ドイツ@Sars-CoV-2 コロナウィルスアップデート(114) 2022/6/17(和訳)

フランクフルト大学病院 ウィルス学教授、サンドラ・チーゼック
聞き手 ベーケ・シュールマン

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欧州疾病予防管理センターが、オミクロンの亜種である、BA.4と BA.5による感染拡大の警告をしてからまだ日が浅いわけですが、春の感染流行を乗り切った、と思ったのもつかの間、夏の感染蔓延が始まる傾向にあります。落ち着いた夏が来るのを皆願っていましたが、WHOは、BA.4と BA.5を懸念されるレベルに指定しました。この2つの亜種ではまだ不明な点もいくつかありますが、それについて話し合うべく、ポッドキャストを再開します。というのも、最終回で、何か新しい知見、状況の変化、新しい変異株の登場などがあれば、、今回は、新しい亜種、ということですが、、そのようなことが起こればまた始める、とお約束していたからです。 どうして、今また感染者数が増加しているのでしょうか。BA.4と BA.5との関係性はあるのでしょうか。今までに何がわかっているのでしょうか。今日はそのような点を取り上げていきたく思っています。今日は、フランクフルト大学病院 ウィルス学教授、サンドラ・チーゼック先生にお話を伺います。聞き手は、ベーケ・シュールマンです。

先ほども言ったように、感染者数がまた増えてきています。ずっと減少傾向にあったのにも関わらず、です。今週、夏に向けての感染蔓延、初夏の感染拡大警告を耳にした人も多いことと思うのですが、もう流行は始まっているのでしょうか?それとも、一時的な増加でまた落ち着く、ということも考えられますか?

そうですね。感染者数は増えてきていますが、もちろん2月、3月に比べるとまだ少ないです。そして比較をするのも難しいです。検査状況なども異なりますし、学校での広範囲での検査も行われていませんし、自宅でラピッドテストをして陽性であった場合PCR検査による確認をせずに自宅隔離をする人も増えていますから、、もちろん、そのような人たちは病院で勤務している人たちではありませんが、会社員であったり、リモートワークをしている場合などですね、、ですから、数の比較、ということを現在することは困難です。しかし、参考にできるデータとしては、ラボでの検査の陽性率が確実に上がってる、ということがあげられるでしょう。第23週では、43.5%、これは、35%からの増加で、その前の週は30%でした。PCR検査数は低いレベルをキープしていて、1週間で、50万、60万検査数、これは以前の1週間での検査数が200万以上だったことを考えるとかなり少ないことがわかると思います。ラボのキャパ的には、275万検査数分ということですから現時点での検査されている数がかなり少ないのです。全国の検査状況を詳しくみてみたのですが、陽性率も州によってかなりの差があります。現在のトップはシュレスヴィッヒ=ホルスタイン州で63、3%、ニーダーザクセン州で55%、その一方でベルリンは、14、5%です。ですが、どこの州でも、その前の週との比較で明らかな増加がみられます。病院内でのスタッフの欠勤も増えていますし、以前の週ごとの数が、現在の1日の数に近くなっていて、出張や会議、特にアメリカなどに言って陽性になって帰ってきた、という話もよく聞きますし、この間、フランクフルトで開催された市民マラソンには24000人もの人が参加していましたから、この影響もあるでしょうし、、いままで感染をま逃れていた人たちも感染してしまっている、という印象を受けます。これは私が受ける個人的な印象ではありますが、陽性率から想定される感染状況にも当てはまるものです。とはいっても、この間の流行時の状況とは比較はできません。従事者と患者を対象とした病院内のスクリーニングによって、感染状況の把握をすることが可能ですから、そこから何が原因なのか、ということは明らかなのです。今日はそれについて、、BA.4と BA.5についてお話しようと思っています。

BA.4と BA.5も感染拡大の原因の一つですが、この亜種は、ヨーロッパ、ドイツで急激に拡がっています。今日は、このオミクロンの亜種に焦点をあてていきたく思います。BA.4と BA.5ですが、、昨日のロベルト・コッホ研究所の報告では、BA.4が感染全体の4、2%、BA.5が23、7%の割合を占める、ということでした。

そうですね。もちろん、数には常にタイムラグがあり、この数値は第22週のもので、現在は第24週です 。ロベルト・コッホ研究所の数値からみると、大体週ごとに倍増していますから、第23週の時点でBA.4と BA.5の割合が56%ということは、もっと上がっているはずです。下水からの調査データをみてみると、、例えばノルトライン=ヴェストファーレン州、アーヘンの研究所、、私たちも以前から共同で研究を行なっていて、、様々な地域の下水分析を行なっているところですが、、

下水を調べることによって、感染状況の把握が大変よくできる、ということはこのポッドキャストでも取り上げたことがあります。

6月5日にとられたサンプル、第22週の最後ですね、、そこでの結果は、BA.4と BA.5の割合がすでに50%を超えていました。南ドイツの分析結果も、第22週で31%、第23週で50%です。多分、1、2週の遅延はあるとは思いますが、第22週と第23週で、BA.4と BA.5の割合がドイツ国内でも50%以上、優勢となったと言って良いと思われます。もちろん、地域での差がありますから、100%とは言えませんが。

分析結果は全国的なもの、と言えるのでしょうか。それとも、BA.4と BA.5がもっと全国的拡がっている可能性もある、ということなのでしょうか。

たしかに、もっと割合が低い地域はあるでしょう。しかし、ロベルト・コッホ研究所の発表する数値で大体間違いはなく、今週出てくる数値では確実に50%を越していると思われますし、どこの州でも増加傾向にある、という点では、状況は全国的に同じようなものであると思います。

現実的なBA.4と BA.5の拡大状況を把握するためには、ドイツ国内でのシークエンジングは十分ではない、ということでしょうか。

回答するのが難しい質問ですね。先ほどのロベルト・コッホ研究所のデータは、2022年に入ってから行われた検査の約2%のシークエンジングによるものです。かなり少ないですし、98%がされていない、ということを考えると、特に新しい変異株などを見落とす可能性が高いです。それでも、ある変異株が圧倒的に優勢になってきた場合には、2%のシークエンジングでも十分に把握はできるようで、というのも、ロベルト・コッホ研究所の数値と、私たちがアーヘンと共同で分析した下水からの数値とではそこまでの差がみられないからです。第22週に優勢になったのか、第23週なのか、、というところの違いは、今後の流れ的にはそこまで重要ではありません。医師としての立場からは、もう少しシークエンジングをしてもらいたい、とは思います。そこには別の理由もあって、、例えば、治療をする際に、どのモノクロナール抗体を使えば良いのか。変異株の種類によって使うものも、効能も変わってきます。変異PCRで検査する、という方法もありますが、現在は無料ではできませんし、今、私たちが免疫研究をしようとする際、大きな集団で調査をする場合に、例えば、 BA.1に感染にした後のBA.5に対する免疫はどうなのか。そのような場合には、もちろん治験者がどの変異株に感染したのか、ということを把握できていることが前提となるわけです。しかし、シークエンジングの割合が低く、対象となる人たちが、BA.1、BA.2、あるいはBA.5に感染したのか、ということがはっきりしないと、そのような研究のクオリティが下がりますし、大変困難なものとなるのです。これは私が個人的にとても残念に思っているところでもありますし、先ほども言ったように、新しい変異を見逃す可能性も大きいわけで、他のシークエンジング率が高い国に頼るしかない、ということになってしまいます。

ドイツのシークエンジング率は1月から下がった、ということですか?

これはどちらかと言えば、ラボのキャパ問題だった、と思います。オミクロンになってから、検査数が膨大な量になっていましたので。デルタ前とは比較にならない規模でした。ですから、規模的に困難だったと思うのです。もちろん、今は、別のシチュエーションですが、、感染状況が酷かった時には、優先順位として通常のPCRのほうが高かった、ということです。私は変異PCRの実施は重要だと思います。こちらは低価格で変異株の特定、BA.1なのか、BA.5なのか、という点を明らかにすることができますし、シークエンジングをするよりもずっと速いです。

どうして、そこまで頻繁に変異PCRでの検査が行われないのでしょうか?

無料ではないから、、ではないでしょうか、、たしか、2月で補助金が打ち切られた、と思います。研究所が自己負担で検査が行えない、というのは経済面でみても当然のことです。それは公共の研究所であっても、民間のラボでも同じで、費用の請求ができない、ということになれば検査の規模も小さくなります。研究目的、とかそのようなものに限られますし、そこでも、優先順位、というものがありますから、限られた研究費のなかからどこにどれだけだせるか、というところは常に難しいところでもありますし、お金を変異PCRにかけるのか、それとも別の研究に使うのか、、これが数が減った理由です。

先ほど、どの種類に感染したのか、、BA.2、BA.4、BA.5だったのか、ということは、感染した本人にとっても重要なことだ、ということでしたが、ほとんどの感染が、BA.5によるものになるには、あと3週間くらいかかる、ということになりますか?

うーん、BA.4も増えてきていますから、BA.5だけになる、ということは断言できません。そもそも、100%BA.5になる、ということはありませんし、これから、BA.4とBA.5がお互いにどのようなパワーバランスになっていくのか、ということは今後観察していくしかないでしょう。現時点では、どちらに感染するか、という可能性的には五分五分だと思います。先ほども言ったように、BA.4も増えていますので。

11月末にも似たようなシチュエーション、、当時はオミクロン、つまりBA.1が出てきて、先生もフランクフルトの空港での調査に参加されていましたが、あの時にはオミクロン自体の拡大を阻止できるかどうか、という点が問題でした。しかし、今の亜種問題は全く別です。ポルトガルで、BA.4とBA.5が爆発的に拡大した時にも、そこまでの危機感はありませんでした。これは、これらを単なる亜種、として認識しているからなのか、それとも、BA.1からの教訓で、どちらにしても避けることができない、という認識なのでしょうか? 人々の移動性もパンデミック以前に戻っている、ということもありますし。

私は両方正しい、と思います。まず第一に、BA.4とBA.5がオミクロンの亜種である、ということ。オミクロンが発見された当時は、オミクロン、というもの自体が全く新しい変異株であった、というところと、南アフリカで莫大な数の感染を引き起こしていた、ということから大変大きな懸念があったわけです。病毒性に関してもわかっていませんでしたし、デルタと比較しても違う点が大変多く、ワクチンを打っていても、感染を経験した場合でも感染する、というところで、慎重にならざる得なかったのです。しかし、飛行機での移動が容易なグローバルな時代に、特定の変異株をシャットダウンする、ということは不可能に近いことは明らかです。オミクロンの際にも困難だったのは、人々が常に直行便で入ってくる、というわけではないからです。アフリカから直で到着した人たちは全員調べましたが、、これだけでも膨大な量でした、、しかし、例えば、パリやアムステルダム、というようなハブ空港で乗り換えてきた人たちは、その人たちが自主的に検査に協力しないかぎり見逃されますし、単純に搭乗者の数があまりにも多すぎて制御することは不可能だったのです。BA.5に関しては、、後の祭り、、というか、ポルトガルから入るにしても、飛行機だけではなくて、列車という手段もあるでしょうし、車でも移動できます。ここでのチェックはできません。唯一できることは、人々が申請したり、自主隔離をしたりなどして協力することでしょうけれど、、長い目でみて完全に阻止する、ということは非現実的です。

市販されているラピッドテストは、BA.4とBA.5にきちんと反応するのでしょうか?何かわかっていることはありますか?

そうですね、少なくとも、反応がでない、という報告は耳にしません。私の周りでも、ラピッドで反応がなく、PCRだけで陽性反応がでる、というケースはいまのところありません。しかし、実際には、その感染がBA.4によるものなのか、ということがその時点でははっきりしないわけで、検査結果がでる2週間後には、もちろんラピッドテストは陰性なわけで、、ともかく、反応が出ない、という話は聞きません。しかし、先ほども言ったように、今は変異の特定が容易にはできないので、はっきりしたことはわかりません。

BA.4とBA.5はひとまとめにされることが多いですが、これはこの2つが似ているから、なのでしょうか?それとも、BA.5が主流になって、BA.4はそもそも重要ではなくなるから、というような理由からでしょうか?

BA.4とBA.5の割合がこれからどうなっていくか、ということはまだ不明ですが、たしかに、BA.4とBA.5のゲノムの変異部は似通っています。違いは、イン・ビトロのレベルですし、性質的には似ているのと問題点も似ているのでひとくくりにされることが多いと思います。

この亜種のウィルスとして性質をみていきたく思います。3つほど、不明な点があって、それは、まずは伝播性、つまり感染力はアップしたのか、というところと、免疫回避、BA.4とBA.5はワクチンや感染回復後の免疫を回避することができるのか、そして、病毒性、重症度は上がったのかどうか、というところです。この3つの点についてこれから順にお伺いしていきます。まずは感染力からです。よく、この亜種は感染力が強くなっている、と聞きます。これは、全体の感染者数が少ないのにも関わらず、毎週倍増している、という感染状況からの印象だと思うのですが、ポルトガルでも発生指数が2000代まで上がっていました。やはり、BA.5はその点の適応性においての利点を持つ、と言えるのでしょうか?

言えることは、BA.5とBA.4が、いままでのBA.2に比べて、明確な増殖面でのメリットを持っている、ということです。徐々に優勢になってきている理由の一つに、スパイクタンパク質のポジション452の変異があげられますが、これは以前にもあった変異です。ここの変異は、BA.1とBA.2にはありませんが、デルタにはあり、オミクロンの前に重要だった部分です。研究論文からわかっていることは、この部分の変異、ポジション452の変異がウィルスの感染性を高める役割をする、ということ。そして、別の論文では、スパイクタンパク質の分裂を促し、融合活性を高める、ともあります。これは、感染した細胞の融合の度合いが高くなる、ということで、さらに肺細胞への感染がみられます。オミクロンの初期の変異株、BA.1とBA.2では、どちらかというと上気道への感染で、肺まではあまりいきませんでしたが、この変異によってこの点の変化もある、ということです。しかし、今、このBA.5の病原性がアルファや野生型と比べてどうか、という点に関しては、比較はどんどん難しくなっています。というのも、集団も変化している、つまり、私たちの免疫状況も大きく変わってきているわけで、これは、はじめの全く未熟で全くウィルスとの接触がなくワクチン接種もしていない集団とは比較になりません。ですから、比較は、一つ前に優勢だった変異株とするほうがよく、つまり、BA.2とBA.5を比較するほうが、BA.5とアルファを比べるよりも適している、ということです。

免疫的な保護効果に関してはどうなのでしょうか? ワクチン、およびに感染による免疫の効果はあるのでしょうか?

BA.5でもう一つ言っておかなければいけないことは、ポジション486 の変異と493が、より強い免疫回避をする、という知見が出ていることです。これは、感染拡大にも重要な点で、というのも、それによって、ワクチンを接種している人も、感染から回復した人も感染する可能性が増えますから、感染対象が大幅が広がります。それによって感染者数が増えることは当然です。この変異株の増殖メリットは、この免疫回避によるものであろう、と思われ、いまのところ、最新のデータからは、BA.1、これは、1月、2月に循環していた変異株ですが、、それに感染した場合には、BA.4とBA.5に対する十分な抗体ができていない、という傾向があり、そうなると、BA.1に感染した人の数は多いですから、感染の可能性のある層は必然的に広くなる、ということなのです。

それは、感染から時間がたっている、ということが原因なのか、それとも、BA.1がBA.2とは違ったからなのでしょうか?

時間の問題だけではない、と言えます。BA.1による感染から4週間後に、BA.4とBA.5に対する中和抗体の量をみてみると、他の変異株に対する中和抗体よりも明らかに少ないです。もちろん、時間も関係はします。中和抗体、というものは、週ごとに減り数ヶ月かけてなくなっていきますから、スタート地点が少ない、となればさらに減っていって最終的には保護効果が全くなくなる、ということです。

では、4月や5月にBA.2に感染した人たちの場合はどうなのでしょうか?BA.4とBA.5による再感染への保護効果はありますか?

そのデータを今だしているところです。そのためには、感染から数週間経つのを待ってから採血して実験を行わなければいけませんので、、少し時間は有しますが、今、バイオンテックと共同で行なっています。まずはモデリングがあがってきたところですが、そこからは、BA.2の感染からの保護効果はやはり他の変異株と比較すると低いものの、BA.1の時よりは高い傾向がみられます。もちろん、これはまだラフなデータ結果で、明確なデータを出すためにはもう少し時間の経った感染回復者からのデータが集まらなければいけないのですが、どちらにしても、他の変異株と比較できるような数値ではない、ということは明らかです。

感染が爆発したポルトガルに目を向けたく思うのですが、多分ポルトガルでは冬にBA.1の感染の波がドイツよりも少し早めに起こっていた、と思われます。ドイツでは、春にBA.2による感染が多くありましたが、これによって夏の感染流行を抑圧することは可能なのでしょうか?

そうかもしれない、とは思いますが、もちろんこれは憶測ですし、理論的な話です。それは、病毒性に関しても同じです。いまのところ、BA.2感染のほうが、BA.1感染よりも、BA.4とBA.5に対する保護効果がある可能性が強く、時間的なもの、、(BA.2の)感染からまだあまり時間が経っていない、ということもあってポルトガルのような感染状況にはならない可能性はあります。とはいっても、これは理論的な考察です。根拠と証拠はありません。

3回のワクチン接種とBA.1かBA.2による感染、というコンビネーションではどうでしょうか?

それに関しても、様々な論文でデータが出ていて、今のところBA.4やBA.5の感染を阻止する為の十分な中和抗体が計測できない、という結果ですが、まだ最新のデータが出揃っていません。これは、多分、一般の方にとっては理解するのが難しいことである、と思いますので言っておきたいのですが、、このようなことを調査するのがどんどん困難になっている理由は、ワクチンの接種頻度やコンビネーションが複数存在する、ということです。2回の接種、3回の接種している人もいれば、4回目の接種を終えている人もいますし、ワクチンの種類も異なり、RNAワクチンだけの人もいれば、ベクターワクチンの人もいるわけで、それに加えて、どの変異株に感染したのか。それもわからないケースがほとんどでしょう。このような状況では、純度の高いデータを集めることは大変困難なのです。これが、様々な論文でデータは少しずつ違う理由でもあります。ワクチンの接種回数、接種と接種の長さ、感染した変異株の種類、治験者の年齢も勿論結果に影響を与えます。BA.5の免疫回避は高いですから、2回、3回の接種を終えていても感染の可能性はあります。BA.5に関しては、感染はワクチンではなかなか阻止することはできない、と言えると思います。勿論、重症化を防ぐ効果はあるわけですから、ここは大変重要なポイントです。このポッドキャストでも何度もお話したことですが、この点をしっかりと区別して考えることが重要です。重症化を防ぐ効果、特にT細胞の応答が決めてとなりますが、これは変異株ごとに変化する抗体応答とは違い、そこまで変わらない部分でもあります。ですから、十分な準備をする、という意味でも、ワクチンの接種を完全にすること。そして、情報を集めながら、今後のワクチンの再接種が自分に必要であるのかどうか、決めていく必要があると思います。ハイリスクに属するのであればそれはさらに推奨されるところです。

ワクチンですが、いくつかの製薬会社から、変異株に対応したワクチンがでる、と言われていますが、まだ治験は終わっていません。しかも、対応されているのはBA.1、ということで、BA.2やBA.4、BA.5には対応していないのですが、今、高齢者やハイリスクの人たちは、2回目のブースターを現時点であるワクチンでするのが良いのか、それとも対応ワクチンを待ったほうが良いのか、という選択をしなければいけないと思うのです。どのようにするのが好ましいとお考えでしょうか?

STIKOから出ている推奨は明確で、成人、12歳以上に関しては、基礎ワクチン2回と、1回のブースター接種で計3回のワクチン接種で完全とするもの、としています。70歳以上では、さらに1回のブースター、計4回が推奨されていて、その他のなんらかの免疫の問題を抱える場合、例えば、免疫を抑圧する薬の服用によるものであったり、そのような場合には子供でも4回の接種が推奨されています。コロナ病棟で勤務していたり、癌病棟のように免疫が弱っている患者と接触する場合にも、2回目のブースター接種が推奨されています。私は、特に高齢者と免疫不全者はこの推奨通りに接種したほうが、いつ出てくるかわからない新しいワクチンが出てくるのを待つよりも良いと考えます。そのワクチンの効果もまだわからないわけですし。その他の70歳以下の健康体で、病院で勤務していない場合には、STIKOの推奨では、ブースターは1回、つまり計3回で良い、ということです。2回目のブースターのデータはまだ出ていませんが、これはこれからもずっとこの推奨のまま行く、ということを意味するものでもありません。この辺りを誤解する人も多いのですが、たしかに、この夏には、健康な30歳は4回目の接種は必要ありません。しかし、秋になって新しいワクチンが出てきたり、感染状況が大変悪くなったり、全体の免疫がかなり下がってきたりした場合には変わってくる可能性は勿論あります。そうなれば、成人全体を対象とした4回目の接種の推奨もでてくるかもしれませんし。私の推奨は、STIKOの推奨と同じですが、ただ、50歳、60歳で重度の基礎疾患を持つ場合、、例えば、重度の肺疾患であったり、慢性気管支炎、循環器の疾患などがある場合には2回目のブースターをしたほうが良いのではないか、と思います。しかし、基本的にはSTIKOが推奨通りにするのが良いでしょう。

今日はワクチンについてはこの辺りにして、また次回のポッドキャストで取り上げたく思います。BA.4、BA.5の病毒性についてはまだはっきりとしません。欧州疾病予防管理センターは5月に、この変異株の危険性を警告しました。南アフリカでの流行はそこまで大きなものとはならなかったのと、比較的軽い疾患経過でした。しかし、ポルトガルでは全く状況が異なり、死亡者数の増加がみられています。これらの新しい亜種はやはり強くなっている、ということなのでしょうか?これは、細胞への新しい侵入手段を手に入れたからなのか、それとも感染者数が多くなると必然的に死亡者数も増える、ということなのでしょうか?

その点に関しては、まだなんとも言えないところだと思います。まだデータが出揃っていません。ポルトガルで死者数が増加した理由としては、多くの高齢者の場合に3回目の接種からかなり時間が経っていた、ということ。そしてまだ4回目の接種を行なっていなかった、ということもあると思われます。外国の状況を外から理解するのは大変難しいですし、ポルトガルでの死者数のカウントの仕方も私はわかりません。そして、今回の死者数もデルタで出た死者数とは比較になりませんが、私は、多分、BA.5で病毒性はまた上がったのではないか、と思っています。勿論、まだ確定はしていませんが、これは先ほども少し説明したように、BA.1が、エンドソームで細胞に侵入するのに対して、BA.5はまた受容体、TMPRのほうで行われる、という理由から、肺細胞への感染につながる可能性が高いです。この可能性はありますし、科学的な考察からも、ここに病毒性の強化がみられる、というのは十分根拠があるものし、融合活性度、つまり、より多くの細胞が融合する、、というに関しても同様です。とはいっても、先ほども言ったように、比較することは大変困難で、、例えば、BA.5の病毒性はアルファ並みだ、などという比較を患者のデータなどから取ることは不可能で、集団の免疫レベルも全く異なりますし、これはりんごと梨を比べるようなものです。全くワクチンを接種していない人と、何度も接種している、もしくは感染から回復した人がいるなかで、調査をするのは容易ではありません。とりあえず、理論的な面からみて、この変異からより高い病毒性がある、ということは大いにあり得ることではありますが、それはどの程度の増加であるか、という点に関しては、まだ不明な点が多いです。

様々なファクターが関係してくることですね。まとめると、BA.4とBA.5が優勢になってきている、ということと、感染力はアップしている、ということと、免疫を回避する能力が高い、そして、より重度の症状につながるかどうか、という点ではまだはっきりとはわからない、と。

そうですね。重症度に関しては、今の状況下においてすでに存在する免疫レベルでどうなのか、ということはまだわかりませんし、ひどくないことを祈ります。

ドイツ国内での感染の増加は、BA.4とBA.5のせいだけではなく、別のファクターも関係していて、先ほども出たように、検査のキャパもありますし、検査数も問題もあります。他にも何が感染の増加に影響を与えているのでしょうか?夏効果が現れるを期待していましたが、残念ながらそれはないようですね、

全くないか、というとそうではないと思います。この前の流行時にくらべると、集中治療病床もそこまでうまっていませんし、夏の季節以外にBA.5が来ていたら、もっと大きな流行に繋がっていたことでしょう。季節的なメリットはあることにはあるのですが、それだけでBA.5の拡大にブレーキをかけることができるか、というところでは残念ながら十分ではなく、対策も解除された今、感染拡大を阻止する術がない、という状況です。そのような理由からBA.5が増えている、ということですが、これからも増え続けてマックスまで拡大するでしょう。これは秋に起こったならばもっと増えている、と思われますので、今後、秋冬にも気をつけなければいけません。

どのように対処していくべきなのでしょうか? 対策で残っているのは、公共交通機関でのマスク義務だけです。なんらかの対策は必要になってくる、とお考えですか?それとも、集団の免疫レベルはこの流行、、これから流行の波に発展する、と仮定して、ですが、、これを乗り越えるだけのレベルに達しているのでしょうか。そして、保護効果は十分で対策する必要はない、と。

難しい質問ですね、、医療に負担をかけないようにするための対策、ということであれば、そこまで厳しい対策をしていく必要性はない、とは思います。その状態からは今は程遠いですし、今現在、コロナで集中治療室にいる患者の数はロベルト・コッホ研究所によると、700名ほど、668名だということですが、例えば、11月では5000人弱でしたから、それに比べると大きな違いです。これが問題なのではありません。問題は、どちらかといえば、経済的な問題で、何週間も病欠する人の数が多くなる、しかも同時に欠勤してしまうと、さまざまなところに皺寄せがきます。私の職場で考えても、欠勤人数が増えると、検査も通常通りの速さで行うことができなくなりますし、検査は毎日、かなりの数をこなしていかなければいけませんので、これは問題です。感染から身を守る、という点に関しては、するべきことはこの二年間変わっていません。

これから 新しい変異株が出続け、ずっとこのように続いていくのでしょうか。ドロステン先生も仰っていましたが、これから、誰もが何回か感染を経験して免疫レベルを上げていくことによって、粘膜抗体などの保護を習得し、コロナが鼻風邪レベルになる、と。しかし、免疫回避をする変異株、亜種などがでてくることによって、この状況も変化してきています。 感染をしても、その後に出てくる変異株への保護効果は得られません。全体の免疫から離れていっている、ということを考えても、何度も感染する、ということはどちらかといえば害があることではないでしょうか?Long Covidのリスクという視点からも。

勿論、これからどうなっていくのか、ということは大変大きな問いです。正直なところ、これに答えられる人はいないでしょう。満足のいく答えになっていないことはわかっています。数ヶ月前に、さまざまな人が、これから変異株ごとにどんどん軽くなっていく、と言っていました。私は、必然的にそのようになっていくものだとは考えていなくて、変異株というものは偶然に出来てくるものだと思っています。そして、今、実際にそのようになっていますが、それでも、全体的なシチュエーションはどんどん改善しているのです。ワクチンがあり、抗ウィルス剤があり、モノクロナール抗体があります。新しい変異株の病毒性が少しBA.1よりも高くなったとしても、つまり、BA.5がそのような傾向にある、となったとしても、2年前のような酷い状況にはなりません。しかし、その後に何が現れるか、ということは誰にもわかりません。ただ、一つ言えることは、モデリングでも予測されているように、このウィルスがここまで頻繁に変異せずに落ち着くまでにはまだまだしばらくかかる、ということです。そして、これは大変重要なポイントだと思いますので、これからちょくちょく取り上げていかなければいけないテーマだと思うのですが、、新しい変異株が出てきた際にその都度対応したワクチンが必要になってくる、ということです。多分、インフルエンザと似たような感じで、毎年、どのタイプが流行ることになるか、ということをみながら、ポリバレントワクチン、いくつかのワクチンが一つになったものが出てくる、と思われます。

ワクチンを毎年新しくゼロから承認しなくても良いように、ということですね。承認されたワクチンをアップデートしていく、という

そうです。勿論、アップデートの承認には何が必要なのか、ということを定めていくのが承認機関の仕事でもあります。つまり、毎回完全な治験をする必要があるのか、というようなことですが、もしそのようなことを半年、9ヶ月の間することになると、そのうちに新しい変異株が2つ、3つ出てくる、ということもあり得えます。対応する作業は数週間でできることのようですが、常に数歩後を追いかけていかなくても良いようにするにはどうすれば良いか、という点でのディスカッションをしていく必要があると思います。ワクチンと治療薬によってコロナで重症化する数はかなり削減されました。しかし、Long Covidのような軽くみてはいけないリスクがあるわけで、このまだまだ不明な部分が多く治療も十分にできない疾患のリスクについてはまだ十分に話し合われていないと思います。ですから、各自が感染、再感染を防止する、ということは大変重要です、特に、感染者数が高い時には特に注意が必要ですし、先ほども言ったように、自分の接種状況と最新の推奨を照らし合わせながら選択していくべきで、ブースターをまだ接種していないひとは接種した方が良いですし、マスクも空調管理がされていない密室では自主的に着用したほうが良いです。感染が蔓延している時には、感染防止のためにも行動に十分気をつけなければいけません。

最後にもう一つ違うテーマでお伺いしたいことがあるのですが、先生は2つの分野のエキスパートで、ウィルス学の教授、というだけではなくて、消化器専門医であり、肝炎の専門家でいらっしゃいます。2月にイギリスの保健機関が子供における不自然な急性肝炎の増加を報告しました。その後に他の国でもみつかり、6月初めには、ヨーロッパで400名ほどの子供、生後数ヶ月から16歳までの子供が罹患していますが、まずは、急性肝炎とは何なのか、というところから始めたく思います。これは肝臓の炎症ですが、何が起こるのでしょうか?

肝炎とは、まずは肝臓、もしくは肝細胞の炎症です。症状の重度にはかなりのばらつきがあり、肝炎のなかにもほとんど無症状で自覚症状はなく検査によって肝臓の数値の悪化が認められるものもあれば、重度の肝炎で肝不全を引き起こすものもあります。この場合には、臓器全体が壊れ、機能しなくなります。肝細胞が侵され破壊されると、さまざまな酵素が放出されますが、これがGOTとGPTです。血液検査の際に医師から言われた人もいるか、と思いますが、この数値が高くなります。ダメージがあるレベルを越してしまうと、、つまり、肝臓の細胞の多くが破壊されてしまうと、肝臓の機能に影響がでるのです。 肝臓はどのような役割をする臓器なのでしょうか。それを理解するためには、まずは、この臓器が毒素を分解する機能を持つ、という説明からしたほうが良いと思います。毒の成分が無害なものに分解されて排出されます。アンモニア、がその例です。体内のアンモニアは、尿素に変換されて無毒化されます。アルコールなどでも同じです。ご存知の方も多いと思いますが、これも体にとっては毒ですから、肝臓で分解され排出されます。肝臓に重度の炎症が起こっていると、このような肝臓の機能を維持することができなくなってきますから、毒を分解できなくなって、先ほど例にあげたアンモニアなどが体内で増えてしまい、これは濃度にもよりますが、最悪の場合には意識不明になり死に至ります。肝臓は新陳代謝をおこなる臓器でもあります。つまり、細胞のなかに様々な成分、糖、脂肪、タンパク質やビタミンを貯蔵するということです。その他にも、凝固因子の生成も行われ、これは血液の凝固に重要ですが、例えば、怪我をしたりして出血量が多くなった場合に出血を止める為には凝固作用が重要になってきます。これに必要な成分が大量に肝臓でつくられていますので、この機能がダメージによって低下してしまうと、突然の出血につながったりします。血液凝固にかかる時間を検査した際に数値でわかることですが、最悪の場合には、大量出血になったり、失血死にいたることもあります。さらに、肝臓ではアルブミン、という成分がつくられ、これは血中で脂肪やホルモンを運ぶ働きをするタンパク質で、これが十分に形成されないと、いわゆる血小板内の膠質浸透圧が下がり、血管内に水分を保持できなくなります。これによって、浮腫、胸水が生じます。体に水が溜まる、ということです。重度の急性肝炎の際に初めに出てくる症状しては、眼球や肌が黄みを帯びる、いわゆる黄疸です。この黄染はビリルビンによるもので、この色素は赤血球の分解産物でもあり、解毒作用にも重要な役割を果たすものです。通常時には、排便や排尿の際に排出されますが、肝機能が低下している場合には、この分解作業が困難になり、眼球や皮膚にビリルビンが蓄積してしまいます。これらが肝不全患者の典型的な症状で、白目の部分が黄色くなり、さらに進行すると皮膚全体が黄色くなります。

子供の急性肝炎の原因として、何が考えられるのでしょうか?

さまざまな理由があります。これは子供だけではなくて、大人でも同じですが、多くの理由を一つずつ調べていく必要があります。広範囲の診断が必要になる、ということです。例えば、代謝性疾患、ウィルソン病や鉄過剰症、ヘモクロマトーシスというものを聞いたことがある方もいるかと思います。これらの疾患では、成分が体内に蓄積されて肝臓にダメージを与えます。後は、肝臓の自己免疫疾患がありますが、自己免疫疾患に関しては何度もこの場でとりあげてきましたが、体が自分の組織を攻撃してしまう疾患です。肝臓学は大変広範囲に渡る病理学分野ですが、このような自己免疫疾患は子供にもみられます。さらに、ドラッグ、アルコールなどの毒素も重要な要因ですし、薬の成分、例えば、パラセタモールなどは肝臓毒素です。その他にも、シロタマゴテングダケの毒も急性肝不全を引き起こす毒素で、ドイツでも、素人が秋に山でキノコを取りにいき誤って食べてしまって急性冠不全に至るケースが毎年あります。東ヨーロッパに似たような食用キノコがあるために間違ってしまうようで、毎年キノコシーズンになると、肝不全になる人が出るのです。それから勿論ウィルス性疾患があげられます。有名なものは、ヘルペスウィルスで、種類は、A型、B型、C型、 D型、E型です。これらは全て肝炎を引き起こす可能性がありますが、他のヘルペスウィルスの種類でも同様で、忘れがちなのは、サイトメガロウイルスCMVや、EBVエプスタイン・バールウィルスです。これらのウィルスも典型的な肝炎の原因になり、特に子供ケースが多いのは、子供の頃に一番初めの感染を経験するからです。稀なケースとしては、肝臓血管の血栓症でバット・キアリ症候群というものですが、これは特別なもので頻度は高くありません。肝臓学というのは本当に大変な分野です。患者から大量の血を取って、数多くの検査をしても、何が原因なのか、ということを探し出すのは容易ではありません。私が患者に言うのは、肝炎、というものは、ひき逃げ、のようなものである、と。つまり、肝炎が起こった時点ではもうすでに、何が肝炎や肝不全を引き起こしたのか、ということを検証できなく、免疫応答によって引き起こされた結果肝臓にダメージが起こっています。肝臓の細胞を調べることによって原因がわかる場合もありますが。

先ほどの子供の肝炎でも、他のウィルス疾患とのコンビネーションで引き起こされた可能性はある、ということです。アデノウィルス、ということが挙げられていますが、検証はされていません。これが原因である可能性はあるのでしょうか?

難しいですね。この仮説には肯定的な論拠と批評的な論拠の両方があります。肯定的なものとしては、肝炎と同時にアデノウィルスが検出された子供が大勢いた、ということ。明確な数が発表されていますが、かなりの数です。しかし、同じ期間内で肝炎がなかったとして、どのくらいの人数で検出されたであろうか、という点は不明です。つまり、比較対象がない、ということです。批評的なものとしては、少なくとも、直接な原因、つまり肝臓部におけるものですが、肝臓移植に至った子供たちの肝臓から肝生検したところ、そこからはアデノウィルスは検出されなかった。そうであれば、アデノウィルスが直接肝臓にダメージを与える、という点では疑問が出るところです。たしかに、アデノウィルスが重度の肝炎を引き起こし肝不全につながる、という症例はあります。しかしこれはどちらかと言えば、レアなケースであって、基本的にはアデノウィルス感染からの肝炎や肝不全は報告されませんから、現時点のリポートをみるかぎり、これは免疫系の肝障害なのではないか、と思われます。つまり、ウィルスが直接引き起こしたものではなくて、ウィルスへの免疫応答、ウィルス全般、という意味ですが、、それに対する応答が肝臓でおこり、肝障害につながる、と。これは様々なウィルスでみられることで、特にアデノウィルスだけに起こることではありません。複数のウィルスの感染によるものである可能性もあります。つまり、SARS-CoV-2と別のウィルスの感染です。報告事例内のなかには、様々なウィルスが同時に検出されていて、例えば、ノロウィルス、これは下痢嘔吐疾患ですが、SARS-CoV-2と別のウィルスのコンビネーション、SARS-CoV-2とアデノウィルスなどに同時に感染することによって、肝臓を攻撃するような免疫応答が起こってしまう。私が疑問に思う点は、どうして地域的な違いがあるか、というところです。ドイツではほとんどみつかっていませんが、イギリスではかなりの数です。ここで言っておかなければいけないのは、子供の急性肝炎は珍しいことではない、ということです。通常は全くそのようなことは起こらない、ということではなくて、常に一定数存在し、ただ、何が原因なのかを突き止めることができないケースが多い。つまり、ひき逃げケースが多いのです。ここでの問いは、「去年に比べて圧倒的に増加したのか」というところですが、イギリスでは明らかな増加がみられていて、ドイツでは幸いなことに増加してはいません。罹患した子供たちはほとんど5歳以下で、どうしてこの年齢層の子供なのか。どうしてそれ以上の子供たちにはみられないのか。5歳以下に限られる理由もわかっていません。ワクチンのせいだ、という言う人もいますが、この年齢層の子供たちはワクチン接種はしていません。ですから、原因はまだ明らかになっていないのです。ここで重要なのは、早合点して決めつけて「木をみて森を見ず」になってはいけない、ということです。「アデノウィルスだ!」「コロナのせいだ!」と決めつけてしまうと、本当の問題点、実際の原因を見逃すことになり、良いことはありません。

SARS-CoV-2が原因の可能性がある、と議論されていますが、イスラエルから、子供の肝炎に関する論文が発表されました。これはメディア、ソーシャルメディアで取り上げられ注目されていますが、論文のタイトルも、「Long Covid」、このなかでは、子供の肝臓と胆管の障害の5ケースは取り上げられていて、全員、Covid-19感染が確認されていた、ということです。この2年間の間、ポッドキャストを通じて学んだことは、調査数がすくない場合にはまずは疑ってかかるべき、ということですよね?

そうですね。でも、それだけではありません。この論文に目を通してみましたが、これは論文、というよりは、ケースレポートに近いものである、と言えると思います。5名によるケースからのデータはスタンダード化されておらず、簡単な臨床経過をまとめたものです。数の少なさも言うまでもありませんね。5名、というのは明らかに少ないです。さらに、このグループが均一なものではない、という問題点もあります。このなかには、2名の乳児、生後3ヶ月と生後5ヶ月が含まれ、それと同時に13歳の子供もいますから、それを同じグループにする、ということは、子供の肝障害は年齢によって様々な異なる側面を持っている、ということを考慮しても、少し無理があります。加えて、これは2020年と2021年のケースですから、先ほども言ったように、これが通常の範囲であるのかどうか、という点も明らかではありません。イギリスとの比較もできませんし、イギリスでは5歳以下、ほとんどが2歳から3歳の子供なので、このイスラエルの報告では生後3ヶ月と5ヶ月の乳児、8歳児、13歳、と明らかに5歳以上も含まれます。さらに、病院も違う病院で、乳児は肝臓移植、大きな子供たちはステロイドです。加えて、時間的な違いもあります。子供のなかには、肝炎とコロナ感染が同時だったケースもあれば、4ヶ月、4ヶ月以上経ってからのケースもありますので、このような違いがあるなかで、本当に同じ病理メカニズムとしてよいのかどうか。この論文で一番気になるところは、この2名の乳児で、SARS-CoV-2に対するIgG抗体が検出された、と。これはこのなかに明記されていることですが、これがスパイクなのか、それともヌクレオカプシド抗体なのか。この辺りも不明です。ヌクレオカプシドは感染から回復時に、スパイクはワクチン接種後に検証されるものですが、、「乳児はワクチンを打っていないではないか」とおっしゃるでしょうね。しかし、母親がワクチン接種をして、授乳した可能性はあります。母体免疫です。もしかしたら、母親が感染経験があったか、ワクチン接種をしていて乳児が母体免疫を持っていた可能性もありますが、この点が明らかにされていませんしディスカッションにもなっていません。ウィルス学的な検査も後ろ向き調査ですから、均一ではありません。例えば、特に大きな子供たちでのE型感染の検査が行われていません。E型肝炎でも稀ではありますが、重度の肝障害が引き起こされることもありますし、鉄過剰症もここでは確認すらされていません。全体的にみると、難があるケースの集合体であり、重要な問題点の解決となるものではありません。正直なところ、タイトルも誤解をうむものだと感じます。これは、掲載の前の段階で、ジャーナル側から「この論文からはSARS-CoV-2感染と肝炎の関係性は明らかにはならないので、タイトルを変えて欲しい」と申し出るべきだったと思います。これは、無理やりこじつけたような内容で、この5つのケースがどうして選ばれたのか、という説明もされていません。この5件しか、18歳、16歳以下の肝炎のケースがなかったのか、それとも、SARS-CoV-2抗体を検出できたケースがこれだったのか。1年間での子供の肝炎のケース数はどのくらいなのか、ということすら、ここでは明記されていませんから、内容は、このタイトル、「Long Covid Liver Manifestation in Children」にあるようなものではなく誤解を招くものだと思います。勿論、このようなケースがある、ということを提示することは重要なことです。しかし、この5名の子供たちが同じ原因で罹患した、とも、SARS-CoV-2が原因であるとも、このケースからは証明することはできないと考えます。

この論文とは別に、根本的にCovid感染との直接的な関係性の可能性、というものはどのくらいあるのでしょうか?というのも、コロナの前、パンデミックの前にも、子供たちはアデノウィルス、もしくは別のウィルスに感染していたはずですが、肝不全にはなっていなかったのですよね。

それはそうなのですが、コロナの前にも肝不全のケースはありました。そして、これはしっかりと観察していくべきことですが、どうして、大規模に起こった地域が限られているのか。例えば、ドイツではこのような規模では起こっていません。基本的には、今のところ、SARS-CoV-2ウィルスとの関連性は全く証明されていませんし、そもそも関係があるのかどうかもわかっていません。論文では、免疫系の要素があるような書き方がされています。たしかに、SARS-CoV-2が関わっている可能性はない、というわけではありません。そこを否定するものではないのですが、私はこのように決めつけてしまうのは危険だ、と感じるのです。納得がいかない、というところも理解できます。原因を突き止めたい、という気持ちもよくわかります。しかし、これは、科学者や医師がしてはいけないことでもあるのです。というのも、そのように決めつけてしまうと、大事なことを見逃すことになるからです。可能性的には、違う毒素、食品などに混入した毒などが原因となっていることも大いに考えられます。この場合にはそのようなことはないとは思いますが、それだけ複雑な問題だ、ということです。私は、様々な同時感染、、以前にはなかったコンビネーションの感染が過度の免疫応答を引き起こして、肝不全につながる可能性は大いにあると思っています。そこにSARS-CoV-2ウィルスが新しいウィルスとして関与している、ということはあるでしょう。しかし、そうだとしても、どうして、限られた地域、国だけで起こっているのか、という疑問は残ります。そこで人種的な要素が関係するのか、ということもあるかもしれませんが、そのところも全く不明です。もう一度データをみてみると、ヨーロッパ内での400ケースのなかで、10%がSARS-CoV-2のPCRで陽性が確認されています。これは感染者の数から考えても多い割合ではありません。原因がウィルス自身にあるのではなくて、免疫応答だとすれば、PCRで陽性がでなくても当然です。この少人数のコホートのなかでの抗体検査では、64%の子供が陽性で、この数だけ聞けばかなり高い割合のように思えますが、ここでも比較集団が欠けていますし、感染の可能性があった子供が抗体を持っていた、ということは不思議なことではありません。子供の感染率的にもそのくらいの割合であろう、と言われています。つまり、今の時点では何もわからない、ということで、もっとしっかりとケースを分析し、集め、原因の追究に努めるべきです。早期の段階で決めつけてしまうと、重要な点を見逃します。ヨーロッパでのケースは今分析されているところですので、これからわかってくることもあるとは思いますが、全世界での700ケース全てが同じ原因である、とは限りません。私は、SARS-CoV-2が原因の一つである、という可能性はあると思います。しかし、どうして発症する年齢が限られているのか。どうして、地域が限られているのか。そして、どうして今、なのか。SARS-CoV-2が循環してからしばらく経っているわけですし、今、2022年ということは、オミクロンが関係しているのか、というような憶測もできますが、これも全く明らかではありません。私は、このような臨床像には様々な因子が関係すると思います。

保護者は大きな心配をしなくても良い、ということでしょうか。

他の疾患よりも必要以上に心配することはありません。生きる、ということはリスクが伴うものなのです。勿論、自分の子供が重度の疾患になる、ということは恐ろしいことです。素人は知らない、考えたこともないような、これよりもひどい病気、重度の疾患はたくさんあります。そのようなことを全て考え、心配をしはじめたらそれこそ病気になってしまうでしょう。勿論、早期発見は重要ですし、何か変だ、と思ったら小児科に相談することも大切です。子供の肝炎では、目が黄色く変色するのでよくわかりますし、そのような場合には勿論病院にいって調べるべきです。しかし、自分の子供が肝不全になるかもしれない、とパニックになる必要は、今の頻度からはありません。

今日はお時間をいただきありがとうございました。新しい知見を伺うことができて大変ためになりました。また近々、、と言いたいところではありますが、ポッドキャストをする必要がない状況であるほうが、、良いですよね。

まずは、、良い夏を、と言っておきます。



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