきりと意見が定まっていません。もう少し様子をみようと思っています。今のところ、12歳以上の子供が対象ですので個人的には今決断をしなければいけない、ということではありませんが、それでもアメリカやイスラエルでどのように進んでいくか、は注意深くみていきたいと思っています。そのような国での子供のワクチンに対する経験値とそれに伴う意見の変化です。私は個人的にはプレッシャーは感じていません。現時点では発生指数も低いですし、大人の予防接種も進んでいます。大変よい進歩です。自分自身で自分と自分の家族のために納得のいく結果が導き出されるまでもう少し時間をとりたく思うのです。どうお考えですか?

私の場合は先生とは少し事情が違って、3人の息子のうちの一人が12歳なので、対象なのです。息子が言うには、学校でのマスクなどの規制などが面倒なのでさっさと予防接種をしてしまいたい、と。いつ出来るのか、と聞いてきます。 とはいっても、私も今の状況は比較的落ち着いていると感じていますし、50代が集中治療にかかっているうちは、その世代の予防接種を優先するべきだと思いますし、先ほども仰っていたようにもっとデータが揃ってきてから考えても遅くない、と思っています。 ドイツ的には、子供達にリスク因子がない、ということは大変ありがたいシチュエーションです。気になったことは、先ほど、メルテンス先生が仰っていたように、責任のなすりあいをする状況が困難に思います。というのも、予防接種義務についても騒がれていますが、政治側からははっきりと義務は発生しない、とされていますから、議論をする余地はないと思いますし、無駄に不安を煽るだけでしょう。私はそう感じるのですが、先生はどう思われますか?

私もそう思います。先ほども言ったように、これは個人がそれぞれに決めることです。義務などというものはありませんし、たとえSTIKOが推奨しない、といったとしても、自分の子供に予防接種をしたい、という場合にはそれが可能なわけです。ですから、この時には大変攻撃的な議論は必要ないものであって、時間とエネルギーの無駄だ、と感じます。私はもっと合理的な視点を望みます。家族の事情的に、深刻に考えて決断しなければいけないケースもあるでしょう。その反対に、全くリスク因子がなく周りの発生指数も低い場合には今すぐにワクチンを打たなければいけない、ということでもないのです。

リスク因子というテーマに関しては、もう少し詳細をみたほうが良いと思われますか?例えば、大人のリスク因子には、肥満が重症化に繋がる重要な因子である、ことがわかっています。子供の場合はあまりその点でははっきりしませんよね?

いや、そうではありません。私が知る限りでは、、資料が今手元にはありませんが、、ニューヨークでの子供のリスク因子のデータがあったはすです。そこでは、子供の重症化のリスクでも、肥満が入っています。このリスクが高いと思われます。詳細は今思い出せませんが、子供のリスク因子である、ということは覚えています。

定性的には言えなくても、少なくとも定量的には言えるかもしれませんね。パンデミック渦で太ってしまった子供達へのモチベーション的にも。

母親や父親が抗がん治療を受けていたりして、家族全体がストレス状況にいる、親や兄弟の闘病で疲れている、という相談をうけます。このようなシチュエーションでは、普通に生活するのは困難で感染の恐怖が大きいですしリスク因子もあります。そのような場合には、子供達の予防接種をすることで、少し安心できるのではないかと思うのです。そのような家族へは、激しい意見などの風当たりも強いでしょう。これが、私が何度も、「個人の自由な決断である」と言う理由です。予防接種を打っても打たなくても、罪悪感を持たせるような流れになってはいけないのです。

年齢制限はどのくらいの意味を持つのでしょうか?今のところ、データ的に12歳以上、ということですが、それ以下の子供での治験もされているところです。データももう少しで出てくるのではないか、と思われますが、医薬品には年齢別に服用量が定められています。医薬品が承認される際に決められるものです。2歳以下、6歳以下、12歳以下、そして12歳以上では大人と同じ量、ということが多いです。先生は小児科の専門ではありませんが、ワクチンでも年齢での違いは重要なのでしょうか?

知っている範囲でお話ししますが、受動免疫法というものがあります。 これは、免疫グロブリン、つまり抗体で、それを与える場合には、体重で調整します。医薬品の量も多く場合には体重で決められます。体重が重いほど量も多い、ということになりますが、ワクチンの場合はそうではありません。ワクチンは年齢で承認されいて、開発パラメータや体重で決められているわけではないのです。これは、私の知る限りでは、年齢と共に成熟していく免疫システムの免疫反応によるものだ、ということです。これは年齢で異なり、体重よりも重要な点なのでしょう。例として、500g、600g、700gしかない未熟児をあげるとすれば、この場合もワクチンは通常の新生児、3kg、4kgと同じ量です。ここでも成長過程で判断され、体重ではありません。ワクチンではそのように決められることが多いです。

ということは、リスナーから寄せられていた質問に「私の12歳の子供は、他の子供に比べると小さくて細いから大丈夫なのだろうか」というものもあるのですが、これは問題ない、ということですね?

問題ありません。それが疾患などが原因ではなく、単に華奢な子供である場合には免疫的には他の12歳児との違いはないとみて良いでしょう。勿論、承認治験でどのようなデータが出ているのか、というところも見なければいけませんが、ここでも年齢別に分けれた治験者でのデータがとられて、12歳児でのマッチングもみな同じ体重ではなくまちまちです。どちらにせよ、病的なものではない限り、成長の遅れなどの心配はしなくても良いでしょう。

年齢別のマッチング、ということはプラセボグループとワクチングループでの比較、ということですね。

そうです。

先ほど、承認治験が出ましたが、メルテンス先生も仰っていたように、バイオンテックとファイザーは査読された論文を提出しています。数週間前に行われた記者会見ではまだ詳細はありませんでした。この論文をみるかぎり、何か気になる点などはありましたか?

この論文は、ニュー・イングランド・ジャーナル・オブ・メディシンに掲載されましたが、この学術誌は世界的に高名な学術誌です。ここでは12〜15歳に通常のバイオンテックのワクチン接種量が使われていますので、30マイクログラムです。半分とか調整された量ではありません。接種間隔も21日、と大人の場合と同じです。1100人の子供、青少年が対象となっています。全てアメリカで行われています。接種後の免疫原性が調査され、その安全性と16〜25歳のグループとの比較がされています。 このグループはアメリカだけではなく、ドイツを含め、世界中、アルゼンチン、ブラジル、トルコと南アフリカからですから、あまり均一とは言えません。ただ、中和抗体の比較の際には、アメリカのグループでされていますのでこちらのほうの比較は問題ないでしょう。安全性は比較的短い期間で観察され、ほとんどの場合は2回目の接種後の1ヶ月間です。ここでは青少年には7日間の電子日記をつけてもらって、副反応や副作用の記録がとられています。勿論、重度の症状の場合は受診、別に登録されていますが、結果がどうだったか、というと、ワクチン接種後の症状としては、16〜25歳のグループとほとんど違いはみられなく、頻度が一番多かったのは、接種部の痛みです。79%、年齢が低いグループで86%ですが、これをプレセボグループと比較してみると、プラセボでは生理食塩水が打たれたのにも関わらず、ここでも18〜23%が接種部の痛みを訴えています。倦怠感が60〜66%、生理食塩水を打ったプラセボグループでも25〜41%が同じように倦怠感を訴えています。 ここからもわかるように、常に客観的な見方はできない、ということです。本当であれば、生理食塩水を上腕に打たれても倦怠感が出たり頭痛がするわけがないのですが、ここではかなり頻繁に起こっています。1名の子供に激しい反応がみられ、40度の熱が出ています。ちなみに、この子供には2回目の接種はされていません。中和抗体の比較グループ190名と治験者170名での比較では、若いグループのほうが倍の中和抗体をつくっていることが確認されました。とても良い反応が起こった、ということです。次に効果率も調べられましたが、ここでは100%、という結果がでています。これは何かというと、2回目の接種後7日目からの罹患率です。予防接種されたグループでは0名、生理食塩水のグループでは16名でした。

ここでは有症状の感染、ということですよね。

そうです。ここが問題です。私がこの試験であまりよくない、と思う点は、子供達が症状が出た場合のみ検査されている、というところです。その際にはPCRで検査されています。ですから、この試験の結果からは、ワクチンが有症状感染からの保護効果は持つ、ということは言えますが、子供はそもそも症状があまりでないものです。残念ながら予防接種後の無症状の感染はここでは調査されていません。ここの調査がされていない、ということはこの治験の大変大きな弱点だと思います。

これは、通常であれば、Long Covidや小児多臓器炎症症候群PIMSに対するリスク評価の面でも重要な論拠になるところですよね。なぜされなかったのか、ということはわかっているのでしょうか? 大人の治験で4万人のPCRをしない、というのはコスト面でも理解できますが、このような1000人規模の試験ではよくわかりません。

良い質問ですね。PIMS問題に対しての評価でもこの点は重要です。まずは、1ヶ月の監視期間はPIMSを考慮すると勿論短すぎますし、このポッドキャストでも話したことがありますが、PIMSは無症状感染の後でも発症することがあるのです。子供達の多くは感染をしていたことすら自覚していませんでした。PIMSに発展してから、つまり、この典型的な病像が出てからSARS-CoV-2の抗体検査をして感染が発覚する、というパターンです。 この試験からはこの問題は解決しません。なぜされなかったのか、というところは不明です。これは試験デザインに関わることなので、つまりデザインが決められて、それが倫理委員会、その他の機関に提出されるのですが、単純にこの点の考慮がされなかった、という可能性もありますし、倫理委員会が、「子供達が無症状であれば不必要な検査は必要ない」と言った場合もあるでしょうし、検査はそういう意味では多かれ少なかれ介入ですからストレスの原因にもなると思います。そのような理由から、症状が出ていた場合のみの検査、ということになったのかもしれませんが、その可能性はあるでしょう。私には本当の理由はわかりません。

PIMSですが、メルテンス先生とも少しお話ししたように、今の所不確定要素がかなり多いです。理論的には可能性はある、とお考えでしょうか? これもワクチンが原因で起こる可能性がある、トリガーとなる可能性はあるかもしれない、ということに関してはまだ未解決なのでしょうか。

その点に関してはわかりません。PIMSがどのように引き起こされるのか、という点はまだわからないことが多いのです。遺伝子的な素因もあるようですが、どちらにしても、PIMSのメカニズムをもっと解明しなければいけません。起こらない、と言う保証はありませんので。

起こらない、と言う保証がない、と慎重に言うならば、その反対に、起こる、という証拠もない、ということでしょうか。

そう言うことになりますね。アメリカでの青少年の予防接種の際にはPIMSが起こる、という兆しは見られませんでした。しかし、理論的には勿論、そうである可能性はありますから、データが揃わないうちには、そうではない、と言い切ることはできません。

アメリカについてですが、、心筋炎については取り上げました。これは若年層におけるワクチンの副作用として今疑いがかけられているものです。それでもCDCは、子供へのワクチンを引き続き推奨していますよね?

そうですね。以前の回でイスラエルからの心筋炎についての報告は取り上げたことがありますし、病像については少しご説明しました。5月27日にCDCが声明を出し、1億6500万人が少なくともCovid-19のワクチンを接種している、とのことです。2021年の4月から、ワクチン有害事象報告制度に心臓の炎症が数多く報告されるようになりました。ここでは心筋炎だけではなく、つまり心臓の筋肉ですね、心膜炎、心臓の心膜の炎症も含まれ、これらはmRNAワクチンの接種後に発生している、と。バイオンテックファイザー、モデルナの両方で起こっていますのでその間の違いはありません。イスラエルではモデルナは使われていませんのでファイザーだけです。 特に、若年層でのケースが目立ちますが、幸いなことに、比較的はやく回復が見られ治療薬の効果でています。大多数は男性で、16歳以上です。この16歳以上、という年齢制限は、この時点ではまだ16以下の予防接種はされていなかったからなので、これ以上のことはわかりません。ほとんどのケースが2回目の接種後で、数日以内です。それでも、CDCはワクチンのベンフィットのほうがリスクよりも大きいとしています。それでも、今後も注意深く観察していかなければいけないことは明らかですし、どうしてそのようなことが起こるのか。原因をつきとめ、リスクの条件がある可能性もみていく必要があります。このような場合には、常にある一定の年齢層ではリスクベネフィットのバランスが変わってくることがありますから検討はされなければいけませんが、まだはっきりとした判断をするには早すぎます。

子供や青少年の場合には、2回目の接種はまだまだ先の話になります。アメリカの接種速度でも、です。秋に向けて見ていく際に、子供に関する論拠はたくさんあり、予防接種によって授業の安全性を高める、というのもその一つで議論がされているところです。先生はどのようにお考えでしょうか?そして、変異株による第4波の可能性はどうでしょうか? 子供達に予防接種をしない、ということになれば、どのように守っていけば良いのでしょうか?

それを予測するのは困難です。勿論これは大人の予防接種率にも関係することです。イスラエルのような比較してもずっと先を行く国をみてみても、子供の予防接種がされていないのにも関わらず、発生指数は10万人あたり2人くらいです。イスラエルには、大勢の子供と青少年がいるのにも関わらず、です。今の状態がどれだけ続くか、ということはわかりませんし、これが数週間、数ヶ月なのか。それは誰にも予測ができないことです。 2つ目のファクターは、勿論、変異株が発生することによって全ての状況が変わってしまう、ということは常に起こる可能性がある、ということです。つまり、免疫回避が問題になる、ということですが、この2つのファクターがはっきりしない今、なんらかの判断をするのは困難です。ただはっきりしていることは、夏に何もしないでボーっとすることは許されないことであること、比較的落ち着いている夏を準備に使う、秋から冬にかけてまた流行の波が来る可能性がある、という状況に万全に備えることが必要である、と考えます。 勿論、学校や保育施設は中心となる領域です。まず、子供の教育や育成は大変重要であるのに加え、人が密になる場所であること。そして、秋、冬の段階では予防接種が可能ではない、ということが挙げられます。ですから、私からの助言としては、どちらにしても良いコンセプトを用意していつスタートしても困らないようにしておくことです。

多くの人が政治が能率が悪い、と感じています。例えば、学校内の空気洗浄機、HEPAフィルターなどですが、とりあえず、マスクやラピッドテストを持続させる、ということが重要かもしれません。子供達は嫌がるかもしれませんが。CDCからのデータでも効果の増加に関するデータも出ていますよね。

そうです。ここ2週間でCDCから2つの論文が発表されました。学校とその対策についてですが、両方ともかなり興味深い内容です。そこまで完璧に現実を反映していなくても、ドイツに一対一に置き換えることができなかったとしても大変興味深い点はいくつもありますし、参考にすることができるでしょう。まずは、ユタの論文からはじめます。これは、学校を重要とみなしそれを持続していくにはどうすればよいのか、という検証です。2つの対策の比較が行われています。1つ目の対策は、Test to play対策です。ここでは、放課後に何か活動があれば2週間ごとに抗原ラピッドテストをすることにしています。期間は2020年の11月から2021年の3月までです。冬季、ということです。例えば、学校の冬の運動会などに参加したければテストをします。2つ目の対策は、Test to stayで、こちらは、学校全体で対面授業をする場合には全員テストをする、というものです。Test to playには、127校が、Test to stayには13校が参加しています。これはユタ州での自主的な試験でしたので、この対策をしていない、参加していない学校との比較がよくできています。Test to play対策を実施した場合、95%の計画されていた冬季のスポーツ行事を開催することができ、Test to stay対策を実施した場合には、109000日、生徒のための授業日数を無事に確保することができています。Test to stayで特記するべき点は、集団感染への対策も取られていた、というところで、感染数の増加や定められた閾値を超えた場合には、学校全体のテストが行われました。全体的には両方のテスト対策に関するCDCの評価は高く、勿論、抗原テストなんかよりも、PCRをしたほうが良い、という人もいるでしょう。その点の議論の余地はありますし、勿論PCRのほうが感度が良いに決まっています。しかし、単純に抗原テストのほうがはやく、そしてコストも低いのです。ドイツでは現在1週間に2回、生徒全員のテストを行っていますから、この2週間に1回との比較はできないでしょう。しかし、それでも効果がでているのです。 この点はもう一度強調すべきところで、今現在の対策は、現時点でのシチュエーション、感染者がいて、予防接種も全員されていない、特にまだ教師も100%終わっていない時点で、大変効果があるものだ、ということです。今後のことを考える際に、秋、冬、そして来年はどうなるのか。このまま、生徒を週に2回テストし続けるのか。この点を検討する際には、このアメリカで行われた試験が2週間に1回でもこれだけの効果をだした、ということは大変興味深いことなのです。ただ、このユタ州での試験では、マスク、距離対策などは入っていない、ということで、その影響はわかりません。

PCRが先ほどでましたが、チーゼック先生、大人の大部分の予防接種が終わったら、そこまでPCR検査をしなくてもよくなるかもしれませんよね。そうなれば、別のところに投資できる、というか、例えば、学校でのテストをPCRにするとか、プールテストにするとか、そのようなことは可能でしょうか?PCRの結果が出るまでに数日かかり、ロジスティックの問題がありますが。

勿論それは可能だと思います。交代で使う、とこともできると思います。週に1回抗原ラピッドテストをして、もう1回はPCRプールテスト、など。技術的には可能です。どちらにしても、何らかの対策を秋、冬に向けて打ち出していかなければいけないと思います。何も準備をしないで秋、冬に突入することだけは避けたいのです。どのような対策が適切であるか、という点を検討する際に他の国の経験を参考にすることは間違っていません。

他の対策に関しては、ジョージアで行われた分析があって、ここでは1つずつの対策の評価こそされてはいませんが、少なくとも、マスク、机の上のシールド、距離、などの対策が学校でどのくらいの効果を出すのか、というデータが出されています。ここで想定外だったものはありますか?

あります。このジョージアの論文は、予防接種が始まる前のものです。ですから、データは予防接種をされていない人が対象のものです。ここでは、169の学校、年齢的には幼稚園から5年生まで、です。どのような対策がどのような効果を出すのか。対策は部分的には自主的なもの、部分的には義務でした。学校ごとに決められることができたので、学校間の比較が良く出来る状況になっています。たとえば、教師にはマスクの着用の義務が課せられましたが、その結果37%の感染削減が記録されています。校内の換気の改善を行った学校では39%の削減がみられています。換気の種類でも分類されていて、換気だけを行った場合には、35%の削減、HEPAフィルターなどの特殊な洗浄装置を使った場合には、48%の削減がみられました。ここからも、このような対策は効果がある、ということは明らかです。ですから、夏の間に、学校内の換気、空調システムの改善をするべきです。特に秋、冬に何があるか予測的ないわけですから、準備は万端にしなければいけないのです。この論文からも、換気とHEPAフィルターなどを使った空調システムが、生徒の感染状況に影響を与える、ということがわかるからです。

連邦はそのための予算を組みました。つい最近、首相が発表しましたので、かなり長くかかりましたが。もう一度、このジョージアのデータですが、そこに机の上のシールド、つまりアクリル版ですが、これは対面授業に切り替わる際には重要になってくると思うのですが。

そうですね。机の距離を1m離すか、アクリル版か、というところでの比較もされています。ここでは、ほとんど感染率に対する影響がないことがわかりました。これも、ウィルスが空気中を漂う、エアロゾルでひろがる、ということを考慮すればこれも納得です。それよりも、ただ換気するだけではなく、扇風機などで空気の流れをつくる、というほうが効果がありました。これも、ウィルスの性質を考えると当たり前のことだと思いますし、そのように実行していくべきだと思います。

ということは、学校ではできるだけ多くの対策をコンビネーションするべきだ、ということですよね。

そうです。賢くコンビネーションして、できるだけ子供達の負担が大きくならないようにするべきだと思います。授業の妨げになっても困りますし、安全性を重視して、学校を閉鎖させることなく授業を続行できるようにしなければいけません。

チーゼック先生、ワクチン、というテーマについて、異種接種についての質問がまだまだ寄せられます。2回目の接種の予定日がせまっている人も多いので、不安になるのも無理はないと思います。特に、1回目をアストラゼネカで接種したけれど、2回目の接種には年齢的に対象外になってしまう人たちです。2週間前にイギリスの論文についてお話しいただきました。ここでは、異種接種、つまり、1回目をアストラゼネカ、2回目にバイオンテックワクチンを接種する、というのものです。今、適合性に対するデータがあがってきました。副反応的には少し強いものの、適合性はかなり良い、と。そして、シャリテの2つ目の論文がでましたが、これは、接種間隔を長くした場合の効果についての内容です。ワクチン反応の面ではメリットがある、ということですよね?

そうです。これはベルリンのプレプリントですが、保健機関のスタッフ300名での調査です。年齢的にも、Com-Cov試験よりも若く平均年齢が34歳、Com-Cov試験は57歳でした。年齢的にもワクチン反応が高いと予測すると思うのですが、そうではありませんでした。というのも、ここでは接種間隔を変えていて、4週間の代わりに12週間で接種していますが、これによって局部の反応がバイオンテックファイザーのみを接種した場合とほとんど違いがみられません。

全身反応や重度の反応もありませんでしたよね?つまり、アストラゼネカを2回打った場合にみられるような。それが、混ぜると少なくなる、と。

そういうことです。他にも、アストラゼネカの接種の際にみられたような全身反応は、バイオンテックワクチンのみ、もしくは、異種ワクチン、アストラゼネカとバイオンテックの場合での頻度が減っています。

つまり、倦怠感、頭痛、熱など、ですね。いままではっきりしなかったのは、効果の面での評価です。つまり、異種ワクチン後の免疫反応は十台にどうなのか、というところですが、まだ不明な点もあります。スペインからのデータが少しありますが、これはまだ論文としてではなく、スペインの研究機関、カルロス3世保健研究所の会見のみでの発表ですが、異種ワクチン後の抗体形成の比較を、1回目のみの接種のグループとしています。3分の2が、1回目にアストラ、2回目にバイオンテック、3分の1が1回の接種のみの比較グループです。結果は良いものだったのですよね?

そうです。この試験の平均年齢は44歳、比較的若い年齢層です。接種間隔は、最低限でも8週間ですから、イギリスのCom-Cov試験よりも長いです。ここでは、1回のワクチン接種と、2回目をコミナティで接種した場合との日かlassen. がされていて、その後14日目に中和抗体と抗体の検査がされています。比較グループ、2回目の接種がされていないグループでは、抗体レベルは大体同じくらいでしたが、2回目のバイオンテックを打ったグループにおいては、ファクター150の増加がみられています。さらに、抗体の中和力もファクター7アップしています。細胞免疫応答はまだ発表されていませんが、これも後日付け加えられるようです。反応的にも重度の反応はなかった、ということで、頻度的には局部の反応が一番多く、典型的な頭痛、倦怠感、悪寒など、発熱は2,5%でした。

これは、2回ともバイオンテックを接種したグループとの比較ではありませんよね。抗体力価において基本的な事をお伺いしますが、絶対的な抗体反応数があるとして、基準値というものは存在するのでしょうか?つまり、研究者として医師として、このくらいの抗体数があれば保護効果がある、というような数値をご存知でしょうか?例えば、回復者が追加ワクチンの検討をした場合に、医師から、「抗体数は十分にありますからしなくても大丈夫ですよ」など。そもそも、抗体が十分にある、というのはどのような状態なのでしょうか?

誰かから聞かれたら、私は常に、「番地を測るようなものだ」と答えています。まあ、そこまで酷くはありませんが、免疫との相互関係にある数値、というものはまだはっきりとわかっていません。多いか少ないか、ということは、いままでしてきた検査の経験からあげることはできますが、どのくらいが免疫に重要なのか、という点ではわかりません。数値にもかなりのばらつきがありますし、どの会社のどの製品を使って検査するかによっても単位が違います。ですから、抗体が有無以外の評価は難しいのです。どのくらいが、Cut-offか、つまり、どこからが陽性反応がでるのか、ということに関しては言えますが、それが何を意味するのか、というのははっきりしません。

ワクチン反応について様々な関係性でみてきましたが、アストラゼネカの1回目にかなり激しいワクチン反応がある、ということはわかっています。特に若年層ではそうです。そして、mRNAワクチンでは2回目のほうがひどいようです。アストラゼネカはベクターワクチンですが、この激しい反応はどこからくるのか。それについて、ウルム大学の研究チームが調査をした結果を発表しました。この論文についてはもうすでにリスナーからの質問をいただいています。これはプレプリントですが、ワクチンの不純物についての内容ですが、簡単に言うと、入っていてはいけないタンパク質の破片が混入している、ということのようです。それをウルムの研究チームがみつけだしました。チーゼック先生、不純物、というと、何やら大変なことのように聞こえますが、そこまで恐ろしいことはないのですよね?

そうです。これはとても注目されているテーマですので、研究者的にはその原因をつきとめたい、というモチベーションがあるのは当然です。そして、多くの研究者には、アストラゼネカの接種をした人も勿論いますから、当事者としてその原因を追求して明らかにしたい、と思うでしょう。そして、このような結果が、専門業界が評価する前に、素人によって公に議論される、という現象が起こるのを何度も目にしています。特に、論文の解釈自体がとても強い主張を持っている場合は、そうすることによって学術誌の興味を引こうとしたり、レビュー過程にこぎつけようとしたり、、ネイチャーやサイエンスのなどですね、、そのようなところの注目を得ようとする場合が多いです。 その後で公開したバージョンをみると、そこまでの所見に対する主張はされていなかったり調整されていたりしますから、そのようなことが今回のアストラゼネカにも言えるのではないかと思うのです。このプレプリントから何かを導き出すことは困難に感じます。「アストラゼネカを半分にしたら全てが解決する」などというわけには勿論いきませんので。 ワクチンを変えるのであれば、まずは新しい承認治験をしなければいけませんし、その結果、変更した内容でもワクチン応答が同じように起こり、保護効果が認められる事を証明する必要があります。つまり、そこまで簡単なことではない、ということです。3つ目には、このような研究チームにウィルス学者が入っていない場合もある、ということ。あるいは、ベクターワクチンの専門家が関わっていない。それによって、100%の正確さでの判断がされずに間違った結論に導かれることっもあるのです。 ウルムのプレプリントでは、3バッチ分のアストラゼネカのワクチンが生物化学的に調査されていますが、ウィルス学的ではありません。ですから、どのようなことが行われたか、というのも私の専門分野ではないので、調査手段的にどの程度適しているのか、という評価もできません。しかし、このバッチの分析を純粋なベクターと比較すると、バッチのなかにタンパク質の一部、そのほとんどが熱ショックタンパク質でした。熱ショックタンパク質は、タンパク質のフォールディングの際と、二次構成の維持に不可欠なものですが、例えば、高熱がでたり、極限状態でも発現します。ここから、これが不純物である、と判断され重度の副作用を引き起こす、と。言っておかなければいけないことは、このワクチンウィルスの製造方法においては、細胞株を使って増殖されるということです。つまり、多くのワクチンウィルスを作るために人間の細胞株を使います。 ウィルスはそのままでは増殖することができませんから、人間や細胞を必要とします。多くの細胞のなかに熱ショックタンパク質があれば、それがワクチンのなかに入っていたとしても驚くべきことではありません。このワクチンは細胞での増殖後にもう一度精製されます。ここで、そうですね、言ってみれば妥協しなければいけないラインがあるのです。というのも、ここで100%精製してしまうと、全て除去してしまうことになりますのでワクチンではなくなってしまいます。この過程でウィルスタンパク質も除去することになりますが、異種タンパク質も若干許容することになるのです。例えば、95とか99&の純度、といったようにです。多少の異種タンパク質が含まれるのは普通のことです。勿論、そのことは監視機関もわかっていますし、製造会社もどのような製造過程であるか、ということを掲示する義務がありますから、今、ワクチン内でみつかったタンパク質が、血小板第4因子との関連性において、、

脳静脈洞血栓症との関連ですね

そうです。この脳静脈洞血栓症のメカニズムにどの程度関係があるのか、ということはわからないのです。まず初めの疑問は、もし、全てのワクチンに含まれる成分であるのであれば、どうしてこんなに発症する頻度が低いのか。つまり、これが原因で起こる、というのは説得力がありません。もしそうであれば、もっと頻繁に起こっているはずです。それと、どうしてこれが脳静脈洞での血栓症につながって、別の血栓症、例えば深部静脈血栓症にはならないのか。その点の説明もされていません。私が非常に残念に思うのは、このような情報が世間の不安を煽り、「アストラゼネカは汚染されている」という印象を残す、ということです。 勿論、これは重要なデータであって重要な知見でしょう。専門業界にとっても、製造会社にとっても製造過程、精製過程などの改善するにあたって重要なデータであることは間違いありません。しかし、一般人は、この情報を正しく理解することは困難なので、単に、「汚染されてるんだ」ということしか頭に残らないのです。 別の例を出すと、インフルエンザのワクチンは、鶏卵でつくられます。ですから、例えば、卵白アレルギーの人にはワクチン接種できません。接種の前に卵白アレルギーがあるかどうか確認もされます。これも精製過程が100%ではないために常に鶏卵のタンパク質がワクチンのなかに残るからなのです。 そのようなアレルギーのある人たちは別のワクチンを接種することになりますが、そのようなワクチンは細胞培養でつくられます。つまり、異種タンパク質がワクチンに入っている、ということ自体は特に特別なことではないのです。勿論、明記されている量よりも多く含まれていたとすれば、何らかの不具合があったと理解できますが、そうだとしてもこれは、専門業界と製造会社が取り組むテーマであって、一般人がすることではありません。一般の人には何の役にも立たない情報だからです。さらに欠けているのは、他のベクターワクチンとの比較です。例えば、ジョンソン&ジョンソンであるとか、スプートニクなどです。

実際にどのくらいの量が明記がされていたのか、ということも書かれていません。つまりパウル・エルリッヒ研究所が品質チェックでみつけるような域であるか、ということです。

それに関してはよくわかりませんが、その点の確認はされているでしょう。ワクチンのなかにこのような成分が入っている、ということは当たり前のことで、それが別のワクチンよりも多いか少ないか、精製過程が異なるのか、それは私にはわかりません。ですから、尚更これに関しては、パウル・エルリッヒ研究所や製造元や線もか同士で解決されなければいけない問題で、一般人が、「汚いワクチン」という認識をしてしまうようなやり方は誰の特にもならないのです。

それでももう一つ質問をさせていただきますが、先ほど、血小板第4因子との関連性での仮説、脳静脈洞血栓症について出ました。これに関しては著者も慎重に取り上げています。しかし、別の部分ではそこまで慎重ではなく若干はっきりと書かれている内容があるのですが、、まあ、これは発表済みのことなので、取り上げても良いと思いますが、、  ワクチンの強い反応、つまり、副作用ではなくワクチン反応のほうですが、例えば、倦怠感であったり、発熱などがこのタンパク質から引き起こされる、と。これはあり得ることなのでしょうか?

勿論、異種タンパク質を接種、体内に打つわけですから、反応がでる可能性はあるでしょう。その量が多ければ多いほど反応がでる頻度はあがると思います。その可能性はないとはいえません。しかし、これはなぜ2回目の接種時の反応が少なくなるのか、という理由にはなりませんし、全体的にみても困難です。この点を明確にするにはさらなる調査が必要ですし、本当に全てのバッチでそうなのかどうか。他の似たような反応源性を持つベクターワクチンでは違うのか。mRNAワクチンは別の反応源性を持つワクチンですから、その場合では問題はないようですが、このようにたくさんの疑問が残ります。これらが解決しない限りここから何らかの結論を導きだすことはできません。勿論、異種タンパク質を注射した場合になんらかのアレルギー反応が起こる可能性というものはあるでしょう。

チーゼック先生、本当にまだまだたくさんのテーマがあり、今回も大変長い回になってしまいましたが、子供のワクチンなど重要な情報を取り上げれたか、と思います。またよろしくお願いいたします。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?