ドイツ@Sars-CoV-2 コロナウィルスアップデート(23) 2020/3/27(和訳)

話 ベルリンシャリテ ウィルス学教授、クリスティアン・ドロステン
聞き手 コリーナ・ヘニッヒ

2020/3/27

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まだはっきりとした、ソーシャルディスタンディング(社会距離)の効果はみえませんが、ドイツ全国でその対策の実行に力を注いでいます。  各地のシュミレートモデルの研究者達がデータを集め、ロベルト・コッホ感染研究所も、対策中の行動形式の分析を急いでいます。  政治家は、対策の緩和化を検討し、日常の正常化を図る見通しです。     政府は、検査体制の拡大を決定、検査については今週この場で詳しくご説明いただきました。  研究者達は、これからネットワークでデータの共有をしながら、研究に必要なパズルのピースを集めていかなければいけません。  今日も、ベルリンシャリテ ウィルス学教授のクリスティアン・ドロステン  先生にお話を伺います。聞き手はコリーナ・ヘニッヒです。

研究所での仕事の合間に、昨日はまた会見をされていましたね。  連邦教育研究省が、対策のデータ分析と診断をつなぐためにネットワークによる協力体制を要請しました。 臨床現場のデータと分析結果を集めたデータバンクもまとめられる予定です。これによって どの位の改善が見込めますか。

とにかく、この感染症の実態を迅速に把握しなければいけません。  普通の患者の治療状況、集中治療での様子、、、、やれる治療方法は沢山あるのですが、まだどの方法が効果的なのか、という点でわからないことも多いのです。  アイデアとしては、もう既に承認されてる成分で試す、本来は別の用途で使われる成分を使ってみる、というものがありますが、勿論、これも、手当たり次第に、錠剤を与えてみる、というものではなく、臨床試験をきちんとしていく必要があります。   とは言っても、緊急時ですから、敏速に臨床データを集めなればいけません。  そこで、全国の大学病院のデータを共有しよう、という事になりました。   連邦教育研究省の要請は、大学病院が対象です。  これは、私、ベルリンシャリテがイニシアティブをとって話をすすめたのですが、このような緊急時には、このような時だからこそ、大学病院が力を合わせるべきだ、と思うからです。   大学病院は医大生を指導するところ、他の病院とたいして変わらないだろう、ではなくて、ドイツで大変重要な医療分野での研究が大学病院では行われているのです。  特に、現場で臨床研究が行われるところに大きな意味があります。  勿論、他にも大きな研究機関はあります。 でも、そこでは患者と直接接する臨床、ではないのです。   そして、病院もドイツには数多くありますが、そのような病院はコスト削減といった運営上の都合もあって、研究体制が整っていません。 もっとも、 このコスト最適化が進んでくると、大学病院で研究にも影響があるだろう、と私は危惧していますが、、、、、今回のような非常時では、大学病院は、研究機関と臨床現場のパイプ、そして、特殊医療のノウハウを持つ重要な機関なのです。   今緊急に全国の集中治療用の病床数をふやしていますが、大学病院も大きな割合を占めています。  全国の4分の1は、大学病院内でしょう。これはかなりの割合です。 このように  パンデミックの事態などの際に、大学病院での医療研究は大変大きな役割を持っています。特に、感染学的な臨床研究は、大学病院なしではできません。

今、2つの部門がまとまる時ということですね。 研究と臨床現場のリンク、今までも、連帯体制がなかったわけではないようには思えないのですが

大学病院内での研究は、別の大学病院へ提供されたり、もう既に、教育研究省の援助があるネットワークもあります。  有名なところでは、ドイツ感染研究協会DZIFで、そこでは、数多くの大学病院が参加しています。 DZIFは、他の大きな研究機関との橋渡し役でもありますが、 今回は、広範囲でのネットワーク、全ての大学病院が参加するネットワークが必要でした。 DZIFには、全ての大学病院は参加していませんので。  全ての大学病院の医療研究のノウハウが共有される必要があり、感染学分野だけではなく、全ての医療分野での臨床経験です。

パンデミックでは、世界的なネットワークも必要になってきますよね。  先生ご自身も、この場でも仰っていたように、世界中の専門家とメールのやりとりをしたり、電話したり、されていますが、、、、、ドイツは世界的にみて良いネットワーク内にいるのでしょうか。

まず、、ヨーロッパのネットワークがあります。 これがまず重要ですが、、、その他に、EUからの援助があるプロジェクトがあって、そこでは重点的に臨床試験が行われています。 ここでも、ドイツ国内と同様に、臨床データを出来るだけ集めることに専念しています。     しかし、、、、残念ながら、最近の傾向としては、、メディアでも目にするように、国同士が閉鎖的になる方向に向かっているのではないしょうか。   マスクの不足に始まり、、、研究レベルでも、、、です。   ここでは、緊急に何かを変えていかなければいけないでしょう。  自国の問題、自分の大学病院内での問題もあるでしょうし、エピデミックのタイミングもそれぞれ異なります。 対策もそれぞれ違います。  それはそれで良いことだと思います。 もし、世界が全て同じように同じところでやりくりしなければいけないのであればそれは大変なことです。  今の臨床研究の問題点は、、、この場合、通常行われている長いスパンでの臨床研究ではなくて、(現在のパンデミック時に)この薬は効くか、効かないか。  このことを、1ヶ月以内に調べることができるか。 それが出来れば理想的です。   今は、通常であれば要求される、複雑な申請手続きをやっている時間はないのです。  しかも、ライバルと争ったり、利権が絡んだり、、、審査が長引いたり、、、、インターナショナルになればなるほど、状況は複雑に厳しくなっていって、研究自体問題ではなく、どれだけの経済的な援助をどうもらうか、という点が優先されて、臨床研究内容が疎かになっていきます。

どのように資金のやりくりをするか、ということに時間がとられて研究に専念できなくなる、、医療研究の問題点ですね。  宣伝やマーケティングが研究そのものよりも重要視される

このエピデミック状況のなかで、研究費の支援確保よりも、本当に必要なところにお金がまわるようにするしなければいけないのです。  いらないことに、現場で治療を続ける研究者の貴重な時間が奪われてはなりません。
同じようなことが、学術論文の分野でもいえます。 ここでも、今、大きな変化が起こっています。  この場でも、よく、プレプリントの話をしますが、それが出来るのは、私が、この分野でかなりよく精通しているからなのです。  その臨床試験内容が信憑性のあるものなのか、という見分けがつきます。  本当に、新しい情報なのか、それとも、タイトルだけの全くの期待外れな内容なのか。 本来ならば、この仕分け作業は、長い時間かけた査読作業で行われますが、今必要なのは、迅速に情報提供であって、現行の査読システムでは追いつかないのです。  それ加え、臨床現場で働きながら、情報をまとめて論文にすること自体が大変な作業です。 そのような困難な状況を乗り越えて論文をまとめても、査読段階で、足止めをくらいます。 良い指摘をする査読者いるでしょうけれど、指摘が来るのが遅すぎるかもしれない。 査読者も時間がないですから。  もしくは、、、、利害関係が絡んで、、わざと遅らせる、、、そんなことが、実際にあるのです。   これが、査読(ピアレビュー)の弱点なのです。  このような理由から、このシステム自体に疑問を持つときがあります。  こんな事をしている場合なのだろうか、と。   ここ数日間で、とても貴重な論文がプレプリントサーバにアップされました。   今、やっと、中国の研究者達が、臨床研究をまとめて発表し始めています。  それを、はじめて読むことが出来るのが、プレプリントサーバなのですが、、、、慎重に読まなければいけません。  この場で紹介するように素晴らしい内容もあれば、、、お粗末なな内容もあるからです。

私たち、医学ジャーナリズムでも似たような傾向があります、、、、
情報提供、といえば、、、、東ヨーロッパからの情報をほとんど目にしないように思うのですが、どうしてでしょうか。  感染者数が少ないのしょうか。 検査数が少ないのでしょうか。コミュニケーションがとれていないのでしょうか、、

専門研究所というポジションから、世界各国の研究所から相談は受けますが、、、東ヨーロッパの感染状態は、少しドイツよりも(スタートが)遅いです。 それと、残念ながら、東ヨーロッパの多くの国では、研究者への支援が足りません。 私も個人的に、とても優秀な東欧の研究者を知っていますが、彼らは、転職を余儀なくされました。  研究者としての給料では家族を養えないのです。   副職として、研究をして、、、違う仕事で食べていっています。  これが、第一の問題ですが、それと同時に、ドイツのような国と比べて基本的な医療環境が整っていない、という問題も抱えています。  そのような環境では、研究はおろか、日々の治療で精一杯なのです。

リスナーからの質問にも、出来るだけ答えていきたいと思っているのですが、、、少し前までは、ドイツ国内の感染ルートをかなり明確に調査していくことが出来ました。  接触コンタクト、旅行先、などです。  ラボでも、シークエンジング(配列解析)による、ウィルスの系統分析がおこなわれていましたが、  多くのリスナーは、本当に、(はじめのケースの発覚より)早い段階で、ドイツにウィルスは入ってきていなかったのだろうか、と疑問を持っています。

たしかに、、、、最近、とても多くの問い合わせがきます。  実は、12月に似たような症状が出ていたんですが、、、、とか。  なかには、きちんと調べておかないといけないな、と思うようなケースもありました。    例えば、 大きな自動車関係の会社からの以来で、、、あの*ミュンヘンのシュタンベルクの会社ではないですが、、、そこの会社から、うちでも、中国から来客があった後で感染者が多数出ていた、と。 サンプルを送ってもいいでしょうか。と連絡がありました。  勿論、送ってください、とお願いして調べたのですが、、、、そこからも、(はやくの段階でウィルスがドイツに入っていたという)結果はでませんでした。   
ウィルスの配列を見る限り、、、1月中旬以前に、ウィルスが入ってきていた、という事は考えられません。 勿論、違うかもしれませんし、可能性は否定しません。  断言はできませんが、今のところ、そのような検査結果はでていません。

SARS-Cov-2ウィルスが風土病になる、これからずっと、呼吸器系の感染症として、ドイツに残ることになるだろう、と仰っていましたが、、、消えてなくなることはないのでしょうか。 どういう根拠でそのようにお考えなのでしょうか。

なぜなら、、、、広範囲での感染が続くからです。 国内の大多数が感染することになる。 パンデミックが終息するまでに、全体の60〜70%が感染することになりますが、その後も、少数の間で感染は続きます。 そうなると、他の風邪コロナウィルスと同じ条件になるわけです。  これらのウィルスも、細々と感染を続けていって、時々流行したりしながら残っています。  勿論、今の時点では、誰も確信を持っては言えませんが、、、、そうなるでしょう。

今、みんな、症状に敏感になっています。 この症状は新型コロナなのだろうか、、と。  以前に、鼻水はでない、とお話し頂きましたが、、今でも、その情報は正しいでしょうか。

今でも、そのよう観察されています。大人は、熱と咳が同時に出る、寒気、もありますね。 乾いた咳。  ここで、喉の痛みは、、、あったり、、なかったり、です。 これが、軽症の症状です。     鼻水、鼻のつまりはない。稀に、副鼻炎がみられますので、それに伴う鼻粘膜の炎症は考えられるでしょう。   しかし、典型的な鼻風邪のような鼻水ではありません。      1月〜2月の中国での報告に20%くらい鼻水も出ていたという箇所がありますが、これは、多分、同時に他の感染症(風邪など)にかかっていたと思われます。  基本的に、多くの風邪患者は、単一のウィルスではなく、2種類、3種類、複数のウィルス感染している場合が多いです。 これは、風邪のシーズンでは極々普通の現象です。   SARS-Cov-2ウィルスに感染したのと同時に違う風邪ウィルスにも感染した、ということも普通にありえます。

熱と咳、というのが典型的ですが、それが全くない、という場合もありますよね。

熱と咳、だけではなくて、他の症状も全くない、ということもあります。 典型的な、無症状ケースですね。  文献にも出てきます。   しかし、記録的には、持続性があまりなくて、、、はじめに無症状で陽性だった患者が、3日後には症状が出てきたかもしれませんが、そのようなデータはないですし、、、この、症状発現時以前の陽性反応、と、無症状の陽性反応は、別です。  無症状とは、はじめから最後まで、症状がないこと、ですから、それがどのくらい頻繁におこるかは、、、わかりません。   例えば、*ミュンヘンケース、私も協力したケースですが、、、この研究結果はプレプリントサーバでに発表されてます、、このケースで、数人、無症状、となっていた人達にもう一度確認してみると、あー、確かに、少し症状があったような気がするのですが、あまり気に留めませんでした。という返事だったのです。  でも、この人達は、無症状、としてカウントされています。  このように、何度も、確認するような臨床研究は、、、ほとんどないでしょうから、そういうこともあって、無症状、というのは、実際には、軽症の軽症、ほとんど、気にしないくらいの症状がでている、という場合が多いと思います。

無症状、もしくは、軽症であることと、喉ウィルス数関係がある、、、ということはありえますか

たしかに、そのような論文がないわけではありません。 重症患者のウィルスの数が多かった、という。  しかし、残念ながら、ウィルスの数と症状との直接的な関係性は、、、確認されていません。  ウィルス数と症状のはっきりとした関係性が認められる感染症もなかにはあります。 ウィルスが多い患者、少ない患者、それぞれの症状違いがはっきりするものもあるのですが、今回新型コロナでは、そうではありません。   勿論、数多くのケースを分析して、そのような傾向を割り出すことは可能でしょう。 例えば、重症者を2つに分けて、ウィルス数で症状の違い観察する。それと、他の患者平均値比べてみる、とか。  もしくは、ウィルス数でカテゴライズして、数が多かった患者と、数が少なかった患者でどのくらいの割合で重症化するか、など。  ここでも、違いが比較できるとは思いますが、、、このような臨床研究は実際には難しいでしょう。   後から、どのケースが、どのグループに属するのか、、、などよくわからないと思いますし、この患者が今後どのような進行をするのかもわからないので、、、、 意味のある結果はでないでしょう。

多くのリスナーが、症状の進行状態ついて知りたいと思っていますが、これも、少しずつわかってきていますよね。 治療中に観察記録を取ることも容易ではないでしょうけれど、、、以前、肺炎球菌の予防接種のお話したときにも、ふれましたが、重症化すると、かなり、肺で増殖し悪さを、、、するのですよね。 もしかしたら、まだ聞くのははやいかもしれませんが、、、、その後遺症などは残るのでしょうか。

そのような報告はあります。 完治した後でも、長くかかる、退院後1ヶ月以上調子が優れない、特に重症患者の場合は、そのような報告がありますし、肺機能にもダメージがでる場合はあります。

最後に、リスナーの質問で、、、少し、楽観的な意見だと思ったのですが、、今の対策、社会的距離、隔離、など、、、それらの対策の副産物で、違うウィルス感染症も防止されるのではないか、という意見です。 新型コロナの前には、風疹の予防接種話がでていましたが、、

風疹の話はありましたが、、、、風疹は、そこまで頻繁に流行る感染症ではありません。  この数週間の社会的距離対策によって、風疹の感染が少なくなっているか、、、ということはないと思います。   呼吸器系感染症、風疹はそれ含まれますが、それが、減少するかどうか。  インフルエンザの流行が終わったのも、この対策のおかげなのか、、、まだわからないでしょう。  そのようなデータは全くみていません。
数週間前記憶ですが、、、、そのような武漢のプレプリントで、他の呼吸器系の感染症が、ロックダウン期間中に減少した、という発表はありましたが。

時々、先生の週末の過ごし方などをお聞きしていますが、、、、研究所の職員の方々はどのような状況でしょうか。 今、このシチュエーションでは、かなりのプレッシャーとストレスを抱えていると思いますが、、、、週末は少し一息つけますか、それとも、全くそのような余裕はないのでしょうか。

うちの研究員達は、、、そろそろ、検査診断のマネージメントに追われることなく、研究に専念できるようになってきました。 シャリテの研究部では、1月段階で、診断体制を整えていました。ベルリンと、その他の地区を担当する分、です。 それが2月にはいると、検査数が劇的に増えたので、別のラボ、ラボベルリン、大きな診断検査のラボですが、そこに移してさらに検査体制がどんどん拡大されました。 つい最近も、大きな検査機が導入されましたし、シフト制で検査体制、新しいスタッフも動員されて、本当に物凄い量の診断検査が今行われているところなのです。    それにくらべると、研究部は、通常研究を、勿論、高速ですが、世界中研究所と共同で進めています。   週末も休まず研究は続きますし、ウィルスサンプルの採取なども、週末は関係ありません。  その他には、いま、大規模の抗体検査がはじまりますので、その準備、近々、毎日1000単位での検査が行われるようになります。 これも、ラボベルリンです。 これが、私たちの研究の日常です。  このポッドキャスト冒頭で出てきましたが、このような研究と臨床の連結体制がとて重要で、それやっているのが大学病院なのです。 研究が直接患者に結びつきます。

また来週、お話を聞くのを楽しみにしています。来週は、*ミュンヘンケースと、大きなテーマ、ーワクチンついてお伺いしたいとおもいます。   今週もどうもありがとうございました、また月曜日よろしお願いいたします。

*注 ミュンヘンケースとは、ミュンヘン近郊シュタンベルクの会社内セミナーで上海からの中国人女性講師から社員の男性が感染したドイツ国内初の感染ケース。1月27日に陽性確認。トータルで14人が感染しミュンヘンの病院に隔離入院された。この際、感染経路、接触者の可能性を調べ、241人が在宅隔離された。(編集者注)


ベルリンシャリテ
ウィルス研究所 教授 クリスチアン・ドロステン

https://virologie-ccm.charite.de/en/metas/person_detail/person/address_detail/drosten/


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