ドイツ@Sars-CoV-2 コロナウィルスアップデート(43) 2020/5/26(和訳)

話 ベルリンシャリテ ウィルス学教授、クリスティアン・ドロステン
聞き手 コリーナ・ヘニッヒ

2020/5/26

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これから、学校や保育施設はどうなるのでしょうか。このポッドキャストでは、この問題を外すことはできません。これは、経済的支援や国際的な観光業界に並んで、社会的に大変重要な議論点で、ここでも医学が少し貢献できるのではないかと思っています。もちろん、このテーマだけではありません。このポッドキャストが開始してから3ヶ月が経とうとしています。 新しい子供に関する調査結果とその新しい解釈について。そして、夏をどのようにエピデミックと過ごせば良いのか。さらに緩和するために必要な手段、方法、可能性などはどうか。今日も、ベルリンのウィルス学教授、クリスティアン・ドロステン氏とともに話し合っていきたいと思います。聞き手はコリーナ・ヘニッヒです。

様々なテーマに入る前に、昨日、ツイッターが大騒ぎになった件について触れたく思います。ビルト紙が、先生とチームに対する専門家の批判を引用した記事を大々的に取り上げました。 これは、子供のウィルス濃度関する論文で、ポッドキャストの37回でもお話し頂いています。その中で、ご自身でも、この検証結果の適用範囲の限界については触れてました。発言を引用すると、「自身のデータも、注意深く厳しくみていかなければいけない」と、仰っていました。 ここで、少し説明しますが、この論文はプレプリントで、あの時点ではまだ他の専門家による査読も行われていませんでした。 そこで、ビルト紙は、専門家の批判発言を引用。多くの引用された専門家達は、ツイッターで異議を唱えていますが、この批判は何処から来たのでしょうか。

ここでは、4人の学者が引用されていますが、彼れは、ツイッター上などで、プレプリントについて分析、研究した結果発言をしています。 これはツイッターや、プレプリントから抜き出して引用出来るでしょうが、それだけでは、そもそも、どの部分の何を批判しているのか、という事は理解出来ないでしょう。まあ、それは置いておいて、、、4人とも、この記事に対して異議を唱えています。このような発言をしていないからです。ここで、もう一度内容について説明したほうが良いのか、わかりませんが、、、勿論、しても良いですけれど

さらっと、話しあうことしましょうか。 専門家達が指摘した点が妥当であったか、どうか、という点についてなど

そうですね。あの時ポッドキャストでも話していますが、私達は、ラボのデータからウィルス濃度を分析しましたが、大まかな分析で、背景にある細かい部分は配慮していません。 ラボの検査結果からとった大まかな数値です。そこから、データを少し年齢別に分けて、そこでの違いがあるかどうか。この分析には、かなり荒削りな統計方法を使いました。これにはこうした考えも勿論あって、データ自体もかなり荒く、選別されていないデータですから、このようなざっくりとした統計方法で何も見えなければ、これ以上細かい統計分析をする意味がない、という意図で、それをそのまま発表したのです。
ここでの声明ははっきりとしています。子供も高いウィルス濃度を持っている。これだけです。根本的には、統計など出さなくても発表出来た事ですが、もう一度、自ら厳しくみていくと、、、使った統計方法は確かにかなり簡単なものでした。でも、これはプレプリントですから。 そこで、統計学者、、、医師ではなく、疫学者でもなく、統計に学術的に精通している専門家ですね、その統計学者からの指摘があったのです。かなり乱暴な方法で計算してるね、と。それは、私達もわかっていた事ですし、理由なくやった事ではないのですが、ここからツイッター上や各自のプレプリント上で議論され、議論された内容は適切です。 ここでは、私達のデータを使ってもっと細かく分析、もしくは、他の方法などを使って計算してだされたウィルス濃度の違いが指摘されています。 もっと、良い統計の出し方があった、と。
私が、ステートメントを出したとしたら、こう言ったでしょう。 確かにそれはその通りだ、と。 しかし、医学的な分析と意味的には、この部分のデータ分析の詳細は重要でないのです。 この部分が主部ではないので。 指摘のなかで、一番正当なものは、ある年齢層でのウィルス濃度の違いを明記していない、というものだろうと思いますが、この比較は、子供と大人ではなくて、高齢者と別の年齢層の成人間で、これは、この論文の焦点ではありません。 統計学者の主張は正しいでしょう。しかし、結局私達も違う意味で正しいのです。ここは(論文結果的に)重要ではない、と判断し、そのままにした部分なので。 そうですね、、、日常に置き換えると、、、趣味で、庭に塀を自分でつくった、としましょう。そこに、左官職人が来て、いやぁ、ここはもっと良い金鏝を使ったら、仕上がりが綺麗になったのに。と指摘したとしたら、 これは、適切な意見でしょう。 しかし、全くの素人が突然やってきて、あなたの庭にあるのは、家なんかじゃないでしょう。 左官職人も文句を言ってましたよ。 と言うのは、全くのお門違いです。 このようなことが、今、起こっている。 混乱を招くシチュエーションで、引用に使われた専門家達も異議を唱えています。記事内には、何処の部分が批判されているのか、ということすら書かれていません。

しかし、それでも先程仰ったように、統計的な問題点は残るわけで、この統計結果からは、子供のウィルス濃度が大人同じである、という検証には至らないのではないでしょうか。

良い点ですね。私は、専門家の指摘や改善案に対して、聞く耳を持たない、という訳ではないのです。 学術論文には指摘は付き物ですから。プレプリントの後には公式な査読過程があります。 私達は、このツイッターの一連のやりとりを、査読前の修正段階だと認識しています。そして、そのように対処しています。指摘点を集めましたが、量が多すぎて全てに返答は出来ておらず、出来る限りまとめて、分析方法の改善に務める旨を送りました。ここでの、改善点は、統計方法のみ、です。ある統計学者が指摘してきた改善案が大変素晴らしかったので、この論文の著者の一人として一緒にまとめないか、と誘ったところ、承諾を得ることができました。
今、この統計学者を新しく加えたチームで、提出する前のアップデートをしているところです。もうかなり進んでいるので、今週末には仕上がるのではないでしょうか。統計部分の改善だけではなく、他のデータももう一度深くみてみたところ、新しい重要な情報もみつかりました。私達のラボは、早い段階から、専門のテストラボだったので、流行初期の段階からかなりのサンプルが送られてきていました。再分析の際にわかったのですが、初期段階の世帯調査での子供のサンプルに、特に多くの無症状者がいたのです。後になると、基礎疾患などがあって重症化して入院しシャリテで治療された子供のサンプルになります。この子供達のデータは人工的な影響を統計に及ぼすのですが、これは、全てにおいて言える事ですが、入院が長くなると、ウィルス濃度は自然と減少していくからです。しかし、これは、病症の進行状態とは関係がありません。 初期の段階での検査結果、軽症や無症状の患者が多かったサンプル、この中には子供も含まれますが、、これらの分析すると、結果は更に明確です。ここでは、子供が、他の年齢層と同じウィルス濃度を持つ事がはっきりと出ています。ここでの、批判の余地はありません。 これから、この研究内容の原稿を、学術ジャーナルに提出します。これは、通常の論文が投稿されるまでの過程なのですが、メディアのなかには、これをわかっていない、若しくは、記事内でまとめられない事多々ありますので、、、今回のようなことも起こってしまうのです。

この結論、子供のウィルス濃度は大人と変わらない、というものは、政治的には、2つの方向へ向かう可能性がありますよね。学校の開校へ、と、その反対、へと。この大きなテーマ、子供、について内容的に掘り下げていきたく思います。ここ数日前に5つの医学専門誌が合同で発表した論文がありますが、そのなかに、3つ、小児科医によるものがあります。これは、37の異なる論文や臨床研究を分析したものですが、ここでは、はっきりと、学校と保育施設は制約なく再開すべきである、という結論が述べられています。この要請の背景には、教育に関しての懸念、子供の社会参加も含まれますが。医学的な結論は、「子供は大人に比べて、感染伝播における役割が著しく小さい」 どのような評価をされますか? このように言い切る事が出来るのでしょうか。

ここでも、学術的に、そして懇切に反論する事が出来ると思いますが、、この著者のなかの数名は知っています。何人かは、これ以前にもステートメントを発表した際にコンタクトを取っていますから、彼らは、私がこれらの文献解釈において、必ずしも同じ意見ではない事を知っています。いくつかの論文での、データが抜けている点の指摘は、このポッドキャストでもしました。簡単に言うと、、、子供は感染するのか、そして感染させるのか、という事を調べるために世帯調査する際の大きな主題は、子供は家庭にウィルスを持ち込むのか、という事でしょう。しかし、その為には子供達が外に行く必要があるのです。ということは、ロックダウン中はそのような調査は出来ない、ということです。言い直すならば、もし調査したとしても、殆ど伝播の役割を果たさないでしょう。 しかし、これは、子供が感染させない、という証拠にはならなくて、ただ、学校や保育施設など行っていないロックダウン中は外からウィルスを家庭に持ち込まないだけなのです。
この点関しては、多くの論文内では注意深く著者から指摘されています。しかし、今回のステートメントでは、この注意深さは省かれてしまっていて、子供は(感染伝播に)含まれないから、子供は関係ない。    ここでは、内容についてはあまり批判するつもりはありません。これは、文献研究ですから。著者のなかでは誰一人として独自の学術的なデータは出していませんし、誰も元となる論文をそこまで読み込む作業をしていません。 学術的な研究をして独自のデータを出している学者は、自分のデータと比較しながら分析するものです。 ですので、私もよく分析した結果、気づいた点をこのポッドキャストでも以前指摘してきましたが、この専門家のステートメントでは、その不確かな部分がきちんと評価されていない、と感じるのです。
他にも、頻繁に取り沙汰されるアイスランドの論文ですが、この中では、子供は、クラスターの感染経路のなかで、常に一番最後に位置している。つまり、被害者であって、感染させる側ではない。しかし、この研究がされた時には、エピデミックの初期の段階であって、まずは大人が国内にウィルスを持ち運んで来て、その状態下でアイスランドという小さな国のなかで調査が行われた。通常の状態での調査ではなかったわけです。 そのようなこともあり、結果も注意深く評価するべきなのです。この点が、全ての研究の不確かな点でもあり、独自の調査が必要だった理由でもあります。ウィルス濃度、という、技術的に異なる視点から現状把握につなげる研究が必要だったのです。
しかし、このステートメントについては、違う事も言っておきたいと思います。この中で、様々な意見が、特に、小児科医から出ている事はとても重要な事だと思うのです。子供の心身の健康を考慮し、学校が閉校する事によって起こる影響などについて指摘する事によって、社会的な議論にも繋がるでしょうし、それが政治に影響を与えるでしょう。学術的な多様性も政治には必要です。 確かに、ウィルス学者的には、データの完璧な科学的分析をして出た結果からすると、まだ、はっきりとした結果が出ない。更なる研究が必要だ。私もウィルス学者として、そう言うでしょう。しかし、その反対側で、臨床経験が豊富な現役の小児科医が、そうはいかない! と立ち上がる。これも、大変重要な事だと思うのです。 様々な視点から政治は判断されなければいけません。私が、ウィルス学者として、政治家から電話をもらったり、委員会に座ったりした場合には、これが、現時点の科学的なデータです。今のところ、これ以上はっきりとした事は言えません。と、返答するでしょう。 しかし、このデータから、子供の感染力は大人同じである可能性が強いので、それに見合った対策を考えていく必要性はある、と。 それに対して、個人的に、そして他の学者の立場からも、このような議論のなかで、学校や保育施設をこれ以上閉めたままにする事は現実的に無理だ、というスタンスも良く理解出来るのです。 現在の緩和対策、緩和に対する議論の中でも、社会的に限界来ているということは明らかです。レストランの営業再開が許可され、他の業界も緩和されているのに、子供だけまだ学校に行く事ができない。この事について考えるべきです。
例外的に、一個人としての意見をメディア上で言わせてもらうならば、、、データが不十分だからといって、このまま学校を閉めている訳にはいかないでしょう。同じような不確かなデータを元に、他の部分での緩和している訳ですから。
ここからは、またウィルス学者としてですが、学者としてアドバイス出来る事はあります。例えば、私は、検査方法については熟知しています。どのような事が可能なのか。誰を、どのグループを検査すればよいのか。学校、保育施設問題をみてみると、先生や保育士などの教育関係者は大人です。 大人は感染時に症状が出る可能性が高い。

子供より、ですね。

そうです。子供のように無症状である事は少ない。これが、子供の危険なところです。無症状でも感染力を持ったまま動き回る。感染が起こっているかどうかを見極めるポイントはどこでしょうか。それは、感染して症状が出た教育関係者ですね。症状が出た患者を検査する事は簡単です。 これは検査の無駄遣いにはなりません。 検査をしている側としてはっきり言えます。ラボの責任者としても、ウィルス学者としても、検査のキャパは把握していますから、教育関係者全員の検査、もし、無症状だったとしても、その検査をするだけの余裕はつくることができます。そして、 良いアイデアもあります。 例えば、プールテスティング(mini Pool Methode)、陽性確率が低いサンプルを幾つも同時に感度を下げずに検査する方法は、既に検査方法としてもラボでスタンダード化してきていますから、保健機関と契約して定期的な検査する事も可能でしょう。若しくは、市の保健機関や教育機関がそのようなことを手配する、と言う事も出来ますよね。様々な方法が考えられるでしょう。

簡単な説明をお願いしたいのですが、、この中で、陽性反応が出た場合、(プール法では)陽性反応がない、という事を前提検査している、と思うのですが、もし、そのなかに陽性が混じっていたとしたら、それ取り出してもう一度検査するのでしょうか。

そうです。私達は、プールを解除する、と言いますが、プールのサンプル一つずつ再検査する事になります。ここにも、いくつかのやり方がありますが、技術的には普通に可能です。経済面でみても、医療資源の無駄遣いにはなりません。

危機感を持つ先生、と言う場合、例えば、自分はハイリスクには含まれないけれど、家族がハイリスクだったり、という場合などですよね。

勿論です。そのようなケースには絶対に配慮が必要です。ウィルスを家庭持ち込む可能性が高い訳ですから。 ハイリスクの家庭の子供の、義務教育の免除を検討するならば、同じように教師でもそのような環境いる場合は、生徒との接触を控えるような配慮も必要だと考えます。

学校の日常ですが、教師や保育士など、教育関係者へのサービスについて触れましたが、これを感染の目印に使う事も可能ですよね。 これを、科学的には、番兵機能、と言いますが、ガイドラインをみてみると、、、、私の個人的な例でお話しさせて貰うと、、うちには、1年生と5年生の子供がいますが、衛生ガイドラインが、学校に登校する際には、1年生は、手洗い、5年生は手の消毒、となっています。しかし、飛沫やエアロゾルのほうが感染の危険性は高いのに、意味はあるのかどうか。接触感染の危険性がそこまでない事はわかっていますので、これから学校でのガイドラインも再考され改善されていくのでしょうか。

ここ数日、数週間でそうしていけなければいけないでしょう。簡単ではありません。ガイドラインは、ポッドキャストでパッとでるアドバイスとは違いますから。以前から何度も話していますが、窓を全開、扇風機の設置、ドアを少し開けておく。そうする事によって、空気の流れが出来、エアロゾルが外に出て行きます。私はそう言えますが、保健機関、ロベルト・コッホ研究所などは、そう簡単にそれを規約にする事は出来ません。安全面、労働法、など規約、経済的にも、、、誰が扇風機買うんだ、とか。そう簡単にはいかない事はわかってます。しかし、新しい研究と検証結果基づいた見解から思考の方向性を示す事は可能です。学術的な文献を大量に読んでいる者として言いますが。 2月だったでしょうか、初めに、手洗いや消毒を推奨するのは間違いではない、と言いました。これは正しかったと、今でも思います。飛沫感染防止の為に、1、5m距離を保っていますが、これは、飛沫が1、5mのうちに床に落ちるからです。しかし、あれから、沢山の新しい論文が発表されてきました。このポッドキャストでも取り上げてきていますが、2〜3新しい論文でも、室内の危険性は屋外を大幅に上回るという結論に達しているのです。これは、全てエアロゾル感染の危険性です。エアロゾルがどのように出来るのか、という事を計測した研究もあります。一つではありません。いくつもありますが、そのなかでも未だに一番素晴らしいと思うのが、香港の論文で、人が放出する、感染物質、感染性があるウィルスの50%は、飛沫ではなくエアロゾルだ、としています。これと平行して、手洗いや消毒による接触感染の防止についての新しい論文はほとんどありません。しかし、これは、病院には当てはまらない事は明確ですね。院内環境については、学術的なデータもありますし、床の表面にゆっくりと(ウィルスが)落ちて溜まる、という事も検証されていますから、院内での消毒液の使用が不可欠なのは言うまでもありません。病室内という、感染者が継続して治療されている場所での計測です。

感染者がずっとその室内にいる、という状況ですよね。

そうです。日常生活とは状況が異なります。ここで、天秤にかけなければいけない事は、対策の中のひとつに特に注意を向け、準備をし、コストをかけるとしたら、、、それは、手洗い消毒ではないだろう、という事です。それよりも、もっと違うところの考察へ集中した方が良い。考えられる状況と実用的な方法を考慮しながら。エアロゾル感染を防ぐにはどうすれば良いのか、など。
また、新しい貴重な検証があって、これは、旧型SARS的には新しい事ではありませんが、新型コロナ(SARS-2)でのデータが上がってきました。これは、学術的テーマとしてもとても複雑なものなので、これだけでポッドキャスト一回分になってしまいますが、、、、分散、過分散、偏りがある感染伝播状況です。 ごく少数の人が、多数に感染させる、又は、大勢が殆ど感染させないか、ごく少数に感染させる。 これは、感染が爆発したケース、例えば、合唱の練習中に殆ど全員感染した、フランクフルトの教会や、ニーダーザクセンのレストランで起きた事などにあたります。

初期のケースでは、サッカーもありますよね。チャンピオンスリーグの試合2つで。

そうです、それもですね。これは、SARSの時に、スーパースプレッディングイベント、と名付けられたものです。これは、数理的なモデルで計算できますが、それに関しての新しい興味深い論文が次々と出てきています。このような現象が今回の新型コロナでも起こっているだろう、と。 感染の爆発はエアロゾルで起こりますから、これは重要な推測です。それと同時に、これが、感染拡散させている原因なのですから、これを断ち切る事が出来たら、原理的には、流行をコントロールする事が可能になります。そこを目指しています。今、第2段階、The Hammer ans the Danceの、The Dance の段階で、ダンスパートナーである、虎のどの部分を触って良いのか。どこがダメなのか。 これが、今、フォーカスしなければいけない大変重要な部分で、超拡散現象とエアロゾル感染を、的確な対策で制御していかなければいけません。

これは、私の記憶が確かであれば、日本でも注目されている事ですよね。クラスターで起こる感染現象ですが、日本の論文では、室内でのリスクは屋外の19倍、という事ですが。

そうです。これは、4月16日に発表されたもので、大変興味深い内容です。ここでは、110の集団感染が調査されています。誰が誰に感染させたか。室内か屋外か。110のうち、27件が第一次症例で、その他はその感染者から感染しています。ここで、感染の状況調査がされていますが、ここでのリスク分析では、屋外に比べて18、7倍のリスクが、室内にはある、と。これは、かなりの差です。19倍のリスクです。ここからもはっきり言えるでしょう、外に移していかなければいけない、という事が。
レストランについては、もう話しましたが、夏、という季節を利用して、テラスを使えるようにしましょう。それから、少しずつ実用的に考えていって、屋外では1、5mの距離は必要ないかもしれない。(飛沫感染防止対策としての)距離は、防止策の一部分ですから、1mくらいでも十分かもしれませんし、通常のテーブル間隔でも良いかもしれません。その代わりに、天候が良ければ室内は禁止する。このような妥協案も考えられるでしょう。この点に関しては、隣国のほうが、フレキシブルで実用的です。例えば、スカンジナビア諸国では、特定の学校のクラスは、屋外でのみの授業で、悪天候の場合は学校は休み。みんな協力してうまく行っています。ドイツでそのような事を提案すると、いやいや、労働衛生が、とか、考慮しなければいけない事があるから、そう簡単には出来ません、と。言われる。私にはよくわかりませんが、それでも、研究データをみるとそのようなアドバイスをせざるを得ません。

この屋外のシチュエーションですが、スカンジナビア諸国以外での、データはありますか。アジアなどの

あります。これも、4月に発表されたものですが、ちょっと遡って、、4月7日ですね、大規模な研究で、武漢を除いた中国の大都市での320の集団感染を調査、318の分析をすることができました。1集団感染ごとに、少なくとも3つのケースが含まれ、合計で1245の感染者が出ています。この感染は、どこで起こったのか、という調査では、この318件のなか、1件を除いて全て室内での感染でした。 80%は、家族や世帯内での感染ですが、この調査が行われた期間、1月4日〜2月11日は、武漢ではもうロックダウンが3週間行われ、ほかの都市でも部分的にはロックダウンされていましたが、全ての都市ではありません。
318のうち、245は世帯内感染、108が公共交通機関、となっています。足すと、300を超えますが、これは、集団感染の状況を調査するなかで、なかにはどちらの可能性もある、というケースも含まれる為にこのような数になっています。 どちらにせよ、108、集団感染の34%が公共交通機関、14%がレストラン。 だからといって、ここからドイツのガイドラインに結びつける事はできませんが。
その他にも、ちょうど出てきた論文、これはプレプリントで、ロンドンのチームだったと思いますが、文献から、クラスターの感染経路を分析したものです。 メモしたので、それを読みますが、、、今まで、どこで、50人以上のクラスターが発生しているのか。 場所は、、、教会、労働宿舎、老人ホーム介護施設、客船、学校、スポーツ施設、バー、ショッピングモール、会議会場。 現在は、会議などはおこなわれていませんが、教会、労働宿舎、老人ホーム、、、これは、全てドイツでも聞いた事があるケースですよね。メディアをみてみると、大きな集団感染がこのような場所で起こっています。

公共交通機関もですよね。日常生活が戻ってくればくるほど、リスクも高くなってきます。どのようお考えでしょうか?バスは、窓を開けれますが、、、でも、基本的には、長時間密室にいることになりますし。

個人的には、ベルリンの公共交通機関が大好きです。他の都市でもそうでしょうが、、、しかし、今、言わなければいけないのは、都市部では、夏は、自転車、という選択肢があるだろう、という事です。郊外では少し事情が違って、車での移動が多くなるでしょう。公共交通機関、、、この評価は困難です。リスクついての考察は出来ますが、例えば、バスなどの車内の空調状況はわかりませんし、エアロゾルのリスクがあるのかどうか、、、地下鉄では、、、個人的に、香港や上海行くたびにワクワクするのですが、アジアの大都市の地下鉄はチューブになっていて、車両が分かれていません。走り出すと、前から後ろに強い風の流れができるのです。聞いたところによると、気流を使ってフィルターされている、との事ですが、このシステムだと、勿論、全て外に出されます、素晴らしい発明だと思いますね。しかし、、、ベルリンのU2をみると、、、旧型で、設備も古い為、市内は時速25キロくらいしか出せなかったり、、、かなり古い車両もまだ現役です。夏など、空調が止まってかなり車内が暑くなります。このような状況をどうしていくのか。これは問題です。鉄道はどうなのかも、わかりません。それよりは空気の入れ替えはあるのではないかと思われますが。

少なくともエアコンディションはついていますし。

固定された空調設備がありますね。通常は、、、私は技術者ではありませんが、空気の流れがかなりできるようですし、空気の入れ替えもされます。可能性としては、エアロゾル感染のリスクは低いかもしれません。有名なところでは、飛行機の機内です。機内でのエアロゾル感染のリスクが低いことは検証されています。気をつけなければいけないのは、飛沫感染で、感染者が座っている列の、前と後ろの数列、左右の席、この方向に空気が流れて行くことがわかっていますから、そこが危険です。機内全体がエアロゾルで充満する、という事はありません。そのリスクはない、という検証結果があります。

という事は、経済的な理由などで距離が確保できない場合は、マスクの着用などでカバーできるのでしょうか。飛沫感染を防ぐためにも。

そうですね。マスクによって、理論的には、飛沫が飛ぶ事を防ぐ事ができますが、実践経験からみても、エアロゾルが発生するにを防ぐ事も出来るでしょう。エアロゾルが発生する多くの場合は、まずは大きめの飛沫が飛び、それが床落ちる前に素早く乾燥して小さい粒子になって空中に漂う、というものです。この飛沫が、布地にひっかかり、吸われれば、エアロゾル粒子にはなりません。

始めの飛沫は大きい、ということですね。いままで、息をしたり、大声を出したりした際に、小さな粒子が放出されるものだと思っていました。

そこの境はありません。白か黒か、という事ではなく、グレーゾーンもありますから。しかし、飛沫粒子から始まって、乾燥しながら小さな粒子になる、という事は多いのです。そのような飛沫は理論的には防げます。

これからも、研究などで観察していかなければいけない事ですね。最後に、今まで、感染が起こっていた場所について。新しい論文がありますが、これは、いままでの対策などの基盤となっているデータを元にしたもので、二次感染率に関してのものです。例えば、子供が家庭内で感染した場合、それは、母親からなのか、それとも、出張から帰ってきた家族からなのか。データをみてみると、二次感染率は15%、と、素人目にみると、驚くほど低い確率です。家族間は接触しますし、感染の機会は多いと思うのですが。

それはそうですね。25〜35%くらいじゃないか、と思うでしょうね。実際に、インフルエンザではそのくらいです。新型コロナでは、低いのです。ここには、隠れた免疫、というのもあるでしょう。これに関しては新しい論文が出たのでまたの機会に話しますが、細胞免疫レベルで、普通の風邪との接触があった人達には新型コロナに対して有利に働くタンパク質構造がある、というデータがあります。しかし、これが唯一の理由である必要はなくて、先程の、分散、感染率の偏り、も理由のひとつであるかもしれません。 そう考えてみると、まずは、短い時間に高い感染力がある。長期間持続して感染力があるわけではないのです。感染力が強いのは1〜2日間の間だけです。

症状が出る前、ですね。

そうです。厄介なことに、症状が出る1日前が一番感染力が強い日なのです。これは、とても良い研究、香港のガブリエル・リャンのチームの研究からもわかりますが、基本的には、発症してから3〜4日には感染力が落ち、1週間後にはなくなります。それを、家庭内に置き換えて考えてみると、、、もしかしたら、親は一日中仕事で家にいないかもしれない。帰ってきて、子供と会うのは、晩に1時間、朝に30分程度。一番感染力が高い日に、子供を抱っこしたかどうか、ということが、子供が感染したか、しないか、ということを決定づけるポイントになるかもしれないでしょう。それに比べると、配偶者は、一晩中同じベットで寝ているわけですから、感染の確率も高くなりますよね。そのように、世帯内をみていくと、同居している叔母はどうか。晩に1時間程度顔をあわせるのが感染的にはどのくらいの接触なのか。日常のそのような事も考慮して上で、平均的に家族構成員が15%感染する、という結果は、多分、感染確率の偏りと、隠れた免疫の両方のコンビネーションの結果ではないか、と考えられます。

世帯内感染についての中国の論文がある、と言いましたが、子供についてのデータはありますか。年齢別など。先程、子供を抱っこした際、とおっしゃっていましたが、小さい子供は親との接触が12歳よりも多いですよね。

4月に発表された中国の論文はありますが、そこでの20歳以下の二次感染率は低く、全体の世帯内の感染率は14〜18%ほどで、20歳以下の二次感染率は5、2%と出ています。 ここで常につきまとう問題は、これが中国のデータだ、というところです。中国では、世帯内での隔離条件、というものが異なり、世帯内のインデックスケースは世帯から離されることになっていて、つまり、一次感染者は数日間ホテルに隔離されるのです。そのような状況の違いもあって、この二次感染率はドイツにはそのまま当てはめることはできません。違う論文では、もっとはっきりしていて、18歳以下は、4%、18歳以上が17%。これは、大きな違いです。
それとは対照的に、スイスの論文があって、これは、2つのグループに分けて調査していますが、再検査などもされた良い世帯内調査だと思います。20〜49歳のグループと、5〜19歳のグループに分けらたので、小学生以下の幼稚園児は含まれませんが、子供は、6%、大人は8、5%の二次感染率で、違いはほとんどありません。同じ、と言えると思います。 そして、スウェーデンの論文です。これは、スウェーデン語で発表されていますが、私は低地ドイツ語が出来る北ドイツ人なので、スウェーデン語もほとんど理解することができるのです。

英語のサイトもありますよね。

そうです。英語のまとめサイトはあります。もしかしたら、スウェーデンの家具チェーン店によく行っていたから、ということもあるかもしれませんが、、、、大体のところは(原文で)理解できました。 年齢は、0〜15歳、10〜29歳、30〜59歳、60歳以上、で分けられています。ランダムにPCR検査をしたところ、0〜15歳が、2、8%、、、ここでは、偶然に選ばれた人達を検査していて、志願者ではありません、スウェーデンでは、厳格な対策がとられていなく、激しい感染状況下に置かれています、、、 そのように検査した結果、0〜15歳が、2、8%、16〜29歳が、2、4%、30〜59歳が、2、6%、そして、60歳以上が、2%。 ここに違いはありません。ウィルスがどの年齢層にも同じように拡がっていることがわかるでしょう。ロックダウン下で行われた世帯内調査では子供の感染率が低いですが、学校が閉校しているなど、という理由もあり、常に注意深くみるようにしています。私達のウィルス濃度のデータから言うわけではありませんが、特殊な環境下(ロックダウン)で集められたデータは通常のデータではないからです。直感的に感じますが。 私達の喉の粘膜構造は、ほとんど皆同じだ、と思うからです。

最後にですが、日常のこと、そして科学的な背景についてお話いただきました。理論的に、、、日常生活での生活様式、特にエアロゾルなどに気をつけて注意深く生活すれば、このまま制限対策をしなくても夏を越せる可能性はあるのでしょうか。チュービンゲンでやろうとしていることですが。

可能だと思います。多分、今日の話題で一番重要なことかもしれません。常にアップデートされる新しい見解は、気温が下がるにつれて状況が悪化される、と見込まれる秋に関しても、新たな視野を広げてくれるでしょう。気温、、、ですが、イランをみてみると、今、とても暑いです。しかし、それでも、感染は爆発的に拡大しています。ここからみても、温度(の上昇)だけでは感染は止まらない、ということが言えるでしょう。しかし、温度が下がるにつれて上がるリスクの兆しはあって、それが、私が秋の懸念をしている理由ですが、それまでに、特定のハイリスク患者の周りの感染経路、接触者の隔離などにフォーカスすることによって、学べることがあるかもしれません。 全体の感染の20%が、80%の二次感染を引き起こしている、ということ。つまり、感染ケースの80%がたった20%の感染者から拡がる、ということになるのです。ここの部分に集中するべきです。
興味深い香港の論文があって、発表されたばかりなので、また違う回で詳細に触れることにしますが、そのなかのディスカッションで興味深い部分があって、一つ目は、この、リスク部門に集中して投資することによって、全体の流行をコントロールすることが可能であること。ワクチンなし、でです。このリスクには、健康的なリスクだけではなく、感染リスク的なものも含まれます。例えば、心臓疾患や高齢者だけではなく、職業的に大きなクラスター内に所属する人達、などです。ここをよくみてみると、早期の免疫などができているかもしれない。それによって、流行が思ったよりもはやく収束する可能性が出てくるのです。その可能性と希望があります。
二つ目は、この研究から違う結論も導きだすことができる、と。感染スピードは速いので、スーパースプレッディング現象によって起こった大きなクラスターが発見された際に、検査よりも隔離を優先する。検査をしている時間はありませんから、感染を封じ込めるためには、クラスターごと隔離する。このような対策で、全体の流行をコントロールすることができるのではないか。ということです。

光がみえてきた、という感じでしょうか。特に、夏に適した流行対策ですね。スーパースプレッディングと感染確率の偏りについては、次回、お話いただきたいと思います。またどうぞよろしくお願いいたします。


ベルリンシャリテ
ウィルス研究所 教授 クリスチアン・ドロステン

https://virologie-ccm.charite.de/en/metas/person_detail/person/address_detail/drosten/

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