ドイツ@Sars-CoV-2 コロナウィルスアップデート(72)  2021/1/19(和訳)

ベルリンシャリテ ウィルス学教授、クリスティアン・ドロステン
聞き手 コリーナ・ヘニッヒ

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ずっと、どうしても感染者数が下がりませんでした。ロベルト・コッホ研究所の集計からは、クリスマスの祭日間の曖昧な登録状況により正確な判断ができない、と言われていましたが、今そろそろ上がってきた数値で状況の把握ができるようになったかもしれません。
今日は、しっかりと数をみて行きたく思います。そして、パンデミックにおける政治的な面も外せません。本日、メルケル首相と各州首相の会議も開かれ、隅々まで詳細が議論されることと思いますが、そのような話し合いは時にして堂々巡りをすることもあるでしょう。勿論、ウィルス学的な大きなテーマ、何度も繰り返される変異についても取り上げます。本題に入る前に、ここ数回、ポッドキャストが長い、というご意見をいただきました。話す内容が多いのでそれだけ長くなってしまうのですが、長すぎる、というリスナーの方々へのお知らせです。今日は、前半が政治的な対策、日常での感染防止について、後半が、科学的な詳しい変異の分析となります。では今日も、ベルリンのウィルス学教授、クリスティアン・ドロステン氏にお話しを伺いたく思います。聞き手はコリーナ・ヘニッヒです。

まずは、最新の数についてみてみたく思います。ドイツの感染地図は未だに真っ赤ですが、本日の死者数は千人弱、7日間での10万人中の平均感染者数も少しずつではありますが下がってきて、130くらいです。ここで、少し楽天的にやっと変化が現れてきたとみることはできるのでしょうか。

そのようにとらえて良いのではないでしょうか。段々数値も現実的になってきたと思います。火曜日の数値というのは、まだ少し週末を引きずってはいますので、明日のほうがもう少し詳しくわかるのではないかと思いますが、今週末に向けてはまだ少し持続するかもしれないものの、先週に比べると少なめですし、これから長期的な目で全体をみなければいけません。これがどのような傾向で動いていくのか。かなり低いところまで抑え込むにはどのくらいの時間が必要なのか。モデリングの結果からもでているように、やはりそこまでには何週間もかかることが予測されます。

この、今使われている7日ごとの平均値よりも、もって短いスパンでみていくべきなのでしょうか。例えば、データジャーナリストがしているように、4日ごとなどの分析などですが。

それは、情報がより早く欲しいのか、それとも細かい変動が少ない全体の傾向の把握をしたいのか、という目的にもよると思いますが、これは細部の話です。それよりも、専門家の間で議論されているのは根本的なところで、この7日ごとの平均的な10万人中の感染者数を目安に使っていくべきか、それとも別の数値を目安とするべきか。集中治療病床の数で判断することの無意味さはもう議論済みですが、夏にも議論されたように、夏の発生数は大変低く、1週間での数は2とか3でした。そのような状態では、R値は全く役にたちません。発生数が低い状態では、R値は常に上下しますからそこからは何も読み取ることができないからです。しかし、今現在は発生数が高い状態です。通常でもインフルエンザのシーズンの真っ只中ですし、地域によっては、大変感染者が多いところもあるなか、例えば、10万人中で600などという数値の地域で、これからそれを50まで下げましょう、と言われても、何を目安にして良いのかわからなくフラストレーションがたまるばかりです。そのような状況ではまたR値で判断するほうが良い。(R値は)安定した目安となる数値ですから、変動傾向が減少しているのか、持続傾向にあるのか、という判断することが可能です。

病院での集中治療病床状況も常に気にしていかなければいけないところで、(発生数からの)影響が常に遅れて出てくる、ということと、医療も緊迫状態にあり、介護士たちのキャパももうすでに超えています。しかし、ここでも少し安定しつつあるのではないかと思うのですが、先生はどうご覧になりますか。

私の情報源も同じだと思いますが、様々なところから、集中治療病床での状況が良くなってきている、との報告を聞きます。勿論、介護スタッフへの負担は引き続きありますので、この状態をこのまま続けるわけにはいきません。というより、そうならないようにしていかなければいけません。

今日は、政治的な面も無視するわけにはいきません。今日は火曜日ですが、2週間前の火曜日と同じように、今これをお聞きのみなさんはもうすでに新しい情報を入手していることと思います。というのも、ポッドキャストはいつも午前中に収録しますので、今日のお昼から行われる首脳会議の前です。本日の議題についてはだいたいのところはわかっていますが、どこを修正するのか、どこを強化するのか。今後の対策について激しい議論がされることが見込まれます。 これらは大変深刻な問題ではあるものの、論点の一部には少し笑いを隠せないところもあって、、、、例えば、「メガロックダウン」などという言葉を聞くと、、申し訳ないのですが、笑うしかありません。このような名称は、この大変深刻な状況においてあまり適したものではない、と私は感じるのですが、先生もそうでしょうか。

いやぁ、、、正直、この名称自体はあまり気にはしていませんでしたが、それよりも、専門家の間でもポレミックな発言をわざとするような傾向があるのは良くない、と感じています。その様子はまるで、車のなかで運転中に罵倒しているような、、、他の車に聞こえないのをいいことに、ひどい言葉を投げかけているのと同じで、歩行者同士ではそのようなひどい言葉は交わさないでしょう。良くないと思いますし、非共同的な行動です。専門家が力をあわせ解決策を考え政治の助言していくという場合にはあってはいけないものだと思います。

国民の間での対立は、それぞれが置かれている状況にもよるものだと思うのです。文化的、そして飲食業界の制約はかなりの間続いていますが、今の状態では一部はずっとロックダウンを続けていて、他の部分では全くされていない、という印象をうけます。会社によっては、テレワークを禁じているところもある、と聞きましたし、テレワークが可能なのにも関わらず拒否する人たちも大勢います。バスも地下鉄もいっぱいです。これも、議題の一番上にあるものだと思うのですが、科学的にみても、テレワークは対策のなかで欠けている重要な点だと思われますか?

このポッドキャストでもそれに関する論文については取り上げたことがありますが、特に、いわゆる「振り子型移動性」つまり、近距離での移動性が、感染拡大に大きな影響を与えることは明らかですし、これは仕事に伴う行動性です。ですから、これは政治的な議題でもあるのですが、この場合、科学者が科学的な根拠を持って政治的な政策に干渉するものではなくて、先ほども言ったように、、、政治的な助言としても、移動性が重要なことは確かですし、勿論、一定の人数が密に一定の時間同じところにいる、というのはパラメーターですからここは良くみていかなければいけないところなのです。そして、実行するのは政治家であって、科学者ではありません。勿論、妥協しなければいけないところもあるでしょう。ここが今、政治的に検討されている点であって、効果がある分野での対策強化、そしていかに全体のダメージを少なく実行できるか。勿論、これは簡単なことではありません。

ここにも託児問題も含まれます。「緊急託児」という言葉はあまり使われなく、制限をつけた幼稚園の通常運営のほうが話題になります。職業的に家にいることができない人もいる、ということについてはここでもお話しました。オフィスのない職種は、テレワークもできません。シングルマザーなどは、緊急託児に頼るしかありませんが、幼稚園はいっぱいだといいます。というのも、在宅ワークをしている親のなかでも、子供がいると仕事ができない、と託児にだす人も大勢いるからです。 まだ余裕があると思われますか? 一部では、まだ25%の子供たちがいる託児施設がある、もしくはもっと大勢いるところもある、と聞きます。

基本的に、小さな子供の託児はもっと充実されないといけないと思います。ここで、今から厳しくする、ということは無理です。小さなグループであれば、感染伝播もあまり効果的には行われませんから、託児施設や小学校のどこかでやはり妥協しなければいけない、というところではこの部分が妥協される部分でしょう。それと同じように、職場でも多くの妥協がされています。どこがまだ調整可能なのかどうか。そこを探すことになりますが、それもこれからずっと長期に渡って調整していなければいけない、ということではありません。

長期に渡って、というのが良いキーワードです。今現在でも保護者にとっても家族にとっても大変困難な状況ですが、これからまだまだこの状態は続き、子供たちを幼稚園や学校に行かすことができないとなると、子供たちにとっても今後の見通しがとても重要です。私の例でお話ししますが、、私には2人子供がいて、我が家では、1人は在宅授業、1人は幼稚園、それに2人大人がリモートワーク。常にコンピューターを巡っての戦いが繰り広げられます。親たちは、キッチンと寝室で作業するしかなく、定期的に、子供の学校のサーバーはダウンします。かと思うと、「お腹はすいたー」「スキャン出来ないから手伝ってー」と呼ばれ、自分はいつ食べれば良いのかよくわかりません。例えば、このポッドキャストの準備も夜にしていますが、それ以外に時間がないからです。すべて、やろうと思えばできることです。しかし、やはりいつまでこの状態が続くのか、ということを大体の目安でもよいのではっきりしていたほうが精神的に安心すると思うのです。いままでの対策は、日付で区切られてきました。大変フラストレーションの溜まるシチュエーションです。さらに、それも数値が芳しくなかった、という理由で何度も延長されてきています。例えば、発生率などで目標を立て、そこに達したら優先順位順に学校や幼稚園をあけていく、というような目安となる目標値を掲げることはできないのでしょうか?保護者にとってもどこに向かえば良いか、というのがわかってわかりやすいと思うのですが。

発生率に目標値を決める、ということは理にかなっています。これは、経験値と、科学的な根拠に基づいて決めることができるのですが、経験値的な理由としては、保健所のキャパの目安です。勿論、保健所は、「『この数値からなら私たちは大丈夫だ』などという数値はない」、とは言っていますが。科学的な数値としては、ベースになるものはモデリングであったりしますが、そこにも、保健所のキャパ的にここまで下がらないと抑え込むのは無理だ、という値があります。そして、ゼロ・発生数を目指す、という意見です。これを実行した国もあり、そこを目標とすることはできますし、これに関しても、いくつか論文がでています。かなり熟考された内容で、現在のシチュエーションから、(他の国と)比較はできるものなのか?ドイツで実行可能なのか?という点での考察がおこなわれています。

このチームはウィルス学者だけではないですよね。

ウィルス学者だけからなるチームではありません。内容はとても論理的です。この、ゼロCovid戦略には、社会学的な原理もはいっていて、単に数値だけで判断されているわけではありません。新しい数値を叩き出そう、というものではなくて、重要なのは、「どのようにそこにたどり着くことが可能なのか」です。そしてそれは、「目標値に達成したら緩和しても良い」ということではなく、政治と国民の両方が、そこまでの道のりについて理解をし、どのような効果があるか、ということを知っておくべきだと思います。先ほどの質問からは少しそれてしまうかもしれませんが、いくつか、例をあげてみると、トークショーでは、「10万人中の50が妥当だ」などと言う人がいれば、「いやいや、10万人に25でしょう」と言う人がいて、激しく討論が始まります。しかし、現在の感染状況をみてみると、、、このポッドキャストでも何度もお話ししたことですが、、、増加は指数関数的なのですが、それと同時に、介入対策による指数関数的な減少も起こります。これが何を意味するか、というと、ここには、いわゆる半減期、というものが存在する、ということです。増加の際には、倍増期、という定義がありますが、減少の際にも、この半減期、があります。つまり、現在の数値が半分になる時点、発生数が半分まで減る時点です。どこが目標値であるか、という討論をするのではなく、50まで下げる、というのであれば、そこからこの半減期までブレーキをかける必要があります。そうすれば、自然と25まで下がるからです。このような理由からも明らかなことですが、介入やロックダウン対策の目標、そしてトークショーなどでの討論の論点を、ブレーキの仕方、そしてブレーキの強さにフォーカスすべきです。 つまり、速度ではなくて、どのくらい強くブレーキをかけることができるのか。ここから対策になるわけですが、学校、職場などの社会的に実行が不可能な部分、この部分についてはいままであまり注目されてきませんでしたが、この部分で可能な限り強くブレーキを踏むように考えていかなければいけません。そうすれば、ブレーキを踏んでいる時間は短くてすみます。どのような目安でするのか。目安はR値です。R値をみていかなければいけません。ここに覚えやすい興味深い方式があります。R値が0、9の時、この数が半減するのには1ヶ月かかります。R値が0、7の場合は1週間です。ということは、50と25の差というのは、たったの1週間なのです。別の解釈が可能だ、ということです。州によっての違い、まだ10万人あたり200のところ、もうすでに10万人あたり100になっているところでは、あと1週間長くロックダウンを続ければ良い。このように、現在の最高値から水平的な時間で考えれば目的地がどこにあるか明確になります。このような目的は、科学的な視点からはロックダウンでは必然であり、R値の0、7を達成させたい。把握できる範囲の地域です。例えば、州ごとなどの範囲で、0、7を目指す。ここから、どのような対策にしていくのか、ということを決めていくべきです。州議会でそこに特化した内容で決めても良いでしょう。はじめの1週間目には何もおこらないのは普通のことです。2週間目には1週間目の分析をします。3週間目には先週と先々週の分析をする。現実的にみて、このあたりで、0、7になるでしょうし、この時点での発生数から、R値を様いて、目標値までどのくらいかかるか、ということも計算可能です。つまり、25とか10とか7とか、設定された目標の値までです。これは興味深いことだと思います。

25、とか10というのは、発生数のことですね。R値ではなく。

あぁ、申し訳ない。そうです、発生数の数値のことです。このように、時間でのプランをたてるのは興味深いと思います。それに、単に「この数値まで下げなければいけない」と言われても、どのようにすればそこまで下がるのかよくわからないですし、何が必要で、何が必要ではないか、などの討論も、お互いにどちらのほうがより理解しているのか、などといがみ合うのも意味をなしません。

というのは、ロックダウン中でのコミュニケーション、「今ここだから、かなりはやく目標値までいける」というような目安が必要だ、ということですね。

そうです。これが、ゼロCovid戦略で成功した国、オーストラリアなどでの決め手だったと思うのです。この詳細、地域での自主管理に重点を置いていた。つまり、地域内でゼロになっても、すぐに緩和するのではなくて、もう1週間待って、見逃した可能性のある感染がないことを確認してから緩和する。その時点ではじめて、ゼロになった、とすることができるのです。またぶり返すこともない。飛び火が野原に飛んでくることもないので、また日常に戻ることができる。隣の地域も同じ様に達成したかもしれませんし、これによって安全な地域が確保されます。このように地域ごとにロックダウン対策が必要ではない場所をつくることが可能です。ドイツ全体で達成できるか、ということに関してはこれは別件です。少し、ここでの考察についても話しあえるかもしれませんが、とにかく重要なのは、目的地が、ゼロ発生数であっても、保健所のキャパの目安にゼロではなくても良い、としても、そこまでの道のりは全く同じなのです。完全に一致します。強くブレーキをかける以外方法はなくて、そしてブレーキをかけたまましばらく我慢するしかない。決め手は、一人でも多くの人が、どうしてこのようなことが必要なのか、どのようなメカニズムなのか、ということを理解することです。

ここから、何が条件なのか、ということにうつりたくおもいます。先ほど、オーストラリアとニュージーランドが例にあがっていましたが、勿論、これらの国が島国である、ということ、ドイツは大陸内で周りを国境で囲まれている、という点で環境は異なります。ここでの2つの道は、ヨーロッパ的に考えてどこでも実行可能にする、と考えるか、もしくは、やはりある一定の期間は国境閉鎖をしたほうが良い、と考えるか。というのも、隣国での発生数が大変高い場合、さらに変異という問題が出てきた場合、この安全区域、セーフティゾーンを確保するのが大変難しいからです。

高い発生数にあって、ブレーキをかけ始めた時点ではそのようなことはあまり関係ないのです。外から入ってくる数よりも、国内での数が多いので。しかし、数値が下がってきたら、つまりブレーキを数週間持続した状態の際には、外から入ってくる感染は大変重要になってきます。私たちにとっては大きな問題です。州境間の移動をストップさせなければいけませんし、国境間もそうです。これは大変実現が困難なことでもあります。しかし、これから、ドイツがヨーロッパにむけて、どのように抑え込みをしていくのか、ということを発信したとしたら。まずは好奇心の目で隣国からはみられるでしょうけれど、成功した暁には、ヨーロッパの中で唯一のセーフティゾーンになるわけですね。そうすれば、隣国も同じ様になりたい、と思うでしょう。そのような地域が増えれば、その間では自由に行き来でき貿易も無制限で可能になるのです。これがここから得られる大きなメリットです。外から上から言われる「あまり制約がないロックダウンをしよう」をただ実行するのではなく、内部から、地域から安全地帯をつくっていって、それを広げていく。自治体がすすんでやっていく。これが、ゼロCovidの大変重要な原則です。数値よりも重要な点でしょう。有能な政治家や専門家でも、ゼロCovidはドイツでは実行不可能だ、ヨーロッパでは冬の間は不可能だ、と言う人も多いですが、そのような意見の人でも、このゼロへ向かう道と数を減少させる道が同じである、というところでは同意するであろうと思うのです。そして、モチベーション的にも、地域ごとにそこに達成するためのモチベーション、地域的な競争のようなモチベーションもうまれるかもしれません。

ドロステン先生、政治的なテーマを話していただきましたが、今日は変異についても取り上げる予定になっています。ウィルス学的な大変大きなテーマです。ここでは、シークエンジングを巡る討論が話題になっています。このポッドキャストでも取り上げましたが、デンマークやイギリスではもうかなり前から体制が整っています。パンデミックをコントロールするためには、もっとウィルスの進化の研究が必要であることは、もう数ヶ月前から専門家が指摘していることです。シュパーン保健相は、ロベルト・コッホ研究所や先生の研究所だけではなく、別の研究所のシークエンジング義務を呼びかけています。目標は、陽性検体の5%を遺伝子調査する、というものです。このような義務化はできるのでしょうか?現実的ですか?体制は整っているのでしょうか。

ここに義務はありません。ラボでみつかった陽性検体の5%をシークエンジングする際にそのコストの援助がでる、ということです。規約で決まっています。そしてこのまま発生数が下がったとしても十分なシークエンジングができるように、援助枠が10%に上がる、というのが、新しく改正された規約です。このように義務化ではありません。しかし、これは多くの一般ラボにとってはコスト面でのモチベーションにはなります。多くはありませんが、少しお金も入ってくるでしょう。それによってお金持ちになることはできないものの、それでもお金は稼げますし、それと同時にシークエンジング技術を向上されることにも繋がり、そして何よりも協力体制です。ラボベースのサーベイランスはパンデミックの把握に不可欠なものですが、これらの申請は自主的なものであって、自主的にRKIにデータが渡されます。ここには、申請義務はありません。ここからも協力体制がしっかりと築かれていることがわかるでしょう。

しかし、その数は1週間に数千個、という単位ですよね。今年の第1週目ですでに検査された数は100万件以上だということですが、このなかから陽性検体をシークエンジングするわけです。これは実行可能なのでしょうか?

統計的にみると、今現在では、1週間で15万件の陽性検体があります。つまり、ここから7500件のシークエンジングがされる計算になりますが、これは全国のラボで分担されます。これは可能です。ここからの結果はロベルト・コッホ研究所で集計され分析されます。

シークエンジングのコストが高い理由は何なのでしょうか?一般人でも理解できるように何が行われるかを説明していただけますか?

今ではもうそこまで高くはありませんが、シークエンジング過程、つまり分析過程には高い基礎コストがかかります。ウィルスをシークエンジングする際にかかるコストは、、、使用するシステムでもばらつきはありますが、人件費を抜いた実費だけで、、、だいたい150ユーロです。これは、手際よくやった際のコストで、通常ではもっとかかります。1000とか2000ユーロくらいですね。このシークエンジング過程を、一度に複数ですることも可能で、つまり90検体を同時に検査すれば、コストを下げることが可能です。ここでの問題は、どのくらいシークエンジングの検体があるのか、というところで、つまり、まとまった数の検体を集めなければいけない。そうすると、検査は毎日するものではなく、週に一度にすることになります。患者の検体が今日の午前中に送られてくれば、午後にはPCRの検査の結果が出て、それが陽性だとするとそのシークエンジングの結果はその次の日に出るわけではなくて、だいたいにおいて次の週です。しかし、変異の確認ということであれば、例えば、保健所からすぐにでも変異の確認をして欲しい、という要請があれば、PCR検査でも検査することが可能です。それであれば、その場でわかります。つまり、数時間の間に、このウィルス検体が変異種であるかどうかがわかるのです。

昨日また変異に関してニュースがありました。ガーミッシュ・パーテンキルヒェンの院内感染で新しいバリエーションがみつかった、というものです。しかも、今までにはなかった新種で、ドロステン先生の研究所でシークエンジングされた、とのことでしたが、実は、昨日の段階でお電話で確認させていただきました。多くの人は、変異、と聞いただけで緊急警報を鳴らすでしょうが、、、、今、電話口で笑い声が聞こえますが、昨日も先生は笑っていらっしゃいました。どのようなことなのでしょうか?

正直いって、、、私は何も知りませんでした。何事だろう、何がメディアで報道されているのだろう、と思ってみてみたら、「新しい変異を発見!ドロステン教授すらまだみたことがない新種!」というような見出しでした。ここで、はっきりと言っておきますが、私が知らない変異など山ほどあります。普通のことです。しかし、この件に関しては、まずは変異の特定をする際には、私の研究所でもシークエンジングのための検体が集められていますから、そのなかでまず初めの変異の確認がされるのです。しかし、常に慎重に、というのが私たちのモットーです。その後で、変異の特徴についての検査をして、イギリスのB117のクレードかどうかを確かめます。これは、変異PCRで確認できますが、ここで少なくとも2つの特徴が特定できた場合にのみ、そのような変異である、という判断をするのです。それから、保健所と病院に報告します。勿論、その際にシークエンジングでの検証をしなければいけない旨を伝えますが、これは手続き的なものであって、まずは、イギリスのバリエーションであるかどうか、ということを先に伝え、「この変異は感染力が強いので、クラスターにならないように気をつける様に」と警告するわけです。通常はこのように連絡をしあいます。先ほどのケースの場合はそうではなくて、初めの検査では検証できたのですが、その次の変異PCRでは検証できなかった。それを報告したのです。それに関しては、私がみた限り、記者会見でも関係者はそのように正しく報告しています。そこから、どう言うわけか、メディアでの報道で大きなスクープ記事になってしまったようです。しかし、変異マーカー、、、と私たちは呼びますが、それが検証されて、その次が検証されなかったからといって、突然お手上げだ、ということは決してなりません。そうではなくて、その時点ではもうすでにどのような変異であるか、という見当はついていますし、これは、比較的ドイツ国内で循環しているタイプのものですが、1つ目の変異マーカーに陽性反応がでるものの、2つ目が出ない。そして、この変異が、例えば感染力に影響を与えるのかどうか、と言った点に関しては今の所はっきりとしたことはわかりません。しかし、どちらにしてもこれはかなり広範囲で拡がっているバリエーションであることは確かです。これからシークエンジングの結果を待たなければいけませんが、全く心配することはない、ということだけ言っておきます。

Business as usual、ということですね。このパンデミックのなかでは、様々なバリエーションがある、と。

これも言っておかなければいけないと思いますが、確かに、シークエンジングの際にとても稀な変異がみつかることもありますし、初めてみつかるものもあるのです。私もそのようなものを見つけたことがありますが、たとえそうだとしても心配することはないのです。つまり、この新しいタイプが、いままでのウィルスと全く異なる性質を持っている、などという点で、です。そもそもオリジナルのSARS-Covウィルス自身が大きな問題であって、それで十分でしょう。

新しいバリエーションがみつかった際に、その都度パニックを起こし、メディアに煽られてしまわないように気をつけることが大切だ、ということですね。といっても、もう一度確認ですが、イギリスと南アフリカ、そしてブラジルからの変異種に気をつけなければいけない理由というのは、速い速度で変異が起こっている、ということと、変異の多くが影響を受けやすい部分で起こっている、と言えるのでしょうか?

それを、感染伝播速度の加速、とするのであれば、そうです。

驚くべきことは、これらの変異が同時に発生している、というところです。先生も仰っていたことですが、たぶん、系列樹的に長い間調査されておらず気がつかなかったのではないか、ということですが

そうです。つまり、突然、多くの変異がウィルスクレードのなかにあり、他のクレードにはそれが含まれなかった場合、ということですが、どちらにしてもこれは謎です。B117クレードは、長い独立した系統樹の先に位置しますが、つまり、このウィルスが発生した母集団は長い間検査されてこなかった、ということになります。この母集団がどこにいたのか。全く別の国にいた可能性もあります。これに関してはこの間も話しましたが、別の宿主、別の国、もしくは、免疫不全の患者だったかもしれない。後者は個人的には可能性は低いと思いますが。私は全く別の国、という仮説だと思っています。しかし、それが解明する日は来るでしょう。

イギリスからの変異種がどの程度ドイツ国内に拡がっているか、ということなどはもうわかっているのでしょうか?南アフリカの変異種はどうでしょうか?

これに関しては、1つ、2つ論文がありますが、つまり、イギリスの117型、そして南アフリカの変異種についてです。大きな研究はイギリスのもので、違うデータからの分析もされています。これに関して言ったこともありますが、いままでにされたイギリスの統計的な分析も大変クオリティの高いものでしたが、1つだけ問題があって、ベースとなるデータが同じか、同じデータの違うコンビネーションだった、ということ。ベースは、いわゆる、Test-And-Traceデータです。つまり、ルーチン診断と感染追跡のデータ。イギリスで行われているのは、Piller-2診断法と呼ばれるもので、これは民間の外来の分野で第一波の最中にかなり高速で立ち上げれ、いまでは数ではドイツを追い越しています。ここからも、民間医療と大学研究所と保健機関の間での協力体制がしっかりとあることがわかりますが、実際にイギリスの検体の35%が民間の研究所で検査されており、そこでは特殊なPCRシステムが使われています。この特殊PCRシステムにおけるアプリケーションの1つの欠如によって、偶然この変異種をみつけるきっかけとなったのですが、この点をもう一度説明したほうが良いかもしれません。変異はシークエンジングでみつかったのではなくて、イギリスのPCRシステムで使われている標的遺伝子のなかの1つが欠如していたことからわかったのです。

3つあるべきシグナルのうちの1つが欠如していたのですよね。

そうです。いわゆるS遺伝子ターゲット障害、と呼ばれるものです。これはドイツでももう少ししっかりと伝えるべき点だと思うのですが、今、言われているようにシークエンジングの数を増やせば良い、ということではないのです。シークエンジングだけでみていたのであれば、イギリスでも多分発見はもっともっと後になっていたでしょう。重要なのは、クオリティの高いラボでの検査と、PCRによる変異の立証です。ここを疎かにしてはいけません。来週にでも、ドイツ国内による変異種の分布についての情報が来ることになっていますが、その前にもう一度話を戻しますが、イギリスではこれは検査結果だったのです。偶然、検体のなかからみつけた。ここから広げることもなく、そのままシークエンジングデータとともに集計されて論文にまとめられています。今、新しく出てきた論文では、根本的なところで違うやり方がとられています。つまり、この国内調査は、ルーティン的な検査からのものではなくて、研究からまとめられたものであり、人口統計学的なものです。アイデアは、実際の国民が地理的に分布している通りに検体をとり、年齢的にも、Test-and-Trace方法でのルーチン検査のデメリットをなくそう、というもので、症状重視ではない調査、つまり症状がでている人だけを対象にするのではなく、無症状者もいる、という事実を配慮して構造的な世帯調査をする。統計局から、国民の分布的なデータを入手し、それに基づいてランダムに選んだ世帯を調査する。対象は2歳児以上です。乳児は含まれていません。それをデータにまとめます。偶然ではありますが、イギリスではこの変異マーカーとなる標的遺伝子が欠如するPCRを使っていたので、そのPCRの結果を、中立的なオックスフォード大学の管理のもとに分析したのです。これは大変素晴らしい研究で、私が常に疑念を持っていた部分が全てクリアになっています。実験ウィルス学の学者的には、このような大きな影響がある、ということは信じがたい、と私は何度も繰り返してきましたが、ここはもう一度よくみてみなければいけません。この論文の他にも、疫学的な視点からまとめられた論文がでてきました。ここでまた念を押しますが、いままでのデータからは、50%から70%の感染伝播力の強化、と言われていました。

新しい変異種が、ということですね。

そうです。この70%というのが、メディアでも議論されていますが、これをR値の増加、としてだけ認識するならば、これは上限に近いでしょう。いくつかの論文をまとめると、45%から70%となっています。これと同時に、第二次罹患率に変化があった、とも言われていましたが、ここでは、変異種では15%、変異がないウィルスだと11%。ここのデータ源は、保健機関のデータですが、ここでも感染性に違いが現れています。歪みがあるデータではなく科学的なデータに基づくものです。

取りこぼし率も配慮されている、ということですよね。

その通りです。無症状者からの感染伝播も入っています。ここでも少し明確になった点があって、1日における伝播率が野生型と比べて6%アップしている。ただし、この6%を、先ほどの50、60、70%と比較してはいけません。これは1日における%ですから、計算しなおす必要があります。世代時間のパラメーターを何にするか、ということでも変わってきますが、それでも、でてくる%は、50から70%ではなく、どちらかというと35%くらいで、これはかなり確かな数値です。

感染者から次の感染者までの世代時間、ということですね。

患者に症状がでてから二次感染者に症状が出るまで、つまり、症状から症状までを発症間隔と言いますが、この場合は、世代時間です。

ここで簡単なまとめをしますが、初めに言われていたことは少し実際よりも多く見積もられていた、ということでしょうか。それとも、感染速度や拡散速度の面からも少し変異が弱まってきた、ともとらえることができるでしょうか。

「初めは70%だったのに今は35%だから、危険度が半減した」と簡単には言うことはできません。このような発言をするのが完全に間違っている理由はいくつかありますが、まず、70%というのは初めから上限であった、ということ。そして、35%という先ほど私が言った%は中央値です。そして、これは全期間中の調査からでた数値だということ。この調査は、初めの調査よりも長期間に渡って行われたということ。これもより多くのデータをまとめるために少し期間を長くされています。はじめの大雑把な推測に比べると、この研究はずっと繊細です。間違った数値ではありませんでしたが、出てきていた数値に関しては私を含め多くの専門家が初めから疑問を持ってはいました。イギリスの科学者も当初からこれから検証されるべき数値であることははっきりと言っていましたし、データは登録データであって、研究調査のデータではありませんので、ベースデータに問題があったことは仕方がないことです。デザインされた研究データもはじめてこの論文に入れられています。その他にみるべきところは、これも期間中にずっと同じではないということと、地域的にも同じではない、ということ。さらに、一番重要なことは、今現在のデータには多くのロンドンでのケースが含まれますが、ここは大変多くの感染が起こっている地域だということ。ロンドンでは、典型的な発展経過がみてとれます。ここから先ほどの数値が出されていますが、イギリス国内には、まだ初期段階にある地域もありますから、そこの変異は、数値的には80%とかではなくて、どこか一桁の領域でしょう。今、変異種が変異していないウィルスを差し置いて拡大してきています。もっと拡大が大きくなれば違うレベルの話になりますが、減少傾向にあります。もちろんクリスマスからのロックダウン下でのことであることは忘れてはいけませんし、イギリスではかなり厳しい対策がとられていますから、それが変異種の拡大に影響を与えていることは間違いありません。そして、もう一つ重要なのは、拡大状況が進んでいる地域と、拡大し始めた地域とで比較すると、一番拡大が激しいのが4分の1の範囲である、ということです。つまり、全体のウィルスの4分の1が変異種というバランスで一番激しく感染拡大がおこっています。この効果は、部分的には生物学的規模での説明がつき、ロジスティック成長と言われるものですが、ここにはまだ他のパラメーターも入れなければいけなく、例えば閾値であるとか、これについては夏にお話ししましたが、つまり、ウィルス、変異に関係なくウィルス全般ですが、ウィルスには、一定の伝播ネットワークが感染拡大のためには必要だからです。

ネットワークからネットワークに移る飛び火ですね。

そうです。あの時は、浸透効果を例に出しましたが、他にも閾値効果はあってそれがここにあてはまると思います。しかし、疾患がアウトブレークから拡大するのは、過分散です。1つのアウトブレークから拡がっていくためには、ウィルスの一定のクリティカル量が必要になる。この変異種の一定量が必要になります。地域によっては、まだここに達していないところもあるでしょう。そこからこのような現象につながりますが、これ以上はデータをみてそれがどのように分析されているのか、という解釈をするしかありません。これは大変多層にわかれた複雑な問題ですので、前は何%で、今は何%だ、と簡単に発言するのはそもそも間違いです。重要なのは、初めには増殖傾向のデータが出ていて、今、それよりも良いデータを分析した結果、明らかに増殖しているという証明ができた。つまり、不明確な点がなくなったわけです。疫学的視点からはこれ以上は望めません。初めの疑問点で確定したことは、この変異種がより速く拡大する、ということであり、このことについてはさらなる議論が必要です。
例えば、全体的にみると速度が減速傾向にある、ということは良いニュースです。つまり、他のウィルスに対しての変異種の増加ですが、この原因がどこにあるのか、という点でははっきりとしたことはわかりません。もしかしたら、変異種が多い地域では、人々の危機感が増して行動に気をつけるようになった、ということも影響しているかもしれませんし、変異種ではないウィルスが多い地域が全体の統計にあまり反映していないのかもしれませんし、その結果が全体の傾向としてそのような印象を与えるだけ、という可能性もないわけではありません。しかし、少なくとも科学的にはかなりしっかりとした知見を得ることができた、ということは言えるでしょう。

全体的には、イギリスの数が落ち着いてきた、ということはロックダウンの効果が出てきたということでもあるのではないかと思います。数は減少してきて、ここ数日で5分の1少なくなった、と今朝読みました。これは何を意味するのでしょうか?ここから、何を読み取ることができるのか。例えばドイツ国内での変異種に関してなどですが。

この30、35%に増加した感染拡大率、解釈によっては25%くらいですが、その数値を使ってもう一度計算する必要があります。今現在で既に観察されている状況と照らし合わせても納得はいきますから、ここからモデリングもできるでしょう。このモデルからは、、、今、もっと厳しい対策をしなければ、そうですね、3月くらいでしょうか、そのくらいには変異種が優勢になってしまいます。これは、さきほどの論文からも明確になった現状です。今後の時間的な発展的状況に変化があるのか、という点では、それはあるでしょう。モデル計算から打ち出された当初の数値よりは、少しあとのタイミングにはなりますが、それでも今対策を打たなければいけないことには変わりはありません。ドイツのシチュエーションには格好の機会があります。ドイツ国内での変異種の拡大を食い止めたいのであれば、速攻で手を打たなければいけないのです。後の段階ではもう何もできなくなり、手遅れになる。そうなってしまったら、さらに劇的に強化した対策が必要になります。今はまだ初期の段階です。来週か再来週にでも、実際にドイツ国内での変異種の割合がどのくらいであるのか、というデータがでてくるはずです。しかし、専門家の間では、クリスマス前には変異種はあまりなく、クリスマスから年末年始にかけて空港からドイツに入ってきた、という意見が多く、それは、保管されている検体から、、、検体は研究目的のために一定の期間保管されるのですが、、その検体で変異種の検査をしたところ、そこからはあまりみつからなかったからです。12月にはほとんどみつかりませんでした。大学病院の保管検体100個以上のなかで数個、ですから、これは確かで、実際に始まったのは年末年始からである、とみるのが自然だとは思いますが、断言することはできません。私の感覚的には、ドイツ国内では、多分1%か、それ以下の割合だと思っています。これからラボからRKIにどんどん結果報告がされていきますから、後、2、3週間もすれば明らかになることではあります。

先ほど、対策について出ましたが、日常面に戻りたく思います。まだ未解決で、ウィルス学的な説明が必要なところは、何がこの変異種を感染伝播しやすくしているのか、という点です。以前のポッドキャストでも、結合能力が影響している可能性についてはお話しいただいてはいますが、今現在行われている対策、マスクをしたり、距離をとったり、ということに関しては、これからも効果は期待されるものの、エアロゾル、およびに無症状者に関しては、リスクが増加する可能性もあり、私たちの行動的にはどこに気をつければ良いのでしょうか?

今の時点では、感染伝播が純粋に物理的に強化されたかどうか、という説明は難しいです。新しい論文内で明らかになったことは、、、、前々回のポッドキャストで、ウィルスの放出量、つまり、ウィルス量ですが、そこの違いが、変異種と変異していないウィルスであるのかどうか、という点で私は個人的に疑問に感じる、ということを言ったことを覚えているリスナーの方もいるかと思います。新しい論文で明らかになったのは、そこの違いはない、ということです。この間説明したのは、Test-And-Traceデータ、つまりルーチンデータに入り込む歪みが結果に影響しているために、ここに生ずる印象は正しくないのではないか、ということ。そして、実際にその通りだった、ということが明らかになっています。つまり、ウィルス量に関しては違いはありません。

症状者と無症状者でも違いはない、ということですね。

そうです。この論文からそこまではっきりとわかるか、というとそこまでわかりませんが、私自身もウィルス量に関するデータは多く持っていますし、症状が出ている場合と、無症状の場合のウィルスの量にはほとんど違いがない、ということはわかっていることです。今、ウィルス量には違いはないであろう、ということになると、違う要因が考えられます。それは、変異種の場合には、初期の疾患段階時での症状、もしくは重度の症状があまり発生しないのではないか、ということ。つまり、今、私が、ウィルスAかウィルスBに感染したとして、ウィルスAの感染では速攻で症状がでて、発熱し具合も悪くなる。ウィルスBは感染後1週間は軽症だとします。それでも、ウィルスBのウィルス量は同じなわけですから、検査にも行かず、元気に動きまわってウィルスを伝播し続けるでしょう。このような現象がおきている可能性はあります。この検証は、いままでの論文、、多分もう4つ出ているはずですが、、このなかには入っていません。ケース閾値に関する調査はあって、これは、診断後28日目の病院の入院率と死亡率の比較ですが、ここでは、感染の初期の臨床データは入っていませんので、はっきりとした答えはでません。そのような可能性がある、ということです。どちらにせよ、今はあまりにも未知の分野に深く追求しようとしているように思いますし、まずは、確定しているデータを元に考えていく。例えば、イギリスの対策が、ロンドンのような大変高い感染率であった地域でも効果を示し、確実に数が減少してきている、ということ。つまり、接触制限といった普通の対策でも効果はある。イギリスで行われているロックダウンは、それよりも厳しいものであります。特に、職場での制限はドイツよりも厳しいでしょう。ドイツでも、学校と幼稚園は閉鎖され、緊急託児も少なく抑えていますが、イギリスでも、学校が感染拡大において大きな因子である、と理解されていて、多分、その点に関してはドイツよりも認識が高いかもしれません、、妥協点として、小さい子供、託児の年齢があげられるでしょう。その他の小売店などはすべて閉まっています。出勤が許されている人がいますので、通りに人がいない、ということはありませんが、テレワークルールが強化され、ドイツよりも確実に厳しい規定です。そして、イギリスのほうが、社会的に困難な層へのサポートも充実しているように感じます。例えば、インフォメーションのパンフレットが様々な言語で発行されたり、発言力が強い人たちの協力を促したり、、、

自治体でも、ですよね。

メディア、宗教的な団体の活動もイギリスのほうがドイツよりも活発です。ここも、変異種を抑え込むことに成功しつつある要因の一つであるかもしれません。しかし、残念ながら言っておかなければいけないことは、効果は今少し見え始めた段階であること。感染者数が下がって下がって、もう完全に安全な状態になって全て緩和できる、という状況にはまだまだほど遠いのです。現状はその反対で、効果が出てくる兆し、がみえてきた、という段階です。

少し良いニュースも挟みたいと思います。やはり、私はリスナーのみなさまのために希望に満ちたことも探していきたいので。今行われている対策は、変異種に対しても効果があるように思われます。どのようにすればもっと効果的に行なっていくことができるのでしょうか。

ここで、少し付け足しますが、今のドイツの状況で考えてみると、高いピークを大変厳しい対策を持ってねじ伏せるよりも、やるならば、同じ対策で初めから変異種を増やさないようにするほうがずっとチャンスは大きいでしょう。私が願うところは、閾値効果のようなものによって、変異種がドイツの社会内のネットワークから拡大することが阻止され、消滅するように導く。そのためには、戦略を変更し速攻で手を打たなければいけないのです。

チャンスがある、というところではこれも良いニュースです。もちろん、厳しいブレーキを意味することは重々承知の上ですが。

そうですね。どのようなシチュエーションに今いるのか、ということを自覚するしかないでしょう。最終目的が問題ではありません。 先日、発表された論文には、ロックダウン狂信者、というものがでてきます。こんなことを書く人はどうかしているでしょう。ロックダウン狂信者などどこにもいません。政治的なアドバイスをしている専門家たちも、ロックダウンを望んでいる人などいませんし、できる限り短く済ませたい、と思っています。ロックダウンなど誰もしたくはないのです。

誰の徳にもなりませんよね。

そうなのです。しかし、現実を受け入れ、いくつかの事実にもう一度注目するならば、私たちがどれだけリスキーなシチュエーションにいるか、ということが明らかになると思うのです。例えば、ハイリスクを隔離する、という案。これは不可能です。もしこれが可能であったとしても、この間政治的にも暗に示されていたように、高齢者が守られた時点で、例えば、ユートピア的に全ての介護施設を完全防御したり、全員に予防接種したり、などが行われたならば、この大きな死亡確率のリスクがなくなった時点で、あまり医療的な配慮はしない経済の面から、全てを緩和するべきだ!という意見などがでてくるわけです。しかし、これは誤謬であると言えるでしょう。なぜなら、その後でかなり早く感染がまた広がります。その規模は、1日で2万人ではなく、イギリスで起こっていたように、6万人レベルのものになり、高齢者が予防接種された時点では、10万人、12万人の域に突入するのです。これによって、国民の広範囲を予防接種して、集団免疫の域にはいるか、というとその反対です。これは、氷山の一角現象、と呼ばれるもので、氷山の先が折れた時点で、下から氷山が上に登ってきます。そして、水面に出ている部分はその前よりももっと大きくみえる。絵的な説明ですが、その見えてきた部分というのが、若い世代で、その世代が感染し重症化します。というのも、若い世代にもハイリスク患者はいるからです。リスクがない場合でも突然重症化し、集中治療が必要になるケースがあることもわかっています。このような影響もでてくるのです。
それ以外にも、特に経済の分野で騒いでいる声も聞こえてきていますが、Long-Covidとは、リュウマチ的、精神疾患的な症状があると思い込んで、自分は重症だと訴える人のことを指すわけではありません。現状を信じる人と全く信じない人に分かれるのもわかっています。因みに、私は信じる側ですが、それは全て統計に現れているからです。しかしこの、場合によってはスピリチュアルなレベルのLong-Covid討論の他にも、もっとちゃんと証拠があって、これこそ経済的に意味を持つものがあるのです。それは、病欠率です。緩和をして、一気に集団免疫取得化が進んでしまうと、高い病欠率が長く続きます。重症化する人がたとえ少なくても、3〜4ヶ月、調子が悪い期間が続くでしょう。病欠を繰り返します。雇用主側から考えると、大変困難なシチュエーションです。雇用主側にとって、レストランや学校がオープンしても、従業員たちが繰り返し病欠しているのでは、全く意味がありません。しかし、そのような状態になるのです。そうなることは確かです。このような理由からも、経済的視野でこのテーマを考える際に、焦って行う緩和は、経済にメリットをもたらすものでは決してなく、もっと大きなダメージを与えるものであることを自覚する必要があるでしょう。ここでは様々な分野から影響があるのです。 政治サイドからは、これからイースター後のプランについて発表があるでしょう。高齢者の何人が予防接種されたか、など。法的サイドからも、高い死亡率が存在しない時点で、制約のなかには緩和される部分の議論もおこるでしょう。これらの議論がこれからはじまるのは確かです。私が今持つ印象としては、理論的に経済や経済的内容を語る人々は、緩和で経済を盛り返そう、というところだけしかみえていなくて、この緩和によって起こる労働力の病欠問題を見落としている。この考察は数値としても計算が可能なものですが、今現在されている討論ではその点を指摘する意見はあまりありません。ここが盲点だと思うのです。
このテーマについては大変熱く討論がされていますが、政治の専門アドバイザーの一人として言わせてもらえば、討論をしている人たちが先ほどの病欠問題などを知らないのではないと思うのです。公の討論の場でよく聞く、政治的アドバイスが、ウィルス学的なものばかりでウィルス学に偏っている、という批判点も、そんなことを言う人たちは自分たちが何を言っているのかすらわかっていないのだと思います。

ドロステン先生、先ほど少しお話にでましたが、最後にもう一度。南アフリカのバリエーションについての文献をご覧になった、ということですが、まだ研究データは少ないですよね。しかし、イギリスの変異種についてはロンドンのモデリングチームが出しています。そして、このチームが南アフリカでの変異種の拡大についてもモデリングしました。この変異種の感染伝播率は高くなっているのでしょうか?それとも、十分な免疫応答がないのでしょうか?実際に免疫回避によってウィルスに圧力がかかり変化しているのでしょうか?もう答えを少し言ってしまったかもしれませんが、、その点はどうなのでしょうか。

南アフリカの変異は、484のポジションで起きている変異です。この時点で、この変異がイギリスの117型よりも、免疫回避によって起こった、とみることができます。それに関してのレポートもありますが、これはまだ学術論文とは呼べません。まだ、Work in Progress、と言えるでしょうか。

3ページの内容ですよね。

今、書かれている最中なのです。まだ途中ですが、オンラインで発表されています。ここで行われていることは、もうすでにモデルとして定型化されているもの使って、、、これについては前回のポッドキャストでも話しましたが、ロンドンスクールが117型で使ったモデルを使って、南アフリカのデータ、このデータはまだ不完全ではありますが、そのデータをそこに組み入れた。まず、第一波でどのように拡大していったのか、非医薬的介入の前と後の比較、そして、夏の間での発生数の変化、ここではもうすでに免疫効果がでてきています。前回のポッドキャストでも説明しましたが、南アフリカのタウンシップのなかにはもうすでに40%の抗体保有率に達しているところもあるのです。つまり、地域的には集団免疫に達しているところがある。

これは、抗体検査で確認されたことですよね。

そうです。現地の抗体保有データからですね。これをモデルに組み入れ、感染の変化をみていきます。これは数学的なモデルなのですが、免疫保有者の数もモデルのなかに入れられている点が素晴らしいです。ここにはかなりの割合での免疫が存在します。それをモデルの数値として入れ、ここから様々な状況下での計算をしていきますが、つまり、免疫保有者率が上がっていく、という状況です。このはじめの結果がレポートにまとめられていますが、計算上では南アフリカには第二波は来ない、という結果がでているのにも関わらず、数週間前に第二波がきたのです。これは、新しい変異種が南アフリカで優位にたった、ということと関係するとみています。2つの異なるモデルで考えてみると、まず、このウィルスには免疫回避がない、とする場合、集団免疫によってウィルスが抑えられ第二波は来ない、ということになりますので、この実際に現れた第二波の原因は感染伝播力の増加であると考えられるのです。

宿主があまり周りにいないために、探さなければいけないからですね。

そうです。その場合、また波に乗るには伝播力が高くならなければ無理です。これが、免疫回避0%説で、この場合は第二波の為には、、実際に第二波はきていますが、、そのためには、1、5倍の感染伝播率が必要になります。これは、イギリス型と同様で、まずはじめに出てきたデータですが、ここではR値は、1ではなく、1、5、とされています。つまり、150%増です。それとは別に、もし、ウィルスの感染力が強くなっていない、としたらどうなるか、という説です。私はこちらの説側なのですが、、、つまり、私が直感的に感じることで、このウィルスの感染伝播力がアップしていなかった場合、どのくらいの免疫回避をすれば、第二波を起こすことが可能なのか。モデルのなかには、一定数の免疫保有者、つまり感染しない人の割合が入っていますが、このなかで第二波を起こす為にはどのくらいの割合が感染しなければいけないのか。つまり、根本的にモデルのなかから何%を取り除けば第二波の予測に一致するのか。実際に起こっている状況に近くなるのか。

計算結果が、現実とマッチするために、ですね。

そうです。答えは、「銀河ヒッチハイク・ガイド」のように、21

そこでの答えは42、、、ですが。生命、宇宙、そして万物についての究極の疑問の答え、ですよね。

あ、数が間違っていたようです。笑 とにかく、ウィルスの伝播率が同じである場合は、免疫回避は21%でなければいけない。著者は、多分、この辺りの中央値であるだろう、と述べています。つまり、ウィルスは、少し伝播しやすくなってはいますが、同時に免疫回避でもある。今存在するラボデータからみても、私は大体免疫回避が20%くらいあって、感染伝播に関してはそこまで大きくは変化していないであろう、とみています。もちろん、これからはっきりしていくでしょうが。2週間後くらいにデータが上がってくることを願います。少なくともイギリスのデータは欲しいですね。

20%の免疫回避、これは南アフリカ型での話ですよね。5分の1が変化することによって、免疫応答から逃げれるようになった、という。

数値的にはいくつかの解釈がありますが、まず、免疫保有者の20%が免疫があるのにも関わらず感染する、という可能性。これは白か黒か、という話ですが、ここの割合も変動する可能性もあります。

どこの割合でしょうか?

つまり、免疫が完全ではなく、特定の状況でなければ周りに感染をしない人たち、ということで、この人たちのR値が低い、とも言えます。この数値は固定されているものではなくて、分布やカーブなどはそれぞれ移動します。

ということは、過分散、ということがここでも起こる、ということですね。一部の人が多くに感染させ、他の人はあまりしない、という。

そういうことです。

まだまだ質問はたくさんありますが、とにかく、ヨーロッパでの南アフリカ型の動向には注意をしなければいけませんよね

注意深く追っていくことが重要ですし、これらの免疫回避型と思われるバリエーション、そこにはブラジル型も含まれます。ワクチンの変化についての討論の際によく出る、ワクチンによってこの免疫回避型のウィルスをつくりだしてしまうことはあるのだろうか、ということについてですが、私が危惧している点はそこではなくて、この免疫回避型が、感染拡大が野放しになっている環境下で多くの人が自然免疫を習得し、常に進化圧が母集団にかかっている際に発生している、という背景から、ワクチンによってそのような免疫回避型ができる、というよりも外部から入ってくる、というリスクのほうです。

しかし、それに対して予防接種はできるのでしょうか?前回のチーゼック先生とのお話でもありましたが、バイオンテックが変異種の調査をしているもののまだはっきりとしたことはわかっていないとのことでした。ワクチンが実際に変異種にも効果があるのか、ということはまだわからないということですよね?

抗体の形成の面では問題ないのですが、まだ推測の段階ではありますが、今、一番はじめにでてきているデータから判断すると、抗体に対する免疫回避がアフリカ型にあるのではないか、ということなのです。しかし、ワクチンのなかの免疫性というものは抗体だけではありません。強いT細胞免疫もありますし、ワクチンの効果に関しては私は心配はしていません。それよりも、このアフリカ型の感染伝播力がアップしているのか、という点。イギリス型はしているわけですから、そのところに集中するべきだと思います。この間はまだ確実ではありませんでしたが、もうすでにアフリカ型もドイツに入ってきている、という検証がされました。

1週間前くらいですよね、発表されたのは

そうです。そのような発表がありました。多分、祭日の間、クリスマス休暇の間にドイツに持ち込まれたのだと思います。年明けの状況は年末とは違う、ということです。

非医薬的介入対策を持って、すでに循環している野生型、そして新しく入ってきた変異種の抑え込みに集中しなければいけない、ということですね。変異種はこれから拡がる可能性を秘めていますので。最後にもう一つ質問ですが、もし、変異種に対する効果がワクチンで得られない、ということになった際はどうするか、ということに関しての、バイオンテックの返答は、「ワクチンは速攻で調整することが可能」である、ということで、数週間の間、4〜6週間の間、ということでしたが、これは、今議論されている全てのワクチンに当てはまることなのでしょうか?次にヨーロッパで承認されるワクチンはアストラゼネカですが、これはベクターワクチンですよね。

バイオンテックなどのRNAワクチンではかなり簡単に調整できます。しかし、他の種類のワクチン、例えばベクターワクチンなどはそう簡単ではありません。つまり、変異種を少し加える作業は分子生物学的にはあまり困難な作業ではなく、2〜3週間でできることです。問題は、これからの承認条件、承認過程でどうなるか、という点で、これに関してはここでは答えることはできません。つまり、どの範囲で新しい検証試験が必要になってくるのか、ということです。私の専門分野ではありません。

これもロジスティックな問題でありますよね。これからはっきりしてくることもあるでしょう。ドロステン先生、今日も辛抱強く説明をしていただきありがとうございました。2週間後のテーマもみえてきていますが、どちらにしても話題がなくなることはありません。またよろしくお願いいたします。




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