ドイツ@Sars-CoV-2 コロナウィルスアップデート(13) 2020/3/13(和訳)

話 ベルリンシャリテ ウィルス学教授、クリスティアン・ドロステン
聞き手 アンニャ・マルティーニ

2020/3/13

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次々と自治体が学校の閉鎖、イベントの中止を決議していっています。多くの会社がホームオフィスでの勤務を検討中です。 これらのテーマと、責任について。政治家、学者、そして、私たち一人一人の責任について、考えてみたく思います。今日も、ウィルス学教授、クリスティアン・ドロステン氏と電話を繋いでいます。聞き手は、アンニャ・マルティーニです。

ドイツ国内の感染者数が2400人になりました。政治家は、学校の閉鎖とイベントの中止を決定し、人々の間にも、コロナウィルスについての深刻さの理解が浸透してきたように思います。 ウィルス学者的には、今週の頭の時点よりも落ち着いた、という感じでしょうか。

うーん、、、、ちょっとなんとも言えませんが、、、他の国で起こっていることなどをみながら、ドイツの対策の方向性が決まってきたことに対しては評価したいと思います。 イベントの件でも、やっと自治体の足並みが揃ってきましたし、他の、例えば、学校や保育施設について、子供達をどうするか、そのような今すぐには最善案がみつからないようなことも、、、これから決まっていくでしょう。
学者だとしても、、、科学的根拠を持って、すべての答えがみつけることが出来るわけではありません。  もちろん、立場的に、すべてにおいて、そのような答えが求められてしまうのですが、、、今、決断しなければいけないのは、政治のトップにたつ政治家です。しかも、少数のトップが、大変重要な判断を強いられています。 頭がパンクする寸前だと思います。

学校や保育施設を閉鎖することによって何らかの効果があるだろう、ということは、わかっているのですが、それでも、それによって、発生するダメージも莫大です。 医療機関、産業、をはじめとする、社会に不可欠な組織、へのダメージです。  そのようなことも、もう少し考える必要はあると思います。 週末にでも、少しゆっくり、落ち着いた状態で。 プレッシャーのなかでの決断は良い結果をうみません。

政府が、来週の半ばまでに、根本的なところの方向性を決め、自治体が各州に合わせた対策で折り合いをつけていく、ということを、専門家を交えながらしていけるとよいでしょうね。  専門家も、いつも同じ専門家ではなく、いろいろな分野から呼ぶことも大切です。 ウィルスの専門家だけではなくて、学校、教育関係に詳しい人材もかかせませんし、社会構造の視点からアドバイスができる専門家も重要でしょう。

(パンデミックの)問題は、ウィルス学の専門ではありません。私は個人的に、ウィルスと社会との関係性の研究もしていますから、少しはわかっていますけれど、教育関係者や社会学、学校閉鎖がもたらす影響についてもっと熟知している専門家を交えて考える時間をとるべきだと思います。  最終的な決断は、政治家がするものです。

ロベルト・コッホ感染研究所の所長と私の間にも、意見の食い違いはあります。
ここで私がお話している意見は、私のウィルス学者としての意見です。
科学というものは、白黒写真ではありません。 たくさんの情報があり、それを無視してはいけません。 学者としては、情報をフィルターすることはできます。 この場で本当に重要なことだけをお話する、という意味で、です。
一つの意見だけを凝縮してお伝えすることはできませんし、したくありません。

このウィルスは私たちにとって新しい、とおっしゃいましたが、それは私たちだけではなく、学者的にも新しい、ということですよね。 たくさんの学者がこのウィルスの研究をしていますが、最新、新しい研究発表や、論文などはありましたか?

もちろん、常に新しい情報や発表はありますが、、、正直なところ、今週は、そのようなものに目を通す時間が全くありませんでした。 週末に少しそのための時間をとろう、と思っていたところです。 
来週、また新しい内容をこの場でお話できるようにするために、様々なパブリケーションを読む時間をとらなければいけないですね。読むだけではなくて、分析したり考察したりもしなければいけませんから時間も要する作業ではありますが、、、そのまとめを、この場でお話します。 また学術的なお話をたくさんしたいです。 
ここ数週間は、毎日、内閣をはじめとする行政機関の間を行ったりきたり、かなり多忙な毎日でした。 (コロナ対策について)助言をするために休む暇なく走り回っていましたので、、、論文を読む時間がなかったのです。

ロベルト・コッホ感染研究所の発表のなかで、イタリアの医師のレポートに、重症化はしづらい、と言われていた若い層の感染者が、重い症状になっている、とありましたが、、、どのくらいの数なのでしょうか。

数は知りません。でも、そのような報告はありました。若い人たちが重症化して集中治療をうけています。 中国では、集中治療をうけるまで悪化したのは高齢者層が多かったので、イタリアとの違いは、これかももう少しきちんと分析してみたいとわからないでしょう。 まだはっきりと全体像がわからないことを早とちりをして判断するのは危険です。 死亡リスクが高い層よりも、そうではない層の死亡例のほうが(特殊ということで)注目されますが、そこだけみるわけにはいきません。

いままで、交友関係のなかで、2つのグループがいたと思うのです。不安になっているグループと、コロナのコの字も聞きたくない、というグループです。 私が見る限り、今はこの2つめのグループがほぼなくなり、いままでそうだった人々の関心も高まって、受け入れられているように感じます。 そして、今、このシチュエーションについて考え始めているようです。 そのように、今から感染防止対策を考えようとしているひとたちには、どうアドバイスすればよいでしょうか。 

そうですね。まずは、その人たちがやり損ねたことは特に何もありませんよ、と言いたいですね。 ここ数週間の間、大勢の人たちが、日常生活での防止対策や、習慣の改善、そしてコロナウィルスについて考え、頭を悩ませてきました。 まだそこまでの感染密度ではなかったのですけれど。  私も、いままで何度も、個人的にどうやって感染しないようにするか、ウィルスから身を守るためにはどうするか、という一個人の対策は、(一旦)忘れてほしい、とお話してきました。 というのは、周りにまだウィルスが蔓延していないからです。 それよりも、これからどのようになっていくのか。 そして、外国をみるのではなく、ドイツ国内の状況に注目していただきたい。そして、ドイツの対策に注目してもらいたい、と。

そのようなお話をしてきたのですが、、、今、そろそろ、周りにウィルスが存在する状態になってきました。 数週間前から、考えたてきた人も、今、考え始めたひとも、、、、同じように、習慣をみなおし、感染防止対策を考える意味がある時期にきています。

まず、、、とても簡単なところからいきます。
週末、友達と会うときに、、、近くの居酒屋で集まる必要性はあるでしょうか。 みんなで家で集まる、という方法もあるでしょう。
友達のなかに感染者がいる可能性は、、今の時点でも、まだとても低いです。しかし、との友達と、居酒屋に行ったとしたら、、、接触は自分の友達だけではなく、その周りの人たち、、50人、100人と接触を持つことになるからです。 何時間も滞在したら、接触人数は、何百人、となるでしょう。

そして、ビールを注がれるコップですが、、、まあ、誰でもわかってはいるでしょうが、きちんと洗われていないことも多いですよね。そういったところからも、感染はおこります。 まずは、このようなことを、ウィルス学者としては考えます。 まだ誰も言っていないことが不思議なくらいです。

私だって、居酒屋にいきます。ビールだって飲みますよ。 でも、必ず、瓶入りのビールにします。 これは、別にコロナウィルスが理由でしているのではなく、、、、洗い残しの洗剤がついているような状態は、、、やはり危ないです。

そのほかにも、、、今晩、明日の晩、大きな文化的行事、もし、まだ開催される催し物があるのであれば、ですが、それについても、個人的に考え直すこともできるでしょう。  もちろん、パニックになる必要はないです。 50ユーロのコンサートチケットがもうすでに手元にあるのであれば、、、それを捨ててしまう必要なないでしょう。しかし、基本的に、そのような場合について考えることは大切だと思います。

今はまだ、ドイツ国内では、あらゆるところに感染者がいて高い感染密度になっているわけではありません。 もう熱がでているのにも関わらず、我慢しながら街をうろうろしている感染者に出会ってしまう、、、ことにはなっていません。
でも、考えておく必要はありますね。

子供の行事などについては、、、、子供も大人と同じ確率で感染します。
子供のほうが大人よりも拡散するウィルス量が多い、などということもありませんが、スポーツイベントなどで一気に100人以上の子供が集まるような状態は、、、やはり、主催者や団体と話し合うなどして、考えなければいけないと思います。 行政が動くのを待っている、という受け身ではいけないでしょう。
禁止令がでたから中止する、というのであれば、あー残念だなぁ、禁止されなかったら参加したのに、、、、という人がでるかもしれませんが、そうではなくて、参加するほうの意識も変えていかなければいけないのです。
双方の協力体制が必要です。

あとは、、、買い物ですね。 普通に買い物に行ってください。宅配デリバリーを使うことによって、不必要に宅配サービスに負担をかけることはないと思います。 出来るだけ保存がきく食料品を買い置きすることも無意味でしょう。 この先、食料品などが足りなくなる、という理由は全くありません。 ハムスター買い(買い占め)するなんて馬鹿げてます。今まで通りでいいのです。

もし、症状がでてるとしたら、、、風邪に似たような症状があるとしたら、、、週末はおじいちゃんおばあちゃんには会いに行かないようにしましょう。

今、行政でも話し合われている、行動様式の見直しは、、、これからどんどん重要になってきます。 今日の明日で、引きこもる生活をしろ、と言っているのではありません。これからさきの数週間、数ヶ月、の間に、自分たちの行動、習慣で、変えれるところと、変えたくないところ、、を考え、実行にうつしていく。 誰もが、在宅中心の生活はおくれないでしょうし、普通の日常生活を可能な限りおくることはとても大切なことです。

日常生活のなかで、どのシチュエーションで感染がおこるのか、そういう視点で変えていくこと必然で、それを考えずに、これから30分ごとに手を洗うことにします、というのは無意味です。 もちろん、手を洗うことは大事です。 ウィルスが手につく場合はあります。 しかし、コロナウィルスは、鼻水系ではありません。 鼻水が伴うウィルスの場合、これは、殻を持たない種類のウィルスが多いのですが、鼻水とともにウィルスが手について感染します。コロナウィルスは、喉に付着するタイプのウィルスですから、感染が進行すると、咳とともに体外に放出されます。

このことを念頭に置きながら、防止策を考えなければいけません。
咳で拡散するウィルスの予防方法は、出来るだけ屋外にいること。週末はお天気がよくなるようですから、、、家族でアウトドアで過ごしてみるのもいいでしょうね。  居酒屋やレストランだと、、、どのくらい狭い間隔で座っているのか、にもよりますが、やはり長時間滞在するのもおすすめできません。やはり自宅のほうがいいでしょう。
 
考えるポイントは、、、、距離です。 ウィルスは、短期間、宙に舞います。 咳とともに、水分を含んだ粒子に混じったウィルスがエアロゾルとなって空中に漂いますが、しばらくすると地面に落ちていきます。 空中に漂うウィルスが霧のように、隣の部屋に移動していく、という心配はありません。 そのような危険性があるウィルスもありますが、このコロナウィルスは違います。
コロナウィルスは、数分間空中に漂ったのちに地面に落ちていきます。そのようにお考えください。 ですので、散歩中に出会った人から感染する、ということもありません。高濃度のウィルスが空気中に漂っていることはありませんのでご心配なく。 このように、ひとつひとつ、日常生活のなかでの習慣について考えていくことは大切です。

基礎疾患を持つグループや、高齢者でも同じですよね。

いまのところ、どの基礎疾患が特別なリスクを伴うのかは、わかっていません。 もちろん、重度の免疫障害、となれば別です。
多くの感染時にコロナウィルスは、肺のウィルス感染をひきおこし激しい咳が数日続きますが、これが、呼吸困難を引き起こすまで重症化する場合もあるのです。
そして、もっと症状が進行してしまうと、肺機能が低下して、集中治療をうけなくてはならなくなってしまいます。この場合は循環機能にも負担がかかります。 この状態になると、リスクがある人とそうではない人に分かれるでしょう。 普段から運動などをしている人であれば、数日間、心臓に負担がかかる状態が続いても乗り越えられるでしょうが、階段の上り下りの際にすでに息切れするような人だと、、大変危ない状態になります。

データとしても出ていますが、循環機能に問題があるグループのほうが、免疫疾患よりも、リスクは高い。 階段での息切れ、これは40代でもありえることですが、そういう循環機能が低下していひとは、、、リスクグループに属している、という自覚をしたほうがいいでしょう。 これは、感染率ではありません。 感染率は、全員同じです。  感染の際のリスク度は、感染から1週間後くらいに決まります。ここから、どのように病症が進行していくのか。ここから、肺に進行していくのであれば、循環器に負担がかかります。

ほかには、、、例えば、喘息ですね。喘息患者が風邪をひくと、、喘息が悪化します。その時にネブライザーなどを使用する際に、いつもとは違う喘息の薬を使わなければいけない場合があります。この際に、その間だけ、ステロイド系の薬を控える、とか、免疫を落とさないようにする対策が必要になるでしょう。 しかし、このようなケースにはまだあまり臨床データがありません。ですので、このような場合は、かかりつけの内科医の判断が重要になるでしょうし、喘息患者自身も症状と経験で判断しないといけなくなるでしょう。

はじめのほうでもお聞きしましたが、、、今週は、学術的、というよりも、とても政治的な1週間だった、と。おっしゃっていたように、毎日、内閣府に出向いていたのであればその影響がこのポッドキャストでも反映されたのは自然な流れだと思いますが、学者として、そのような状態をどのように感じていらっしゃいますか。学者は専門的な研究が第一なのに、、、などと、居心地が悪くなったりしないでしょうか?

まず、、、、基本的に、内閣に呼ばれたら喜んで出向きます。というのは、政治家が専門家に助言を仰ぎ、積極的に情報を集めることは大変重要なことだからです。それは、国会議員でも地方議員でも変わりません。
この未曾有の非常時に、困惑している政治家を私の知識でサポートすることができることは光栄です。 が、正直、かなり限界でもあることはたしかです。
私はベルリンに住んでいますが、今週は、内閣とほかの部署、チャリテ、大学病院の間を、自転車で走り回っていました。 先ほども言いましたが、研究論文などを読む時間すらなかったのです。いつもであれば、必ずその時間を設けるのに、です。 週末、その時間がとれることを願いますし、また、来週から、学術的なことをもっとお話できれば、と思っています。

今は、限界の一歩手前です。 居心地が悪くなることは、、、頻繁にありますが、、、、例えば、テレビなどで、このポッドキャスト内での発言の一部が切り取られて報道されたとき。 私がこのポッドキャストをしている理由の一つとしては、毎日30分時間をとって、丁寧に説明ができる機会だと思うのと、リスナーのみなさんも30分集中して話をきけるよいメディア形態だと思うからです。  それが、短縮されてたり、切り取られたり、、、、今朝、本当にびっくりしたのですが、、、、テレビと、新聞に大きく「ドロステン教授、新しい学術的根拠により今すぐに最低4週間の学校閉鎖を要求。」
たしかに、、、、昨日の回でそのような発言はしました。 ですが、それは、1918年のスペイン風邪の例との関係性でだしたことであって、それについての論文を読んだ、という話もしました。 その説明も昨日したはずなのですが、それをそこの部分だけを切り取って、Covid-19の対処法として内閣に提出したような書き方をされていたのです。  1918年のスペイン風邪とは時代も社会構造も違いますしシチュエーションも異なります。 あの時代に学校を閉鎖しても、家庭内の問題は生じませんでした。 女性が家事をして男性が働きにでる時代でしたから。  あの時代には、看護婦はほとんどが修道院のシスターたちでしたから、子供の面倒をみるために子持ちの看護婦が仕事を休まなければいけなくなるシチュエーションにもならなかったわけです。そして、1歳からの保育施設などもその当時はありませんでした。  社会への影響は全く違います。 そして、ウィルスの種類も違います。 スペイン風邪はインフルエンザで、今回はコロナウィルスです。 ですので、今回がスペイン風邪と同じようになるとはかぎらないのです。 そのように昨日もお話したはずです。 しかし、これが、メディアに切り取られて出回ったことによって、政治家にもプレッシャーがかかります。  はじめにも言いましたが、、、今は、急いで決断するよりも、専門家の意見を聞きながら考えるべきだ、と。 同じ専門家からだけでなく、いろいろな分野の専門家からが理想的です。 今、政治ジャーナリズムが、政治家を煽り、追い詰めていくことは、とても悪影響があることだと思います。 都合のよいところだけを切り取って、危機モードに仕立て上げていくことによって、政治家が早まった決断を下すことになっては元も子もないのです。 慎重に、焦らず、確実に、です。 

今日もどうもありがとうございました。週末、ゆっくり論文を読む時間がありますように。そして、来週、そのお話を聞くことができることを今から大変楽しみにしています。ありがとうございました。

ベルリンシャリテ
ウィルス研究所 教授 クリスチアン・ドロステン

https://virologie-ccm.charite.de/en/metas/person_detail/person/address_detail/drosten/


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