ドイツ@Sars-CoV-2 コロナウィルスアップデート(特別編)  2021/12/15(和訳)

イツェホー病院 小児科医ゲオルク・ヒルデブラント
エッペンドルフ病院 小児科専門医 ロビン・コッベ
聞き手 コリーナ・ヘニッヒ

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パンデミックにおいて一番小さき存在とはどのように向き合うべきなのでしょうか。ドイツには500万人の5歳から11歳の子供がいます。この年齢層の基礎疾患を持つ子供たちの予防接種に対してSTIKOが推奨を出しました。しかし、同時に希望がれば基礎疾患の有無に関係なく予防接種をすることができる、と言うことも今回は明記されています。今日はまた特別なポッドキャストで、テーマは子供の予防接種です。感染時の子供のリスクなど、幅広く取り上げていきたく思いますが、子供のワクチンはとても繊細な問題でもありますので、特別に2人のゲストをお迎えしています。 イツェホー病院 小児科医ゲオルク・ヒルデブラント先生と、エッペンドルフ病院 小児科専門医 ロビン・コッベ先生です。先生は、小児感染学会の役員でもいらっしゃいます。聞き手はコリーナ・ヘニッヒです。

STIKOの推奨は、全員を対象にするのものはなかったものの、保護者に決断を委ねる、と言う点では、明らかに12歳以上の推奨とは内容が異なるものでした。まずはコッベ先生にお伺いします。12歳以下の子供に基礎疾患がなかった場合、予防接種はしたほうがよい、とお考えですか?

ロビン・コッベ まずは、STIKOが推奨を出したことは喜ぶべきだと思います。扉が開かれた、と言えるでしょうし、特にハイリスクとの接触がある子供たち、、そのようなケースは少なくはありませんから、、おじいちゃん、おばあちゃん、免疫不全の人たちとの接触ですね、、そのような子供たちは勿論のこと、健康児であっても保護者が決断できる、という点で朗報です。予防接種はしたほうが良いですが、まずは基礎疾患を持つケースを優先することは重要です。その数は少なくありませんので。とにかく、大変良いステートメントだと思います。

子供は言ってみれば、時にはアキレス腱のような存在で、必要以上な心配をしたり、同じ事を別のところしたならば頭を抱えてしまうようなこともしてしまったりするものです。コッベ先生、先生にもお子さんはいらっしゃると伺いました。一人、12歳以下のお子さんも予防接種済みだと言う事です。心配する保護者の気持ちも理解できることでしょうか?

ロビン・コッベ 勿論です。データが揃うまでしばらくかかりましたが、安全性が確認されて、3分の1の量で効果もしっかりと出る、ということがわかってからは、私的には迷いはありませんでしたが、息子とも話し合って予防接種をするかどうかを一緒に決めました。して良かったと思っています。

息子さんは、、10歳でしたか?

ロビン・コッベ そうです。10歳です。

ヒルデブラント先生、小児科医の多くは12歳以上の予防接種の際にはかなり厳格にSTIKOの推奨通りに行っていたように思うのですが、つまり、予防接種をしなかった。しかし、推奨がない、ということは、禁止、ということではありませんので、予防接種はしても問題はありません。STIKOの推奨というものは実際にどのくらいの意味を持つものなのでしょうか?

ゲオルク・ヒルデブラント 小児科医にとっては大きな意味を持つ、と考えます。医師会も5歳から11歳までの予防接種を広範囲で行う前にやはり推奨が出るのを待とう、というスタンスを取っていました。しかし、実際問題として、私の病院でもそうだったのですが、、5歳から11歳対象のワクチンの承認が行われた時点で、その需要も上がったのです。まずは院内だけで議論されていたことが、口コミで広がっていって、、保護者のなかには子供のワクチンについて否定的な人も多い、と聞きますが、私の病院ではその真逆で、5歳から11歳の子供の予防接種を希望しても打ってくれる小児科がみつからない、と。その相談を沢山うけました。特にアメリカで接種開始された頃から一気に増えた、という印象です。ですから、今、STIKOから推奨がでて安心しています。それによって、全ての子供たちに選択肢がうまれましたので。

子供のワクチンに関するデータについてはまた詳しく取り上げますが、まずは、ワクチン接種の指標から見ていきたく思います。予防接種のメリットそして、子供の感染時のリスクです。現在の発生指数は高く、パンデミックのなかでも最高値に達しています。5歳からの年齢層では、全国で発生指数が900、10歳では1000の域です。しかも、これは陽性反応がでた感染者の数です。子供はほとんど軽症で終わる、ということがわかっていますが、子供の感染状況をどのようにみていらっしゃいますか?

ゲオルク・ヒルデブラント 様々な点で保護者の方は悩みも多いことと思います。ワクチンの相談もよくありますが、一つ論文を参考にあげます。ヨーロッパの研究でまだプレプリントですが、ヨーロッパの10カ国でのデータの分析です。2020年8月から2021年10月までの期間で行われています。かなり最近のデータです。

ドイツも入っていますよね?

ゲオルク・ヒルデブラント ドイツも含まれます。これはヨーロッパのサーベイランス機関のデータ、ドイツのものはロベルト・コッホ研究のものです。トータルで、820000件の18歳以下での有症状の感染があり、そのうちの9600件がこの期間内で入院ケースです。1,2%です。620件が集中治療をうけていますが、数的には多くはありません。有症状の子供たちの1%が入院する、ということになります。今日のDIVIをみたところ、、これは毎日12時に更新されますが、、現在ドイツ国内では32名の子供が集中治療を受けているようです。これはパンデミックが始まってから最高値です。今年の4月から統計も子供は分けてデータが出されるようになりましたが、勿論、この32名、というのは大人に比べると大変少ない数ではあります。子供の割合はここから明確にわかると思います。ですから、私は保護者には、「この疾患は幸いなことに子供にとっては軽症で終わることが多い。インフルエンザと比較できる疾患だが、重症化するリスクがゼロではない」と言います。PIMS小児多系統炎症性症候群についてはまた後ほど説明しますが、DPGのデータによると、これは480ケース、パンデミック全体で起こっています。そしてこの子供たちの疾患状態は大変重度なのです。この数も深刻でこのことについても話し合っていくべきだと思います。

DPGとは、ドイツ小児科学会ですね。少し異なるデータがでている研究もあります。これはドイツのもので、こちらもプレプリントですが、データ的にはもう少し安心できるものですよね。

ゲオルク・ヒルデブラント こちらのドイツの研究データをSTIKOも推奨を出す際に参考にしたと思うのですが、ここでは3つの異なるデータの分析がされていて、子供の疾患重度に関するものです。入院率などですね。少し説明するのが難しいのですが、、ここではオフィシャルな感染者数と全国の抗体保有率調査、これは今年の5月にどのくらいの子供がいままでに感染を経験しているのか、という調査がされています。結果は10,8%。その割合の子供が血清検査で抗体の陽性反応が認められウィルスとの接触があったことが確認されています。それを、先ほどのDPGのデータと合わせて、補正ファクターで修正したデータによると、1万人あたり36人の子供が感染、そのなかで重度の疾患で入院などをした数に限定すると、1万人あたり6,5人です。そして、さらに11歳までの基礎疾患をもたない子供の場合にはほとんど入院したケースはない、としています。この研究からでたデータはヨーロッパのデータよりも少ない数ですが、これはまだプレプリントですし査読後にどのように発表されるのか、というのはもう少し待たなくてはいけないとは思います。特にこの5歳から11歳のデータがそのまま低い域なのか、それとも補正ファクターで変動するのか。その辺りもまだわからないものの、子供の入院率は低く、大人に比べるとかなり数は少ないことは明らかです。しかし、PIMSになると話は別です。これもこの論文に大変重要なポイントとして書かれていますが、4000人の感染者に1人の割合で起こります。これは小児医学的にみると大変高い確率です。

もう何度もPIMSがでましたから、少しそのお話を伺います。コッベ先生、今、発生指数が高く感染が多く起きている状況で、これからオミクロンによる問題もでてくると思うのですが、今後も数の増加がみられると思われますか?

ロビン・コッベ PIMSに関しては意外にも減少傾向にありました。様々な仮説はありますが、そのなかの一つにデルタ株の影響である、というもの、そして、季節的な影響、これは類似する疾患である川崎病もどちらかといえば春に多く発症しますので、春に起きていた感染流行ではPIMSの数も多かったです。もしかしたらまた春に増える可能性もなくはないですが、もう少し注意深くみていく必要はありそうです。とにかく重要なのは、デルタ株でもPIMSが起こる、という点と、先ほどヒルデブラント先生もおっしゃっていたように、これがかなり重度の疾患だというところです。集中治療が必要になって、点滴で高濃度の免疫グロブリンを投与しなければいけなくなりますし、ステロイドなども必要な治療ですが、幸いなことにドイツではこの疾患で集中治療で亡くなった子供はいません。他の国での致死率は1〜2%です。ドイツでもこれから死者がでる可能性もあると思います。

PIMSは、感染してから数週間後に発症する疾患で、無症状感染でも起こり得る疾患ですし、少し熱がでたな、と思ってから数週間後の忘れた頃に突然出たりします。先ほど、治療方法が少し出ましたが、治療に必要なものは十分にあるのでしょうか?免疫グロブリンは点滴だと思いますが、そのためには輸血が必要ですよね?

ロビン・コッベ その辺りが足りなくなることはあります。このポッドキャストの準備のために薬局へ問い合わせてみたのですが、パンデミックという影響もありますし、多くの血清が献血センターが閉鎖されていることによって不足している状態です。ドイツ国内の分はいまのところ足りていますが、世界規模でみると問題だと思います。そして、治療も簡単ではないのです。集中治療病床での治療になりますし、疾患症状も重度です。退院してからも約6%は良くない状態が続きます。

先ほども言ったように、基本的にはCovid-19に罹患した子供達のほとんどが重症化しません。先ほどの入院が必要になったケースなどは、基礎疾患がある子供達だったのでしょうか?コッベ先生、先生は先生の病院での重度のケースのレポートを出していらっしゃいますよね?

ロビン・コッベ そうですね。確かに、かなり重症のケースが当病院でありました。ECMOが必要で、重度の呼吸障害があり集中治療が施されましたが、残念ながら2名亡くなりました。1名には基礎疾患と呼べるものはなく、少なくともSTIKOのリストに入っているような疾患を持っていたわけではありません。勿論、ここで恐怖を煽るようなことを言いたくありません。これは多分かなり例外ケースだったと思います。しかし、このような重症ケースも軽症ケースも同じようにみていくべきですし、自分の病院で重症患者がいないからといって、この疾患を軽症者だけの軽いものだ、と捉えるのは正しくないと思っています。ですから、ワクチンの安全性のデータはきちんと出ているので、ヒルデブラント先生もおっしゃっていたように、大人と比べると確率は低いものの子供の重症化もあるわけですから、それを予防接種で防ぐことは大切だと思います。

ゲオルク・ヒルデブラント 付け足しますが、ヨーロッパの研究では、基礎疾患の影響も調査されていて、例えば、癌患者、1型糖尿病、もしくは、肺疾患、循環器の疾患です。これらの疾患は、入院するリスクを大幅に上げますが、Covid-19で入院しなければいけなかった子供の83,5%は全く基礎疾患を持たない子供達だ、というデータがでています。つまり、この大きなヨーロッパの調査では、入院治療が必要となった子供達の大多数には基礎疾患はなかった、ということです。基礎疾患がある子供だけにリスクがある、とよく言われますがそうではありませんので、今後も注意深くみていく必要があると考えます。

徐々わかってきていることもたくさんあると思います。先ほどの基礎疾患についてもそうですし、先日エジンバラから発表された論文では、子供の喘息がハイリスクである、という結果が出されました。

ロビン・コッベ 確かに、集中治療に来るケースには何らかの基礎疾患がある場合も多いですが、全員ではありません。

ハイリスク因子のなかには、保護者がそのように自覚していない場合もあるのではないでしょうか? 例えば、肥満などですが。

ロビン・コッベ STIKOの推奨にも肥満は入っています。勿論、どこから肥満が始まるのか、という問題もありますし、私が診た子供達が肥満児ばかりだったか、というとそうではありません。研究の際にもしっかりと体重測定やBMIが測られているわけではなく、医師の推定ですから問題点もあるとは思うのですが、基本的には肥満の子供には優先的に予防接種をする、ということ自体は間違っていないと思います。

PIMSが軽症の疾患経過後にも発症する可能性がある、ということでしたが、その他にも、これは子供だけではなく大人にとっても問題な、Long covidです。しかし、これは子供では調査が大変困難です。現時点では引き続きわからないことが多いのでしょうか? どのくらいの頻度で起こる、ということは明らかになってきましたか? ヒルデブラント先生?

ゲオルク・ヒルデブラント 様々なデータがあるために、大変難しい問題です。データのなかには、子供の感染者の16、17%がLong covidになる、というものもありますが、これは高く見積もりすぎなのではないか、と私は思います。別の論文では、1%以下、というのもあり、私の推定では1%くらいなのではないか、と思います。大きな問題は、何をLong covidと定義するか、というところです。現在、病症別のガイドラインを明確にする研究が行われていますが、まだまだ不明確な点が多いので、定義を明らかにすることは大変重要です。感染の数週間後に咳、つまり呼吸器障害があればこれもLong covidだ、と言われたりしますが、これは軽度のファクターでしょう。重度のケースとしては、いわゆる「ブレインフォグ」と呼ばれるもので、これは、そのまま訳した通り、脳に霧がかかった状態で、集中できなかったり、倦怠感が数ヶ月も持続したりするものです。その他にも、身体的な後遺症、軽度の負担にも耐えられないくらいの身体能力の低下などもみられます。病症は大人と似ています。幸いなことに、Long covidだと診断された場合でも、数ヶ月後には徐々に改善に向かう、というケースも多いです。まだまだはっきりしないことが多い現象です。

PIMSとLong covidに対しても予防接種は効果があるのでしょうか? 無症状感染の後でも発症する可能性がある、ということですが。

ロビン・コッベ 予防接種によって、Covid-19の罹患、もしくは重症化を防ぐことはできますので、PIMSの予防効果はあります。Long covidに関しては、疾患の度合いによっても罹患の確率は上がる、ということがわかっていますので、これもリスク因子の一つだと言って良いでしょう。女性、という性別と同様です。勿論、現時点では、予防接種がPIMSやLond covidから守る、というはっきりとしたデータはまだ出ていませんが、その逆にワクチン接種の後にPIMSが発症した、という例もありません。アメリカには、予防接種がPIMSの予防になる、というデータはあります。

PIMSとLong covidは感染によって引き起こされる後遺症ですが、長期的後遺症、という単語は、ワクチンの接種と共に引き合いにされることも多いです。これは私が受ける印象ですが。後遺症、という意味ではまだわからないことも多く、パンデミックが始まってからそこまで長くない、ということと関係がありますが、他の疾患ではデータがあります。例えば、ヘルペスウィルスは一生体内に残りますし、麻疹ウィルスも数年後に脳炎が発症したりします。コロナウィルスにもそのような可能性はあるのでしょうか?それとも、そもそもコロナウィルスはそのような性質を持たないウィルスなのでしょうか?

ロビン・コッベ ヘルペスウィルスは、寄生性をもつウィルスで、神経のなかに入り込んで体内に留まり再感染が起きますが、コロナウィルスにそのような性質はないと言われています。コロナウィルスが数年に渡って体内に残って感染し続ける、ということは想像しがたい現象です。免疫不全の場合に、長期間に渡って陽性反応が出続ける、ウィルスを放出し続ける、というケースの報告はありますが、通常の場合には免疫がウィルスを除去しますので体内には残りません。

ゲオルク・ヒルデブラント 付け足しですが、コロナウィルスが腸細胞に留まり長期間存在できることが確認されています。しかし、これも免疫不全者での場合です。これも、Long covidの原因の一つではないか、とも言われています。

ロビン・コッベ Long covidで原因の一つとして議論されていることは、Long covidの診断の際には、様々な方法によって似たような症状が出る可能性がある疾患を全て調べる必要があります。先ほどの、腸のなかに寄生するケースはかなり例外です。ワクチンの長期的後遺症ですが、ワクチンの影響というものは比較的早い段階で接種直後にでます。それが長期間続く、という意味での長期的後遺症、です。ですから、ワクチンを摂取してから数ヶ月後、数年後に突然何らかのワクチンの影響が出る、ということは考えられません。

コロナワクチンについてみていきたく思います。ワクチンの接種の際には、常にリスクベネフィットの分析をしなければいけなく、STIKOが行なっていることもこれです。つまり、感染時のリスクとワクチン接種によるリスクを比較する。そして、それに対する、ワクチンの効果、です。バイオンテックの治験にはあまり多くの子供の治験者は含まれませんでした。約1500人の子供にワクチンが打たれ、2、3ヶ月間観察されています。しかし、今、アメリカから新しいデータが出てきています。もうすでに数週間前から5歳以下での予防接種が始まっていて、このデータからどのくらいの安全性が確認できるのでしょうか?

ゲオルク・ヒルデブラント このワクチンの安全性は非常に高いものだ、と言えます。今週の頭にCDCから発表されたデータによると、若年層で問題になっていた心筋炎、心膜炎に関しては、5歳から11歳の子供では全くみられなかった。いままでで、500万人に接種がされ、そのうちの200万人は2回目の接種も終えていますが、そのなかで1人も心筋炎が起こっていません。若い男性に起こる心筋炎が男性ホルモン、テストステロンと関係があるのではないか、という仮説があるくらいですので、ここからも説明がもしかしたらつくかもしれません。男性ホルモンが、感染時に心臓の炎症に影響を与える可能性が指摘されていますが、この年齢層の子供の男性ホルモン値は低いですのでそのような関係性がある可能性はあって、これが子供に心筋炎が起こらない理由だと考えられます。そのようなことからもこれは大変安全なワクチンです。副反応の面からみてもそう言えるでしょう。

量も関係あるのでしょうか?大人の3分の1、ということですが。

ゲオルク・ヒルデブラント その可能性もあると思います。12歳から17歳までの治験で、モデルナを接種した場合に、、モデルナのほうが量が多いので、、その場合のほうが心筋炎の頻度があがっています。ですから、この大人の3分の1の量、、バイオンテックはそもそもモデルナより量が少ないので、、そこも関係はあるかもしれません。

コッベ先生、基本的なところでの質問ですが、これも保護者の多くは疑問に感じているところだと思います。それは、どうしてワクチンの対象年齢が、2歳から5歳、5歳から12歳、とわけられているのでしょうか?そして12歳以上、です。免疫的な違いがあるのでしょうか?体の大きさではないですよね?体の大きさは同年代でもかなりの差があると思いますし。大きな子供もいれば、小さな子もいます。

ロビン・コッベ 勿論、子供は小さな大人、ではありませんので、接種量は慎重に決められなければいけません。治験では、接種量を徐々に少なくしていきますが、根本的には16歳からは大人、とみなします。そして12歳までの年齢層がありますが、ここが理解があまりされていないところだと思うのですが、医薬品の場合には年齢と体の大きさ、体重が重要になりますが、ワクチンの場合はそれとは異なり、ワクチンによっては小さな子供での接種量を増やさなければいけないものもあれば、接種量をかなり少なくしなければいけないワクチンもあります。ですから、この場合に5から11歳までの接種量が大人の3分の1でここまでの安全性と効果がある、というところは大変興味深いです。

それと疾患の重度との関係性はあるのでしょうか? 大変興味深い、ベルリン、ミュンヘン、ハイデルベルクの共同研究がありますが、そこで子供の疾患が軽度なのは、粘膜の免疫が大人よりも早くに発動するから、という説明がされています。

ゲオルク・ヒルデブラント これは大変興味深い論文ですが、ここでは細胞レベルでのメカニズムの解明を試みていて、どうして子供は軽症なのか。この知見と子供のワクチンとの関係性はわかりませんが、研究内容自体は大変興味深いものです。子供の感染時の細胞免疫の研究ですが、その際に炎症の度合い、免疫の活性、調整作用の動きから、小さな子供は特に、Sars-Cov-2ウィルスに対しての防御機能を持っていて、粘膜免疫が速攻で応答する、ということがわかりました。その機能が明らかに大人よりも高く、反応速度も速かったのです。重要なのは、インターフェロンで、これが初期の炎症の決めてになりますが、これを小さな子供は早い段階で応答することができる。粘膜に初めの感染が起こった際に起こるインターフェロン応答がその後の免疫を調整が、小さな子供はその時点でウィルスをブロックし、さらなる臓器に炎症が拡がることを阻止するのです。大人の場合には、このインターフェロン応答が少し遅れて起こり、そこまで強くなく、それによってウィルスにさらに拡がるチャンスを与えてしまいます。勿論これは全体のごく一部の機能で、他にも細胞レベルで様々な事が行われていて、例えば、CD8細胞も需要ですし、これが活発になることによってその後の免疫応答に影響が出ます。この研究のデータはなぜ子供が重症化しないか、という原因の解明に近づく知見だと思います。ちなみに、PIMSの発症があった子供に関しては、このインターフェロン応答があまりよく行われていなかった、という結果も出ています。ここからも仮説の検証ができるのではないか、と思います。

大人ではあまりよく機能しないところが、子供では良く機能する、と言っても良いでしょうか。

ゲオルク・ヒルデブラント そうですね。

ロビン・コッベ ちょっと、付け足しても良いでしょうか。さらに、子供の抗体応答も大人よりも優れていて、アメリカからも、、チュービンゲンの論文もありますが、そこでも自然感染後の子供の抗体が安定してより長く持続する、というデータがでています。ですから、ワクチンに関してはまだデータが少ないものの、効果が長く持続するであろう、と期待できます。

長く持続、、という点では、大人の場合には今、ブースター接種が必要になってきています。接種間隔もそうですが、これからコロナのワクチンは3回の接種でで完全な予防接種になります。子供の予防接種はどうなのでしょうか?子供にはブースター接種は必要ない、と思われますか?

ゲオルク・ヒルデブラント これは現場での問題なのですが、、5歳から11歳までの子供ではなくて、、12歳から17歳の子供での問題で、この年齢層は夏の終わりくらいから予防接種が始まりましたので、2回目の接種からそろそろ5ヶ月、6ヶ月経つわけです。ですから、その年齢層でもブースター接種をするべきかどうか、という問い合わせがかなりあります。CDCは16歳からのブースターを推奨していたはずで、12歳から17歳においては、まだデータが足りなく推奨に踏み切れていない、ということだと思います。しかし、必要である可能性はありますので、これから今後どうしていくべきか、考えなければいけませんし、新しい変異株が子供にどのような影響を与えるのか。免疫は十分であるか、というところが問題です。

ロビン・コッベ 先週末にイギリスから発表された論文があって、そこで子供でのワクチン効果、1回目の接種後のmRNAワクチンによる効果が大人よりも高い、というデータが出ています。ただ、1回目の接種後の有症状に対する保護効果が80%、と大人よりもかなり高かったのですが、残念ながら8週間後には40%まで下がった、ということで、12歳以下においては、2回目までの接種間隔を延長する、もしくは1回の接種で済ませる、という当初のイギリスの計画は中止となりました。ですから、2回の接種、そしてブースターもあり得ると思います。まずは、2回の接種を3週間から6週間の間隔で行う事。それによって重症化に対する基礎免疫をつけることです。子供でも免疫系疾患を患っている場合がありますし、子供のリウマチなどがそうですが、そのような場合には3回目の接種も初めから計画されていますから、大人と同じように、3回の接種によって基礎免疫を獲得する、ということになると思います。

先ほど、接種間隔を3週間から6週間、とおっしゃいましたが、12歳以下では3週間の間隔が推奨されています。この間隔を少し延ばすことによってより高いワクチン効果を期待することはできるのでしょうか?大人の場合には、接種間隔を空けることによってそのような効果がでる、という知見があります。でも、時間がない、という問題もありますよね。

ゲオルク・ヒルデブラント それはよく保護者に聞かれることです。特に知識がある保護者は、大人でそのような効果がある、ということを知っていますから、そのような質問が出てくるのも当然だと思います。免疫学的に考えると、子供の場合にも大人と同様の効果が期待される、と思われます。3週間ではなくて、4週間から6週間のほうが適している可能性は大きいですが、感染状況が悪いのは今、ですので、予防接種の相談に訪れる保護者は、学校での感染が悪化し、何人も感染者が出ていて学級閉鎖にもなっていて心配で来院しているのですから、そういう面から考えても、治験では3週間の間隔で良い抗体応答がみられているわけなので、今の感染状況とこれから問題になるオミクロンを考慮すると、この場合には臨機応変に接種間隔を決めていく必要があると思います。

親としてできるだけはやく、という気持ちもよくわかります。ヒルデブラント先生、先生はもうかなり長く子供の予防接種をしていらっしゃいますが、接種予約はすぐにいっぱいになる、と。予防接種を心待ちにしていた保護者も多いと思うのですが、それでもまだ多くの質問が寄せられたりするのでしょうか? 例えば、長期的後遺症であったり、、この言葉を使うのは正しくはない、とはわかっていますが、、ワクチンの副反応などです。接種の際に体内でつくられるスパイクタンパク質がなんらかのトリガーとなって悪影響を与える。免疫疾患になったりする、というのはよく耳にすることですが。

ゲオルク・ヒルデブラント 正直なところ、今、私の病院に来院する保護者のなかにはいません。保護者は全員安堵していて、ワクチンでそのようなことはいままでなかったことです。子供のワクチンは他にもありますし、1歳児、2歳児で行うようなワクチンの説明も常にしていますが、その際には保護者のなかには詳しい説明が必要であったり、全ての予防接種は打ちたくない、というような要望があったりするのですが、今回に限っては全くそのようなことはありません。今、来院する保護者たちは、子供の予防接種が可能になって、ただただほっとしているようです。ずっと待っていましたから。ですから、予防接種相談はかなり手短に終わります。勿論、スパイクタンパク質が免疫疾患のトリガーになる、という可能性はゼロではないかもしれませんが、私のところに来る保護者はかなりきちんと状況の把握をしている人たちなので、はっきりとしたデータが出るまで待つ、ということが、自然感染をするリスクを上げることを意味する、ということも理解しています。もし、スパイクタンパク質が、自己免疫疾患の原因になる、というのであれば、自然感染の際に接触するスパイクタンパク質の量はワクチンとは比べ物になりませんからリスクもこちらのほうが高いでしょう。批判的にみる人がいるのは当然ですし、イスラエルのアンケート調査で、5歳から11歳の予防接種をするかどうか、という質問に対して、「する」と答えたのが、3分の1。残りの3分の2は、「まだわからない」でした。この割合も、子供のワクチンが安全である、という他の国のデータがもっとで始めれば変わるかもしれませんが、とにかく、きちんとした説明をし正しく理解してもらうことは大変重要なことです。

アメリカでは、ワクチンキャンペーンが盛んに行われているのにもかかわらず、まだ5人に1人の接種率です。

ゲオルク・ヒルデブラント そうですね。高い接種率からはまだ程遠いです。

保護者のなかには、STIKOの推奨が出ていても全ての予防接種は打たせるつもりはない、という人たちもいます。その一方で特に何も疑問は持たないで打たせる保護者もいるでしょう。コロナが出てくるまでは、特にワクチンの種類、製造方法や、治験データや、製造元、副反応などそこまで詳しく分かっている人も少なかったと思うのです。不活化ワクチン、というものには効果を上げるためにはアジュバンドを加える必要があって、生ワクチンは弱毒化されたウィルスが入っている、など。様々なワクチンがありますが、いままでどのようなワクチンが出てきたのでしょうか? 例えば、2004年に水痘ワクチンの推奨がでました。これは親としては、特に危険な疾患である、という認識がない場合も多いのではないか、と思うのです。小さい頃にかかっても、気持ちの良いものではありませんが生死に関わる疾患ではないですよね。この決断はどのような理由から出されたのですか?

ゲオルク・ヒルデブラント これはあの当時、2003年に70万件の水痘感染があり、その半数が6歳から11歳だった、ということ。これはロベルト・コッホ研究所のデータで出されています。エンデミックな流行があったのです。疾患経過は軽度で、3〜5日続く熱と、典型的な水疱ができますが、これも痕が残る事なく治りますしほとんど子供が軽くすんでいます。問題点としては、この水疱から重感染、つまり細菌による感染が起こる可能性がある、ということ、特に慢性の皮膚炎がある子供にはその恐れがあって、これが入院の一番の原因でもありましたが、その他にも、免疫疾患を持つ子供達、先天性のものや薬によるもの、例えば白血病など、そして、新生児の感染、生まれた直後に罹患するケースです。予防接種導入の前には、一年間で10万人あたり2,5 人から7人の入院するケースがあり、幸いなことに死亡ケースは一年間で4から10件、1996年から2001年までです。これは少し低く見積もられている、という意見もありますので、少し補正ファクターをかけると、多分年間で25人くらいの死亡者が水痘ででていたのではないか、と思われます。比較的少ない数ではあります。予防接種を始めた理由は、全体の感染者の数を削減する、ということ。そして重症化と入院率を下げることです。そして、さらなる理由は、、これはとても興味深く感じるのですが、それは、経済的な理由です。疾患によって発生する負担を軽くする。看病のために休暇をとらなければいけなくなると、会社の負担にもなりますし、家族の負担も発生します。この点の論拠には当時かなり批判も出ていました。しかし、最終的にはSTIKOも、経済負担削減に効果的な介入、として点も推奨の理由として入れています。勿論、水痘の集団免疫を獲得する、という目的もありました。それは、ドイツよりも数年先に水痘ワクチンの推奨をだしたアメリカでもかなり良い結果が出ていましたし、ドイツでも良い結果が出ています。データは、いわゆる、ババリア・プロ、という研究にまとめられていて、2006から2011年までのワクチン効果の調査が行われていますが、接種率は60%ほど、予防接種の導入によって、67%の疾患の削減に成功しています。感染者数もそうですが、入院数も大幅に減っています。大体50%の削減です。目的は達成されました。当時の水痘感染者数、入院率などと、今回のコロナを比べると、そこまで大きな違いがあるわけではありません。

ロビン・コッベ ただ、接種率を60%以上までにするまでに、かなり時間はかかりましたよね。コロナではそこまでの時間をかけるわけにはいかないわけで。とにかく、先ほど指摘されていたように、重症化を防ぐ、という目的の他にも、社会的な活動を守るためにも、子供達の精神的な健康を守るためにも、必要なものだと考えます。

今と共通するところがありますね。「歴史は繰り返されるものではなく、韻を踏む」とはマーク・トウェインの名言ですが、、コッベ先生、先ほど、集団免疫、という言葉がでましたが、他のワクチンではそれは何を意味するのでしょうか? 例えば、ロタウィルスのワクチンも8年前に承認されました。HPVワクチンもそうだと思うのですが、どのようなところに重点が置かれているのでしょうか?

ロビン・コッベ 今あげられたワクチンよりも、例を上げるのであれば麻疹ワクチンのほうが適していると思います。こちらのほうでは、接種率が90%、と完全な集団免疫の域に達しています。その結果、ほとんど大きな感染流行は起こらず、発生したとしても小規模の未接種者のコミュニティ内です。これが、高い接種率を持って感染流行を阻止している良い例だと思います。ロタウィルスに関しては、ドイツ国内での目標は入院率を削減する、というところで個人の保護だけではなく経済的な面での効果です。HPVワクチンは、子宮頸がんの防止のためのものですが、ここでの集団免疫は、、大変困難で、それを達成しようとするならば、、かなりの接種率が必要になると思われます。どちらにしても、基礎免疫をしっかりとつくる、ということは大変重要なことで、これもコロナパンデミックにおいて世界規模で大きな問題となっていることでもあるのです。コロナを優先するばかりに他の基礎免疫獲得が疎かになってしまい、また麻疹の集団感染が起こったり、、多くの国で、何百万人もの子供たちの予防接種のタイミングが遅れる、という事態がおきています。これがパンデミックの影の被害です。ドイツでは、小児科が全力を尽くしてロックダウン中に予定されていた接種はその後に接種したのでそのような問題は幸い起こっていませんが、大きな問題となっている国は多くあります。

麻疹ワクチンの義務化に関しては、コロナパンデミック前に大きな議論となっていましたが、今の状況はどうなのでしょうか?

ロビン・コッベ 学校でワクチンパスポートを提出しなければいけなかったことがあったとは記憶しています。現在も病院ではそうです。ドイツでもヨーロッパでもかなり高い接種率であったのにもかかわらず、2018年に増え始め、2019年、コロナパンデミックの前にはいままでになかった位の数になっていました。その理由は、全体的な接種率が90%以上、95%でも、地域的に未接種者層があるコミュニティのなかに外部から持ち込まれた麻疹ウィルスでの集団感染が起こったのだと思われます。

周りを守る、という点をもう一度みていきたく思うのですが、先ほどのHPVワクチンは子宮頸がんを防止する効果がありますが、集団免疫、周りを守る、という点でも、男子のワクチンも必要ではないかと思います。自分を守る、ということは勿論のこと、女子や女性に感染させてしまうリスクを削減する、という面でもです。

その通りですね。

このワクチンはどのくらい男子に接種されているのでしょうか?

ゲオルク・ヒルデブラント 私は病院の勤務医で病棟での仕事が多く、外来診療はあまりしませんが、、男子とそのことについて話し合いをする場合にはほとんどの場合が納得して予防接種をしてくれます。とはいっても、小児科が子供とその保護者と関わりがあるのは、1歳児健診の頃です。それはこの年齢で予防接種をすることが多いからで、年齢が上がるにつれて小児科にはあまり来なくなります。ですから小児科医としてこの年齢層の男子に予防接種を勧めるなかなか難しい事ではあります。多分、接種率的には20%以下なのではないでしょうか。

ロビン・コッベ 接種率はそこまでなくても効果はある、というデータは出ています。やはり男子が感染をさせる側ですから予防接種は大変重要です。男性は症状がでたり、肛門がんや陰茎がんになることは大変稀ですが、感染を伝播してしまいます。これは別の対象グループを予防接種することによって二次的効果がでる、という興味深い例だと思います。

それは、コロナワクチンにも言える事だと思うのですが、直接的ではなくても、子供の予防接種は全体にも影響を与えるのではないでしょうか。子供のワクチン接種が全体に与える影響は一桁の域だ、と言われますが、5%の削減は例えば、1日の感染者を2500人減らす効果に繋がる、という試算もあります。死者数では、25人の削減です。

ゲオルク・ヒルデブラント ロタウィルスワクチンでもみられたことですが、年上の兄弟などにも間接的な効果があります。ロタワクチンを接種し始めてから、3歳、4歳の兄弟の感染性胃腸炎が劇的に減りました。水痘でも同様です。免疫疾患をもつ人、白血病で治療中の場合などは、周りが予防接種で水痘ウィルスが循環するのを防ぐ必要があるからです。コロナでは、周りを守るための目的ということはタブーで言ってはいけないことのように扱われてきましたが、他のワクチンでも周りを守り、全体での免疫をつくっていく、ということは社会全体にとってメリットのあることです。

ロタウィルスの場合は、一人が感染したら家族全員にうつってしまいます。ロタウィルスのワクチンでは、稀に起こる合併症が問題になっていました。腸重積ですが、ワクチンはこのように接種が始まってからも少し様子をみていく必要があるものなのでしょうか?

ゲオルク・ヒルデブラント 大変良い例だと思うのですが、これがフランスでワクチンの推奨が取り下げられてた理由でもあります。フランスのワクチン委員会は、リスクベネフィットのバランスが取れていない、という理由で推奨を取り消しました。ロタウィルスワクチンは生ワクチンですが、そのウィルスが腸のリンパの腫れを引き起こしその突起部分が腸管に引き込まれてしまう場合があります。最悪の場合には腸が閉塞状態になり大きな痛みを伴うものです。超音波検査をしながら治療をしますが、場合によっては手術が必要になる場合もあります。これも、多くの子供に接種を始めてからわかったことです。ただ、ロタウィルスワクチンの場合には、その前に出ていたワクチンでも同じ現象が起きていましたのでその点をはじめからよく観察されていたことは確かです。それでも、170万人の子供に接種されたなかで、343名に副反応がみられていますので、どのくらいの規模だったか、という理解はできるかと思います。治験を1500人の治験者で行ってもでてこないくらい稀な副反応というものはあるからです。今回の子供のコロナウィルスワクチンでのメリットは、アメリカで数週間前に接種が始まっている、というところです。しかも、大規模です。ロタウィルスワクチンの場合でも、接種してから何ヶ月も後で出てくる合併症ではなく、接種直後に起きているものですが、大規模な予防接種が行われなければこのような稀に起こるケースはわからないのです。

コロナワクチンについては、大規模な接種が世界規模で行われています。アメリカでは500万人の子供の接種がすでにされていますが、まだCDCからの公のデータは出てきていません。ただ、CDCの会見で、「特に何もみられない」という発言があっただけです。

ゲオルク・ヒルデブラント それはそうなのですが、発言のソースは信頼がおけるものなので。とはいっても、きちんとしたデータが出てくるのを待つ必要はあります。

コッベ先生、mRNAワクチンではかなり副反応にが取り沙汰されていますが、どうお考えでしょうか? 他のワクチンでも起こりうることもあると思うのですが、コロナワクチンでは注目されすぎているのでしょうか?

ロビン・コッベ 勿論これは新しいワクチン技術ですから、批判的になるのも慎重になるのもごく自然なことだと思います。しかし、世界中で接種されている規模で考えると、安全性とその効果については賞賛されるべきものだと思いますし、これは革新的な技術であり、革新的に新しい状況にも対応していけるものです。mRNAという技術は新しい変異株に適応することも可能です。他のワクチン技術では数ヶ月もかかることが短期間ですることができます。この革新的で新しい技術は、子供たちだけではなく私たち全員にとって恩恵をもたらすものだと感じます。

オミクロン株はどのくらいの危機だとお考えですか? 小さな子供たちの入院率が増加している、という南アフリカからのデータがありますが。

ロビン・コッベ 判断するにはまだ早すぎると思います。今朝、ツイッターで、イギリスでも小さい子供の感染者数も急増している、と発表されていましたが、まだ重症化はしていません。南アフリカでは、ほとんど全員が感染を経験していて、そのような場合には軽症であるようですが、、本当にまだ詳しいことはわからない状態です。データが揃うまで勿論もう少しかかりますが、やはり慎重に様子をみていき迅速に対応していくことが重要だと思います。パニックになって子供たちに予防接種をしまくる、というも間違っているでしょうが、後に引き延ばす、というのも正しくないでしょう。

まだ適応したワクチンは完成していませんが、、それでも子供の抗体応答が良ければ一部が免疫回避をしたとしても十分な効果を得られる、ということですね。

ロビン・コッベ そうだと良いのですが。まだデータが出ていないのでなんとも言えません。しかし、ブースター接種によって抗体、中和抗体が増え効果が増す、という結果が出ていますので、それと同じように、子供を今2回接種することによって得られる効果も十分であることが予測されます。

ヒルデブラント先生、最後に先生の現場に戻りたく思うのですが、先生はかなり長い間子供たちの予防接種、そのなかで、Off-label、適応外使用での予防接種もされてきています。これは、大人用のワクチンを薄めて子供に使うもので、まだ子供用のワクチンがない場合にされる方法です。批判もある方法ですが、先生が接種をされている理由は何なのでしょうか?

ゲオルク・ヒルデブラント mRNAワクチンの中身は、大人用も子供用も同じです。承認がおりてから需要が一気に高まりました。経験が豊富な小児科ではバイアルから0,1 mlの単位でワクチンを取り出すことは可能です。ラボで作業したりするときには普通のことですので。そのように微量での調整ができる場合には子供への予防接種をそのような方法ですることには全く問題はありません。例えば、アレルギー治療なのではもっと少ない量での接種も必要となってきますし、新生児を集中治療する際にもかなり細かい量での調整になりますから、小児科的には日常茶飯事のことだと言えます。そのような理由からこの方法に決断しましたが、勿論保護者にはOff-labelでの接種であることは伝えていましたが、今日、満面の笑みで薬剤師さんが子供用のワクチンを届けてくれました。スタッフ一同、思わず拍手喝采をしてしまったほどです。これで子供の予防接種に十分な数のワクチンが揃いました。喜ばしいことです。

今回のワクチンは緩衝液が異なるためにそこまで低温での保存はしなくても良いのですよね?それもメリットだと聞いていますが。

ゲオルク・ヒルデブラント 保存条件が改善されています。しかし、これは今回の子供のワクチン特有のものではなくて、これからつくられるバイオンテックのワクチンはすべてこの緩衝液になるということです。

先ほど、0,1mlという話がでましたが、接種の際にはそれでも少し薄めて接種される、ということですよね?

ゲオルク・ヒルデブラント その量でも接種はできますが、小児科医のなかにはそこに生理食塩水を少し加えて接種する医師もいます。つまり、0,2mlにして打つ、ということです。

5歳以下の子供を持つ保護者から、Off-labelでの接種は可能かどうか、という相談はあるのでしょうか?その年代の子供には大人の10分の1、ということを聞きましたが。

ゲオルク・ヒルデブラント そうですね。5歳から11歳までの場合と同様に相談は来ます。しかし、私は5歳以下に関しては今の時点では慎重に考えています。まず、治験が終わっていませんし、データも出ていません。ですから、その子供の状況とリスクを考慮しながら、ケースバイケースで対応しています。

具体的なアドバイスとして、接種後にはスポーツを控えるべきでしょうか?

ゲオルク・ヒルデブラント スポーツ禁止、は少し過大評価の域にある、と思っていて、つまり、接種後は2週間スポーツをしてはいけない、というがはっきりとしたエビデンスがないのにも関わらず一人歩きしてしまった。私たちは、接種後、2、3日安静にすることを勧めています。そしてその後の1週間は激しい運動、サッカーの大会とかそのようなレベルでのものを控えるように言っています。とはいっても、接種後にスポーツを控えることで何らかの影響がある、というエビデンスはありません。

ワクチンでは、インフルエンザワクチンも今年は重要になるかと思うのですが。

ゲオルク・ヒルデブラント ロベルト・コッホ研究所は、ブースター接種とインフルエンザワクチンを同じ日にすることが可能である、としています。特に子供に関しては、乳児には1日に7種類の予防接種をするわけですから、根本的に問題はなく、今、私のところに子供が予防接種をしにきて希望があればインフルエンザのワクチンも打ちます。今の高い感染状況で時間を無駄にはできません。

コッベ先生、それでも保護者のなかには、どんなに説明をしても、mRNAワクチンを信用できない、という人もいると思うのです。そのような人たちは、タンパク質ベースのワクチン、ノババックスを待つ、もしくは、不活化ワクチンを待つ、と言っていますが、先生的にはこれは代案ですか?

ロビン・コッベ 現在のシチュエーション的には代わりとなるものではありません。タンパク質ベースのワクチンに関しては、いくつかヨーロッパで承認申請されたものがあり、ノババックスが承認されるのも時間の問題だ、と聞いています。しかし、これはまずは大人用のワクチンです。子供の治験は計画中か初期の段階で、データが揃うまでにはまだ数ヶ月かかるでしょう。ですから、今の時点ではこのワクチンを待つ、という理由はありません。

今日はお時間をいただきありがとうございました。



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