ドイツ@Sars-CoV-2 コロナウィルスアップデート(47) 2020/6/9(和訳)

ベルリンシャリテ ウィルス学教授、クリスティアン・ドロステン
聞き手 コリーナ・ヘニッヒ

2020/6/9

————————————————

I did little Dance..... 少し踊ってしまいました.....ニュージランドの首相は、コロナの収束の喜びをこのように表現しました。シュレースヴィヒ=ホルシュタインでは、小学校が再開されましたが、ゲッティンゲンではまだ学校は閉鎖されたまま。イギリスへの渡航者は2週間の自主隔離が義務付けられています。 規制の解除がされるのはまだ先のようです。
私たちは「虎とのダンス」の真っ最中ですが、このダンスは、ニュージーランドのジャシンダ・アーダーン首相とまではいっていません。この段階は、注意深く緩和していき、日常生活のなかで、どこまで緩めても大丈夫か、どこがまだ特別な対処が必要なのか、ということを見極めていく段階でもあります。そのためにも、もう一度、このウィルスの感染伝播について知っておく必要性があり、これが変化している可能性についても、ベルリンのウィルス学教授、クリスティアン・ドロステン氏にお話を伺います。聞き手はコリーナ・ヘニッヒです。

感染の伝播経路の可能性について、新しい研究結果がでましたが、今までは、ウィルスの伝播、ウィルスがどの身体の箇所に感染するのか、ということを配慮した場合、喉、ということでした。 まずは、上気道に感染し、そこから、気管支に下がり、肺に移行する。それに対して鼻は、あまり重要視されてはきませんでした。 しかし、ノースキャロライナーの研究チームをはじめとする、様々な分野の専門家グループが発表した論文では、突然、鼻の粘膜、が最前線に躍り出てきました。まずは調査方法から説明したいと思いますが、研究者がおこなった方法、これは子供にでも大変わかりやすい方法だ、と私は個人的に思っているのですが、、、、まず、どのくらいのACE2受容体があるか、ということを調べています。これは、ウィルスが細胞内に入り込む際に必要な酵素です。これを、人工的に蛍光性をもったウィルスをつくり、感染された細胞が光ることによって、その部分がわかるようにしています。

この方法は分子ウィルス学の分野ではよく行われている方法です。逆遺伝学と呼ばれるもので、私たちがしたことは、ウィルスを、、、今、私たち、と言いましたが、私のラボはこの研究には関わっていません。勿論、同じ方法での検査は私の研究所でもしていますし、技術もありますが。 さて、ここでされたことは、、、ウィルスのゲノム、、これは、RNAというかたちになっていて、リボ核酸ですね、デオキシリボ核酸ではありません。DNAは、2重らせんです。分子生物学の技術の多くは、DNAレベルで、そこに変異を促したり分析したりします。変化を研究するのですね。RNAレベルではそう簡単にはそのような操作ができません。変異をRNAには組み込めないのです。化学者はできますが、分子生物の場合、まず、RNAすべてをDNAにコピーする必要があるのです。これは、cDNA、大文字のDNAの前に小文字のcですが、相補的DNAと呼ばれるものです。このcDNAをクローンします。例えば、プラスミドに、などです。このプラスミドは細菌の中などで複製されます。この細菌から、大量のプラスミドをつくることができるのですが、この準備されたプラスミドは、分子生物的な技術を使って、例えば、一部を切り取ったり、組み込んだり、ということをすることができるようになります。このプラスミドから、RNAから酵素と複製することができ、この複製されたRNAを、ラボで細胞、細胞培養のなかに入れることができ、ここから、さらに新しいウィルスの複製ができます。ウィルスのRNAから複製された新しいタンパク質も自らウィルスの複製をし始め、最終的に、このようにRNAを加えられた細胞から増殖してできたのが新しいウィルス、人工的につくられたウィルスです。これは中間の複写からつくられていますので、元のウィルスの完璧なコピーで、ラボでその違いはわかりません。ここから、例えばcDNAレベルから特定のタンパク質をウィルスゲノムから取り出してみて、その後にウィルスが問題なく複製するのかどうか、などを観察しますが、場合によっては、うまく複製されなかったりします。 その過程によって、その部分がウィルスにとって重要な部分なのか、ということを確認できるのですが、これが基本的なウィルスの研究方法です。特定のタンパク質、遺伝子がどのような働きをするのか、ということを研究するのです。このウィルスにとって重要な部分なのか、などです。 この研究で著者がしたことは、、、このタンパク質部分に全く違うものを組み入れました。組み入れる先のタンパク質は、ウィルスにとって複製の際に重要な役割を果たさない、と確認された部分ですが、その部分を光るタンパク質、GFP、緑色蛍光タンパク質と置き換えたのです。これは、藻類由来の様々な生物分子に組み入れが可能なタンパク質で、この緑に光るタンパク質がウィルスのゲノムに取り入れられてて細胞に挿入されました。この人工ウィルスに感染した細胞を顕微鏡でみてみると、緑色に光っているのが確認できます。これは、どの(身体の)部分、どの細胞タイプでウィルスが増殖するのか、ということを確認する為には大変有効な方法です。
細胞は、手術患者からとった細胞、例えば、鼻の手術、ポリープとか腫瘍とか、そういう手術をした患者からのものを使うことができて、手術する場合は常に健康な細胞も一緒に採取されるので、そのような際に採取された細胞に、緑に光るウィルスを感染させて顕微鏡で観察します。顕微鏡では、このなかでどの細胞タイプ、、細胞は全て同じ、というわけではなくて、それぞれの役割がありますが、、例えば、繊毛、これは、気道内の粘膜を運ぶ機能を持っていますし、杯細胞、これは、粘膜をつくり、それを分泌します。粘膜が粘膜で常に覆われているようにしているのですね。そして、粘膜を維持する為にある細胞、これはクララ細胞と呼ばれるものです。この大きく分けて3種類の細胞タイプ、繊毛細胞、杯細胞、クララ細胞、がありますが、これをそれぞれウィルスに感染させます。どの細胞が感染するのか、ということをみるです。

この場合は、繊毛だったわけですね。

そうです。それが確認されたのです。因みに、これ自体は大きな驚きではありませんでした。2003年のSARSウィルスの際にもそうだったので。

とは言っても、いままでは、鼻についてはあまり話し合われずにきましたよね。

それはその通りです。今回のSARS-2ウィルスの場合は少し違っていて、もちろん、これまでにも鼻は嗅覚障害という症状の際に話題になっていました。SARS-2ウィルスに感染した患者の多くにはこの嗅覚障害があり、他の風邪の感染症に比べると障害度合いが高く長期に渡って出ることが観察されています。このことからも、若干、鼻が重要だとみることもできますし、鼻には嗅細胞があって、それは中枢神経につながっています。因みに、この中枢神経の一部も感染します。

鼻のほうが喉よりも感染しやすい、ということは言えるのでしょうか?ウィルスが入り込みやすい部分として。

そうですね。それには、まずもう一度よくみる必要がありますが、この研究では、手術の際に採取された細胞をつかって呼吸器の感染状態を観察しました。つまり、鼻から、喉と気管ですね。これらが、この論文で一括りに呼吸器、と呼ばれている部位です。そして、気管支樹から肺胞までです。ここまで様々なことがされていますが、例えば、ウィルス受容体の発現度合いですね。ACE2と呼ばれる、アンジオテンシン変換酵素2です。

鍵がはまる、鍵穴部分ですね。

そうです。細胞表面上にある分子で、ここにウィルスが結合して細胞内に入り込むのです。しかし、その他にも機能があって、、膜貫通型セリンプロテアーゼ、TMPRSS2、この膜貫通型セリンプロテアーゼと受容体が呼吸器全体の発現レベルに関係している。これらがそれぞれどのくらい細胞内にあるのか。 でてきた結果を簡単にまとめると、、、TMPRSS2はどこにでもある。しかし、受容体ACE2は、上気道、特に、鼻にたくさんある。ここからも、SARS-2ウィルスは、この実験的な感染の際にも、鼻粘膜の上皮で特によく成長したことが、この緑に発色するタンパク質部分の発現からも確認できます。このようなことからも、鼻がSARS-2ウィルスにとって格好の標的臓器であることがわかるでしょう。

このことをどのように私たちの予防対策につなげていくことができるのでしょうか。マスクはどちらにしても、人への感染を防ぐ為には鼻まで覆う必要性がありますが、口だけしか隠れていない人を頻繁にみかけます。

マスクから鼻が出ているのは勿論よくありません。この論文とは関係なく、だめです。その理由を説明する為にはわざわざ論文などは必要ないでしょう。ウィルスが今、肺の奥から出てこようとも、喉から直接鼻からでてこようとも、、マスクから鼻がでていて良いことはありません。このマスクで、息を吐く時に口から出てくる分だけではなく、鼻からの息も全てブロックしたいわけですから。これも肺の奥深くからくる可能性もあります。しかし、さらに(鼻をしっかりと覆う)重要性は高まった、と言ってもいいでしょうね。私も同じ意見です。このウィルスが鼻で増殖しやすい、ということは、、、鼻から放出される可能性も高い、ということなので。忘れてはいけないのは、鼻は、鼻の穴から直接喉に繋がっているだけではなく、頭蓋骨は副鼻腔を通じて鼻に繋がっています。そこにも粘膜があります。そして、そこにACE2が発現します。この論文内にはあまり取り上げられていませんが、これは知られていることです。しかも、感染者の多くが、副鼻腔炎になっている、という報告もあるくらいです。このウィルスが蔓延している部分も直接鼻に通じていますから、鼻から大量のウィルスが放出されても不思議ではありません。

症状の治療にも応用できますか?鼻から肺にいく途中で重症化するのを防ぐ、など。

それは、どちらかと言うと難しいのではないかと思います。この論文のなかでも、そのような議論がされています。ここでは、亡くなった患者の肺で確認されていて、この患者達は人工呼吸器はつけられていなかった患者です。その肺をよくみてみたところ、肺の中での感染の分布が上気道から吸引されている。そのようにこの研究では議論されていますが、、、、

飲み込んでしまった、ということでしょうか。

もしくは、吸い込んだ、ということでしょう。基本的に、初期の段階では、鼻から吸い込んだウィルスが肺に到着し、そこが感染の巣になるわけです。

粘膜を通じて、ですか?

そうです。少量の液体や粘膜を吸ってしまう、誤嚥です。ここでは、そこが怪しいとみられていて、そこから肺に広がっていくのではないか、と。多分、これが、感染が気管支樹にそって肺の上から下へと広がっていっている原因でもあると思われます。 治療への応用はあるか、という質問ですが、、、これは、難しいですよね。感染の初期にできるだけ鼻から大きく息を吸わないようにさせる、ということは無理しょうし、、何もできない、コントロールできない、というのが答えでしょうか。どちらにせよ、何か参考となる推奨はないでしょう。しかし、治療法の検討、という点では吸入法をとりいれる意味はあるでしょうし、ワクチンにも応用できるかもしれません。治療法に関しては、治療に使える成分、、、ここでも話したことがありますが、、今現在、ウィルスの増殖を抑圧する効果がある成分がわかっています。何度も話題にだしていますが、抗ウィルス剤、レムデシビルがその一つで、これは本来は初期の段階で投与されなければいけないものです。この論文から考えられるのは、、これも何度も言っていることですが、それと並行して、吸入法、例えば、鼻スプレーなども使うべきであろう、ということです。吸入器なども良いでしょう。肺に直接働きかける。肺で病気が起こり、肺にダメージがあるわけですから、抗ウィルス剤を鼻スプレーや肺に吸入する、というのは、悪くないアイデアだと思います。すでに、製薬会社では、この実用化を進めていますし、医薬物質がまず腸から吸収されて血液へ、そして血液から様々な過程を経て細胞へ届くのと、粘膜から直接吸収されて違う過程で細胞までいくのとでは、大きな違いがありますから、期待は持てます。この研究から応用できることはあるでしょう。

治療薬では、どの成分が効くか、ということだけではなく、どの投与方法を使うのか、ということも重要になってくるのですね。喘息患者のステロイドスプレーみたいなものでしょうか。

そのようなものです。そのように理解できるかと思います。他にも応用できるところがあると思いますが、例えば、ウィルスが鼻に入って、そこで増殖しはじめます。これはウィルス感染では基本的にそうですが、ウィルスの増殖がはじまって、粘膜のなかで増えていく際に粘膜細胞に認識されます。これを、感染センシング、もしくは、免疫センシングと言いますが、ここから局部的な免疫反応が起こります。先天性免疫で、例えばインターフェロンなどの分泌がそうです。インターフェロンは、まずはじめに感染に対しての防御ででてくるものです。何が起こるかというと、感染した細胞は、この成分をつくって周囲の細胞に渡します。周りの細胞がそれによって警告されるのです。このインターフェロンのシグナル、つまり、感染した粘膜の周りへシグナル、何か起こってるから、みんな、防御して!というシグナル伝達がはじまり、受容体が発動します。これがJAK-STATシグナル伝達経路と呼ばれるものです。これによって、普段使われることのない細胞核の遺伝子が起動されます。これらは通常では転写されることはありません。この遺伝子が細胞内で発動されると、細胞の代謝は全く別のモードに切り替わるのです。通常、細胞の基礎的な維持につかわれるものが後ろに追いやられ重要ではなくなります。細胞は自分が犠牲になるリスクも厭わなくなるのです。ここでの優先順位は、ウィルスの増加を阻止するためのタンパク質の発現です。この場合のタンパク質は、ウィルスの核酸代謝を攻撃するだけではなく、細胞自身も攻撃されますので自分へのリスクもあるのです。 細胞から効能が変化したタンパク質が生産され分泌されることによって、ウィルスにとって不利な環境がつくられる。これらの影響は全て抗ウィルス対策の集結です。つまり、ウィルスがきて、粘膜細胞の一部に感染し、細胞はその周りを抗ウィルス体制に持っていく。これが波のように粘膜に広がります。最終的には粘膜全体が抗ウィルス体制にはいりますが、この結果が、多くの場合粘膜感染時の病症として出てくるのです。鼻の炎症、これも結果的な症状です。それから、免疫細胞がまた違う成分を分泌するので、それも炎症症状をひきおこします。このようなウィルス感染と初期段階について考える時、これらのウィルス感染の初期段階が、直接息が入ってくる場所である、鼻の粘膜ではじまる、ということは大変興味深いのです。ウィルスが入ってきた時、初めにこの箇所で感染が始まっている可能性がある。これだと短期間で大量のウィルスを取り込む機会ができるのです。次から次へと、粘膜の上に染みができるように、です。そのうちに、粘膜が抗ウィルスモードに突入するので、侵入の機会もなくなりますが、ここで、その枠というのが、時間的に、数時間なのか、それとも半日なのか。そこが疑問だと思いますが、初めの数時間が決め手になります。ここから考えられることは、ウィルスが一箇所だけに着地した場合と、10箇所、20箇所、と何箇所も広範囲に渡ってついてしまってから感染が進行するのとの間に違いはあるのだろうか、ということです。勿論、どのくらいはやくウィルスの増殖が鼻のなかで進むか、ということも重要でしょうが、ここから、感染する環境について考えてみることもできると思うのです。歩いている最中に、感染が起こるギリギリの量のウィルスが鼻のなかに入り込んで1箇所に感染した、という場合と、その反対に、室内に長時間滞在してウィルスが蔓延している空気を1時間、2時間吸っていた場合。鼻の粘膜上に常に新しい感染が起きている場合ですね。このような考察は、少ない量と多い量ではそれぞれどのように感染がはじまるのか、ということを想像するのに役にたちます。

ドロステン先生、後ろの工事現場の音がとても大きいのですが、窓は閉めることはできるでしょうか?それとも、窓を通して聞こえているのですか?

窓は閉まっているので、、窓を通してです。

では、、、仕方がありませんね。でも、声は聞こえているので大丈夫です。何かできるかな、と思っただけですので。どのくらいのウィルスのバリエーションが現在あるのでしょうか? 私たちへの影響はありますか? 先日、メールでのやりとりのなかで、今回はウィルスの突然変異についてもう一度取り上げる約束をしましたが、この分野は専門研究所のウィルス学者の専門分野です。それについてオックスフォードからも新しい論文が発表されました。ここまでも、(理解するのは)簡単ではありませんでしたが、、、、ここから、もう少し(内容が)難しくなる、と言っておきます。ゲノムシークエンジングの分析は、普段素人が取り上げるテーマではありません。私も理解できるかどうか不安だったのですが、、、昨日、先生から、大丈夫です。複雑ですが私がちゃんと説明しますから、とおっしゃっていただいたので、、、勇気がでました。(笑)この論文では、400人ほどの患者が調査され、ウィルスの遺伝子がシークエンジングされています。病院に入院していた患者です。ざっくりと、この研究チームがした内容を説明すると、、素人的な理解ですが、患者間でのバリエーションの違いだけではなくて、ひとりが複数のウィルスタイプを持つことは可能か、そして、それはどうしてなのか、というところですよね?

ちょっと待ってください、、、今、外のブルトーザーが何をしているか、、、みてみます。あ、ブルトーザーじゃなくて、道路の清掃車でしたね。今、マックスで走っているところでした。

通り過ぎて行きましたか?

通り過ぎました。ええっと、、、、何のテーマでしたっけ?

今、、、見出しを説明しようと試みたのですが、、一人の患者内でのウィルスのバリエーションです。

そうです。この研究では、患者のなかのウィルスがどのような状態なのか、ということを追求することを目的としています。今、ずっと、ウィルス、といっていますが、正確に言うと、ウィルスは数を表す数値としては使えません。お金、と同じです。経済でたくさんのお金が循環している、という言い方ができると思いますが、感染でも同じで、感染流行時にはたくさんのウィルスが循環しています。ここで、患者のなかのウィルス、と言う場合、これは、定義できない(ウィルスが集まった)雲のようなもの、ポピュレーションとも言えます。ウィルスのひとつひとつがゲノムを持っていますが、患者のなかのウィルスのポピュレーションを取り出してみると、ここには動的状況があります。初めの量は少なくても、どんどん増え続けるからです。そこからの分析は、まず、すべてをシークエンスします。この全体の分析からは、一つ一つのウィルスを区別することはできませんが、配列の全体数の把握をし、ここから、ウィルスの集合の全体像の把握、そして変異部分をみていきます。ウィルスが、ウィルス系統とは関係なく、特定の部分での突然変異する傾向があるのかどうか。

違う患者同士でもですか?

そうです。この傾向は、進化のなかで、収斂進化と呼ばれるものですが、ウィルスにとって有利に働く性質が、ウィルス同士の系統が近いかどうか、ということとは関係なく発生することをいいます。このようなことは、感染流行の初期段階では観察されますが、これを整理しました。変異をみてみると、それは収斂ではなく突然変異で、これを決めるのは、進化系統樹のなかでも独立した、早い段階のSARS-2ウィルスの多様性だ、ということがわかったのです。現在は、進化的にみるとウィルス同士はもう少し離れていって、距離が出てきています。ここで注目されるのは、この違う(系統樹の)枝同士の違いをつくる変異です。この特徴を患者でみてみました。対象患者のグループは、オックスフォードから60キロ位離れたところにある、ベーシングストークという街の患者です。 ここのクラスター内でのウィルスの共通点は何か。オックスフォードとベーシングストークはそこまで離れてはいませんので、この2つの街の住人が接触していた可能性はあるでしょう。そこと、ウェールズとスコットランドで調査された人たちとの違いはあるのか。ちなみにこの研究では、405のウィルスゲノムが調査されました。続いて、オックスフォードとベーシングストークのウィルスの特性とはなにか。この共通の特徴をみていきます。この結果は興味深く、、頻度的にはばらつきがありましたが、そのなかで4つの一番頻度が高い特徴が遺伝分析でとりだしました。405の配列サンプルをみてみると、87の配列、これは87人からのものですが、そこで、4つ全てがみられ、78人には全くありませんでした。かなり対局な分かれ方です。全部あるか、全部ないか。その中間は、というと、、、87足す78は、、、405ではないので、(笑)中間は、技術的にも遺伝子的にもあまりにも交絡因子がありすぎてだせていませんが、それにしても、この、あるかないか、という現象が多くの患者にみられる、ということが目につきます。 そこから、特徴による患者同士の違いをみていったところ、、、ここで、特徴、と言う場合は、ウィルスゲノムのなかで、一人の患者からみつかる特徴のことですが、これを、個人的に発生する一塩基多型、SNPと言います。簡単な定義で言うと、これは、ゲノムの部分の違いです。ここでは、一人が持つウィルスのポピュレーションのなかでそれがみられる、というところが特徴的です。ここで、先ほどの数に戻りますが、405人中、87人が4箇所にあるバリエーションの全てを持っていた。そして、78人が、全くどこにもそれが見当たらなかった。ここが、初めに目についた結果です。

それは、先生も予期せぬことだったのですか?

そうですね、予期せぬことでした。

どうしてでしょうか?

この場合の予期せぬ部分というのは、、、ウィルス学者としてはこのデータからそうではないか、と予測できるところもあるのですが、、それについては、、、、もっと詳しく説明していく必要はありますよね。(笑)いや、、それとも、もう答え合わせしましょうか? 今、言ってもいいのですが、、、(笑)

いや、説明をお願いします。ちゃんと待ちますので。

では、、まず、、、地理的な分類です。31サンプルでゲノムに違いがある患者はオックスフォードで検査されました。違う2箇所での違いは、ベーシングストークでみつかりました。言い方を変えると、、、オックスフォードの患者でみつかった違いは、ベーシングストークのものとは違う、ということです。ゲノムの同じ場所での違いを持つウィルスを持っている患者がいて、オックスフォード内ではそれが一致している。そして、違う場所での違いは、ベーシングストークで一致している。

ウィルス学者としては、良いことなのではないでしょうか? ゲノムのシーグエンジングをして、そこに地理的な分類ができる特徴をみつけることができた、というのは。ウィルスの感染経路がわかりますよね。

そうです。それは基本的にできます。しかし、そこで勘違いしてしまう可能性があるのです。2つポイントがありますが、まずはあの先ほどの複雑な個人レベルのSNPsの話は置いておいて、、簡単に説明しましょう。ここで起こりうることは2つあって、1つ目は、ウィルスは地理的な構造を持っている、ということ。そして、もう一つは、ウィルスは系統樹的な構造を持っている、ということ。2つ異なったウィルスのサンプル、2つのゲノムを比較したとして、その結果の違いは、地理的なものである場合と、系統樹の枝分かれにある場合がある。ある特徴が2つのゲノムで共通した場合でも、系統樹的には近くない場合があるのです。これは、遺伝子的に分かれた系統が混じった、ということなのですが、ここでの疑問点は、地理的な特徴が2つのウィルスが近いことを示すのか、それとも、系統樹的に近いのか。

そういうことですよね。

ウィルスAのゲノムの5000番目にあるヌクレオチドAは、2週間後に、ヌクレオチドTになる。どうしてそうなるか、は、今理解する必要はありません。これはただの観察結果です。しかし、この変換を系統樹のここの枝にあるウィルスだけがする。他の枝にいるウィルスにはこの性質がない。ということは、この場所で変異する性質を持っている、ということなので、この多様性の理由の説明はとても重要です。この患者のウィルスに、この部分の多様性が発したのは、系統樹的にこちらの枝からのウィルスを持っていたからなのか。つまり、これはウィルスの性質なのか。それとも、地理的なものなのか。この答えはすでに出ていますが、これは系統樹的なウィルスの性質ではなく、地理的なものでした。なぜなら、オックスフォードではそのなかでの統一性があり、そして、同じようなゲノムの多様性が違う場所にでているのが、ベーシングストークです。ここから、また観察を続けると、ベーシングストークの患者3人中の2人に、全てのiSNPの半分に同じような多様性がある、という興味深い発見がありました。そして、このサンプルの3人は同僚で、2日続けて検査がされた、ということです。似たような例がオックスフォードの病院内の3つのサンプルでもあって、ここでは患者が短期間中に何度か検査されています。これは院内で感染した可能性がありますが、そして、別のオックスフォードの夫婦にも同じことがみられました。個別の興味深い観察結果が出た後に、全体のサンプル、ウェールズとスコットランドを合わせたサンプル内で、全体の2%以上に現れているiSNPのバリエーションの中の3つ対局するiSNPを分析しました。これをまとめると、、、先ほどの謎の答え合わせがでますが、、、唯一、ここから導き出される合理的な説明は、患者たちがそれぞれ、少なくとも2種類のウィルスに感染していたのであろう、ということです。そこから、2つの異なったバリエーションがウィルスポピュレーションのなかで増えたのです。

ということは、2人違う人からウィルスをもらった、ということでしょうか。

そういうことです。簡単に説明すると、ウィルスポピュレーションは、1色ではなく、2色なのです。ここで、簡単に、緑のウィルスと赤のウィルスがある、としましょう。患者の多くは、赤か緑のウィルスポピュレーションを持っています。このウィルスの雲を点で表すとすれば、全ての点が赤か緑です。しかし、患者のなかには、ミックスされた点の雲を持っているひともいる、ということです。たくさんの赤い点、そして、緑の点。 そして、その反対。わかりますか? このカラフルな患者は、ミックスのウィルスポピュレーションに感染しているわけです。因みに、この現象はもうすでに、ミュンヘンのベバスコ社(注 クラスターが発生したミュンヘン郊外の会社名)の感染集団でもみられています。この場合は、患者のひとりで、喉のウィルスと、肺のウィルスが異なるものでした。この患者は、ミックスされたウィルスポピュレーションを持っていたことになります。これは、今までに考えられていた以上に頻繁に起こることのようです。この研究では、1446ゲノム中20件みつかっています。これらはかなりはっきりと目立つケースでしたが、この他にも、ここまではっきりと出なくても同じようなケースがもっとあると思われます。このような混じったウィルスポピュレーション現象は珍しいことではなく、2つの異なる原因で発生します。考えられるのは、感染時に、まず一つ目のウィルスをもらい、その後でもう1つ別のウィルスをもらう。先ほども話したように、鼻の粘膜がインターフェロンでの防御を始めるまで、の期間中に、です。 この、初めの感染から数時間以内にまた違うウィルスをもらう、という確率はどのくらいでしょうか。あまり高い、とは言えませんね。ここから興味深くなっていきますが、、、

何を意味しているのでしょうか。

ここから面白くなるのですが、実はもうすでに答えはでています。ベーシングストークの同僚。オックスフォードの3人の患者。そして、オックスフォードの夫婦。一人ではなく、患者の集団、お互いに感染しあった、つまり感染伝播経路のなかにいる人たちの間でした。言葉を変えると、ミックスされたウィルスポピュレーションが伝播したことになるのです。この患者たちは少なくとも2種類のウィルスを同時取り込んだに違いありません。赤いのと、緑のと。このようなことはこのウィルスでは珍しいことではなさそうです。

あえて言ってみますが、、ウィルスが特異した場合、ウィルスは最適化して生き残る方法を探すわけですよね。これがウィルスにとって唯一の複製する際の目的だと思うのですが、このように、異なるバリエーションが並行して存在する、ということは、私たちにとっては、良いことなのでしょうか?

私たちからみると、、、かなり悪いことです。

悪いことなのですか?

はい。

ということは、ウィルスが、様々なレベルで最適化している、と?

そうです。この基本的な結果でみてみると、患者のなかには、感染量が高い状態で感染した人がいましたが、これはこの感染症では珍しくはありません。ここでは、進化生物学的な視点では、比較的大きなボトルネック(効果の)サイズ、瓶の首の大きさ、がある、とみます。このような感染伝播の檀家をウィルスポピュレーションで考えてみると、この集団は感染の機会が枯渇しているのです。 私の鼻や喉にはたくさんのウィルスがいるとします。そこから感染可能な量が違う人にうつって、そこで大きなポピュレーションに広がっていくとします。これは、このポピュレーションが、ボトルネックを通って、狭いみちを通ってきたことになる。はじめはウィルスが1つでした。これが、長い目みると、効果的なポピュレーションサイズを現象させることにつながります。小さな集団は大きな集団に比べてローテーションの機会が少ない。適応性変異の場合、つまり、ウィルス的に有利な変異です。しかし、基本的には、狭いボトルネック効果を通らなければいけないウィルスは、変異と戦わなければいけません。これを、遺伝的浮動、と呼びます。ゲノムのどこかで変異が起きた場合、まずは、生態的に不利なことが多い。このような偶然的なもの、偶然な変異は、拡大プロセスで最終的に、たくさんの変異体は不利であることが多いのです。大きな箱から、感染可能な量のウィルスを引いた、としたら、そのウィルス、感染するウィルスが突然変異体である可能性がある。そして、この突然変異体は多分便宜なものではないでしょう。感染は失敗、私は壊れたウィルスをもらい、感染には至りません。このようなことが、狭いボトルネックサイズでは起こります。広いボトルネックサイズ、つまり、感染時の平均的に大きなウィルスの量の場合は、この突然変異体の他にも、原種もついてきますから、原種は常に強いタイプで、このボトルネックのサイズ固有のブレーキ効果は、おきないことになり、これは感染の維持的にはあまり良いことではないのです。

これは、感染の維持というレベルですが、ウィルスはずっと生き残れる、ということでしょうか?この背景にある質問は、病原的な性質もそれによって変わってくるのでしょうか?

その通りです。ここには違うことも関係してきて、、このウィルスは、細胞内で増殖します。ウィルスから、たくさんのウィルスが複製されるわけですが、元となるウィルスは一つです。この場合、ゆっくりと変化する突然変異でなくてはいけません。進化の段階で頻繁に、1回目の突然変異では違いはなく、3〜4、5回目の変異ではじめて大きな表現型的な変化がある。かたち、外見、性質に影響がでてくるのです。このような異なる突然変異が融合される際、常に変異過程が継続するウィルスが必要なのです。つまり、一回目の突然変異が起きて、その次の世代でもまた違う変異が起きる。その次にまた違う変異。このように5世代目でできたウィルスがやっと淘汰的に有利な性質を持ち、増殖速度がまして、他のポピュレーション内のライバルに勝つことができる。 はじめの4世代がウィルス的に有利な点を持たない場合、どうやって5世代目まで行き着けるでしょうか。この場合は、ここまで達しない、ということです。つまり、ウィルスは安定して持続する、ということになります。進化的にこのような期待を持たない為、ウィルスは、危険になったり、感染力がましたり、病原性がアップしたりすることはありません。進化は、5世代後に突然変わって、さあ、いくぞ、とは考えません。これは、統計的で確率的なプロセスです。

それ自体が目的、ということですね。

そうです。この背景には摂理はありません。これは進化で、進化は起こるのです。ここで、進化の歴史のなかで有利になった生態があって、役に立つ変異が集まり、それがポピュレーションとなって、1回、2回のそれ自体は何も役に立たない変異を経た。他のポピュレーションは、異なる変異をまた2回、こちらは役に立つ変異をした。しかし、これを次の生態に集めた際に、この異なる変異がある生態には淘汰的に有利な要素が生まれる。これは、組み替え、つまり、ゲノムの交差、融合です。ウィルスは、お互いに組み替えしあうことができます。並行して存在するポピュレーション間でもです。このポピュレーションが進化の淘汰をしていくと、、、ウィルスは進化の上で何を最適化するでしょうか。 感染力、ですね。例えば、複製する際の濃度とか。

それは、この研究結果から、恐れなければいけないことなのでしょうか?

恐る、ことはないでしょう。しかし、この研究をベースに念頭においておかなければいけないことは、このウィルスが、感染の際に、大きな混じった内容のウィルスポピュレーションで感染を起こす、ということです。これによって、安定して持続することができ、ウィルスは人間に対しての最適化をする機会が増えるわけです。長い目でみて。つまり、人間に適応するチャンスが感染回数が多くなくてもある、ということになります。この適応は様々なポピュレーション内の異なる変異でおこります。ここで起こりうる表現型的な変化は、例えば、ウィルスがもっと良く鼻で複製できる、とか、感染力が高くなる、とか。これは、長期的にみて、鼻風邪のようなものになり、肺にはあまり興味がない。そのようなことが起こる可能性にも繋がります。

そうなれば、良いことですよね。

そうですね。良いことです。そうなれば、病原性の弱化です。他にも起こりうることは、、、もうすでにウィルスは鼻に最適化した、とも言えるでしょうから、その次には、粘膜での複製率を増加させる。そうなれば、また肺にダメージがおき、病気的にはまた重い病気となるでしょう。 これらは、進化生物学的には、全く無機質なものですが、さらなる考察もできるでしょう。ウィルスがさらに鼻にフォーカスして、肺にはいかないことになったら、私たちは、鼻水を垂らしながら過ごさなければいけない期間は長くなるかもしれませんが、あまり具合が悪くなることはないでしょう。このことによって、ウィルスの二次感染率は高くなります。ポピュレーションレベルでも、こうなれば淘汰的に圧倒的に有利になるわけです。鼻に特化して、肺は無視する。これは、ウィルス的には有利なことかもしれないのです。それとは別に、進化の途中で、基本的な複製量をあげたとしたら、、、鼻でも、肺でもどこでも感染します。そうすれば、早く具合が悪くなり、危険な感染症という自覚も働き、誰もが家に止まることになるでしょう。そうすれば、次に感染させる率も下がる。こうなれば、ウィルス的には不利な状況です。また、進化生物学的な視点からではなく、人として注意深く楽観的に言うとすれば、、、経験上、ウィルスは流行の経過と共に弱くなっていく、という事実です。これは、次第にできあがっていく集団の免疫とかではなく、今年新しくでてきたウィルスと、5年後、10年後に、集団免疫がない動物での実験でみてみた場合、、、

免疫学的に未熟、ということですね

そうです。そこで観察できるのは、長い間循環していたウィルスは、病原性が弱まっていく、ということです。人間に応用できる動物として、フェレットがいますが、インフルエンザで実験したそのような検証があります。今回のウィルスでも、集団の免疫と同時にこのような効果があることが期待できると思われます。どちらにしても、弱くなってくるでしょう。集団免疫ですでにその効果はありますし、進化の影響もあるかもしれません。

希望はある、ということですね。希望は常に良いニュースです。もちろん、そうだ、ということではなく、可能性として、ということですが。今日もどうもありがとうございました。またよろしくお願いいたします。


ベルリンシャリテ
ウィルス研究所 教授 クリスチアン・ドロステン

https://virologie-ccm.charite.de/en/metas/person_detail/person/address_detail/drosten/




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?