ドイツ@Sars-CoV-2 コロナウィルスアップデート(41) 2020/5/14(和訳)

話 ベルリンシャリテ ウィルス学教授、クリスティアン・ドロステン
聞き手 コリーナ・ヘニッヒ

2020/5/14

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ウィルスは国境では止まりません ー この言葉は以前、このポッドキャストでも聞かれたものですが、先日のEU委員会でのメッセージでもあります。ここから、夏の休暇の事を躊躇しつつも考えた人も多かったのではないでしょうか。まだまだ多くの事が未解決です。全体的にみると、旅行業界のダメージは莫大なものとなっています。この分野についても、研究結果の視点などからみていきたいと思います。 この科学ポッドキャストが政治寄りになり、緩和や対策の話題になる度に、ギリギリの線である事はわかっています。 ウィルス学者の専門分野は、エピデミックが経済にもたらす影響について、ではありませんので。しかし、病院でウィルスについては、専門分野内ですし、医学的な視点と経済の接点、重症時について新しくわかったこと、合併症と予防について、今日も、ウィルス学教授、クリスティアン・ドロステン氏にお話を伺いたいと思います。聞き手は、コリーナ・ヘニッヒです。

ウィルス学者、という特殊な視点から緩和について発言するのは基本的に難しいとは思います。しかし、国境を開く、という点に関しては、正しい決断だと思われますか。

国境に面している地域は、周り状況の把握もきちんとしているはずです。昨日、少しだけサーランドの話が耳に入ってきたのですが、国境の向こうの情報は入ってきているようですし、国境の地域的にも、閉鎖の解除は日常に戻るという点でも重要なことだと思います。

しかし、グローバル、もしくは、ヨーロッパ内でみてみると、、、ウィルスはもう全体に拡がっていて、どこに行っても同じ、という感じでしょうか。それとも、ドイツの状況は良いだけで、まだ何とも言えない、といったところでしょうか。

全体的に、ドイツの発生数は少ないです。早い段階での接触制限によって、新規感染者数を少なく抑え込むことができています。これができていない国もあります。しかし、イギリスのように、まだまだ多くの死亡者が出ている国でも、その背景では、接触制限効果はみられ、新規感染者数は減少しているのです。全体的にみても、特に経済面で国境の行き来が正常化することは必然でしょう。 現在、議論されている、経済的なダメージとのなかで、国内の占める割合はそこまで大きくなくて、輸出、輸入などの貿易面、これが、一番の打撃です。私は、ウィルスの専門家で、経済については全くの素人ですが、、、国境を開く事は良い影響を与えるだろうと思います。

しかし、旅行に関しては、まだケースバイケースで、答えはでない、という事でしょうか

旅行は、どうでしょう。 今から2ヶ月後の新感染者数などはわからないですし。

例えば、スペインで、とかですよね

バカンスの時期、、、今後、2ヶ月後の国内の状況だってわからないのです。多くの感染者がいて、厳しく対策がとられた国々、スペインやイタリアのようなところもあれば、トルコやエジプトのように、状況があまり把握できていない国々もあります。

また経済の話になっていますが、今日は、今後の展望について話していきたいと思います。研究分野では、このポッドキャストでも新しい情報です。今までの討論では、少なくとも、私は個人的に、、経済をとるか、感染者数を抑えるか。両方はとれない。という論点だったように感じます。パンデミック対策は、経済の敵、である、と。そこで、出てきた新しい論文は、経済的なコストと、実効再生産数、そして死者数の関係性に焦点をあてています。制約によって経済に損害が発生するのか、過度な緩和が経済問題に発展する可能性もあるのか、という計算ですが、はじめの一文を読んでみます。 公の討論では、新型コロナ対策は、経済活動の真逆である、とされるが、これは問題の核心ではない。 ここで、少しネタバレですが、、、これは、この論文の研究動機と同時に、研究結果でもあるのです。 まずは、この研究について、内容と誰によって発表されたのか、という事をご説明いただけますか。

このドイツ国内で、生命科学と経済学が共同研究をして、同じ結果に至る、という事は大変興味深い事です。ブラウンシュヴァイクにあるヘルムホルツセンターのミヒャエル・マイヤーヘルマン率いる感染研究チームと、ミュンヘンのifo 経済調査研究所のクレメンス・フュストの研究で、この2人はそれぞれ著名な学者ですが、それぞれ別々に主張をしていたのを、今回、合同研究としてまとめています。 双方とも、シュミレート計算による研究をしているチームです。
この2つのシュミレーションは全く別世界のものです。 疫学的に複雑な感染状況のモデル計算をしたシュミレーションについてこの場でも話したことがありますが、これは、ミヒャエル・マイヤーヘルマンのチームのシュミレートです。そして、ifoのほうは、モデル計算、もしくは、シュミレートで、経済のどの部分が、どの制約でダメージを受けるのか。どのような損害が発生し、どのようなかたちで現れるのか、例えば、国内総生産率でなどで出しています。 正直なところ、、、、、、チンプンカンプンです。 何をどう計算しているのか、という事を正しく理解することはできません。 専門が違いすぎます。 それでも、ここで、昨日発表されたこの論文を取り上げる事は重要だとおもうのです。これは、本当にドイツで全く新しい事です。 いや、世界的にみても新しいでしょう。 この全く異なる学問分野が、研究とミュミレート結果を合同でだす、という事は。今の状況では特に大変必要です。

専門ではなくても、、、話しあっていきたく思いますが、まずは、、、一日の新感染者数300が、保健所が処理できる範囲。スタッフのキャパなどで本当にそうかどうかは、NDRのリサーチ結果も出ていますが、まずは置いておきます。とりあえず、1日で300人の新しい感染者は対処できる範囲で、感染経路の調査、隔離対策の滞りなく進む。 これは、現実的な数値でしょうか。

まずは、根本的なところで言いますが、著者は何度も、これは、仮定である、としています。 仮定なくしてはモデル計算はできません。この仮定には、現実の簡易化も含まれます。部分的にはかなり荒削りです。全国には、400の保健所があるわけですから、1日に300ケースの処理をするのは問題になるはずがない、とも言えますが、その背景には違う分類がされた検討があるはずですし、勿論、ひとつひとつを厳しく評価していくことも可能ですが、すべて、地図上に散らばっている、と想像しなければいけないことも忘れてはなりません。場所によっては、対処がままならない地区もあると思うからです。 その他にも、大雑把に簡略化されている部分があり、そのひとつは、地域の多様性です。 経済への影響に関する経験値の欠如が、指摘されていますし、新型コロナの感染、及びに病死以外の健康被害が配慮されていない、とあります。つまり、副次的な被害、別の病気を持っている人が感染する事を恐れて病院に行けない、などの被害です。精神的なダメージも少なくありませんし、経済的な二次的影響もあるでしょう。これらの、、病気からの影響も忘れてはいけないのです。新型コロナの感染症の影響を過小評価し、他の病気の方がひどいから、新型コロナは忘れよう、と、いう論証結論では決してありません。 論証結論は、病気そのもの全般が経済に影響を与える。その他にもいくつか制約は挙げられるでしょうが、私が言いたいのは、数値を鵜呑みにしてはいけない、という事です。
この論文、この定性研究の結論は、接触制限は疫学的には効果的だが、経済的には悪影響がでる、という事ではない、というところにたどり着きます。 経済のみで考えると、(コロナ前の)はじめのゼロの状態に戻して、この病気がなかったか、のようにしたい。となるかもしれませんが、そうではないのが現実なのですから、そういう訳にはいきません。
私達の社会は、高齢者を価値がないとみなし、見捨てる、ということを許しません。 この高齢者には、一体何年寿命があるのだろうか。あと、数年か。じゃあ、別に(そのような高齢者は)社会には必要ないんじゃないか。というような考えは倫理上でも、ドイツ社会的道徳概念にもないのです。もし少数派で、そのような意見を掲げたとしても、受け入れられることは決してない。
ですから、感染ケースが増え、死亡者が増えてきたら、またブレーキをかけざるをえないのです。この論文の基本的な仮定は、再度新しいロックダウンに突入しない、ということを前提にしています。
パンデミック研究にはある観念があって、The hammer and the dance というものですが、 まずは、ハンマーで叩く。 何処の感染を断ち切ることが出来るのかわからないので、とりあえず全て中断させる。 誰も、出さないようにする。接触制限、これが、ハンマーです。これは、もう終わりました。ここから来るのが、虎とのダンスです。エピデミックのなかで、ずっと閉じ込めておく事は、ダメージが大き過ぎますので、コントロールしながら様子をみていく。 つまり、ダンス段階に入っています。ハンマー、つまりロックダウンをしないで、虎の綱を緩めていく。 虎が襲いかからない程度に調整をしながら、緩める、というのが、基本的な案です。
現実に置き換えてみると、学校の特定の学年を登校させたら1ヶ月後にどうなるのか。 まだ科学的なデータがない時点では、感染者の急激な増加が認められない、となったら、次の段階の検討をしてもいいでしょう。 クラスの人数を増やす、など。学校を例にだしましたが、他の分野でも同様です。 この間ポッドキャストでもお話ししましたが、飲食業は、勿論営業再開させるべきです。具体的には、屋外での感染は少ない事がわかっていますから、まずはそこからはじめて、1ヶ月後に様子をみながら調整する。 これが、虎とのダンス、です。綱を握って、コントロールしていくのです。 部分的に適度に緩めて、タイミングよく、です。
このような事を前提に、著者は、仮定を挙げています。ベースになっているのは、経済指標、それぞれの産業部門のデータ、そこでの制限や緩和による起こり得るダメージです。ここで出たのは、特定の感染者数と死亡者数には、コントロールする対策が必要になり、感染者数が多ければ、それだけ感染経路調査、会社や、個人範囲での隔離の対処を保健所がしなければいけなくなる。感染者が多くなればなるほど、です

そこで、また経済ダメージが発生するのですね。

そうです。感染者が増えれば増えるだけ、経済ダメージは大きくなります。興味深いのは、時間です。興味深く、正当化された仮定ですが、4月20日に現状維持の状態になった。これは、例えば、ここのR-t値は、0、6前後という事ですが、これが、ミヒャエル・マイヤーヘルマンのモデルでの現状維持点です。そこから2週間後にまた1まで上がりました。 因みに、今日、ロベルト・コッホ研究所発表をみたところ、また0、8でしたので、悪くない状態でしょう。この数値が不安定な時には注意が必要ですが、この間もお話しした通り、感染濃度が低い時には、もっと不安定になります。この数値が安定するには、感染が勢いよく拡がっている状態の時です。今は、新しい感染があまりありませんから、、、
話を戻します。この仮定みてみると、緩和後4月20日から、R値を1、そして、0、7、か、0、5、さらに0、1にした場合の計算がされています。 これが、医療と経済にどのような影響を与えるのか。医療的にはわかりやすく、数値が1の場合、2021年の夏まで、ワクチンが広範囲で使えるようになるタイミングでパンデミックが終息するであろう。このくらいかかるであろう、と私もみています。死者数も数万人増えます。これが、1を持続させた場合です。
この数万人、というのは、激しいインフルエンザの流行時の純粋な死亡者数と同じです。しかし、超過死亡率は、昨年を大幅に上回るとみています。副次的な影響、感染を恐れて病院に行かない、などもありますが、ここでは、直接的なウィルスによる死亡者数の事で、これは、インフルエンザような超過死亡率ではありません。

数万人というのは、2021年の夏までのトータルで、という事ですね。

そうです。そして、ウィルスの感染で直接死亡する数、で、R値が1の場合は、1日で1000件感染がおこり伝播周期を経てそれが持続します。直接な比較はできませんが、エピデミックな大きさはこのくらいで続きます。
経済ではどうか、というと、R値が1の状態で緩和してそのまま持続したとすると、副次的な影響がロックダウン最中だけではなくその後も続きますから、経済は下降し、それが回復するまでに、、シナリオにもよりますが、2021年の秋、冬までかかる計算になります。これは、興味深い現象です。R値1時点での緩和は、経済へのダメージが一見少ないように思えますが、緩和の後でも、制限を緩めたり、戻したり、ということを繰り返す事で、結局、元に戻るまでに時間がかかる、という事なのです。
他のシナリオ、R値が、0、3、もしくは0、1、、、今のところ、ここまでは下げる計画はありませんが、、、この位まで下げるとしたら、まだまだロックダウンの状態を長期間続けなければいけません。経済は止まり、大きな損失がでます。 どん底まで落ちてしまっているので、倒産した会社の代わりとなる会社をつくる、など、ゼロからスタートをしなければならず、回復させるのは大変困難で長くかかります。
そこで、中間の、、、中庸の案です。それが、R値が0、75。 これは、経済低迷度と回復期間のバランスみた妥協案で、この数値だと、経済回復も比較的早く、死亡者数も受け入れられる範囲です。明らかに1万人以下に抑えられるでしょう。 この数は死亡者数で、超過死亡率ではありません。

これは、今の数値くらいですね。ロベルト・コッホ研究所が発表した数値より、、少し低いくらいでしょうか。 この位が、経済的にも、1よりも良い、ということでしょうか。

そういう理解になるでしょう。著者も書いているように、数値だけを鵜呑みにするのではなく、根本的なところでの、、、経済と健康の目標は対立するものではなく、共存しあえるものである、という理解が必要なのです。経済、特に、経済学は、すぐに全てを元に戻し、解除する事が解決法ではなく、ダメージとして降りかかるという事を自覚しています。中間の道をみつけなければいけないのです。
ここで、0、75という数字が出ていますが、これが、これだけが正しい数値だ、ということではありません。重要なのは、根本的なところでの理解、この中間の領域を考慮して検討していくべきです。 この論文はドイツ語で書いてありますし、時間がある人は是非目を通していただきたい。興味深く、学術的にも大変意味がある内容です。

ここでは、音源だけで説明を試みている内容が、グラフィック付きで説明されていて、素人でもとてもわかりやすいです。 先程、死亡者数、がでましたが、素人的には、人間の命以上に大切なものはないわけですから、やはり、そこを最優先して、数値を下げれば下げるほど、死亡者数も少なく出来るのではないか、と考えてしまうのですが、、最生産数が低くなっても、大幅死亡者数が減る、という事ではないようです。 しかも、0、75までは、死亡者数にそこまでの違いはありません。それ以上になると、突然増加しますが、死亡者数だけでみると、0、75でも、0、4でも、大差はない、ということでしょうか。

そうですね。これは、現在の感染状況と関係があるからです。今現在では、感染経路の把握はされていて、保健所に負担がかかってはいません。0、8までは、大丈夫です。 しかし、1まで上がってしまうと、コントロールするのが困難になってきますが、まだギリギリいけるレベルです。しかし、1、3、若しくは、1、5になったとしたら、、、もう制御は不可能です。死者数も爆発します。

旅行業界や経済、個人レベルでもですが、やはり、ウィルスに感染しやすい場所は何処なのだろう、という事が知りたいポイントだと思います。以前のポッドキャストでも、家庭内の感染が一番多い、というお話でしたが、ロックダウン中は、他の場所での感染の可能性は絶たれていました。研究ではどのような結果が出ていますか。これから、感染が起こるであろう、と思われる場所はありますか。

いくつかプランはありますが、、例えば、引き続き、家族内の状況の把握に務め、子供の感染率、そして、子供が第一次感染者としてのウィルスを家庭に持ち込む確率を出さなければいけません。保育施設や学校からウィルスを持ち込む頻度、ですが、これは、出来るだけ早く解明されなればいけない事です。これからそれが起こることは確かですから。 しかし、現時点では、感染自体がそこまで起こっていないので、、確率的な問題です。 現在は、何処か学校で感染が起こるのを待っている、という状況で、調査データをとるには、まず、そこの学校の生徒や家族が調査対象になっていなければいけませんし、学校自体も、ドイツの学校を全て調べるわけではないので、偶然、調査対象になった学校で感染が起こるとは限りません。かなりの偶然に偶然が重ならないと、調査データが集まらないのです。ですので、ドイツでは、学校での感染が起こったら、保健所がそこまで出向いて調査をする、ということになるでしょう。
ドイツよりも、感染濃度が高い国々、例えば、アメリカなどで、この、家庭や学校の感染クラスターに関するデータはまとめられると思われます。 感染ケースが多ければ、偶然に起こることを待つよりもデータが早く集まり分析する事ができますので。

ヘルムホルツとifoの合同研究で、死亡者数と感染者数が出てきましたが、新型コロナの感染症の病症は多様であることがわかっています。始めは、肺炎が主でしたが、最近の臨床観察では、肺塞栓症が報告されています。これも、ウィルスが原因なのでしょうか。

確かでしょう。最近数多くの臨床報告からも、ダメージをうけるのは肺だけではないということです。ここで話したこともありますが、心臓にもダメージが出ます。ニューヨークの病院で、運ばれてきた患者の多くに、初期の心臓発作のような病症がみられた。 診断してみると、心臓発作ではない。冠動脈にも異常がない。ラshかし、ラボで検査してみると、心筋に炎症がみられた、これを調べる検査があるのですが、このように、心臓にダメージが来るのはかなり前からわかっています。成人の感染者の、約20%が、心臓にダメージが出ることが報告されています。肺炎の有無には関係なく、です。
新しい情報は常にありますが、最近では、血液の凝固反応に影響があることがわかっています。血液は、体全体にあるので、何処でどうそれが起こるのか、というのは不明ですが、ダメージを受けた肺組織から分泌されるサイトカイン、又は、直接的な血管内皮細胞も感染する、のか。 そのためには、ウィルスそのものである必要はなくて、ウィルスの一部が、肺から滲み出て、血管に内皮と結合する。そこで、血栓ができる。そこから、身体中で小さな血栓ができて、大きな塊なる。血流によって肺まで運ばれて、肺塞栓症を引き起こす。肺だけではなくて、脳に運ばれたら、脳卒中にもなり得ます。大きな脳卒中でなくても、小さな脳神経の麻痺が起これば、脳神経科では、見逃された脳卒中だとまずは診断される事でしょう。しかし、よく見てみると、検査陽性反応がでて、感染が認められ、脳卒中でないことが確認できます。 臭覚と味覚の損失についても、何度話しましたが、これも神経の感染です。臭覚は、中枢神経の一部で、嗅球も脳の一部ですから、この部分にウィルスが直接感染がする事がわかっています。しかし、これは、一時的なもので、幸い、可逆です。
先日、ハンブルグの研究チームの研究が、ニュー・イングランドジャーナル・オブ・メディシンに掲載されました。この快挙をとても嬉しく思います。 ここでは、解剖学検死の分析が行われ、特に腎臓のダメージにフォーカスされたものです。集中治療科の医師は、以前から、重症患者の腎臓が悪くなる事に気づいてはいましたし、他のコロナウィルス感染症、MERSなどでも、このような事はあるのですが、今までは、集中治療が影響しているのではないか、と思われていました。血圧が急激に下がったりすると、腎臓に負担がかかりますし、先程話したような血液の凝固も腎臓に負担がかかります。 しかし、ハンブルグのチームは、腎臓内でウィルスの増幅が行われることを証明したのです。腎臓には、何処からか来なければいけませんが、肺からなのか、腸からなのか。 腸内で増殖できる事がわかっています。それか、血流によって腎臓まではこばれるのか。 どちらにせよ、腎臓内でのウィルスの増殖による、ダメージが証明されたのです。そこまで、肺が酷くない患者でも、腎臓が悪くなることがあることがわかっています。

血液の凝固の際に、素人的には、抗凝固剤を予防に飲むのはどうか、と考えてしまいますが、どうでしょうか。発想が素人すぎるかもしれませんが、、、

考え方は間違ってはいません。実際に、抗凝固剤を集中治療や、集中治療前の重症患者に使用している国もありますし、重症化が緩和されたり、重症化しなかったり、といった報告もあります。抗凝固剤は、集中治療になりそうな重症患者に特に良い効果をもたらしているようです。臨床治療方としては、既にルーチンになりつつあります。

このポッドキャストは、科学ポッドキャストであって、健康情報のアドバイスサービスマガジンではありません。ですので、念を押しますが、個人のケースについては担当医ご確認ください。

私から言わせてもらうと、、、普通の家庭医は聞かれても困ってしまう内容だとも思うのです。予防のために、ヘパリンを注射したほうがいいのではないですか? と患者が押し寄せたらそれこそ大変です。必要ないです、と答えるしかないですが、ここで話題にしているのは、最前線の臨床科学の分野の話で、学術的な研究基づいた患者のコホート調査の結果な訳ですから、それを一対一で通常の治療で使えるものではありません。 患者自身も、もし、そのようなことになったら、感染して病院に運ばれるような事があったら、、、病院の専門医は最新の見解をもって最善の治療をするのですから、、、その点では安心して欲しいのです。重症化しないことも多いですし。 過度の不安を感じ、家庭医のもとに、最悪の事態になった際のアドバイスを請いに詰め寄る必要性は全くありません。 専門分野にはその専門家がいて、専門知識は、専門家が持っているものですし、ドイツでは、必要な時は、全ての人が専門治療を受けられるのですから、、、そこまでの医学に対しての信頼は持ってもらいたいのです。

しかし、個人の行動について言うと、例えば、血栓症になりやすい人が、自分はハイリスクだ、と自覚する事は間違ってはいないのではないでしょうか。

逆に言うと、、、血栓症のために抗凝固剤を服用している人は、知らぬまに、重症化防止になっていた、という可能性も否定できません。

可能性はあるが、はっきりとは言えない、と言う事ですよね。

勿論そうです。これに関しては、科学的根拠がありません。

重症化の合併症が出ましたが、一般人としては、常にそれらをリスクとして意識しなければいけない、と言うことではないですね。 最後に、最近、かなりの数が来る質問ですが、子供感染しても軽い事がほとんどでも、稀に重症化します。新型コロナとは無関係に、川崎病という疾患があります。幼児に、血管炎症が起きる病気ですが、新型コロナに感染した子供に似たような症状が出る事が報告されています。イタリアから論文発表されました。結果は、エピデミック前と後での比較ですが、注意しなければいけない事でしょうか。

注意しなければいけない、というか、、これは、科学的な言説で、今、この川崎病に似た症状について、世界中の小児科が議論しています。川崎病は、日本の小児科医、川崎氏によってかなり前に発見された疾患です。基本的には稀な病気です。
今回、その川崎病とてもよく似た症状がみつかった訳ですが、詳細をみると異なる点も多いです。川崎病自体、その詳しい症状については意見も分かれるところもありますが、その点に関しては合意されつつはあるところです。 世界の小児科医間で現在、意見が分かれるのは、これが、感染によって引き起こされるのか、リウマチ性のものなのか、と言うところなどで、よくわかりません。基本的な臨床定義は、子供にみられる全身性炎症です。血管、そして、肌と目などに症状が出ます。心臓にもダメージが起き、血液循環、そして心筋にも影響がでます、そして、これは、一般的な炎症疾患ですが、発熱、リンパ節腫脹、浮腫、皮膚の下が腫れることですが、この他にも、心膜炎、心膜に水が溜まる、という大変酷い症状が出たり、肌の湿疹もあります。
ここでもわかるように、とてもつかみどころない臨床症状で、様々な他の病気にもみられる症状が集まって、全体の疾患像になる。この川崎病に似た複雑な症状の集合体が、新型コロナのエピデミックで、みられるようになった。多分、今後、川崎病ではなく、違う名前がつけられるようになるのでないか、思われますが、SARS-2関連炎症性小児疾患、とか。まあ、勝手に考えてみましたが。そう言う名前にはならないでしょう。把握が困難なのは、稀だからもあって、頻繁に起こらないこと自体は幸いな事です。 今、北イタリアのベルガモの大きな小児科病院での論文が発表されました。ここでは、それまで、3ヶ月に一度、1人川崎患者がいたところ、突然、1ヶ月で10人の患者がでるようになったのです。そして、このは、新型コロナ感染が爆発した地区で感染と同時にでたのです。イタリアからの酷い映像、軍隊が出動して、死体を運んでいたのが、、、この地方、ベルガモです。幸いな事に、子供は重症化することがあまりありませんから、感染の疑いで小児科病院に入院したなかの3、5%に、川崎病に似た症状がでていました。 医療関係者のリスナーの為に説明しておきますが、通常の川崎病と、新型コロナ型川崎病を比較すると、心臓での症状が多く、心エコー検査で変化がみられ、心筋炎に至る事もあります。少し高い確率で、マクロファージ活性化症候群、ショック症状、血圧の低下と速い脈、という症状が通常の川崎病よりも頻繁にみられます。治療での、ステロイドの投与頻度が高い。治療について言うならば、3つの治療法があります。一つ目は、免疫グロブリンの静脈注射、血清輸血からつくられた抗体ですね、2つ目は、副腎皮質ホルモン、これを始め高濃度で、徐々に減らしていく。3つ目は、アスピリン。そして、このコンビネーションです。この論文に出てくる患者は、全員、この治療法で完治しています。急性で、出る症状は悲惨ですが、効果的治療できる疾患です。
このようなことが、小児科医間で話し合われているのです。子供にでる、とても稀な症状です。こんなことを聞くと、 そのようなことになったらどうしよう、、と心配になるかもしれませんが、幸いな事に稀なケースなのです。 メディアでは、また、ぐっと短くされて、警告、警告! ウィルスがとうとう子供達に襲いかかる! このような見出しになるのが、目に浮かびます。これは昨日発表されたものですが、1〜2日経ったら、スキャンダラスな内容を好むメディアが、こぞって見出しにするでしょう。ですから、もう一度言っておいたほうが良いかもしれません。 そこまで、大変なことではありません。

とても稀で、治療もきちんと出来る、という事ですね。様々な臨床的な酷い症状についてお話しいただいてきましたが、最後にもう一つ。今週、何か希望が持てるニュースはありましたか。

引き続き、喜ばしいのは、ドイツ国内での良い流れです。新規感染者の増加がないことはとてもポジティブな事です。先週の段階では、そうではありませんでしたから。先週は、R値がまた1になって、、、それ以上になるのではないか、と懸念されていましたが、そうはなりませんでした。勿論、ずっとこのまま上手くいくとは限りませんが、虎とのダンスの周期に入り、今後もやっていけるのではないか思っています。 こちらのほうが、どこかのニュース見出しや、新しい研究結果よりも、喜ばしいことです。
心配なのは、ドイツ国内で増加する、ヘイトキャンペーンの動き。このことによってもたらされる混乱とダメージは大きいです。そのためにも、注意深く観察し、話し合っていかなければいけないかもしれません。これが、私がどんな個人攻撃をされようとも、科学知識を伝えていきたい、思う理由でもあります。幸いな事に知識欲溢れ、情報求める人たちは多く存在しますし、多くのサポートももらっています。

ここで、ちょっと。リスナーの最年少と最年長何歳なのか、ということはわからないのですが、最年少の中の1人であろうと思われる11歳の女の子からメールをいただきました。とても、興味深く聞いている、とのこと。 ほかには、78歳と84歳のご夫婦からも、お便りをいただいています。 様々な人が聴いているのですね。 今日もありがとうございました。今後もどうぞよろしくお願いいたします。


ベルリンシャリテ
ウィルス研究所 教授 クリスチアン・ドロステン

https://virologie-ccm.charite.de/en/metas/person_detail/person/address_detail/drosten/


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