ドイツ@Sars-CoV-2 コロナウィルスアップデート(22) 2020/3/26(和訳)

話 ベルリンシャリテ ウィルス学教授、クリスティアン・ドロステン
聞き手 アンニャ・マルティーニ

2020/3/26

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ピークにはまだ達していません。ヘルムホルツ協会の感染研究班が警告しました。  感染者数はまだ増加するでしょう。 スペインでは感染が老人ホームや介護施設で爆発し、アメリカでも既に死者が1000人を超えました。 毎日、ベルリンシャリテのウィルス学教授、クリスティアン・ドロステン先生にお話しを伺っています。 聞き手はアンニャ・マルティーニです。

まず、少しだけ、昨日の回でお話しされた事にふれたく思いますが、、、抗体検査について、です。   この検査は血液中の抗体の有無で、感染した事があるかないか、を判別するものですが、開業医の方から、診療所に、1個22ユーロのコロナテストキット、50個セット前払いで、という営業が来ている、とのメールをもらいました。 気をつけたほうがよいですか、どうでしょうか。

気をつけなければいけないと思います。 簡易テストのような、ラテラルフローテストは、大量生産が出来る、という利点があり、現在、市場に出回ってるラテラルフロー型(コロナテスト)は、全て抗体検査薬です。  そして、まだ検証が十分にされていません。 このテストが、ラボで行われる抗体検査方法と比較して、どの位の精度なのか、という点がひとつ、そして、もうひとつ重要な点は、この検査は急性期診断には使えない、という事です。  抗体は、感染から約10日後くらいに出来始めます。 稀に7日後に出来る人もいますが。   今現在、この感染症の検査を希望する場合、知りたいのは、自分は感染したのだろうか。 そして、感染したのは、新しい新型コロナなのだろうか、という事ですよね。 このようなシチュエーションでは、抗体検査をしても意味がありません。

他には、ロンドンから、350万個の抗体テストが購入され、来週には使えるようになるという情報が入っていますが、、、

いや、、もしかしたら、誰かが、大量に購入したのかもしれませんし、抗体検査が必要な分野もありますから。  初期診断としてしてではなく、もう完治したのかどうか、ということを確認する為には必要な検査です。  しかし、気をつけなければいけないのは、このようなテストキットは偽陽性になる可能性も高い、ということです。   それ以上に、今現在、必要な診断方法は、感染を初期に発見することですので、初期にウィルス確認が出来るものが必要で、10日以降に、抗体確認する検査ではないのです。

昨日、このようなテストは数ヶ月後に使用出来るようになる、と仰っていましたが、もっと先を行っている国はありますか。

もう既に、抗体検査薬はあります。 簡易キットタイプと、ラボでの検査タイプ、とです。  ラボでは、免疫染色法、そして、先週からエライザテストが出来るようになりました。  PCR検査と並行して、抗体検査もこれから他のラボとも協力しあいながら10〜14日後にはかなりの数の検査を始める予定です。  これは簡易キットではなくて、本格的なエライザテストです。  市販品は既にありますし、ラボも準備は出来ていますが、いつからドイツでは使えるのか、という問いには、いつから、大量に使えるようになるのか、という事を考慮しなければいけません。  そのような視点からみて、どこの診療所でも必要に応じて検査出来るまでの体制が整うのは、、、数週間、、、多分2ヶ月後位になるのではないでしょうか。

誰もが、自分で検査する事が出来る抗体検査はどのようなかたちになりますか。 糖尿病用のキットみたいに、指先に針を刺してとった血で検査する、ような感じでしょうか。

そんな感じです。 少量の血をキットに垂らして、、妊娠検査薬が尿に反応するように、キット窓に表示される線が2本が出たら、陽性、というような感じで検査します。  しかし、これらもまだ技術的な検証が行われていません。  反応はしますが、まだ十分な感度ではないです。  ラボでの検査も、どの診療所からでも頼まれれば検査できる体制になってはいますが、10日後位からしか検出されない抗体では、初期の診断は出来ませんので、、、やはり、そういった面では、今のところ、ウィルス確認と診断目的での検査は、PCR検査のみ、ということになるのです。  (PCR検査の)ラテラルフローキットも、近い将来出来るでしょう。  初期の段階の喉のウィルスの数を考えるとかなりの感度での検査が(簡易キットでも)可能になるとは思います。  これ以上は今の段階では言えません。

初期の段階のウィルスの数、と仰いましたが、もし、感染してから少し経ってからPCR検査をした場合に、ウィルスが肺に移動して、喉にはもう既にウィルスはあまりいない。そういう状態では反応がでない、という事もありえますか。

勿論、そういう場合はあります。  ちょうどこの間、ミュンヘンの医師からメールをもらったのですが、、、今、かなりの数で、様子をみながら自宅謹慎していた間に症状が進んで、2週間後位に病院に来る、というケースがあるらしいのですが、この場合、喉のサンプルでのPCR検査では、陽性にはならないけれど、CT検査では、この感染症の症状がみられる。  COVID-19を診断している医師であれば、CT検査ですぐに特徴的な病変を確認する事ができるからです。  何か、雲のような感じの塊ですが、、、そのような特徴的なものを経験値のある医師はすぐにCOVID-19と診断できます。   喉のPCR検査が陰性であっても、です。  PCR検査は、感染から1週間目の診断に適している検査で、2週間目からは、喉のウィルス量は減少しますが、肺の中では新たなウィルスの増殖が始まるのです。  この際に、咳などからウィルスを採取、もしくは、カテーテルなどで気管から採取、、、熟練の医師は出来るんですよね、凄いです、、、このように、呼吸器から採取したサンプルは確実に陽性反応がでます。                                                                                         この2週間目に、肺炎が始まっているのにもかかわらず、PCR検査では陽性が出ない、というジレンマは、武漢でも、大変な混乱を招きました。  PCR検査への懐疑と、検査体制が不十分だった事もあり、診断をPCRから、CT検査に切り替えました。   武漢の患者は、病院に行くのを渋って自宅にいた人が多かったので、感染から時間が経った患者が多かったのです。   ドイツはそういう状況ではありませんが、診断をする医師にとっては、感染が進行している患者は、PCR検査で陽性にならなくても、CTで診断することが出来る、という事は大変重要な事です。           その他にも、かなりの確率で反応を確認することが出来る方法は、、検便検査です。   これもかなり確実は検査方法ですが、ラボの検査体制を少し変えなればいけない、というデメリットがあります。

そして、少し検査に時間がかかるのではないですか。

いや、時間はかからないのですが、少し準備するのが面倒なだけです。 他の検査様式とは若干違うものですから。

今日は、、、少し、治療薬について、、、お聞きします。  もう既に、いくつかの薬は、臨床試験が行われていて、、、この場でも取り上げてきました。  例えば、レムデシビル、これは、エボラ出血熱用に開発されたものですが、ドイツの病院で臨床試験が行われています。 今現在、何がわかっていますか。

レムデシビルは、、、簡単でわかりやすいメカニズムを持っています。 これは、ウィルスポリメラーゼ阻害薬で、これは、かなり前から文献にもでていますし、培養細胞試験、動物実験でも効果が認められています。  他の臨床試験が進められている成分で、ここまで初期段階のエビデンスが揃っている成分はそうはありません。  このレムデシビルをつくっている製薬会社は、今のところ、コンパッショネート・ユース(人道的使用)での処方を許可していて、重症患者、酸素は必要だけれど、まだカテコールアミン、心循環器系の薬を必要としない場合、、、もう少しで集中治療に移行するかしないか、という状態ですね、そういう場合に使えるのですが、、、直接的に働く抗ウィルス剤なので、あまり早い段階以外では使用したくありません。       1週間目にウィルスが喉から気管を通って肺に降りてきて、2週間目から重症化し始めたら、、、ウィルス反応と免疫反応が同時にある状態になるのです。  この状態になると、ウィルスだけに効く薬はあまり意味がない。 免疫の過剰反応を引き起こすかもしれませんし。 これは臨床結果にも出ていますし、ウィルスに直接はたらきかけるレムデシビルに当てはまります。

レムデシビルの何がどう作用するのでしょうか。

新型コロナは、RNAウィルスです。 RNAウィルスは、細胞核の複製酵素を使うことが出来ません。   細胞が増えるためには、DNAが複製されなければいけなくて、多くのDNAウィルスは、このDNA複製酵素を使って増えることができます。  細胞内の酵素を自分の複製の為に悪用するわけでですね。  しかし、RNAウィルスは、それをする事が出来ません。  なぜなら、私たちの細胞は、RNAを複製する必要がないからです。   私達の細胞にも、RNAはありますが、それは、DNAから転写されます。 プロテインを合成するためです。これがメッセンジャーRNAです。  勿論、他にもRNAがありますし、ここでは、とても簡単に説明していますが、、、、このメッセンジャーRNAは、複製されるわけではなく、一回だけ転写されます。  しかし、ウィルスが増幅するには、何倍にも複製されなければいけませんから、RNAはRNAから転写される過程が必要になってきます。 ウィルスの ゲノムはRNAでできていて、つくられるものものもRNA、これを複製中間体と呼びますが、それをもう一度転写して、プラスとマイナス、で、複製複合体が形成されます。 その際には、 最終的には、ウィルスが、自分のRNAポリメラーゼを転写の為に持ち込まなければいけません。  そのやり方は、ウィルスによって異なります。 あるウィルスは、ウィルスの一部に使えるRNAポリメラーゼを持っています。 転写する酵素ですね、ゲノムのコピーをします。 反転のコピーです。
ウィルスの種類よっては、プロテインとしてこの酵素を持ち込むタイプと、情報としてのゲノムを持っていて、それをリボゾーム内でプロテインに変化させてそこでRNAを複製するタイプがあります。  
新型コロナウィルスは、後者の方です。 遺伝子情報を持ち込んで細胞内でDIY的に自分でRNAポリメラーゼをつくるのです。 この酵素を抑制するのが、レムデシビルです。

この効果は(治療の)チャンスではないでしょうか。

この効果の仕組みがわかっている、という点ではチャンスです。   またここで、もう少し深く追求することも出来るのですが、、、、というのは、そこまで、はっきりと、何がどうなるか、、、という事は明解になっていないからです。  DNAポリメラーゼ自身が抑制されるのか、ポリメラーゼをつくる為の情報が抑制されるのか、 それとも、ポリメラーゼ自体は複製を続けるけれども、転写の失敗がおこり、結局ウィルスが死滅する、という事なのか、、、、 でも、これは、細部の話です。    一般的な理解には、  レムデシビルは、ポリメラーゼを阻害する、で十分です
(レムデシビルの場合は、)手当たり次第に培養細胞で300個の成分を試して、効果がある成分が偶然みつかったが、どうして効果があるかは、、、わからない、というようなことではないわけです。  そういう場合もありますが、、、、、

クロロキンとかですね。

そうです。 クロロキンでは、この成分が細胞内でなにをするかは自体はわかっています。 この成分は、細胞内のイオン環境に影響を与えるのですが、この変化が、様々なウィルスの増幅作業を抑制するようなのです。 コロナウィルスだけではなくて、ほかのウィルスも、クロロキンによって増幅が妨げられます。

クロロキンは抗マラリア剤で、副作用も多いですよね、、、しかし、旧型SARSウィルスにも効果がみられた、と。 少なくとも培養細胞試験では

その通りです。 

フランスの研究グループがクロロキンを使った臨床試験を行いましたが、ここには、残念ながら様々な問題点があり、まだ研究の余地がある、とのお話を以前に伺いましたが、、、その後はどうなりましたか。

この研究結果は、、、、効く、でも、効かないでも、どちらでもありません。 疑問点がありすぎます。 この分野に精通している人間、私を含めてですが、の見解は、、、疑いあり、です。  最終的に効果が認められるのか否か。  今後、もっと大きな臨床試験を行なって、最終的に治癒率があがれば、、、そこには、なんらかの効果があるとみて良いでしょう。  それは、必ずしも、抗ウィルスである必要はなくて、クロロキンは、抗炎症剤でもありますから、肺のダメージへの効果もあるかもしれません。  しかし、決定的な臨床結果、はこの場合は期待できません。   コホート内の違いはあるとしても、、、、これを使えば治る、という特効薬ではありません。 それには、エビデンスがなさすぎます。 もし、効果があるのであれば、とっくにエビデンスがでているはずですし、ここまで矛盾する臨床試験結果にはなっていないでしょう。

もう一つ、試験されているにが、HIVの薬です。ロピナビルとレトロビル、ですが、これは、どのように効くのでしょうか。

これは、ドイツで、カレートラと呼ばれる薬で、古いHIVの薬です。 ここには、2つプロテアーゼを抑制する成分が入っていて、 これもまた、アーゼで終わる単語ですが、アーゼがついていると、酵素です。 ちなみに、先程は、RNAポリメラーゼが出てきましたが、これも、アーゼで終わりますね。   さて、この、プロテアーゼは助触媒の働きをして、RNAをつくるのではなくて、タンパク質を切断します。  HIVウィルスも、コロナウィルスもそうですが、複製するときに、タンパク質が切断される過程があります。  これは、全てのタンパク質を全部長くつくって、その後に、それぞれの部分に切り取るのです。  私達の細胞内では、、、、またものすごく簡単に説明していますが、、、タンパク質は、一個ずつ部分ごとに染色体から転写されますが、ウィルスのなかには、そうではなくて、染色体、正確には染色体ではないですが、ゲノム染色体、とここではいっておきます、染色体の一部ではなく、全体で転写されます。 その後で、タンパク質レベルで切り取られるのですが、 その作業に必要なのが、プロテアーゼです。   HIVでは、長い間このプロテアーゼについては研究がされていて、このカレートラの成分は、このプロテアーゼを妨害する事がわかっています。

この切り取り作業、を阻止するのですね

そうです、そうです。切り取りを制御します。 このプロテアーゼは、頻繁に、というか、殆どの場合、ウィルス自体が持ち込んでくるので、そのウィルスに合うかたちになっています。 そのウィルスのプロテアーゼ、ですね。  このHIV特異のプロテアーゼに効果があるからといって、コロナウィルスのプロテアーゼにも効くだろう、、、、というのは安易です。   それでも、基本的には、この着眼点でこの薬は選ばれていて、 重症患者に何か効く薬はないだろうか、、、と探しているうちに、手元にある薬を使ったのです。とりあえず、試してみよう、と。   そこから、臨床試験に至ったわけですが、一つ目の結果は、殆ど効果はありませんでした。   他の臨床試験でもそうですが、対象が重症患者だと、なんとか助けたい、という背景がありますから、、、、しかし、実は、このような抗ウィルス剤を使わなければいけないのは、重症患者ではなくて、初期の段階です。  初期がウィルスの周期な訳で、そこから、2週間目からウィルスと免疫の周期に移っていきます。 3週間目からは、免疫の周期です。     1週間目、ウィルスが(喉の)粘膜で増幅、肺に降りていく、2週間目、免疫が作動してウィルスを退治しようとする、ここでの、免疫の動きは、良い成果に結びつくこともあれば、免疫過剰状態になって、悪影響を及ぼすこともある。その際に炎症がおきて、、、それが、CTで確認される訳です。

白い雲、ですね

そうです。その後、さらに時間が経つと、免疫機能がもっと活性化されて、その頃には、ウィルスはもう死滅しています、存在はする時がありますが、増幅はしません。 が、炎症は続きます。  これが、3週間目です。
ここで、また専門家に一言。 このポッドキャストは、一般の方にわかりやすいように説明していますから、実際にはもっと複雑です。 ここでは、理解しやすいように簡単に説明しています。        さて、抗ウィルス剤をつかう、ということは、ウィルスの周期に使いたい訳です。 1週間目、ですね。  しかし、殆どの臨床試験は、2週間目からです。 その頃にははっきりとした症状が出ていますから。 1週間目には、この感染症では軽度の差があまりないことが多いのです。  勿論、熱があるひと、ないひと、喉が痛い人、すぐに咳が出る人、といますが、 ドイツではこのタイプが多いように思います、もしかしたら、年齢層にも関係しているかもしれませんが、、、、でも、また話がそれてしまいますのでやめますが、、、このように、症状にバリエーションはあったとしても、1週間目は比較的軽度です。  2週間目に入る時点で、良くなるか、悪化するか、に分かれます。      ここが、ジレンマです。  本当は、1週間目に抗ウィルス剤を使いたいのですが、その時点ではまだその後の症状の進行がわからないのです。   80%が、(あまり必要がない)このような実験的な薬をもらっても、どちらにせよ、治る可能性は高い。 軽症なので。   今、これが決断問題です。

もう少し、新型コロナウィルスついて知る必要はありますね。どの方法が一番効果的か、ということを知るためには。 それとも、もう既に効果的な成分はありますか。

うーん、もう既に、いくつか、効果がありそうな成分はあります。 抗HIVもそのひとつに入れてもいいでしょうが、これは メカニズムはわかっているものの、ポリテアーゼの抑制はそこまで強くない、とみられています。    レムデシビルは、ポリメラーゼが攻撃されます。   その他にも違う薬があって、ファビピラビル(アビガン)、これも、ポリメラーゼが攻撃されます、、、その他にもいくつか、機能的に効果が期待される成分はあります。
どちらにしても、ウィルスの増幅、複製過程で効果を発揮する成分は、初期の段階で使われなければいけない、ということ。  しかし、それを現在しない、出来ない理由はいくつかあって、、、先程も言いましたが、まずは、決断のジレンマ。  初期の段階患者は入院していない事が殆どですし、このような薬を使う際にはきちんと管理されなければいけません。 副作用もありますから。 適応外使用では、用量も多く処方されますし、副作用も多いです。 適応外使用とは、元々違う病気の為の薬を使う事です。 例えば、クロロキンはマラリア薬です。   レムデシビルには、違う問題もあって、、この成分は市販されていません。  エボラ出血熱の為に開発されて、臨床は終わっているのですが、、、製薬会社は、(新型コロナに効くなどとは思っておらず)このパンデミックの準備は勿論していなかったので、、、製造が間に合わない。  インサイダー情報は持っていませんので、現在どのよう状況なのか、、、わかりませんが。      別成分、 ファビピラビル(アビガン)は、その点、もう少し進んでいて、数カ国ですでに、抗インフル剤として購入することができます。  薬局でも買えます。    中国でも、抗インフル剤として臨床試験が行われています。    ここで、ファビピラビルについていっておきたいことがありますが、この成分が、新型コロナの治療薬として出てきたときに驚いたのは、、、、この成分は、以前ドイツの臨床試験で、、、その時には、ファビピラビルではなくて、T-705という名称でしたが、この成分を、私がまだハンブルグにいた際にSARSの薬として実験していたのです。MERSもです。 はっきり覚えていますが、 その時には、培養細胞実験の段階で効果がありませんでした。ですので、その後の研究はしなかったのです。 そのような結果がでていたので、このファビピラビルが中国で使われる、と聞いた時には大変意外に思ったのです
発表された第一次の臨床試験では、2つに成分が比較されています。アビドール、これは、ロシアの抗ウィルス剤です、因みに、新型コロナには効果がありません。それでも、可能性を無駄にしない、という意味で試験に使われたのでしょう。これを使用したグループが、120名。効き目がないので、こちらはコントロールグループ、ということになります。  それに対して、ファビピラビルを使用した患者、116名。    フランスのクロロキンの臨床試験と違うのは、この試験では、臨床経過、を重要視している点です。    どのような経過を辿ったのか。投与されてから7日間の間、 呼吸、熱、といった、病症の経過を記録しました。  ここでの患者のほとんどが、初期の患者で、重症患者ではありません。  116名中18名だけが、肺炎患者でした。  大多数が軽症者で、初期の段階で治療が始まっています。  症状の良化がみられたのが、1つ目のグループでは、26%、 2つ目のグループでは、72%     この差は統計的にみても圧倒的です。  
この結果は、正直、想定外でした。   あの時、培養細胞試験で、良い結果が出なかった、という事実がありますので、、、、私はいまだに疑いを取り去ることは出来ません。  この結果の信憑性もそうですし、もしかしたら、どこかにミスがあるかもしれません。  違う臨床試験が必要です。  一つの臨床試験だけで判断はできませんし、しかも、これは、査読されていない、プレプリントですから。     しかし、これは、すでに、メディアでは公開されていて、この製薬会社の株が上昇するだけの宣伝効果がでています。      さらに、武漢では、入院時に状態にとても差があります。 重症者では、両方のグループ間の違いはみられませんでしたが、重傷者の人数は少数でした。    もう一つは、投与量がものすごい多い。はじめの量が1,6g、これはかなりの量です。 そのあとで持続量として1g以下、 それによって、14%が、高濃度の尿素が血液中から検出されました。 これは、大きいな副作用です。 この状態で、このままこの成分が使えるかどうか、、、は疑問です。    疑問点はたくさんありますが、この通常の患者の7日間の改善には、、驚きます。   軽症の患者には、、、効いたようですから。

でも、まだ引き続き臨床試験はしないといけませんね。

まだ、ほんの一部の成分の話しかしてませんが、、、、続く成分は、インテーフェロン、これは、旧型SARSウィルス際に猿で実験したデータが残っています。 小さな臨床試験でしたが、インターフェロンは、かなり副作用があって、これを使うと厳しい症状がでます。 錠剤ではなく、筋肉に投与されるタイプで、猿と、少数の人間で、ごく初期の段階で効果が認められました。  少しでも使う時期が遅くなると、症状が悪化します。 逆効果です。 ですので、インターフェロンはその点危険です。   しかも、初期のタイミングで、ハイリスク患者の場合など、条件が揃わないといけません。

今、ゲッティンゲンの研究所と共同研究をされているそうですね。

そうです。ここの研究所は、ウィルスの侵入の専門家で、ここで、カモスタットという成分に注目しました。  この成分は、ウィルスの侵入を阻止します。この研究に 私も協力していますが、今回の新型コロナは、旧型のSARSウィルスより、強い膜内在性プロテアーゼ、タンパク質を分裂させる酵素を使うのです。 この場合の酵素は、ウィルスの酵素ではなくて、細胞自身の酵素です。  細胞自体の外膜にあるのですが、このタンパク質おかげで、外膜に穴があいて、ウィルスの侵入が可能になってしまうのです。  その為に、ウィルスはこの細胞性タンパク質を使いますが、このタンパク質を抑制する薬があって、、、、、それが、カモスタットです。 ここで、 成分、ではなく、薬、というのは、カモスタットは既に薬として許可されているからです。  慢性膵炎の薬です。  この薬が細胞に働きかけるのを確認できています。  今は(治療薬をみつけるために)動物実験をしたりしている時間はないので、これが既に薬として許可されているというところが大変重要なポイントです。 後は臨床試験で、本当に効果があるかどうか。   これも、典型的な適応外使用例です。 まだこれからですが、、、はじめようと思います。

今日もどうもありがとうございました。明日もよろしくお願いいたします。


ベルリンシャリテ
ウィルス研究所 教授 クリスチアン・ドロステン

https://virologie-ccm.charite.de/en/metas/person_detail/person/address_detail/drosten/

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