ドイツ@Sars-CoV-2 コロナウィルスアップデート(48) 2020/6/11(和訳)
ベルリンシャリテ ウィルス学教授、クリスティアン・ドロステン
聞き手 コリーナ・ヘニッヒ
2020/6/11
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ニューヨークタイムズが、500人の疫学者へ、いつからまた安心して、飛行機に乗ったり、高齢者を訪問したり、コンサートに行けるようになるか、という項目でアンケートをとりました。多くの回答がどちらかというと消極的で、まだ数ヶ月待った方が良い、という見解を示しています。このパンデミックのなかで、しても良いことと、まだしてはいけないこと、というのは何なのでしょうか。 ヨーロッパ内での対策はどのような効果をもたらしたのでしょうか。この他にも血液型、新しい抗体の形成についての知見について、今日もベルリンのウィルス学教授、クリスティアン・ドロステン氏にお話を伺います。聞き手はコリーナ・ヘニッヒです。
ドロステン先生、リスナーのなかには大変熱心な方も多いのですが、前回は、ウィルスの突然変異についてお話いただきました。時間切れで最後までお話いただけなかったのですが、もうすでに、様々なウィルスのタイプがあり、それが同時に感染する、ということでした。ここで質問です。これは、ワクチンの開発の際にどのような影響を及ぼす可能性がでてきますか?インフルエンザのように、常に変えていく必要はでてくるのでしょうか。
ワクチン開発では、基本的に常に変異性というのは配慮されなければいけません。インフルエンザに関してはこの問題はとても有名で、常にすり抜けしてしまうからです。人々が持っている予防効果からのがれようとする傾向があり、シーズン毎、数年毎に変えていかなければいけません。新しいウィルスが出てきた際には、常にこの問題点も考えていく必要性がありますが、
まだそこまではいっていません。このウィルスの変異度はまだ低く、ウィルス同士の区別をするのが困難である、という問題があるくらいです。表面のタンパク質がもうすでに変わってきている、とか、ワクチン候補に対してその効果を無効化する、といった特性もでてきていませんし、まだまだそのような段階ではありません。そのような変化がみられるまでには、何年も同じワクチンを広範囲で使用し続けなければいけないからです。それと同時に、ウィルスが反応するためには、蔓延もし続けなければいけないのです。淘汰の圧力がかからなければいけません。ウィルス自身が反応するわけでもありませんし、、
でも、感染流行は反応しますよね?
まあ、感染流行は、いつかする、と言ってもいいでしょうけれど、とにかく今は、、、、心配することはないです。
様々なワクチン候補がありますが、その効果構造からいって、メリットやデメリットはあるのでしょうか。
そのなかで特別に効果があるであろう、というワクチン候補は勿論あります。あまり詳細には触れませんが、というのも、このことは、ワクチンに関して考察する際にでてくる事のなかのひとつにすぎないからです。今、重要なのは、どのワクチンを大量に生産することができるか、という点です。
そのことに関してはお話いただいたことがありますが、またお願いすると思います。さて、今日のために選んだ論文ですが、オスロとキールの研究チームの論文について様々な質問が寄せられています。これは、血液型が、リスクや重症化、そして呼吸器障害と関係がある、というものです。まだプレプリントで査読はされていないものですが、それによると、血液型A型が一番リスクがあり、血液型0型が遺伝子的に感染しにくい、ということらしいですが、遺伝学は先生の専門ではありませんが、それでも少しご説明はしていただけますか。 基本的には、免疫反応と血液型の関係性の有無は、そこまで驚きの発見ではないですよね?
基本的に、タンパク質を組み合わせる役割をする遺伝子は機能的です。新型コロナ感染症では、血栓が重要な意味を持つことはわかっています。ここからも全く筋が通ってないわけではありません。この論文は、オスロとキールのヒト遺伝学の研究チームのもので、そこには実力を持つドイツのチームもいます。イタリアとスペインのアウトブレイクがあった地域の患者のデータが集められました。はやく書かれた研究にしてはかなり大きなデータ量です。
4000人ですね。
そうです。イタリアで835人、コントロールに1255、スペインで775人、コントロールに950。ここで重要なのは、この、コントロール、というのは何なのか、ということですが、ヒト遺伝学では、病気になったグループの遺伝子に健康なグループと比べて、何らかの特徴があるかどうか。これを調査するために、このコントロール(対照実験)をするのです。普通の健全者と比べてどのくらいの割合なのか、その調査をしてコントロールチェックします。
この研究では、遺伝の特徴がみつかっています。これは、血液型を操作する遺伝子座のなかにあって、そこから血液型の特性に関する分析をしました。この分析から、Rh+A型のリスクが高い。重症化する傾向がみられましたが、ここの基準は酸素需要、つまり呼吸器障害ですね、それに対してリスクが少ないのは0型でした。ここでのリスクの尺度は、オッズ比で、A型は1、45。ちなみに、基準値は1、です。1が普通、ということですが、 0型が、0、65。これは、言ってみれば確率のようなもので、重症患者のなかで、どのくらいの確率でA型がいうのか。どのくらいの0、65より低い確率で0型が重症化するのか。
Rh+A型では、数値1を基準とした場合、50%確率が上がる、ということですね?
そのように直接に計算はできませんが、大体、そのような認識でよいかと思います。A型の患者は新型コロナ感染症が重症化するリスクが高い、ということです。酸素需要の面で、です。
ここから何が導き出されますか?研究としては興味深いですが、個人としてはどうでしょうか?例えば、私は、Rh+A型なのですが。この為にわざわざ確認してきました。とはいっても、心配する必要はない、ということですよね?これは単に数多くある要素のひとつ、というだけですよね。
Rh+Aであれば、もし万が一感染した時には重症化するリスクが高くなる、ということにはなりますが、、、、ちなみに私は0型ですので、そこからすると、、
リスクはない、とも言えますね(笑)
まあ、そういうことになりますよね(笑) そういうように簡単は言うことはできません。他にも重症化する要素というものはたくさんありますので。年齢とか、基礎疾患、とか。そして、初めにもらった感染量にもその後の重症化への影響があるかどうか、ということにも注目されていますし、、、まだまだたくさんのはっきりとはわかっていない要因があります。この研究内でも、他にも色々なファクターがあります。
この研究でみつかった違うファクターは、これはまた別のリスクファクターで、全く別な場所で起こる遺伝子変異です。ここのデータから引き出そうとしているのは、数多くあるリスクファクターのほんの一部なのです。ここでいうリスクとは、A型の人は感染した時に恐怖に慄かなかければいけない、というようなことではありません。しかし、全体的にみてとても興味深い発見で、ゲノムワイド関連解析では疫学的な患者のリスクカテゴリーみつける、というよりも、この感染症の病原的影響の病態生理学的な新しい解明に繋がるではないか。論文内でも著者が言っていますが、これは大いにありうることで、納得できる、と。なぜなら、臨床観察で、血液型のようなファクターが、遺伝子座に影響して血栓症などの病症をひきおす、など、この感染症の病態生理学的な意味を持つことがわかったからです。
ということは、臨床現場の初期の段階の診断でリスク判断に使えるのではないでしょうか。早めに薬を投与する判断、とか、ですが、例えば、高齢者で、特定の血液型、とかいう場合に
そうですね。たしかに、経験値が高い臨床医がこの論文を読めば、特定のプロフィールをもつ患者の場合に今後、どこに注意をするべきか、ということはわかると思います。例えば、高齢、肥満、心臓疾患、これらは基本的なリスクファクターですが、そこに血液型はA型、と書いてあれば、いつも以上に注意深く診断することでしょう。通常は、患者の血液型を重要視することなどないですからね。勿論、血液型の確認は常にしますけれど、少なくとも、リスクファクターとしてはみません。このように考えることはできるでしょうけれど、一般の人にはそこを重要視する必要性はありません。つまり、A型の人たちが不安になることは全くないのです。
そして、0型の人が、自分は大丈夫だから関係ない、ともなりませんね。
そういうことです。(笑)
どの場合もそうですが、、細かい部分にも常に注意を払わなければいけない、ということです。私たち(A型と0型の)代表が言っておきます。(笑) 生命体がウィルスに立ち向かう際、基本的には交代がつくられます。このポッドキャストでも学んだように、抗体だけが免疫反応ではありません。しかし、これは検査でも簡単に免疫の有無の可能性を測定することができます。ここでは様々な抗体が重要になります。IgM 、IgG 、そして、IgA抗体、ということを学びました。さて、チューリッヒの研究で、抗体の検出について様々な結果がでています。どの抗体ができるかは、年齢と病症度に関係がある、というものですが、どのようなことがわかったのでしょうか。
この推測は論文の最後でまとめられています。基本的には、血清学的な調査で、入院患者と病院スタッフの抗体検査が行われましたが、通常の検査で調査される抗体だけではなく、つまり、IgG、免疫グロブリン抗体、だけではなく、IgA抗体も調査されています。これは立体構造的に2量体です。リスナーの多くは、抗体がYのようなかたちをしていることはご存知だと思いますが、このYの二股部分にウィルスが結合します。この抗体は、2つYがくっついたかたちになっています。棒の部分がくっついていて、先端の二股部分が両側についている、というかたちですね。そのような形状を、免疫グロブリンA抗体はしているのです。この免疫グロブリンA抗体は血液のなかにありますが、興味深いのは違う免疫グロブリンA抗体でこれは、粘膜、鼻の粘膜にある分泌物内にあるのです。その他にも、唾液などのあらゆる腺から分泌される体液、さらに母乳のなかにも存在します。
これには生物学的な役割があって、粘膜上で、このIgA分子は病原体をその場で攻撃します。これが、特性がある免疫反応です。B細胞は、この抗体がつくられる反応の一番最後に位置しますが、IgG抗体を血清内につくるだけではありません。ここでは、 IgA抗体もつくられ、粘膜に配置されるのです。この研究チームは、普通の抗体、IgG抗体だけではなく、この IgA抗体にも注目したのです。とても大掛かりな研究です。興味深いのは、病院スタッフ、つまり、介護士、医師、など患者との接触がある人たちを調査したことです。
そして、陽性反応がでた人と、陰性だった人と、ですよね。
その通りです。PCR検査も行われています。誰が患者から感染されたのか。しかし、スタッフのなかには陽性ではなかった人もいました。ここでさらに区別したのは、スタッフ達に症状はでていたか。症状がでていなく、PCR検査で陰性だった人たちには、想像していた通り、IgG抗体はありませんでした。一人だけ、興味深いことに、IgA抗体を持っていた人がいましたが、、、とにかく、そこから、症状有りのPCR陰性と、症状有りのPCR陽性、では、IgGと IgA抗体の検出率があがりました。IgGがつくられた人は、IgAもつくられる可能性が高い
もう一度確認ですが、、、これらの抗体は、まず初めにつくられる抗体ではありませんよね? まず、IgM抗体がつくられて、それが消えていき、それからもう少し経ってから、IgGとIgAがくる。
その通りです。IgM抗体が初めにできます。多くの感染症でそうなのですが、新型コロナでも、早めにIgAがつくられます。私たちのラボでも、血清検査はしますし、このIgA検査もします。この感染症の患者は、IgAのほうが、IgGより先にできることがわかっています。先、といっても、ものすごい差ではありませんが、1から2日はやく、でしょうか。
しかし、通常の抗体検査では、igAは検査されませんよね?
IgAの為には、特別にそのためのIgAテストをしなければいけません。このIgAも一緒に検査できるテストをつくっている会社もあることにはありますが、ルーチンな検査でこれらを分けて検査することはあまり重要なことではありません。さて、ここから面白くなります。PCR検査で陽性が確定した感染者と、確定しなかった感染者がいる、と言いましたよね。そのなかに、陰性反応がでても、IgGと IgA抗体が検出されて、感染者としてカウントされている人たちがいるのです。陰性でも、勿論、院内で感染患者との接触があったわけですから、、、その人達をもう少しよく検査したのです。
特殊な検査があって、これは、抗体が本当に SARS-2ウィルスに特異した受容体結合をするのかどうか、というものですが、SARS-2ウィルスには、他のコロナウィルスにはない部位があるのです。ここで注意しなければいけないのは、他の普通の風邪コロナウィルスの抗体を検出してしまわないようにすることです。交差反応については、何度もこの場で話してきましたが、この、受容体結合に特異した検査をします。陰性反応がでた患者から、体液で検査、この場合は涙液ですが、涙液にも、IgAは分泌されます。涙液は、体液のなかでも純度が高い液体で、唾液や鼻の粘膜の分泌物などは、ラボで処理する際にはあまり純度が高い体液とは言えません。涙液は、透明で不純物が入っていないので検査にはとても適しているのです。これで検査したところ、15〜20%が、血清にIgGがなかったのにも関わらず、IgAの陽性反応がでたのです。
ということは、IgAだけがつくられた、ということでしょうか。
そうです。これは興味深い観察結果ですが、著者の解釈は、私の解釈と同じですが、これは、局部の免疫反応である可能性が高い、ということです。粘膜と繋がっているリンパ細胞で、適応性の免疫反応がおこります。これは、すぐリンパ球がたくさん集まるリンパ節全体に拡がる必要はありません。ここには局所的にIgA抗体がつくられた。不稔感染がおこった、ということを表している、と。つまり、ウィルスが粘膜について、増殖をはじめた。しかしそれが先天性の免疫などによってストップした。患者はきっと具合が悪くもなくて、もしくは軽症だったことでしょう。そして、PCRもその時点でなかったか、もうすでに陽性でなかった。これが、著者の解釈です。これについては、このような可能性があることには同意します。もしかしたら、他の人は、いやいや、これはラボでの交差反応だったに違いない、と言うかもしれませんが、私はこの可能性についてはありだと思うのです。多くの軽症者が存在する理由、というものを探している段階で、これは可能性的にありえる要因の一つだと思います。こちらのほうが、血液型よりも、もっと近い要因に感じます。
そこから導き出される結論として、無症状の感染者、というのは、ウィルスに、、、素人的に言うと、少しだけ感染、ちゃんとした感染はしなくても、免疫ができて、もう一度酷く感染することを防ぐことができる可能性がある、といういうことでしょうか。
ここではまずは局所的な免疫です。ここから、どのくらいはっきりとした免疫記憶に繋がるか、ということはまだわかりません。しかし、なんらかのかたちでの記憶機能はあるだとうと思われます。他のコロナウィルスでもわかっているように、私たちは何回も同じコロナウィルスに感染します。基本的には、コロナウィルスに対する免疫記憶はよくはありません。そのように、今回の研究で、局所的な免疫の発現によって、ある程度ウィルスを抑制することができたとしても、次の機会にまたウィルスと接触した際にはやはり普通に感染してしまう、ということも考えられるわけです。しかし、私が考えるところでは、それでも軽症で終わる確率のほうが高い、とは思いますが。
著者は注意深く最後のまとめを書いていることは、これが子供の軽症の理由である可能性が否めない。ということですが、これは、子供が頻繁に呼吸器系の感染症にかかるために、粘膜にIgAが沢山存在する、ということにも関係しています。これは、防御的に意味がありますか?防御に長けている、とうことでしょうか? 他のコロナウィルスに対しての抗体がある場合は、新型コロナにもかかりにくい、など
著者がかいていることは、、、刺激粘膜免疫応答です。リンパ球が何度もコロナウィルスによって刺激される、例えば、幼稚園でなど、そこでは交差反応の効果はあるでしょう。リンパ細胞は、近いコロナウィルスの間での交差反応はするでしょう。リンパ球が刺激されたなかでの保存性エピトープはあります。
考えられることは、子供達や、子供がいる30代くらいの親達が、このような感染症に頻繁にかかっている、という事実です。ここで、刺激を受ける。著者は、統計的にみて、IgAの陽性患者は若いひとが多い、と明記しています。子供だけではなく、若い成人です・
抗体検査については話題にしたことがありますが、このようなことからも、抗体検査は取り扱いに注意しなければいけない、ということになりますね。IgA抗体の検査をしない場合、軽い感染の検証ができない、ということもありますし。
広範囲による、免疫グロブリンG抗体をベースとした抗体検査は安定した(抗体保有率の面での)推測ができます。しかし、個人レベルで行われる抗体検査は特殊です。このIgA検査も同様で、この研究の著者はここにかなりの労力をつぎ込んで検査しています。交差反応と特異反応との区別をきちんとするために別の検査もしていますが、このような検査は定常作業的には無理です。ちなみに、定常作業での検査でも、新型コロナウィルスのの感染流行が始まる前に採取された血液から10%の割合でIgA抗体が確認されています。流行が始まる前ですから、新型コロナに対する抗体があるはずはありません。さて、この研究では、唾液と涙液を検査しました。この検査は通常のラボではできない検査です。これは、定常作業でのIgA反応検査とは比較できません。ですので、これからはラボの検査でもIgAを追加で検査しよう、などということは無意味だ、ということを言っておきますし、IgAが陽性だったら、免疫があり感染防止になる、という結果に安易に繋げるのも完全に間違っています。この研究の目的は、どちらかというと、免疫反応の基本的な特徴と病因を把握することと、その要因を解明するためのデータを集めるところにあります。例えば、どうして軽い病症の場合があるのか。どうして、軽い患者と重い患者がでるのか。その違いはなにか。この謎に対する多くの答えの一つが、IgAの分泌である、ということなのです。
数多くの答えのひとつ、常に小さなパズルのピースのように、ですね。違うテーマにも移りたいと思うのですが、かなり前のポッドキャストで、 "There is no glory in prevention" 達成された感染予防に対する名声はない。とおっしゃいましたが、ここで2つ論文が、ネイチャー誌で発表されました。ここでは、パンデミック対策がどのような効果をもたらしたのか、ということを測ろうという試みです。ロンドンのインペリアル・カレッジのもので、ヨーロッパの11ヶ国での、5月初めまでで、もし、感染者隔離からロックダウン、といった対策を何もしなかった場合、どうなっていたか、ということを検証しています。ここででたのは莫大な数字です。興味深いところでは、登録された感染者数がベースになっているのではなく、死者数から感染状況の把握がされているところです。どうして、このようにされたのでしょうか? 意味はありますか。
このようにされた理由としては、死者数は一番はっきりとした裏付けのある数字であるからです。誰かが亡くなれば、揺るがない事実として登録されます。それはどの国でも同じです。他の事、例えば、PCR検査率であるだとか、ラボで確定された数だとか、そういうものに検査体制の違いなどからかなりの差がありますから。国同士を比較してみると、ヨーロッパ内だけでも、かなり異なった検査方法であったことは一目瞭然です。検査をベースに比較をしようとしても無理があります。死亡者の登録と死亡ケースの把握はヨーロッパの国々ではだ大体同じです。勿論、登録速度などには若干の差はあるでしょうけれど。ドイツよりも速い国も沢山ありますが、ドイツでもきちんと把握されています。このベースで計算されました。まずは通常の普通の疫学的な感染拡大の数学的なモデル。ここにはもうこの場でも紹介した論文がベースになっています。ただ、ここでは遡って計算されていますが。つまり、もし、感染対策がとられなかったとしたら、どのくらいの死者がでたのか。
出てきた数字は莫大ですよね。ドイツ国内では、57万人の死者。対策をしなかった場合。実際の数はこの時点で7千人です。すごい差です。対策をとるのが遅れ、大きな被害があったイタリアでは、実際に3万人の死者がでています。驚きの結果でしょうか?
どの視点からこの論文をみるのか、ということですが、各国の対策が行われずに、流行を自然の流れに任せた場合の死者数の予測。これが、ドイツで、57万人。スペインで、47万人。イギリスで、50万人。フランス、72万人。イタリア67万人。これらは、仮説的な数値です。実際には、もし、全く政治的な決断がされなかったとしても、人々は危機感を持って行動しはじめただろう、と思われます。 感染が拡まるにつれて、恐怖が募り、自然と行動を制限したでしょうし、自主的に家から出なかったことでしょう。全く説明もされず、学校の閉鎖や自宅待機を強制しなかった、としてもです。実際に地域によってはそのような状況でした。いわゆるロックダウン対策は他のヨーロッパ諸国のほうがドイツよりもずっと厳しかったのです。
この数は、人口から割り出されたものですが、年齢層も配慮されています。単なる国の人口からの割合だけではありません。ドイツが一番予測された死者数が多いのは、年齢分布と関係しています。興味深いのは、この論文では、登録された死者数から予測された、第一の感染の波における感染率です。
つまり、感染者数、罹患率、ですね。
そうです。どのくらいの割合が感染したのか。血清的な検査とは関係なく、ここでは罹患率が予測されています。小さいヨーロッパ諸国ではかなりの差がでていますが、オーストリアで0、7%、ノルーウェイで0、4%、デンマーク1%、ベルギー8%。これは多いですね!ベルギーでは大きなアウトブレイクがありましたが、人口が少ないですから。原因はいつもタイミングで、ロックダウンがいつされたか、早かったか遅かったか、ということにも関係します。今日の新聞に載っていたのですが、イギリスでは科学者の間で議論があり、イギリス国内で1週間はやくロックダウンをしていれば、死者数は半分だった、と。勿論、このような見識が出てくると厳しいものがありますよね。政治的な対策を振り返るかたちでの評価として。 このようにはっきりとデータとして出される、ということは、人々が認識する上でかなり重要でしょう。
この研究で興味深いところは、小さい国、少ない人口のところではばらつきが多く現れる、と。そこから、人口が多い国の罹患率をみてみると、フランス、3、4%、イギリス5、1%、イタリア4、6%、スペイン5、5%。人口が多い国ではかなり似た数値です。
ドイツは、、
これらの国と似たような構造を持つドイツですが、ここでは、0、85%と出ています。ドイツはヨーロッパ内の大きな国としては、唯一突出しています。5分の1の割合です。 オーストリア、デンマーク、スペイン、つまり、2つの異なる小さい国と人口が多い国で、大規模な血清調査がおこなれていますが、その結果はかなりこの研究モデルで計算された予測と一致します。これもまた、科学の分野で全く違う方法で同じ結果が導きだされた、という良い見本でしょう。そのように一致した結果というものにはかなりの信憑性があります。これはモデリング研究ではありますが、国内、国外共に、全く独立したところから対照されていますから、ここでもわかるように、ドイツの感染防止対策は大きな結果をもたらした、と言うことができると思います。
この死亡数、対策なしでの予測死亡数というものは様々な不確かな面も持っていますので、それではなく罹患率、というのがポイントですよね。この他にも、「もしそうだったら」モデリングがありますが、つまり、もし、対策がとられなかったらどうなっていたか、という仮定です。カリフォルニアの論文ですが、6カ国が調査対象になっています。アメリカ、中国、韓国、イタリア、フランス、そしてイランです。ここでは、死者数から感染流行の経過を遡るのではなく、違う計算方法を用いました。対策なしでは、感染拡大率が1日で38%の増加があったであろう、とされています。どのくらい現実的な数字なのでしょうか?ここでは、対策の一つ一つの効果についても計算をされていますが。
対策の詳細については、ここではかなり大雑把な予測がされています。結局、最終的にどんな結果になったのだろうか、というようなことはこの研究からは導き出すことはできません。これは、内部構造から計算されたのではなく、外部観察からまとめられていて、経済学的なやり方のようです。このような分野には精通していませんので、私にはよくわかりませんが。しかし、著者自身も、限界はある、と述べています。例えば、国間の違い、などです。もしくは、流行が始まった時期、学校が休みの間に始まった場合、など。その場合には、休みが2週間のばされただけで、学校への影響はほとんど予測できないでしょう。このような不確かな点はここにはあります。
結果は大変大きな数字です。中国、韓国、イタリア、フランス、イラン、アメリカのような国々での、調査期間中、まだ第一波の最中ですが、そこですでに5億3千万の感染を医薬品なしで阻止した、と。これは莫大な数です。そうかもしれません。そうかもしれませんが、私はこの研究は、先ほどのイギリスのモデリング研究の補助的な位置付けだと思っています。ここではヨーロッパ内での比較がされていますし、構造が似ている環境での、感染のシンクロ度合い、などからも、対策に踏み切ったことの成果が現れていると思います。
このカルフォルニアの研究では、通常では経済面での政治的コントロールの影響を測定する方法が使われています。 ここに、小さなドイツの小さな研究がありますが、これには、経済学者が関わりました。イェーナでの調査で、イェーナは、ドイツ国内では一番はじめに、4月6日から、公共交通機関、買い物時でのマスクの義務化に踏み切りました。他のドイツの地域で義務化が導入されたのは4月27日になってからです。この比較をするために、人工的なイェーナがつくられました。研究者は、初期の段階でのマスク着用義務が、感染者数を20日間で4分の1現象させた、としています。60歳以上では、半分以上、ということです。これは、先生の発言を裏付けするものでしょうか?対策の評価をするならば、効果があった、と言えるでしょうか。
マスクの着用は特殊なテーマで、まずはどの分野でもそこまで重要ではない、という見方がされていました。WHOでさえも、マスクの効果はない、と断言していましたから。あの頃はまだ2月で、多くの国がWHOの方針で動いていました。それと同時に、アジア諸国では、マスクによる効果がみられていましたし、中国の学者、中国のCDCの責任者もかなり初期の段階で、マスクの着用が感染拡大を阻止する際に大変重要なファクターであることを言っています。
ドイツでは、これに対してかなり対立する議論がされ、多くの人は、全員にマスクが配布されないことは政治的な失態だ、とも言っていましたが、あの時は単純に無理だったのです。マスク自体がなく、どう頑張っても、調達することができなかった。このように新しいウィルスが流行するなど誰にも予測できませんでしたし、市場もその準備をしていなかったからです。参考になるデータはインフルエンザのものしかなく、インフルエンザのエビデンス的には、マスクはインフルエンザ感染の防止にはならない、というものです。その後で、予想外にヨーロッパでも、マスクが重要視されるようになってきますが、3月に発生数が急激に増加しはじめ、イェーナが4月6日に他の地域には先立ってマスクの義務化に踏み切りました。そして、この研究です。デンマークとマインツとダルムシュタットのチームの合同研究で、イェーナでの導入初期と、4月末にドイツの他の地域でもマスクの義務、少なくとも、スーパーや買い物時に、マスクを着用する、という義務化が始まった際の比較がされています。ここでは、義務化になったイェーナ、まだ義務化されていないところの時期的な比較ですが、(イェーナの他に比較できるところがないので)比較は1つしかありません。そこで、人工的なイェーナをつくりました。そのようにここでは呼ばれています。これは、英語のペーパーのドイツ語版のまとめで、英語版も勿論公開されています。使われたのは、累計件数で、義務化から20日の間にどのくらいの新感染者数がイェーナででるのか。調査期間のはじめでは、142件。20日後には158件でした。そして、構造的に比較できる街のデータを分析して
感染者数、医療環境、など
そうです。似たような環境構造ですね。似たような年齢分布、似たような発生数、など。様々な都市と比べています。類似点にはばらつきがありますから、様々な都市で比較して、仮説的な調整がされました。イェーナのような平均値を持つ都市です。
ダルムシュタット、ロストック、クロッペンブルグ、などの都市からつくられたものですね。
そうです。クロッペンブルグ、トリア、カッセル、そして、ハインスベルクの一部、、、、ハインスベルクも少し混じってます。そこから、様々な重点をおいた分析をして、、ケース数も調べました。そこでは、イェーナのように142件ではなく、143件。つまり、ほとんど同じ数ですね。そのようになるためにあわせていますが、最終的には、158件ではなく、205件でした。つまり、イェーナでは23%増加が少なかった。60歳以上では、50%以上もの増加を阻止することができています。先ほども言っていたように、すごいことです。しかし、ここにも解釈において不確かな部分もあって、、、この、増加の減少は実は義務化が始まった数日後にすでにはじまっているのです。他の都市に比べてカーブがすでに低くなっていた。これはありえません。
潜伏期間、ということですよね。
そういうことです。10日は少なくともありますから。どちらかというと、2週間ですね。登録された数に影響が反映するまで。このことに関しては、著者は納得できる要因を述べています。告知効果、というものですが、3月末にそこから1週間後に始まるマスクの義務化が発表されました。論文内で、グーグルのサーチワードの調査も追加でされていますが、この時期には、「マスク 購入」といった言葉が多く検索され、人々のマスクへの関心度が急激に高くなったことは明らかです。告知された時点で、義務化と同じような効果があった。乗り遅れた人々は、義務化が開始されてからマスクへの関心を持ったようですが、多くの人々は、その前にマスク義務に積極的だったのです。これが、義務化されてすぐに反映された効果の理由だ、ということです。心理的な効果ですね。感染流行が始まってるぞ。これから大変になるぞ。という危機感です。
ここで、マスクの感染状況への効果の証明、という可能性はありますよね。
まだ興味深い論文はあって、、、この小さな不確かな部分を補うために、ここれは違うところが比較されています。4月22日に他の州に比べて、厳格なマスク義務があった州です。このマスク義務があったところは、ノルトハウゼン、ロットヴァイル、マイン=キンティッグ、ヴォルフスブルグ、とサクセン、とサクセンアンハルト、です。ここでも、他の州との比較がされています。新しい感染者数での違いは、1日で40%。これも驚きの数値です。著者はこう説明しています。ここでは、(マスクの)メカニズムについては置いておきましょう。マスクについてはもう話しましたし、大きな飛沫がブロックされてエアロゾルになるのを防ぐだとか、近距離での防止になるだとか、、それは感染生物学的な考察です。しかし、もう少し大きな視点でみていく必要があると思うのです。様々な交絡因子も考慮すると、イェーナは特殊だったのではないか。イェーナで4月6日に起こったことは、「マスク」の着用ではなく、人々の意識の変革ではなかったか。ということです。しかし、そうではないでしょう。他の地域でも目にみえた効果が現れていますので。新型コロナのように過分散の特性をもつ感染症は、それを持たない感染症よりも大きな影響があります。
ばらつきがない拡大ですね。
そうです。一人当たりの二次感染率が同じ場合は、平均値からぶれることはありません。安定して、一人が二人に感染する。しかし、この感染症では、少ない人数が、多くに感染させる。それ以外の人は、一人か、もしくは誰にも感染させない。R0=1、9の例で計算すると、10人中9人が1人に感染させ、1人が10人に感染させる。そこから19人になるわけです。これだと、ほとんど、数値が2です。とてもばらついています。このシチュエーションについて、2005年のネイチャー誌の論文ではこうあります。 このような大変ばらつきがある感染頻度においては、感染の鎖を断ち切り、封じ込めるためにも、広範囲における緩やかな対策をとるのが効果的である。それによって、小さな感染伝播の種を断つことが可能である。 こちらのほうが、ここ数週間で起こったことに対する適した説明ではないかと思います。ドイツでは、感染にブレーキをかけることに成功しました。発生数をみてみても、300〜500の間です。大幅な緩和がされたのにも関わらず、爆発的な状況には至っていません。これは、この偏った分布における、感染が続かずに自滅する、という特性によるものだと考えられます。これからも、大きなスーパースプレッディングイベントを阻止するためにも、マスクの着用、屋外での滞在、大きなグループでの接触を避けるなど、引き続き実行していかなければいけません。
私は、ここで、"Maybe there is glory in prevention" と締めくくりたいと思います。
そうですね。そう言っておきましょうか。
今日もどうもありがとうございました。今後のポッドキャストは週一でお届けします。先生もポッドキャストよりも重要な研究などで大変ご多忙ですし、今の感染状態から、情報提供の頻度を下げてもよさそうですね。
本当に学者としてしなければいけないことがたくさんあります。これから、ジャーナリストとしてのキャリアをつくっていく計画はありませんし。(笑)新しい情報も、需要とのバランスでみていかなければいけないと思うのです。3月、4月と今とでは状況が違うでしょう。
また来週もよろしくお願いします。
ベルリンシャリテ
ウィルス研究所 教授 クリスチアン・ドロステン
https://virologie-ccm.charite.de/en/metas/person_detail/person/address_detail/drosten/
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