ドイツ@Sars-CoV-2 コロナウィルスアップデート(9) 2020/3/9(和訳)

話 ベルリンシャリテ ウィルス学教授、クリスティアン・ドロステン
聞き手 アンニャ・マルティーニ

2020/3/9

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ドイツ国内での1000人以上のイベントを中止にする案をシュパーン保健相がだしました。国会でも、コロナウィルスの影響で発生する経済的ダメージの支援をするべく10億ユーロの予算を組む検討がされています。今日も様々なテーマを掘り下げていきたいと思います。聞き手は、アンニャ・マルティーニです。

今日もベルリンウィルス研究所 ウィルス学教授、クリスティアン・ドロステン氏とお電話がつながっています。

週末はいかがお過ごしでしたか? 電話やメールは殺到していませんでしたか。お仕事もたくさんあると思いますが、少しゆっくりはできたのでしょうか。

私は週末は研究所にはいませんでした。かわりにとても優秀な研究職員が夜中まで検査を続けていてくれましたが、私のところではひっきりなしに電話がなっていました。まだまだ様々なことをオーガナイズする必要がありますので。

研究所の職員の方々が最新のドイツのデータの分析をされていた、ということですね。

私の研究所は、全国と地域(ベルリン)のデータ分析を請け負っていますので週末も仕事をしなければいけません。

最新の話題についてまずはイタリアの感染状況と、残念ながら増え続ける死亡者についてです。先週の段階では、イタリアは全体感染数の把握がされていない、低く見積もりされすぎている、とおっしゃっていましたが、今はどうお考えでしょうか。

今でもそう考えています。イタリアは(感染の)発見が大変遅かったのです。
感染がはじまったのは、かなり前、1月の段階ではもう拡散していただろう、と思われますから。コロナウィルスだと気づかなかった死亡ケースも多いでしょうし、違う病気、例えば、風邪や、他の感染病が死因だと思われたケースもいままでに数多くあるでしょう。
この間も指摘しましたが、統計的にみて平均的な死亡年齢だとあまり疑問に思うことなく見過ごされ、長い間、発見されずに感染が広まってしまったのではないでしょうか。
今、公に把握されいる感染者の数に対して、死亡者数が多いですが、ウィルス感染が引き起こす現象というのは根本的にどこでも同じで、イタリアの感染者と死亡者の割合、韓国での割合、などを比較してそれぞれ全く異なる状況のようにみえても、結局は、異なっていることは、私たちがわかっている事、把握している事の違い、だけなのです。
統計の取り方、割り出し方、そういうところでも各国違っています。
韓国の例をとっても、かなりの前から感染が循環していると考えられますので、死亡率はあがっているはずですが、それでも今現在、1%以下、0、7%です。
この理由は、韓国では20万件くらいの検査をしていて、それが統計に反映されているからで、イタリアの統計とは違ったシチュエーションです。

イタリアのどの状況が危機的だとお考えですか。

イタリアが危機的なのは、数そのものだけではなく、医療的な限界がきていることです。
病院内の治療でも、特に集中医療での限界がきています。

そのことについてのメールがたくさんとどいていますが、、、ドイツではどうでしょうか。ドイツの医療機関はどれだけの準備がされいるのでしょうか。

まず、その前にお伝えしなければいけないのは、私は医者ですが、専門分野は、診断です。そして、医療機関や医療関係者へのアドバイスと指導です。診断や分析を通じて患者との接点はありますが、院内の入院患者のベットまで行くことはありません。
ですので、現場の意見ではありませんが、ドイツには、約28000台の集中治療用ベットがあります。総人口からの%でみると、世界的に大変多い数です。

では、準備は整っている、ということですね

準備が十分整っている、と自信を持っていえる国はないでしょう。なぜなら、このような状況は過去になかったからです。 パンデミック、しかも、インフルエンザウィルスではないパンデミック、というのはいままでありませんでしたし、これまで病院の体制は対インフルエンザですから。
インフルエンザの場合は、ワクチンの生産量をパンデミックにあわせて増やす、ということは難しいことではありませんが、今回はそれができません。
インフルエンザであれば、医療関係者に優先的にインフルエンザワクチンを打つ、ということもしますが、それもできません。
タミフルという抗インフルエンザ剤がありますが、(コロナ用の)そのようなものもまだありません。
病院の設備環境だけではなく、医療状況、製薬関係、などのざまざまな分野での対応体制が要求されます。
そして、医療関係者が引き続き勤務できるために環境と感染対策をきちんととること。
今現在の(隔離をはじめとする)対策では医療関係者の勤務を滞りなく持続することは難しい。それも、政府関係者をはじめ対策本部はわかっています。これから連結して改善していかなければいけないでしょう。

なんども、繰り返し言わせてもらっていることですが、、、、、このようなパンデミックは、、、誰のせいでもないのです。誰が悪いわけではない。協力しあい、実用的なアイデアを出し合いながら、解決方法を探していかなければいけません。
例えば、私の大学病院では、医療関係者の安全確保のために、関係者を毎日検査をしています。検査で瞬時に把握することによって、2週間の隔離観察から発生する医療関係者の欠員、という問題はなくなります。潜伏期間を待つ、ということをしていたら、病院は崩壊します。

武漢からのデータを分析すると、武漢市内での死亡率は3%、武漢近郊では、0、7%なのです。
どうして、このような差があるのでしょうか。それは、武漢の医療機関がパンクしてしまったからです。
ですので、なんとしてでも、医療機関の負担を軽くし、持続させていくことが大変重要なのです。 時間を稼ぐことが重要なのです。
負担を軽くすることは、医療関係者だけではなく、患者もそうです。
これから、5000人、6000人の感染者が来院するとして、それが、数ヶ月にわたって順番にくるのであれば問題はありません。
同じ人数が数週間の間に、、、となると、限界に近づきます。コロナ感染者の他にも、治療か必要な他の患者もいるわけですから。
入院ベットの数にも限りがありますし、集中治療室の装置だってそうです。呼吸器具の数が足りなくなれば、(重症度によって)優先順位を決めなければいけなくなるかもしれません。 そのような状態に、、、ならないように努力する必要があります。
出来るだけ緩やかな増加を促す、特に重症化して集中治療が必要になるだろう、という患者、のです。

病院ではすでに、緊急ではない手術を先延ばしにして、ベット数の確保をはじめています。これは正しい対処でしょうか?

そうですね。私ははじめ(数週間前)の発言のなかで、そこまでの急激な拡散にはならないかもしれないし、春になれば緩和するかもしれない。次の冬に来る可能性もある、と予測していましたが、先週の段階であらためて世界のデータを分析しモデル化した数値からみてみると、今回のウイルスの温度への影響はあまり大きくないだろう、ということがわかりました。

となれば、私たちは考えをあらためなければいけません。
先週まで、、、、先週の木曜日までは、出来るだけ時間稼ぎをすれば夏までには一旦おさまる。それまでに冬からの再度の流行に備える、というプランをたてていましたが、今現在の状態では、夏におさまることなく続くのではないか、という見方に変わっています。
たぶん、感染者のピークは、、、、6月から8月になるでしょう。もし、この予測のようになるならば、、、、そのための準備も必要になってきます。

しかし、もうすでに、病院では消毒液、マスク、手袋、、、、そしてスタッフの数も足りなくなってきているようです。 この状態でどのように乗り越えていけばよいのでしょうか。

必要な資源を必要なところに投資して、感染速度を緩やかにする努力をしていかなければいけません。
連邦保健省、各州の保健省、保険機関、そして、病院、それらの箇所に、です。 
使える資源は限られています。それは、金銭的、財政的に、だけではなく、人材資源も、です。医療スタッフは急に増員することは不可能ですし、完売している備品は、注文しても手にはいりません。
そこで、保護対象を絞る必要があります。誰が一番リスクが高いのか。 
前にもお話しましたが、それは、ハイリスクグループは65歳以上の高齢者です。
60歳以下、50歳以下の症状は、風邪程度のことが多いです。
この発言によって、また私は非難されるでしょうけれど、若い年齢層での死亡率はそこまで高くはありません。 そして、高齢者の死亡率が確実にあがっています。
そして、それに加えて基本疾患、例えば、免疫疾患、メタボや、糖尿病などの成人病、心臓病や肺の持病がある人、特に、心臓の持病がある場合に重症化するようです。
これによって、重症化する可能性が少ない年齢層と、気をつけなければいけない高齢層と基礎疾患グループ、が明確になるわけですが、高齢者は、ここでは単純に年金生活者、と定義しておきましょう。

さて、、、、ここから、予想と対策をたてていくのですが、、、、コスパがよい対策としては、、、、この場合のコストパフォーマンスは、単に、金銭的な意味ではなく、計画的、実効的な視点からのコスパです。
どこに私たちの力を集中すればよいのか。
現役で働いている人でリスクグループに属する場合は、出勤しなくても良いような解決法、例えばテレワークなどですね。 
そういった対処法には、もちろん会社側の協力と、会社への(国からの)援助も必要になってきます。

高齢者対策は、もう少し複雑です。夏までに高齢者以外の年齢層でのウィルスが蔓延するわけですが、そこから高齢者をどう守るか。
これを考えるためには学者である必要なありません。
家族形態は様々で、それぞれ異なる環境で生活しているでしょうけれど、、、、例えば、今から、そうですね、9月くらいまで、子供をおじいちゃん、おばあちゃんに預けない。 そして、おじいちゃんおばあちゃんが、あまりスーパーなどにいかなくてもいいように買い物をしてあげる、とか。 
生活様式を変えることは大変だと思います。 そうなのですけれど、高齢者を守るためにはそのような犠牲も必要になってくるのです。
そして、高齢者とそのことについて一緒に話しあうこと。
私の父、、、田舎の方に住んでいるのですが、、、彼の友人たちは、父の息子、、、私ですが、私が、テレビなどに出ていることを喜んで、ファッツアップなどで最新情報などを父に送ってくれているようなのですが、、、彼らは、私の話を聞いていても、自分たちもハイリスクの高齢者だ、という自覚がないのです。 
私の父は70歳以上ですが、彼の趣味の会の友達、町内会の知り合い、など、みな、高齢者なのに、ほとんど、他人事だと思っています。 大変残念なことではあるのですが、集会やイベント、そういう自粛は避けられません。

パーティ、スポーツクラブ、などもですよね。

そうです。 お祭りなども、です。 夏のフェストなどもです。深刻な状況なのです。ハイリスク層の死亡率は20〜25%なのです。本当に深刻なことです。

シュパーン保健相が、1000人以上のイベントの中止を提案しましたが、それも同じ理由からですよね

そうです。さきほどの例は、個人レベルでどのように高齢者を守るか、どのように自分の親、祖父母に理解を求めるのか、そのために知っておかなければいけないリスクについてでしたが、保健相として、国として、どのような対策をすればよいのか。大きなくくりでの制約はどのようにするのか。
ここでも、相反する点がでてきます。 すべての公での集会、イベントを中止にする、学校の閉鎖。 その結果得られるものはなんでしょうか。ここでも先ほどのコスパ、を考えなければいけません。
集会にも、大きな集会と小さな集会があり、種類にも社会的に重要な集会と、娯楽の集会がありますね。
大きな娯楽目的の集会は、今現在は我慢するべきでしょう。
小さな集会のなかには、社会と経済を持続していくために重要なものもあります。そのような集会はたぶん、、大きくでも100人前後でしょうね。  規模などについても、統計やモデル化だけでは導けないものですが、スイスのように1000人、というのはひとつの規模の区切りではないかと思います。

ドイツではこのような決断は州ごとの自治体ですることになっていますが、いや、国全体での法律が決められるべきだ、という声もありますが

それが連邦主義だ、と言ってしまえばそれまでですが、決断権は地方政府にあるわけです。 国は規約をつくって、州はこれに則った決断をする、そのかわりに、経済的援助、損害などの賠償などを求める、ということになっていくでしょう。 今週、国会で重要な話し合いがおこなわれるはずです。

今、ドイツ国内では、大きく2つのグループに分かれています。 1つのグループは、ハムスター買い(買い占め行為)などをしてパニック、ヒステリックに反応している人たち、もうひとつのグループは、自分には関係ない、興味もない、もうコロナの話なんか聞きたくない、という人たちです。 先生は、どのように感じていらっしゃいますか。 私たちはヒステリックなのでしょうか。何が正しいのでしょうか。

たしかに、2つに分かれてますね。 もう、いい加減違う話をしようよ、という人もいますし、ヒステリーのほうは、、話というよりも、行動で現れていますね。
まずは、これから1〜2週間は、ドイツ全体が非常事態になるわけではない、という理解を深めてもらうしかないでしょう。
もちろん、6週間後にひどい状態にならない、という保証はないですけれど、先取りしすぎる対処は無意味です。
パンデミックは予測していたよりも速い速度で進んではいます。だんだん困憊していくでしょう。しかし、今は力を必要なところに使わなけばいけないと思うのです。
高齢者と、ハイリスクな若年層が感染しないように配慮し、より優先順位の高いところ、ケアが必要なところへ力を移行する。
今までは、自宅隔離、自宅観察だった学生に毎日電話で確認をとっていましたが、そこに費やしている力を、例えば、、、老人ホームのケアなどに使っていかなければいけない、ということです。

社会全体で協力しあう、ということですね。

それが重要ですね。  最後にもう一つ。学校や託児所の閉鎖、などについて話し合われていますが、それについての私の意見です。
今回のウィルスは、子供も同じように感染することはわかっていますので、心配になるのはわかります。
たしかに、学校は、感染が蔓延しやすい環境ですが、それは、季節性の風邪などの場合です。パンデミックのシチュエーションは、季節性の流行とは違います。パンデミックは、どのような層でも同じようにひろがっていくからです。
託児所ではなく自宅待機になった子供は、自宅で感染するかもしれませんし、学校に行かない子供たちは、ぶらぶらと遊びにいって友達と会ったりするでしょう。 
この対策をするには、子供たちの行動範囲も封鎖しなければ意味がありません。子供たちを封鎖する、ということは、大人も封鎖しなければいけなく、そんなことをしたら社会のロックダウンがおきてしまいます。

疫病の専門家としてみると、今の段階で完全封鎖をしてしまうと、のちにきちんと(本当に必要な時に)反応ができなくなる恐れがでてきます。
感染の拡散は、、、、もう防げません。 速度を減速させることができるだけです。
リスクグループを守り、必要な力を必要とされるところに集中させましょう。

ありがとうございました。 また明日お話をお聞きします。


ベルリンシャリテ
ウィルス研究所 教授 クリスチアン・ドロステン

https://virologie-ccm.charite.de/en/metas/person_detail/person/address_detail/drosten/


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