ドイツ@Sars-CoV-2 コロナウィルスアップデート(42) 2020/5/19(和訳)

話 ベルリンシャリテ ウィルス学教授、クリスティアン・ドロステン
聞き手 コリーナ・ヘニッヒ

2020/5/19

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デンマークでは、全ての成人を検査する、という意向を示しています。スペインは、海外からの旅行者に対しての検査義務を議論中、そして、ドナルド・トランプは、予防の為にまだその効果が検証されていない抗マラリア剤を服用している、とのことです。最近のSARS-CoV-2ウィルスに関する世界にニュースはバラエティに飛んでいる、と言って良いのかどうかも迷いますが、、、アドバイザーという言い方の方が学術的でしょうか。 これから経済はどうなるのか。 私達に出来る事は何か。これが、ドイツとヨーロッパのアジェンダの一番上にあるテーマですが、個人のレベルでは、バカンスも重要な問題ではないではないかと思います。 ウィルスの危険性について研究はどこまで進んでいるのでしょうか。イタリアから、致死率についての新しい情報がでています。そして、豚インフルとの比較もみていきたいと思います。 接触制限とその緩和についての批判と議論についてもふれたいと思います。 今日も、ウィルス学教授、クリスティアン・ドロステン氏とアプリで繋がっています。聞き手は、コリーナ・ヘニッヒです。

前回は、レストラン内でのエアロゾル感染についてお話しいただきましたが、緩和が進み、次々とオープンされるにつれて日常生活の中でこの問題は残りますが、リスナーからは、屠畜場での感染クラスターの一件について質問が相次いているところですが、衛生面などの改善などにも関係はあるにしせよ、ウィルス学的にみて、ウィルスがスーパーに並ぶ肉によって運ばれる危険性はあるのでしょうか。 

危険性はないでしょう。肉によって運ばれる可能性はなくて、肉もある一定の期間貯蔵されますし、ウィルスはそこまでの耐久性はないので、肉の表面にいる様々な生体物質に攻撃されたり、、、例えば、タンパク質を分解する作用があるプロテアーゼなどに、、、その点では全く問題はないですし、肉はその後に調理されますから、その時点でウィルスは一瞬で死滅します。このウィルスは温度への耐性がありませんから。 ここに注目する必要は殆どありません。 勿論、屠畜場での感染は、ドイツだけではなく、アメリカでも相次いていますから、感染が本当に、労働者達の粗悪な住居環境内で起こっているのか、それとも、違う原因があるのか。 そのところをきちんと調査しなければいけないでしょう。例えば、作業場の温度など。 作業状況によっては、距離を保つことも不可能ではないと思いますが、関係者に聞いてみたところ、近距離での重労働が避けられない場合も多いようです。 それよりも、まだこの点が公で指摘されることはあまりないのですが、原因のひとつだと思われる点は、作業場の温度、です。私が聞いたところによると、屠殺場では、大きな体育館のような作業場での温度が低い。冷蔵庫のような温度設定です。ですので、屠畜場での活発な感染状況が、冬の通常の状況と似ているのではないか。低温効果です。低い温度は、ウィルスの伝播に好都合ですから、これが、屠畜場での感染クラスターの原因かもしれない、と考えています。

通常であれば、食品の保管は低温の方が衛生上良い、と考えてしまいますが、この場合は逆効果かもしれないのですね。その可能性がある、と。 特に、人から人への感染関しては。

作業場の環境ですよね。その証拠となるデータをどこかの文献でみつけた、という訳ではないのですが、少なくとも、調査をする意味はあると思うのです。 勿論、データを集めるのは容易ではありませんが、注意深く観察するべき事だと考えています。

地域での致死率とウィルスの関係性関しては、度々議論が炎上します。高すぎる、低すぎる、死因は本当に、新型コロナなのか、など。 新しい光が、イタリアから差しそうです。シャリテも協力した論文ですが、数をまとめて統計がとられています。北イタリアのロンバルディア州ベルガモ地方のネムブロという、人口が1000人程の都市での、8年間の死亡者数の比較が行われました。例えば、3月までの死亡者数はそれまでの1年間での死亡者数を超えていました。この論文について少しだけ触れますが、この数は、全死亡者数で、死因は様々です。新型コロナでの死者数ではありませんよね。

これは死亡者数の統計で、死因は関係ありません。ここでは、超過死亡率が出されて、登録体制が機能している国では、もう既に3月の超過死亡率は発表されていますが、そこでもはっきりとした超過死亡率の増加が認められ、4月に入ってからはロックダウンの影響でまた下がっています。感染自体が少なくなりましたから。ここでは、発表されている新型コロナでの死亡者数よりも、超過死亡率が圧倒的にそれよりも高い事がわかります。このなかには、PCR検査が行われなかったために診断がされていないケース、例えば自宅で亡くなった、なども含まれています。そして、間接的に関係があるケース、新型コロナ患者為他の病気で入院できない、感染を恐れて来院しない。 これらの影響あります。 この研究は、イタリアで行われましたが、人口は11500人です。ここの普通の死亡率は、1000人につき10人、つまり、通常であれば、年間で、1000人のなかで10人死亡します。過去に、21人死亡した年もありましたが、平均で10人、最高で21人、と言うのがこの地方の死亡者数です。それが、今年の3月には、155人の死者がでました。これは、通常時の15倍です。これは、小さな地方での数値ですから、他のところでは違うファクターかもしれません。それでも、規模の想像は出来ると思います。死亡数を15倍にしたら、、、基本的に、誰もが、周りで直接、若しくは間接的に新型コロナで死亡した人と知り合い、という規模になります。

副次的な影響、別の病気の患者が病院に行かない、若しくは行けない、など、について出ましたが、ここの死亡者のなかで、約半数が陽性確認がされた感染者でした。

ここでは、85人新型コロナの感染が確認されています。4月の分も少しだけ加わっていますが、合計、、、頭で計算すると、、、178人中85人が検査で陽性確認されています。

イタリアの医療システムは、コスト削減の末の酷い状態で、ドイツの状況とは全く違う、と言うことが繰り返し言われていますが、この著者は、ネムブロは違う、と評価しています。 ここの数値を注意深く、他の国にも当てはめることはできるのでしょうか。

それは出来ると思います。この地区はイタリアの中でも豊かな地方です。ここの医療システムは完備されていますが、突然の出来事だったのです。準備をする時間がありませんでした。勿論、ドイツにはもっと沢山の集中治療病床があります。しかし、その比較は重要ではありません。重要なのは、数字から全体像の把握と印象を持つことです。北イタリアは特別な地域ではないのです。高齢者の割合が多いですが、それは、ドイツも同じです。 きちんと事実と向き合い話し合う必要性を強く感じます。 今でも、SNSなどで、新型コロナは普通の流行風邪と変わらなく大したことない、という意見が出回っていますが、この数をみると、たった数週間ウィルスが拡まっただけで、どのくらいの増加があったのか、と言うことが分かると思うのです。
忘れてはならないのは、ロックダウン前には、ヨーロッパ各地で指数関数的増加の前兆がみえていた、ということです。何もしなくても終息した、というものではありません。
ここは、推測するしかありませんが、アフリカの状態が報道されました。ニューヨークタイムズ記事で、ナイジェリアのカノというところでの感染状態、かなり酷い感染爆発が起きている、と読み取れます。ロックダウン対策をたとえしたとしても、止められないくらいでしょう。アフリカ発展途上国では衛生環境も良いとは言えませんし、データもかなり大雑把です。医療のシステム的な調査は存在しません。
ナイジェリアの例を出すのは悪くないと思いますが、ナイジェリアの対応は悪くないにせよ、カノのデータは出ていません。記事の中には、病院で検査された91人の医師の中20人陽性。検査した時にウィルス感染していた、と言うことですね。そこには、小さなラボがあり、幸い、そこで検査をすることができるのですが、そこの技師達も感染していました。 ラボでは、入院患者との接触はないわけですから、それだけ、どこにでも感染が充満してしまっている、という事なのです。ジャーナリストが、周りの100人にインタビューしたところ、殆どの人が、ここ数週間で風邪のような症状で臭覚と味覚の欠如がみられた、と言っています。この情報がどの位正確なのか、ということは置いておくにしても、ここから受ける印象は確かです。アフリカでの致死率がどの位なのか、という事は不明です。アフリカには、ヨーロッパにはない感染症、例えば、寄生虫病など、免疫に影響する病気もありますし、これからアフリカでどうなっていくのかは先が見えません。しかし、今後もアフリカからのニュースの数は増えるでしょう。

もう少し、違う国にも目を向ける必要がある、ということですね。ドイツ国内が比較的落ち着いていると間は特に。

そうだと思います。ドイツメディア、特にテレビは、もっと外国のニュースを報道するべきでしょう。情報を収集する事は大切です。特に、ニューヨークでの事もあまり報道されていない、と感じます。知りたかったら、かなり積極的に探さなければいけない状態です。公共放送には、とても良く出来た番組もありますが、それも、積極的に探さなければみつかりません。放送されるのは一回きりですし、それを逃したらもう見る機会もありません。これを自覚している人は少ないでしょう。 オーストラリアやイギリスでは、全く違います。英語のネイティブ環境では、英語での報道数が比べ物にならないので、情報量も多いのです。英語の新聞を常に読んでいない限り、ドイツではそうはいきません。

この、南の方では、温度による影響が殆ど、ないとみても良いのでしょうか。ここでも、季節の効果について話し合いましたが、温度がもたらす影響は殆どない、ということでしょうか。

南、というと、多分、アフリカとか、熱帯諸国とかですね?

はい。

そのような地域では、インフルエンザにもあまり季節的な流行というものはないのです。 そこまで集中的に流行する期間はなく、年間を通じて発生します。その数は少なくありません。 今回の新型コロナでは、大きな波が来るだろう、ということと、、、付け足しますが、アフリカ諸国にも、flatten the curve カーブを平坦化する、という対策はあります。しかし、それを持続していけるのか。気温に左右されない、流行の波が引き続き起こるのか。  根本的なところで正しくいうならば、熱帯諸国でも、インフルエンザや風邪が増加する期間、というものはあります。例えば、西アフリカ諸国では、有名なハルマッタン、空が曇って湿気と気温低下みられる期間、2月、3月に、風邪も増えます。

違うテーマにも行きたいと思うのですが、これは、ずっと取り上げよう、と思いつつも後回しになっていた内容で、、、今回のパンデミックを、他の歴史的なパンデミックと比較する、というものです。10年以上前、まだ記憶に新しいと思いますが、豚インフルエンザ、H1N1型がありました。 当時は、WHOが強く警告しましたが、今回、新型コロナはその豚インフルエンザよりも10倍危険だと言われています。 豚インフルエンザは、過大評価をされたのでしょうか。

豚インフルエンザのパンデミック初期では、危険性に関しての誤判断は確かにありました。しかし、その後での評価も正当なものではありません。 判断を誤った原因、というものも今では分かっています。その点について話し合ってみたい思いますが、、、今から振り返って、豚インフルエンザが全く危険ではなかったのか、というと、それは違います。死亡者数からいうと、大体、世界規模でのインフルエンザの流行時の数くらいです。数では、通常のインフルエンザと同じ位の死者数ですが、それ以下でもありません。そのように報道される事もありますが。 一つ、大きな違いがあるのは、年齢分布です。 このインフルエンザでは、中年層の成人に集中しています。この免疫学的な現象の理解が当時はされていませんでした。 それについて、これからお話ししますが、どうしてこのような間違いがおこったのか。 結果的に 死亡者のなかでの65歳以上の割合は20%でした。この割合は、普通のインフルエンザでは全く違います。

65歳以上ですね。

そうです。ここではそう強調されています。 パンデミックなインフルエンザでは、H1N1-2009パンデミックもそうでしたが、25〜35歳の死者が多い。まだはっきり覚えていますが、その時、私はボンで勤務していましたが、どこの集中治療室でも、30〜35歳の患者が、次々と急性のウィルス性肺炎により、殆ど手の施しようなく亡くなっていきました。
インフルエンザは新型コロナとは病原的な性質が違う、という事は忘れてはいけません。インフルエンザには、免疫を持たない場合、タミフルなどの抗ウィルス剤があります。これは、初期段階で服用されなければ効果はありませんが、進行後用には抗生物質もあります。インフルエンザでは、インフルエンザウィルスで直接死亡しない場合が多いのです。 因みに、2009年の豚インフルエンザでは、直接的なウィルス性肺炎も多くみられましたが、殆どが、普通のインフルエンザのように細菌による二次感染で悪化していました。
今回も新型コロナは、抗生物質での症状の改善はみられません。細菌による二次感染の肺炎ではないからです。新型コロナの肺炎はウィルス性ですから、抗ウィルス剤の研究が必然なのです。もっと、免疫調節剤や抗ウィルス剤の詳しい検証が必要です。例えば、レムデシビルなどは、抗ウィルス剤として効果があります。

当時、どうして、若い年齢層で重症患者が出たのでしょうか。高齢者は何か隠れた免疫があったとか、そういうことはありえますか。

はい。そのような免疫を持っていたのです。これは、予想もしなかった事でした。基本的に、研究された事しかわかりませんし、既存する検査方法で検査するしかないのですが、当時行われた、通常のラボでの抗体検査では、ウィルス同士の系統的な近さはみられなかった。つまり、新型のH1N1ウィルスと、既にあった古い型のH1N1型ウィルスは近くはなかった。
ここで少し補足します。多分、説明する上で重要だと思いますので、、、まず、ラボで血清学的にウィルスを調べた際に、旧型の H1N1型ウィルスと、新型の H1N1パンデミックウィルスとでは、お互いにそこまで近くなく、共通点も少ない為、交差免疫もない、と。かなり早い段階でそう判断されたのです。 これは、早合点でした。
他にも、この新型のウィルスが発見された際に、すぐに、動物実験で基本的な病原性の確認が行われています。インフルエンザでは、フェレットで実験される事が多いのですが、これは経験上、人間に似た感染状態を示す事がわかっているからです。フェレットは肉食動物で捕食者ですから可笑しな話で、人間とはそういう意味では哺乳類の中でもそう近くはありませんし、げっ歯類のほうが、人間には近いのですが、げっ歯類のインフルエンザ感染状態は、人間と比較になりません。 それに対してフェレットがかなり似た状態になるのです。これは検証済みで確認されていることで、感染伝播の実験にも使われている程ですし、肺のウィルスによるダメージも観察できます。 このような動物実験が出来るので、それを当時もすぐにしたのですが、出てきたデータの結果は一目瞭然だったのです。 H1N1型ウィルスは、動物実験の際に、当時、主流だったH3N2型ウィルスと同じ位肺にダメージを与えていました。動物実験段階でも、かなりの病原性持ったウィルスで、 免疫、という要素を除いて考えると、、、 2009年のH1N1型ウィルスは、かなり危険なインフルエンザウィルスだったのです。
しかし、驚くべきことに、数ヶ月後になって分かったことは、高齢者にあまり重症者がいない。初めは、まだそのような兆しだけでしたが、調査が出来るようになってやっと理解が出来ました。ある一定の年齢層が隠れた免疫を持っていた事が発覚したのです。細胞レベルでも、そして、その後行った調査で確認されたように、抗体面にも、免疫があったのです。特に、細胞レベルでよく確認できました。現在では、その原因がはっきりしていますが、その当時はわかっていませんでした。 2009年の頭、メキシコからアメリカ入り、ヨーロッパを通って世界中に拡まっていった頃には。 全く歯止めが利かず2009年の秋まではお手上げだったのです。秋になってやっと、データが上がってきて、、、旧型の H1N1型ウィルスの交差免疫が確認された、という、はっきりとした結果でした。

あまり似ていないに関わらず、ですね。

共通点が少ないのにも関わらず、です。この不明な点は、今回新型コロナウィルスと、他コロナウィルスとの交差免疫にも当てはまります。常に、今のシチュエーションとの比較をする事を試みていますが、、、この交差防御がどの程度あるのか。まだそのところがわかっていません。 近々発表される論文にも、この交差防御のデータが入ったものはありますが、多少の交差効果があったとしても、、、、敢えて言いますが、あの時のようには、2009年の H1N1型パンデミックの時のようにはいかないだろう、とみてはいます。
ここから、どのような仕組みだったのか、という説明です。 まず、1918年にパンデミックがありました。スペイン風邪です。 これは、 H1N1型ウィルスによってひき起こされたのですが、この H1N1型ウィルスは、1957年まで拡散していました。1957年には、H2N2型ウィルス、アジア風邪が登場し、このウィルスは、1968年に、H3N2型、香港風邪に取って代わられ、このH3N2型は今日まで存在します。この株は、2009年の H1N1型と交代する事なく、 H1N1型はH3N2型を追い出すだけの力はなかった、ということですね、、そのおかげで、未だにH3N2型は残っているのですが、ここから少し複雑になります。1977年に、小さなパンデミックが起こりました。ロシア風邪、と言われているものです。このウィルスは、 スペイン風邪のH1N1型とその後1918〜1957まで存在していたウィルスの株ですが、それが、消滅してから20年後、突然、また小さなパンデミックとして復活したのです。

そんな事が起こるのですか?

どうして、そのようなことになったのか、というのは不明です。もしかしたら、どこかの閉鎖された地域、外との交流があまりないところで、静かにウィルスが潜んでいて、それが出てきたのかもしれませんが、本当のところはよくわかってはいません。 兎に角、ここで復活したウィルスは、2009年まで存在しました。振り返ると、2009年時点で、H1N1型ウィルスに対する免疫記憶もったウィルスが2種類存在した、ということになるのです。その中で一番重要なのは、人生で一番初めインフルエンザ感染を、スペイン風邪と、1957年まで続いた後継ウィルスでした人達の存在です。 計算してみましょう。2009年から1957を引くと、、、52歳ですね。この時に、52歳以上だった人達は、人生の始めてのインフルエンザを H1N1型で経験していますから、 H1N1型に対する免疫記憶があったのです。これは、Original antigenic sin 、抗原原罪と言われるものです。免疫学的、疫学的な観察で、簡単に言うと、人生で一番初めに感染したインフルエンザの型に対しての一番良い免疫がつくられる、という原理です。

華やかな定義と簡単な結果です。これで、タイミングの疑問は少し解明されました。

これが、高齢者がこの感染症にあまりかからなかった理由です。この年代は、通常であれば、年齢、基礎疾患、肺や心臓の持病でインフルエンザのハイリスク入る人達です。 まだ、考察は続きます。この国全体にあった防御は何処から来たのでしょうか。 実は、免疫を持っていたもう一つグループがあったのです。 それは、若い世代、ロシア風邪を人生の中ではじめてのインフルエンザとして感染した世代です。これは、生まれた年が2、3ありますが、ロシア風邪の世代と、1968年にH3N2型を抗原原罪として持った世代。1977年にロシア風邪、 H1N1型に感染した世代は、2009年には32歳でした。健康な中間世代ですが、ここにも免疫を持ったグループが存在したのです。 更に、1977年のロシア風邪以来、 H1N1型はワクチンにも混ぜられていますから、2009年までに予防接種をしたグループも免疫を持っていたのでしょう。このような要素が重なって、 H1N1型パンデミックが、思ったよりも軽く済んだ、という結果になります。 ここでは、思いもしなかった事が、同時に起こったのです。予想など出来ませんでした。 動物実験では病原性が高いウィルスだと出て、ラボの検査では、交差免疫はない、と出た。その後、突然、とんでもなく重要な事を見落としていた事にきがついたのですから。長い間のインフルエンザ研究のなかでも完全に見落とされていました。 そのような研究をする機会がなかった、というところで、、、運が悪かった、としか言いようがありません。間違った判断を下しました。

それでも、患者的には良かったですよね。

そうですね。運が良かった、とも言えますね。しかし、あの時の誤判断のせいで、未だによく医療、疫学、そしてワクチン開発対しての批判の材料にされるのです。 みんなの恐怖煽った挙句、結局何もなかったじゃないか、と。新型コロナの場合も同じだ。同じ事が繰り返される、と。 簡単じゃありません。

ワクチンの話がでました。季節風邪の予防接種は大勢の人がしているワクチンですが、また批判的な声も出てきていて、豚インフルエンザ、 H1N1型のワクチンが開発された時に、大量のワクチンが用意されたのに関わらず、予防接種をしようとする人があまりにも少数でした。コミュニケーション不足だったのでしょうか。それとも、既にその時には終息していたのでしょうか。

2009年の豚インフルエンザのワクチン開発関連のテーマは複雑で、当時も大きな社会的言説でしたが、またそれが蒸し返されています。部分によっては、フェアではない批判もありますし、陰謀説まで持ち出されてくると、もう、これは議論をするレベルではありません。 勿論、当時のワクチン開発に関しては、様々な要素が複雑に絡み合い、多くの誤解も生じた事は事実です。当時は、まだプレパンデミックワクチンの研究や開発は今程進んではいませんでしたので。 今は、CEPI(感染症流行対策イノベーション連合)のように、国際的に支援をする機関もありますから、研究側と産業側双方のワクチン開発に促進をする事が可能です。 これは、エボラ危機の際に発足したものですが、主旨的にはその前から計画されていた連携パートナーシップです。あの当時はまだ状況が違って、2003年のSARS、その次にH5N1型、鳥インフルエンザが2004、2005年くらいから家畜を通して流行し、ユーラシア大陸から北アフリカまで拡がりました。ご存知だと思いますが。 H5N1型のパンデミックを引き起こす危険性、人間に感染する可能性考慮して、プレパンデミックワクチンの開発の許可を申請したのです。パンデミックが起こった時にはもう承認されているように、H1N1型ワクチンの成分などの臨床試験をしてしまう。そして、ワクチンの承認を先にする。それが必要になるかならないか、は別として、です。 基本的なアイデアとしては素晴らしいもので、その結果、 H1N1型豚インフルエンザのワクチンが開発されたのです。これが、H5N1型プレパンデミックワクチンの原型です。ワクチンは承認され市場に出ました。
同時に、違う H1N1型ワクチンもつくられましたが、これはプレパンデミックには適用されなく、通常の過程を経て承認されました。製造過程も違います。これは、通常のインフルエンザワクチンのような混合ワクチンではなく、単独ワクチンで特別なこのパンデミック専用のワクチンでした。これらは全ては2009年の上半期に時間との戦いのなか開発されたのです。そこから、対立する議論がドイツだけではなく、世界中ではじまったのですが、、、 誤解から生まれた情報がメディアで飛び交い、確認されていない記事が多く出回りました。 例えば、、、これは、覚えている人もいると思いますが、、、ドイツには数種類のワクチンがありましたが、プレパンデミック法でつくられたワクチンは、連邦によって購入され、州は違う製造元から違うワクチンを購入したのです。大きな違いは、連邦が購入したワクチンにはアジュバンドが使われていなかった。

補強剤ですね。

そうです。この効果を強化する成分の危険性に関しての議論が勃発し、根拠のない、憶測で、終いには、全く科学的ではない話にまで発展してしまいました。

副作用についてでしたよね。

そうです。そもそも、連邦が州と違うワクチンを購入するとは何事だ。などという声と共に、誤解しか生まれませんでした。あの時は、製造元も、かなりのプレッシャーのなかで、誰が何をどれだけ、という発注を受けなければいけなかったのです。私が知る限り、春には決まっていなければいけなかったようです。という事は、まだワクチンが完成していない時点で決めなければいけなかった。 そうしないと、生産におけるプランも建てられませんから。どちらにしても、キャパの最大限の出力で生産される事になりますし、 契約もされなければいけません。州には、自治体の健康守る法的義務があり、連邦にも、連邦が関与する領域範囲での注文が可能でしたので、そのようにされたのです。 例えば、国会議員の分など、です。
この背景には、どちらかが優れたワクチンを取る、などという競争など無く、どちらかと言うと偶然そうなった、と言って良いでしょう。しかし、数多くの非難が寄せられました。 国会議員は安全なワクチンが貰えて、国民は残ったワクチンで我慢しろ、というのか! など。 勿論、そんな訳があるはずなどないのですが、そこから、またアジュバントについて議論がはじまり、、、アジュバントが必要な理由は、それを使うと、より多くのワクチンが作れるからです。補強剤無しで作れば、それだけ多くのワクチン抗原が必要になりますし、パンデミックのような状況では、ワクチン不足にも繋がりかねないポイントです。 これは、今回のパンデミックでも同じで、十分な数のワクチンが作れない、という問題は起こりえます。

この効果を強化するものがなんなのか、というご説明をしていただけますか。成分とか。 私達にはわからないと思いますので。

この補強剤には、様々な成分が入っていますが、基本的に、免疫を刺激する作用がある成分で、特に、注射部位に白血球が集まりやすくする、などの役割もあります。この目的のために長い間使われている簡単な化学物質が多いです。有名なところではアルミニウム塩とか、ですが、現在はもっと良いアジュバントも数多く開発されています。場合によっては公開されていない企業秘密のものもありますが、効果があり副作用が少ない成分です。かなり研究もされています。
小さな分子で、免疫を刺激する。この補強剤がワクチンの効果を上げる為に入ります。 あの当時、新しいアジュバントがあって、それが、十分に検証されていない、と非難の対象になったのです。新しく出たインフルエンザワクチンを試すモルモットに国民はなっている、と。全く根拠のない言いがかりですが、パウル・エールリヒ研究所の必死な弁護も聞き入れられませんでした。時には、メディアでの初めの見出しの印象がその後の方向を決めてしまって、修正不可能となってしまう事もありますが、あの時がまさにそうでした。
その後にも、馬鹿げた憶測が飛び交い、例えば、スクアレンというアジュバントの一部の成分、これは、体内の普通の新陳代謝時にも分泌される成分なのにも関わらず、これが、重度の精神障害の原因になる、精神症状まで引き起こす、と。勿論、そんな証拠などないのですが、そういう憶測が出される。そのうちにシチュエーションはエスカレートして、制御不可能になっていきました。あの、1時間近いアルテの番組、、、なんと言いましたっけ、、、、

Profireure der Angst  恐怖の利潤、です。

ああ、そうでした。あの現象をまとめたもので、偏った人達の意見だけに集中し、全く専門的な知識のない人達が、根拠のない主張と激しい批判をし、それが検証されないまま広まる。 対する意見など聞き入れない。今でも、この番組は、陰謀説者達や反ワクチン派の間で出回っていて、新型コロナのワクチンが強制される、とか、そのような全く根拠のない噂の材料となっています。

まだ、ワクチンもないのに、ですよね。

そうです。しかし、それがまた掘り出されて、混沌とした迷走した議論なってしまっているのです。データからして全く間違った数値を使っています。当時の専門家が、また今回も、新型コロナの専門家と名乗って公に登場していますが、彼は当時、ワクチンの副作用を、パーミルで説明していましたが、これも完全な間違いです。ワクチンやワクチンの成分で、そのような副作用率はないのです。そんなワクチンは承認されません。しかし、そのようなことを平気で医療の専門家が言うのです。内容的にナンセンスな発言です。
更に、経済的な利益と、医療専門家への賄賂に及ぶまで非難は続きますが、これはもしかしたら一理あるのかもしれません。私にはわかりませんし、判断できません。 しかし、この番組で使われた論証が、今回のSARS-2パンデミックで蘇ったのです。
これを言う理由は、私も個人的に非難の対象になっているからです。その人達は公でこう批判します。 ドロステンはパンデミックで儲けている。 またある人は、検査でお金を稼いでる、と言いました。 そんな事はありません。一銭も儲けはないのです。 それと同じように、番組内では、学者が、顧問として、WHOや、製薬会社から報酬もらっている、とされています。もし、そのような事が実際に起こっているのであれば、大変な事です。しかし、そのような癒着は今の時代にはあり得ないでしょう。勿論、私には確かな事はわかりませんし、自分自身がどうか、という基準だけでしか話せませんが。 何度もこのポッドキャストで言いましたが、私自身はワクチン開発には全く関与していません。私の専門ではないからです。どこかの製薬会社とコネがある、ということもありません。そのような批判をされる事もありますが、何処からか特別な報酬をもらうなど、全くないのです。

また、政治的な話なってしまいました。このポッドキャストでは、具体的というよりも、他のジャーナリストの為のリサーチ的ポジション、とおっしゃっていましたが、最後に、今までの豚インフルエンザを、現在の新型コロナに当てはめてみると、、、当時の、アジュバントへの不安、報道の偏り、など、今の視点で説得は可能でしょうか。 それとも、 もしかしたら、やっぱり強化剤の副作用あるかもしれない、と今回の新型コロナワクチン開発にも影響が出てくると思われますか。

強化剤のデータは良いデータばかりです。今の時点でもう既に、安全性が高いものである事が言えると思います。 パンデミック状態では、補強剤を使うことで、同じ量のワクチン抗原から沢山のワクチンを製造する事ができるので、より多くの人に使えるのです。それ以上に、免疫反応も入っていた方が良くなります。 様々なワクチン入っている成分ですから、沢山の患者での経験上、臨床でも良い結果が出ている事は間違いありません。全ての年代で検証済みです。 ワクチンの承認は大変厳しい基準で行われていますので、このような議論は本来する意味がないのです。

 H1N1型の時のような、交差免疫が、コロナウィルスにもある可能性はありますか?これについては先程触れましたが、、、、科学の盲点、、希望はあるのでしょうか。

私は、一番重要な盲点そのものが、隠れた免疫だ思っています。 研究のなかで、今まで全くSARS-2ウィルスとの接触がなかったのにも関わらず、細胞免疫の反応があった、少なくとも、メモリーT細胞が反応した例がありますので。 これは、弱くても、免疫の記憶が、まだ接触していないタイプのウィルス対して反応した、という事を意味します。

ウィルス攻撃する細胞、ですね。

そうです。これは、風邪にコロナウィルスのタンパク質と、新型コロナのタンパク質に共通の特性があるからだと思われます。これは、プロテオームでもみつける事ができて、この部分を比較すると、似ているだけではなく、ぴったりと免疫細胞とマッチします。 T細胞エピトープと言って、この部分が、T細胞認識される部分なのです。

希望が持てる展開で終われます。今日はこの辺りまで、でしょうか。まだ、メモに書いてあったテーマがありましたが、、、来週ですね。子供に関しての新しい研究、中国、スイス、スウェーデンの論文。 これらのテーマはお約束できます。また来週、パズルのパーツを繋げていきたいと思います。よろしくお願いいたします。


ベルリンシャリテ
ウィルス研究所 教授 クリスチアン・ドロステン

https://virologie-ccm.charite.de/en/metas/person_detail/person/address_detail/drosten/







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