ドイツ@Sars-CoV-2 コロナウィルスアップデート(特別編) 2022/5/17(和訳)

ハンブルク・エッペンドルフ大学病院 ウルリッケ・ラーベンス=シーベラー
イェーナ大学 循環器内科 ダニエル・フィルザー
聞き手 コリーナ・へニッヒ

ロベルト・コッホ研究所が発表するコロナ状況をみると、どの部分をとっても明確な下降傾向にあります。それは新規感染者数もそうですし、入院率、そして死者数も同様です。R値も完全に1以下、気候的にも夏効果が出てき始めています。しかし、パンデミックは決して終わったわけではありません。それは今後秋にかけて、ということではなく、現時点でも、ということです。3桁の発生指数は、若年層、特に子供達に負担をかけます。新規感染者は全ての年齢層において減ってきていますが、14歳以下の陽性率はまた上がっている、とロベルト・コッホ研究所が発表しました。これは、検査数に対してどのくらいの割合で陽性がでたのか、ということです。青少年、子供に関してはさまざまな報告がいままでにもされてきましたし、このポッドキャストでも取り上げてきました。残念ながら、このテーマは常に政治に翻弄されてきた、と言わざる得ません。激しく意見が対立し、責任の転換が行われることも少なくありませんでした。SNS、そして公の会見でも、子供の感染防止対策と社会心理的なサポートは相反するものである、とされがちでしたが、今日は少し子供について掘り下げていき、2つの異なる視点からみていこうと思います。2人のゲストをお招きしています。まずは、ハンブルク・エッペンドルフ大学教授、ウルリッケ・ラーベンス=シーベラー先生、先生は、ハンブルク・エッペンドルフ大学病院小児精神科、心療内科院長であり、Child Public Healthの委員長でいらっしゃいます。ここでは様々な子供と青少年の保健衛生関連の研究がされていますが、そのなかでも重要なものは、COPSYと呼ばれるコロナと精神医療の研究です。二人目は、イェーナ大学教授、循環内科専門医のダニエル・フィルザー先生で、先生は大学病院で小児科コロナ外来をされておられます。聞き手はコリーナ・ヘニッヒです。 

まず、専門分野に行く前に、どうして両先生を今日のポッドキャストのゲストにお呼びしたのか、という全体的な面からの質問からさせていただくことにますが、多くの国では、パンデミックにおいてどちらかと言えば成人層で厳しい制約、例えば、リモートワーク規定であったり、経済的な制約であったり、行動範囲の制約であったり、そのようなことがされたことによって、学校の再開がはやく実現しました。その点はどのようにお考えでしょうか?パンデミック下でのドイツにおいて、子供のサポートは十分に行われたのでしょうか?それとも、逆にお聞きすると、どのくらいのダメージが子供あった、とお考えですか?

ダニエル・フィルザー 私はパンデミック初期には、かなり子供には配慮なく事が進められていた、と感じます。つまり、子供が強いられた制約は大人のものよりも厳しいものであった、ということです。

ラーベンス=シーベラー先生、先生はパンデミックにおける子供の精神的なダメージに重点を置いて研究をされていますが、どのようにお考えでしょうか?どのように変わってきているのか、どれだけ子供について考えられているとお考えですか?

ウルリッケ・ラーベンス=シーベラー 私は、子供たちへの配慮はかなり後になってされた、と感じています。しかし、これは未曾有のパンデミックでは当然である、ともとれますし、まずは直接的な感染学的なところから対処せざる得なかったのでしょう。間接的な影響、つまり、対策が実際にどのような影響をもたらしているのか、というところに関しては、その後でわかってきたことです。初期に高齢者がフォーカスされていたのは、一番リスクが大きかったからで、あの当時には、対策自体がどのような影響を及ぼすのか、というようなところまでは誰も頭がまわっていなかったと思うのです。それがわかってきたのは後になってからです。これは重要なことです。ほとんど1年以上経ってから、レオポルディーナの声明によって、子供とその教育における影響について議論されることになりました。今年の2月に連邦政府の専門家会議から、パンデミックにおいての子供のケアを優先的に行うべきである、という報告書が発表されましたが、児童福祉、という視点は比較的遅れて出てきた、と考えます。

今日は、児童福祉とは何を意味するのか、という点もとりあげたく思っていますし、感染防止対策と社会心理的なケアがどのような関係性にあるのか。この分野は、別々に考えられたり、時には相反するものとして取り扱われることもあると思うのですが、先生は、第一波の5月と6月にCOPSY論文を発表されました。ここでは、1100名以上の子供と2600名以上の保護者の調査が行われていますが、当時、かなりメディアでも話題になった内容です。というのも、やはり、子供の立ち位置というものに徐々に関心がでてきていたからだ、と思うのですが、数的にはかなり衝撃的なものでした。ジャーナリズム的には、正しく報道された、と思われますか?

ウルリッケ・ラーベンス=シーベラー もう一度言わせてもらうと、、2020年の3月に、突然、たくさんの子供たち、、1300万人のドイツの子供たちの生活が一変してしまいました。子供たちの世界が崩壊した、と言っても過言ではないと思います。保育施設は閉鎖され、学校も休校し、公園にもはいれなくなりました。友達とも会えなくなり、親戚との交流も電話やソーシャルメディアでしかできなくなったのです。子供たちは日常生活においてそれまでできたこと、、趣味、習い事、スポーツなどが全くできなくなってしまった。ここで、先ほどの問いに戻るならば、、「どのような影響が子供にあったのか」という質問には、私たちの調査の前であれば、「勿論なんらかの影響はあったとしても、それも次第に落ち着くだろう」と答えていたと思うのです。しかし、出てきた結果は衝撃的で、明確なものでした。このあたりの報道はしっかりと行われた、と思います。大学病院が会見を行った際のメディアの注目度はかなり大きく、子供のテーマに目が向けられるきっかけとなりました。私たちにとっても想定外のことだった、と言わざる得ません。たしかに、論文のなかにはアジア諸国での厳しいロックダウンが子供のメンタルに悪影響を及ぼす、という内容はありましたが、ドイツではそこまでではない、というのがそれまで考えられていたことです。しかし、そうではない、というところがメディアでもとりあげられて注目された。その効果はあった、と私は考えます。

第一波からいくつか数値を上げるならば、例えば、パンデミック前と比較して、約倍の子供たちが生活の質の低下を訴えていて、十人に四人がそう感じている、と。三人に一人は、メンタルの問題を抱えていて、精神的なリスクがあるケースはほとんど倍増しています。これがかなり衝撃的な数値です。ここで、言ってみれば、突発的な精神的ダメージと臨床的な病像との違いはどこなのでしょうか?

ウルリッケ・ラーベンス=シーベラー まず言っておくと、この子供の精神的な変化の比較ができたのは、パンデミック前のデータもあったからです。このような研究は20年以上前から長期研究としてロベルト・コッホ研究所と共に、子供の精神状態と生活の質を調べることでされてきました。子供たちとその保護者を対象としたものです。ここも重要な点ですのでもう一度言いますが、「子供達の声を尊重する」というところに重点をおいてやってきましたが、パンデミックになり、子供の生活の質は一気に低下しました。パンデミック以前では、大体20%、十人に二人が生活の質に問題がある、と訴えていましたが、パンデミックになり、その割合は、倍、十人に四人です。これは、日常生活において様々な分野に当てはまることで、例えば、元気が出ない、とか、集中力に欠ける、とか、積極性に欠ける、とかそのようなことでしたが、特に深刻な影響を与えたのは、社会的なコンタクトが取れなくなってしまった、ということです。友達と会うことができなくなり、学校にも行けなくなって、将来的に不安を抱える子供も多くいました。自分の将来への不安と、友達、親友を失う恐怖が、一番の問題でした。勿論、これは全体的な精神的ダメージとしてスクリーニング診断の際に明らかになっていて、子供の精神的健康状態が低下している場合には、頻繁に感情や行動、関係へのダメージというかたちで現れてくるのです。ここで重要なのは、勿論、精神的なダメージが全て精神疾患に繋がる、ということではありません。ここも明確にされるべきところですが、ダメージがある、ということが直接疾患の診断に繋がったり、病気だと判断されるものではない、ということ。しかし、リスクは上がります。そして、パンデミックから2年経った今、相談案件は増えるばかりです。ダメージを感じた子供たちが全員病気になった、ということはないものの、多くのケースはまだ明らかないされていない、ということも確かなのです。

今日は、どのようなケースがあるのか、どのような場合にダメージがあり、どのような場合にはなかったのか。パンデミックをうまく乗り越えることができた場合とそうではない場合、というところの分類をしていきたく思います。そして、ケアについてもその後で取り上げたく思いますが、その前に定義的な説明ですが、精神的な負荷での振り分け、ということをおっしゃっていたかと思うのですが、COPSYでも、精神的異常、という定義がでてきます。ここでの、リスクの増加と実際の疾患の間違いはどこなのでしょうか?

ウルリッケ・ラーベンス=シーベラー 負荷はスクリーニング診断で計測が可能です。これは精神的異常のスクリーニングですが、ここでは、特定の数値がある一定のレベルになれば異常がみられる、と判断し、ここで診断がされるのか、それとも、何らかの方法がとられるべきなのか

詳細に入る前に、全体的なところで見ていきたく思うのですが、今までの3つの波をみていくと、先ほどの数は第一波のものでした。最後の波はこの間の冬でしたが、子供たちの精神状態にはどのような変化があったのでしょうか?一番はじめのロックダウン、、この言葉も国際的な比較から注意深く使わなければいけない、ということはわかっていますが、、少なくとも厳しい制限、という意味で、、その後の2020年秋、いわゆる「ロックダウン・ライト」つまり、そこまで厳しくはないものの長期的な制限の際です。最後の流行では、基本的な状況の変化はありましたが、子供たちのシチュエーションはどのように変わっていったのでしょうか?どのような様子でしたか?改善はみられたのでしょうか?

ウルリッケ・ラーベンス=シーベラー 始めの18ヶ月をふりかえると、3つに分けることができます。基本的に言えることは、最後、、第三波でのダメージは若干少なくなった、ということです。つまり、始めのダメージが長く続いた期間と、そのあとの状況が悪化した期間、そして、最後の子供の生活の質と精神衛生が改善された期間、です。同時に、不安や鬱、などの精神的な異常も若干少なくなりました。しかし、若干改善はされたものの、全体的にはパンデミック前と比べるといまだに精神的な負荷は大きいのです。現在でお、3分の1異常の子供と青少年が生活の質の低下を訴えています。精神性のストレス障害は、減るどころか増加傾向にあります。言えることは、パンデイックにおいて精神的なダメージは若干減ってきているものの、レベルは高止まり、コロナ前と比べると高いところを維持している、ということです。先ほどもご指摘があったように、様々な条件は異なりましたが、どうしてそうなのか、という原因の追究を試みてきました。勿論、2021年の秋には状況も改善されて、対策も緩和されてきた、ということもあるでしょう。発生指数も下がり、落ち着いてきて、感染防止対策も緩和された。つまり、学校も再開されて、友達に会うことも可能になり、習い事にも通えるようになったからです。それによって、始めの波と比べると、パンデミック自身も、状況の変化もそこまで不安の原因とはならなくなった、ということがみてとれます。

始めとその次の波との間では増加がみられましたが、対策的なもの、接触制限などはそこまで厳しくされませんでした。ここの説明はどのようにつくのでしょうか?

ウルリッケ・ラーベンス=シーベラー それはその通りです。ここでは増加がみられました。発生指数も上がったのですが、子供の精神的なダメージも上がりました。ここで言っておくべきことは、、第一波では全てが初めての経験だったわけですね。全てが恐怖に感じられましたが、発生指数はそこまで高くはなかった。第二波では、状況が悪化している、という気持ち的な実感があり、対策の強化が議論されていましたので、その影響はあると思います。とにかく、予測ができなかった、と言えます。あの当時は、まずは子供たちがどのように感じ、どのようなダメージを受けているのか、というところを知りたかったわけで、何がどのようにダメージを与えているのか、何がどう影響しているのか、という点に関してはまだ誰もわからなかったのです。そこから、2回目の調査をすることを決めましたが、その頃にはパンデミックも収束しているだろう、と。そう考えられていました。しかし、そこからまた状況が明らかに悪化していきましたから、3回目をその1年後にすることに決めたのです。その頃にはパンデミックは終わっているだろう、という予測に基づく判断でしたが、そこでまた数が増えていった、というわけです。夏が過ぎて、当初は1回の予定であった調査から長期的な調査になり、現在も続いています。パンデミックにおいては、予測不可能なことが多々ありロックダウン対策がどのようになっていくのか、というところは誰にもわかりませんでした。どうして2回目の調査時に増加がみられたのか、という点ですが、これは感染防止対策と関係します。接触も削減され、学校もまた休校になり、いつこれが終わるのか、ということもはっきりとしませんでしたから、それが不安の原因となった、ということは明らかです。

フィルザー先生、パンデミックにおけるダメージとは何なのでしょうか?対策によるものですか?対策だけが原因なのでしょうか?ウィルス自体の子供たちへの影響はありますか?小児科医の多くは、かなり長い間、子供にとってはウィルスは大して危険ではない、としてきました。しかし、根本的なパンデミックの条件が制限を生み、特に感染防止対策、先ほどもラーベンス=シーベラー先生はおしゃったように、接触制限、学校の閉鎖、などそのような第一波の際に実行されたこと、発生指数自体は高くなかったために子供の感染者は今と比べてあまり多くはありませんでした。オミクロンになってからは、数的には大変多くいまだに高いレベルをキープしていますが、対策は解除されています。今の状況をどうみていらっしゃいますか?子供の負荷となるものは、対策、疾患負荷、そして感染者数、ということになるのでしょうか?

ダニエル・フィルザー 変化があった、ということは確かです。先ほどもご指摘されたように、始めの頃の子供に対する厳しい対策、、ウィルスの拡大的にはあまり効果的、とは言えなかった対策が与えたダメージは大きいでしょう。今現時点で、、オミクロンになってからは、アルファやデルタや野生型にくらべると疾患経過は軽度になっていますが、これは大人の場合だけではなく、子供でも同様です。対策も感染者数との向き合い方も変化しました。まだマスクの着用や、検査、そして隔離、というものは残っていますが、、残念ながら、現在は、高い感染者数によって、実際の疾患からの影響が一番大きい、と言えると思います。

発生指数が高いとそうなりますね。先生は、ウィルスがもたらす長期的な後遺症を外来で診ていらっしゃいます。どのような疾患経過が子供や青少年にはみられるのでしょうか?そこまで軽症では済まない、ということを周りの友達などの例から聞くことが多くなってきていますが、、

ダニエル・フィルザー 軽度の疾患、という定義ですが、、入院する必要がない場合は全て、軽症、ということになります。つまり、自宅で高熱が何日も続けば、それを軽い疾患経過だとは思えないでしょう。この辺りが過小評価されています。しかし、定義的には、軽症は軽症です。数年前からいままでの病院でのケースをみてみると、やはり一番頻度が高かったのがSARS-CoV-2ウィルスによるものです。これは単純にこの病原体による疾患負荷があることと、急性疾患であることによりますが、子供では疾患経過は軽症です。死亡に至ったケースは大変稀で、このウィルスとの関係性が疑われるケースは100以下です。PIMS、小児COVID-19関連多系統炎症性症候群も少しありますが、これもデルタに比べると、オミクロンでは明らかに頻度が下がりました。しかし、その代わりにLong Covid、というブラックボックスがあります。

若い世代での高い発生指数は何らかのメンタル的な影響を与えた、と言えますか?大人ではよく「もう感染した?それともまだ?」というような会話がありますが。

ウルリッケ・ラーベンス=シーベラー 勿論、罹患する不安の度合いも調査しました。確かにこれは重要だと思いますが、それよりも子供や青少年で重要な意味を持つのは、感染防止対策への不安です。つまり、自分が罹るかもしれない疾患そのものではなくて、家族に対する不安、おばあちゃん、おじいちゃん、親などが感染するかもしれない、という恐怖のほうが強い。ここの影響はあります。メンタル的な障害は、疾患と直接関係性ではなくて、どちらといえば感染削減の対策からきている、と言えます。

フィルザー先生、先程、Long Covid 、もしくは Post Covidは未成年の間でのブラックボックスだ、と仰いました。この辺りを見ていきたく思うのですが、大人のLong Covid と Post Covidの定義はWHOで期間別に定められています。つまり、症状が急性感染から最低3ヶ月持続する、もしくは新たに発生する必要があります。これは子供や青少年の場合も同じなのでしょうか?それとも子供は別ですか?

ダニエル・フィルザー 子供もほとんど同じです。ドイツ小児医療専門家会議でドイツ国内における定義について議論しましたが、結果はかなり近いです。

そもそも、子供にPost Covidがあるのかどうか、という点で疑問を抱く人は一定数いますし、小児科医にもいるようです。しかし、少なくともティーンエイジャーにはきちんと計測ができるかたちで存在することは確かです。12歳以下に関しては、まだはっきりとしないところ多いですが、外来でどのような経験をされましたか?どのようなケースがあるのでしょうか?

ダニエル・フィルザー イェーナでは、去年からこのテーマを取り扱っていますが、初めは子供には関係のないことである、という意見の医師が多かったのです。現在では、エビデンスがあるケースの数が大変多く、子供は関係ない、とは言えない状況になっています。就学児にはあるが、幼児にはほとんどみられない、という人もいますが、医療ではそのように白か、黒か、というように片付けることはできません。はっきりと言えることは、年齢が小さくなるにつれて頻度も下がっていく、ということです。私たちの病院でもその傾向はみられますし、文献でもそのようにあります。しかし、12歳以下はない、というのは間違いです。頻度は低いですが、存在することは確かですし、問題として受け止めなければいけないことも明らかなのです。

それは、全ての年齢層、乳児も含め、ということでしょうか?何歳児まで外来にきますか?

ダニエル・フィルザー 私たちのところで一番小さかったのは、生後9ヶ月でした。その子は、感染後に不眠障害が起こり、無呼吸と呼吸障害が出ていました。呼吸が上手くいかない、ということです。これは他のウィルスでも起こり得ることで、Covidだけにしか起こらない、というものではありません。年齢が小さくなればなるほど、このLong Covidの症状を診断したり、聞き込みをすることが困難になってきます。2歳児は、集中力の低下があっても説明できないでしょうし、Brain Fogの有無もわからないでしょう。疲労症状の確認も難しいです。大人であれば簡単なことも、子供、特に年齢が低くなればそれだけ診断も困難になります。

子供は問題ない、と言われていた頃から、どこかの段階で、やはり子供にも問題が起こる可能性がある、と確信した時の事を覚えていらっしゃいますか?数はそこまで多くはないにせよ、です。

ダニエル・フィルザー 外来にくる小さな子供のケースは初めの頃からありました。年齢別にはそこまで考えたことはなかったのですが、子供にも問題が発生することはある、ということ、それと向き合う必要があることはわかっていました。どの年齢層が多いのか、という点では、圧倒的にティーンエイジャーです。私は、ここに思春期の前後との関係性があるのではないか、と考えています。思春期前、、11歳、12歳ですが、そこよりも思春期のほうがリスクが高い、と言えますが、これも徐々に明らかになってきたことです。

先生の外来は2021年の春に設置されましたが、どうして必要だったのでしょうか?どうして、いままでのように普通の病院で診断、治療がされることが困難になったのですか?

ダニエル・フィルザー 秋から始まったのですが、まずは、2、3人、体育系の高校に通う高校生がきていたのですが、、そのような場合は身体の状態の把握がしやすい、というのと、コロナ罹患後に以前のようにスポーツが出来なくなった、という背景がありました。スポーツは成績で判断しやすいので、対象としては適しています。まずは、循環器の検査を心電図と超音波でしました。心臓には問題はなかったので、次に呼吸器の検査、、私たちの病院では同じ並びで隣の科なのですが、、そこで数日後に検査をした結果、やはり、そこでも何も異常がなく、今度はリウマチ科に行かせようか、、という話にもなりましたが、結局また小児科に戻る、というようなことが日に日に増えてきました。ある日、他の科の医師たちと廊下で「今のような状態はよくない。これでは単にたらい回しにしていることになってしまう。小児科に全てを押し付けるのも正しくないし、どこか改善をしなければ」ということになりました。そこで、全ての小児科の専門科をまとめて、プログラムをつくったのです。Covid罹患後にダメージのある臓器はどこか。どこを特によくみるべきなのか。その点に重点をおいたプログラムをつくりシステム化された診断ができるようにしました。

先程、どれだけ困難か、特に小さい子どもでは難しいと仰っていました。Post Covid やLong Covidなのかどうか。大人を対象にした論文のなかでも様々なデータがありますが、徐々に大きく2つに分けることできてきました。子供の場合はそれよりももっと困難で、そもそも数週間、数ヶ月前の感染との関連性をみつけていくのも容易ではありません。どのあたりに注意すべきなのでしょうか?特に防止、という面ではどうでしょうか。感染した子供がPost Covid やLong Covidになる割合などは論文から把握できますか?

ダニエル・フィルザー 大人の場合には、10%、と言えます。はっきりと言えることは、子供はそれよりは少ない、ということです。この点ははっきりとしています。それ以外は、まだ論文ごとに差がありますが、コントロール群をもって、ロックダウン効果、パンデミック効果の数値を出す試みがされた論文によると、大体0,8から13%。とはいっても、論文の多くは3%くらいの域です。私がどこかの数値に決めなければいけない、とすれば、感染から3ヶ月後に後遺症が出る確率は子供の場合には1%、とすると思います。

ということは、感染からすぐにはもっと高い確率、ということになりますね。そこからまた少なくなる、ということでしょうか?

ダニエル・フィルザー そういうことです。4週間後には数的にはもっと多いですが、これは、「また元通りになるチャンスは大変高いので、完全に治るまで身体に時間をあげましょう。」ということですし、3ヶ月経ってもまだ問題がある場合には、元通りになるまでにもう少し時間が必要だ、ということです。

年齢でかなり差があるとすれば、、ドイツ国内の未成年で全体の1%、としても年齢層の分布はまちまちです。つまり、年齢とともに直線的に増えていく、ということでしょうか?思春期までで、8%とか10%とかになる、ということですか?

ダニエル・フィルザー それでもまだ大人よりは頻度が低いと思われます。それでも、リスク面でみると、15〜17歳の女の子では、10%の域にいくとは思います。10%弱、だとは思いますが。

女の子、というところが強調されていますが。

ダニエル・フィルザー そうです。大人と同様、女の子のほうが高いです。

様々な論文がありますが、デンマークから良いデータが出されていますし、イギリスのデータもこのポッドキャスト、そして興味のある方々はご存知なのではないでしょうか。このデータには差がありますが、これは調査がそもそも大変困難であるからです。このような研究の根本的な問題点というのはどこなのでしょうか?感染していないケースと比較をしていかなければいけない、と思うのですが。

ダニエル・フィルザー そのあたりも大変困難です。初めの論文では、60%近くで症状が認められていましたが、ここでは比較群がなく、質問内容も比較的簡単なものでした。「4週間以内に頭痛はありましたか?」というようなもので、それがあったら、Long Covidだ、というような、、このようなアンケートで疾患を見つけるのは大変難しく、最終的には200もの症状との関連性が疑われましたが、アンケートで実際に「感染以前はどうだったのか」「どのあたりに変化がおきたのか」ということを聞くのは、問診で行うのとは異なりますし、問診であれば、症状ごとに聞き取りをしていって、「それは前にはなかった新しいものか」「以前にもあったものか」「ここは重要な点なのか」というところを明らかにしていけます。これはアンケート形式では無理です。このハンディキャップはあります。さらなる問題は統一されていない定義です。4週間後もあれば、8週間後のものもあって、12週間後というのもある。どのくらいの間隔なのか、というのがLong Covidにおいてはかなりばらつきがあるのはわかっていることですし、症状がでたりでなくなったり、を繰り返すこともよくあることですから、ここで「ここ数日間でどのような症状がありましたか?」という質問をするのは意味がありません。そのように聞いていっても、実際に重度のケースを見逃してしまうことも多いと思われますが、だからといってそれを過去3ヶ月の間、としたならば、今後は該当するケースが大きくなりすぎるでしょう。この辺りは大変難しいところです。

コントロール群、という定義をとってもそうですよね。つまり、どのような人たちがそのなかに含まれているのか。どの程度基礎疾患を持った子供が含まれるのか。コントロール群の子供たちはどのくらいの期間中に症状があったのか。これらの因子はすべてデータの歪みを生じさせる原因となり得ますね。

ダニエル・フィルザー そうですね。コントロール群の多くをマッチングさせる試みはされます。つまり、本当に感染者に当てはまるのかどうか、というところと、それか、大きな集団の平均値をとるか、通常の集団にするか。考慮されなければいけない点は、今のような高い発生指数時にこのようなアンケートをした場合に、学校でPCR検査が陽性になった子供たちを、血清検査による過去の感染の有無を調べない状態でコントロール群にすることはできなくなっている、というところです。ここまで広範囲で感染が拡がってしまうと、それ以前の感染がなかった、という点のチェックをコントロール群でもしていかなければいけません。

子供の場合には取りこぼしも重要な因子になりますよね。どこから信憑性があるデータがとれるとお考えでしょうか?どの論文とデータですか?先ほど、デンマークでLong Covid Kids調査がある、と言いましたが、イギリスでも、CLoCKというものがありますし、スイスとイタリアからも論文は出ています。

ダニエル・フィルザー アンケート形式によるデータで一番大きいのはデンマークのものです。システムもかなり良いもので、PCRが陽性のケースを対象にしていますから、基本的には国民全体を対象とするものです。デンマークではそのようなことがドイツよりも容易にできます。イギリスのCLoCKも大変素晴らしい論文で、数千人の子供を対象にしていますから大きなものです。ここからも、コントロール集団の規模が重要なことがわかると思いますが、というのも、最終的にアンケートで症状を訴える約60%の子供がLong Covidの疑いがありますが、コントロール群でも50%だからです。その間の差をとった13%を、「このくらいの割合の子供がLong Covidになる」としています。ドイツの論文でも、2020年の健康保険データを分析したものがあり、そこでは、感染後にもう一度診断されるリスクの度合いが出されています。例えば、咳や疲労です。そこでのリスクは、1,3、コントロール集団と比べて、です。

これはドレスデンの論文ですよね?

ダニエル・フィルザー そうです。

これらのデータを世界的に比べるとどうなりますか?その国の保健衛生の状況も関係がある、と思われます。例えば、アメリカのデータはそのままドイツに当てはめることは難しい、と言われますが。

ダニエル・フィルザー そうだと思いますが、先ほど出た国、例えば、デンマークなどは似たような環境ですし、イギリスもそこまで違いません。そして、1つの論文はドイツのものですから、、勿論そのまま使えます。アメリカのものは、確かに困難な場合はあります。例えば、PIMSをとっても、アメリカでは1〜2%の致死率、かなり高いPIM症候群での致死率ですが、ドイツではまだ一件も死亡ケースが出ていません。少なくともそのような報告はありません。

理解を深めるために、数をもう一度比較したく思うのですが、感染した子供達の約1%がPostもしくは、Long Covidになる、となると、数的にはあまり多いようには感じません。しかし、高い発生指数に置き換えて計算してみると、、例えば、指数が400だとしたら、、毎週、550のLong Covidのケースがでる、ということになりますよね?500万人の感染者では、5万人のLong Covidケースです。

ダニエル・フィルザー そうですが、回復もします。幸いなことに、生涯ずっとその症状が続くことはないと思われますが、まだ発見してから2年です。ということは、長期の観察データ、というものもまだ存在しません。しかし、500万人の感染者のうち、5万人に後遺症がでることになると、勿論これは莫大な数です。

しかし、症状が大変多様である、ということもあります。これから少し詳しく診ていきたく思うのですが。

ダニエル・フィルザー そうですね。子供たちの全員が重症、ということではない、というところは重要です。

全員が、慢性疲労になって学校に行けなくなるわけではないですよね。その割合は多くはありません。少し倦怠感があったり、味覚、臭覚障害が少し続いたり、というようなケースのほうが多いですよね。

ダニエル・フィルザー そういうことです。

どのような子供たちが多いのか、ということはわかっているのでしょうか?ラーベンス=シーベラー先生の研究データから、社会経済的な背景がリスクと関係している、ということがわかっていると思うのですが、Post、もしくはLong Covidに関してのデータもあるのでしょうか?

ダニエル・フィルザー 私が知る限り、なんらかの関係性が社会経済的な構造とある、というデータはないと思います。

メンタル面ではまた違ってきますよね。

ウルリッケ・ラーベンス=シーベラー そうですね。そこでは少し異なります。社会的なハンディキャップを抱える子供たちがパンデミックから受けるダメージは大きいです。そのような子供たちは、恵まれていない家庭、経済的な術をあまり持たない場合、移民背景があったり、というような環境にいます。特に、狭い生活空間にいる場合です。さらに、パンデミック前にも負荷がかかっていた子供たちに特に大きな負荷がかかっている、と言えます。そして、保護者が精神的な疾患、もしくはメンタルの問題を抱えている場合。これはリスク因子のなかでも重要なものであると思います。そのような家庭の子供たちは、パンデミックにおいて、倍以上の割合で、ダメージがあったり、鬱の症状を訴えたりしていて、精神的障害においては3倍です。勿論、このような子供たちはパンデミック前から、健康上の問題を抱えてはいたと思いますし、大人を対象とした調査でも、社会的背景との関連性はわかっていますが、パンデミックによってそれがさらに浮きぼりになった、と言えると思います。家庭環境に問題がある子供達、ネグレクトの傾向があったり、相談する相手がいない環境では特にそうです。周りの世界が壊れた際に、最後に残るのは親、そして家庭です。その最後の砦である親に問題がある、、家にいない、、その理由は様々だと思いますが、、そうなるとこれは問題です。

さらに、学校でも問題を抱える子供が多いですよね。リモート授業の影響、そこでのサポートが得られなかったケースとの関連性もあるのでしょうか?

ウルリッケ・ラーベンス=シーベラー そうですね。家庭でのサポートがなかった場合です。そのように十分な教育が受けられない部分をどのようにカバーしていくのか、という議論は長い間行われていませんでした。学校がベストをつくしていた、というのは間違いないと思います。しかし、ばらつきがあることも確かです。生徒との交流とサポートに努めた先生もいれば、理由はなんであれ、、あまりうまくいかなかったケースもありますから。偶然かもしれませんが、とにかく、まだしっかりとした構造ができていないことは確かで、これは別に授業内容とかではなくて、それよりも生徒とどのようにコミュニケーションをとるか。モチベーションの問題だと思うのです。ここが一番重要で、そうしないと、完全に孤立してしまって、学校との繋がりが途切れてしまう生徒がでてきてしまうからです。

社会の脆弱性、というと、高齢者を思い浮かべますが、パンデミックにおいては、子供にも当てはまります。健康的な面、メンタルの面、そして教育面で、です。

ウルリッケ・ラーベンス=シーベラー 勿論そうですね。脆弱性という意味では、常に子供はそのような立場だと思います。単純に発展における課題を多く抱えているからで、自主性であったり、自信であったり、能力を身につけていかなければいけません。脆弱な期間です。勿論、環境面でハンディキャップがある子供達は余計そうだ、と言えます。

COPSY論文では、鬱症状や「この状況を処理することができない」という不安だけではなくて、心因性の障害のデータもあります。頭痛や腹痛などが子供の場合の典型的な症状ですが、これは様々なグループでどのような違いがあるのでしょうか?

ウルリッケ・ラーベンス=シーベラー 精神的な負荷が心身症状として現れる、ということは多く、これが心因性の障害、ということになりますが、具体的な質問をしました。例えば、気分がすぐれない、頭痛や腹痛、集中障害、先ほど、フィルザー先生も仰っていたように、不眠、睡眠障害、過敏障害などは、パンデミック前と比較すると倍増しています。ここでも、社会的に低い層、、そういう言い方をここではしましたが、、その層の子供達の率が高いのです。

そこにはPost-Covidのケースも含まれるのではないでしょうか?ここで重なる部分はあると思うのですが。

ウルリッケ・ラーベンス=シーベラー そうですね。先ほど、フィルザー先生のお話の際に私も思いました。この辺りを分けることは大変難しいです。フィルザー先生が、方法の困難度もあげていましたし、単純にLong Covidを他のパンデミックの影響と分けて考えるのも難しいのです。というのも、Covidに罹患していない子供達にも、いわゆるLong Covidの症状がでることがあり、倦怠感であったり、不眠、頭痛などを訴えるケースはあります。ここでの問いは、これは、Long Covidなのか?それとも、パンデミックによるメンタルのダメージなのか。この辺りの区別は大変難しいです。さらに、誰がCovidの罹患歴を持つのか、というところで、血清検査で確認をとりながら調査していかなければいけませんし、どのように区別していくのか、というところは簡単ではありません。しかし、私的に重要なのは、子供のダメージは大きい、ということ。それに対する対処、そして、ダメージを小さくする努力をしていかなければいけない、ということが重要であって、いわゆる原因は二の次です。

フィルザー先生、先生は外来で様々な方法をつくってきていらっしゃると思うのですが、それは広範囲での専門分野間の連結が必要な場合には明確な構造が診断の際にも不可欠になってくるからです。外来には、感染後に精神的な症状、神経症的症状を訴えるものの、最終的には「これはPost Covidではなく、別の疾患だ」と診断し追い帰すケースもあるのでしょうか?

ダニエル・フィルザー 追い帰したりすることはないですが、、診断の結果、別の病像に分類されるケースはあります。ラーベンス=シーベラー先生もおしゃっていいたように、Post Covidと他の障害症状を見分けることは大変困難なのです。正直なところ、この辺りの区別をそこまでしない場合もあったりします。というのも、子供達には症状があり苦しんでいるわけですから、まずは、治療が必要な疾患があるかどうか、というところを明らかにすることを優先すべきです。これが一番重要なところです。例えば、心筋炎などを見逃すわけにはいきませんし、肝疾患も同様です。そこの診断が大事なのです。

追い帰す、というのは、家に帰す、という意味ではなくて、別の科にまわす、という意味でした。具合が悪い、ということには変わりはないので。

ダニエル・フィルザー 何が原因であろうと、そこは需要です。子供の場合には特に、もう何週間も症状に苦しんでいるのにも関わらず、誰にも理解を示してもらえない、というケースも多いからです。そのような子供達をなんとか助けたい、という気持ちです。心因性のものである場合も多いので、そのような時には「これは多分Post Covid症候群ではなくて、どちらかと言えば心因性のものでしょう」という場合もあります。心因性疾患に関する専門分野はありますし、ホルモンの乱れなどからそのような疾患になることもありますから、例えば、イェーナにも心療健康センターがありそこで治療ができます。私は、ここで白か、黒か、心因性かウィルス性か、というところをはっきりさせるのが重要ではない、と思っていて、多くのグレーゾーンが存在する、と思っています。そして、どのように子供達を助けていくことができるのか、ここをみつけることが重要です。

心因性への公の理解はどうなのでしょうか?「そんなの、気のせいだよ」という人も多いと思うのですが。

ダニエル・フィルザー 多分、私たち二人への質問だと思うのですが、、私から始めますね。私は、精神的疾患へのスティグマは、残念ながら社会的にあると思います。つまり、真剣にとられない、ということは多々あり、議論の場などでもみられることです。Long Covid やPost-Covid症候群であれば、ウィルス、という本物の原因がある。しかし、心因性であるなら、「気のせいであるから、頑張って乗り越えろ」と。このようなやりかたは、悲劇的だと思います。

ウルリッケ・ラーベンス=シーベラー 私もそう思います。もう一度言いますが、心身症状なのか、精神的なものなのか、というところでの対立はすべきではありません。というのも、結局のところ、身体と精神は一緒なわけで、ここを区別する、ということは無意味なことです。精神的な疾患、うつ病であったり、パニック障害であったり、人格障害のようなものには、頻繁に心身的な症状も併合して出てきます。これは、純粋な神経障害だ。これは純粋に心身的な障害だ、と分けて考えることはできません。この分野は長い間医療において分けられてきましたから、そこも困難である理由ではありますが、特に子供の場合には、理由がわからない症状が多く、専門分野の枠を超えた診断、というものが不可欠になってきます。フィルザー先生もご指摘されていたように、臓器のダメージがあるかどうか、というところは始めに明らかにさせておかなければいけませんが、倦怠感であったり、虚無感であったり、集中障害、睡眠障害、頭痛、腹痛、などは様々な視点からみていくべきです。しかし、負荷が原因であることは明らかですから、それを様々な方向からみていくべきで、「精神的なものは、気のせいなんだから大げさだ」と一言で片付けるのは困難ですし、治療が受けられない、ということにもなりかねません。

ここでは2つの異なる視点があると思います。まず、患者の個人的なケース、診断から、ここでの区別をすべきかどうか、と考える場合と、現時点での研究の知見段階です。研究としてのPost やLong Covidは、すべてを同じところに入れてしまうのではなくて、ウィルス性のものと、そうではないものの区別は必要だと思います。とはいっても、まずはメンタルヘルスについてみていくと、社会的に弱い集団、子供達がいますが、保護者のなかには、「私の子供達は全員よく乗り越えることができた。苦労なく育ったからに違いない」と考える人もいるかと思うのです。子供の適応性、というものは、パンデミックにおいてどのような意味合いを持つのでしょうか?

ウルリッケ・ラーベンス=シーベラー 大変重要なポイントだと思います。COPSYでは、分類の他にも、、つまり、メンタルヘルスのダメージをみるだけではなく、子供達の健康には何が不可欠であるのか、という点もみています。家庭環境に恵まれている子供達のほうがパンデミックのダメージが少ない、という傾向はわかっています。家庭環境が安定している場合のほうが、危機を乗り越える能力が高いので、子供達を精神的障害から守るため、生活の質を上げるためにこの部分が大変重要なのです。家庭の絆には実際に保護効果があり、精神的な安定を促す、ということはは前からわかっていたことではあるのですが、実際に、どれだけの力があるのか、というところには何度も驚かされるところです。子供達の居場所が家庭にあり、自分は、愛されていて、援助され応援されているという実感があること。明確な1日の流れがあり、生活のリズムが安定していれば、多くのリスクを回避することができます。これらがリスクを抱える家庭の子供達に対しても保護効果がある、ということを実際に目の当たりにしましたので、これは大変喜ばしいことだと感じます。さらに、家族内の絆が深ければ、たとえ、住居が狭くても、経済的に恵めれていなくても、子供の危機を乗り越える能力は高い、ということがみられます。

ここから、社会的な今後を考えても、大変重要なポイントですよね。パンデミックのような難しい状況を乗り越える場合にも、ですし、勿論、次のパンデミックがそう近い将来には起こらないことを祈りますが、、やはり、家族の絆、という面では今まで以上に重点を置くべきなのでしょうか?

ウルリッケ・ラーベンス=シーベラー そうですね。これは、パンデミック、コロナだけに当てはまることではなくて、根本的な保護因子であって、基本的に危機下において、家族が、、子供や青少年を含め、家族が向き合っていかなければいけないことだと思います。コロナの後に、こんなにはやくウクライナ危機が来る、とは思ってもみませんでしたが、環境問題でも、子供、青少年はテーマのひとつです。単純に考えて、不安なシチュエーションではあります。インフラの構造のほかにも、家庭環境を整える、ということも予防対策として不可欠になっていくと思われます。これに関してはまた後ほどふれますが、家庭の環境が良ければ良いほど保護効果が上がるわけですから、予防対策としては、家族と子供がいるところ、例えば学校などで強化するべきでしょう。

キーワードは学校、です。といっても、私は個人的に議論の場では、学校だけにフォーカスされがちだったのではないか、と感じることもありました。そのほかにも、接触制限対策なども大きな影響があったと思いますし、例えば、放課後の運動などもです。高い発生指数との関連性もありますが、子供の肥満もCovid-19疾患の重症化のリスク因子です。どのような知見がこのパンデミックにおいてでてきたのでしょうか?食生活、運動のかわりにコンピューターなど、変化したところはありますか?ここ数ヶ月で改善はみられましたか?

ウルリッケ・ラーベンス=シーベラー 精神的な障害のほかにも、健康面の調査をできることならもっとやりたかったです。パンデミックにおいての変化はあり、先程、食生活をあげられてましたが、子供、青少年もパンデミック中は食生活の乱れがみられました。過剰なお菓子の接種ですね。それと同時に運動量も減っています。1日に1度は適度な運動が推奨されていますが、それもほとんどされていませんでしたし、多くの場合には家から外にでる、ということもしませんから、メディアの消費も多くなりました。とはいっても、これは諸刃の刃であって、以前から過剰なメディアの消費への警告はありましたが、学校や友達との接触を維持するためには必要な媒体です。スクリーン前の時間が多くなれば、満足度も減り、依存傾向になりますが、パンデミックにおいては子供達はこのメディア媒体を利用することによって友達や学校とのコミュニケーションを図っていたのです。手段の目的を変換した、と言えるでしょうか。良い方法であり必要な方法でもありました。二回目の調査の際の運動量が減っていた、という結果も出ていますが、ほとんど全てのスポーツ施設が閉鎖されていたのですから、それは当然のことだと思います。40%ほどの子供が全く運動をしていませんでした。パンデミック前は、4%です。運動量の低下は見て明らかだと思います。ですから、二回目の調査の際、ロックダウン中に精神的にあまり良い状態ではなかったのは当たり前です。運動は精神の安定にも良い、ということはわかっていることですから、運動不足になると精神状態も不安定になりがちですし、鬱のような状態になることもあります。

三回目の調査時ではその点の改善はみられたのですよね?

ウルリッケ・ラーベンス=シーベラー 三回目には改善されていました。単純にまた施設などを使えるようになったからです。スポーツイベントも可能になりましたし、学校も再開しました。夏の間も状況が改善したことによって、健康状態もよくなっています。食生活にはあまり変化はありませんでした。パンデミックにおいて、子供達の摂食障害の報告が出ています。拒食症と過食症の両方です。

最新の調査の結果は出ているのでしょうか?

ウルリッケ・ラーベンス=シーベラー まだ分析されていませんので詳しいことはお話しできませんが、この間、初めて摂食障害というポイントが出てきましたのでそのあたりは詳しく調べるべきところです。というのも、それまでは質問のポイントが、お菓子の摂取などに限られていましたので。それが、摂食障害のケースが増えてきたためにまたスクリーニング方法を増やしました。

調査は終わっていますか?

ウルリッケ・ラーベンス=シーベラー 一応終わっていますが、まだデータの処理が終わっていません。夏までには終わるのではないか、と思います。

フィルザー先生、運動と食生活がもたらす保健衛生面の基礎状況への影響はどうでしょうか?ウィルスからの後遺症との関連性はありますか?

ダニエル・フィルザー ウィルスとの関連性、という点ではわかりません。これが、メンタルは勿論のこと身体への影響も大きい、ということは言うまでもないことだと思います。私は小児循環器の専門医ですから、長期に渡って運動をしないことによる悪影響はわかっています。金銭面の問題からスポーツクラブを解約する、というようなこともあるでしょうし、残念ながら、定期的なルーチンがなくなれば、またそこから復活するのが難しい場合も多いです。運動不足は肥満につながりますし、そこからまた問題が発生します。循環障害にも発展する場合もありますから、子供達がまたコンピューターの前から移動して運動するようになることを祈ります。そう簡単ではない、ということはわかっていますが。

私の記憶が正しければ、、私もPost Covidの文献でそのあたりの関連性をあげているものはなかった、と思います。しかし、主観的にみて、外来に来る子供達で目立ったことはあるのでしょうか? 運動不足であったり、食生活面での問題であったり。それとも、普通の子供達と差はないのでしょうか?

ダニエル・フィルザー 私は、普通の子供達の平均と差はないと思います。この質問にお答えするのは少し困難なのですが、これは少し疲労症候群とも関係があると思われます。というのも、そうなれば負荷をかけることが困難になりますので、そのように、少しの負荷で息切れがしたり、めまいがする場合には運動をすることも難しくなってきますから、ウィルス感染前の食生活などについて質問することはありません。

症状、という点でみていくと、このポッドキャストの別の特別回でもLong Covid とPost Covidの症状に関しては取り上げてきました。それは大人の場合でしたが、子供も似ていますよね?

ダニエル・フィルザー 基本的には同じです。若干の違いはあるかもしれません。大人の場合と同じように、多くあげられる症状は疲労症状、負荷範囲の低下、嗅覚、味覚障害、呼吸時の障害などです。Brain Fog、集中力の低下や思考障害、処理能力の低下、痛み、頭痛、関節痛、腹痛、胸の痛み、動悸、めまいなども、大人の場合と同様、子供にもみられます。

子供の場合にも、いくつかの症状が同時にでるのでしょうか?つまり、慢性疲労の場合にはそのようなことが想像できますが、それよりも軽いケースでも、3つ、4つの症状があったりするのでしょうか。

ダニエル・フィルザー そうですね。少なくても、2つ、3つ以上の症状があるケースがほとんどです。ただ、はじめから直接私たちの外来に来る、というケースはなく、その前に小児科に行くことを勧めています。私たちの判断だけでみることは避けたいですし、そうすることによって、いわゆるフィルター効果、超軽症のケースはこの外来には来ないようにもしているのです。そのような理由もあって、外来にやってくるのは、複数の問題を抱えている患者だ、ということもあります。

もし、私が自分の子供を連れて先生の外来に行ったとして、、感染は3週間前、持続する倦怠感と頭痛がある、とします。その場合には、まだはやい、ということになりますか?感染から3週間しか経っていないので。

ダニエル・フィルザー 感染から3週間で私たちの外来に来る、ということはありません。もし、来てしまったら、、何かの手違いでしょう。実際には、4週間以内のケースでは、症状が別の重い疾患の疑いがある場合のみ、です。例えば、2週間後に、動悸が止まらない、心拍数が、200を超えている、などそのような場合には、勿論診療します。感染から引き起こされた心筋炎でない、ということを確認する必要がありますので。しかし、その他のLong Covidの典型的な症状の場合には、まずは4週間、、6週間、8週間くらい待つことをお勧めします。

診断の際には、治療法などの面からも様々な専門分野に渡る決断が必要になってくるのではないでしょうか?血液検査などで、バイオマーカー、炎症マーカーなどもみられるのでしょうか?

ダニエル・フィルザー 今のところ、少しやりすぎだ、といわれるかもしれません。というのも、まだよくわからないことが多いので、とくかくできることはすべてする、というスタンスだからです。通常であれば、小児科の場合には、もう少し症状別の診断をすることが多いです。つまり、腹痛の場合には、腹部、大腸であったり、便であったり、ですね。そこで何もみつかれなければ、そこから別の部分の検査をしますが、私たちのやり方は少し違って、私たちは初めからかなり多くの診断をしていきます。例えば、心臓の超音波検査であったり、心電図、肺機能、様々なパラメーターの血液検査、炎症度合いや、抗体、自己抗体などです。かなりの数ですが、医学的には、Long Covidという病名自体には意味がなくて、患者によって病像が異なり、様々な原因によってこの症状に至っているので、病名を明らかにするよりも、それ以上の診断が不可欠になってきます。この多様なクラスターを分類し、効果がある治療法に辿り着くために、いまのところ、心肺機能負荷検査をはじめとする、このような検査の山をする必要があります。診療内科医のサポートもありますし、症状にもよりますが、MRTやEEGの場合です。

患者側からすると、、子供でも青少年でも、保護者でも同様ですが、勿論、「この症状は改善されるのか?」「完治するのはいつか」というところが重要だと思うのです。症状の持続期間についてはわかっていることはありますか?自然に数週間後に治っている、というようなこともあるのでしょうか?

ダニエル・フィルザー ここでも良い予測ができます。というのは、1年前に来院したケースのほとんどが完治、もしくは明らかな改善がみられるからです。しかし、一番長い患者では、第一波の4月に罹患し、いまだに重い障害を抱えています。しかし、これは少数派であって、多分、慢性疾患、 ME/CFS筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群に近いものである、と思われます。多くの場合には、またよくなります。

国際的な研究論文のデータでもそのような結果がでていますよね。先生は、イルメナウとマグデブルグとのコーポレーションの研究に参加されていますが、ここでももう少し詳しく後遺症について調べられています。Post CovidとLong Covidが別の慢性疾患を引き起こす可能性はどうなのでしょうか?筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群のようなもの、もしくは自己免疫疾患などですが。

ダニエル・フィルザー ここでは、身体的、そして精神的な問題を取り扱っています。主に、病理的な原因を突き止め分類することです。つまり、例えば、ある症状は、微小血栓が原因である、とか、自己抗体からくるものだ、とかです。別の原因もあるでしょう。さらにそこから治療法にはどのような可能性があるのか。疾患において、肺のダメージがあった場合と、自己抗体が形成されてしまった場合では、その後の治療法は異なります。さらに、Long-Covid症候群になりやすい基礎疾患はあったのかどうか。もしくは、免疫に変化が起こり、今後の感染時への影響があるかどうか。例えば、アレルギー反応なのです。そのあたりもよく調査する必要があります。

精神的な影響、とおっしゃいましたが、根本的にウィルスからの影響というものでわかっていることはあるのでしょうか?

ダニエル・フィルザー 先程も少し言いましたが、イェーナのセンターでは、感染が生化学的なアンバランスさを生み出し、精神疾患を引き起こすのではないか、という研究が行われています。少なくとも、この方向での関連性の研究は進んでいる、と言えるかと思います。まだまだ始まったばかりですし、私自身は専門から程遠いので、これ以上は言わない方が良いと思いますが。

先程、治療法についてあげられていましたが、まだ困難なところも多いのではないかと思います。現時点ではどのような治療法があるのでしょうか?

ダニエル・フィルザー 今の所、これ、という万能な治療法はありません。

症状別に、ということになりますか。

ダニエル・フィルザー そうですね。「これで治る」というような治療法をご紹介できたら良いのですが、私は、今後も、全ての Post-Covid症候群の患者に効く治療方法はでてこない、と思っています。というのも、原因が様々なクラスターからなる疾患ですので、病理的にも多様で、必要な治療もそれぞれ異なるからです。何がどうしてこうなっているのか、という点がわからない限り、ケースバイケースで治療方法をみつけていくしかありません。そのあたりはかなり進んできていて、例えば、自己抗体で言うと、ドイツのエアランゲンでBC007の治験がおこなれていて、これは、自己抗体に対する成分でこの問題を抱える患者に役に立つ可能性を持つものです。

自らの免疫を攻撃してしまう自己抗体、ということですね。

ダニエル・フィルザー その通りです。コロナが引き起こしたものであったり、トリガーになった抗体が自分の身体に対して様々な問題のもとになってしまう、ということです。

子供の抗体応答との関連性はありますか?少なくても仮説的なところで、、というのも、子供の免疫が大変よく反応することはわかっていますから、そこから軽い過剰反応につながり、自己抗体のトリガーになったり、というような。

ダニエル・フィルザー 正直なところ、自己抗体に関しては、今、研究を始めたばかりです。小児科の分野ではまだ論文の数も多くはありません。これから出てくると思いますが、このエアランゲンの試験が成功すれば、治療に使える可能性がありますし、実用化はされていなくても研究されていることはたくさんあります。いまのところは、症状別の治療です。症状別、というと、何もする術がない、と理解されがちですが、実際に効果がある治療方法はありますし、簡単な例では、痛みがある場合には、鎮痛剤を使っても良いわけです。小児科ではこの点が忘れられがちですが、大人は39度の熱が出た時には鎮痛剤を飲みますね?子供の場合にそのようなことを忘れてしまうことが多いです。子供は鎮痛剤を飲んでいけない、ということはありません。睡眠障害の場合にも、どのような障害であるのか、というところを見ながら、場合によっては睡眠剤の使用も検討できるでしょう。効果が期待される場合には、理学療法も勧めますし、勿論、きちんと診断されてからであって、労作後倦怠感PEMの可能性も調べます。これは、軽い労作後に普通の場合とは異なり、激しいクラッシュ状態になることです。このような場合、理学療法において注意が必要です。ですから、分類は重要です。作業療法、心理療法もあります。ビタミンなどの欠乏症がある場合にはここの治療をしますし、例えば、鉄欠乏症などです。臭覚、味覚トレーニングもあります。というような治療法には様々な種類があります。

分類、ということですが、LongとPost Covidにおける子供と青少年におけるリスク因子についてわかっていることはありますか?例えば、症状の数や症状の重度なども関係があるのでしょうか?

ダニエル・フィルザー あまり確定されていません。 大人よりもわかっていることは多くはない、といえます。勿論、罹患時に重度の疾患経過があって、6週間集中治療がされた、人工呼吸器に繋がれていた、ということであれば、12週間後に完全に元気になる、ということも難しいと思います。しかし、これはまた別な話で、どちらかといえば、Post Critical Care Syndrom、つまり、重度の疾患からは徐々にしか回復できない、というものです。これは、大体が軽症であることが多い集団ではほとんどありえません。子供のリスク因子を罹患時にわかるか、、これこれこのような場合にLong Covidになるリスクがあがる、などということは、今の時点では私にはわかりません。大人の場合には、いくつかの傾向がありますが、子供の場合にはまだ私は知りません。

つまり、逆に言うと、感染がとても軽症であったり、ほとんど症状がない場合にでも、Post CovidやLong Covidになる可能性はある、ということですね。

ダニエル・フィルザー そういうことです。というよりも、子供ではそのケースのほうが多いです。子供のほとんどは軽度の疾患ですし、無症状も多くあります。ただ、PCR検査が陽性になって発覚しているケースです。

基本的なところで言っておかなければいけないのは、長期的な後遺症が出るウィルス性疾患は他にもある、ということです。例えば、エプスタインバーウィルスによるものなどで、かなり長びくことを知っている人も多いかと思います。子供の場合にインフルエンザもそのようなことはあったりするのでしょうか?

ダニエル・フィルザー 疲労症候群との関連で一番重要なのは勿論エプスタインバーウィルスだと思いますが、これは5〜10%の割合です。そしてME/CFSに繋がる場合も多いです。ですから、他のウィルスから起こる場合もありますし、インフルエンザでもなり得ますが、そこまで頻繁ではありません。そして勿論、パンデミック状況、つまり、ここまでの莫大な数の感染が同時に起こっているわけではないので、、そのような状況は常に問題だからです。

ワクチンの影響はどうでしょうか?何かわかっていることはありますか?大人の場合には、例えば、Covid-19ワクチンが、Post とLong Covidのリスクを半減する、というデータが出ています。子供ではどうなのでしょうか?

ダニエル・フィルザー 小児科医のなかには、子供も同じだ、という人もいますが、子供に関する論文はありません。まだデータがないので、大人のデータを参考にするしかないのですが、この場合にはそうしても問題はないと思います。少なくとも、思春期後の子供に関しては、似たようなリスク削減がワクチンによってある、と言えると思います。

それでも、ワクチンを打っていても重度の後遺症が出た子供はいますよね?

ダニエル・フィルザー います。リスクの半減、ということは、ワクチン接種の後にリスクが半分になる、ということで、ゼロになる、ということではありません。ですから、子供でもワクチンの後のブレイクスルー感染によって重度の疾患にかかるケースはあります。

子供のワクチン、というのはまた特殊なテーマで、子供全般のワクチン推奨は出されていません。しかしまずは年齢の高い子供への推奨があって、それから年齢が下がりましたから、ここで子供にも自律性というものができた、ともみれるのではないでしょうか?つまり、今、自分を守るためにできることがあり、それによって家族も守ることができる、と。

ウルリッケ・ラーベンス=シーベラー 先ほど、自律性、つまり、自ら判断して行動する可能性とおっしゃいました。ここが大変重要な点で、それによって不安を取り去ることができます。これはワクチンについてもそうですし、マスク着用、手の消毒などの対策に対しても同様です。子供と青少年に関しては、やはり自分たちで決めていく、という選択しができた、というところは大きいと思います。勿論、小さな子供達に関しては、ワクチンを打つか打たないか、という決断は子供自身ではなく保護者がすることになるのですが、その決断をした人たちはもうすでにワクチン接種をさせていて、自分の子供にワクチンを接種させない親は自分も接種していない場合がほとんどなのです。とはいっても、保護者、年齢が高い子供達に関しては、選択肢が広がることは自分を守る、という点で行動的になる可能性として大変重要なことです。

これは、世間の意識にも反映されることだと思うのですが、よく、学校側が、生徒を守るために対策が公に解除された後にも対策を続けていきたい意向を示しているのも同じことなのでしょうか。勿論、年齢が高くなって、青少年などでは、です。他の対策はどうでしょうか?マスクの着用にも、自律性は影響しますか?自分を守る術、ということです。子供達の生活の質の面ではどうでしょうか?

ウルリッケ・ラーベンス=シーベラー マスクの着用がもたらす精神的なストレスはそこまで大きくない、というデータが出ていて、これは、着用することによって自分が守られているのだ、という実感がでて、感染の不安が削減されるからではないか、と思われます。さらに、自主的に行うことによって、自分だけではなく、周りのためになる。そして、自分は無力ではなくて、行動に移すことができる、という意識は勿論精神的な安定にもつながります。自分で選択する術、少なくとも主観的に、、多分客観的にみてもそうだと思いますが、何かすることができる。生徒をプロセスのなかにとりこみ、例えば、ガイドラインをつくっていく、などの段階で積極的に参加させることは行われています。そのように積極的にパンデミック対策に対してできることをみつけ、子供側の声も届くようにする。私的にはもう少し届くべきだ、と思ってはいますが、、様々な専門委員会に生徒代表は参加していますから、これは大変重要なことです。積極的に参加する、という行為は、不安を取り除きます。

先ほどのマスク、ですが、マスクは大人の間では常に議論の的となってきたことです。大人のなかには、マスクが子供と青少年の障害になり、一刻も早く解除されなければいけないことだ、という人も多いのですが、子供達側の視点からはそのようなことはない、というのがデータから読み取れます。子供達的にはそこまでストレスに感じていない、ということでしょうか?

ウルリッケ・ラーベンス=シーベラー 私たちのデータからみると、そうです。私たちの質問は、何を特別嫌だ、不快だ、と感じるのか。というものでしたが、その回答のなかにマスクは入っていません。S3、というパンデミックのガイドラインがあるのですが、そこには学校内のことも含まれています。それもエビデンスに基づいてつくられていますが、多くの保護者が危惧するところ、マスクによって呼吸が困難になる、というエビデンスはないのです。

フィルザー先生、先生も、子供のためには、いくつかの対策はそのまま持続させたほうがよかった、とお考えでしょうか?

ダニエル・フィルザー 難しいテーマですね。子供には子供らしく過ごしてもらいたい、という視点からは、勿論、対策はないに越したことはないでしょう。その一方で、疾患、そして、疾患の後遺症、という視点からは、対策は重要です。この辺りの妥協点が大変難しいところです。私は、そこまで邪魔にならないもの、、そこにはマスクの着用が含まれますが、そのようなものはもう少し長く続けてもよかったのではないか、とは思います。大人のほうがリスクが高いのにも関わらず、「大人はもうしなくてもよい。でも、子供は学校でするべきだ。子供だから」というのは無理がありますから、私は全員を対象に続けるべきであった、と感じます。交通公共機関でもできるだけ長くマスクの着用がされてほしいです。自主的に、といっても、なかなかうまくいかないことは誰もが知っているところだと思いますし、段々下がってもいくものです。

大人がもう少し自覚を持つことも大切でしょうね。ラーベンス=シーベラー先生も仰ったように、子供達と直接話し合う、どんな問題を抱えているのか、何を望んでいるのか、というところを聞く、というのも重要だと思います。少しまたワクチンに戻りたいのですが、ラーベンス=シーベラー先生が、子供に接種させたい親はもうすでに接種させただろう、と仰っていましたが、そのためには十分な情報が保護者に行き渡る必要があります。ワクチンキャンペーンにおいて、特定の社会層にはなかなか情報が行き渡らない、というハンディキャップが存在します。 Stikoの推奨では12歳以下に関しては、「希望する場合には」という制限付きのものです。フィルザー先生、この年齢層の患者にワクチンの接種は推奨されますか?

ダニエル・フィルザー 患者、という対象が誰なのか、というところですね。患者を心臓病を患う子供達、とすると、勿論、ワクチン接種をしてもらいたいですが、コロナに罹患して今、後遺症で苦しんでいる子供達、となると、少しまた話は違ってきます。以前は、ワクチンがいわゆる免疫ブースターのような効果、つまり、もう一度免疫システムを激しく刺激することによって、場合によっては残留ウィルスが原因で起こっている後遺症の改善につながるのではないか、とも言われていました。しかし、残念ながらそこまでの効果はない、という結果がでていて、、つまり、ほとんど変化がない。なかには悪化したケースもありますから、ワクチンを治療法としては使えない状況です。勿論、保護対策としてのワクチン接種は常に推奨しています。今年の秋にはまた感染者数が上がることは確かですし、変異株も侮れません。今後も変異することは明らかで、そこを疑う人は少ないでしょう。運が良ければ、今回のオミクロンのような方向で変異してくれれば、軽症になり疾患負荷も下がります。私は、ワクチンかウィルスか、という選択肢では、常にワクチンを選びます。

患者にもよる、ということですが、今、健康児で、基礎疾患も目立ったものがなければ、、ワクチンを推奨する、ということになりますか?

ダニエル・フィルザー そうですね。それでも、私は常に五分五分の決断だ、と言っています。アメリカでは勿論別の背景から、疾患経過と重症化、そしてPIMSのリスクに対して、全般の推奨が出されていますが、ドイツでは違います。Stiko が出した決断は納得のものです。私に相談してくる友人に対しては、ワクチンのリスクよりも、感染のリスクのほうを重視するように、と言っています。勿論、どちらのリスクも少ないのですけれど。この点も忘れてはいけないところだとは思います。

ワクチンのリスクは、子供ではさらに低いですよね。心筋炎に関しても。

ダニエル・フィルザー 小さな子供用のワクチンは量も少ないですから、さらに安全性は高くなっています。心筋炎に関しては、今では改善されました。後、言っておかなければいけないことは、ワクチン関連でも、Post-Covidの症状があること、、子供も大人も、ですが、ワクチン接種の後にそのような症状が出て最終的にはほとんど同じ障害がある場合です。勿論、この場合はもっと判断が困難になりますが、頻度としては大変稀ですが、そのようなこともある、ということは言っておくべきだと思います。

大変稀、といっても、勿論、登録されているかいないか、というところとも関係してくるとは思いますが、データからはどうなのでしょうか?パウル・エルリッヒ研究所所長、クラウス・チチュテック氏に聞いたことがありますが、「ワクチン接種後の慢性疲労症候群の例はある」ということでした。それでも、それはまだ頻度的にはワクチンの副反応としてはカウントされていないようです。

ダニエル・フィルザー そうですね。先ほど、例を出したのは、このような病像の治療をしているのにそこの指摘をしないのはおかしい、と感じたからで、先ほども言ったように、私はワクチンを推奨しています。

そのようなケースはありましたか?

ダニエル・フィルザー 感染後のような症状が出ているケースはありました。しかし、結果的には同じだ、と言わざる得ません。つまり、最終的には決定的な疾患はみつからない。臓器のダメージもない。これは、Post-Covidの際の問題と同じです。まだ、確定できるバイオマーカーがないために、検証できるものがないのです。

ラーベンス=シーベラー先生、フィルザー先生はもうすでに秋のことをあげていらっしゃいましたが、最後にもう一度、研究分野でこれから進められるべきところはどこなのでしょうか?これからの冬にかけて、という意味も含めてですが。

ウルリッケ・ラーベンス=シーベラー 私は、専門機関、専門家会議が発言しているように、学校は持続されるべきだと思っていて、そこの努力はしなければいけません。パンデミック初期、ロックダウンをした時には、それがどれだけの影響を子供達に与えるのか、というところまではわかりませんでした。社会として、子供の健康を改善し安定する、ということがよくされてこなかったのです。多くの点が、パンデミック前と比較すると悪くなっています。私は学校は閉鎖されるべきではない、と思っていて、S3ガイドラインを活用すべきです。そして、一貫した構造によって、全員に同じチャンスが与えられるべきだと思います。まだまだするべきことは山積みです。リモート授業のコンセプトをとってもそうです。学校に行くことができない場合にはどうなるのか。先生や教育者の指導も必要です。どのように早期の発見を問題を抱える子供達でしていくことができるのか。サポートシステムがまだ十分に確立されていないと思いますから、まだまだやらなければいけないことはたくさんあります。学校は、社会の一員として参加する場であり、価値観を学ぶ場であると考えます。防止対策、検査とディスタンスとマスクで学校を維持していくことは可能です。そしてそれを望みます。たまにリモート授業をしなければいけなくなったとしても、、パンデミックの状況上そのようにしなければいけなくなったとしても、、クラスを縮小したり、とよりよいコンセプトを具体的に実行していくことによってクラス全員を取りこぼすことなく持続させることができるのだと思います。

先ほど、S3ガイドラインがでましたが、専門委員会が全て参加してつくられたもので、100ページにも渡る内容です。どの周期で何が行われるべきか、というものですが、先生は、レオポルディーナのパンデミックにおける子供に対しての表明の際にもメンバーでいらっしゃいました。ここでは、根本的な学校での問題点、パンデミック以前から存在する問題点にも触れています。リモート授業も技術的な条件で困難であったり、インターネット環境が整っていなかったり、とそのような障害もありますが、先生は、「よりよいコンセプト」と大変外交的な表現をさきほどされていましたが、、具体的には、何が足りないと思われますか?

ウルリッケ・ラーベンス=シーベラー 私の危惧するところは大きいです。十分には行われていません。これからまた秋、冬になって、同じような状況になる可能性は高い、と思っています。しかし、そのようなことは起こってはいけないことです。次の秋に「知らなかった」とは誰も言えないでしょう。ですから、S3ガイドラインの一連で、大学医療のネットワークが大きなプロジェクト「Covered Child」というものを立ち上げました。パンデミックにおける子供への影響をテーマに、改善と改正をしながら、秋に推奨を調整していけるように、というのが目的です。細部での調整作業になるのは、全てのエビデンスを集めてみていく必要があるからです。しかし、このようなことは大変重要で続けていく必要があることだと思います。これは、私がそこまでわかっていないからなのかもしれませんが、、十分な準備ができている、とは私には思えません。またこれから、新しい変異株などがでてきた際に、発生指数が増え、接触制限が必要になった場合に、、何か改善されているか、と言えば、そうではないでしょう。一つ、今日まだ取り上げていないポイントがあって、これは私的には大変重要なところでもありますが、、それは、保護者の負担を軽くする必要性です。というのも、保護者はいままで出来る限りのことをしてきたと思いますが、そこで払った犠牲も大きなものだったと思うのです。ですから、子供達だけではなくて、家族全体のサポートが必要です。リモートだけではなくて、別のシチュエーションでのサポートもあるでしょうし、それによって子供達の支援が安定してできるようにするべきです。この辺りもきちんとできていなかった、と感じますが、公共機関も対応しきれていなかった、というところもあると思います。予約はいっぱいでなかなか手がまわりませんし、やはりそのような行政の構造を改善していく必要性は大きいです。

COPSYデータに戻ると、精神障害から、本当の疾患になる場合もある、ということですが、今現在のドイツでの子供達のケアはどのようになっているのでしょうか?治療をうけるにも、かなり待たなくてはいけない状況ですか?

ウルリッケ・ラーベンス=シーベラー そうですね。その前に言っておきたいことは、障害があることは確かですが、そこから疾患につながるか、という点でははっきりしません。

リスクというところでは計測されていますよね?

ウルリッケ・ラーベンス=シーベラー リスク的には上がっていますが、まだはっきりはしていません。勿論、これは重要なことです。現時点では、小児心療内科外来、小児精神科の予約待ちリストは長いです。数は、夏の後に下がりましたので、若干の改善はみられますが、子供達の精神的なケアは十分には行われていません。ここには、時間的な遅延もありますし、どこでも同時に需要があるわけです。パンデミックではどこでも同じように同時に負荷がかかりますので、精神的な問題も同じです。そのような施設が足りない、ということは、パンデミック前から言われていたことです。それがパンデミックによって、より一層問題化していきた、ということですので、迅速に改善されていくべきことだとは思います。

フィルザー先生、小児集中治療でも同じだと思うのですが、それまでにも、集中治療はぎりぎりのところで賄われていて、限界に達するのも早いです。ウィルスに後遺症に対するケアはどのなのでしょうか?先生のところのような外来は十分にありますか?

ダニエル・フィルザー 医療体制、特に子供の医療に関しては、、最悪だ、と言うしかありません。ここ数年であらゆるところが削減されてしまいました。ラーベンス=シーベラー先生も精神疾患の場合をあげていらっしゃいましたが、他の分野でも同じです。つまり、本当にギリギリの最低ラインであること、全ての分野、外来は勿論のこと、小児科、特に病院と集中治療はひどい状態です。多くの集中治療病棟が閉鎖されたり、半分にされたり、、これはスタッフ不足や財政難が原因です。ここに政治家的に重要であるところが反映されていると思います。多分、まだ選挙権がなく一票を投じることができない年齢層は重要ではない、ということなのでしょう。少なくとも、私にはそうみえます。このギリギリまで削減された状態でパンデミックと闘っていかなければいけない。子供の疾患によるダメージが大人と同じくらいであったならば、、もっともっと最悪の事態になっていた、と思われます。もし、そうであったならば、全くなす術がなかったでしょうし、子供達は次々と、、死んでいくしかなかったと思われます。勿論、少し大袈裟な言い方かもしれません。しかし、設備が整っていない、、少なくとも、パンデミックの乗り切っていくために必要なものが揃っているとは言いがたいところはあるのです。5万人の子供の治療を大学病院で請け負う。馬鹿げています。予約待ちだけで数週間、数ヶ月です。私はなんとかメールや電話で患者さんたちを慰め、できるだけのことをしようと試みていますが、、ちょっと、、感情的になって申し訳ありません、、しかし、本当に過酷な状況ですから、、子供達のケアが行き届くために政治が動いてほしいです。

大切なメッセージですね。パンデミックにおける、医療、保健衛生はいままで何度も取り上げてきましたが、子供に状況ももっとひどい、ということでしょうか?

ダニエル・フィルザー 私の見る限り、不平等ではあると思います。これは、どこを優先していくか、ということとも関係があると思いますが、今の病院では経済的なところが最優先されている気がします。経済的メリットのないところは、削減されたり、少なくとも支援はされません。そのように何十年もきてしまったつけは必ずあり、それは小児科医の熱意だけではもうどうにもならないことなのです。

両先生のお言葉が政治に届きますように。今日はお時間をいただきありがとうございました。

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