ドイツ@Sars-CoV-2 コロナウィルスアップデート(70)  2021/1/5(和訳)

ベルリンシャリテ ウィルス学教授、クリスティアン・ドロステン
聞き手 コリーナ・ヘニッヒ

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ポッドキャストを3週間お休みした間に、また数多くの疑問を含むニュースがでてきました。17の変異を持つウィルス変異種がイギリスで発見され、それに伴う外出禁止令が発令されています。このB117、と名付けられた変異ウィルスについては、リスナーの方々も待望していたテーマだと思いますが、イギリスではVariant of Concern、VOC、VUI-202012/01とも呼ばれています。そのほかにも、南アフリカに注目が集まっていますが、ここでも最終的にワクチンにどのような影響を与えるのか、というところが重要になってくるところです。

今、2つの視点からみても新しいパンデミック時代に突入した、と言えるでしょう。1つ目には変異がでた、ということ。不安も多くあり、これに関しての質問が沢山寄せられています。しかし、ずっと心待ちにしていた、SARS-Cov-2のワクチン接種がはじまりました。政治的には、予防接種の開始にあたり多くの議論点がありますが、科学的にはどうなのか。それについても、いつもの通り、ベルリンのウィルス学教授、クリスティアン・ドロステン氏にお話ししていただきます。聞き手はコリーナ・ヘニッヒです。 明けましておめでとうございます。

明けましておめでとうございます。

クリスマスくらいは、ラボのスタッフの方々にも休暇をとっていただきたかったと思いますが、変異がでたことによってまた忙しくなってしまったのではないでしょうか。変異が拡がっている、という時点で調査をするためにもラボは必要ですが、この2週間、みなさん全員が休暇返上だったのでしょうか。それとも、少しはクリスマスの休みをとることはできたのでしょうか。

うーん、そうですね。うちの研究所のラボには、核となるチームが2つあって、1つは、ルーチン検査をするチーム、このチームにはどちらにせよ休みはありません。もう1つのチームは研究検査をするチームで、ここには様々な案件が入ってきますが、今回もそのような緊急のものでした。ウィルスのシークエンジングを緊急でしなければいけない場合、このウィルスが新しく変異したものなのか、イギリスから入ってきたものなのか。イギリスから帰国した患者からの検体などが、ドイツ全土から私の研究所の送られてきますから、このチーム、、、このチームは去年1年に渡って休みなく多忙を極めていたチームで、パンデミックの初期に国内ではじめてPCR検査をはじめたチームでもあり、そのなかでこのクリスマス休暇は、やっと10日間ゆっくりできる機会であったのにも関わらず、変異がでてきてしまったために返上となり検査が続行されてしまいました。幸いなことにチームスタッフは大変優秀で我慢強い若いスタッフですから、それでも作業を続けてくれましたし、良い結果をだしてくれたと思います。ドイツ国内に入ってきているウィルス変異種の確認をすることもできましたし、、、検査はこのまま続きます。

先生は、この変異ウィルス、B117のニュースをどのようなお気持ちで受け取りましたか?

これは判断が難しい問題です。今だに、です。2つの見方がありますが、1つ目は疫学的なもの、データの分析、数値や研究データから統計分析をする、というもの。これは母集団を対象とする研究です。もう1つは、ウィルスに焦点をあてたもの。つまり、生物を対象にした研究で、病原体ですね。そして、常にこのように新しい科学的発見が出た場合には多くの疑問も出てくるのです。現時点では、感染疫学の分野からのデータがでていますが、イギリスで行われた調査からも興味深い結果、、いくつもの調査から同じ結果が出ています。複数の調査から同じ結果がでる、というのは常に良い傾向であり、しかも、いくつか異なる方法で行われた調査である、という点からみても、違う調査から同じ結果がでる、というのも大変良いことなのですが、それでも、ここで言っておかなければいけないことは、元となるデータが似通っている、というところです。これによって勿論結果が制限されてしまいますので、他の国、他のシステムで収集されたデータによる分析と比較が望ましいです。これについてはまた説明しますが、、まず、この少し曖昧な面と、もう一つは、ウィルス自身のこれまでに集められたデータ、実験的なシステムから取られた変異データ、それは、部分的にはシェードタイプシステムのものや、研究から集められたデータなどには、そこにはこのタイプの変異は入っていません。今現在、2つの変異種が危険なものとして注目されていて、1つはイギリスのもので、もう1つは南アフリカのもの。2つ目については、あまり報道はされていないと思いますが、どちらもしっかりと調べなければいけない変異で、現時点では、ウィルス自体のデータ、ラボで検査できるデータが上がっていません。まず、それに必要な特殊な環境をラボでつくらなければいけませんし、クリスマス休暇中に起こった、ということも重なって、、多くのラボが休暇中でしたので、、、

そろそろ、イギリスのラボからもデータが来ても良いころだ、とは思うのですが、、

近日中に来る、とは思っています。イギリスにはもうかなりの数の患者がこの変異ウィルスに感染していますので、ウィルスの隔離は難しくないでしょうし、危惧されている点、血清中の抗体がこの変異型をきちんとブロックできないのではないか、つまり、中和効果が低くなってしまったのではないか、というところの確認も出来るはずです。これに関しては議論されていますが、個人的にはそのような結果が出るとは思っていません。

とにかく沢山の疑問があり、すべてに答えが出るわけではないとは思いますが、順を追ってみていったほうが良いですよね。まずは、先生も年末に確認を急いでされていましたが、欧州疾病予防管理センターECDCも、24以上の危険区域内で、すでにイギリスからの、この場合はイギリスからだけの変異種ですが、確認された、と発表しています。ニューヨークタイムズでは、33カ国、と報道、そのなかにもドイツも含まれていますが、実際にB117はどのくらい拡がっているのでしょうか。

そうですね。今、そのまとめをしているところですが、ドイツでも通常の統計の集計も(祝日で)遅れていましたし、クリスマスから年始にかけて、お祭り気分で家に籠るということをしなかった人たちも大勢いるはずですが、そこで感染した軽症の感染者はそのまま家にいたことでしょう。そのような人たちは軽症の場合に検査にいくはずがないので、統計にもカウントされない、ということ。祝日後に病院に行ったのではないかと思いますが、ドイツで使われている多くの抗原テストで陽性反応が出た場合は必ず、PCR検査での確認が推奨されています。その検体がラボに持ち込まれて検査されるべきところが、多くの人たちがそれをしませんでした。ここでも、統計に穴が空いていますし、この不確かな把握状態のなかで更に変異ウィルスの確認もしなければいけない。どこかの段階でこれは大変困難な作業になります。私の研究所でも、なんとか力になろうと全力を尽くし、沢山の時間を使い、ドイツ国内でのこのウィルス種の確認をしました。他のラボからも確認されていますが、それらはまだまとめられていません。そのなかで、システム化された集計がされたのは、デンマークです。デンマークではイギリスと同様、この新しいウィルスのシークエンジングが数多くされています。ドイツでのシークエンジングが十分ではない、とメディアで批判もありますが、ヨーロッパ諸国でそこまでシークエンジングがされない理由は、通常であれば、つまり、インフルエンザの流行とか、そのような状況では、そこまでウィルスのシークエンジングをする必要がないからなのです。  このウィルスは、広い地理的な範囲で長期に渡って変化していきますので、週ごとに数回シークエンジングしても十分にその変化は把握できます。重要なのは、広い地理的範囲で行うことですが、これも将来的にどのように改善されていくべきか、ということを考えていかなければいけません。もちろん、国内でもそのような研究目的で残った検体の検査をする体制は整えなければいけないでしょう。なぜなら、各ラボでその検体のシークエンジングをする意味がないからです。そのための費用は誰も払ってくれませんし、検体に埋もれてしまいます。プラスチックの山です。つまり、検体の容器はいつか廃棄しなければいけなく、その残った検体を研究目的に使う、というのは研究の一部ですが、今の時点ではそれに対する援助はないのです。しかし、この費用も負担されなければいけないものです。シークエンジンクにかかる費用ですね。これも国内で補助されるべきですが、さらに重要なのはデータをヨーロッパで集計して共有すること。これは大変重要です。このような研究背景と構造からも、今の時点でシークエンジング研究に力は入れられている国は、2カ国。イギリス、そしてデンマークです。

その体制は、以前から、コロナパンデミック前から整っていた、ということですね。

そうです。もう何年も前からです。つまり、この2カ国では、例えば、シークエンジングを使った細菌の耐性の拡散範囲調査なども行われて、この場合に使われる機材も部分的には同じですが、もちろん、マイクロバイオロジーとウィルスでは意味合いは違います。しかし、この地理的な病原体の行動の時系列での研究体制が昔からしっかり整っている国もあれば、病原体自体の研究に重点が置かれている国もあるのです。後者は例えばドイツなどですね。つまり、ロベルト・コッホが伝統的に病原体の研究に力を入れている一方で、他の国では宿主の母集団的な研究をしている。ここから、このような違いが出てきます。今、巷で良く聞く批判の声に関しては、私は共感することができません。なぜなら、今、ドイツでもその方面での改善が行われており、全く何もしていない、ということではないからです。そして、これは言っておかなければいけないことですが、イギリスはシークエンジングだけでこの変異体を発見したのではなくて、PCR検査の際の偶然だった、ということです。

シグナルの欠如だったのですよね。

そうです。イギリスで広範囲に渡って使われている検査を製造している会社がありますが、ここでつくられる検査は他の国では使われていません。この検査は、3つの遺伝子標的をベースにしていますが、他の製造元の検査は大体標的は2つです。しかし、この会社は3種類の遺伝子を標的にしていて、そのなかの1つは少し贅沢な遺伝子標的と言っても良いかと思うのですが、これはスパイクタンパク質のなかにあって、通常のPCR検査ではターゲットにはならない部分です。というのも、この遺伝子は、淘汰圧のために変化が起こる確率が高い部分で、この部分をウィルスの検証として使う意味はあまりないからです。とは言っても、この会社はこの部分を検証の標的として使ったわけです。そして、偶然、ここがヒットした。つまり、2つの遺伝子が陽性反応を示し、3つ目は陰性反応を示す患者が出た。

新しいウィルスのバリエーションではそこが欠如していた、ということですよね。

そうです、イギリスの新しいバリエーションです。この欠如にイギリスの科学者達が注目し、それがシークエンジングによって確認された。シークエンジングの頻度は、PCR検査の再確認作業の頻度とは比べものになりません。デンマークもシークエンジングが多く行われる国ですが、このイギリスで確認された後で、デンマークでもシークエンジングされました。これは、週でいうと、47週目、11月に入っていましたが、そこで始めのケースが確認されています。つまり、この時点でもうすでにデンマークにも入っていた、ということです。これは驚くべきことではありません。この時点でイギリスでは広範囲において拡散していたわけですから、49、50、51、52週目、因みに年末の最後の週は53週目ですが、この最後の数週間で、統計の不確かな部分も考慮したとしても、週ごとに倍増する、3が10になり、19になって36になる、という増え方、週ごとに倍に増えていく、という増加は明らかに普通ではありませんでした。そこで行われたシークエンジングの分析結果、これらが全て同じ系統樹に属することがわかったのです。これを、単系統群クレードと呼びますが、このようにデンマーク国内の感染伝播が、このウィルスが発端になって起こったことがわかります。つまり、イギリスのウィルスも本国で指数関数的に増えていますから、イギリスから入ってきたウィルスも指数関数的な増加をするはずで、週ごとに倍増し続けるウィルスが全て系統樹的に親類であること。これが、今もなお、低い発生数でも指数関数的に増え続ける感染の原因が国内のウィルスであること可能性が高い証明です。この結果からも、私が常に自分に言い聞かせていたこと、「待てよ、この分析は同じデータで行われているのだろうか、それともベースが同じで何か混合されているのだろうか」イギリスからのデータが素晴らしいことには変わりはありませんが、その点では常に注意深くみていかなければいけないのです。私も実験系のウィルス学者ですから、ウィルスが数回の変異だけでそこまで感染性が上がることは稀である、ということはわかっています。その点では常に怪しく感じていました。しかし、このデンマークからのデータをみてからは、これは真摯に受け止めなければいけないことであり、ドイツ国内での変異も真剣に探さなければいけない、と思っています。この調査はシーグレンジングでしなくても、変異マーカーを使えば診断ラボでも行うことが可能です。

それはなんですか?

特定のウィルス、イギリスのウィルスや、南アフリカのウィルスを、簡単な方法でゲノム全体をシークエンジングすることなく、PCRを使って特徴部のみの検査をすることが可能なのです。PCRを数回コンビネーションすることで、このウィルスが変異したものであるか、変異していないのか、という確認をすることができます。陽性反応が出た検体の残りを使う、ということです。

ドイツ国内でももうすでにデンマークと同じ現象が起きている、と思っていた方がよいのでしょうか?国内で発見されたこのウィルスタイプを持っていた人はイギリスへの渡航歴を持っていました。つまり、B117ですが、デンマークではもうすでに変わっていますよね。

いくつかのデータでみると、この単独ケースでは、患者、なかには夫婦もいますが、彼らは直接イギリスから帰ってきています。そして、その配列はいまのところ、系列樹的には直接親戚ではありません。ということは、これらは全てイギリスのクレードのものである、ということです。しかし、ドイツのウィルスと直接の親戚関係があるウィルスでもドイツのものではないこともありますし、イギリスから他の国へ入っていったウィルスであることもありますから、今後はさらに変化をしていくでしょう。つまり、これから数週間後にはドイツのクラスターがでてくるであろう、ということ。このウィルスの行動様式が(ドイツでは)異なる、ということは考えられません。現時点では、ドイツでは(この変異種は)大きな問題とはなっていませんが、デンマークの研究は進んでいますし、このタイプがどのように拡大していくのか、という比較データ、変異種と変異なしのウィルスが同時に存在する国内での比較もされています。イギリス以外、つまり、集団構造とシステムがイギリスとは異なる国で、、、この場合の異なる、というのは、イギリスでは11月に部分的なロックダウンがされていて、ドイツと同様に、娯楽施設は閉鎖されていましたが、職場などは通常運営される、など特別に許可された領域が多々ある状況だったからです。

学校も開いていましたよね。

教育施設、託児施設は全て開いていました。この状況下で、南東イングランドで、変異がおこり、学校を中心に拡がっていったのです。12月に入ると、一般層にも拡がって、12月末には地理的に広範囲、南イングランドから北のほうに拡大していきました。しかし、始まりは学校だったのです。つまり、ロックダウン下で学校という限られた環境で流行した。これが、ファウンダー効果であったか、という点では現時点でははっきりしません。つまり、このウィルスの感染性が特別高い、というわけではなくて、流行のなかで発生した、ということ。ウィルスの特性ではなく、集団の特殊性からきている。つまり例えば、他の施設は全て閉鎖され、学校だけが開いている、など、ですね。偶然、学校に持ち込まれた。ウィルスが、同年代の層の間で拡がる、ということは、このポッドキャストでも何度もお話してきました。これは仮説ですが、今現在のイギリス国内での状況をみていくと、学校内だけではなく全国に拡がっていっているので、この説の説得力もなくなってはきてはいます。他のタイプよりも拡大速度が高い、ということは、なんらかの形で他のタイプを排除していっている、ということで、ここにはそういう意味での淘汰ではないにしろ、単純により優れた適合性を持っている、ということは確かだと思います。
このイギリスからのエビデンス、つまり、違う年齢層に移行し、地理的な拡大も異なる、という事以外にも、デンマークからのデータがあります。これは違う国である、という点でも大変貴重です。ここには違うウィルスがベースにあるわけなので、ここでも変異種がより速い伝播速度をもって優位にたっていくのか。そのような結果がでたとしたら、これは確実であり、このタイプのほうが速く広がりR値もより高い、という証拠になります。そうなれば、実験系ウィルス学者としても事実として受け入れなければいけなくなりますが、まずそう簡単には起こらない、ということも言っておかなければいけません。通常であれば、ウィルスの感染力の増加が数回の変異の間に起こる、ということはありませんから、大変稀有な事です。ですから、始めの段階では、私も、私以外の多くのウィルス学者、実際にコロナウィルスの研究に携わっている学者は、この現象に関して大きな疑念を持っていましたし、今でも持っています。現時点でもまだ説得力は十分ではない、と判断しているものの、揃ってきているデータには驚嘆する以外ありません。

子供が関連しているか否か、という疑問については、もう一度ふれたく思いますが、まず変異についてみていきます。先生は先ほど、数回の変異で、と仰いました。この場合は、17の変異である、と私の情報が正しければそうなるはずですが、そのうちの8つがスパイクタンパク質、つまり、表面タンパク質で起こっています。ここが免疫やワクチンにも大変重要なところであるために危惧されていますが、祝日中にもツイッターなどでこのスパイクタンパク質部の変異について議論が続いていました。もう一度、わかりやすく基本的な事を説明すると、、、このポッドキャストでも何度も変異についてはとりあげてきました。変異はとても自然な現象であって、ウィルスが増幅するプロセスのなかで起こります。増幅の際にコピーミスが起こり、これは自動的に修正はされません。これによって、ウィルスの機能が変化したり、改善されたり、、、と簡単に言うとそのようなことが起こります。通常であれば、どのくらいの速度で変異というものが起こるのでしょうか?どのくらいの変化が観察されますか?私は、平均的に週に2つ、というのを読んだのですが、この場合は17です。

それで正しいです。両方、正しいです。問題は、このタイプが、長い単系列の系統樹上にある、ということです。つまり、系統樹の根のほうから出ている系列の途中に属するものであること、そしてこのウィルスのクレード、これはウィルスのグループですが、それが共に幹についている。接続ラインは他のタイプよりも長く、系統樹から長く出ている途中には分かれ道はありません。ここでの疑問は、このように長い間安定していたウィルスタイプが突然多くの変異をした、ということなのか、ということ。それとも、シークエンジングをしなかったためにこの変化を見落としていた、ということなのか。これは多分、後者ではないか、と思うのです。つまり、これはウィルスの進化が加速したものではない。もちろん、進化速度は、シークエンジングする検体を採取する母集団の規模とも関係があることも言っておかなければいけませんが、問題は、どのようにこれが起こったのか、そして、どうしてこのクレード内でここまでの変化が起こったのか、というところです。その理由の一つには、これが大変珍しいチュエーションのなかで起きた珍しい現象である、ということがあげられるでしょう。これは仮説ですが、免疫不全の患者のなかで発生して、かなり長く身体のなかで増殖していった。例えば、肺の中で排除されずに免疫不全が原因で自然に、もしくは人工的に圧がかかり変化していった。これは患者のなかに少し抗体ができていた、ということも考えられますし、それによって、 抗体がウィルスを窮地に追いやり、この免疫圧に対抗するために変異をおこした、というもので、これが原因である可能性はあります。他に考えられる原因としては、医師がこの患者に人工的に抗体を与えた、というもの。例えば、セロコンバージョンした患者の血清であるとか、つまり、疾患を完治した患者のものを投与する、ということです。血清治療ではそのようなことが行われますが、ここで人工的に免疫圧がかかったのではないか。もしくは、宿主が違った。つまり、デンマークとオランダのミンクのケースを思い出してください。ウィルスが人間から動物に感染し、そこで数ヶ月滞在し、その後でまた人間に感染した、など。これら全ては、勿論憶測であって、想像にすぎません。この患者仮説に関しては、2つの論文がでていて、長期感染者のウィルスのシークエンジンング結果が載っていますが、ここでは実際にいくつかの変異が観察されていて、イギリスのタイプによく似ているのです。ウィルスは最終的に特殊な患者に潜んでいるか、特殊な宿主、人間ではない宿主に入っていました。
他の仮説は、ウィルスの変異を見逃したからだ、というものです。このウィルスが、枝分かれがない長い枝である理由は、長い間問題にされなかった母集団のウィルスであった、ということ。この枝が伸びていく最中で、シークエンジングをしなかった為に把握されていなかった。ウィルスはあったものの、データとしてデーターバンクに入っていなかった。それまでに分析されることがなかった、ということです。進化の途中の段階はどこかにあって、例えば、それはイギリスではない国であるかもしれません。そのような説明もできるでしょう。アフリカのどこかであるとか、中東であるとか、アジアのどこかかもしれませんし、ウィルスが大きな母集団源のなかで数多くの変異を起こした。そしてそれは、シークエンジングされることはいままでなかったのです。アフリカや中東に繋がる国は世界中にたくさんありますから、そこからロンドンに飛んだ。ロンドンはネットワークの中心ですし、そのように持ち込まれても不思議ではありません。このウィルスは、はじめにロンドン市内ではなくて、少し離れた郊外でみつかりましたが、これも、ロンドンからそこに移ったか、患者が移動したのかもしれませんし、数週間後にはイギリスの感染のなかでみつかっています。
いまだに、このウィルスが発生した集団が世界のどこにあるのか、ということははっきりとしていません。可能性的にはいろいろと考えられますが、全て理論的です。

とはいってもやはり質問したいことがあるのですが、先ほど、中間宿主についてふれられていました。つまり、動物が中間宿主として理論的には可能である、と。デンマークについては取り上げたことがあり、このミンクからのバリエーションについてもお話いただきました。これとの関連性はあるのでしょうか?というのも、ミンクでの変異はありましたよね?私の理解が正しければ。

その通りです。69と70の欠如はミンクウィルスにもありますが、、、

つまり、アミノ酸の削除でしょうか?

そうです。これはタンパク質のなかに起こる小さな隙間です。理論的には再構成的の可能性はありますが、私にはこのウィルス同士になんらかの関係があるとは思えません。ミンクウィルスのすべてにこの削除が起こっているわけでもありませんし、他の系列でもみられることです。つまり、新しいイギリスのタイプは、デンマークやオランダのミンクウィルスとではなく、ここで話したこともありますが、 N439K変異種、イギリスで長い間循環していたタイプで、隅に追いやられたタイプ。こちらも、系統樹の別の部分ですが、そのように別の部分で似たような特性が系統樹の別の枝状に並行してみられることを収束進化と言います。これは進化の過程においてとても起こりやすい現象です。このような収束進化には機能的な意味合いがありますが、ここでのアミノ酸内の距離をつくることによってウィルスにわずかな利点をもたらすのではないか、と考えられます。それは、免疫回避、つまり、抗体から逃れることであるとか、もしくは、増殖部位の柔軟性であるとか、多分こちらのほうの可能性が高いと思いますが、つまり、タンパク質は、、、そうですね、日常のシチュエーションで例えると、、子供のおもちゃで、磁石が、、丸い磁石がプラスチックの棒の先についているものがありますよね。磁石同士がくっつくことを利用していろんな形をつくることができるおもちゃです。この場合も基本的にはそれに似た感じで様々なかたちをつくることが可能です。そしてこのつくられたかたちには若干の柔軟性があって、磁石の位置を少しズラしたり、ということができるわけです。タンパク質もそうで、このアミノ酸が69と70のところで倍の距離になったことによって、受容体結合部の柔軟性が増した、と考えられます。通常であれば、これはタンパク質の安定にダメージを与えるであろう、と思われる変異ですが、そこの変化を突然成し遂げた、とも言えるのです。

この受容体結合部は、この変異でも大変重要なポイントですよね。他にも登場していた変異に、N501Y型がありますが、ここでも受容体結合部、つまり、どれだけよくウィルスが受容体に結合できるか、というところでの変異が起こりました。ウィルスが実際に改善されたのでしょうか?結合部の改善は自動的に感染力のアップ、とみることはできますか?

これは仮説です。この部分は実際に、ドメイン部で、ウィルスが受容体にアプローチしていく部分です。ここの部分でかなり目立つアミノ酸の交換が行われていて、アスパラギンとチロシン間での交換です。ここには機能的な意味があるはずです。生物化学的なウィルス実験、シェードウィルス実験が行われていますが、この変異種の受容体結合が若干強くなっているという結果がでています。しかし、通常であれば、これはウィルスにとっては利点ではありません。 SARS-2ウィルスは、このような変異はいままでにも収束進化の段階として通ってきているはずですが、そこに落ち着くことはなかったからです。つまり、この変異が発生した系統樹の枝はいつか消滅しています。持続する進化的な利点ではありませんでした。これは、以前のポッドキャストでも言ったことだと思いますが、ウィルスは受容体だけにくっつけば良いのではなく、そこから増殖サイクルに移行しなければいけませんから、離れることも重要な機能です。そのようなこともあって表面タンパク質の受容体と強力に結合すればするほど良い、ということではなく、理想的な強度、というものがあるわけです。強力になれば、この理想的な域から外れてしまいますから、ここでの疑問は、ここに抗体がでてきたらどのような反応がおこるのか。つまり、ウィルスが免疫集団、部分的な免疫が存在する母集団のなかに入り込む状況下では必ず妨害因子が発生する。結合部の抗体ですね。そのような状況では、その部分の調整をし、抗体に邪魔をされている部分の結合力を強化する、ということはたしかに利点に繋がるでしょう。この変異が発生した背景にはそのようなものがあった可能性はあると思います。この方面の淘汰圧がかかった、ということです。
ここで南アフリカのウィルスタイプについても話はじめようと思いますが、、、イギリスでのこのウィルスに関しての憶測、患者が抗体を持っていて患者のなかの淘汰圧によって発生した、ということですが、南アフリカのウィルスも系統的には近くありませんが似たような変異をしている 501Y型、つまり、チロシン変異種です。しかし、南アフリカではシチュエーションが違います。以前のポッドキャストでアフリカ事情については話したことがありますが、南アフリカは南半球であるためにこちらが夏の時には冬でしたから、本当に深刻な問題が発生していて大規模なアウトブレークも起こっていたのです。特に、タウンシップと呼ばれる貧困層が密集して住む地域では、すでに抗体保有率が40%、50%以上に達しています。これは集団免疫に近い割合です。このような状況では、ウィルスは抗体と戦いながら、なんとか新しい感染に繋げようとしなければいけなくなります。そこで、この免疫圧に対抗するためにウィルスが変異を起こす、ということは考えられます。この場合は、エスケープ変異体と呼ばれますが、免疫回避、ということです。これは南アフリカの変異体が発生した原因として考えられるものですが、証拠はありません。そのように発生した可能性がある、ということです。ここでの疑問は、イギリスやドイツというまだそこまで集団免疫がないところで、この変異が役に立つのか、というところです。

その疑問には答えは出ているのでしょうか?それともまだ未解決なのでしょうか?

免疫回避については、実験で確認できます。イギリスの変異体ではまだ実験されていませんが、違う免疫圧から発生した変異をもつウィルスでの実験、この場合は、モノクロナール抗体からの免疫回避によってできた結合部の変異をもつものでは行われています。

つまり、医薬品の開発のためにラボでつくられたもの、ということですね。

そうです。この抗体は特定の場所だけに特化しているのですが、これを通常の血清、、これをポリクロナール血清と呼びますが、、、

つまり、完治者からのもの、でしょうか。

そうです。これは感染を完治した実際の人間の血清ですが、ここには自然につくられた様々な抗体が混じっています。それを、このシェードタイプと反応させると、ほとんど効果はみられません。つまり、変異体からの免疫への影響はみられません。しかし、このイギリスの変異体のような表面タンパク質の変化が起こってしまうと、免疫回避が起こる可能性はあるのです。実験の結果は、来週にでも出てくるとは思います。

その結果次第で、一度感染した人でも再度感染するリスクがでてくるかどうか、という問題にもつながりますよね。

そうなのですが、 これは、実際に白と黒ではっきりする問題ではないからです。巷でされている議論でも頻繁に、、、トーク番組などでもそうですが、この黒か白かか、という話になりますよね。「このウィルスにはワクチンは効かないということだ!」とか、そういう簡単な話ではないのです。起こっているのは小さな変化ですから、少しグレーが明るくなったり、暗いグレーに変化したところで、白か黒か、という問題には発展しません。もしかしたら、ワクチンの効果が少し下がるかもしれません。しかし、これも、何百人もの人にワクチンが全く効かなくなる、ということを意味するのではなくて、少し喉が痛くなる、というようなレベルの話です。

重症化はしない、ということですよね。

そうです。そのように私はこのリスクを評価する、と言っておきます。ワクチンの効果を心配している方々には、安心しても良い、とお伝えしたいですし、現時点では大きな心配をする必要はありません。大きな問題は、ここから起きる高い感染伝播力なのです。これによってR値1に0、5が追加されるとなると、、、これは勿論かなり脅威的な高さです。イギリスでも観察されるように、非医薬的介入、つまりロックダウンなどの対策で、1以下にすることができた地域でも、0、8を持続しています。もう少し待てはゆっくりと下がっていき、対策を緩和できますが、もしそこから、また別のウィルスが出てきて、それが0、8ではなく、1、2だった場合。その場合には、1以上ということは1をキープしますから、何をしても増えるいっぽうで1以下になることはないのです。そうなれば、増え続ける集中治療患者を黙ってみているわけにはいかないわけで、対策もさらに強化せざる得なくなり、なんとかこの増殖性が強化したウィルスを1以下に持っていく努力をしなければいけなくなる。それに加え、現在の低い気温。一月、二月、三月、という月は典型的なインフルエンザの季節でもあり、通常でも風邪の流行がある時期です。インフルエンザは感染力が高いウィルスですが流行する理由ははっきりしています。成人層が、部分的、もしくは免疫を持っているのに比べ、子供は免疫がなく、そこで爆発的な流行となり、そこから大人へと感染して、毎年インフルエンザのシーズン、となります。しかし、現在、私たちの抱えている問題はこれとは全く別もので、今の流行はパンデミックウィルスによるものです。この今の環境状況、つまり、低い気温、人々の接触、そして、成人層にも免疫がない、という状況が問題なのです。その場合では、感染伝播の割合の変化はどんな小さな変化であっても問題に繋がります。もし、この比例が1、5対1だった場合、つまり、新しいウィルスタイプが1、5と古いウィルスタイプが1という伝播率の対比ですが、そうなれば、大変深刻な問題です。今行われている議論、どのような対策が適切か、学校を持続していくかどうか、職場で何ができるのか、などという全ての点において、残念ながら全く新しい対策を考えていくしかなくなるでしょう。

それらのことが詳しくわかるまで、少なくとも今のロックダウン期間は少し時間を稼ぐチャンスにはなると思います。イギリスでは、外出禁止令も発令され、さらなる調査を進めているようです。先ほど、再生数についてふれられましたが、イギリスで発表されたモデリングでは、この新しいウィルスがどれだけ感染力がアップしているのか、ということについて、ラボと疫学的なモデリングで計算しようというものです。少し内容をみてみたいと思いますが、始めのほうで、急激な数の増加についてはお話しました。ジョンソン首相は、このウィルスは70%感染力がアップした、と発表しましたが、この数がどこから来たのか、というところを私はずっと疑問に思っていました。先日、これが、NERVTAG(New and Emerging Respiratory Virus Threats Advisory Group)のものであることを読みました。この数値がまず始めに言われていたものですが、現在、ロンドン・インペリアルカレッジと、ロンドン大学衛生熱帯医学大学院の共同論文でどのように再生数が変化していくのか、という検証がされています。そこでの伝播率は、56%。これは信憑性のある数値ででしょうか?

そうですね。しかし、正直なところ、私はあまり詳細は重要ではないと思っています。簡単に説明しますが、この70%という始めにメディアに出てきた数というのは、これは成長率です。成長率とは、登録された今週の感染者数を先週の感染者数で割ると出ます。ここで増加がみられたら、1点何、という数値がでるはずです。それを、新しいウィルスと古いウィルスでしてそれを比較する。新しいウィルスは、ラボで検証された数と地域別に分けられた今週の数を先週の数で割ります。ここから、1以上の数値と、1以下の数値がでます。それをすべてあわせて割ると、ここから1.7という数値がでて、これが1プラス70%、ということで、この70%という数がでたわけです。これをR値に置き換えると、大体ざっくりと、0、5から0、6が加わりますが、つまり、いままで0、8だったウィルスが、1、3から1、4になる。これはかなり大変なことです。

つまり、一人から何人に伝播するか、という数ですね。

そうです。いままでのように0、8の場合は、10人感染したら、そこから出る感染者は8人です。ここからだんだんと少なくなっていく、という計算になりますね。そこに突然、次世代に8人ではなく、13人、14人感染させるウィルスがでてきたら。一見、あまり大変なことにはみえないかもしれませんが、アウトブレイクが起こった場合には規模がもう少し大きいわけで、これを世代から世代へと倍増していくと、これは指数関数的な増え方になってしまうのです。これは、1ヶ月の単位で考えると莫大な差になります。

このロンドン大学衛生熱帯医学大学院の論文では、どうしてこのウィルスがより感染するのか、というモデリングがされています。つまり、計算のパラメーターを加え、今、実際に起こっている状況とマッチするのかどうか。ここでの結合力の強化とウィルス量の増加は感染力に影響するのでしょうか?先ほど、免疫応対を回避するものではないのではないか、と仰っていましたし、子供の場合もまだ、感染しやすいのか、という点で学校の維持も難しい問題です

ここで重要なのは、どのように対応していくか、というところでしょう。モデリングの例を参考にすると、ロンドンのチームが出したモデリングは、前からあった感染伝播の特性を様い、そこからそれを定型化し、数学的に構成し、比較することは可能であるか、という試みをしています。このモデルは、実際の数から様々なカテゴリーに分け、例えば、入院者数、集中治療病床の使用率、28日間での死亡者数、PCR検査の結果、純粋な数と、抗体保有率、そして地域別の比較も配慮されています。ここからされたモデリングです。このモデルに、この2つの異なるR値を入れてみる。つまり、2つのウィルスの数値を入れて、地域毎に把握されている変異体の検証数を比べてみると、どのモデルが一番現実に近いか、ということがわかるのです。今日の数値がとって、そこからどの環境のモデルで一番現実的な数値が割り出されるのか。これをロンドンのチームは数多くのモデルで計算しています。まずは、Rが高い場合。そして、さらに、完治した人たち、特に免疫が完璧ではなく新しいウィルスにもう一度感染する可能性がある人たち、とはいっても、古いウィルスには感染しない人たち、その人たちを考慮すればどうなるか。これは、免疫回避仮説、ということになりますが、実際にモデルでそのような計算をすることも可能です。別の仮説では、年齢別に入院率を割り出して入れられています。子供や青少年の入院する確率は絶対的に低いですから、これを調整パラメーターとしてモデルに組み入れる。ここでは純粋に仮説的に年齢構造で計算することができ、この仮説的な集団をコンピューターモデルで、数値を変えていき、例えば、もし、子供のほうが感染しやすい、としたらどうなるだろうか。このような計算をした理由というのは、この研究をした時には、学校内のほうが新しいウィルスの感染割合が高かった。ここでの疑問は勿論、学校で多く感染が起こるのはウィルス自身に原因があるのかどうか。ウィルスが子供に適応したのか、という点。あとは、世代時間の短さ、です。こうなれば、このモデルの数学的な基礎パラメーター、世代時間を短く設定しなければいけなくなりますし、他のモデルからも、ロックダウン下にあって基礎発生数が低くなっている地域では新しいウィルスの拡大も速くなければいけないと同時に、世代時間が短い、となれば、減少するのも速いはずなのです。

つまり、感染者の世代時間とは、感染者から次の感染者に伝播する時間、ということですね。

そうです。エピデミックのなかで、指数関数的な増加が一定の速度を持っていることは勿論のことですが、指数関数的な減少にもその速度があります。世代時間が短くなれば、少なくなる方向にも速く進むはずです。この点についても、両方のバリエーション間での比較ができます。長く説明してしまいましたが、、、結果としては、このなかの仮説のなかで一番現実的だったのは、変異体の伝播率が高くなっている、というものでした。

結合部、もしくはウィルス濃度の高さによって、でしょうか。

それに関しては、このモデリング研究からはわかりません。

しかし、もしかしたら実験ウィルス学者的な解釈として、、

そうですね、ウィルス学者としては、この現象がどうして起こるのか、という点は勿論考えます。この新しいウィルスの伝播率が高くなった、ということを受け入れるのであれば、これがどのような起こったのか。どのように想像すればよいのか。イギリスの英国公衆衛生の論文では、「変異体を持つ患者では、比較的高いウィルス濃度がみられ、若干検体内のウィルス量が多く認められた」とありますが、ウィルス学者としてはこれは疑うべき点ですね。特に、ウィルス診断と医療ウィルス学に携わる者としては、ここでは、集団レベルではかなり多くの影響がある、ということと、かなり厳重にコントロール不可能な点をコントロールしなければいけないからです。例を出すならば、、、もし、私があまり感染が起こっていない地域に住んでいるとしたら。ロックダウン制限もあまり真剣に守らないかもしれません。まあ、大変なのは、こんな田舎じゃなくて他の場所だろうから、と。11月の段階では、南東イングランドではそのような認識だったと思うのです。勿論、問題はあるけれど、それはうちではなくて、英国の中央部だろう、と。そして、北上すれば、もっと大きな問題が大きくなる。ところが、突然、変異種が発生し、自分の住んでいる地域でも多くの感染が起こりはじめた。病気になったらどうすれば良いのだろうか?と不安になります。このニュースを聞く前までは、軽症の症状が出ていたとしても、「まあ、喉は痛いけれども、まだ全然元気だし、うちの地方じゃなくて、ひどいのは北のほうだから、別に検査の必要もないだろう。検査をするのであれば来週にもし悪化したらしてもらえば良いや」と考えていた。 2週間目には喉のウィルス量は減少している、ということは承知の事実ですね。もうすでにその時点では肺のほうに移動していますから、ここから完全に病気になるわけです。しかし、喉からの検体にはあまりウィルスはいません。これが、通常のシチュエーションです。しかしここで、(変異種の)ニュースが入ります。突然、危機感が出てきて、不安になります。「ちょっと、具合が悪い。多分、感染した直後ではないか」不安なので、検査に行きます。この時点では、私の喉にはたくさんのウィルスがいます。これだけでも、この集団内での患者のウィルス量の平均値は上がるのです。この影響はコントロールするのは大変困難でしょう。ですから、私はとてもこのようなものを読んだ時には常に疑ってかかるのです。

早い時点で検査に行ったから、ウィルス濃度が高かった、、、

そういうことです。平均的にみんなが早めに検査するからです。これを、Disease Awarenesと呼びます。つまり、疾患に対する意識の向上ですね。そのような場合には、検査に早めに行くのです。この発表された内容については、私は疑いを持っていますが、いまのところ他にあまり参考にできるものもありません。ここに、変異したウィルスがあって、その意味を図ることはできますが、例えば、このウィルスが、SARS-1ウィルスと比べると、高い増殖能力を気管支部で持っていることがわかっています。これが伝播しやすい原因です。表面タンパク質にも決定的な違いがあることもわかっています。SARS-1ウィルスとSARS-2ウィルスは、ほとんど同じウィルスで、とても近いウィルスではありますが、SARS-2ウィルスは追加的に表面タンパク質にフーリン切断部を持っていて、そこでタンパク質が切断されて分子的部位に代わり特定の部分にジョイントがあります。つまり、子供の工作のように、切り取り線部からはずして、組み立てる。 これによって、ジャンピング・ジャック人形の足が動くわけです。切り取る前は、すべて一枚の紙です。この切り取り線が、 SARS-1ウィルスの場合は、ハサミを取り出して線にそって切り取っていかなければいけないところ、SARS-2ウィルスではすでに線にそって穴が開けられていて手で切り取れるようになっている、ということです。

これは、細胞内に入り込むために必要なものなのでしょうか?それとも増殖のためですか?

これはウィルスの熟成の範囲で起こることで、次の細胞を感染させるために細胞から出てくる際にこの部分を切断しなければいけなくなります。この切断部がもうすでに切り取り線として工作用紙についている。こんな例えでどうかな、とは思いますが、、、そのように想像していただければ、と思います。

素人的にはわかりやすいです。

実は、クリスマスと新年の間にそのような工作を自宅でしたので。(笑)実際には、これはプロテアーゼ、つまり細胞の酵素が切断し、そこには目印がついています。この目印は、 塩基性アミノ酸で決まるのですが、ここに塩基性アミノ酸がきたことによってこの目印がいままでよりももっとわかりやすくなった、というのは十分考えられることです。先ほどの例えに戻ると、この切り取り線は、もっと細かくちぎりやすくなっている、と言えます。 SARS-1とSARS-2の大きな違いは、この切断部であり、そのおかげでSARS-2は喉でより速く増殖することができるわけですが、今、その切断がさらにうまく行く、ということは、喉での増殖がさらに上手くいくということも考えられ、その結果として、ウィルスが感染伝播しやすくなる。これは仮説として今後も実験などで検証すべきです。

これは、 P681H型の変異体でしょうか?

そうです。これは、プロリンとヒスチジンの交換です。

今までの話をまとめますと、、、このウィルスが実際により強い感染力を持っている、ということの可能性は高い。そして原因の可能性としては、先ほどご説明いただいた、このフーリン切断部である。仮説としてはあるものの、可能性があまりない、と考えられる点は、子供が感染しやすい、ということでしょうか。

その通りです。そこに付け足せることは、子供があまり受容体を持っていない、という説については、論文があって、そこでの結果によると、子供の鼻のなかには大体10%くらい少なく受容体が存在する、とありますが、そうなれば、 特に小さな子供では感染が多くなければいけませんが、そうではありません。

受容体が少ない、ということは、この場合は、結合力が強まれば、子供のウィルスの利点としては結合回数が少なくなる、ということですね。

そうです。

つまり、勿論年齢別に分かれたイギリスからのデータでは、子供の罹患率が高いのは、ほとんどの場所が閉鎖されていた中、学校だけが開いていた、という特殊な状況によるものだ、と。

そうです。大変興味深いことを付け加えると、この影響は11月に強くみられ、そして12月に入り学校でのアウトブレイクがどんどん増えていった頃から、また弱くなってきています。これは、学校での感染が増えるにつれて、学校閉鎖になった学校も増えたからで、12月に入ってからは11月のように開いている学校の数は多くはありませんでした。多分、これも全体的な集団効果、ロックダウン効果であるとみられます。これが、学校という感染が発生している場所でウィルスが目安になっている、ということであり、イギリスの症状重視ではなくランダムに調査されたデータからは、、、これは統計局のものですが、ここでは定期的にランダムに選んだ世帯の調査をていて、どの年齢層がどのくらい喉にウィルスを持っているのか、ということを調べています。結果は、クリスマス直前には、成人では1%。しかし、中学生から18歳くらいまででは、3%強でした。3倍、ということになります。2歳児〜6年生までは2%。 つまり、ここでも年齢と共に増加していっています。これが基本的なパンデミックにおける就学生の役割は何か、というところの答えでしょう。オーストリアのデータも同じ結果です。これもランダムな調査です。ドイツでの学校に関するデータはすべて登録データですが、そのような状況では子供の検査方法は大人とは異なります。学校内の生徒は、クラスター調査のなかで検査されています。その場合は大勢の感染していない人たちも検査されますし、基本的に子供にはあまり症状はでませんのであまり検査もされません。ですから、子供の場合は症状は大人の場合のように検査にあまり影響を与えないのです。 これが、登録データの欠点でもあるのですが、これは他の研究で補われます。ここではっきりと出た結果、この新しいウィルスが(子供に)感染しやすい、ということは部分的にはこのような効果で説明ができるかもしれません。少なくとも、違う国、もしくは、イギリス国内でも違う状況下、例えば、完全ロックダウンで学校も閉鎖している、などという状況では、そこまでの差が出ない、ということも考えられますし、そうであることを願います。これは私の希望ですが。

つまり、これは学校に関しては、良いニュースでも悪いニュースでもある、ということですね。パンデミックにおいては引き続き子供たちも役割を果たすという点では、今後のドイツでの学校閉鎖にも重要なことです。しかし、この新しいウィルスでは特に特別な役割はない、という結果もでる可能性があるのですね。

そのように考えて良いと思います。

もう一つ、これは頻繁にリスナーからいただく質問でもあるのですが、巷で言われているように、新しいウィルスの重症化度は上がっていない、と解釈しても良いのでしょうか。素人的にお聞きしますが。

そうですね。今の時点ではそのような傾向はみられていません。イギリスの調査で、病院の入院患者を新しいウィルスと古いウィルスとで分類する試みもあり、表で比較されています。例えば、ここに70歳の男性がいるとすれば、その人の住所の郵便番号と同じ郵便番号で入院中の別の70歳の男性、新しいウィルスに感染して入院している人を探す。そして、この二人の疾患経過の比較をします。つまり、酸素供給は必要だったのか、熱はどのくらい続いたのか、など、様々な臨床カテゴリに分けて比較ができるようになっていますが、この調査は今始まったばかりです。とても面倒な作業ですが、今の時点で私が見る限り、違いはありません。実は、まだ言っていなかった重要な特徴があるのですが、この新しいウィルスには遺伝子の欠如があります。遺伝子8のコードの8の読み枠(ORF)、ここが欠如していて、ウィルスにはこの部分がありません。この遺伝子の機能というものはあまりはっきりしていませんが、細胞のタンパク質排出器官のなかにあることはわかっています。この研究から、このタンパク質は、免疫機能にタンパク質を掲示するために、細胞の表面まで移動しなければいけなく、そのタンパク質の密度をこのウィルスタンパク質8が小さくおさえているのではないか。つまり、これは免疫調整機能を持っているのではないかということです。もしそうであれば、これは、免疫機能によって排除されることを阻止する機能、ということになります。そのように考えられると思うのですが、それ以外の機能に関しては、今研究されいる最中なので、まだはっきりとしたことはわかりません。
SARS-1ウィルスは、人と人の間の感染時に早い段階でこのタンパク質を失いました。これは、必要不可欠なタンパク質ではなく、付属的なものです。これがなくても、ウィルスはそのまま機能します。SARS-1ウィルスにこの相同タンパク質、つまり、同じ進化源を持つということですが、そうでなければ相同、ではなく、似ている、と表現しなければいけませんが、ここでは進化のラインをたどることができるのです。これらは、同じところから出ていて大変似ています。SARS-1ウィルスはこのタンパク質を失いましたが、このタンパク質をまた元に戻し、元の状態にした場合。この際には、単純な細胞培養だけではなく、人間の肺のモデルでもそのウィルスがその前よりも激しく増殖することがみられます。5倍、6倍です。これは、私が自らこの実験を研究所でしたのでよくわかっていますが、これは私がまだボンにいた頃の話で、2017か2018年に論文を発表しました。

遺伝子実験、ということですね。

このタンパク質は、必要不可欠ではありません。これがなくてもウィルスは機能します。しかし、ウィルスはタンパク質を失ったことによって障害ができるのです。 SARS-1ウィルスの場合はそうでした。 SARS-2ウィルスでの実験によるエビデンスはまだありませんが、臨床の興味深いエビデンスはあります。シンガポールで SARS-2ウィルスのこのORF8タンパク質、ORF8遺伝子の欠如が発生しました。

失くなったのですね。

そうです。失くなったのです。しかし、それ以外のタンパク質も同時に失くなっています。これは念の為に言っておかなければいけないことですが。ウィルスへのダメージはもう少し大きかった、ということになりますが、このウィルスは数週間の間シンガポールで拡がっていきましたが、感染防止対策の間に消滅しています。しかし、十分な間存在し、感染者も多く出したのです。シンガポールの医師たちがこの軽いハンディキャップを持つ変異体と、野生種の比較を行っています。この時点ではまだパンデミック初期だったので、この2つはかなり似ていて、4月くらいの出来事、いや、記憶が正しければ、3月だったと思います。この時点ではウィルス同士はあまり離れてはいませんでした。野生種と変異種はかなり似ていたのです。臨床調査で観察されたことは、統計的な分析がされた後でみてみると、変異体に感染していた患者のほうが酸素供給の割合が少なかった。これは減衰を意味していて、つまり、疾患の悪化効果が減少した、ということです。これからイギリスで、さらに多くの患者の比較がされていったときに、統計的な違いがはっきりとしていって、新しいウィルスは感染力が増加した一方で、少し弱くなった、という結果がでたとしても、さほど驚くことではないと思うのです。これは、イギリスの変異体に対して望む一番大きな期待でもあります。

ということは、いままでとりあげてきた変異体をみてみても、部分的には悪いニュースであっても、全体的な効果からみてみると良いニュースにもなりうる、ということでしょうか。

そういうことです。ここが、変異体の生物科学的なデータだけを持ってそう簡単には判断できない問題点でもあります。このような現象のことを進化生物学的には、エピスタシス、と呼びます。これは、異なる変異体の間で相互関係ができ表現型になることですが、その場合には、2つではなく、3つや4つの協力しあう変異体が突然表現型の違いとなることがあり、ラボで初めて取り扱う際には、隔離して比較ウィルスと照らし合わせる作業をします。それから、遺伝子操作をしたウィルスを使い、他のゲノムの特徴は完全に維持しつうこの変異体を組み入れていくのです。これは、大変難しい実験です。しかし、このような研究の結果がでてくるでしょう。多分、イースターか5月くらいまでには、この実験のエビデンスが出てくるでしょうから、この新しいウィルスが感染力と病理性の増加をしているのかどうか、ということがわかると思います。それまでにはまだかかる、ということです。

ドロステン先生、先ほど、南アフリカのバリエーションについて触れられました。それについてもう一度お伺いしますが、この2つはどこまで似ているのでしょうか? 起こった変異は同じではありませんよね?

そうですね、これらの変異体の共通点は、2つあります。それは、アスパラギン501チロシン変異体である、ということ。N501Yです。もう一つは、イギリスのウィルスが、アミノ酸が2個分の距離で離れているのに対し、南アフリカ型もそれに近いアミノ酸の交換が行われているということです。これも注意すべき点かもしれません。しかし、いまのところは、南アフリカのウィルスは分けて取り扱ったほうが良いでしょう。

確認ですが、これは、受容体の結合部の結合力、ということですね。

その通りです。一つは受容体接続部で、もう一つはそのバランスをとる部位です。それも言っておいたほうがよかったですね。

とは言っても、そのようなところをみても、この南アフリカ型はどのような意味合いを持つのでしょうか。

南アフリカのウィルスに関しては文献でもあまり詳しくは載っていませんが、長期にわたっての観察がされている研究があり、3月から11月末までの調査です。ここでは、2600のゲノムが分析されていて、ケープを中心とするかなり広い範囲からクワズール・ナタール州、つまり、ケープ東部、ケープ西部とクワズール・ナタールですが、南アフリカ全体、ということではなく、一部での調査ですが、どのくらいの頻度で新しいウィルスが出てきているのか。特に11月のはじめに増加がっみられてきています。南アフリカからの報告をみてみると、そのまま12月も増加していったようです。その増え方は、イギリスに似ています。ただ、南アフリカの登録方法、統計方法は、地方によってばらつきがありますから、ここでも注意深く判断する必要はあります。このような新しいデータ、新しい報告など全般に言えることですが、真っ向から否定することなくも常に慎重にみていくことは大変重要なことです。全否定するのではなく、「なるほど、興味深い。まずは整理をしよう。これは、こちらで、、、これらには違いがみられて、、こっちのほうは、、、多分、もう少ししたら変化がでてくるだろう」と、このなかで、大変確かなものといえば、もちろんウィルスのゲノムです。シークエンジングでわかる特徴や、実験的な検査ででてきた結果は興味深いです。この説明をするために、少し遠回りをしましたが、このような調査は南アフリカではされていなく、イタリアでされました。これは年末に発表されたものですが、シエナのラプオーリのグループのプレプリントです。このチームは大変強力な免疫学、ウィルス免疫学のチームですが、ここで行われた実験は、まずウィルスを事前の検査でしっかりとウィルスの表面タンパク質と結合することが確認された患者の血清と混ぜます。この患者は普通の患者です。そして、次にウィルスを細胞培養で増殖させます。ここでの濃度は限界の域で、抗体がギリギリウィルスの増殖を許す範囲でした。これを、いわゆる継代、つまり、実験を繰り返すことですが、7回継代数の後で第一の変化、スパイクタンパク質のアミノ酸ポジション140の欠如が現れています。この欠如は、、、、今、南アフリカのウィルスの資料をめくっていますが、、、これは、南アフリカのウィルスで初めてみられたものではなく、他にも比較できるような欠如はない。もう少し前のページに戻って、、、またイタリアの実験に戻りますが、12継代後に、つまりウィルスを患者の血清を混ぜた状態で増殖させていくと、またさらなる変化がおこりました。ここでは、その前の実験時よりもより増殖がしやすいかたちに変わっています。これを何度も何度も繰り返します。最終的にはウィルスのかたちは全くかわりますが、ここでシークエンジングは、12継代後のもので行われています。ここには、さらに変異が起こっていて、 E484K、つまり、グルタミンとリジンの交換がスパイク内の484です。これと同じものが南アフリカのウィルスにもみられます。これは深刻な結果です。というのも、ここが、受容体接続ドメインが直接ある部分だからです。つまり、この部分が実験の際に抗体からの圧によって、抗体による進化圧によって変化した、という見方が一番近いかもしれません。この実験研究では、この部分はレントゲン結晶構造でも証明、つまり、ウィルスの回避が観察されています。これと同じ変異が、かなり集団免疫に近くなってきている国、南アフリカで起こった、ということは注目すべきところです。 これは大変深刻です。イタリアの研究所では違うことも起こっています。そこでは、引き続き継代されましたが、その際にはタンパク質の別の部分、いわゆるループ、つまり柔軟性のある領域、交換部に、11のアミノ酸が組み込まれたことが観察されました。これは、糖鎖付加部位と呼ばれる、糖質の結合部ですが、この部分は抗体との結合を阻止する部分です。このウィルスがこの部分の変異をした際には、抗体からの効力が全くなくなっていました。とはいっても、これは、人工的につくりだされたラボでのウィルスです。自然界では、そこまではやくこのような変化は起きません。しかし、この近くの部分、イタリアの実験ではポジション248だったところの、ポジション246、2つしか離れていないアミノ酸の部分で南アフリカのウィルスは変異を行なっています。これがどれだけ重要なことであるか、ということはここからは読み取れません。しかし、少なくとも注目すべき点です。それ以上にも、南アフリカのウィルスは別の変異、受容体結合部のポジション417で起こしていますから、これらを全てあわせると、結合部でのかなりの変化を起こしている、といえます。この点ではイギリスのウィルスよりも大きな変異かもしれません。ラボでの免疫圧の実験の結果に似ています。イギリスとは違う環境で、実際に集団からの免疫圧がかかっている環境で、という面で大変興味深い。ですから、この南アフリカのウィルスは、少なくともイギリスのウィルスと同じくらいの注意深さを持ってこれから観察していかなければいけません。もちろん、イギリスのほうがドイツへは近いですから、こちらからドイツに入り込む可能性のほうが、遠いアフリカからよりも高いことはたしかです。しかし、クリスマスの期間中に大勢の人はアフリカに旅行にいっています。南半球であるアフリカは大変人気のありますので。そして、その時点では渡航目的地として許可もされていました。そして、今、その人たちがドイツへ帰国していきています。このウィルスを持ち込んでいないかどうか、慎重に検査すべきです。というのも、今現在、南アフリカではこのウィルスが主流になっているからです。

ということは、最後のほうで対策や数値などの現状について触れる予定ですが、その他にも渡航先、渡航禁止令などについても考える必要がある、ということでしょうか。それとも、もう手遅れですか?

イギリスからのウィルスと同様に、この南アフリカのウィルスが近日中にドイツに入ってくるのは時間の問題です。私の直感から言うと、もうすでに入ってきていると思います。ここで重要なのは、常に、何をすれば良いのか。つまり、どのように抑え込むことができるのか。例えば、イギリスからのウィルスがすぐに大きな問題に発展するとは思いません。それが例え、伝播しやすいとしても、です。ドイツでは現在、非医薬品介入が行われていますが、政治的には、これからどのような決断がされるのか。非医薬品介入、ロックダウンはこれからどのように実行されるのか。すでに国内に入ってきた変異体に対してどのような対策が効果的なのか。対策を取ることができる、ということがわかっていることは良いことです。ここでの疑問は、国境で何ができるのか。私は、パンデミック初期から、(国境の閉鎖は)そういう意味では間に合わない、と訴えてきました。ウィルスはもうとっくに入ってきてしまっているからです。夏には、いたずらに検査をすることで何かが変わるとは思わない、と言いました。しかし、この特殊なシチュエーションでは、本当の意味での防止をすることが必要だと、言わざる得ません。インフラもさらに整っていますし、 人の知識も増えました。ラボの体制も整っています。旅行帰国者を検査することのノウハウもあります。今は、また少なくともしばらくの間は、この部分に注意することは必要です。政治的にどのように決め、実行するか、というところですが。それについては今までにも口を出したことはありませんでしたが、ドイツに怪しい変異体が侵入するのを阻止するのであれば、今だと思っています。これは大変重要なことです。

リスナーがこれを聞いている時には、多分、今(収録時)よりもっと詳しくわかっていると思います。首脳会議の後で、連邦首相の会見があって、この収録をしている時に今後について決められているはずだからです。確かなのは、今のところ学校は閉鎖、というところで、大変残念なことではありますが、やはりパンデミックにおいて大きな役割がある可能性がある、というところでこれは致し方ないことだと思います。イギリスでもロックダウン中に学校で激しく感染が拡がったというところからも明らかです。

そうなのです。前会議で既に多くの点について話しあわれていますが、多くの政治家も、少なくとも部分的に学校は閉鎖しておくべきだと考えているようです。どうなるかは待ちましょう。もう直ぐ発表されるでしょうから。

少なくとも、文化相が定めた優先順位的には、学校は一番上で、開かれるべき場所とはなっていますが、反対に考えてみると、重点をかえ、他の対策を増やせば感染者数を抑えることができ、そこから学校が最優先だ、と言えるようになるのではないでしょうか。

それはそうです。対策は全体でみなければいけません。学校が感染状況に影響を与える、ということはもうはっきりしています。これからまた詳しいデータがでてきますから、ドイツでもはっきりとした議論をしていかなければいけません。しかし、他にもあります。学校だけではありません。公共交通機関もありますし、それは近距離でも遠距離でもドイツ中に走っています。例えばアイルランドでは、利用率を25%におさえています。

何度もポッドキャストで取り上げてきました。

例えば、そのようなことが対策として考えられますし、他の国、そのなかにアイルランドも含まれますが、もっと厳しいテレワークが実行されています。テレワークの規則があるのです。この規則に反した場合は罰則が課せられます。つまり、例えば、この規則に逆らって、職場で社員を働かせたい場合は、週に2回検査を実行しなければいけない、など、ドイツでもそのようなことが考えられるでしょう。しかし、ドイツでいままで忘れられていたのは、テレワークができない職種がある、ということです。1つ目には、それらが重要な職種であることと、2つ目には、テレワークではすることができない職種であること。ごみ収集は、テレワークからは集めることはできませんから。

ウィルスをシークエンジングすることも、ですよね

まあ、ウィルスのシークエンジングは、とても稀な分野だとは思いますが、そのようなものではなくても、多くの職種、多くのサービス、工業分野では、職場で集まって仕事をするしかありません。ゴミ収集車に座っているのは2〜3人でしょうが、他の職場では20〜30人は同じ場所で作業しなければいけないこともあるでしょう。そのようにしかなりたたない職場がたくさんあるのです。この分野での解決策ももう少し政治的に考えていかなければいけないと思います。特に、この変異体がドイツでも拡大することになって、もっと大きな問題が出てくる可能性もあるわけですし、そうなればイースターまでのことを考えなければいけませんし、つまり、1月末で問題が解決するわけではなくて、この寒い季節、通常であればインフルエンザの季節でもあるこのシーズンは3月末まで続きイースターまでです。その後にイースターの休みがはじまりますから、学校はまた休みに入ります。その後には暖かくなって、5月になればシチュエーションが変わりますし、それまでにワクチンも広範囲で接種されているでしょう。そうなれば安心です。しかし、今のところの政治的な対策視野はイースターまでを見据えていなければいけないのです。この職種、大部分が国を支える労働力であり、この分野はいままできちんと対策されてきませんでした。そして、もちろん、何が可能なのか。つまり、会社や職場での対策ですが、例えば、抗原テストの配給であるとか、RKIもガイドラインに、従業員の抗原テストの使用を考慮していますが、現時点では医療現場が中心です。しかし、ここから他の職場にも広げることができるでしょう。私はこの分野に関しては詳しくありませんが、科学者の間でも、ドイツだけではなくイギリスや他の国でも、この分野の改善について様々な議論がされています。例えば、ワクチンの接種において優先順位の再考や、もちろん、距離対策は重要ですが、このような職種では距離を取るのが困難なことも多い。つまり、この場合は防御設備なども考えられます。つまり、マスクなどももっと防御効果が高いものにする。それに加えて、職種やサービスのなかには、社会の層的に、あまり収入が多くない層に属する人たちが多く従事していたりしますから、まだまだ説明不足であったり、まだ広い理解を得られていなかったりするかもしれないのです。そこにアプローチすることも必要です。しかし、この単純に収入が少ない家庭では、その家庭を経済的支える人が1人しかおらず、その人が病気になって職を失ったりした場合、、、説明だけではどうにもならない問題でもあります。
つい先ほど、イギリスの科学者の議論の内容を読みました。そこでは、隔離が単純に困難な特定の家族、特定の世帯では、感染した場合現実的に感染伝播につながってしまう、という問題に触れられていて、そのような場合は数日ホテルに隔離することはできないだろうか、と。つまり、このアジアスタイルの世帯隔離、インデックスケースが世帯から離されてホテルで隔離される、というものです。これについて、今、イギリスでは議論されています。私はドイツではこのような状態にならないことを、早期に正しい判断がされることを願います。ドイツはまだ絶望的な状況ではありません。まだ決断の余地もありますし、イギリスのような状況ではありませんが、少なくともいままで軽視されていた部分の見直しをする必要はあるのではないか。学校を閉鎖することが唯一の方法であるような、そのようなことを言っているだけではなくて、もちろん、学校を閉鎖することは効果がある方法ではありますが、それには常に大きな代償がつきまとうのです。それと同様に、先ほどのような特にこの社会的にも難しい分野での解決が求められるでしょう。パンデミックが収束とともに収入の減少が爆発し破綻していることに気づいても遅いのです。これは全力で阻止しなければいけないことです。

因子についてですが、つまり、学校の閉鎖とともに起こるダメージ、教育的なダメージは、常に静的です。これは家族にとっては、社会経済的な因子と同じようなダメージであることは良く研究されています。例えば、ロックダウン下において重要な職種がありますが、配達員などは薄給ですしリスキーです。同じような議論は、屠殺場の一件で取り上げたことがありますが、また忘れ去られたような気がするのです。

そうですね。あの時の屠殺場での議論をもう一度行う必要性があるでしょう。別に屠殺場にフォーカスする、というのではなくて。屠殺場はかなり特殊な例ですし、そうではなくて、基本的に多くの職種や社会層などにも置き換えることができるでしょうし、ベルリンのような大都市には社会的な弱者が多く暮らすエリアというものがあります。そこでの対策、そして理解とケアからは大きな効果が得られるはずなのです。

先ほど、ワクチン関連で、労働条件や学校の閉鎖からのダメージについて触れられていました。このテーマについては今回も取り上げたく思っていたのですが、もちろん、変異体の際に、理想的な免疫応対が得られない可能性がある、ということ、そしてここでの疑問は、ワクチンへの影響もあるのかどうか。BioNTechは、ないと思うが、まだ研究は必要だ、としています。どうして、研究側としてはまずは影響がない、とできるのでしょうか?変異はスパイクタンパク質部分ですよね。

2つ、どうして変異体が直ぐにはワクチンを無効にしないのか、という理由があります。1つ目は、私たちの血清にあるのは、モノクロナール抗体ではなく、ポリクロナール抗体だ、ということ。つまり、様々な結合部が存在する、ということです。1つが変化しても、そこまでの影響はありません。2つ目には、免疫というものは、抗体だけで動いているものではなく、違うエピトープがある。抗体が認識する部分をエピトープと呼びますが、この場合、細胞免疫の為のT細胞にもありますし、これは全く別の種類のエピトープです。分布が違います。つまり、これは抗体の認識部とは違うのです。タンパク質全体に分布してるもので、このエスケープ型は流行の初期の段階で発生しますが、この部分はまだ変化していません。   ここにダメージが起こるまでに、数年、もしくは数十年かかります。しかし、同時にほとんどのワクチンが、このT細胞免疫を誘発させることがわかっています。ですから、私を含め専門家の意見としては、今現時点ではその部分での危惧はしていません。ワクチン全般のテーマは多様ですから、このような簡単な質問への回答も正しく理解されるよりも誤解されることが多いです。特にメディアなどでは。

私たち素人でも理解できるように、違う視点からもう一度お聞きすると、、、インフルエンザにもインフルエンザの予防接種がありますが、そこでは、いわゆる抗原連続変異というものがあります。これは、ウィルスが変異して、抗体が認識できなくなる、というもtのですが、そのようなことが起こるので、ワクチンも常に変えていかなければいけません。コロナウィルスではこれは典型的ではない、と言われていますが、これが変化した、ということなのでしょうか?

そうは言えないと思いますが、パンデミックの前と後でのコロナウィルスを直接観察したことはいままでありませんでした。私はこのSARS-2ウィルスは、、他の科学者の多くもそう考えていると思いますが、次第に風土病になっていき、このまま残るであろうと思います。そうなれば、はじめの数年、そして数十年の間には、確実にドリフト化するでしょう。世界中で免疫が確保された時点で、ウィルスはドリフトします。インフルエンザと同じです。

でも、まずはその時点に達したら、ということですね。

そうです。そこまで達してから、です。これから徐々にそこに向かうでしょう。今でも免疫回避変異体は、地域的な集団、例えば、南アフリカのタウンシップなどで発生していますし、軽い免疫回避も起こっていくと思います。しかし、この変異体が、免疫がない集団に入るとほとんどの場合が代償を払うことになるのです。というのは、免疫回避型変異体は、免疫未習得集団のなかでは優勢ではなく、劣勢です。そこでは、変異がない野生型のほうが強いので、こちらの適応が変異に勝るのです。これは、基本的に風土病で観察される特性ですが、期間的なものです。この不安定な期間が数ヶ月ありますので、対応はできます。来年、再来年のいまくらいの時期にはまたウィルスの変異体が発生して、別の部分での変異が私たちの心配の種になることでしょう。ウィルスは、科学によってあちこちに押しやられることを繰り返しますが、次第に世界中で平均的な免疫がつくられます。子供はその点では未熟で、抗体を持って生まれるわけではないので、抗体をつくっていかなければいけないのです。まあ、正確に言うと、正しくはありませんね。新生児にも母親からもらった抗体が数個あります。しかし、これは受動態で持続はしません。念の為に言っておきます。
基本的には、免疫は習得されていくものです。ここに集団の区切りがあり、ウィルスは子供の間で拡がり、それが大人に伝播していく。大人は肺炎になることはなく、喉の痛みや風邪の症状で終わるでしょう。この段階になったら、ウィルスは適応していくしかなくなります。この子供と大人間をいったりきたりする、ピンポンのような状況からドリフトが始まります。抗原遺伝子の構造が変わり、特に表面タンパク質、その後でT細胞エピトープ部が少し。このように、免疫からウィルスが攻撃される部分での進化が他の部分よりもはやく進化するのです。他の部分では通常の中立的進化が起きますが、ウィルスは、柔軟的な模索行動、もしくは拡散行動に出て、免疫圧がかかる部分に特化した進化が起こるのです。この性質はインフルエンザでよくみられます。これに関しての研究は、ケンブリッジのデレック・スミスのチームがしていて、このような効果が今後 SARSウィルスでもみられるだろう、としています。しかし、まだ先の話です。

簡単に言うと、表面での大きな変化、ということでしょうか。

大きな変化と変化は、長期的に起こっていくでしょう。患者の血清、抗体検体を数年間に渡って検査すると、ウィルスも変化し、常にウィルスの抗原性と人間の免疫の競争であることがわかります。こちらが変化したら、あちらはそれに適応する。たまに、ウィルスは突然新しい手を使ってきます。その場合にはそれが利点となって感染も増えるのです。しかし、比較的早い段階で免疫は基本的にアップグレードされます。

BioNTechワクチン、そして、近々入ってくる Modernaワクチンも、変異体が出たとしても今後もその効果を失わない、と理解しても良いでしょうか。他にも討論の的となっているのは、ワクチンの数と、接種量です。イギリスでは、ワクチン対策を変更することを決定しました。これは、激しく拡大する変異体に対して少し時間を稼ぐ、という意味合いがあると思うのですが、ドイツでも議論がされているところです。 BioNTechワクチンの承認では、2回目の接種は3週間後、となっています。最長で6週間、つまり42日までの枠がありますが、この考察にはどのような意味がありますか?予防接種対策を変更していく、イギリスのようにすることにいは意味があるのでしょうか?先生はどう思われますか。

特に始めはワクチンの数が少ないですから、とても貴重です。そこで慎重に考えることは重要だと思います。ドイツでは、 ワクチン常任委員会、STIKOが、その点の検討を大規模な調査とともにしていますが、そこでの資料は一般には公開されていません。承認プロセス、などですね。委員会は専門家で構成されていて、今準備が進んでいます。ドイツでは、、、ちなみに、このSTIKOの Covid-19推奨ガイドラインは素晴らしいですが、少しまた調整が必要であるかもしれません。ここではもう少し後で取り上げるのが良いかと思います。私はワクチンの専門ではないのでSTIKOのメンバーではありません。数ヶ月前からこのポッドキャストでも言い続けていますが。これは私の専門分野ではないのです。もちろん、STIKOのメンバーは何人も知っていますので、信頼が置ける専門家の集まりであることははっきりと言えます。そして、現在膨大な仕事量であることもわかっています。ヨーロッパのなかでも、ドイツのSTIKOは悪くない委員会であると言えると思います。

それでも、賛否両論ですよね。専門家のなかには、1回目の予防接種でかなり良い抗体応答がある、という意見もありますが、消費者としては、もし、自分の高齢の親や祖父母がワクチンを打ったとしたら、2回目のワクチンの前に、もちろん距離は保つにしても少なくとも孫にあうことができるようになるのではないか、と思うのです。私たちは引き続き制限があったにしても。2回ワクチンを打たなければ効果を強化できない、持続させることができない、となると、やはりこれはリスクが伴うことなのではないでしょうか。

私は、この、まずはおじいさんとおばあさんが1回目のワクチンを打ってもらって、2回目は少し延期しても良いのではないか、というように考えている人も多いかもしれませんが、この点については、私だったら学生に講義の際にこう言うであろう、ということを説明します。まず、、1回目のワクチンで起こることは、とにかく免疫を挑発する、ということです。そこから14日くらい経つと、始めの反応が出てきます。このワクチンでは、このくらいの期間、2週間くらい後に疾患に対する防御効果もでてきます。14日後に反応がみられるのです。そこから、免疫機能は6週間くらいかけてさらに免疫をつくっていくのです。この6週間の間にもう一度ワクチンを打っても打たなくても、です。しかし、もう一度ワクチンを打った場合は、これがもっと繊細になって、より良い親和性成熟が起き、つまり、結合性の向上です。しかし、この向上は、多分もう少し後でワクチンを打ったとしても起こると考えられます。しかも、この1回目と2回目の間隔をあけることによって、免疫防御力がアップする、という結果がでている研究もあるのです。この理由から、たくさんの不活性化ワクチンは3回接種になっています。1回、2回、そして、間隔を長くあけて3回目、です。この3回の接種で、長期間、何年も持続する濃度の高い免疫防御がつくられるのです。

この結合部の成熟は、抗体がどのくらい良くウィルスの抗原と結合するのか、ということですが、1回目の接種時には、まだリスクの余地があり、感染の危険もあるということでしょうか?

この、現在議論されている、3週間あけるのか、3ヶ月あけるのか、というような点については、わざとざっくりとした答えをだしますが、それは、私は承認データを把握してはいませんし、この議論の輪のなかに入っていないからです。ワクチンの構造がわかっていれば、接種と接種の間に、完全に効果が失われてしまうことなどない、ということがわかると思います。もしくは、感染して重症化してしまう、ということもないでしょう。私は、この違いは測ることができないと思っています。ですから、今行われている議論も重要だと思いますし、特に、このmRNAワクチンでは、とても良いデータが出ていて、かなり強い免疫反応を誘導することがわかっていますから、大丈夫だと思いますし、他のワクチンも1回目の免疫反応が十分であるかどうかは、承認データをみてみないとわかりませんが、このmRNAワクチンに限って言えば、第一回目の接種の免疫反応は大変高い。この場合は、少し間隔があいてしまったとしてもそこまで問題ではないでしょう。より長い効果も得られるかもしれません。つまり、間隔をあけて2回目の接種をすればそれだけ長く免疫が持続する、ということも考えられます。

ということは、リスクはそこまで大きくない、ということですね。先ほどの、祖父母、孫のシチュエーションでいっても。

そういうことになります。つまり、祖父母に関して言えば、いまのところ集団免疫のためにも今現在、数に限りがあるワクチンの有効活用をするべきだ、ということです。これはイギリスでも検討されていることです。多分、ヨーロッパの他の国でも似たような検討はされるでしょう。実行に移されるのに若干時間がかかるとは思いますが、国によってはかなり進んでいるところもあります、ドイツの STIKO委員会は良いメンバーで構成されていますから、数多くのデータとエビデンスに基づいて決断が下されることと思います。

最後の質問になりますが、これは個人ではなくパンデミック全体に関するものです。この2回目の接種に関しては専門家からも批判がでています。ご存知かと思いますが。ウィルスに軽い抗体圧がかかった際、つまり、抗体の反応があまり起こらなかった場合ですが、そのような場合には免疫応答から回避するために耐性や変異が起こる、というものですが、これはどうなのでしょうか?

原則的には間違っていません。しかし、ここで重要なのは、ワクチンは原則だけではなく実際の観察から承認されるものです。これは、考えられるシナリオとしては正しいのですが、今、このような状況で、200万人の代わりに400万人、400万人のかわりに800万人の高齢者にワクチン接種したからといって、耐性を持つ変異体を誘発するか、ということです。それとも、耐性を持つ変異体は、医療体制が整っていないために感染が広がり集団免疫に近づいている国から来るのか。どちらにしても、国内にも入ってくるのですから、できるだけ国民の基礎的保護を強化すること。それを最優先するしかないのです。現時点でワクチン接種を行なった人たちではなくて、です。まだあまり数は多くありません。つまり、国民の10%を接種するまでにもう少しかかる、ということです。実際にエスケープ型を誘発するには、部分的免疫を保有する母集団のなかで感染が起こらなければいけませんし、免疫のない集団への接触がほとんどない状況にならなければいけないのです。実際には残念ながら、ウィルスはしばらく免疫のない集団の中で拡がっていきます。ドイツは広いので。ですから、できるだけはやく国民の免疫保護をつくることが大切なのです。できることは全てそのためにしなければいけません。加速させる努力はどこでもされていますが、残念ながら、どうにもならないこと、つまり製造キャパというものがあり、これは、私が知るところによると、数ヶ月前に注文したかしないか、ということとは関係のない問題だということです。巷ではまた大騒ぎをしていますが。またすぐに政治家への攻撃が始まっていましたが、私はこの問題についての議論をすることは困難だと思っています。あの時点では、状況も違いましたし、現時点での問題も一般の認識とは少し違って、ドイツのワクチンが足りないのは、注文数が少なかったからではなくて、単純に今の時点で供給されることができない、ということなのです。まずは、製造されなければいけませんから。この部分的な国間のズレは、とても論理的な要因があり、注文が原因ではありません。もちろん、基本的には、私の知識というものは、この点に関しては、一般の新聞の読者と同じレベルであることは言っておかなければいけないと思いますが、あの時点では私はどことも関わっていませんでしたので、内部情報というものも持ち合わせていません。

それは、多分科学ポッドキャストの領域ではないかもしれませんし。

そうですね。たしかに、これは科学的な質問ではないですね。

ドロステン先生、これから政治的に決断されたことについて軽く触れたく思うのですが、先ほど、ロックダウンと、まだ実行されていない対策について取り上げました。教育の優先順位の検討であるとか、そして、個人的な決断もあるでしょう。それには、スキー場などに行かないようにするなど、そのようなことも含まれます。いままでのモデリングで発表された内容からも、この4〜6週間のロックダウンで抑え込むことができる、とお考えですか?先ほど、指数関数的な減少も可能だ、とおっしゃっていましたが。

可能性はあります。ポジティブなサプライズも不可能ではないと思っています。現時点での数、RKIの数を鵜呑みにするならば、状況は悪くない、と思うでしょう。しかし、先ほども言った通り、多くの人が検査されていません。本当の数は後からついてくるでしょう。抗原テストだけして、PCR検査を受けていない人が大勢いるのです。そのようなことも全て含まれます。今現在、1日の死者数は多いです。これは、12月はじめ〜中旬の結果であって、ここからはまだ何もわかりません。ですから、もう少し辛抱して待つしかないのです。少なくとも1月中旬まで待たないとはっきりとした数はでません。私が思うには、はやく変化することもあるでしょうし、うまくいくこともあるでしょう。モデリングからは、厳しいロックダウン対策、学校の閉鎖も伴う対策、少なくとも小学校の高学年からの閉鎖では、1月末の段階で、イースターのタイミングで落ち着くために必要な数値までに抑え込むのは難しいであろう、とされています。そうではなくて、緩和したらまたすぐ増加してしまう数値までしか下がらない。これは、感染力がアップした変異体ではなく、今のウィルスで、です。ですから、私はナイーブかもしれませんが、全てがうまくいくことを願っています。今週にでも準備することは必要ですね。何ができるのか。長く続けるには何ができるのか。どの方法がまだ考えられるか。
学校では例えば、 仮の状況があるでしょうし、 試行錯誤されていくと思います。 特定の学年では、教室は空である必要はありませんし、30人はいる必要もありません。7〜8人くらいでしょうか。これもかなり大きな違いです。生徒によっては、家庭の事情によって学校にいかなければいけないケースもありますから、改善策をみつけていくべきです。前向きに検討していかなければいけません。もういい加減、「科学的な根拠により、学校では感染は起きない」などという発言はしないで欲しいのです。もうとっくに科学はそんなことはいっていません。例外的に言っている科学者もいないわけではありませんが、インターナショナル、ヨーロッパのなかでの主流の意見ではありません。先に進むべきです。つまり、先ほどの別の視点もそうですし、どのようにもっとテレワークに移行するべきなのか。特にイースターまで、です。もしかしたら、ワクチンの接種状況では、労働層までの接種が遅れもう少し長引くかもしれませんが、それはわかりません。そのような全ての分野の詳細を考えていかなければいけないのです。そして、これは政治のプランのレベルですから、第一波のように科学の出る幕はありません。

冬休み前に、政治が科学にきちんと耳を傾けない、という問題点を指摘されていましたが、そこの改善はされたのでしょうか?現時点での印象はどのようなものですか?

これは、公の議論からもわかるのではないかと思います。首脳会議の速報についても「たぶん、対策についての同意はすでにされているのであろう」という声が多かったのも、州においても年末にかけてはっきりとした表明がされていたからだと思うのです。これも科学が受け入れらた証ではないでしょうか。それと、州ごとの経験値とも関係があるとも思います。 クリスマス前、10月からクリスマスまでに、科学が軽視されている、という印象だけではなく、協会や専門家の間からも混乱を招くような発言があったりして、基本的なところでの対立がおこりました。例えば、老人ホームだけ隔離すれば良い、と。老人ホームの対策コンセプトがないわけではないのです。しかし、現実的には、この老人ホームという例でみても、感染を持ち込むのは訪問者だけではありません。可能性からするとスタッフのほうが高い。スタッフだって、一般人です。子供もいるでしょうし、家族もいます。プライベートな交流だってあるでしょう。それがあった上で毎日出勤しているのです。それをどう隔離すればよいのでしょうか?理想的なのは、このようなスタッフを優先的にワクチンの接種をする、ということです。そのように今も動いていますが、病院内のようにはまだ賛同されていない、と聞きました。しかし、もちろん病院の分のワクチンもまだ十分にありません。この問題は解決不可能ではないものの、その解決は極めて困難です。クリスマス前に、科学者を含むたくさんの人が、公の場でこのコンセプトの欠如を批判しました。コンセプトはあれば、ロックダウンなどしなくても良い、と。これは残念ながら間違いです。なんらかのコンセプトを用いても施設を隔離することは不可能です。これは経験上でも言えることですし、実行上でもそうです。これには、コスト面でのファクターも含まれますし、ここ数年老人のケアの面で人手不足が問題になっているのは明らかです。検査も困難です。全てにおいてそう簡単にはいかない理由があるのです。

これからまた変異体についての新しい情報もでてくるでしょうし、ワクチンにも期待します。そして、もちろん対策についても、です。今日もどうもありがとうございました。






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