ドイツ@Sars-CoV-2 コロナウィルスアップデート(号外編)  2021/11/16(和訳)

ケルン=メアハイム呼吸器クリニック 集中治療医 クリスティアン・カラギアニディス
聞き手 ベーケ・シュールマン

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状況は深刻です。ロベルト・コッホ研究所所長、ロータ・ヴィーラー氏は、「もうすでに12時5分である」と言っています。52800人の新規感染者、という数が保健機関から発表され、それによって7日間の発生指数はまたもや新記録を更新してしまいました。地域によっては、1000を超えたところもあります。ちょうど1週間前にドロステン教授がポッドキャストでこの深刻な状況に関して、「1年前よりも悪化しているが、それは接触制限が全くされてこなかったからであり、特に高齢者層での予防接種率が十分でなかったことは前からわかっていたことだ。状況の悪化をさらに加速させているのは、、集中治療医療を逼迫させているのは、という意味で、、それはデルタ株のせいで全て白紙に戻った、ということもある。予防接種をしていても簡単に感染してしまう、というは事実だ。」と発言していましたが、医療、特に集中医療からも批判の声があがっています。今日は集中治療について詳しくみていきたく、ヴィッテン大学教授、ケルン=メアハイム呼吸器クリニックECMOセンター院長、クリスティアン・カラギアニディス教授にお話を伺います。聞き手はベーケ・シュールマンです。

カラギアニディス先生、大変ご多忙のなかお時間をいただきありがとうございます。先生は毎日集中治療病棟をみていらっしゃると思うのですが、今、どのような状態なのでしょうか?

そうですね。私たちの病院の集中治療病床は全て埋まっています。患者の大多数が予防接種をしていない若年層で、1、2人そうではない例外のケースがあるくらいです。ドイツ全体が同じようなシチュエーションでしょう。全員、人工呼吸器、つまり、人工肺に繋がれています。これは、若い人や、出産後の人にとっては大変厳しい治療ですが、ここ、ノルトライン=ウェストファレン州では第一波から第三波に比べるとそこまで逼迫した状況ではなくて、他の州に比べても予防接種率が高いこともあって少しだけ増加傾向はなだらかである、と言えるかもしれません。病床はマックスに埋まってはいますが、空きを確認する電話がひっきりなしになっている、というわけではないですし、大勢の受け入れを断らなければいけない、という状況ではありません。第一波から第三波は、何度も病床の空きがなかったために受け入れを拒否しなければいけない状態になったことがありました。勿論、もう少し都心に近い大きな病院ではもっと一杯になっているでしょうからまた少し状況はっ違うでしょう。

受け入れ、というのは、他の病院からの受け入れ、ということでしょうか?それとも、自宅から直接病院へ、ということでしょうか?

自宅から病院へきた場合に対処できなかった、ということは一度もなくて、それはドイツ全体で保証されています。第一波から第三波の間ずっとそうでした。しかし、重度の疾患で十分な治療ができない、と判断された場合にはもっと大きな病院に移ることになる場合には病床の数には限りがありますから誰もが大学病院の集中治療病床で治療が受けれるとは限りません。

集中治療の状況を数でみていきたく思うのですが、今、ドイツ国内で何人の患者がCovidで集中治療を受けているのでしょうか?

今日の段階で、3250名がCovid-19で集中治療を受けています。ここで言っておかなければいけないことは、地域によってかなりの差がある、ということと、第四波はいままでの第三波までとはかなり状況が異なる、ということです。この3250名、、まだ増えると思いますが、、このなかの40%が、ザクセン州とチュービンゲンとバイエルンに集中しています。ここから、現在、どのくらいドイツ国内で不均一に感染が拡大しているか、ということがわかると思います。

地域での違いについてはまた後で取り上げることにして、、大学病院と小さな病院との違いはどうでしょうか?

集中治療リストでは、大きな病院と小さな病院の区別はされてはいるものの統計的な数値であることには変わりません。この間、第一波から第三波までの集計が終わりましたが、大多数が大きな大学病院で治療されていたことがわかります。国内の1300の集中治療の設備がある病院のなかで、60%がそのなかの250の病院に集中していました。80%が500の病院で治療されています。ここからもかなりの偏りがあることがわかると思います。

それは、エクモ、つまり、人工肺を使った体外循環回路による治療ができる病院が限られているから、ということでしょうか。

エクモも原因の一つではありますが、それ以上にCovid-19の治療が大変複雑だ、ということが一番の原因です。集中治療をとっても、その患者によってかなり容態に差があります。そこまでのケアが必要がないケースもあれば、数人で看護しなければいけないケースもあり、それが大きな病院に集中した、ということです。

確認ですが、あまり手がかからない患者も、重体の患者もどちらも集中治療病棟にはいるのですよね?

そうです。どちらのケースも集中治療病棟での話です。疾患によっては、1〜3日で病棟から出れるものもありますが、Covid-19のように何週間も治療が続く疾患もあります。Covid-19の治療は大変質の高い全身管理が求められるものなので、それが医療従事者にとっても大きな負担となるところなのです。

集中治療病棟内のCovid-19の割合は現在どのくらいなのでしょうか?

これも今回の第四波では大きく地域での差が出ています。バイエルンでは26%、チュービンゲンでは28%、ドイツ西部、北のノルトライン=ウェストファレンでは10%弱です。ハンブルグ、ブレーメンでも同じような感じです。西と南西ではその差が明らかです。

10%、28%という数字自体はそこまで多くない、という印象を受けるのですが、それでも問題だ、というのはどういうことなのでしょうか?

そうですね。集中治療が必要なのはCovid-19患者だけではない、ということです。そして、パンデミックで使える病床が減ってしまった、ということ。設備もありベットもありますが、介護スタッフの数が足りないために使えないのです。80%のCovid-19患者ではない患者、、心臓発作、脳梗塞、交通事故などで集中治療が必要になる患者がいて、そこにさらに大変困難なCovid-19患者が加わるわけです。ある程度の割合まではキャパがあり、今、まだそのキャパ以内ではあるのですが、今後も感染者が増加していくとそこにも限界が来る、と懸念されています。

集中治療病棟にいる患者についてお伺いします。Covid-19で入院している患者のなかの非接種者の割合はどのくらいですか?

集中治療を受けている90%以上がワクチンを接種していません。この割合は別の疾患で入院している患者よりも高い割合で、ワクチンが重症化を防ぐ効果がある、ということは明らかです。

2回の接種をしていても、集中治療が必要になるケースも稀にあります。ワクチンブレイクスルー感染ですが、これは、反ワクチン派に論拠として使われていて、「どちらにしても感染して、重症化する確率が五分五分であるのであればワクチンを打つ必要などない」と。しかし、そのようには計算できませんよね?

その計算は間違っています。嘘偽りなく話し合う必要があると思うのですが、確かにワクチンブレイクスルー感染はありますし、集中治療を受ける可能性もあります。そこを誤魔化すわけにはいきませんが、確率的にみてみると、予防接種をしてからブレイクスルー感染をして集中治療が必要になる確率と、予防接種を受けずに感染して集中治療が必要になる確率とでは雲泥の差があるのです。ワクチンはかなりの確率で重症化を防ぎます。確かにそれでも重症化する人はいますが、そのようなケースは超高齢者であったり、免疫的な問題、、臓器移植後であったりなど、、そのような疾患を抱えている場合にはワクチンの効果というものが期待できません。

とても簡単でわかりやすい例えを、科学ジャーナリストのマイ・ティ=ニュエン・キムが言っていたのですが、「集中治療の割合はとても簡単に説明できます。もし、国民全員が予防接種をしたならば、集中治療病棟には予防接種者しかいないことになるでしょう。しかし、集中治療が必要になる人の数も同時にかなり少なくなるのです。『予防接種をしたって、集中治療が必要になる可能性があるからワクチンを打つ必要はない』というロジックは、『シートベルとしたって、交通事故にあうのだからする必要はない』ということに等しく、なぜなら、交通事故にあった人たちの99%はシートベルトをしていたから、です。同じように、墜落した飛行機の99%にも翼はついていましたし、サッカーで点が入った瞬間の99%もゴールキーパーはそこにいたことになります。」ちなみに、彼女の新しい動画がYouTubeにアップされています。14分で、ワクチンの仕組み、どうして予防接種が必要なのか、という説明がわかりやすくされていますのでおすすめです。さて、カラギアニディス先生、ワクチンに関する噂はいくつかありますが、そのなかに、医療従事者へのワクチンが義務になれば、かなりの介護スタッフが仕事を辞めるであろう、と言われていて、それを聞くと、「病院で働いている人は医療に詳しいだろう。そのような人たちがワクチンを打ちたくない、というのではあれば、私も打たないでおこう」と考える人もいると思うのです。これは、特にアクティブな少数派なのでしょうか?それとも実際にそのような人たちが多く存在しますか?

これは大変感情的なテーマであることは確かですね。まず、ポジティブな事から言うと、病院内のスタッフでのワクチン接種率は90%以上です。ここでは、役職ごとに考えるのではなくて、、というのも、医者や看護士だけではなくて、清掃スタッフなども感染防止対策的には同じように大変重要だからです。ですから、仕事の内容や職種ではなくて、病院全体のスタッフ、というように考えるべきだと思います。不安を抱えている人は存在します。私の周りには、積極的に絶対にワクチンには反対だ、という人はいないのですが、それでも、若いスタッフからは、「長期的な影響がまだはっきりしない」「不妊問題もあるらしい」という声も聞きますから、そのような不安へもきちんと向き合っていく必要があると思うのです。今現在出ているデータは本当に説得力のある良いデータですから心配する必要はないのですが、今回の第四波で特殊なのは、集中治療にワクチンを打っていない妊婦が運ばれてくる割合が多くなった、ということです。ですから、特に若い女性の理解、予防接種への信頼を獲得する必要があると思います。不妊になることもありませんし、この辺りの情報をしっかりと発信していくことは必然です。

集中治療患者と話す機会はありますか?勿論、話せる容態になってから、ということになると思いますが。

毎日様子は見にいきます。私たちの病院では、受け入れ時から抗体をチェックし、予防接種をしていてもしてなくても抗体力価の測定はします。最近はワクチンパスポートも提示してもらいますが、残念ながら、偽造ワクチンパスポートというものも存在して、そのような偽物のワクチンパスポートを持った人が集中治療に運ばれてくるのをみなければいけない際にはため息がでます。 回復してきたら、、若い人はデルタ株では回復する場合が多いですが、、勿論、容態がよくなってきたら話をする機会もあります。私がみた患者のなかでは、狂信的な半ワクチンの人はいなくて、どちらかと言えば、「あまりよく考えてなかった」「そこまで重要なことだとは思っていなかった」「そのうちしようと思っていた」という人が多く、大変後悔しているようでした。

反ワクチンの人が集中治療で暴れ出したり、治療を拒否したり、ということはないのですね。

勿論、そのようなケースもあるかもしれませんが、私はみたことがありませんし、私がみる限りでは、治療で心身ともに衰弱し予防接種しなかったことを後悔している人のほうが多いです。

治療方法についてお伺いします。Covid-19で集中治療が必要になった場合にはどのような治療がされるのでしょうか?

このパンデミックのなかで、かなり治療法は改善されました。初期の頃、第一波の時には全く何もわからずに、他の呼吸器疾患、インフルエンザなどの経験を参考に手探り状態でしたが、徐々にliving guidelinesなどのサポートもあって改善されていき、私が分岐点だと思うのは、2020年の夏にコーチゾンを使うようになったこと。これによって、致死率が大幅に改善されました。そして、疾患初期の段階では、いわゆる中和抗体療法、モノクロナール抗体を使った治療がありますが、これはまだ集中治療が必要ではない段階で使われるものです。そのほかにも、2、3つの新しい治療薬、体内の炎症を抑える効果のある薬が出てきました。カシリビマブとバリシチニブで、かなりの効果が特に若い世代でみられるものです。

治療薬ですが、先日、ドロステン先生が他の専門家のツイッターをリツートしていたのをみたのですが、ものすごい量の薬が集中治療の際には必要で、薬の山の写真が出ていました。そのくらい大量の薬を集中治療では1日に必要だ、ということだったのですが、少しご説明いただけるでしょうか?

私も写真をみましたが、まあ、あのくらいは最低でも必要です。まず、集中治療では鎮痛剤が必要になります。集中治療を終えた患者から、痛みがあった、ということを聞く場合も多いですから、まずは痛みを取り除くこと。そして、眠りに誘導することです。呼吸器に繋がれていたり、麻酔下にある場合などはそのための薬も必要ですし、コーチゾン、患者によってはビタミン剤などで栄養的な面での補助がされなければいけません。点滴か、チューブを通してです。それから、炎症をストップさせる抗炎症剤です。第四波の特徴としては、Covidによる肺炎の際に細菌感染が増えていて、抗生物質が必要になること。これはエクモ治療をしている現場からよく聞くことです。集中治療を受ける際にはかなりの薬が必要になります。

反ワクチンの人たちの論拠として、ワクチンの副作用がありますが、この薬も副作用がありそうですね。

この治療薬にはかなりの副作用があります。これが集中治療の問題でもあり、この10年、20年取り組んで来ていることでもあるのです。集中治療後の後遺症も最低限に抑えなければいけませんし、特に筋肉や神経の後遺症が集中治療の後には出てきたりします。最近の一番大きな研究は、レーゲンスブルグのトーマス・バインのものですが、そこでは重度の肺疾患で集中治療を受けた際、、Covidもこれ含まれますが、、その1年後に社会復帰できたのは半分でした。もう半分には後遺症が出ています。Covidでも同じ割合だと思います。

今、平均的にどのくらいの期間、集中治療を受けるのでしょうか?

今回のデータはまだありませんが、今までの第一波から第三波から言うと、Covid患者の治療期間は長く、大体14〜20日。変化してきたのは、集中治療中に亡くなる場合には治療期間は短く、10日位、生き残る場合には治療期間が長くなります。第一波と第二波での大きな違いは、酸素療法で、これは人工換気を非侵襲的に行うものですが、この使用が第二波、第三波で増え、それによって期間も短縮されました。第四波での印象は、若い世代の患者が多い、という点で亡くなるケースが少なくなったと同時に治療期間は伸びていますが、これも何人が亡くなるか、というところにも関係してきます。

どのような状態で集中治療を終えるのでしょうか?

その後でもベットに寝たきりで長い間リハビリをしなければいけないケースもあれば、、私たちは常にこちらの方にするように常に心がけているのですが、、早期にフィジカルなトレーニングをする。まだかなり容態が悪くても身体を動かすことによって集中治療が終わってから寝たきりにならずにすみますから、より早く復帰することが可能です。

先ほど、亡くなる人もいる、というお話でしたが、何人くらいCovidで亡くなるのでしょうか?

第一波では、集中治療で人工呼吸が必要だった患者では致死率が50%でした。非常に高い割合である、と言えるでしょう。普通のインフルエンザではそこまで高くありません。第二波では、非侵襲的人工呼吸器があったのにも関わらず、なぜか致死率は上がって54%でした。第三波ではアルファになり、患者の平均年齢が6〜8歳若くなったために、50%以下に下がりました。大体40%から45%くらいです。改善された治療方法と、患者の平均年齢がさらに低くなっていることを考慮すると、今回の第四波ではこれよりも下がるのではないかと思います。私は40%以下になることを切実に願っています。

先ほど、病床のキャパが出ましたが、政治でも議論は続けられています。州によってかなりの差があり、シュレースヴィヒ=ホルシュタイン州などは落ち着いていますが、バイエルン州は大変です。チューリンゲンもそうです。以前の感染流行時のように他の州の患者を受け入れる、ということも行われているのでしょうか?

確かに、バイエルン州などからは、かなり医療が逼迫しています。あと数日で、第二波と第三波のピーク時を越すのではないか、と思われます。私が推奨するのは、まだそこまで酷くならないうちに余裕のある州に移送することです。そうすれば、限界に来る前にオーガナイズすることができます。限界に達してしまったら、もう何もできなくなりますから、その前に行っておいたほうが良いです。ドイツには、いわゆる医療ネットワーク、クローバーコンセプト(注)がありますから、州同士で助け合うことができるのです。事前にバイエルン、チューリンゲン、ザクセンから他の州へ助けを要請できればミスも少なくてすみます。

段々厳しくなってきたら、サポートを別のところに願い出る、ということでしょうか?

それは常に行われていることで、集中治療の分野では病院同士で助けあうことは不可欠です。医師同士で患者の情報を共有したり、どのような治療が行われたのか、などは普段から行われますが、このシステムだともっと組織的に機能しますので、大規模な患者の受け入れ、受け渡しも可能になるのです。

それを使わなければいけない理由は何でしょうか?

地域で起こっている状況で、バイエルン、ザクセン、チューリンゲンで逼迫が起きていたらそれを報告し、まだ余裕がある州が受け入れをする、という連結体制でやってきました。まだそれができる状態ではあるのですが、これからも発生指数が上昇するようであればそれに伴って集中治療の需要も増えますから、余裕を持って患者の転院をすることが重要になってきます。

まだどのくらい病床が空いているのでしょうか?

現在、10%くらいで、勿論地域によっては差はありますが、ここで少し状況を明確にする必要があると思います。よく言われるのは「ドイツには25000の集中治療病床がある。フランスなどではもっと少ない」と。しかし、よくみてみると、そこまで違いはないことがわかります。人工呼吸機能がついた病床に関しては、去年の段階で12000病床、現在は9000です。フランスは6000病床で、人口は6700万人です。そう考えると、そこまでの差はありません。たしかに、ドイツにはローケア病床というものがありますが、ここでは全ての治療は行うことができません。麻酔下にいる患者をそこに置いておくことはできないのです。それでも、これがあることによって大変負担を軽くすることはできています。核となる病床、全ての治療が可能な病床は9000病床くらいになると思います。この規模は、公で常に引き合いにされる数とは違いますが、それでもイギリスなどよりは多い数です。

どうして今年のほうが数が少なくなっているのでしょうか?

かなりの数の介護スタッフをパンデミックで失いました。抱えていた負担はパンデミックの前から大きく、根強くある介護業界の問題はCovidだけではないのは確かで、もうすでに10年、それ以上前から存在します。集中治療における負担の大きさ、病院を経営していく上でのしかかるプレッシャーもありますし、夜勤、7日間勤務、などを何年も続けていくことが困難であることは当然です。パンデミックはそのシチュエーションにとどめを刺した、と言えるでしょうか。それまでにもすでに良くなかった状況がさらに悪化したわけですから、介護スタッフの多くは介護の仕事から離れたり、私の病院で多くあったケースは労働時間を短縮しました。これ自体は良い解決策だと思います。時間的な負担が減ることで質を上げることが可能ですが、ここでの欠点は時間を削減すれば、例えば労働時間を20%少なくすればそれによって20%使える病床も少なくなる、ということなのです。

替わりのスタッフがいないからですよね。

そうなのです。代理となるスタッフはいませんし、求人しても誰もみつからない状態です。現在、フリーの介護士はいません。人材の数が需要に追いついていないのです。そのようにキャパが少なくなってしましました。

とういうことは、キャパも少なくなって、スタッフも少なくなっているなかで、患者数は去年と同じ、ということですよね。

そこが問題なのです。キャパが限界に近づくと、集中治療のローテーションをはやくする必要があるのですが、つまり、そこまで重症ではない患者を集中治療から外していく。これ自体は特に問題となることではありませんが、それによってさらに集中治療の重症患者の率が上がりますから、病床数は同じでも介護スタッフや医師にかかる負担がより大きくなります。

これからの予測はどうされていますか? 対策の効果がそこまで出ない、としたら、ですが。

対策の効果は出なければ困ります。発生指数は増加傾向にあります。先週までの14日の間の新規感染者の増加は1000人でしたから、加速すると考えれば次の1000人になるまでにかかる期間は12日かもしれません。集中治療の確率は、0、8%ですから、1週間後には、、遅延を入れても、、1万人あたり80人くらい集中治療が必要になる計算になりますね。どちらにしても、ここにブレーキをかけなければ大変な規模に膨れ上がってしまいます。別にゼロまで下げろ、と言っているわけではありません。医療はある程度の負担に耐えれるようにできていますし、それが私たちの仕事でもありますが、崩壊するレベルまで増えることは絶対に避けなければいけないのです。

対策についてはこれから取り上げますが、病院からは、基準を引き上げる提案が出されています。これはどういうことなのでしょうか?ご説明いただけますか。

もう数年の間、介護の負担を減らすために努力してきましたが、そのなかの対策に介護スタッフが担当する患者の数を少なくする、というものがあります。つまり、1日に担当する集中治療患者数を2人、夜間は3人、これをマックスに設定するというもので、今年の春からそう実行されていますが、以前のように日中に3人、夜間に4人というレベルにすると先ほども言ったような大きな負担が介護スタッフにかかり、退職せざる得なくもなってきます。このように変えてもとりあえずやっていけるとは思います。しかし、これは私個人の意見ではあるのですが、、今、それはしないほうが良い。してはいけない、と思っています。というのも、今、それをしてしまったら、来年に必ずツケが来るからです。この2ヶ月、3ヶ月、そこまでの負担をかけたら、、来年にはまたさらに10%、20%の介護スタッフが職場をさることでしょう。その場凌ぎの事をするのではなくて、来年、再来年も引き続き集中治療がきちんと行えるような環境を整えていかなければいけません。特に崩壊寸前まで負担をかけるわけにはいかないのです。

崩壊しないためにも、病床の確保は必要です。しかし、それは実際にできることなのでしょうか? 集中治療病床をCovid患者の為に確保する、ということですが。

いえ、それは出来ません。非現実的過ぎます。大変大きな病院で病床数も大規模で確保されているところであれば可能かもしれませんが、普通の病院の集中治療では無理です。私たちの病院には12病床ありますが、もうマックスに稼働しています。そこで病床をわざと空けておく、心臓発作を起こした患者に「このベットはCovid用だからダメです。」とはいきませんし、医療倫理的にも問題です。普段から緊急時の為の集中治療病床は確保されているものです。順番を待つ時にも治療はされなければいけませんから、大体90%が稼働していれば、10%は予備にあります。12病床、ということは、1病床で8%ということですので、10%以下になると治療も困難になってきます。5%以下になるとその病院では逼迫状態であり、患者全員のケアもままならない状況になります。

そうなってしまったら、どうなるのでしょうか? もし、この5%を切ってしまって全ての病床がマックスに稼働している状態で集中治療が必要な患者が入院してきたら、ということですが。

病院には法的にも人命救助の義務が課せられています。つまり、まずは全ての人に治療を施し、命の安全を確保すること。これは幸いなことにドイツ国内ではどこでも行われることですが、もし、集中治療がいっぱいであれば、それでも治療が行えるように全力は尽くし、別の病院で病床が確保できないかどうか、という電話での捜索をはじめます。ケルンでは、中央消防署がコーディネートして患者の振り分けを行なっていますが、第二波、第三波の際にはケルン市内から100km離れたところで初めて病床が見つかったこともありました。

それは、新規の患者で、ということでしょうか? それとも、容態が安定してきた患者を移動する、ということでしょうか?

病床を探すのは新規の患者の場合です。勿論、すでに入院している患者を転院させる、というのも場合によっては必要です。というのも、長い間人工呼吸処置をされている患者をもっと設備の整った病院、大きな大学病院に移す、というは、治療の面からみても重要で、いままでもそれによってかなりの負担が削減されてきました。しかし、病床を空ける、という作業はすぐに出来るものではなくて数日かかります。

去年の冬には、最悪の場合には、トリアージの可能性も出てくる、と言われていましたが、これはどのように理解すれば良いのでしょうか? そして、その可能性はありますか?

ここではっきりと言っておきますが、トリアージをしなければいけない状態になったならば、、それは、ドイツの医療の崩壊を意味します。ドイツにはたくさんの病院があり、病院密度も高く、集中治療病床も多く確保されています。トリアージする、ということは、ある1人の患者の命を別の患者の為に犠牲にすることを意味します。とても簡単に言うと、ですが。このように医療体制が整ったドイツのような国ではそのようなことは絶対に起こってはいけません。しかし、起こる可能性があること、そして、起こったことは、優先順位、です。例えば、10病床のうち、8病床で人工肺が使われていた、として、別の病院から受け入れ要請がきた、とします。その際には、受け入れる人を選ばなければいけなくなります。その決断が正しかったどうか、ということは別として、使える病床が少なくなってくるとそのような優先順位というものを決めていかなければいけなくなってくるのです。大学病院で病床が確保できる患者がいる一方で高齢で助かる見込みが少ない患者の為の病床はなくなる、ということも起きてきます。

助かるチャンスが大きい方を優先する、ということになるでしょうか?

さまざまなファクターがあります。年齢もありますし、基礎疾患も関係がありますし、容態もそうです。ここ数日でどうなるのか、ということも、頻繁に電話で連絡をとりながら検討することが多いです。若い患者は、小さな病院で治療を受けたとしても回復するチャンスは大きい、とみるか、高齢者のほうが良い、という決断をすることもありますから、ケースバイケースです。どちらにしても、キャパの限界に近づいてくるにつれてそのような決断をしなければいけない状況が多くなりますからそれは大きなプレッシャーでもあります。

SNSで最近トレンドになっていた言葉があるのですが、「サイレント・トリアージ」というものです。これはどのような意味なのでしょうか?

その言葉には賛成できませんが、これも優先順位のことを言っているものだと思います。例えば、あまり病院が多くない地域などで病床も少なくなってきた場合に、救急車が患者の家にいったとしても、患者の容態をみて入院が必要だ、と判断したとしても、受け入れ先がない、ということで搬送しない、というようなシチュエーションです。しかし、先ほども言ったようにドイツには十分な設備が整っていますので、そのようなことは起こってはならないことです。

ということは、そのようなことは起こってはいない、ということですね? 起こってはいけない、と。

もし、あったとしても例外のケースでしょう。広範囲では起こってはいません。

最後に、何をすることができるのか、そして何をしなければいけないのか、ということをお聞きしたく思うのですが、ここ1年半出されていた、コロナ特別規制の期限が11月末に迫っています。このように、感染流行に伴う緊急事態の終了させることに関してはどうお考えでしょうか?

私の個人的な意見としては、賢い決断ではない、と思っています。法的な理由とは別に、ここ数ヶ月で発生指数が急激に上がった理由は2つあって、1つ目にいわゆる「フリーダムディ」の検討、これによって、もうパンデミックが終わったかのうような印象を国民に与えてしました。

対策の解除ですね。

そうです。感染防止対策を解除した。そして、数週間前にエピデミック事態宣言を終了させる、という発言によって、さらにもう状況は良くなっていて何も恐れることはない、病院での問題もない、というような解釈に繋がってしまったことがあげられるかと思います。これが痛い目にあっている理由です。現在、新政府によって検討されている対策である程度の効果は期待されるかもしれませんが、そのためにも速攻で、明日からでもそれを実行しなければ間に合いません。もし、本当に医療が逼迫して病院が機能しなくなってしまったら。そうなった際に、緊急事態という法的術がなければ、本当にどうすることもできなくなる。ですから、この緊急事態、という保護はなくしてはいけない、と思っています。

先生は、先日、ステートメントに署名されました。これは、35名の科学者、医学者などが、コロナ対策の軌道修正を求めて連名で出されたものですが、そこには、1日遅れるたびに多くの命が犠牲になる、とあり、政治は国民の安全を守る義務があり、国民の一人一人にその責任が転換されることになってはいけない、と。詳しくはどのようなことがされるべきなのでしょうか?

まず、2つ重要なポイントがあります。1つ目には、情報掲示は明確でクリアに行われなければいけない、ということ。私は、来年の4月、5月までの「もしだったら〜どうなるか」というシナリオの検討を徹底的にすべきだと思います。発生指数がここまできたらどうなるのか、ということはわかっていますし、病院の予備率が5%をきったら何が起こるのか、ということも想定できます。それをきちんと明確にして、国民にも説明すべきです。そうすれば、国民も何が起こるのか、ということがわかり準備もできるでしょう。これが、いままでのパンデミックにおいてされてこなかったことであり、国民の不安を煽る原因にもなったのだと思います。これから行われる対策は全国規模で行われなければいけません。バイエルンの感染状態が酷いから対策も別なものにする、ということではなくて、全国共通の対策基準を用意する必要があります。そこも明確にされるべきところですし、それを実行に移す際には地方自治体に任せても良いと思いますし、発生指数を基準にしても良いでしょう。2つ目には、国レベルでの緊急対策本部を設けるべきである、ということ。それは、あらゆる分野の専門家、各行政の代表などで構成されるべきで、社会のなかで取りこぼされる層がないように、、子供や、文化、芸術家などが犠牲になってはいけません。新政府下でそのような機関をつくることができれば、、透明性の高いコミュニケーションをとることができることを望みます。

他に何かできる対策はありますか? 例えば、予防接種はどうすれば良いでしょうか? 医療の逼迫に関してはどうでしょうか?

勿論、予防接種は今のシチュエーションから脱する為の一番の解決策です。議論の余地はありません。ドイツの接種率はヨーロッパのスタンダード的にも低すぎます。ポルトガルが成功した良い例で、国民ほとんどが接種済みです。他のモデルはイスラエルで、ブースターワクチンがされていますが、私は、コロナのワクチンは3回の接種が必要である、という考えです。1回目、2回目、そしてそこから5ヶ月、6ヶ月後にブースター、で1セットです。stikoの推奨も、超高齢者とハイリスクに関しては速攻で行われなければいけないと思いますし、その他の国民にも行き渡るようにしなければいけない理由は、それによって、トランスミッション、つまり感染伝播を削減することができるからです。ブースターワクチンをすれば、R値も0,2くらいは下がります。そうすれば、ケルンのような都市は、ブースターだけで感染がおさまることになるのです。そのためには、かなりの速度で接種していかなければいけませんが、目に見える効果を得る為には、1日で1%の接種が必要です。夏の間のような速度です。

1日に100万人くらいですね。

そうです。そのくらいの速度が必要ですが、現在、0,1% 、0,2%くらいですから、全然足りません。外来でも体制を整えるべきだと思います。

それでも、まだ予防接種をしていない人たちが予防接種しても、ブースター接種をしても、効果がでるまでには数週間かかります。これではこの冬の感染流行を抑えることはできませんよね。パンデミック全体では重要だ、ということはわかるのですが、医療への逼迫はそれでは削減できないように思うのですが。

うーん、そうとも言えますがそうではないとも言えるのです。勿論、今ブースターを打っても、3週間後、4週間後の効果はないでしょう。しかし、今回の感染流行が落ち着くまでには、4月、5月までかかる見通しですから、今後のことも踏まえて計画を実行していく必要があります。そうしないと、病院は1月、2月、3月にとんでもない状態になってしまいますので。そして、本当に1%の速度でブースターを打っていけば、効果は4週間後には出てきます。ですから、迅速にそれを実行すべきであって、もう言い訳は聞きたくありません。

もう一つの医療の負担を軽くする対策に、ロックダウン、シャットダウンがあります。

それは緊急事態下の最後に残された手段であって、できるだけ避けていかなければいけないことです。新政府が速攻で対策を実行し、ブースターを急げば、しなくてもよくなるでしょう。

今日はお時間をいただきありがとうございました。


訳者注 クローバーコンセプト ドイツを、南、南西、西、東、北にわけ、中央(Single Point of Contact)で状況把握と集中治療患者のコーディネートをする連携システム 








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