ドイツ@Sars-CoV-2 コロナウィルスアップデート(58)  2020/9/29(和訳)

ベルリンシャリテ ウィルス学教授、クリスティアン・ドロステン
聞き手 コリーナ・ヘニッヒ

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Sars-CoV-2ウィルスによる感染の多くは、プライベートな領域で起こっている、とロベルト・コッホ研究所が発表しました。そのようなことからパーティや親戚の集まりなどへの対処が、地域の感染者抑制への対策の政治的焦点となっています。カーブは上昇し続けていますが、スペイン、フランス、イギリスなどの隣国に目を向けると、ドイツの状況はそこからはまだ程遠いことがわかります。
悲しい記録が先日更新されました。新型コロナ感染によって死亡した数が後少しで100万人に届きそうです。世界的な死亡者数をみてもその国々によってかなりの差がありますが、それはどうしてなのでしょうか。免疫学の研究では感染致死率についてのどのような結果でているのか。今日も、ベルリンのウィルス学教授、クリスティアン・ドロステン先生にお話しを伺いたく思います。聞き手はコリーナ・ヘニッヒです。

この致死率と重症化についてもう少し掘り下げる前に、いくつかリスナーからの質問を取り上げたく思います。先週は、シーセック先生に検査方法について詳しくご説明いただきました。PCR検査についてもお話しいただき、この検査方法は今も変わらず新型コロナの検査方法のなかで一番重要な方法です。そこで、偽陽性について、もう一度触れてみたくおもいます。SNS上では、春に盛んに行われていたディスカッションのリバイバルが起こっているようです。「(PCR)検査は、コーヒー占いのようなものだ。なぜなら、ウィルスのかけらが検証されるだけであって、つまり、遺伝子の断片で、それは、ウィルスが増幅してるのか、増幅していたのか、そもそも感染を検証するものではない。」という主張ですが、先週、コロナウィルスは、細菌などの常在菌のように粘膜にあるものではない、ということを学びました。実際に、ウィルスの断片が偶然喉についている、ということはありうるのでしょうか?

それはありえません。ウィルスゲノムの完全体なしにその残骸があることはありません。「(PCRでは)ただ破片が検証されているだけだ」というのも、正しくありません。これはウィルスゲノムであって、これは多分、分子生物学的な認識だと思うのですが、感染症の後期の段階ではウィルスの量が少ないために、シークエンジング、つまりゲノム全体を分析する際にはPCRでその前に増やしておく、というものです。これが必要な理由というのは、量が少ないから、ということですが、そもそも完全なウィルスがないところにはその破片もないのです。そして、私たちの細胞の中には、コロナウィルスのゲノムに似たRNAは存在しませんから、それをPCRが間違って検出してしまう、などということもありえません。同じように、他のウィルスを間違って(新型コロナだと)検出する、ということもありません。それが風邪のウィルスであろうと、他のコロナウィルスであろうと、どんな病原体であろうと同じ事です。議論の余地などありません。PCRというものは、そのような 疑念が全くないものなのです。

取りちがえる、というのが、もう一つの非難ポイントですが、この件に関してはもう既にこのポッドキャストでお話しいただいています。各自、確認していただけると思うのですが、この検査は、他のウィルスに対しては検証済みです。というのは、間違って他のウィルスに反応することはないか、というところを検証検査している、ということです。PCRで間違って検出される恐れがない、と検証済みのウィルスはどのようなウィルスでしょうか?

ここにそのリストはありませんが、、、人間が感染する風邪のウィルス全般ですね。この検証データは、既に一番初めの論文発表の際に出ていて、ユーロサイベイランス誌に1月に掲載されたコーマン等の論文です。私たちが大規模な検証試験をした一番はじめのPCR研究論文で、私たちが開発したPCRは一番はじめにでたPCRでしたが、もうとっくに他のPCR検査キットも出まわっています。多くの製造会社がPCRをつくっていますから。因みに、私たちの開発したPCRを、今現在の診断では使っていません。ラボでの診断では、 他のPCRを使っています。このPCRは、私たちのPCRを部分的に取り入れ、他の部分を少し応用しています。この会社は私たちの検証とはまた別に独自の検証を行っていますが、もちろん、その過程がないとこのようなPCR検査キットは販売することができません。認定されなければいけませんから。そこで、またもう一度追加で検証データの提出が要求されます。ネット上に出回っている話のようにそう簡単にはいかないのです。この方法は大変確実な検査方法なのです。

この論文のリンクも貼っておきます。

ここで言っておきますが、(ウィルスの)リストは暗記しているので諳んじれますよ。

でも、長いのでしょうね、、、

人間の風邪ウィルスです。ここにリストがたとえなくても、例えば、インフルエンザの検証データがあって、インフルエンザBとC、アデノウィルスも入ってます。そして、リノウィルスとエンテロウィルス、エンベローブがない RNAウィルスですね、これはこれから、幼稚園や学校でまた流行るでしょう。接触感染、手から感染するウィルスですので。そして、パラインフルエンザウィルスの1と3、違う属の、つまり、違う種類のパラインフルエンザ3と4。そして、RSウィルスとヒトメタニューモウイルスと、、えっと、少し考えますね、、後は、、コロナウィルスです。これは、ヒトコロナウィルス229Eと NL63。アルファコロナウィルス属です。ベータコロナウィルス属では、ヒトコロナウィルスOC43と HKU1。試験は、このウィルス全てを検体だけではなく、患者でも検査され、そこでは結果がわかっている検体と、患者の検体の他に、細胞培養されたウィルスの検体で行われ、ウィルスによっては細胞培養が出来ないものもありますが、可能なウィルスは培養されました。細胞培養すると、かなりのウィルス濃度になるときもありますので、そのような高濃度の検体でもPCRが誤反応を起こさないかどうか、という 厳しい検査です。その結果、反応しませんでした。

PCR検査については最後の質問ですが、、、数日前に連邦がPCRのラピッドタイプの支援をする旨を発表しました。結果が39分で出る、というものです。PCRテストとはどのくらいはやくできるものなのでしょうか。

39分はかなりはやいですね。今、その30分を短縮するかしないか、ですが、 通常であれば1時間弱です。(結果が出る)速さ自体はあまり重要ではありません。検査の速度というのは、ほとんどが検体を運ぶ時間であったり、待っている時間です。そして、ラボでは、検体がある一定の数が揃うまで待たなければいけませんし、プラスチック容器の整理や、、私はプラスチック洪水、と呼んでいますが、それがラボに到着するとそのようなところで時間がとられるのです。勿論、その後の結果報告でも時間がろられます。コンピューターが単純に結果を出す、というのではなくて、結果を出す際には必ず、その前に医師がチェックをします。もう一度確認されるのです。その前にも技術技師が技術的なチェックしますし、これらの作業にそれぞれ時間が必要です。そして問い合わせです。これも忘れてはいけません。診断は医療行為ですから、診療を担当している医師とも連絡を取り合います。ここでも、結果に関する問い合わせや解釈についての質問などがあります。時間の問題は、そのようなラボでも作業時間であって、PCR自体の分析時間ではないのです。

2つめのテーマは、、、新しくはありませんが、もう一度とりあげたほうが良いと思われるものです。リスナーの方々からも質問が来ていますが、学校での子供問題です。感染状況における子供のテーマは、引き続き、理想論の議論が続いています。いままでの知見を掘り下げた論文には、最近では、JAMA小児科学誌に掲載されたメタ研究がありますが、ここでは、ほとんどの研究論文はロックダウン中のデータを基にしている、という欠点があり、学校が閉鎖され子供たちが自宅待機していた状況では実際のシチュエーションが割り出せない、という指摘がされています。もうすでに、学校での集団感染がはじまっているのはロベルト・コッホ研究所が発表している数をみても明らかです。先ほど、確認しましたが、ドイツでは、9000弱の感染が学校、幼稚園、林間学校での子供たち、プラス教育関係者4000名。もう少し詳しいデータであればより興味深いのですが、例えば、どこで子供たちがお互いに感染しあうのか。第一感染が学校で起こったとしたら、親はどこで感染するのか。そのようなデータはないのでしょうか?子供の感染経路は追跡は特に難しいのでしょうか。

多分、そのようなデータは保健所にあるのではないかと思います。全ての保健所にはないかもしれませんが。保健所によってかなりの差があります。しかし、今の時点でそこに特化した登録はないように思います。この辺りがもう少し改善されたら良いな、とは思います。州の行政機関やロベルト・コッホ研究所などから透明性があるデータが発表されることは要求できる事だと思うからです。これから秋休みがきます。夏休みの後から今までの間は比較的短い学校期間でした。今、また少し今後のことを考える良い地点なのではないかと思います。そして、秋休み後、もっと寒くなったら、どのくらいの学校での集団感染があるのか。私は、もう少し公の議論がされるべきである、と感じます。あまりにも、不明確な点がありますし、社会的にも様々な立場があります。あるところは、職場での完全なる安全を望むでしょう。教師などは。そしてハイリスクに属する両親は、子供がウィルスを家庭に持ち込むことに恐怖を感じていることでしょう。また、違うところでは、子供は絶対に学校に行くべきだし、絶対に学校は閉鎖されてはいけない、と主張することでしょう。それぞれの言い分はそれぞれに正しいのです。公できちんとした透明性のある像がつくられない限り、このことに関しては、フェアな議論をすることは困難である、と感じています。他の国では、はっきりとした数、学校での集団感染に関する数が出ているところもあります。フランス、そしてカナダなどです。

イスラエル、もですよね。

そうですね。よく、あれは特殊なシチュエーションだった。はやく緩和しすぎた、とか、夏休みの前の猛暑の際に爆発的に感染が拡大したのはマスクをしていなかったからだ、などと言われていますが、たしかにそうかもしれません。私にはわかりません。しかし、ドイツでも透明性のあるデータが必要です。なぜなら、今、2つのことが起こっているからです。一つ目は、もう既に学校、クラスが閉鎖されてきている。つまり、部分的に学校閉鎖が行われている。感染が多分外部から学校に持ち込まれているからです。教師や生徒が感染し、診断されますね。そこで、学校は守られなければいけない、となるわけです。ここで過剰に反応することもあるでしょう。本当は学校を閉鎖などしたくないのです。迅速な対応は重要ですが、学校全体を閉鎖するのではなくて、感染単位、つまりクラスだけにする。もう一つは、それがほとんど公開されない、ということ。これは、夏休みの前にいくつかの州で、あるひとつの解釈に固着してしまっていたからとも関係があるかもしれません。それは、「学校では感染は起こらない」というものでした。ここで無視されたことは、研究論文の基本的なシチュエーションが、ロックダウン中か直後で感染に繋がる状況がなく、ドイツ国内での感染者がいなかった、というところです。お互いに責任のなすりあいをすることを、今すぐやめなければいけません。そうではなくて、透明性をもって状況を説明し、これからどのようにしていかなければいけないのか。今、必要以上の不安を煽ることなく、学校での集団感染が起こった際の対処方法を考えることです。つまり、学校での感染は早期発見できるとはかぎらないのです。何週間もかけてじわじわ拡がっていきます。突然起こるということはないのですから、対処する時間はあるのです。保健所は注意深くみているとは思います。しかし、もし、ドイツ全体の感染者数が増加したりなどして、手がまわらなくなった時。そこで、初めの頃に危惧していた点、あの感染カーブのW字効果が起こるかもしれない。これは、スペイン風邪の際に典型的だったことで、子供たちが家にウィスルを持ち込み、子供たちの親の世代の多くが感染してしまう、というものですが、この世代は若い中年層で、これが感染カーブをW字にするのです。X軸に年齢、Y軸に感染者数をおいたとすると、まず多いのは子供、生徒と保育施設の子供たちです。そして、高齢者。古典的に、あの当時は症状で記録をとっていますが、  インフルエンザの場合も、高齢者が多い。これが目立ってきて、U字カーブになる。左端と右端が多い。Uのかたちになりますね。そこに、真ん中に3つめの山が来る。健康な成人層、生徒の親の世代です。そうなれば、感染カーブはWの形になります。ここで問題なのは、この世代にもハイリスクが含まれること。この世代での感染が拡まると、ハイリスク患者が入院し、集中治療が必要になるのも時間の問題です。 そうなってしまったら、全く違うシチュエーションです。これを阻止しなければいけませんし、阻止することは可能なのです。学校の状況を透明に目で追っていけばここまで悪化する必要はありません。政治家にとっても、そのようなことを後から 失敗だった、と言われるのはマイナスであると私は思います。この学校問題を透明に提示することに全力をつくすことが重要なことだと思います。特に秋休みの後に向けて。

学校内での予防対策に目をむける、ということですよね。つまり、年齢別に分ける、クラスを半分にする。休憩中のマスク着用、もしくは授業中の着用、など。先生の同僚であるイザベラ・エッケレ先生、ジュネーブのウィルス学者ですが、ツイッターでかなりはっきりと、全てきちんと調査されるべきだ、と発言されていました。研究面ではなにができるでしょうか?学校の感染予防対策と感染経路追跡において、まだキャパはあるのでしょうか。

エアロゾルについて意見交換をしました。しかし、これから来る、、、来て欲しいと願うのは、抗原ラピッドテストで、保健所か学校付近で使えるようになって欲しいです。学校内で、というのは今の時点では確認されていませんのでなんともいえませんが、これによってかなり状況が変わると思います。どちらにしても、秋からはよりよく、よりはやく検査ができるようにならなければいけません。教師と生徒に、ですね。空調システムにおいては、私たちができることはあまりありませんが、、、これに関しては夏の間ほとんど進展なく、ただ時間が過ぎてしまいました、、 それでも、学校での集団感染は早期発見と予防、短期隔離、短期待機によって阻止することが可能です。私は、ZEIT誌でのインタビューで、グループレベルでのクールダウン期間、というものを提案しました。これは、原理的には隔離と待機のミックスのようなものです。感染が起こったクラスを閉鎖することによって、学校全体を閉鎖することなく、学校内での集団感染を阻止することができるのです。

先ほど、空調システムがでましたが、学校での状況はほとんど改善されることなく時間が過ぎました。これから秋、冬になるにつれて気温という面からももっと困難になることでしょう。専門家チームが、行政への助言として、学校内の空調の重要さを改めて主張しています。これは、リスナーにとっても重要な問題で、学校によっては、頻繁に空気の入れ替えをすることがその構造から困難であ。窓がセキュリティ的な理由から全開にできない。教室が狭過ぎて空気の通りが悪い。新築でも同様です。先生は、エアロゾル専門家でも、空調技術師でもありませんが、このような、フィルターや空気洗浄システムが(窓を開けての)空気の入れ換えと同じような効果をもたらす、などということついてはご存知でしょうか。

これに関してはノータッチです。  正直に言いますが、技術的な点で何も最新情報を入手していません。この分野の専門家がいますからね。SARS時代に、同じような議論がされて、あまり芳しい効果がない、というような、結果に至ったことを、うっすら記憶しています。勿論、あの時よりも技術的に進化したことも考えられますが、それよりも今あるもので実用的に対処していかなければいけない問題だと思います。それが診断であり、場合によっては、 短期のクールダウン期間。つまり、被害を拡げないように数日実行して、クラスターをフェイドアウトさせる。保健所などはすでにこのような方向に動いていると思います。

子供問題では、感染状況において年齢特性の特徴があります。冒頭で、ドイツは世界的にみると良い状況にある、と言いましたが、他の国では部分的にはもっと厳しい対策が実行されていて、パンデミックも夏までの段階ではかなり抑えることに成功していました。ヨーロッパでもフランス、スペイン、イギリスやベルギーなどの国でです。しかし、その国々でとられた対策にも関わらず夏の後の急激な変化、その後の進み方がドイツと比較して違うのはどうしてでしょうか? 例えば、イタリアの高齢者の感染者数をみても明らかですが。

また感染が増加した時点で、対処が遅かったしたということは考えられるでしょう。感染者も高齢者に分布しています。しかしこれは基本的な年齢分布の違いもあるかもしれません。とても興味深い論文がプレプリントでて、ここでは、感染致命割合が新しく、正確に分析されています。感染致命割合は初めから激しく議論されていた点ですが、それは致命率のことでした。致命率とは、登録された感染者、もしくは陽性者数のなかで死亡した人の割合を言います。それは、常に3から4%でしたが、今は違う尺度があって、それが感染致命割合です。これは基本的には同じものですが、実際の感染者を全て把握できていない、という事実を配慮し、実際の感染総数を推定する方法を模索する、というものです。

推定された数で、高く見積もった数ではない、ということですね。

そうです。外挿法のようなものです。しかし、外挿法はかなり大雑把な計算の仕方なので、ここでは、血清検査の結果を加えています。これはラボでの具体的な検査です。ここでは、どの血清検査だったのか、対象調査期間後どのくらい時間が経っているのか、などというところで修正因子も入れなければいけませんが、基本的に血清検査によって、どのくらいの割合の国民が調査期間中に感染していたのか、ということを推定することが可能です。これは死亡者にも当てはまります。第一波は2月、3月からはじまりましたが、少し時間が経ったこの半年のデータをまとめることができました。第一波は多くの州では終わっています。ここでメタ分析をし、メタ分析とは、独自の研究調査をするのではなく、数多くある研究論文を分析してまとめるもので、これはこれで学術分野のひとつです。現在、論文の数は豊富にありますから、これらがまとめられました。ここでの結果は本当に興味深く、単純に数だけ言いますが、、、962個の感染致命割合に関する研究論文が分析された結果、、、これは莫大な数ですが、、この数でもどれだけ科学分野で結果を生み出してきたか、ということがわかるでしょう

世界中の研究ですね。

そうです、世界中です。研究はまずはクオリティカテゴリーによってわけられて、血清調査の際に起こりうる誤差要因をピックアップされます。一番頻繁に起こる誤差は、血清調査の際に、最後の検査をした時点で死亡者をカウントすることをやめてしまうことです。これは間違いで、最後の被験者が検査された時点で、抗体陽転している可能性があって、つまり、この治験者は1週間前に感染したとして、段々重症化してきている最中だとします。場合によってはその後も2〜3週間重い症状がでるかもしれなくて死亡することも考えられます。そこまで待たなければいけないのです。つまり、血清検査の終わり、というのは、被験者が死亡する可能性がある期間まで配慮したものでなければいけない。

その人には抗体はできていた、ということですね。

その通りです。これがセロコンバージョン、抗体陽転、抗体がつくられることです。もっと酷いのは、PCRを同時にやった場合、時間遅延がもっとあって、この場合には、今日感染したかもしれない人が被験者対象になってから死亡するまでに4〜5週間かかるわけです。すぐには死亡者にはカウントされない。分母には入れられるけれど、分子には入らないのです。この時間遅延が配慮され、 モデリングされます。この期間がどのくらいであるか。この基準が研究のクオリティカテゴリーに適するかどうか、を決めます。さらなる誤差要因は、例えば、このメタ分析では、直接的な学術研究だけではなく、州のデータ、つまり、国内の登録数、一部的にはまだ研究的にまとめられていないものの統計には入っているデータも含まれます。ここでも、国それぞれの登録システムの質も影響してきますので、ここもよく分析されています。正確さにおいてはかなりの重点がおかれた調査内容です。その結果、962件の論文のなかから873件が除外されています。残った89件から、また65件を除け、そのなかの14件の抗体陽性率研究、抗体の研究で分析しています。このなかの9件はEU内でおこなれたもので、12件はアメリカの研究です。様々な場所での調査も入っています。

ドイツのものはそのなかにはないのですね。

ドイツは入っていません。ドイツの研究論文でこのクオリティカテゴリーの条件を満たしていたものはありませんでしたが、5つの州での検査データがこの研究での評価基準に達していました。5つの論文が、メタ分析の一部としてではなく、比較対象として妥当性確認のためのデータとして使われましたが、これを、数学的に回帰分析した場合、つまり、感染致命割合と年齢分布の相互関係はどうなっているのか?というところを分析した結果、驚きのグラフになりました。X軸に年齢、人口の平均年齢ですね、これが国ごとに数値がありますが、そして、Y軸に感染致命割合の対数、これは、直接、感染致命割合ではなくて、対数です。つまり、数学的に計算したもので、多くの自然現象でもそうですが、対数的な相互関係が認められます。
それが完璧な直線になります。これは、どの国の調査でも関係ありません。言い方を変えるならば、統計学者なら、年齢分布が、データの分散を決める、というでしょうか。つまり、研究間、国ごと、の感染致命割合の変化、違い、アメリカの州ごとの違いなどですが、その違いは、基本的に、人口の平均年齢によって決まる、という結果がでたのです。年齢が決める、ということです。その他にありません。

90%だったと思いましたが、地理的な分布において、と論文にはありました。

そうです。莫大な規模です。この帰因、この一つの因子への高い帰属。驚きです。この研究が論文の厳しい選別をして分析していることが調査上の妥協点を狭め、その結果かなりの説得力を持つものだと感じます。それでこのポッドキャストでも紹介しました。

先ほども言いましたが、ドイツは、データベースの不完全さによって最終的な分析結果には入っていませんが、それでもこれを参考にドイツの状況に当てはめることはできますか?

もちろんです。そうですね、、、まず、、著者が出している例がとても実用的だと思ったのですが、この研究では、たくさんの登録データから、特にアメリカのここ数年間のインフルエンザのデータを使って同じように感染致命割合が出されています。インフルエンザの致命割合については、様々な意見が飛び交っていますが、これは、(新型コロナが)はじめから、インフルエンザと比較されてきたからでしょう。「(新型コロナは)インフルエンザと同じで大したことはない」と言う人も多くいますね。しかし、引用されていた数値というものは、どこかの国のものであったり、特定の年のものであったり。それを単純に持ってきて、比較して騒ぐわけです。しかし、ここでもう一度このアメリカのデータ分析によってきちんと出された数値をみてみると、、因みに、アメリカの報告システムはしっかりしている、と言えると思うのですが、インフルエンザの致命割合は数年間のスパンで、0、05%。ちなみにドイツではもう少し低い数値です。そして、この精密なメタ分析によって出された Covid-19、つまり、 SARS-2感染症ですね、この感染致命割合は、0、8%。これはインフルエンザの16倍です。インフルエンザの死者1人に対して、16人の Covid-19の死者、ということになります。アメリカで、ですが。しかし、アメリカの平均人口はドイツよりも低いので、、ドイツの感染致命割合を計算すると、、、この評価方法でいくと、大体1%くらいか1%強くらいでしょうか、計算はしてみていません。私は人口統計学者ではないのでわかりませんが、この計算をしてみると大変興味深いと思います。論文は公開されていますので興味がある方はみてみると良いと思います。
しかし、違う方法でも比較をしてみましょう。この研究の素晴らしいところは、年齢別に感染致命割合が出されているところです。ここでの平均値は、35〜44歳では、大体インフルエンザと同じくらいです。中年層がインフルエンザにかかると、なかには寝込む人もいますが、軽症で済む人も多いでしょう。45〜54歳では、0、2%の感染致命割合。55〜64歳、定年前の10年間ですね、ここで0、7%。これが年齢で比較した割合です。インフルエンザの10倍、と言えると思います。他の国では15倍かもしれません。著者は、また興味深い比較もしていて、交通事故とのものなのですが、年齢別にみると、200倍のリスクがある。つまり、定年前の10年間にいる年齢層の人たちが1年間車に乗った場合、事故で死亡する確率は、Covid-19で死亡する確率の200分の1、ということです。

統計上では、ということですね。

単純に統計的に、です。しかし、著者はこれによって具体化することを意図としたのでしょう。65〜74歳、ちょうど定年退職してゆっくりできる年齢ですが、感染致命割合は、2、2%。インフルエンザの30倍です。この年齢層では、インフルエンザの死者1人に対して、30人のCovid-19の死者です。そして、これ以上の年齢層ではもっと悲惨です。75〜84歳では、7、3%。85歳以上では、ほとんど3人に1人の割合です。この数域は、中世での天然痘や、アフリカのエボラに値します。

年齢が上がるにつれて、感染致命割合が一気に上がることが明確ですね。0、2%から始まって、54歳までで。

そうです。劇的に上がります。もちろんここでの見せ方もあるとは思います。私は論文内容をそのまま引用しているだけで、著者の書いていることをそのまま引用し可能な限り正確な表現をすることを心がけています。そうしないと、また叱られますからね。とはいえ、このような比較をすることも重要だと思うのです。そのためにこのようなメタ分析はされるわけで、ただ単に死者数を数えるのが目的ではありません。目的は、状況の把握です。そして、血の通わない科学ではなく、社会的なメッセージなのです。この問題のリスクを把握し、今後、冬に起こりうる事に備えるためにも、です。

ドイツでは世界的な比較では若者(の致命割合)が特別に目立つということもありませんね。

ドイツではどちらかといえば高齢者です。

生物学的な年齢というものがひとつ。しかし、世界のデータをみてみると、その他に大きな影響を与えるものがあります。免疫システムの状態です。専門的に言えば、免疫年齢です。

その通りです。これについては新しい論文がありますので紹介したいと思います。これはドイツの論文です。

キールからですね。

キールとケルンからです。ケルンの著者もたくさん入っていますが、その他のところからも参加しています。中心となっているのはキールとケルンです。とてもよくまとめられた免疫学の研究だと思います。基本的には、春に行ったシャリテの研究の追加的な位置付けで、非感染者、つまり SARS-2感染症にかかっていない人の30〜40%にT細胞レベルでの反応が認められた、という内容ですが、その後にも数多くの研究論文が出てきて、イギリスやアメリカの研究でも同じ結論に達しています。つまり、患者の多く、人口の3分の1というかなり大きな割合で、感染症との接触がなかったのにも関わらず、このT細胞の反応があることが確認されているのです。アメリカでは、この現象に対して、基本的には、かなりの軽症なケースがある、ということ。それによって、私たちは交差免疫をすでに持っており、集団免疫の閾値はもっと低いところにあるであろう。と説明されています。つまり、交差免疫、交差反応をするT細胞がある。T細胞の活動は、誰もがかかる風邪コロナウィルスだけにではなく、少し活動範囲の枠内でこの新しいコロナウィルスにも有効である、という考えです。そのような働きから、私たちの知らないところで部分的な防護効果があるということになります。

T細胞、というものが何かを知っているリスナーも多いと思うのですが、多くのリスナーは少し聞いたことがあるレベルだと思いますので、もう一度、説明をすると、これは免疫がウィルスと闘おうとした場合に細胞レベルで起きる免疫記憶です。ざっくりと言いましたが。おじいちゃんおばあちゃんの世代が、「たくましくならなければいけないよ。たくさんウィルスと接触すると免疫が強くなるからね」と言うように、この免疫の核がT細胞です。

大体そんな感じです。今は免疫学者とインタビューをしているわけではないので。私はT細胞の専門家ではありませんし、細胞免疫のエキスパートでもありません。しかし、そのように考えてもらって良いと思います。T細胞は、かなり複雑です。白血球が、感染への免疫反応と同時に自ら防御体制に入りながら周りに伝達し、その記憶を構成する。これは免疫的には2つの大きなカテゴリーがあって、一つ目は、CD4細胞。もう一つは CD8細胞です。この CD8細胞に感染に侵された細胞に対応する細胞が含まれています。つまり、ウィルスが入ってしまった細胞ですね。この細胞は、ウィルスの一部を提示します。あちこちの細胞でウィルスが退治されていますが、その一部が細胞表面にレセプタ集合体として発現する。これを、主要組織適合抗原複合体、MHCと呼びます。 そこで、このT細胞が来てこれを認識し食べます。これが大変重要な免疫機能、獲得された適応免疫なのです。つまり、感染に対する反応免疫です。そして、ここで反応するのは抗体だけではなく、この細胞、T細胞も反応します。抗体はB細胞によってつくられますが、それはご存知のことでしょう。因みに、これは全てひっくるめてリンパ球で、B細胞もリンパ球のなかの一つです。T細胞には、例えばヘルパーT細胞という助ける役割をする細胞もあります。実際、これらの細胞は、B細胞の成熟過程において抗体をつくる助けをしたり、細胞障害性T細胞を、ウィルスに侵された細胞へ導き、攻撃し排除する助けもします。そして、抗原提示細胞から情報を提示されます。これらの役割は、どんな病原体でも発見し、取り込み、破壊することです。それから病原体の一部をヘルパーT細胞に提示しますが、提示の意味は実際に、病原体の一部を掴んだ腕を伸ばした感じです。そこにT細胞がきて、これを認識するのですが、ここに合うか合わないか、です。常にスキャンされていて、いつかこのレセプタと抗原に合うT細胞がやってきてこれが成熟し、この成熟したT細胞が感染情報をB細胞、もしくは細胞障害性T細胞伝えます。そして最後に、免疫反応が終わったら、残るもの、それが記憶、と呼ばれるものです。この記憶は、、常にではないですが、、、 CD4T細胞からなりたっています。これは特殊なT細胞の種類です。かなり多くの種類があるのですが、それはこの場ではお話できません。正直に言うと、この先の話をしなければいけなくなったとしたら、免疫学者をポッドキャストにゲストで呼ばなければいけないと思います。私はそこまでこの分野については詳しくありません。

普通の人にとっては、先ほどの説明で十分だと思います。

私の知識の範囲での説明で十分であることを願いますが、、、この前知識でここからの論文の話に移れるかと思います。もう一つ言っておきたいことは、このT細胞が活性しているかどうか、未熟であるかどうか、つまり、既に抗原との接触があったかどうか、卵からのように孵化したか、つまり、全く新しくてアンロックされた状態なのか、ということを測る基準があります。ラボの検査方法で分別できます。一つ、その前に言っておきますが、免疫システムには、古いシステムと新しいシステムがあること。これは、このように具体的に想像してもらえるかと思うのですが、、、新しい免疫システムには、未熟なT細胞があります。これらは未熟で、まだ抗原との接触を持ったことがなく、そこにはあまりメモリー細胞も存在しません。記憶はこれからつくられなければいけませんので。古い免疫システムはその反対です。そこには比較的多くのメモリー細胞が存在し、未熟なT細胞は少ない。

ウィルスとのコンタクトがたくさんあったからですね。

ウィルスだけではなく、抗原全般です。これは、感染の場合もありますが、感染である必要はありません。体内にあってはいけないもの、全てです。残念ながら、場合によっては、自分の一部も免疫にそのように認識されることもあって、これは自己免疫疾患の分野です。しかし、ここで全てのことについて詳しく話しているわけにはいきません。免疫学は複雑すぎて、わかる人なんていませんよ。少なくとも私には、、、

論文に戻りましょう、、、

そうでした。戻ります。ここでは、、、T細胞の活性と記憶について検査することができるのですが、基本的な被験対象をまだこの新しいウィルスと接触していない人に絞ることによって、この人たちははたしてメモリーT細胞を持っているのか?という点を調査しました。ここで、大変興味深い結果がでたのですが、被験者たちに、T細胞が認められたのです。ここでの疑問は、どうしてそうなのか?なぜ、T細胞を持っているのか?間接的な結論を導き出すと、、、年齢が上がるにつれて、それまでにあった風邪コロナウィルスとの接触回数は多くなるわけですね。多分、ここで交差免疫がつくられるのでしょう。つまり、風邪のウィルスと接触して、交差免疫ができた。

それがいままでの大きな希望でした。

そうです。論理的に考えても、年齢が上がるにつれて、交差免疫も増えていかなければいけない。つまり、この活性化されたメモリーT細胞、 このT細胞と年齢。
驚いたことに、そこに相関性はありません。つまり、SARSウィルスと接触がない人たちは、年齢が上がるにつれて、このメモリー細胞がなかったのです。他の相関性をみてみると、はっきりわかるのは、CD4細胞の中のメモリーT細胞の割合が高くなれば高くなるほど、つまり、簡単に説明すれば、記憶があればあるほど、活性化されたメモリー細胞がある。この場合活性化とは、、、まだこの説明をしていなかったと思いますが、、、ラボの検査で、まだ SARS-2ウィルスとの接触がなかった人たちのT細胞を試験管のなかで、 SARS-2ウィルスと混ぜてどのような反応がでるか、ということを検査したものです。T細胞内のメモリー細胞の数が多ければ多いほど、T細胞のSARS-CoV-2ウィルスに対する反応が大きかった。しかし、コロナウィルスとの経験が多ければ多いほど反応が大きい、というわけではない。コロナウィルスに特化した効果である、という結論ではなく、単純に、このラボでの検査の際に、メモリー細胞がたくさんあるところでは、メモリー細胞からのシグナル、活動が活発になった、ということです。

これは、高齢者の古い免疫記憶で、ですね。

そうです。そこを言っておかなければいけません。しかし、まずはこの途中経過をここに置いておきます。メモリー細胞がたくさんあるところでは、活性シグナルがたくさん発動される。しかし、それは必然的に他のコロナウィルスとはかぎらない。他のものである可能性もあるのです。T細胞のおしゃべり、と言えるかもしれません。話題があってもなくても、T細胞は喋り続ける。

特化性はなく、ですね。

そうです。この研究のベースは、とても繊細な検査方法で、普通のラボではできないような方法ですが、免疫分野の測定の専門家によって行われています。使われた方法も特殊なもので、繊細な測定が可能です。ここで、興味深い遺伝子サンプルをみつけました。違う患者グループ、今度はSARS-2感染症にかかったことのある患者達で同じ検査をしたところ、突然、SARS-2ウィルスに特化したメモリーT細胞が高い割合でみつかった。全体的なメモリーT細胞の割合とは、無関係に、です。つまり、意味のないおしゃべりではなくなった、というわけです。ここには、全体のT細胞プール内の限られたT細胞、、T細胞全体を、T細胞プールと呼びますが、、これは、メモリー細胞が多くあるところと同じように、活発です。つまり、これは、純粋に背景的なものだけと関係があるのではなくて、ウィルスに特化したもの、それが感染を経験した人たちにはあった。

ということは、、、患者に焦点をあてて考えると、私が例えば、、、19歳だったとして、常に健康体、あまり免疫記憶はありません。つまり、あまり病気になったことはない。75歳と比べたりすると、ですね。しかし、それでも、SARS-2感染症にかかれば、全ての細胞がここに特化した反応をする、ということでしょうか。

そうですね、そう言うことができるでしょう。しかし、非常に要約されていますが。この研究の著者のように、まずは順番を追ってひとつひとつ前に進んでいってみようと思います。ひとつひとつの状況証拠を集めていかなければいけません。一番良いのは、まずは、これを途中結果として認識しておくことだと思うのです。ここからまた大変複雑になっていきますから。

楽しみです。

とりあえず、まずは、そうだと覚えておきましょう。もしかしたら、コロナウィルスとの経験とは関係がないことかもしれませんから。どちらにせよ、年齢とはあまり関係なく、CD4細胞内のメモリーT細胞の割合、つまりCD4T細胞の数で決まる。このことを覚えておくのと、免疫年齢、です。年齢が上がるにつれて、未熟なT細胞の数が減り、メモリーT細胞の数は多くなります。つまり、それまでに関わった多くの免疫的な記憶です。T細胞がメモリー細胞だ、というと、間違いですが、T細胞プールのなかのメモリー細胞の割合が高くなってくる、と言えるでしょうか。 ウィルスを持っていた人と持っていなかった人とのT細胞の比較をもう一度機能的な面からしてみますが、ここでは、T細胞を完全体のウィルスとではなくて、ウィルスの断片と接触させてみています。このウィルスの断片の大きさは、細胞にとっては一口サイズ、と言えるでしょうか。これを細胞は好んで食べます。そして、良く提示されて、発現している細胞をT細胞に提供して判断してもらいます。これがその役割ですから、そこでのT細胞の反応をみるのです。反応して、連絡するのが役割です。ジャーナリストのようなものですね。彼らは何かを発見したらそれについて話し始めますから、似ていると思います。このT細胞が発信するシグナルは、強い時と弱い時があって、バリエーションがあります。その他にもバリエーションはあって、全てのウィルスの破片に反応する、つまり全ての破片に働きかけるのか、特定のウィルスの破片だけに働きかけるか。ここが、この研究の分類の興味深いところなのですが、 SARS-2ウィルスに感染した患者を検査すると、メモリー細胞は全てのウィルスの破片に大変良く反応します。特に、ウィルスの大きな構造タンパク質、SとMとNです。これらは、ウィルスをつくっている大きなタンパク質の要素で、この部分をウィルスはたくさん持っていますので、免疫にとっては大きな挑発です。これらをT細胞がみつけた時には、活性化が始まります。このタンパク質のどの部分でも、です。その反対に、SARSウィルスとの接触がなかった患者、SARSに対して未熟な患者では、全く異なる状況でした。

SARS-2ウィルス、ですね。

そうです。SARS-2ウィルスでは全く違いました。そこでも、T細胞の反応はありましたが、タンパク質への反応は様々だったのです。つまり、あるタンパク質には全く反応しなかったり、他のタンパク質には部分的に反応したり。そうかと思えば、感染していた患者ではあまり反応がでなかったタンパク質に反応したり。不安定な反応です。感染患者のようには反応しません。これも、興味深い途中結果です。反応が不安定でバラバラである。バラバラな反応がウィルス全体におこっている。それに対して、感染経験者の反応はウィルスの大きな構造タンパク質に集中的に行われます。

ということは、反応がちらばっているので効果に無駄がある、ということですね。反応の効果も、じょうろで水をやる際に横に溢れるような感じでしょうか。例えるならば。

そうも言えるかもしれませんが、そこまでいくと過大解釈になってしまう思います。何かが無駄になっている、とは言えなくて、反応が部分的である、ということなのです。ここからまた先に行くと、、、感染者がいて、これは、別にSARS感染症でもそうではなくてもいいのですが、何かの感染症にかかった患者からT細胞をとって、風邪コロナウィルスのタンパク質に反応するかどうかみます。ここでは、 SARS-2ウィルスではなくて、普通の風邪コロナウィルスですが、ここで観察されることは興味深くて、つまり、細胞を準備して、、準備する、と簡単に言いましたが、この作業が本当にハイテクで、ラボで可能な高い分析技術です、、T細胞を準備して、風邪コロナウィルスとの反応をみました。興味深いことに、ここには交差反応があったのです。アルファコロナウィルスから違うアルファコロナウィルスへの。つまり、ヒトコロナウィルス299Eが、ヒトコロナウィルス NL63に反応した。そして、ベータコロナウィルス間でも同様です。つまり、ヒトコロナウィルスOC43と、ヒトコロナウィルス HKU1です。しかし、アルファとベータの間ではない。属間ではないのです。これは、ウィルス同士がかなり遠く、効果的な交差反応がない、ということでしょう。そして、 興味深いことに、SARS-2ウィルスへの交差反応も確認できませんでした。

どちらもから、ということですね。

そうです。これは、私がウィルス学者として判断する、ウィルス同士がどのくらい離れているのか、親等に一致します。SARSウィルスは、確かにベータコロナウィルスではあるのですが、かなり端のほうに位置します。遺伝子的には、他の2つのウィルスからみると基部のベータウィルスです。お互いに同じくらい離れていて、等距離です。私は学生に説明する時には、地理の例でしていますが、これは、マインツとケルン、この2つの年は西ドイツですが、お互いの距離は遠いです。ケルンはノルトライン=ウェストファレンで、マインツはラインラント=ファルツですから、州も違います。しかし、ビーレフェルトもノルトライン=ウェストファレンです。まあ、ビーレフェルトもケルンには若干近いですが、、、それでも離れています。たしかに、ケルンに少し距離的には近いとも言えますが、、、車では同じくらいの時間がかかりますね。車だと、ケルンに行くのとビーレフェルトに行くのもかかる時間は同じです。このような関係性です。つまり、SARS-2ウィルスがビーレフェルトで、アルファコロナウィルスがマインツです。このように距離の感覚は想像していただけるでしょうか。

感覚的には、ケルンの人とマインツの人は近い、と感じるかもしれません。アルファとベータコロナウィルスのように。

そうですね。実際に、上位的な類似性は、地理では説明できませんから。カーニバルもそうですが。そこまでいくとちょっとふざけすぎですね、、、笑

(カーニバルは)感染状況でも意味があることではありましたが、、、その話題は掘り下げないことにしましょう。

そうですね。先ほどの本題に戻りますが、、、この研究結果から、実際には本当の意味でのSARS-2ウィルスに対する交差反応、交差防御は少ないであろう、ということが推定されます。再照合のために、 SARS-2感染患者の細胞を用意して、ヒトコロナウィルスと反応させると、反応がかなり悪いことが確認されるのです。どこの部分でも反応は大変悪かった。 インフルエンザに対する反応と同じくらい悪いです。これはすべて背景的な反応です。ウィルスと直接関係があることではありません。言い方を変えると、、、本当の意味での免疫交差防御がある可能性は極めて低い、ということです。

背景的な免疫ですね。多くの人が期待していたような。

そういうことです。この研究結果から言えることは、交差防御ではなく、交差活動、交差反応である、ということでしょうか。つまり、細胞はシグナルを出すものの、あまり強くなく、感染を防御するだけの活性度も十分にない。この程度では免疫とは言えないでしょう。もちろん、これはこの研究論文での結果です。今後の解釈は違う論文が出てくればまた変わるでしょう。著者もここでとても注意深くはっきりと表現しています。SARS-2感染症の完治後に全く細胞免疫ができない、ということではありません。それはここでは全く検査されていません。ここで調査されたのは交差的な活動です。

つまり、、、、私がたくさん風邪を普通のコロナウィルスで経験していた、としても、新型コロナへの防御になるということは、可能性から片付けられた、ということですね。

うーん、片付けられえた、というのは十分に注意深い表現ではないと思いますね。私はもう少し注意深く表現したいですし、この論文の著者も大変注意深く表現しています。しかし、この方向での大規模な効果への期待が少し薄れてしまった、ということは確かだと思います。

違うほうの免疫は、先ほど少し触れていましたが、重症時に目立つ細胞免疫についてです。つまり、集中的ではない免疫システムは、日常的に考えるとメリットのように思えます。免疫が反応し、対戦モードに入る。これがデメリットになる可能性はあるのでしょうか。特化していないT細胞の反応、という点で。

この研究では、T細胞にこのまばらで不安定な反応がある、ということがラボの検査ではっきりと出た、というところから、SARS-2感染者で軽症症状であった患者と重症症状があった患者との比較をしました。この2つのグループに分けたのです。ここでも興味深い結果がでていて、、、ここでも結果を抜粋しますが、、、重症患者では、実際にこの不安定な反応がみられました。つまり、タンパク質の破片と接触した際に、構造タンパク質へのシグナルが不完全で、反応そのものは強く、メモリー細胞もあるのにもかかわらず、良い反応が行われるためにはもっと大量の破片、タンパク質の断片が必要だったのです。細胞自体はたくさん計測されました。シグナルはたくさん出ていますが、反応の模様が軽症者に比べると綺麗ではない。
このことは、さらなるラボの検査ではっきりとし、例えば、T細胞の転写パターンの多様性です。これは、全体的なRNAレベルでの代謝活動の特徴ですが、この基本パターンによって、T細胞のそれぞれの系列の機能単位、クローンのことですが、それを識別することが可能になります。重症患者の場合は、これがかなり多様である。つまり、ポリクロナール状態、つまり、種々雑多なT細胞のクローンが存在し、軽症者の場合は、感染後には強いクローン性がある。このなかには細胞免疫においてとても効果的に侵された細胞を攻撃するCD8のクローンもあり、実際にかなり集中的なT細胞の働きが起きているのがわかります。その反対に、重症患者においては、集中的な働きがあまりみられません。
この効果的ではない反応パターンは、古い免疫システムによくみられる特徴です。 当たり前ですが高齢者によくみられます。しかし、この相互関係の決定要素はラボでの検査における免疫年齢ですから、言い方を変えると、未熟なT細胞の数が多く、若い免疫システムに比べると、メモリーT細胞の割合が高い人、つまり、、広範囲におけるT細胞の記憶があり、未熟なT細胞の数も少ない場合には、新しい免疫活動や免疫記憶を構成しない。若い免疫システムは、このウィルスのために新しい免疫記憶をつくりますが、古い免疫システムは、過去の経験をもとに、免疫記憶を構成しますが、これが常に正しいわけではないので、バラバラな反応としてでてくるのではないか。

これは、若くてもハイリスク患者である場合にあてはまりますね。つまり、私が若くても、癌治療をしたあとだったり、その他の持病を持っていたりした場合に、私のT細胞の状態が重症化の原因になる可能性がある、ということですよね?

根本的には大変興味深い考察だと思いますが、特定の病気に限定することは避けたいと思います。なぜなら、免疫疾患では、まったく違う方向で出てくるからです。しかし、基本的には、経験が多いT細胞システムがあった場合、つまり未熟な細胞が少ない状態でメモリー細胞が多い場合、重症化へ対しての予防効果があり、あまり集中的ではない反応、そして、その後にそこまでよく記憶が構成されません。

しかし、基本的には、免疫的に高齢ということは、生物学的にも高齢、ということになりませんか?

そうですね。そこは一致しますね。ただ、この研究では初めて原因と効果が追求されているのです。実際の原因は、患者の生物学的な年齢ではなく、重症化の大きい要因がそれよりも免疫の年齢にある。

この新しい研究結果、T細胞の反応が多様である、ということは、ワクチンの開発や治療薬の分野でも応用したり新しい視点に繋がったりするのでしょうか。

勿論あるでしょう。そうだと思います。T細胞は本質的なものですから。これを確実にワクチンによってつくりたいのです。免疫記憶を発動させ、構成し、免疫システムの準備を促す。これがしたいのです。つまり、CD8とCD4メモリー細胞、そして、B細胞の領域のメモリー細胞が欲しいのです。そして、B細胞から抗体がつくられ、CD8-T細胞から細胞反応が起こり、CD4-メモリー細胞からの補助がある。これが、期待される効果のひとつです。つまり、 CD4-細胞が免疫記憶を CD8-細胞に伝達する。肺に行ってくれ!体のどこかをウロウロするのではなく、ウィルスは肺にいるぞ! このようなワクチンを肺に接種することができたらより良いでしょう。そうすれば、場所に特化した免疫記憶がつくられます。肺への接種は難しいですが、鼻には可能です。これが今後の未来のワクチンです。第一世代のワクチンではまだそのようにはしませんが。はじめは普通の筋肉内注射型です。しかし、もうすでにこの鼻への接種型も考えられています。局部に情報を与える方法、このウィルスは呼吸器にあるわけですから、メモリーリンパ球が正しい免疫反応を呼吸器にむけて発動できるのです。このような研究も実際にワクチン開発で行われています。これから出てくるワクチンは、、、ワクチンについては、今後のポッドキャストで何度か取り上げなければいけない話題だと思います。なぜなら、幸いなことにタイムリーな話題になってくるからです。もう少しでワクチンができます。近々であることを願いますが、近々、とはこの場合、数ヶ月、ですが。

そして、第一弾はブレークスルーにはならないのですよね。

そうはならないでしょう。つまり、相関免疫、という意味で、です。麻疹のようにワクチンが生涯続く免疫をつくって2度と感染しなくなる、というものにはなりません。そう簡単にはいかないのです。まずは、重症化の予防であり、風邪のような表面的な感染は(ワクチンをもってしても)防げないでしょう。そのように考えてもられば。ウィルスに対する細胞反応へもっと強く誘導するワクチンも出るでしょうし、中和抗体の反応を促すワクチンも出るでしょう。これらが、どの程度良くCD4-細胞のレベルで免疫記憶を構成するのか、という点はもう少し良くみていかなければいけないところだと思います。これに関しては、全てのワクチンで同じような効果はでないでしょう。

最後に、もう一つ。先ほど、免疫年齢と、生物的な年齢について出ましたが、、、ワクチン開発の上で高齢者の重要性はどうなのでしょうか?どのようにできますか?JAMA Internal Medicine誌での最新の論文では、多くの研究でのその層の調査が少なすぎる、とありましたが。

そうですね。これは、初めからそうだったのですが、大変自然なことだと思います。ワクチンはまずは、効果があまりなく、副作用があるかもしれない、という条件下で評価されます。ということは、まず治験者となるのは、健康な若い世代。勿論、子供も対象にしませんし。病気を持っていない成人です。ワクチンの開発会社も、手当たり次第に何かしていわけではありませんし、初めはワクチンの供給が十分にはできない、ということも重々承知の上です。そして、はじめに完成するワクチンが完璧なものではないこともわかっています。第一世代のワクチンでは、まずはハイリスクを優先させます。そこには、勿論高齢者も含まれます。ですので、今、大きな3フェーズの段階に入っている治験では、高齢者を対象にしているはずです。勿論、開発の詳しい状況は私にはわかりませんが。そうでなければ、高齢者に接種することはできません。

今日はここまでですが、免疫的には少しがっかりする内容だったかもしれません。しかし、日々このウィルスに関する新しい知見を得ることができることは素晴らしいことで、これからも素晴らしい科学分野からの情報を期待しています。ありがとうございました。



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