ドイツ@Sars-CoV-2 コロナウィルスアップデート(101)  2021/10/27(和訳)

フランクフルト大学病院 ウィルス学教授、サンドラ・チーゼック
聞き手 コリーナ・ヘニッヒ

————————————————

もしこの冬、発生指数が400になれば、、1週間で1億8000万ユーロがコロナ患者にかかることになる、という計算を経済研究所が出しました。私たちはまたとても危険な分岐点にいる、と言えますが、それはなかなか受け入れがたい現実です。 今の感染者数のカーブをみると、「このグラフは今年のものではないのではないか?」と思うくらい去年と似ています。また上昇傾向がみられますが、人々のパンデミックに対する意識はそれとは対象的で、この辺りも去年と同じです。感染者が増えるなか緩和を進めていく、という点でも、そうです。残念ながら入院率にも影響がでています。重症化に効果がある、といわれているワクチンがあるのにも関わらず、どうしてなのか。 どのような手を打つべきなのか。今日も、フランクフルト大学病院ウィルス学教授、サンドラ・チーゼック先生にお話を伺います。聞き手はコリーナ・ヘニッヒです。

10万人あたりの7日間の発生指数がドイツ全国で100以上になっています。年齢層が上がるにつれて増加率が上がります。病床状況にはすぐに影響しないために、発生指数だけをとってはいけない、ということはわかっているのですが、他の数値をみてみても、現時点のシチュエーションは去年と比較できるものだと言えるのでしょうか?

1対1では比較できないと思います。まず言っておかなければいけないことは、数週間前に私は、このままもう少し長く新規感染者のカーブが横ばいになれば良いな、、と願っていました。残念ながら、先ほどもご指摘があったように、明確な増加がみられ、どのパラメータをみても、感染者数だけではなく、集中治療患者の数も増加しています。つまり、入院患者が増えている。今、危惧されるのは、この新規感染が、今の時点で1600人の重症患者がいる集中治療病棟への負担をさらに大きくする、という点です。この患者の多くはもうかなり長く治療を受けてうけていますので、ここの比較では状況は去年よりも悪いです。それと同時に、介護スタッフ状況は改善されていませんし、どちらといえば悪化しているのでそれによって使える病床が削減されています。一番の負担がかかるのは、大学病院ですが、先ほど出たように、高齢者、80歳以上での年齢層での増加が40%増である、というところも気がかりですし、60代も似たような傾向です。そして、病院での治療を必要とする患者もいるわけですから、これから増えていくことを考えるとそこでの心配もありますし、院内感染、老人ホーム、介護施設での集団感染に対しても不安が尽きません。去年、2020年と比較をすると、1日の新規感染は今年のほうが多く、20、21で、この前の感染波の影響で集中治療患者数と死者数も多いのです。そうであるのにも関わらず、関心を持つ人が少ない。慣れてしまったからです。このような数字をみても何も感じなくなってしまたのでしょう。勿論、原因はデルタ株によって、感染力が増し国内での感染状況に変化があった、というところにもあります。しかし、ワクチンがありますから、去年に比べると感染で亡くなる人の数は予防接種者においては大変少ないことは確かです。

少なくとも、それは良いニュースですよね。とはいっても、もう一度病院での状況をみていきたく思うのですが、もし、このままこの傾向で増加していった場合、パンデミックがまた全体の危機となり、他の重症患者や、事故による手術や他の重要な手術などができなくことが懸念されませんか?

部分的にはそうなるでしょう。そのような治療は大学病院に集中していますから、そこでの医療の逼迫はおこります。どのくらい抑え込むことができるのか、というところにかかっていると思います。特に、老人ホーム、介護施設、そして病院での集団感染についてはそうです。今、みないように目を背けるのか、それとも対策を練るのか。忘れてはいけないのは、ワクチンが感染に関しては無限の保護効果を持たない、という事実です。特に、予防接種をしてからしばらくたっている場合には、感染するリスクは高いです。そして、感染の自覚がなく検査をすることなく、周りにうつしてしまう可能性も高いのです。

ワクチンについては、この後見ていきたく思うのですが、このような集団感染がおこる可能性のある施設でどのような対策ができるのか。感染防止対策が解除されたと同時に感染者が劇的に増加する、という現象はイギリスでも何度も起こってきたことです。イギリスには多くの感染回復者がいて、少なくともドイツと比較すると数的には多いですが、国際的な比較としてはどうなのでしょうか?どのようにお考えですか?

ドイツよりも状況が悪い国はあります。例えばルーマニアなどです。先日、驚異的な発生指数が報道されていましたが、ブカレストで1000以上です。そこでの数日間での死者数は、450〜500名。人口が1800万人のなかで、です。ドイツに置き換えると、1日で2000人亡くなる計算になります。ルーマニアの予防接種率は約35%で医療環境もよくありません。残念ながらそう言うしかないのですが、医療への投資がほとんどされていないのです。さらに最悪なのは、ワクチンを十分に購入したのにも関わらず国民の予防接種に対する興味が低い。このようにシステムの違いと予防接種率からルーマニアとドイツを比べることはできませんが、ヨーロッパですらまだパンデミックが収束していない状態なのです。そのような状況であること大変悲しく思いますが、他の隣国をみてみても、例えばオランダの発生指数は190、ベルギーが280、ベルギーに関しては予防接種率が74,8%であるのにも関わらず発生指数は増加しています。死者数が低いのがせめての救いだと思いますが、オランダやイギリスでも1日の死者数は予防接種者がほとんどいなかった2021年の1月と比較しても大変少ないです。南のほう、スペインやイタリアをみると、発生指数は30、40と低いですが、これらの国の予防接種率も高く、スペインでは81%、イタリアは76か77%、ポルトガルは88%です。この高い予防接種率は間違いなくメリットではありますが、この発生指数が安定しているのは気候状況にもよるものだと思われます。これらの国ではまだ夏くらいの気温で暖かいですから、これから寒くなってくるにつれて増加するのかどうか。その辺りは不明ですが、要観察、ということです。

予防接種率に関しては、スペインとポルトガルが例としてあげられていましたが、これらの国の予防接種率は特に高齢者層で大変高く、それはデンマークも同様です。80歳以上ではほとんど100%が予防接種をしていて、これがいまのところ入院率を抑えている理由かと思われますが、これまでの知見から免疫効果が時間とともに下がってくる、ということがわかっています。ここから、ワクチンブレイクスルーのテーマになりますが、先週のロベルト・コッホ研究所のリポートをみると、ワクチンの効果にも関わらずワクチンブレイクスルー感染の数が増加しているのがわかります。特に60歳以上では、入院患者のなかでの接種者の割合が40%とのことで、ワクチンの効果的に、3回目を早めに接種しなければいけない、という状況にある、と思われますか?

私は、これは無視してはいけない問題だと思います。まず、ロベルト・コッホ研究所のウィークリーレポートからは、60歳以上の重症化、集中治療、そして死亡への保護効果は持続していることがわかります。86〜92%です。とはいっても、60歳以上は優先接種された、ということもあって、時期的に早い段階でワクチンを打っています。ブレイクスルー感染が増加しているのは明らかです。基礎疾患がそもそも重症化につながる、ということもあるでしょうし、免疫機能的にワクチンの効果があまりでていないケースも多いでしょう。Stikoが推奨するように、高齢者へのブースターワクチンの利点は大きく、感染防止効果も上がり、重症化への保護効果も同様です。これも重要かと思いますが、ダルムシュタットでチハン・セリック氏によるインタビューのなかで指摘されているのは、ワクチンブレイクスルーの50%がジョンソン&ジョンソンのワクチンを接種した人たちであった、という点です。因みに割合としては、ヘッセン州でジョンソン&ジョンソンを接種したのは全体の5%ですが、この人たちは1回しか接種していないわけですから、2回目の接種を別のワクチンでする、ということを優先的に行っていかなければいけないでしょう。

チハン・セリック氏を知らないリスナーもいるかと思うので補足しますが、氏はダルムシュタットでCovid患者の集中治療を行なっている一番有名な医師です。

そうです。彼は定期的にインタビューを掲載していて、たしか、、FAZ紙でだったと思います。常に客観的な分析内容でとても読み応えがありますし、リアルな病院の現場での情報が載っていますので、ぜひ読んでみてください。

お薦めの文献、ということですね。ワクチンの効果がなかった、もしくは十分ではなかった、というケースで有名な一件がありますが、ワクチンには基本的に高い保護効果があります。この件を少し取り上げても良いでしょうか?アメリカの元米国務長官であるコリン・パウエル氏が死去しました。2回のワクチン接種がされていたのにも関わらず、です。しかし、この年齢層で推奨されていたブースターワクチンは接種していませんでした。パウエル氏は80歳以上で深刻な基礎疾患をお持ちでしたね。

そうです。深刻な疾患、というのは癌でしたので、それが原因で免疫不全になっていたと思われます。これは大きな違いです。疾患のなかには、患者の免疫を抑圧して十分な抗体がつくれないようにしてしまうものがある、ということは、別の疾患のための別のワクチンでもわかっていることです。患者のなかには、免疫機能が低下しているために重症化してしまう、というケースが多くみられますが、その際にもワクチンの接種は重要なのは、たとえ、免疫応答が理想的ではなくても、ワクチンによって疾患経過を軽くできるかもしれないからなのです。そして、誰に対してでも効果がない、というわけではありませんし、結局、効果があるかどうか、ということは打つ前にはわかりません。「100%の効果がないのであれば、打つ意味がない」という人もいますが、これは論拠としては成り立ちません。医学に100%などほとんどありえないからです。リスクを可能な限り削減する。それが目標なのです。

免疫応答が中高年でも徐々に低下していくわけですよね。夏のはじめに予防接種をしたら、、私の場合がそうなのですが、多分、明らかに抗体力価が下がっていると思うのです。そうなってしまったら、ワクチンがパンデミックにもたらす効果も減少してしまいます。つまり、ワクチンを持って周りを守る、ということができなくなってしまうと思うのですが、やはり、ブースターワクチンを高齢者以外にも接種したほうがよい、という考察を理論的にはしていくべきなのでしょうか? 3回目の予防接種を全員に、というのは、勿論、グローバルサウスなど、倫理的な面でも大変困難な問いであることは確かです。

ここで、誤解の無いようにもう一度まとめますが、、ワクチンは個人の重症化リスクを削減しますが、個人のリスクというものは様々です。それがどのくらい持続するか、というところはまだはっきりしません。1年なのか。数ヶ月なのか。確かなことは、ワクチンが完全な免疫効果を示すのは短期間だ、ということで、大体3ヶ月過ぎればまた感染してしまう。特にデルタ株ではそうなりますが、これはデルタ、という変異株の感染力の強さが原因です。勿論、Stikoが高齢者へのブースターワクチンを推奨するのは、高齢者の免疫が若い人に比べると低下しているからで、免疫不全者に関してはそもそも2回の接種では十分ではないですから、どちらにしても3回目が必要になります。つまり、その人たち一人一人のため、ということになりますね。 若い人たち、例えば30代においては、2回の接種でリスクが削減されています。感染する可能性があるのは確かです。しかし、ワクチンの効果自身は持続しています。3回目のブースター接種をすれば、また数週間感染したり、周りに感染させたり、ということを阻止することができる、というのが、医療従事者や、老人ホーム、介護施設などの介護スタッフへブースターワクチンが推奨されている理由です。第一の理由は個人の保護であって、その次に、社会全体の保護、、ウィルスの循環であったり、ハイリスクとの接触の際のリスクを削減する、という効果が若干ある、ということですから、この部分は分けて考えなければいけないところです。イスラエルでは、第四波はブースターワクチンによって抑え込まれました。これは可能なことです。ドイツでも可能でしょう。しかし、この点ではしっかりとした理解がされることが重要で、3回目の接種による個人でのメリットが若い世代ではそこまで高くはない、ということ。社会全体を守る、という面でみると、感染を拡げない、感染の鎖を断ち切ることのほうが重要だと考えます。

個人の保護、という面では、私たちの世代ではそこまで重要ではない、ということですね。しかし、反対に考えると、今現在の3Gルールでイベントに参加したりすると、ワクチン接種から時間が経っている接種者が多いために、感染している接種者との接触がありリスクが高い、ということになりますよね。

そのことを考えると、本当に胃が痛くなります。この2G、3Gルールというものによって、多くの人が間違った安心感を持ってしまっているのではないでしょうか。3Gをみてみると、大きなイベントでも、接種者は検査されません。このまま発生指数が上がっていくと、大人数のなかに感染している接種者も混じることは大いに考えられることですから、感染伝播も起こるでしょう。そこで、距離を保ったり、衛生管理ルールを守ったり、という感染防止対策が全く行われなくなったとしたら、陰性証明を持って参加している非接種者にとってはそのようなイベントに参加することは感染リスクが大変高いですから、例えば、ハイリスクの人は控えるべきです。さらに、そこで感染した若者が1週間後に妊婦の友達、もしくはおばあさんに会いに行ったとしたりしたとしたら、、不幸なことにハイリスク患者への感染伝播が起きてしまう可能性もある、ということです。

2Gイベントというものもありますよね。2回の接種を終えた者同士で集まれば、比較的安全ではありますが、その後で非接種者やワクチンの効果が十分に現れていない人たちと接触したら、2Gにも意味はないことになりませんか?

そうですね。データによると、接種者の感染性は高くはなく、感染性がある期間も短い、とあります。それでも、勿論100%ではありません。可能性はあります。ワクチン接種から時間が経てば経つほど、リスクは大きくなる、と言えますし、今、比較的日常生活が正常化していて、コンサートに行ったり、大学に行ったり、、新学期が先日始まりましたが、講堂には300人、400人が集まるわけですね、、それが全て許されてはいますが、引き続き気を緩めることなく、特に週末におじいさん、おばあさんに会いに老人ホームに行く予定がある際には十分に気をつけてほしいのです。私が願うのは、ここでまた1枚安全のための防御策、検査をして少しでもリスクを削減すること。残念ながら、リスクはあります。これからどんどん発生指数が上昇していくとそのようなケースも多くなってくるでしょう。

それをこれからお聞きしようと思っていました。2回の接種を終えた場合でも、場合によっては検査をしたほうが良いのでしょうか? 学校内での検査に関しては議論されているところですが、勿論、老人ホームや病院でも同様です。ロベルト・コッホ研究所の発表によると、ここ1週間で医療施設で300の感染があった、と。介護施設の倍です。

したほうが良いと思います。冒頭でも、「何をするべきなのか」とありましたが、発生指数が増えてくると、去年の二の舞にならないように迅速に対策をする必要があります。ワクチンは感染からは守ってくれない、という新しい知見、そして、高齢者では免疫応答が急激に落ちる、ということがわかっていますから、まず高齢者へのブースターが考えられます。残念ながら、ドイツ国内での老人ホームや介護施設でどのくらいのブースターワクチンがすでに接種済みなのか、という数値をみつけることができませんでした。これはそのような場所での集団感染が起こった場合には大変重要なことですし、70歳以上で別の疾患を持っている場合にはかかりつけ医にモノクロナール抗体が使えるかどうか確認をしておくことをお薦めします。ドイツでは使えますので、重症化を防ぐ方法を全て使わない手はありません。重要なのは、病院や介護施設で引き続き厳重な衛生管理を行なっていくべきだ、ということですが、私は今後もこれは変わらない、と思います。つまり、マスクの着用、衛生管理の強化、距離を保つ、など。老人ホームの面会の際に検査ができるように体制を整えるべきかどうか、ということも検討するべき点だと思います。お金がかかるからできない、ということではなくて、ホームに訪問する人全員に提供されるべきです。入居している家族や周りの人たちに感染させたりするリスクを冒したく無い、と考えているのは誰もが同じでしょう。私は、集団感染を防止するべく対策が現時点で十分に行われていない、と感じています。抗原テストには弱点があり理想的ではない、ということはこのポッドキャストでも何度も取り上げてはきましたが、だからといって全く使わない、役に立たない、と決めつけることは賢い選択ではないと思うのです。私は、接種者であっても場合によっては検査するようになることを願います。というのも、感染していても自覚症状がなかったり軽症であったりするからです。今日、ヘニッヒさんも鼻声ですよね。今かなり風邪をひいている人がいるようですが、それが何なのかわからない場合がほとんどなのではないでしょうか。特に学校や保育園に通っている子供がいたりする場合は、です。

無料ではなくなりましたが、有料の抗原ラピッドテストはありますから、それを利用することはできます。そして、自分で行うテストキットもありますし、私も頻繁にテストしています。子供がいますから。先ほど、私の声の調子が、とおっしゃいましたが、今朝、ラピッドテストをしてきました。勿論、100%ではないことはわかっていますが、全くしないよりは全然良いと思っています。

私の経験上、ラピッドテストはクオリティの差が激しい、ということです。勿論、一般の人がスーパーで購入する際にはそれはわからないことです。私が知る限り、BfArMのサイトにリストが載っていたと思います。残念ながら、市場には粗悪品も多く出回っています。それでもラピッドテストは良い方法ですし、経済的な負担もそこまで大きくありません。行政が以前、「予防接種をすれば検査はしなくてもよくなる」と保証したことはわかっています。しかし、ここで重要なのは保証とかではなくて、理性です。理性を持って考えれば、家族と面会する、妊娠中の彼女に会う際に検査をしよう、と思うはずです。そこの自覚がまだ足りない人も多いのではないか、と感じます。

BfArMのリストは大変有益ですよね。製造元ごとに、精度、特異度、感度などのデータが全て載っていて比較できるのは参考になります。

検査結果には、どのように検体が取られたのか、ということ以上に、検査キット自体の性能が大きく影響しますので。

検査においての陽性率も上昇傾向にあります。全体的な検査数が減少しているのにも関わらず、です。これも兆しのひとつですよね。

私のラボにも毎日多くの問い合わせの電話がかかってきます。どこで検査すれば良いかわからなくて電話をしてくるようですが、今またきちんとした検査体制をつくるべきです。テストセンターは無症状だけが対象、開業医では予約がとれない、または検査を受け付けていない、など。右往左往することがよくある、と聞きます。やはり、どこでどのような検査がされるのか、ということが明確にされなければいけませんし、予防接種をしているからといって検査をしない、というのではなくて、鼻水や倦怠感などがあるのであればきちんと検査する。もう一つ言っておきたいことは、60歳以上、いや、50歳以上でまだ予防接種をしていない人たちには直接働きかける必要があるのではないか、ということ。予防接種への推進キャンペーンはいままで不特定多数を対象に匿名で、場合によっては階層的であるように感じました。私は、これから、、高齢者で誰がまだ予防接種していないのか、というのはわかりませんが、、どのような人たちと個人的にワクチンについて話し合う必要性を感じます。

接種ステータスをそこまで把握していなくても構わないのではないか、という人もいますね。すでに予防接種をしている人にあたってしまったとしても、特に問題ではありませんし。モチベーション心理学の分野からの新しい知見では、匿名であっても直接呼びかけるほうが効果があるそうです。マンハイムとフリードリッヒハーフェン、そしてワシントンとの共同研究では、27000名を対象にワクチンキャンペーンの実地試験が行われ、そのうちの半分にはスタンダードなワクチンのお知らせ、もう半分には、「貴方の分のワクチンが用意されています」という直接的なお知らせを送ったところ、後者のほうが40%多く予防接種をしに行った、という結果がでています。先生は、このような工夫をすればまだ予防接種をしていない人たちのモチベーションをあげることができるのではないか、とお考えなのでしょうか?

実地試験、というと簡単に聞こえますが、、私の臨床医としての経験から、大学の講義でも学生に言っていることは、患者が求めているものは、誠意と真実、そして同じ目線で医師とのコミュニケーションであって、きちんと限界も提示されることです。この間私のところにも、いままで私が聞いたことがなかった、とても複雑な神経性疾患を持っている人から問い合わせが来たのですが、、知らなかったのでググりました、、その人は、40年、50年の間、一度医者から「予防接種はしないほうが良い」という助言を守っていたようです。このような人たちが、納得のいく情報なしに気軽に予防接種にいかない、ということは十分に理解ができる話です。ですから、予防接種をしていなからといって、単純に、コロナ否定派だ!とか反ワクチン派だ!などと決めつけることはできないのです。私の経験上、そうでは無く、混乱していて大変不安を感じ話し合いを必要としているひとも多いですが、それもそう簡単な話ではありません。実際に本当に複雑なケース、というのも存在しますから、それを踏まえた上で、医者としては、「このような大変稀な疾患の場合には、たしかにワクチンによって何かが起こる可能性は否めないが、感染時のリスクの高さを考えると、同様の理由から、予防接種をすることを勧める」と助言します。

リスクベネフィット分析ですね。これは多くの保護者が12歳からの子供の予防接種で頭を悩ませていることでもあります。子供や青少年のLong Covid現象の科学的把握がとても困難であることは何度も取り上げてきましたが、新しい知見がでてきました。発表された論文の一つに、ドレスデン工科大学の保険データによるものがあります。ドイツ国内での保険加入者の半分以上でPost Covid症候群の調査が行われましたが、そのなかには若い年齢層も含まれます。長期間に渡ってデータ分析が大きな比較グループとの対照によって行われましたが、感染者と非感染者との比較をすることによって、身体の状態と倦怠状況の把握が他の研究よりもより明確になっていますし、感染防止対策の影響なのか、それとも感染によるものなのか。第一波時の12000名の未成年者を対象に、症状と複合症状を調査、感染回復後にみられる症状を、非感染者の比較グループと照らし合わせて分析しています。肺、心臓、神経、体力、痛み、などです。これはプレプリントですが、このPost Covid症候群、感染回復後に現れる症候群についての新しい知見について少しご説明いただけますか?

規模も大きく大変良い論文だと言えると思います。3800万人のデータが明確なカテゴリーに分けられていて、感染者も陽性証明が出された場合のみ対象になっていますし、別の研究と違う点は、ここではコホート、コントロール群があり、つまり、いままでははっきりと把握できていなかったロックダウン対策の影響、という面でも、ロックダウンは経験したけれど感染はしなかった、という人たちとの比較をすることによってここの把握もできています。その点は素晴らしいと思います。これらの患者は3ヶ月間追跡されいますが、調査機関は短めでしょう。そして、第一波だけのデータですから、アルファもデルタも含まれません。そのような理由から、絶対的な数、という面では評価が困難であるものの、特定の複合症状をまとめて、コントロール群と比較、感染者と非感染者での比較、成人と子供の比較がされた結果、複合症状の割合はかなり高いとみられます。それは大人でも子供でも同様です。 ここには、大人と子供では複合症状が異なる、とあり、全体的には症状の発生率的には子供の方が大人よりも低いようですが、〇〇%に症状がでるというような数値は出されていません。というのも、この研究にはいくつかの弱点があって、先ほども言ったようにこの調査は第一波のものであること。第一波では子供の検査はあまり行われていません。つまり、重度の場合の検査が多かった。第一波の頃を思い出してみると、あの時には全ての感染者をしっかり追跡し大げさなほど調査しました。ですから、ここでも歪みは生じているとは思います。しかし、この論文の良いところは、最後のディスカッションできちんとこのあたりの限界について明記されていることです。そのような弱点はありますが、この研究は重要で、結果も明確です。もう一つ言っておかなければいけないことは、ここでは症状の持続期間というものが出されていない、ということです。というのも、データベースが健康保険なので、診断のタイミングがわかりませんし、症状が短期間のものであった可能性はあります。そして、この研究は前向き研究ではないため、因果性を示すものではありません。とはいっても、子供や青少年のデータは、子供の予防接種の際の推奨判断においては大変重要ですし、Stikoの推奨にも欠かせません。このようなデータをデルタ株でまとめることができると理想的です。この研究者がしてくれることを望みますが、勿論時間はかかります。そして、インフルエンザのような別の感染症との比較、それと比べて多いのか、少ないのか。そのような点についてもこの研究からは何もわかりません。信頼区間の幅が大きいので。

確信の範囲が広い、ということですね。

そうです。コントロール群よりも症状が多く現れる、という点では明確ですが、どのくらいの頻度なのか、ということはこの研究からは判断しづらく、コントロール群の◯倍だ、というような数値は出せません。これがこの研究の弱点ではあります。

それでも、少なくとも症状の方向性ではだんだんはっきりとしてきましたよね。肺の後遺症は高齢者に多く、子供ではそれより少ない。そして、多くが、英語で言う、「メンタルヘルス」という領域です。

そうですね。例えば、味覚障害は成人ではダントツでトップの症状ですが、子供ではそうではありません。子供と青少年では、咳、倦怠感、だるさや具合の悪さが多く、大人は味覚障害、熱、呼吸障害が主です。先ほども言ったように、この研究からは症状の持続期間はわかりません。 そして、幼児に「味覚障害はあるの?」と聞いても理解しないだろう、ということですね。子供の異常には食欲が落ちて食べる量が少なくなってきて気がつくかもしれません。ですから、この辺りの調査は困難ではあるのですが、観察すること自体は大変興味深いことです。これも当たり前のことなのですが、集中治療が必要だった人たちにより多くの症状が出ています。

つまり、保護者が子供のワクチンの判断をする際に、コロナ感染後の後遺症の割合を参考にするのは難しい、ということですよね。しかし、Long Covidや、少なくともPost Covid、持続する症状が子供たちにも出るリスクがある、ということは確かだ、という理解は正しいですよね?

そうですね。この研究からもそれはそのように言えると思います。これからデルタ株でのデータ、そして、もうすでに2年ほど続いている日常生活での感染防止対策の条件下でのデータはまた違うものだとは思います。

予防接種に乗り気ではない人たち、子供のワクチンへ対してもそうですが、そのような人たちのなかには不活化ワクチンに期待を寄せていたりもします。不活化ワクチンはもうかなり前から使われているタイプのワクチンですが、フランスとオーストリアの共同開発のバルネバ社1社のみが、近日にワクチンの承認申請をする、ということです。データはかなり良い、という会見でしたが、詳しい内容は発表されていません。4000人が最終治験に参加したようで、少なくとも、製造元によると、アストラゼネカより優れている、ということですが、不活化ワクチンが出てくれば、これによって予防接種率が上がる可能性がある、とお考えでしょうか?

このワクチンを待っている層がある、というのは聞きます。このワクチンなら、と考えるひとはいるかもしれません。それまでに感染しなければ、の話ですが。残念ながら、非接種者にとってこの秋、冬の感染リスクは大変高いのです。絶対数がどのくらいか、ということは私にはわかりません。バルネバはイギリスで治験が行おいましたが、会見によると、形成された抗体がアストラゼネカよりも多かった、ということです。私が変だな、と思う点は、2月にイギリス政府と結んでいた新型コロナワクチン1億回分の供給契約が一方的に破棄されたことです。9月の段階だった、と思います。その理由がよくわかりません。それにも関わらず、イギリスでの承認を得ようとしているわけです。治験もイギリスで行われましたし、会見では、最終段階での分析法バリデーションのみが残っている、と。これが何を意味するのか、ということは不明ですが、承認申請に必要なデータがまだ揃っていないということはまだ承認されるまでに時間がかかる可能性が高い、ともとれます。私にはそう少しそう聞こえます。ですから、このワクチンが出てくるのを待つ、ということは、この秋、冬に感染する高いリスクを冒す事になる、という自覚をするべきなのです。ワクチンが使えるようになるのは来年かもしれませんし、現時点では予測するのは困難です。

もう一度、ウィルスの進化についてみていきたいのですが、新しい問いがでてきました。今、デルタ株の亜種で出てきた変異株があって、そこでまた感染力が増している可能性がある、と。イギリスでは1桁の割合ですが登録されていて、増加傾向にある、ということです。イギリスでは、Variant under investigation、つまり、警告レベル3のうちのレベル2の位置に属します。変異株の名前は、AY4.2、ドイツにも数は少ないですが既に入ってきています。これは注意深く観察するべきことなのでしょうか?

注意深く、ということは常にしなければいけないことです。まず、この変異株が注目されるようになったのは、イギリスでみつかり増加傾向にあるからで、確か、現在9%だったと思います。この変異株は、変異、という点ではそこまで特殊ではありません。スパイク部に数カ所変異が認められますが、それはデルタの亜種にみられるものですし、別の部分はアルファ株、以前のイギリス株にもある変異です。そういう意味ではこれは新しい変異株ではありませんが、感染力は強くなっていることがわかっています。大体、10から15%アップだろう、と言われていますが、この増加率もアルファからデルタへ割合と比較するとそこまでのものではありません。変異は受容体結合ドメインでは起こっていませんが、ワクチンの効果への影響に関してはまだデータはありません。しかし、その点では引き続きみていくべきだと思います。いまのところ、イギリスは、まだ出てきたばかりで十分データがない、と前置きはしているものの、臨床経過には変化はない、としていて、もちろんこれから観察していく必要性はあります。これは、スーパースプレッダーイベントによって拡散された可能性はありますが、イギリスの状態だけで説明することはできないと思います。この亜種、AY4.2がデルタ株にとってかわるかどうか。もし、そうなるとしても、デルタがアルファを追いやったよりも時間的にはもっとかかるでしょう。伝播性の増加がそこまでありませんので。

比較ですが、アルファからデルタになった際には、約50%の伝播性の増加でした。イギリスでは、もうほとんど対策はとられていない、という点も忘れてはいけないと思います。ドイツとは異なるシチュエーションです。もう一度お聞きしますが、先生はフランクフルトにいらっしゃいますので、変異株、という点では状況を常に把握できるポジションだと思うのですが、ドイツにはそこまで入ってはきていないのですよね?

この変異株には注目していますし、調査もしていますので、この系列の亜種でも、AY4やAY5.1といった、様々なアルファベットのコンビネーションがみつかるのですが、頻度は高くありません。1回くらいだったと思います。

今日もありがとうございました。次回までにもう少し明るいニュースがあれば良いな、と願います。またよろしくお願いいたします。






この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?