ドイツ@Sars-CoV-2 コロナウィルスアップデート(60)  2020/10/13(和訳)

ベルリンシャリテ ウィルス学教授、クリスティアン・ドロステン
聞き手 アンニャ・マルティーニ

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あちこちで感染者数が増えています。ドイツも例外ではありません。先週は4000人以上の新規感染者が1日ででました。コロナ対策の強化を検討しているのは大都市だけではなく、地方の地域でも感染者の増加がみられています。今日もベルリンのウィルス学教授、クリスティアン・ドロステン氏にお話を伺います。聞き手はアンニャ・マルティーニです。

先週も感染者の増加がありました。4000ケースを超えています。これはうっかりミスのようなものでしょうか。

いや、そうは思いません。これは成り行きであって、同じ発展状況を他のヨーロッパ諸国でもみることができるからなのです。多分、ドイツは2、3週間遅れているのでしょう。勿論、これをどのように評価するか、ということです。私が思うには、問題ではあると思います。これから社会的な問題が更に大きくなっていって、争いも今後増えていくでしょう。公で行われている討論をみてもわかりますが、メディアのなかでは逆手に取ったり、対立が起こっています。このようなことが増加してくるでしょう。

どのような危惧をされていますか?

今、、、政治的にも、正しい決断をするのが大変困難な時期だと思うのです。ここ数日、討論されている宿泊禁止令をとってもそうです。いくつかの州が、感染の多い地域から自治区域を保護する必要がある、という印象を持ったことからとられた対策だと思いますが、これは基本的考慮、ほとんど反射的なものでしょう。しかし、それぞれがまとまりなくに別々に行ってしまうと、不満はでてくるのです。公で怒りを顕にしはじめる人が出てきて、、様々な影響がでてきます。それぞれが、一体何が起こっているのか、などとということを説明しはじめ、、結局対策の意味などすらわからなくっていってしまうのです。そして団結、という、今、とても重要で必要なもの、第一波でドイツが示した社会の団結力というものが、失われる危機に晒されてしまいます。

この、宿泊禁止令、というのはそもそも意味があるのでしょうか?リスク地域からの訪問者には陰性証明などが要求されていますが、効果はどうなのでしょうか?というのも、検査の結果というものはその時だけの証明ですよね。

検査対策やその使用方法、そして検査の意義などは、ここ数日の間で再度政治的なレベルで検討されています。その結果は近日中に新しい案として発表されるでしょう。勿論、これらも常に調整されていかなければいけませんし、抗原ラピッドテストもそろそろ市場にでてきています。これを今後使っていくことになりますが、これもただの一部にすぎません。全体的にみると、ウィルスは、予測していた通り地理的に広範囲で拡大中です。ほとんど分散状態です。現在、驚いたことに、ドイツの左上の端のエムスランド、、私たちの故郷ですが、、ここでも感染が爆発しています。ここは本当に何もない地域ですからね。

そうですよね。

周りには全く大きな都市もありません。それなのにも関わらず、感染が爆発している。ウィルスは今後このように、地理的に拡がっていくのです。まだ、今の所は大都市に集中しています。人口密度が高く、人口的な年齢層も若いからでしょう。しかし、これから(エムスラントのような)予期せぬことが頻繁に起こってきます。ウィルスはどんどん拡がっていって、地域別に行う対策はどんどん困難になってきます。ここで重要なのは、全体の対策を確立すること。起こった事の後を追うだけにならないためにも、です。
(感染が)起こる速度が大変速いため、行政も、新しい発生数と感染者を押さえ込みながら正しい決断をし、社会的にも比較的ダメージが少ない対策を打ち出していくのは至難の技でしょう。どうしてもその後を追う形になってしまいますから。つまり、今、RKIが新しい感染状況を発表しても、それは7日間前、もしくは10日前に起こったことの結果だからです。

ということは、常に少しタイムラグがある、ということですね。

そういうことです。これを調整する対策を打ち出す、というのは政治に対する大きな課題でもあります。というのも、もし、今日、新たなロックダウンを決行するとして、理論的に考えた完全なるロックダウンですが、そうしたとしても、1週間、多分、2週間の間は引き続き感染者は増え続けるでしょう。これは、もう既に新しい感染者がうまれているからなのです。来週、感染者として登録される人々は、今、もう感染しています。多くの人がまだわかっていないだけで。

それが、まだ私たちがしっかりと理解していないことであるように思います。今、感染者が増加しています。しかし、こう言ってしまうのもどうかとは思いますが、少し無関心、というものもあるように感じるのです。つまり、みんな外に出たいですし、普通に通りを歩きたいですし、レストランにも行きたいでしょう。そこまで納得していない、と言えるでしょうか。そのなかで、また政治的に対策の強化をする、というのは、容易ではないと思うのですが、、、

これは、誰もが精神的に疲れてきたからだと思うのです。単純に、このまま維持するのは大変難しい。それと同時に、医学的、そして社会的にもメディア的にもまだみえていない問題があります。まだ高い致死率には至っていない。集中治療病棟もいっぱいではありません。例えば、スペインなどではもうすでにそのような状態になってしまっていますが。そして、巷では混乱するような情報も飛び交っています。あの、アメリカとイギリスの学者たちの表明もそうですが、あのようなものは大変混乱を招きます。

公開状、ですね。

そうです。ドイツ国内でも反響があります。これは、メディアや、公の立場にいる人たちによる、問題点の理解と団結を阻止する行為です。

この公開状の内容は、ハイリスクグループだけを守り、高齢者だけを守れば、若い世代に普通に生活する可能性を与えることができる。そして、最終的な目標は、より高い集団免疫を得ること、ということのようですが、このようなことはできるのでしょうか?

この案に賛同できない2つの点があります。この点では、すでに春の時点で社会的な同意を得られたものですが、一つ目は、高齢者を完全に隔離することはできない、ということ。そんなことをすれば酷い状況になってしまうでしょう。例えば、老人ホームは閉鎖され誰も訪問するすることができなくなります。しかも、全ての老人が老人ホームにいるわけではありませんから、家族間の行き来も禁止されなければいけません。これは考えられないことですし、実行不可能です。 もう一つは、若い世代にもハイリスク患者がいる、ということです。その数は少なくはありません。この感染症を若い世代で野放しにしたとしたら、一度に多くの若い感染者が出てきます。今、起こっていることはパンデミックなのです。私たちは免疫学的にこのウィルスから守られていないのです。そして、若い世代のハイリスク患者の数は多いので、そこから医療の負担の限界がくるでしょう。ここで発生する患者は社会的にも全く異なる層の人たちです。若い家族が父親を失ったり、母親を失ったりする可能性がでてくる。これは全く違う意味をもつ結果です。そのようなことをさせるわけにはいきません。

それらを防ぐするために何ができるのでしょうか。集中治療室がいっぱいになるような数の患者がでないようにするためには。

それをなんとか阻止できることを願います。今、この時に、学者達、この状況の把握をしていてコミュニケーン意欲のある学者達が、世間に、どのような危機なのか、皆で協力しあえば比較的良く阻止することが可能であることを伝えようとしています。共に理解することができるなら、、、どうしてなのか、という理由を理解できれば。どうしてしなければいけないのか、という理由ですね、どうして、今、例えば、接触を控えなければいけないのか、ということなどです。そして、手遅れになることもある、ということ。集中治療病床がうまるまで待ったとしたら、もうちょっとやそっとでは止まらないくらいの状態になってしまいます。誰もがその想像ができるでしょう。しかし、その想像をすることにも疲れてしまった、という印象を受けます。 単純に、早めの対応が重要なのです。そうすれば、比較的少ない対策ですむのです。対応が遅れたら、、、手遅れになります。 そうなってしまったら、対応ではなく、修正しなければいけません。この、修正、舵を切り直すのは信じられないほど大変です。周りのヨーロッパ諸国で既に起こっていることをみようとしないで目を背けることは、ただの盲目です。ほんの、2週間ほど先の工程なのですから。比較的軽い対策からはじまって、2週間で爆発するのですから。

何をみているのでしょうか。私たちは盲目なのでしょうか。

そうですね。そうだ、と私は思います。例えば、スペインでは、地域によってはまた集中治療室が満員になっている、ということをみることができるのです。地理的にも大きな範囲です。このようなことがドイツで起こらないだろう、と言える理由などありません。確かに、なぜドイツでいくつかの部分での感染速度が遅いのか、という理由はあるとは思います。そのことについては、何度もお話しましたが、例えば、家族構成などが違うわけです。ドイツのほうが単独世帯の数も多いですし、世代もはっきりと分かれています。スペインでは違うでしょう。そのような理由からも、感染流行が拡散する速度が速い。そして、検査診断の数も少ない、ということも理由のひとつかもしれません。気づくのが遅かったのかもしれませんが、全体的には、ウィルスは同じです。社会構造も似ています。同じことは起こらないだろう、と目を背けることはしてはいけないのです。

つまり、注意深く、再度AHAルールに従い、換気をよくし、満席のレストランにはいかないなど、、、そのようなことに注意すれば、大丈夫だ、ということでしょうか。

うーん、、、決め手となるのは、これは何回も繰り返し自覚するべきであることで、多分、まだきちんと理解できていないことでもあると思うのですが、、、2つの対策のコンビネーションが必要である、ということです。つまり、AHAルール自体は悪くはありませんが、少しキャッチーになっているのと、少し簡単に考え過ぎかもしれません。つまり、AHAルール、Abstand(距離)、Hygiene(保健衛生)、Alltagsmasken(日常マスク)は、たしかに、全般で効果があり、誰もが覚えることができるものでしょう。それはそれで良いとおもいます。しかし、それ以上に必要なものがあって、それがクラスター対策です。これは、この感染症のように過分散的に拡散する際の基本です。社会全体で必要な2つの対策のひとつは、全員ができて、そこまで制約がないもの。そしてそこまでのウィルス拡散防止の効果がないくてもかまわないもの。効果は大体20%くらい。これが、距離対策であったり、衛生やマスクですね。社会全体において全員がする。しかしそこまで決めてにはないもの。その他に必要な対策は、確実にクラスターが発生しているところで集中的に効果があるものです。 これは、今のドイツの弱点であり、登録システムの弱点でもあるでしょう。因みにドイツだけではないですが。この具体的な感染ケースの把握は、クラスター源での感染状況を把握するものであり、つまり、どこで感染したのか。私たちは今だに、前向きの感染追跡に集中しています。つまり、この今感染している患者はこの数日間で誰に感染した可能性はあるか。誰と接触していたか。前向き対策によってこの患者は自宅待機させられ、これ以上感染させないようにするものです。 しかし、患者の感染が発覚した時点では、感染性は実際にはもう終わっています。数日前に数人感染してしまった人がいたとしても、この人たちが感染拡大を進めるわけではなくて、感染を拡げるのは実際にはクラスターであり、先ほどの患者が感染した所です。今だに、感染はクラスターから拡がっていきます。保健所が、感染状況の多様化により、どこから感染が発生しているのか、という追跡が不可能になっている、と発表していても、これはウィルスが拡散する現実の正しい説明ではありません。これは、保健所が持つ印象の説明であって、これは患者が保健所の聞き込みの際に7日〜10日前の感染の可能性がある期間内の詳細を話すことができないところからの印象です。 このようなことは他の風邪の場合でも同じです。思い出せないのです。7日〜10日前に、どのような特別なシチュエーション、リスクがあるシチュエーションにいたか、などと覚えていません。問題は、この7日〜10日前に感染してしまったであろうと思われる危険なシチュエーションはまだ存在する、ということです。このクラスターは引き続きホットスポットなのです。誰も知らず、誰の感染も報告されずに、このクラスター源から感染者が出ている。今、だんだんと接触追跡が困難になってきていて、保健所が次々と、「そろそろ限界です。ドイツ連邦軍に応援を要請します」とギブアップしている状況がメディアでも報道されています。これから、調査方法を、真剣にクラスター源に集中して行う方向に変えていく必要があります。今の時点での登録統計から受ける印象は、親戚での集まりや、世帯から感染が拡がっている、というもので、職場や公共交通機関ではない、というものです。

レストランともですよね。

そうです。このようなところは今現在、統計には入っていません。保健所は、プライベートな枠であり、親戚での集まりであり、世帯からである、と。ただ、統計を再度しっかりとみてみると、登録されているケースの半分以上は感染源が不明である、とあります。ということは、大多数の感染が親戚の集まりである、となっていても、それは全体の感染者の大多数なのではなくて、追跡ができたケースのなかの大多数、という意味なのです。そして、追跡ができたケースというのは少数です。これが感染が拡散する印象です。しかし、拡散、という性質は最終的には印象でしかありません。人々は、どこで感染したか、ということを説明できないのです。そこで、この私がもう既に何週間前から言っている、国民全員がクラスター接触日記をつけるべきだ、という提案です。 そう面倒なことではありません。毎晩、例えば、携帯やカレンダーやメモなどに、今日どこにいたか、ちょっと怪しいと思ったところを書いておきます。つまり、今日のシチュエーションで、密室内で少し人が多く集まり過ぎではないか、と思った場合など。たとえ全員がマスクをしていたとしても、ちょっとこれは、、、と思った場合です。それを晩に書いておくと、2つのことが得られます。一つ目は、このリストは、どこで感染した可能性があるか、と保健所に聞かれた際に、思い出す手がかりになる、ということ。保健所もクラスター源を認識できるでしょう。これが第一の効果。追跡調査が改善されます。第二の効果は、日常の上で人々が、そのようなリスクのあるシチュエーションに置かれる可能性がある、という意識が高まり、将来的にそれを回避しようとするであろう、ということ。危機感覚が繊細になるからです。

リスクが大きいシチュエーションとは何か、ということをわかってるか、ということですよね。

そこです。レストランに行って、本当はテラスに座る予定だったのが、ちょっと冷えてきたし、予約をした席は中の席だった。そしたら、中に入るでしょうね。でも、それを10日後に覚えていますか?

多分、覚えていないと思います。

突然熱が出てきた時に思い出しますか?思い出さないと思うのですよ。多分、「うーん わかりません」と言うか、「たぶん家庭内じゃないでしょうか。妻も熱がでていますから。多分、家庭内で感染したのだと思います」と言うでしょうね。でも、そのレストランには妻も一緒に行ったのです。でも、それを書き留めなかったせいで覚えていませんでした。レストランだけに絞りたくはありません。他の日常のシチュエーションでも同じです。スポーツ、趣味、そして職場でもです。この登録リストで抜けている部分を、書き留めることで埋めることができるのです。例えば、職場でのミーティング。定期的に行われるものではく、30人が室内に集まった、とします。全員、距離をとってマスクをしていました。しかし、定期的に行われるものではないために、そこで感染した可能性もあるでしょう。少なくとも、それを書き留めておけば、その可能性について考えることもできますし、あとから時期的に該当するかどうか、ということもはっきりするでしょう。 これは誰もがすることができることです。日常的に実行できることです。「いや、私たちは受け身なので。病気になれば保健所がなんとかしてくれるでしょう。対策についての議論や、接触日記や追跡調査とかよくわからないものは、専門家にまかせておけばいいし、テレビのトークショーで話してもらえばいい。娯楽番組だし」と言うわけにはいきません。

つまり、誰もが自分の接触を書き留めたとしたら、一歩前進する、ということですね。

人々の関与、という面では確実にそうです。もっとアクティブに参加することになるからです。社会全体でみても、理解と防止のプロセス的にも改善するでしょう。私は、ここで、防止、というところを強調したいと思います。なぜなら、政治家だって、すべての日常で起こるシチュエーションを管理することはできませんし、しかも州ごとで行われることが理想的なのでしょうけれど、そうではなくて、社会はこれから能動的な参加モードに切り替わっていかなければいけないのです。そこには、このような意識を高める練習、クラスター接触日記の実行などが含まれるでしょう。

それによって誰もが貢献できるわけですね。連邦政府は今週、決議をする予定です。その内容は新しい検査対策ですが、検査数を減少させる代わりに的を絞った検査をする。秋の対策として、先生的には正しい内容だとお考えでしょうか?

私は、PCR検査の数を少なくする、ということがポイントなのではなく、ここでは2つのことが重要です。一つ目は、PCR検査自体が少なくなる、ということ。試薬などが足りなくなるからです。そのような理由からいままで行ってきた大規模な空港での検査ができなくなってくるでしょう。つまり、純粋な医療ラボだけではなく、このような大規模な旅行者検査などを担当していたサービスラボも同様の問題を今後抱えることになります。医療面での優先順位もありますし、今後、患者増えてきた際にはもちろんそちらを優先させなければいけませんから、そのような広い範囲での検査に使えるPCRの素材が足りなくなります。これが第一の影響です。 もうひとつの影響は、抗原ラピッドテストが市場に出てくる、ということです。そのなかにはかなり品質も良いテストもありますが、使用方法が違いますし、これは、現時点での感染状況の把握として使われるべきであり、医療的な感染診断ではありません。つまり、感染しているのか、していないのか? Covid-19のケースなのか、そうではないのか? その判断はこのテストでは容易ではない、ということ。しかし、今日、この時点で、テストをしたこの瞬間に、感染性があるかどうか、ということは判断可能です。そして、これは大変重要なポイントです、例えば、老人ホームの受付を想像してみてください。そこには入居者の家族が立っています。お見舞いに来たのです。このテストを使えば、今の段階での感染の恐れがないことを確認できますから、訪問を許可することが可能になります。しかし、これは、「私は検査したから、明日ホームパティをすることができるわ!私の家族はウィルスを持ってないってことだから」ということを意味するものではありません。この抗原ラピッドテストは日常的にかなりはやい賞味期限があるものだ、ということを理解しなくてはならないのです。このテストの結果は、感染の有無ではないこと、ただ、今、この場で感染性があるかどうか、という判断である、ということを全員が理解する必要がありまます。しかし、これによってかなり多くのことが可能になります。今までは、この感染性の有無の判断をPCRでしようとしていましたが、PCRは感度が高すぎるのです。ウィルスがもう少ししか体内になく、とっくに感染性はなくなっていても、陽性反応はでます。

残留ウィルス、ということですね。

その通りです。

ラピッドテストが導入されたら、もう少しいろんな面で自由がきくようになりますよね?

そうなることを祈っています。勿論、これも近々使えるようになるテストの数にもよります。多くの国が同じ製造元から注文しますから。ここでも市場競争が起こります。しかし、そうであったとしても、数週間後、数ヶ月後には、たくさんの抗原ラピッドテストを使うことができるようになるでしょう。コストも払える範囲ですし、これは言っても良いと思いますが、、値段は破格の金額ではないので、多くの分野、風邪のシーズンで症状が出ているひとなどにも使うことができるようになるでしょう。老人ホームの訪問、イベントのなかにも重要な開催されなければいけない行事もあるでしょうから、そこでの使用です。

今日は別のテーマも用意しています。まだまだ疑問的が多い問題、免疫、についてです。T細胞免疫、つまり免疫機能内のメモリー細胞についての論文が発表されました。どのような内容なのでしょうか?

この論文は、2週間前のポッドキャストでお話した内容と同じ分野のものですが、短くまとめると、検査対象のグループ、とはいっても、ドイツ全国の大きな合同研究なのですが、そこでまだ感染していない人たちのT細胞の背景的な免疫反応には特異性がない可能性がある、というものです。特に、高齢の患者、年齢的に高齢な場合と免疫機能が古い場合です。免疫機能には年齢のようなものがあります。このような患者でのSarsウィルス、及びにSars感染症に対しての反応がバラバラで、標的が定まっていなかったこと。このことから、細胞免疫機能の学習能力が、古い免疫機能では下がっている、と考えられる、というものですが、今日、いまから紹介する論文、サイエンス誌に掲載されたものでは、内容が真逆です。
この研究はT細胞免疫についてのもので、こちらの内容のほうが少し希望が持てる、と言えるでしょうか。免疫学の分野でも討論の真っ只中ですが、結果にはこのようなものと、別のものとがありますが、今の時点では、実際のところはどうなのか、という結論を出すことはできません。T細胞から測ることができる数値すべてが、背景的なものである、とは言えないからです。それと同じように、もうすでに誰もが防御機能を持っている、とも言えません。つまり、夏のあたりで言われていた見解と同じような位置付けで、ここでも何度も話しましたがつまり、全体の30%がT細胞反応を過去の風邪コロナウィルス感染症から持っている。心配することはない。自然につくられる集団免疫までそう遠くはない。この見解も多分正しい見方ではないでしょう。 しかし、また論文に戻りますが、大変ランクが高く、査読も終わって発表されたものですが、ここでは、感染をした患者と、していない患者で調査が行われています。過去の風邪コロナウィルスの感染からの記憶があることが確認されていて、つまり、前から存在するCD4細胞レベルでの記憶、メモリーヘルパー細胞があった

感染の記憶を持つもの、ということですね。

そうです。これがT細胞のシステムで、補助的な機能、つまり、病原体に晒されている細胞と、免疫反応を成熟させたり、B細胞から抗体がつくったりする、プラスマ細胞、もしくはエフェクター細胞、CD8細胞のような細胞傷害性T細胞、そのような細胞間の連絡を請け負います。このCD4細胞、ヘルパーT細胞の切替部に感染の経過を記憶するのです。ここで言えることは、Sars-CoV-2の感染をしたことがない人からも、メモリーT細胞からシグナルが確認されています。つまり、コロナウィルス同士の類似点、Sars-CoV-2が風邪コロナウィルスと共通して持っている部分が既存するT細胞記憶をつくるのに十分である、ということです。

つまり、人生のなかで沢山風邪をひいた経験があれば、そのなかにコロナウィルスが入っていた可能性があり、もしかしたら少し防御効果がある、もしくは、私のメモリーT細胞が思い出すかもしれない、ということでしょうか?

正確には、私たち成人誰もが、風邪コロナウィルスの感染後にはっきりとした証が残っているものです。そして、この研究内で調査された大勢の被験者では、Sars-2タンパク質部位との接触時にT細胞の発動がみられた。つまり、Sars-2ウィルスを人生のなかでまだ一度もみたことがないのにも関わらず、風邪コロナウィルスに対するすべての反応がおこったわけです。ここから推定できることは、この風邪コロナウィルスに対するタンパク質部分はSars-2ウィルスに似ていますが、決め手はその似ている部分がどこまで似ているか。つまり、ゲノムのなかでの類似点はどれくらいなのか。そこの一番似ているところで、被験者には思った通り交差反応がみられています。著者はここから、年齢層のなかでもかなり異なる感染経過があること、全く自覚症状がない人もいれば、重症化する人もいる。この感染の度合いの違いは、それぞれ異なるメモリーT細胞の記憶率なのではないか、という結論にいたっています。

つまり、たくさん風邪の経験があれば、少し防御効果がありそこまで重症化しない。そう言っても良いのでしょうか?

そうですね、すでにデータからそのように考えている学者もいます。わざと今回は紹介しなかった論文があったのですが、、、、今、先ほどのような質問がでましたので、次のポッドキャストで詳しく話したほうが良いかもしれません。免疫学的な研究から、完治直後、つまり風邪コロナウィルス感染の比較的直後にもっとも強い新型コロナウィルスへの防御がみられた、というものですが、この研究は根本的なところでかなり疑問点もあり、(今日は)準備はしてきませんでした。しかし、研究でそのような方向の結果がでてきてはいます。なんらかの期待やそのように解釈したい、という気持ちがあったとしても、学者としては常に疑い深くデータをみていかなければいけません。とはいっても、そのようなことがない、とはいえませんし、直前に起こった風邪コロナウィルスの感染が新型コロナの感染を防ぐ効果がある可能性もないわけではありません。

ということは、そこをもっと調査する必要がある、ということですね。

勿論です。多くのチームが研究を行なっています。

違うところにも目をむけていきますが、これはずっと私たちが興味を持っていることでもあります。現在、いくつかの州では秋休みですが、また学校がはじまります。感染伝播パターンです。そのことについてはもう何度もお話いただいていますが、子供たちは高齢者にとってのリスクなのでしょうか?そうではないのでしょうか?大人と同じように感染し、感染伝播するのでしょうか?祖父母には会わせない方が良いですか?感染伝播を詳しく調査した研究があります。この研究ではインドのデータが詳しく分析されていますが、どのような結果がでたのでしょうか?

この論文は査読が終わり、サイエンス誌に掲載されました。この論文の興味深いところは、インドで行われた、というところです。つまり、ロックダウン対策を決行するのが困難な国です。試みたようですが、インドに行ったことがある人は想像がつくように、人口密度の高さ、そして貧困の差もあって、簡単には、「家にいてください」とは言えない状況です。人々はそう簡単にはしないでしょう。振り返ってみると、多分あの期間は第一波だったと思うのですが、インドのような国での調査はかなり自然な感染拡大状況に近い、と思います。他のロックダウンがされた国々に比べると。  
この興味深い論文は、アーンドラ・プラデーシュ州とタミル・ナードゥ州での調査です。これはインドのなかでも比較的良い医療体制がある州で、大勢のスタッフによる追跡調査が実際に行われています。勿論、ここでも症状がベースです。つまり、世帯のなかで感染ケースがあった、ということは症状がでているケース、ということです。その前にどうだったか、ということはわかりません。しかし、症状がでているケースが発見されれば、基本的には5〜14日以内にすべての世帯内を検査する、ということになっています。大変多くのケースを調査しています。統計を見る限りでは、ですが。263000第一感染ケースがタミル・ナードゥ州で、アーンドラ・プラデーシュ州では172000ケース。全体での接触は300万以上で、それがすべてリストにされています。想像してみてください。膨大な登録量と莫大な人材動員です。 
この研究では575000の接触に絞り、トータルで疫学的な資料と検査結果がでている85000弱の第一次症例があり、この莫大な数をインドで調査する、というのは本当に驚異的な実地疫学の調査です。そこから出てきた結果も興味深く、例えば、インデックスケースの接触、インデックスケースは常に第一次感染者を示しますが、そこでは平均値が7、3。これはかなり高い数値で社会的にも世帯的にもかなり構造が違う、ということがこの平均7、3の接触回数から読み取れるかと思います。世帯の大きさも私たちのところとは全く違います。インデックスケースの0、2%は80接触を持っていました。これは本当に大きな追跡接触範囲です。続いて興味深い結果は、インデックスケースの70%弱の接触ケースには陽性者が含まれなかった、ということ。つまり、ここまで大きな接触ネットワークであるのにも関わらず、70%が感染の証明がなかった。ここからもどのくらいの可分散効果があるのかというのがわかるとおもいますが、このインドでのシチュエーション、感染がクラスターとスーパースプレッディングで拡がる状況から、また今日のはじめにお話したところに戻ろうと思います。ドイツでもこのように拡がっていくのです。インドでもそうですが、この感染症はクラスターから拡がります。

ということは、このインドの研究論文から学べること、もしくはみてとれることは、クラスター状況、ということですね。もっとクラスターに気をつけるべきですか?

これがやはり大変重要なメッセージでしょう。この集中的に調査された多分自然の感染拡大に近い状況での調査、制御されていない感染拡大状況からの解釈は、クラスターからの感染伝播です。内部での興味深いチェックデータがあり、このシチュエーションでは、二次発病率が11%、つまり接触による新しい感染の二次発病率、インデックスケースから拡がる率ですが、これは通常値で、私たちもハイリスク接触の際には同じような数値を観察しています。つまり、15分間の対面接触で、です。低いリスク接触では5%。私たちの数値はかなり似ていますので、このクラスターからの感染伝播性質は(この感染症では)典型的なものである、と考えても良いと思います。これがこの論文の一番重要なメッセージです。もう一つの重要なメッセージは、感染伝播が同じ年齢層の間で起こる、ということ。つまり、誰が誰に感染させたか、干渉なしでのシチュエーション、自然な感染拡大に近い状態で見た場合に、同世代のグループのなかで感染が起こっている。社会のなかで一番接触が多いからです。

クラスターの説明にもなりますね。つまり、子供は子供と一緒にいますし、両親は大人と、高齢者は高齢者のクラスターということです。

そうです。接触は世帯同士であって、世帯内ではない。社会の層、社会のなかの活動範囲です。

ひとつの希望について初めの方で触れましたが、ウィルスが変化していって、いつかあまり危険ではない型、少し酷い風邪程度、鼻水が止まらない、などくらいになるかもしれない、というものですが、これがもうすでに起こっているのではないか、という希望があります。新しい論文がでていて、これはサイエンス誌のプレプリントです。何が起こったのでしょうか?何をみつけだしたのでしょうか。ウィルスは変化したのでしょうか?現在のウィルスは春のウィルスと同じものですか?

これは興味深いです。ウィルスの変化は常に観察されてきました。RNAウィルスがゲノムのコピーの際に比較的多くのミスを組み込む、というのは確かです。面白いことに、今朝、医師からメールが入っていて、ランセット誌に掲載された論文についての内容への質問だったのですが、これは、今、お話しようとしている論文ではなくて、数ヶ月前にポッドキャストでお話したものです。つまり、遺伝子内のウィルスのバリエーション、遺伝子8ですが、そこの欠失、382のヌクレオチドのなかで空いている部分が臨床で確認された、というものです。結果的にもしかしたらウィルスは実際に弱くなっているかもしれない。これはSNSでも拡散されていました。これが正式に発表されたのが8月に入ってからだったので。ここからも世間での誤解がよく起こることがわかります。
このウィルスのバリエーションは、シンガポールで春先、感染拡大が始まった初期の段階、まだ数週間しか経っていない時点で発生して、また消滅しました。ウィルスが増殖する段階でゲノムの一部を失う、という事故を起したり、病毒性が増加したり、つまり、強くなったり、というような現象はコロナウィルスでは頻繁に起こります。そして、このようなウィルスは限定的にある程度の範囲で拡大したりします。病症経過もほとんど場合は軽いものです。しかし、パンデミックのような広範囲で大きな感染の波が起こるような状況では、この弱いウィルスは消滅してします。なぜなら、変化していないウィルス、野生型と呼びますが、このタイプがよりメリットをもっていて、変化した弱いウィルスよりも拡散しやすい。競争的なメリットを持っているのです。このような学術的な論文の内容から、ウィルスが弱くなったから、感染者が多いのにも関わらず集中治療病床に空きがあるんだ、という結論を導き出してはいけません。学術的な研究、過去の研究結果で今ではもう古い内容となっているものと、現在の状況とははっきりと区別する必要あります。そして、このプレプリントも同じように理解し、もう少し詳しく読み込んでいく必要性があります。
さて、これは有名なD614G変異体です。少し短く説明した方が良いでしょうか。たしか4月だったでしょうか、この件に関してはじめて話したと思いますが、あるウィルスがものすごい勢いで世界中に拡がっていった、つまりスパイクタンパク質の表面タンパク質のアミノ酸の交換をポジション614でするウィルスです。変異体が拡がった、ということが注目されたのですが、まずヨーロッパでみつけられました。多分北イタリアで発生したのでしょう、それから北米の東海岸から全土に拡がっていきました。これが、D614Gバリエーションです。このウィルスの拡大状態から、このタイプは感染力が強くなったのであろう、と推定したのです。突然優位になりましたから。それでも、当時から大きな疑念とともにこの状況をみてはいました。というのも、偶然であるかもしれなかったからです。つまり、ウィルスの一系列が偶然拡がった。偶然、感染流行があるところにそのウィルスがあった。この感染源から次の感染流行に繋がりますから、偶然このウィルスが南米に渡ってしまって、そこで、ウィルスの創始者群となった。ここには違うウィルスは到着しなかった。つまり、これが何を意味するか、ということは誰にもわからなくて、どうして、この特定の遺伝子マーカー、つまり、遺伝子の性質が突然地理的範囲で拡がっていくのか。偶然かもしれませんし、ウィルスの増殖機能に原因があるのかもしれません。

ということは、まだ同じウィルスだ、ということでしょうか。

そうです。ここには大した意味がないかもしれません。ウィルス学では頻繁にまずはサロゲートシステムで実験をするのです。まず、Sars-2ウィルスの表面の糖タンパク質があります。ここからラボでの実験をするのは簡単ではありません。つまり、Sars-2ウィルスを変える、ということですが、これについてはこれから話します。まずは変化させやすいウィルスを使います。この場合はレンチウィルス、HIVウィルスですが、このHIVウィルスに変化したSars-2ウィルスの表面タンパク質と変化していないものを加えた場合にレンチウィルスが何をするのか、ということを観察するわけです。ここから多くの結果がでましたが、そこからこの拡散速度が速いウィルスのほうが危険である、というもの。例えば、ウィルス毎の表面タンパク質の数が変異体のほうが多かった。
勿論、表面タンパク質はレンチウィルスのなかにはないものですから、このウィルス部分の侵入はどちらにしても困難であったかもしれません。そして、レンチウィルスの表面糖タンパク質数も多くありませんし、完全なHIVウィルスだとしても、HIVウィルスの表面タンパク質の数はそもそも少ないので、、結果に対しては疑問が残ります。先日、これはプレプリント分野ですが、初めてSars-2ウィルス自体を使った、変化させたSars-2ウィルスでの実験的な研究がでてきました。ここに、変異体、D614G変異体を人工的にゲノムに入れて、両方を比較できるようにしました。元々のウィルス、変異していない方のウィルスと、もう一つの変異型、ヌクレオチドを抜かせば同じウィルスですが、それとの比較です。違いはこの部分しかありません。この人工的なウィルスをゲノムのなかに組み入れ、何が起こるか観察しました。

最終的にどうなったのでしょうか?

これはまずは大変はっきりとした結果でした。ラルフ・バリックのチームで、アメリカの同僚ですが、ヨーロッパのラボと同じような設備での研究です。つまり、Sarsウィルスの逆遺伝学、ラボのなかでウィルスを変化させていく技術を使っています。自然に起こる変異過程ではなく、元祖のウィルス、野生型、このゲノムのなかに一つだけ変異を組み込みます。どのような効果があるのかどうか知りたい部分です。それがD614G変異体で行われました。ここで2つのウィルス、変異部以外は全く同じウィルス同士の比較をおこなうことができます。ここからは比較的簡単な細胞培養、組織モデル、制限付きで必要であればいくつかの動物実験で確認されます。短くまとめると、、簡単な細胞培養培養での比較では、すべての細胞でではありませんでしたか、いくつかの細胞では変異体のほうがよく複製しました。特に複製速度が速かった。しかし、この差は細胞株間ではよく起こることで、すべてが同じようには反応しないものです。これを細胞株効果、と言います。これを補うために次の段階では組織を感染させました。ここでの細胞は、手術の際に取られた患者の細胞など、例えば、鼻や喉の腫瘍、扁桃腺の炎症や切除の場合に取り出された組織粘膜、もしくは、肺の腫瘍の切除では腫瘍を完全に取り除くために健康な組織も一緒に切り取りますので、そのような健康な組織を試験管で培養してウィルスでの実験に使用します。ここでの観察は興味深いです。免疫学的な観察に一致しています。つまり、変異したウィルスは鼻やのぞの組織内では良く増殖しますが、肺組織ではしない。どうしてこれが興味深いかというと、この感染症の感染は鼻と喉を通じて起こる、ということ。 Sars-CoV-2による感染は、鼻と喉からの感染で肺の感染ではないのです。鼻と喉から入ってきます。これが感染伝播がしやすい原因でもあるのですが、つまり、症状が出始める前の感染伝播です。症状が出る前の伝播が40〜50%である、ということですから、感染は上部呼吸器、喉、鼻の部位で起こります。
この変異したウィルスは疫学的にも、感染しやすく変化したようにみえます。そして、喉と鼻では増えますが、肺では元々のウィルスよりは増えません。興味深い途中結果です。これは、HIV擬似型システムのように、表面にさらなる糖タンパク質ができている、というものではなく、その反対で、ウィルスの表面糖タンパク質の数も電子顕微鏡で確認したところ全く変わっていません。変異の有無には関係なく、です。著者はここまた掘り下げて、動物実験もしています。動物モデルには、病理的に一番簡単で効果がはっきりしているモデルが選ばれました。ハムスターです。これは、すでにSars-1ウィルスの時にもそうだったのですが、Sars-2ウィルスでも、ハムスターは、喉鼻の感染だけではなく、肺感染もしますので、感染伝播のデータを集める際にも使えます。
著者は、ハムスターを感染させ、3つのグループに分けています。ここで、少し言っておかなければいけないことがあるかもしれません。動物実験について話すことに慣れていない人や、それについて考えている人もいるでしょう。勿論、道徳的配慮はあります。どうして動物で実験するのか。どうしてハムスターをラボで感染させるのか。これは常につきまとう問題ですが、これがどのくらい重要なことなのか。例えば、新しい薬などを試験しなければいけない時、ラボの結果から Sars-2ウィルスに効くであろう、と予測される成分の効果を確かめるためには、数匹動物を犠牲にしなければいけない時もあります。人間の命に関わる治療法と動物の命。ここでの道徳的な配慮の理由づけは明らかだと思います。
ここでの結果は感染流行の理解のためにも大切な点が明らかになりました。(変異した)ウィルスは感染しやすくなったのか?その点をはっきりさせるためにも動物実験が必要です。できるだ小さなグループでの実験を心がけています。つまり、実験の前に統計的に効果の大きさを計算して、最小限の動物で実験できるように努めます。そして著者はそう実行しています。3つのグループに分けましたが、1つ目のグループは全く感染させない比較のためのグループ。2つ目のグループは、元々のウィルス、3つ目は変異したウィルス。比較群のハムスターは実験経過につれどんどん重くなっていきました。というのも、ラボでの実験中は餌を無制限にもらえるからです。食べたいだけ食べれるのでどんどん太っていきます。しかし、感染させたハムスターはそうではありませんでした。どちらかというと、体重が減って、それは元々のウィルスでも変異したウィルスも同じでした。具合があまりよくない動物はあまり食べなくなるからです。体重の減少は変異したウィルスのほうが若干多かった。しかし、その差はわずかですのでここに意味はないでしょう。微々たる差です。このような実験の最後には、動物を麻酔して殺します。つまり、細い点滴の針を刺して麻酔薬を入れ、眠らせるのです。そして殺した後に内蔵を取り出し検死します。これが根本的な動物実験の内容で、何が起こるかみてみて、何も起こらなかったらまあ、そこまで、ということではなく、すべての過程でのデータを隅々まで取り出すのです。取れるデータはすべてとります。

全部、ですね。

可能な限り少ない個体で、マックスのデータを取る。これが倫理的配慮でも重要ですから。ここで、肺をみてみると、この感染症のターゲット臓器は、両方のグループ、つまり元々のウィルスと変異ウィルスどちらとも、同じ状態でした。炎症細胞の数も同じでしたし、肺の重さも同じでした。炎症部には重さがあって、というのは、肺炎の場合、肺は重くなります。これを測ることができます。他にもこの双方のグループでの客観的な細胞検査による比較値を出すことができます。興味深いことに、野生型ウィルスのほうが少しだけ症状が軽かった。少し多めに食べていました。しかし、肺の病症経過は同じでした。
ここからもう一段階すすめて、次の実験にうつります。感染伝播の実験です。ここでは二匹を隣同士のケージに入れます。一匹は感染してて、もう一匹は感染していません。ここでは、8対を用意して、ハムスター達がどのように感染し合うのか、とうことを観察しました。元々のウィルスに8ペア、変異したウィルスで8ペアを用意しましたが、5日が経過した時点ですべてのハムスターが感染していました。つまり、隣のケージにいた感染していないハムスターも、インデックスケース、感染していたハムスターですね、ここかウィルスをもらって、陽性反応がでています。興味深い違いは2日目、実験がはじまってすぐですが、2日目に元々のウィルスはまだ誰にも感染していなかった、つまり8匹中0匹の感染でしたが、変異ウィルスのほうは、8匹中5匹感染していたのです。最終的な感染伝播力は同じですが、伝播速度が速い。伝播が速く、喉、鼻での増殖も速い。これも、疫学的な観察、速い拡大速度に一致します。これによって、科学的なデータに基づいた見解、D614G変異体は拡散力が強い、ということがいえるでしょう。

ということは、これが今流行っているウィルスタイプ、ということでしょうか。

これが、今、あちこちで拡がっているウィルスです。このような研究から得られる科学的な見解のもつ意味という面からも、動物実験を実行する際の倫理的な理由づけにもなるかと思うのです。この結果は大変重要な意味を持つものです。人類にとって、と言っても良いでしょう。

ウィルス学者的には、どのくらいの意味を持ちますか?

私的には、いままでの大きな疑問が解けた、と言えるでしょうか。つまり、変異体が本当に高い拡散力を持っているのかどうか、ということの。そして、もうひとつ、中国から発生したタイプは人間で拡散するにはまだあまり適していなかった。変異によってもっとより人間に適応したのです。これがウィルスの目的ですからね。つまり、宿主により良く適応することによって、宿主を病気によってあまり弱らせないで理想的な拡散が可能になる。それを今ウィルスはしています。D614Gの拡散は速いですが、宿主をあまり病気にはしません。勿論、実験は人間ではされていませんから制限はあります。人間では疫学的な観察結果しかありませんが、適している動物モデルからの大きな発見です。

今日もどうもありがとうございました。


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