ドイツ@Sars-CoV-2 コロナウィルスアップデート(40) 2020/5/12(和訳)

話 ベルリンシャリテ ウィルス学教授、クリスティアン・ドロステン
聞き手 コリーナ・ヘニッヒ

2020/5/12

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今日は40回目のポッドキャストです。数週間前には誰にも予想ができなかったことではないでしょうか。 緩和後、ホッとした人がいると同時に、政治や専門家の疑惧は今始まったばかりです。 人権の確保を主張し、陰謀説を掲げてデモをする危険性については、政治家も警告しています。今日も、今後の不安について、そしてウィルスの変異についても、お話しを伺います。聞き手はコリーナ・ヘニッヒです。

先生は先日、多くの専門家や著名人と共に、公開状に署名されましたね。SNSなどで急激に拡散される情報、インフォデミックへの警告ですが、ブラウンシュヴァイクのウィルス学者メラニー・ブリンクマンをはじめ、エッカルト・フォン・ヒルシュハウゼンなどの著名人の名前も並んでいます。内容はどのようにものなのでしょうか。

ソーシャルメディアで出回っている内容は、、、一言ではまとめられないほどです。 特にビデオなどで、全く根拠のない、間違った情報が拡散されて、、、それを何万人もの人がみています。しかも、発信しているのは、医師であったり、教授であったり、、、、そのような人達が馬鹿げた事を広めているのですが、専門家ではないわけですから、専門的な事がわかるはずはないのです。この分野のついてのきちんとした知識などないのにも関わらず、彼らが持つ学位や資格などから人々は信じてしまう。
それだけではなくて、その中には、筋金入りの陰謀説者もいて、このパンデミックが始まる前から既に、様々な説を主張していますが、それら多くはいかにナンセンスか、ということも証明されていますし、彼らを信用してはいけない事は明らかなのです。 それでも、収まるところを知りません。私のところにも、この陰謀説をベースにした批判、質問、アイデアなどが押し寄せてきていますし、そのなかには、良かれと思って助言してきてくれている内容もありますが、、、、あまりにも現実とはかけ離れていて、、、なんて返事をしてよいのかすらわかりません。

以前にも、学位を持つ人達がそのような説唱えて広めている、という事はおっしゃっていましたが、素人的には見分けがつきませんよね。この違いというのは、専門家の間で若干意見がわかれる、というような、例えば、子供についてなどはウィルス学者の間でも、感染が少ないという学者もいれば、違う内容論文もありますが、このような意見の違いとは全く別次元のことですよね。

それとは全く別物です。子供については、まだ不明な点も多く、分析出来るデータがまだまだ揃っていないために、その解釈が学者によって違います。これに自身は、悪いことではありません。それぞれに(解釈が違う)理由がありますから。 しかし、それとは全く別の話です。 例えば、教授という称号を持つ人物が、公で専門外の事の主張をし始める。 私も教授ですが、専門外、そうですね、例えば、細菌についての意見などを公の場で言う勇気などありません。 私はウィルス学者ですから、細菌学のテーマについて何か言うことなどありえないでしょう。 もっとも、ウィルスも細菌も同じようなものだ、と言う人もいるとは思いますが、学者的には全く別物です。 それだけではありません。 私は、ウィルス学のなかでも、自分の専門ではないウィルス分野に関しては、大きく何かの発言をする事も恐ろしくて出来ません。真のその分野の専門家でない限り、論文文献の見解や専門知識を持ち合わせることは不可能なのです。 これが、私が表立って発言している唯一の理由です。 私が、特別頭が良いから、とか、トークが上手いから、とか、そういう理由ではなくて、単純に、私がこの種類のウィルスの研究を長年している。ただ、それだけなのです。この、、自称、、専門家達は、それぞれの専門分野では、専門家なのでしょう、もしくは、専門家だったのでしょう。現役時代は。 それぞれのエキスパート(だった)に違いありませんが、この分野に関しては全く基礎から欠けています。 学生の教科書レベルの表面的な知識以上ではないのです。 この程度の知識をもって、ビデオなどで、もっともらしい事を言い、危険な陰謀説を唱え、さらには、政治的なアジェンダすら提案する。 これは、無責任極まりない行為です。

素人は、、見極めの基準、例えば、どの専門分野の専門家なのか、研究分野何か、などをきちんと確認する必要がある、ということですね。

その通りです。それ以外にもよくみないといけないところがあります。どのように専門家になったのか。 どんな論文を今まで発表しているのか。どんな研究をしているのか。ドイツ国内や国際的に認められている専門家なのか。 もし、そうでないのだとしたら、この、15分、30分のビデオを観る事自体時間無駄です。全く専門的な知識に則っていない誤解しか招かない内容ですから。

今、ツイッターで、怪しいツイッターをマークする、という提案がでてきています。しかし、全ての内容を把握するのは困難で、例えば、クエスチョンマークつけて興味を引くような見出し、、苺は新型コロナ効く、、、のか? といった見出しにつられて読んでみると、結局は、苺は効かない、という事が書いてはあるものの、見出しのインパクトで印象だけが残ってしまう。それに、最後まで読まない人も沢山いるでしょうし。 規制をする事で何かを変えることが出来る、とお考えでしょうか。

これは、メインストリームのジャーナリズムが使う違う形の暗示方法です。これ関しては打つ手はないでしょう。最近、ジャーナリストとその事に関して話す機会も多いのですが、彼らは言うのです。それも技術の一つだし、記事読んでもらうためにはクリック数を増やさなければいけない。フォローと定期購読をしてもらうためには致し方がないことなんだ、と。私は、これも危険な事だと思うのです。これも、今、ドイツで、意見が対立している理由のひとつだと考えます。 しかし、ここでの問いは、、、だれが、このクリック稼ぎの見出しの内容の情報提供をしているのか、ということです。それが、 学位や称号を利用し、間違った情報を垂れ流す、似非専門家達です。彼らが、情報の悪用をするメディアの手助けをしているのです。

日常にめを向けたいと思いますが、対策の緩和の段階段階で、私たちは感染リスクがある部分も受け入れていっています。屋外では空気動きはありますが、室内は、、、常識的に考えてリスクが大きい思うのですが、ニーダーザクセンや他の州で、レストランがまた営業しても良い事になりました。今週は気温が低いので、室内に、規定されている距離をとって座っていますが、無症状感染者がいる可能性はありますし、 1時間、もしくはそれ以上いて、、咳はしなくても喋ったり息をしています。 政治家のカール・ラウターバッハ氏が、トークショーで、エアロゾルを忘れないで欲しい、危険だ、と発言して、物議を醸し出しています。 もう一度、きちんと定義した方が良いでしょうか。このようなシチュエーションで飛沫とエアロゾル感染はどのような意味を持ちますか。

この新型コロナがでてきた当初は、まずは飛沫感染に重点を置いていました。飛沫感染とは、小さな飛沫、咳をしたり喋ったりする際に飛ぶものをさしますが、大きさ的には、5マイクロメートル位です。1マイクロメートルは、1000分の1ミリメートルです。これらは、1m〜1、5m先に飛んで、床落ちます。近距離にいる人は取り込む可能性があるでしょう。テーブルが離れているのはここに根拠があります。 教会などで、席を空けて1、5m〜2m離す、というのも同じ事です。 
エアロゾルは、別です。エアロゾル粒子も、水分含む粒子ですが、5マイクロメートルよりも小さな粒子です。粒子は小さくなればなるほど、空中漂う事が可能になり、水よりも軽くなります。このような粒子は、すぐには床に落ちずに、空中漂っています。粒子には水分が含まれていますから、それが蒸発するともっと小さな粒子になって、なかには1マイクロメートル以下になりますが、このような粒子のことを、感染学的にはエアロゾルと呼び、空気中に存在します。この粒子のなかには、感染性のあるウィルスが含まれる可能性があり、その感染力は数時間も持続する事もあるのです。この点関しては、ラウターバッハ氏は正しいです。   ソーシャルメディアで、彼が非難されているのをみました。トークショーにあまりでない方がいい、言動に注意するべきだ、など。出演した番組のリストなども挙げられて、、、またここでも、個人が攻撃の標的にされていますが、彼の発言は正しいのです。ラウターバッハ氏は、社会民主党の医療エキスパートで、勉強家です。彼がSNSで発言していることは、現状です。彼の専門分野は疫学ですから、言っている内容も理解して発言しています。トークショーに出演し過ぎている、と感じるかどうかなど関係ない事でしょう。正しい情報を発信するために公で発言してるのですから。彼が危惧しているところは、飛沫感染の他にエアロゾル感染のリスクがレストランでは大変高い、という点なのです。

息をする際にでしょうか。

息をするとき、話すとき、咳をするとき、です。この粒子の大きさは、息を吐く際にも放出されます。吐く息のなかにエアロゾル粒子が含まれるのです。中国のレストラン内でもエアロゾル感染がおこりましたから、そのようなリスクがあることを念頭に配慮しなければいけません。 エアロゾル感染については、証明されていますし、この場でもお話しした事があります。米国科学アカデミーの表明にも、この感染症には、エアロゾル粒子からの感染経路も含まれる。とあります。 専門家としては、論文などを分析しながら評価していかなければいけませんが、クリストファー・フレーザーの研究チームが出した研究とモデル計算にも、エアロゾル感染はとても重要だ、とあります。
ここからだけではなく、私が分析した評価的に、エアロゾル感染のしめる割合はどの位なのか、、、全て足して、、感覚的に評価すると、、、感染半分が、エアロゾル感染、あと半分が飛沫感染。後の10%が、接触感染。付着した表面を触る、という接触ですね。このくらいの割合になるでしょう。 この割合から、日常での防止策をたてていくべきです。  例えば、個人的には、過度な手洗いや消毒、表面に消毒液をかけるのは、やり過ぎに感じます。頻繁な手洗いと消毒液ではそこまでの大きな効果は得られないと思いますし、逆に言えば、手を洗って消毒液を振りかけてさえいれば大丈夫だ、ということにはならないからです。 室内で密に人が集まっている。これは危険です。 専門家同士の意見もあわせて、公衆衛生士も同じように考えると思いますし、そのような評価をきちんとすれば、解決案はみつかるでしょう。 レストランをずっと閉めておけ、と言っているのではないのです。テラスなど外に座れるレストランは、かなり安全でしょうし、そのような場所を活用して欲しいのです。外では、2mの距離確保も必要ないかもしれません。放出されるエアロゾルも、外ではすぐにどこかに吹き飛ばされてしまいますから。 外では、この距離制限も緩和しても良い、とも思います。  室内については、、、窓を全開にする。夏などは特に。そうすれば、室内にいてもいいでしょう。しかし、室内では、また距離をおかなければいけません。天気が悪く寒い日には、まだ緩和がどのような影響をもたらすかがわからない現時点では、少数のゲストしか入れる事が出来ないのは仕方がないでしょう。しかし、暖かくなれば、外でも問題ありませんし、少し寒くても膝掛けもありますし。春先や秋口なども、そうしていますよね。 後、考えても良いと思うことは、、、、もう既にかなりの損失を飲食業界は抱えているのですから、例えば、道路占用許可を出すとかも出来るのではないでしょうか。ずっと許可し続けなくても、一時的に特別に自治体がそのような事を認めることが出来たら、居酒屋なども路上にテーブルを出せます。勿論、通行人の邪魔ならない程度、安全が確保されている事が前提ですが。

もう一度、屋内での状況を素人的に考えると、、換気は大切、とのことですが、エアロゾルがテーブルからテーブルに移ってはいかないものでしょうか。

そうなのですが、空気の流れには、同時に濃度を薄める効果もあります。いろんなアイデアがあるのではないでしょうか。 学校の話をした際にも言いましたが、窓を全開にして、大きな扇風機で空気を常に外に送り出して室内に常に空気が動いている状態をつくる。これは効果的なことだと思いますし、居酒屋の天井にも扇風機がついていること多いでしょう。帽子が飛ぶくらいの強い風である必要はなくて、弱い風で外に空気が流れれば良いのです。  これらの詳細を、役所、保健省、もしくは、ロベルト・コッホ研究所が全て決める、という事は難しいでしょう。首相も言っているように、求められるのは、一人一人の日常生活内での理性です。私達は、共に考え、日常での良識と判断力にスイッチを入れなければいけません。 しかし、その判断の為には正しい情報が提供されていなければいけないのです。 そこでは、専門家が言わなければいけません。 エアロゾルと飛沫感染のリスクがある、と。どこかを触ったり、手を洗うことをうっかり忘れてしまったからといって、感染してしまうリスクは少ない。 このようなアドバイスは受け入れるべきで、新聞で叩かれるべきではありません。

緩和について、レストランの再開含めて、様々な質問がありますが、何がこれからおこるのでしょうか。新しい感染者数の増加はありますか。緩和の影響はどうでしょうか。ロベルト・コッホ研究所が発表した数値、再生産数がまた上がったことについてリスナーからもメールが届いています。再生産数は、一人が何人に感染伝播するか、という計算数値です。この数値を不安に感じるべきでしょうか。それとも、数値というものは統計上計算されているものなので、実際の感染者数のほうが重要でしょうか。

ドイツでは、現在、登録された新しい感染者の数は多くありません。 これに関しては、ロベルト・コッホ研究所を信用して良いでしょう。ロベルト・コッホ研究所は、R0値の上昇を発表していますが、ドイツでは感染をかなり抑え込んだ結果、新しい感染者数が少なく、統計的なR値が不安定になっています。また、自然と1以下になる事も考えられるでしょう。勿論、今のように軽く1を超えた状態で続く、という事も考えられます。しかし、ここで言っておかなければいけないことは、新しい感染者が少ない状態ではあまり心配しなくても良い、という事です。新しい感染者数が多い状態での数値1は、ずっとその感染者数が続く事を意味しますので大変危険ですし、集中治療が必要な高齢者などが増えて医療に負担がかかりますから数値を下げなければいけなくなりますが。
アメリカは、とても深刻な状況が続いていますが、緩和が検討されています。実際に、多くの州で解除されています。 ドイツと似たようなシチュエーションですが、ドイツは感染をかなりの段階まで押さえ込むことに成功しています。かなりのところまで回復してきていて、ロベルト・コッホ研究所のような機関を批判するくらい元気になってきているようです。バッシングはもうスポーツです。全く理解出来ません。 次回にでも、ロベルト・コッホ研究所が出しているデータを一緒に分析してみるのも良いかもしれません。そこで、何がどうなっているのか、ということをはっきりと把握する必要があるでしょう。登録された数が3日前のものなのか、ジョンズ・ホプキンスのようにメディアの総計で出された速報なのか、という事は重要ではありません。ロベルト・コッホ研究所が毎日、土日を除いて分析して出している情報と数値のクオリティは、ヨーロッパの何処にも例を見ないのです。それなのに、批判して叩く。本当にドイツは贅沢な悩みを抱えています。

読み取りかたを学ぶ、という事でも(データを一緒に)みていったほうが良いかもしれません。

やったほうがいいかもしれませんね。

様々な単語も出てきますし。nowcast というのも、その一つですが、これもリスナーが聴いてもすぐには理解できないでしょうから。 アメリカのシチュエーションの事が先程出ましたが、緩和の影響です。コロンビア大学が、地域ごとのモデリングをだしました。モデル計算は、日に日に変わる人々の行動や反応を考慮できないので、長期の予測計算は難しいですが、(緩和)直後の変化を計算したものです。

そうです。大体1ヶ月後までですね。USAでは、4月末〜5月初めに25の州でロックダウン、接触制限が解除されています。これから1ヶ月、どうなるのか。どんな影響が出てくるのか。10%接触が増えたら、どうなるのか。店の客数が増えたらどうなるか。 接触率と感染率の関係を計算できます。今までに出された数値を使って計算されていますが、ここでは、分類された感染致命割合のモデルが使われていて、年代別分類されたものです。2つのシナリオで計算されています。6月1日までに、、、もうすぐですが、、それまでに、USA全土で毎日、43000人の新感染者と、1800人の死者が出るであろう。というものと、もう一つのもっと厳しいシナリオでは、63000ケースで、2500人の死者が予測されています。この研究での重要なポイントは、アメリカのように大きな国では全体の感染の把握が困難である、という事、集計も統計もスピーディーに行われていない為に、状況が見えず、突然、死者数が爆発し、重症患者が集中治療に殺到してしまう点です。
ここで言っておきますが、ドイツのシチュエーションとアメリカでは大差はなくて、今日、感染した人は、次の週に病気になります。平均的な潜伏期間は6日ですから、そこから検査して、結果が出て、という事をしていると、平均値は1週間程です。そして、症状が出て、重症化して集中治療が必要になるまで、10日〜14日。という事は、感染してから、集中治療に入るまでが3週間。 このモデルではこの期間で計算されています。
ドイツでもそうですが、緩和後にその影響が出始めて見え始めるまで、、入院する重症患者数としてカウントできるまで、その位かかるのです。 把握できていない感染者数などは入れずに、、単純に、重症患者が増えて病院で問題が起き始めるまで、、それまでに、知らずに感染者数が増え続けていた、という事がおこります。

問題ない、と安心していたら、突然数が増加する、という、ことですね。 しかし、これは、最悪のケースでのシナリオですよね。

いや、そうとも言えません。ここでは、2つのシナリオが計算されていますが、最悪なケースというものは入っていないのです。 この2つは、出来るだけ現実的な、パラメーターを出そうとしています。

ということは、悲観的であると同時に現実的である、と。ここから、ドイツでは何を推測すれば良いのでしょうか。

基本的なところでの推測はできるかと思います。特に、この水面下で拡がっていく感染です。しかし、幸いなことに、ドイツではスタートが違いました。ドイツでは1ヶ月後に集中治療の限界が来る事はありません。とは言っても、忘れてはならないのは、今、起こっている感染自体はまだ目に見えない、という事実です。感染してから、まだ発症していない。勿論、診断もされておらず、カウントもされていない。そこまではやく把握する事は不可能です。これからまた感染者数が増加する事は覚悟しなければいけないでしょう。 感染レベルがとても低い状態からのスタートは、数値に騙されやすい。この数値を鵜呑みにして、学校を再開したらどうなるか。 そのような事がノルウェーで起っています。ノルウェーでは2週間前に学校が再開されていますが、まだ感染爆発はありません。しかし、人口がとて少なく、感染も殆ど抑え込んでいた状態ですので、、確率過程です。どこに火の粉が飛んでいくかはわからないのです。 2週間経って何も起こらなかったから、将来も何も起こらないとは限りません。低い数値のレベルでは、特に数に騙されないように注意が必要です。
アメリカで起こっている酷い状態には、心が痛みます。今後どうなっていくのか、、、。 感染を抑え込んではいないのです。ドイツのように。 その状態でもう解除しているのですから。

気づくまでのタイムラグ、という点では、ウィルスが思っていたよりも早い時点で入ってきていたのではないか、という疑いが残ります。最近では、メディアで、フランスでかなり早い時期に新型コロナがあった、と騒がれました。 凍結保存されたサンプルを検査したところ、去年段階で既にヨーロッパに入ってきていた、という内容の論文ですが、どうなのでしょうか。

その論文は読みました。先日、認証されて学術雑誌で発表されたものですが、この内容の信憑性に、、、疑問を感じます。疑ってかかるべき点はいくつかあって、まず、40代患者が、比較的重症な症状で、12月27日、クリスマス直後に病院に来ています。その時点では診断される事なく、2、3日後には症状の改善がみられた為に退院。この患者のサンプルが保管されていて、これは、12月に肺炎で集中治療を受けた患者の50ものサンプルのひとつなのですが、この保管されていたサンプルの半分ほどをPCRで検査したところ、先程の患者のサンプルに反応があった。というものなのですが、ここから更なる検査などは何もされていません。
このようなPCR検査の結果は、別のPCR検査で、ゲノム確認がされていない場合は疑ってかかるべきです。これは、定常業務、単に陽性か陰性か、陽性反応が出たら、この人は感染している、という検査ではないのですから。

日常でこなされるルーチン検査、ということですね。

そうです。この場合、この感染症の感染経歴を書き換え、フランスで、フランスだけではなく他のヨーロッパ諸国でも、1ヶ月前、もしくはもっと前から感染が始まっていた、ということになるわけで、何か重大なことを見落としていた、隠蔽されていた可能性もでてきます。 そのような重大な証明をしようとしているわけですから、慎重に検証作業しなければいけません。それには、まず、少なくても、2回目、3回目のPCR検査、ウィルスのシークエンシング、全てのゲノム配列を調べなければいけません。PCRで陽性反応がでるのであれば、技術的に難しい事ではないのです。
この結果で、ウィルスの変異の位置が、初期のウィルスと一致している必要があります。何故なら、このウィルスは、時間とともに常に平行して変異を続けているからです。 今、ウィルスの配列をみれば、何月の時点のウィルスか、という事がわかります。誰かが、私に、このウィルスは12月の時点のものなのか、と聞いてきたとしたら、配列みれば、そうか、そうではないか、ということを答えることが可能です。

この変異は、患者としては心配がいらない変化ですよね。

そうです。これは、ウィルスの表現型、ウィルスの感染の際の特性とは関係がないものです。これは、違う場所で起こる常に変化をする部分なのです。
そして、まだ違う確認もしなければいけません。この、12月の段階で感染をしていた患者は、死亡はしていません。ということは、血清学的な検査をして抗体を調べるべきでしょう。 本当に感染していたのであれば、抗体が出来ているはずです。 抗体検査については、何度もお話ししてきました。この患者に電話して、とても重要な発見をしたかもしれませんので、抗体を確認する為に、血液検査をさせてもらえますか、と協力求めるのは簡単なはずです。それから、疫学的な検査です。 この患者の息子も、その後で、インフルエンザ似た症状が出ている、という事なので、彼の血液も検査して抗体を確認する。ここで陽性反応がでたら、感染経路も確認できます。
しかし、これらの調査は全てされていません。始めの確認検査の結果も、論文内にははっきりとは明記されていません。確認検査と同時に複数のPCR検査をすることは簡単に出来たはずですし、結果も発表できた。いや、しなければいけなかったでしょう。 しかも、シークエンジングで配列の分析もされていない。 簡単な作業なのにも関わらず、です。血清検査もしていない。父親も子供も。こうなると、どうしてこれが発表される事が出来たのか、ということすら疑問です。
もう一つ、疑う点は、始めにされたPCR検査は、私達が開発した検査キットを使っています。そこで、弱陽性反応が出ていたのですが、陽性確認がかなり大量に使用されています。 普通のラボであれば、この濃度の陽性確認を使う事はありえません。 なぜなら、確認素材、ウィルスゲノムコピーですが、これを反応に入れ過ぎると、まわりの検体に飛び散る可能性が多い、ということは常識だからです。交差汚染です。検体が、他の陽性検体によって汚染されてしまう。 このような交差汚染を防ぐ為に、陽性確認は、ギリギリの低い陽性範囲、反応分子量を抑えて検査されるのが通常です。
この論文をみてみると、著者がこの陽性確認作業についてよくわかっていない事が読み取れます。偽陽性反応がでるリスクの自覚がありません。 本当に、これが掲載された理由が理解出来ません。 査読者の判定も出ていますし、採用されているわけですが、このような内容が広範囲で広報されて、学界の不安を煽るのは、私の理解の域を超えています。

査読されていても、注意深く読まなければいけない内容、ということですね。ここで、、、かなり前から私のメモに書かれている質問なのですが、、ウィルスの出所、というのはわかっているのでしょうか。中国研究所から漏れた、という説もありますし、それを全否定する学者もいます。調べれば、動物由来である事が明らかである、と。これに関する、配列分析はされていますか?遺伝子でわかることはあるのでしょうか。

うーん、近いウィルスを動物でみつけることはできます。そのような調査は中国でされています。不思議なことに、センザンコウからウィルスがみつかりました。しかし、この動物からとった配列みても、これがウィルスの原型だという説得力が全くありません。 だからと言って、動物由来ではない、という証拠にもなりませんが、結局のところ、検査数が少なすぎます。 ここから少し、あそこから少し、と検査して、似たような部分をみつけているだけです。
この検査方法は、例えば、、、そうですね、どのような例えがいいでしょうか、例えば、イルカが牛と親戚か、ということ調べたいとしますね。因みに、実際にそうなのですが、、、その際に、牛の検査はせずに、馬、ラクダ、そして、ネズミと人間の調査をした。勿論、馬の方がネズミや人間より遺伝子的にみて近い、という事はわかります。 しかし、イルカには4本足がありません。何が言いたいか、わかるでしょうか。調査対象が少なすぎて、鯨類、海洋豊乳類のごく一部、イルカ、という事しかわかっていない。他の近い海洋哺乳類を調べることも、比較的近い牛の調査も出来ていないのです。
これが、出来ていれば、進化証明、証拠がみつかるでしょう。しかし、進化生物学では証明する、という事はそもそも不可能で、推論を立てるのが通常です。とてもよく研究されて、調査された対象でも、それでも完璧ではないのです。この、センザンコウである、という事に関してはまだ納得できません。何故なら、以前からの調査によって、SARSウィルスによく似たウィルスを、コウモリの種類、キクガシラコウモリが持っている事がわかっているからです。 
ついでにお話ししますが、中国から発表された新しい発見ですが、実は、これは私達のチーム的には新しい事ではないのです。 中国に発表のタイミングで先をこされてしまったのですが、プロテアーゼの切断位置に認められる特殊な特性です。ここからの憶測が、あの、ラボでつくられたウィルス、という陰謀説になっていっているのですが、独自の理論も存在します。この特性は、他の動物のウィルスにも見当たらない。コウモリにもないし、センザンコウにもない。ウィルスの膜タンパク質にある特別な切断位置で、グリコプロテイン・スパイクです。

細胞に侵入する際に必要な部分でしょうか。

そうです。この切断位置が、ウィルスが細胞内入り込む助けをします。この部分が、喉での増殖の特性と関係があるのではないか、とみています。 この部分は、SARSウィルスにありませんでしたし、コウモリ由来コロナウィルスにもありませんし、センザンコウも持っていません。 今、中国研究チームがみつけたのは、ヨーロッパのキクガシラコウモリのウィルスにもある、この切断位置です。 人間のSARS-2ウィルスとは若干違いますが、かなり似ています。 ですので、この切断位置は、SARSウィルス特有のものではない。これは人工的につくられたウィルスだ、という説は崩れる事になります。 自然界に存在しますので。
ここで、以前にインフルエンザの際にした議論を繰り返すことになりますが、自然界では、ウィルスの淘汰の過程でこのような事が起こるのです。偶然に、いくつもの進化的な偶然が重なって、少し増殖しやすいタイプではなく、圧倒的に有利な増殖性をもつウィルスもうまれる。これが、進化の淘汰過程で有利になり生き残ります。

このウィルスのルーツに関しては、2008年にノーベル賞を受賞した、HIVの研究者、リュック・モンタニエ氏の発言が有名です。テレビの議論中に、新型コロナウィルスの遺伝子にHIVの配列が含まれている。これは、人工的につくられたウィルス違いない、と。 そのような部分はあるのでしょうか。あるとしたら、その類似点は普通ですか。

現役のウィルス学者の立場として、ノーベル賞受賞者にむかって言うのは憚られるのですが、、、、これは、ナンセンスです。

この類似点がそもそもあるからでしょうか。それとも、見当たらないからですか。

この類似点は偶然ではありません。これに関しては、コンセンサスがありましたが、それはその後に撤回されています。終了です。リタイヤしたノーベル賞受賞者がトークショーで発言しようとしまいと、この件は終了しています。それ以外に何とも言えません。

話が長くなっていますが、変異について最後までいきたく思います。新しい論文がアメリカとイギリスから出ていて、一般人私達に興味深い内容だと思われます。ウィルスが、その特性をいつか変える時が来るのでしょうか。感染しやすくなったり、病性が高くなったり、免疫攻撃に強くなったり。これらの論文を説明していただけますか。

配列分析の分野で有名なロスアラモスのラボの論文ですが、ここは、遺伝子のデータバンクもある大きなラボ環境で、高名な科学者が多数、遺伝子配列分析を勤しんでいます。これは、もう既に小さな研究で書かれていた事でもあるのですが、表面のタンパク質のある部分での変換が観測されています。この、変換が認められるウィルスタイプが、世界的に拡がっている。始めに拡がっていたのは、これがないタイプでしたが、段々とこちらのほうが優勢になってきているのです。各地で起こるクラスターでも、このタイプが多い、と聞くと危険だと感じるかもしれません。この論文にも、警告、と書かれています。科学者は、そう簡単には、警告、という言葉を使いませんから、それなりの意味はあります。

それは、感染の際の病原性、病気の悪化とも関係がある、ということでしょうか。

2つの案が示されています。1つ目は、ウィルスの構造がウィルスにとっての利点となる可能性。 簡単に言うと、表面のタンパク質には、様々な部品がついていますが、この変異によって、その部分が更によくマッチするかたちに変化する。これは、ウィルス的に利点となるかもしれませんが、明らかではありません。2つ目の可能性は、変異は、タンパク質の一部、抗体と結合する部分に起こります。B細胞エピトープです。そして、この抗体は、その分子構造から、この表面部分に結合する際にレセプターとの結合が強くなる。これも、分子構造から推測されることですが。
彼らは、配列予測チームで、理論的に特異から起こる分子構造の予測していますが、これらもラボでの確認作業が必要です。 私が、この理論上の推論を読む限り説得力はあります。ここから、実験重ねるだけの価値はあるだろう、と考えます。例えば、私だったら、ラボで人工ウィルスを使って観察させるでしょう。つくるまでに2〜3ヶ月はかかり、そこからまた2〜3ヶ月かかる作業ですが、その価値はあると思います。このような確認が必要な結果の為には、そこまでしたほうがいい。 勿論、私たちはしません。 この論文なかに、既に他のチームとする予定だ、と書いていますから、この競争には勝てません。ベルリンでは違う研究をすることにしますが、基本的にとても興味深い発見です。
ここで、また言っておかなければいけない事があります。このような研究観察では、全く見当違いな結果がでることもあるのです。 特に、専門家や研究者のリスナーの為に念を押しておきますが、ここでは、だいぶ簡単にざっくり話しています。 常に、簡単にわかりやすいように話していますが、、そうならざる得ないのです。 ここで、言えるのは、、、この変異は、突然どこかから湧いてきたものではない、ということです。収斂進化、という事だと、進化生物学者は、もっと説得力のある証拠を要求するでしょう。もし、全く違う遺伝子的背景を持つものが、世界の各地で同じ変異を同時にしていたとしたら、、、これは、表現型の変化である可能性が出てきます。大きな淘汰と、病原性の利点です。しかし、ここでは、その点での説得力には欠けます。この変異は、通常の系統樹の途中段階であるものだとみられます。そして、この途中段階が、エピデミックの間に有名になってしまった。これが、偶然の変異なのか。淘汰の結果なのか。これは、今の時点では判断できません。しかし、偶然起こった、とする可能性は高いと思われます。
これは、庭に生えている木と同じで、まだ小さかった木を間違って剪定してしまったとします。それが原因で、枝が2つに分かれて育ってしまったのです。幹から直接出て大きくなった枝と、発育不全の枝、と。十分想像できると思いますが、このような状態に、SARS-2ウィルスの系統樹がなっている、ということです。大袈裟じゃなく。 発育不全のほうの枝も、そこまで発育不全ではなくて、他の枝に比べるとそこまで太くない程度で、この、細い方の枝にあるウィルスタイプは、はじめの方で武漢にあったタイプです。それが、アメリカの西海岸に渡った。そこから中国ではロックダウンされましたから、このタイプは中国では殆ど撲滅されて、アメリカで少しだけ静かに拡がっていきました。 大きな方の枝も、ロックダウン前の武漢で発生しましたが、上海周辺で激しく拡がっていきました。そこから、ヨーロッパに渡ったのです。 武漢からよりも、上海からの方が飛行機も世界各国に飛んでいるのは言うまでもないでしょう。上海は、世界と繋がる巨大な経済都市です。上海から、一度ではなく、何度も世界中にウィルスが拡がっていきました。  ヨーロッパ内での、感染は、イタリアをはじめ、フランス、スペインも全て、この系列です。ヨーロッパからは、アメリカの東海岸に入り、ニューヨークの感染爆発を引き起こした事が確認されています。そして、はじめのタイプ同様、西海岸にも入っています。このように、こちらのタイプ、上海タイプが、ヨーロッパに渡って、大きな感染流行を引き起こした、という事は偶然だったのではないか。スキー旅行者を通じて、ヨーロッパ全土に拡がっていった。単に、武漢のはじめの変異ないタイプよりも、拡大する条件が整っていただけなのではないか、とも考えられるのです。
勿論、ラボで、この変異が機能性質的な意味を持つかどうか調査結果が出るまではなんとも言えないでしょう。著者は、この点も分析しようと試みていて、この変異が重症化原因となるか、というところの調査していますが、そのような事は見当っていません。

とは言っても、感染力には影響があったりするのでしょうか。

ここでの、感染力としての感染速度も推測でしかありません。この大きな枝は、ウィルスを持った人が大勢世界中を飛び回って広めたから太くなったのか、それとも、こちらのタイプのほうが、ウィルスとしての効率性が高く感染速度が速いのか。

しかし、私達一般人にとっては、結局、最終的には、このタイプが偶然できたのか、という事は重要ではありませんよね。もう既に、こちらが広範囲で拡がってしまっているわけですし。

それはそうです。ヨーロッパのウィルスが、アメリカのウィルスと比べて、病原性が強いかどうか、ということを調べるのは重要だと思います。勿論、アメリカでも、ヨーロッパ型が主流なりつつありますが。ニューヨークがこのタイプなので。 しかし、ここでの大きな疑問、このタイプは、他のタイプよりも危険なのか? これは、医学的にみても興味深い事ですが、今の時点ではまだなんとも言えません。 科学者が公開した内容は、プレスリリースされ、新聞によって報道される。それぞれの段階で内容がどんどん短くなっていってしまいます。

それとともに、不安のほうは大きくなっていきますよね。

そうです。不安は大きくなり、衝撃も大きくなり、最終的には、クエスチョンマークで終わる見出しとなります。政治的な問題に発展して、専門家が割って入らなければいけなくなる。 ちょっと、待ってください。私達、専門家に確認させてください。 針小棒大に書き立ててはいけません。

免疫へ影響もまだ不明なのでしょうか? 症状に関しては、違いはない、とおっしゃっていましたが。免疫防御、それによって今後のワクチン開発に関係してくるのではないでしょうか。

ここで起こった変異は、生物分類学的なドメインレベルではありません。典型的な中和抗体に関係するような。

重要な部分ですね。

この推測からは、ワクチンへの影響が出る、という含意は読み取れません。

まだまだ沢山の質問はありますが、、、まずは、すぐに騒がない事ですよね。冷静に受け取る事が大切に思います。今日もありがとうございました。 またよろしくお願いいたします。


ベルリンシャリテ
ウィルス研究所 教授 クリスチアン・ドロステン

https://virologie-ccm.charite.de/en/metas/person_detail/person/address_detail/drosten/




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