ドイツ@Sars-CoV-2 コロナウィルスアップデート(27) 2020/4/3(和訳)

話 ベルリンシャリテ ウィルス学教授、クリスティアン・ドロステン
聞き手 アンニャ・マルティーニ

2020/4/3

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ドイツ国内の93%が、社会的距離、外出制限などの対策に賛同している、とのアンケート結果が出ています。 しかし、携帯のアプリを使った対策には、47%が賛成、45%が個人情報などの理由で疑念を持っているようです。  今日も、ウィルス学教授、クリスティアン・ドロステン氏にお話を伺います。聞き手は、アンニャ・マルティーニです。

以前のポッドキャストで、アプリの話題が出てことが記憶に残っていますが、たしか、韓国が携帯のGPSを使って感染経路を割り出していた、ということだったと思うのですが、その際に、ドイツでは、このようなことは難しいだろう、とおっしゃいましたよね。 その時、私も同意したのですが、状況が変わりました。  今、そのようなアプリの導入について議論がされています。 Bluetoothを使った匿名で自主的なもの、ということですが、オックスフォードでそのような論文が発表されました。 もう目を通されましたか? どのようにお考えでしょうか。

この論文は、、、クリストフ・フレーザーという、多分、世界一の疫学シュミレーションプログラマーによるもので、、、サイエンスに掲載されました。 まず、この方法だと、疫学的なシュミレーションが、いままでよりも、さらにもっと細部まで計算することが可能になる、ということ。 いままでに発表されたデータを分析していますが、そこには、数多く二次感染のケース例がでてきます。 ですので、感染の世代時間をより正確に計算できます。 症状から症状の間、感染から感染の間、世代時間と、継続時間、 本当は、継続時間のほうが必要ですが、これは、割り出すのが難しいので、世代時間のほうで計算していますが、、、このように、まずは、40組の感染者同士のデータを分析して、感染の、パラメーターをだす。 R0値もここで新しく計算しなおされましたが、ここでは、2、とだされています。 この数値は、他の研究などから比較すると、低い数値ですが、、まあ、通常では2,5くらいです。

1人が、2,5人に感染させる、ということですね。

そうです。 この数値を低くする割合、 ここで、まず計算されたのは、症状の発現前の感染、症状がでている期間の感染、環境感染、そして、無症状の感染の割合です。  無症状、とは、感染から完治まで全く症状がでなかった場合の事をさします。 発現前、というのは、まだ症状はでていない期間のことですが、この場合、その後に症状が出ますので、この感染経路も確認できます。 後でその点にもふれますが、、、   
この計算ででてきた数値は、、、症状が出る前は、0,9、R0値2のうちの0,9ですね、症状がでてからが、0,8、環境感染が0,2、無症状が0,1。 これを全て足せば、2になりますね。 この数値をみてみると、、、症状が発現する前におこる感染が、全体の46%。 これは、別の研究でもでた数値ですが、

自分に感染の自覚が出る前に、周りに感染している、ということですね。

そうです。 感染ケースのほぼ50%が、症状が出る前におこっている。 勿論、これは、平均値、で、数学的に出された数値ですが。 これには考えさせられます。 この数値はR0値が2から出たものです。2だと、数値を1以下に減らして感染を止めるまで、そこまで減らさなくてもよいことになりますが、、、46%の感染が、発症する前におこっている、となると、、、、感染を防ぐのは難しくなります。 なぜなら、、、隔離できるのは、症状がでてから、ですから。 このような点を考慮すべく、どのような対策をすれば、発症前の感染者の早期発見ができるのか、どのくらいかかるのか、発症する前に、どのくらいの感染がおこったのか。 全体の46%は、この期間におこりますからね。  今までなら、感染して、、症状がでて、、、検査がされて、、、そこから、感染経路、濃厚接触者の割り出し、、などが行われていましたが、ここで、先ほど計算された世代時間でみてみると、、たとえ、症状が発現した直後に隔離したとしても、もう既に、感染してしまった人がいて、その新しく感染した人も感染性を持っている、ということになるのです。

そこでも、また感染がおこっている可能性があるわけですね。

症状がで始めたばかりなのに、もう既に新しい感染者をつくってしまっていた。  そのようなケースを、ミュンヘンでも観察しました。 その時は、不意に落ちませんでしたが、今回計算された数値は、このようなことがおこる、という検証です。  ここから興味深い計算に入っていくのですが、どこに介入できるか。 とにかく、感染症状がでている感染者だけをみつける、という通常のケースの発見と追求では、遅い、ということです。 感染症状がでて、検査されて、保健所がきて、、誰と接触しましたか、、と聞かれて、、、そこから、そのコンタントが割り出されて、、すべて、時間がかかりすぎます。 この計算では、感染を封じ込めるには、これでは遅すぎるのです。  違う言葉で説明すると、、、ある一定のところまで進んでしまったパンデミックは、徹底した診断検査、感染経路の確認、感染者の隔離、だけでは、止めることはできません。  それだけでは、もう無理なのです。  唯一、感染をとめることができる対策は、、、ロックダウンです。  ロックダウンしてしまえば、感染経路を調べる必要もなくなります。 全員、自宅にいますからね。 このロックダウンは、もう少し緩いレベルで実行することも可能で、集会制限、感染経路の調査、、、

今、ドイツで行われていることですね

そうです。 ですが、この対策も、、、、この論文でも計算されていますが、対策の効果性、という面で計算すると、、これらの対策を持ってしても、、、感染を、とめることはできません。   そこで、新しいファクターが加えられて計算されていますが、、、それが、このアプリです。 これは、仮定的なアプリですが、それをつかって、、、、まずは、症状をアプリに書き込みます。 症状をクリックすると、そのデータがラボに直接送られます。 ラボへの申請をアプリがしてくれるわけです。 そこで、診断も可能です。 結果が陽性だった場合、接触者の割り出しがはじまります。 どの携帯が近くにいたのか、接触時間などもわかります。 このアプリは、いつ、どこで、誰と、接触したのか、という割り出しをして、その接触者には、メールで、感染力をもった人物との接触が知らされる、、

アプリなしでは、ウィルスが広がる速度がはやすぎて間に合わない。アプリがあると、その速度についていけそうだ、ということですか。

この論文では、もし、このアプリがあったら、、、という計算をいろいろとしています。  パラメーターを加えて、このアプリを使った際に、診断までどのくらいかかるか、そこから感染者を隔離するまでどのくらいかかるか、など。 基本的に今、保健所がしていることを、アプリが一部を請け負う、ということです。 この全てのパラメーターを入れて計算したところ、、、 もし、感染速度が、初期の武漢のようであったとして、、、そして、感染ケースの60%が発見されて、ということは、国民の60%がアプリで参加する、ということですね、、、そして、その60%がきちんと自宅隔離を守ったとしたら、、、R0値が1以下になる、感染が止まる、という結果になりました。 驚きの結果です。 しかし、ここには難点があります。  残念ながら、今のヨーロッパの感染速度は、初期の武漢よりも速い、ということ、様々な要因が考えられるとは思いますが、、、人口密度、行動様式、そして、感染状態、 そのようなことも考慮すると、国民の大きな協力がないと、実践に移すのは大変難しい。

60%以上、ですね。

そうです。最低60%が協力しないといけません。 でも、これは達成可能だと思います。 このようなアプリの助けを借りて、現在のシステム上出てしまう時間のロスがなくなるし、そして、感染者と接触しましたので、自宅謹慎してください、というような重要な情報を該当者に送ることができます。 このように、敏速な対応をすることは、厳しいロックダウンをすることと同じ効果がある、という計算です。  他にも、利用可能な機能は、もし、感染の爆発が起こった地域、もしくは、感染が爆発した時間帯にそこにいた人たちを、、、いままでのように、まずは症状をクリックしてから検査、、、というのではなく、自動的に陽性、ということにする、という機能をつけることもできるでしょう。

すぐに、自宅隔離、ですね

そうです。 症状がでたら(検査なしで)陽性、とします。  そして、この人物との接触も、感染コンタクトとみなします。 まずは、検査をして陽性を確認してから、ではなく。 まずは警告メールがきて、そこから症状がでたら、検査なしに陽性として、自宅隔離、という流れにできるのです。  ここでも、介入度合いを変えることができるでしょう。 危険区域などでは。 この介入レベルの調整は、今、公でも議論されています、ロックダウンのレベルを高くしたり低くしたり、ということを、感染状態によって調整する。 これが、この論文のなかで思案されている部分で、そのような対策の代わりに、アプリの設定を調整する。 これも、介入度合いを調整する一つの方法でしょう。  このようなアプリは、他の対策とコンビネーションすることで、さらに効果的になるでしょう。 例えば、 マスクの着用です。  ここの計算には、マスクは配慮されていませんが、、、勿論、全員がマスクの着用した場合の感染防止についての学術データがありませんので、数値としてでていません。  しかし、それでも、全員がマスクをしたときに、、、効果はあるかもしれません。  これらは、なによりも視野が広がる考え方ではないかと思うのです。  今、この厳しい状況で、誰もが、ここから抜け出すにはどうすればいいのか、ということを考えています。 どの対策を次にすればいいのか。  私は個人的に、このようなアプリはとても魅力的に感じます。 多くの人が参加すれば、ですが。 このような手段があれば、もっと細部まで繊細に調整できますし、、、そして、なによりも、日常生活を営むことができる。 ロックダウンをする必要がなくなるのです。 仕事もできます。 学校にも行けます。 勿論それは、全員にとって、ではないですし、常時、ではないです。 そして、いつか、このようなメールが来るでしょう。 感染者と接触しました。自宅隔離してください、と。 でも、このようなシステムになったら、雇用主も、あ、それじゃあ、仕方ないね。来週は自宅隔離だね、となりますよね。  これは、本当に興味深い案だと思うのです。

首相も承諾するでしょうし、先生もでしょうし、いまのところ、47%のドイツ国民も参加するでしょう。 ドイツでは匿名でされるわけですし。 これから、どのようにこのアプリ案が発展していくか、、、みてきましょう。

では、違う論文をみていきたいと思います。 治療薬についてですが、、、この薬に関しては、以前、この場でもとりあげました。 クロロキンです。 抗マラリア薬ですが、耐性ができたために、現在は(マラリアには)ほとんど使われていない薬で、これを使った治験がフランスで行われ、その内容については否定的なご意見でしたが、今回は中国の論文です。これはどうでしょうか。

クロロキン自体については、まだ議論が続けられています。 以前の小さなフランスの治験については、この場でかなり疑念を示しましたし、最後にも、この治験からは効くのか、効かないのか、その点では何もわからない、とも言いました。 比較しているグループの感染状態が同じかどうか、というところから、この治験は曖昧でしたので。 今回は、62名での試験で、、、規模的には、これも比較的小さいですが、今回は少なくでも、グループがランダムにわかれていて、ほとんどの患者が軽症です。 PCR検査で陽性確認されて、CTで、肺の炎症が確認されています。 軽症の場合でも、CTで炎症が確認できます。 そして、クロロキンを摂取しても問題ない、という判断がされた人のみ、つまり、網膜疾患、不整脈、腎臓疾患がない、ということですが、この辺りがクロロキンの副作用、ということです。 軽くみてはいけない副作用がありますので。 そして、この2つのグループを、1グループは、クロロキンで治療して、もう1グループには何もしませんでした。 治療されなかったグループの31名中17名が、1週間後肺炎がよくなり、肺炎の症状は、咳や、CTでの画像でですが、クロロキングループの31人中25人がよくなりました。 これは、わずかではあるのですが、それでも、結果として、治療されたグループのほうが、はやく、肺の炎症がよくなった。 これは、結果としては期待がもてます。 勿論、この治験が、、やはり少し人数が少ないですし、、、本当に、比較しているグループの状態が同じなのか、、、この試験でも、クロロキンで治療されたグループのほうが、症状として熱があったり、咳がでていた患者が多かった。 これは、自動的に、クロロキングループのほうが重症だった、という証拠にはなりませんが、、、そこへの説明は、他の論文同様、ありません。 もしかしたら、クロロキングループのほうが、症状が進んでいた可能性がありますが、どこにもその記述がないので、、どうして、ないのかは不明ですが、、、やはり、もう少し、大きな規模の治験を待つしかないでしょう。 今回もこの結果からはあまりはっきりとしたことはわかりません。 もし、クロロキンを治療薬として使えるとしても、、、あまり効果は期待できない薬です。 投与しても、劇的な効果はない。 ここでも、患者は、初期の軽症患者です。 ということから、他の薬も、もしかしたら、集中治療が必要になるような重症になるまで待たないで、もう少し早い段階で使った方がいい、ということには繋がるかもしれない。  
この感染症では、はじめの週では、軽症ですが、2週間目からどのように変わるかはわかりません。 はじめの週にその後の症状の悪化を防ぐ治療が必要です。 その治療に副作用があったとしても、です。 これが、大きなジレンマです。 はじめの軽症のときにそのような治療をしなくてはいけなくなると、そこまで悪化していないのに、どうしてその必要があるのか、と思うのが普通です。

予防、について話すときに、治療薬であったり、予防接種であったり、自宅謹慎であったりしますが、、、もっと、できることはないだろうか、、と考えているひとが大勢います。 免疫を高めるなど。ビタミンC、ビタミンD、などは、どうでしょうか? ジョギングでしょうか?

勿論、免疫がしっかりしていることが良いことです。 体のコンディションが良いことも理想です。 ジョギングしている最中に、人とすれ違ったとしても感染しませんので、外にでて、少し運動をすることに対して不安に思う必要はありません。 これらはおすすめできます。 でも、ここまでです。 ビタミンの摂取など、、、勿論、そこにも、エビデンスはあるでしょうけれど、、、、これは、私の専門分野ではありませんので、全くわかりません。 しかし、このような感染のエピデミック状態で、何か、特別に摂取しなければいけない成分などは、、、聞いたこともありません。   
ひとつ言えることは、感染している可能性のある人、今の状態ではすべての人が感染している可能性がある、と考えて、、、、アメリカでは、6フィート、6セカンド、足の6個分の距離、6秒間の接触、 これを、基準にすればよい、という事でしょうか。 少なくてもこの距離をとることと、長い接触はしない。 これが、日常で気をつけることができる基準です。

今日は、金曜日です。 1週間を振り返って、何かコロナ関係でありましたか? 驚いたこと、喜んだこと、腹が立ったこと、、など。

個人的には、、、様々ありますが、、、やはり、心配にもなり、心を痛めることは、、、このロックダウンにより、生じているダメージです。 経済的なダメージなどは、小さな企業は特に、、、悲惨です。 ここから抜け出さなければいけません。 それから、、アプリの論文などを読むと、、、希望がみえてきたりもします。 このアイデアについて意欲的に考えてみるべきだと思いますし、これは、発展途上国のようなロックダウンを実行するのが不可能な国でも可能な対策だと思います。 そのような国でも携帯は誰でも持っていますから。 その先駆けを私たちはしなけれいけない。 
あと、頭を振るしかできないこと、、、それは、もうとっくにわかっていることなのに、いまだに間違った情報が出回ること。 先日も、アメリカの新聞に、PCR検査の30%は誤結果である。 同じような内容が、先週も中国からでてました。 どこにその原因があるかはわかっています。 PCR検査の結果は、感染から1週間後には陽性にはならないのです。 それは、わかりきっていることです。 どうして、こんな簡単なことがきちんと伝わらないのか。 しかも、どうして、このエピデミック時状態の真っ只中で、そのような間違った報道をするのか。 新聞だけではありません。 医師なども同じです。 情報をきちんと集めていない、わかっていない。 重症化して病院に運ばれてきた患者の喉からはPCRでは陽性反応がでない場合も多い、ということは知っているべきです。 呆然としてしまいます。   
昨日、テレビで、子供達が、おじいちゃんおばあちゃんに、どんなに会いたいか、ということを伝えている映像があり、、、そういうものをみると心が暖かくなりますね。 うちでも同じ状態ですから。 
このように、アップダウンはありますが、、、でも、私たちは前を向いて進んでいかなければいけません。 できることを考え、議論し、対策をねるのです。

今日もどうもありがとうございました。 素晴らしい週末をお過ごしください。

ベルリンシャリテ
ウィルス研究所 教授 クリスチアン・ドロステン

https://virologie-ccm.charite.de/en/metas/person_detail/person/address_detail/drosten/

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