ドイツ@Sars-CoV-2 コロナウィルスアップデート(113)  2022/3/29(和訳)

フランクフルト大学病院 ウィルス学教授、サンドラ・チーゼック
ベルリンシャリテ ウィルス学教授、クリスティアン・ドロステン
聞き手 コリーナ・へニッヒ、 ベーケ・シュールマン

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前回までで112回のポッドキャストが放送されました。その他にもいくつか他の先生をお迎えしての特別回があり、書き起こしが1432ページ分、、今日の分は含まれていませんが、、何度も読み直された方も多かったことでしょう。たくさんのメール、質問もいただきました。 このポッドキャストも今回で最終回を迎えます。このようなかたちでのポッドキャストは終わりますが、パンデミックが終わったわけではありません。感染者数はまだまだ高く、容態が悪化し入院しなければいけない人の数も多いです。コロナで亡くなる人も勿論います。まだまだ解明されるべきことはあり、解決策も必要です。特に、政治の解決が要求されるところで、科学的な面でも発展は勿論あるものの、ここ数ヶ月でかなり細かいレベルでのものとなってきていました。つまり、大きな流れとしてみると、ほとんど新しい知見はない、と言えるのではないでしょうか。少なくても、パンデミックの流れを大きくかえるようなものはない、と言えます。そのことは、両先生も何度も仰っていたところです。ポッドキャストチームとしては、ここで終わり、というわけではなく、特別な回をいくつか準備しているところです。今日は、一つ一つの論文をみていくのではなくて、大きな流れをみていきたく思っています。今までを振り返り、そしてこれからのことを、です。今日は、フランクフルト大学病院 ウィルス学教授、サンドラ・チーゼック先生と、ベルリンシャリテ ウィルス学教授、クリスティアン・ドロステン先生にお話を伺います。

今日は、いままでの決算的なことをしたく思いますが、今、どのような状況なのか、これからどうなるのか。そのためには現時点での状態の把握もしなければいけないと思うのですが、この間、オミクロンの亜種であるBA2、感染力がアップした変異株が増えていくとどうなるか、というお話を伺いました。両先生とも、感染者数が増加するであろう、という予測をされていましたが、今、実際に増加傾向にあります。これはその理由の一つだ、とみて良いのでしょうか?ドロステン先生?

クリスティアン・ドロステン そうでしょう。感染者数は少なくともイースターの休みまでは高いままだと思われます。学校の休みがくれば少し落ち着くでしょうし、その後には気温が上がってきます。それまでは高止まりが続くでしょうが、これは、オミクロンの弱毒化、というものが言われていますが、これは10%にも満たないレベルであって、、つまり、10分の1にも達しない。ウィルス的には弱くなっているという度合いはその程度ですし、香港をみてみてもオミクロンによって大変大きな被害が出ています。高齢者の予防接種率が低いのが原因です。それに加えて、、というか、これがメインの原因ですが、ワクチンによって状況の改善はされたものの、完全に解決されたか、というとそのようなことはありません。

よく「オミクロンは軽い」と言われますが、これは疾患経過が比較的軽い人が多くなった、というだけであって、香港をみてみてもそうではないことは明らかです。いままでにもご説明いただいたように、高い感染者数と予防接種の未接種層が存在する限り、医療には引き続き負担がかかります。ちょっとみてみたのですが、、集中治療の患者数はそこまで減ってはいませんし、いままでの感染の波の時と一番大きな違いは、欠勤による医療スタッフ不足の問題がある、ということです。チーゼック先生、フランクフルトでも同じような状況ではないか、と思うのですが、、

サンドラ・チーゼック そうですね。全体的な感染者数も高いですし、特に就学児を持つ医療スタッフの病欠は日常茶飯事です。周りでまだ感染していない、もしくは、隔離になっていない人のほうが珍しい、という状況でしょうか。どうにか、同時に病欠しないでほしい、と願うばかりですが、このようなインフラのなかで欠員が多くでる、ということは最悪の事態です。病棟を移したり、計画されていた治療が行えなくなったり、、病院のなかで実際にそのような事態が起こることは多々あって、スタッフの半分が病欠したり、、ということもあるのです。

状況は落ち着いている、とは決して言えないですね。よくそうは言われますが。
医療への負担はある、ということです。さらに、感染指数が高いということはハイリスクにとっても危険が伴いますし、それは予防接種をしていても同様です。予防接種率が高くない地域では、対策を3月いっぱい伸ばすことにした州もあります。
移行期間、というものは、どちらにしても様々なグレーゾーンが発生するものですが、対策が全て解除されるまでにはもう少し時間がかかるのではないでしょうか。チーゼック先生、先生は、フランクフルトでの規定とベルリンでの規定の違いなど、把握されていますか?

サンドラ・チーゼック 正直なところ、、わかりません。最新の情報を常にチェックするようにはしていますが。ハンブルグでもそうだと思うのですが、常に変更されたところを確認する必要がありますよね。発生指数が急増すれば、、今、フランクフルトでもまた感染者が増加傾向にありますが、そのような状況でさらなる対策を緩和していく、というのは賢い決断ではありません。

2週間前のポッドキャストでも取り上げたと思うのですが、多くの人々がウィルスへの危機感を忘れてしまった、と。高い感染者数にも関わらず、パンデミック前と同じような生活様式に戻っています。そこからまた2週間経ちましたが、ドロステン先生、ウィルスへの危機感が薄れる、ということは良い傾向なのでしょうか?

クリスティアン・ドロステン うーん、危機感、というものは人それぞれだと思うのですが、数での比較をしてみようと思います。イギリスの例をとるのが一番良いと思うのですが、、とりあえず、イギリスでの高齢者の予防接種率はドイツよりも高い、ということは言っておきます。そして、自然感染の数ももっと多かった、という点もあります。つまり、イギリスの状況は、ドイツと比較をする例としては超楽天的なシナリオだ、ということです。入院率をみてみると、デルタでの波までは3対1、でした。つまり、コロナでの入院が3、他の1が、別の疾患で入院してコロナの陽性が発覚した、というケースです。オミクロンでは全く別の次元になっていて、勿論これは高い発生指数とも関係はありますが、現在は、1対1、です。入院ケースの半数がコロナ疾患によるもので、後の半数がコロナに感染した別の疾患でのケースです。死亡ケースも引き続きあります。ここでの問いは、これを受け入れるべきか、というところです。現在、ドイツでは1日に250人から300人が死亡していますが、この半数は実際にコロナが原因の死亡であって、別の疾患で偶然コロナの陽性反応がでていた人たちではないのです。これを社会的に許容していくべきであるか、というところは議論の余地がある、と考えます。これが数としてみた場合です。勿論、今後悪化することも予測され、というのも、入院数が直線的に増えてきているからです。爆発的な増加ではないものの、直線的に増えてきていますし、それと同時に高齢者層の割合が多くなってきています。これは今後、集中治療病床の使用率があがる、ということでもあり、死亡ケースが増える、ということでもあります。多分、5月の中旬くらいまではそのような傾向が続くと思われます。イースターの頃、イースターの休みに発生指数に変化が現れるにしても、入院数と死亡数がでてくるのはそこから数週間後ですので。

この傾向を念頭においてみてみると、一人一人が個人レベルでどこまでが許容範囲であるか、ということを決めていくべきだ、ということでしょうか。つまり、社会全体での視点、というものがなくなった、と。例えば、ハイリスクへの配慮などもそうだと思うのですが、個人レベルで、スーパーでの買い物の際にマスクをするかどうか、という判断をすることになれば、免疫的な問題のある人たちの保護が十分にされなくなることになります。どのようにお考えでしょうか?

クリスティアン・ドロステン そういうことになりますね。免疫不全の人たちは勿論のこと、ハイリスクは引き続きマスクをするべきです。他人たちがしなくなっても、です。そして、政治的にもみていくべきです。諸外国の例を参考していると思いますが、そこでも決して落ち着いている、という状況とは言えません。そのような理由もあって、現時点での政治的な傾向としては、条件的には全てを解除してもよいものの、もう少し全面解除のタイミングをずらそう、となっているのだと思います。そこまで無防備にさせたくない、ということです。勿論、夏に発生指数が下がってきて、、そうなると思われますが、、その時点で例えば、マスクの着用など、日常生活での決断を個人がすることになってくるでしょう。そうなれば、パンデミック前からアジアではそうだったように、周りへの配慮としてのマスクの着用、ということになります。症状があったら当然ですが、なくても、社会的なシチュエーションで周りへの配慮でマスクを着用するのが望ましいです。

これは、誰にでも当てはまることですね。その人にあった方法をみつけていく、と。チーゼック先生、先生はご自分の行動様式をみつけられましたか?周りの人たちと議論をすることはあるのでしょうか?どのようにするのが良いのか、と質問されることはありますか?どこまで許していますか?映画などを観にいくことはあるのでしょうか?そこでもマスクは着用しますか?

サンドラ・チーゼック 話し合う機会は勿論あります。職場では比較的簡単です。病院内では、一人で滞在する室内以外ではマスクの着用義務がありますし、一日中マスクをするのは当然です。そこでの議論はありません。プライベートでは、必要なシチュエーションでの着用をお勧めします。それは、室内であったり、密であったり、空調が悪い室内、そして、公共交通機関なのです。そのような場所では引き続きマスクを着用するべきで、私もそのようにします。イベントに関しては、今、多くの人が「イベントをすべきか。イベントに参加すべきか」と考えていることと思います。私はそのような場合にはケースバイケースで判断します。多くの人が同じようにしていると思うのですが、やはり、どれだけ重要なことなのか。人生で一度きりの節目の誕生会なのか、それとも毎年行われる行事なのか。会議や学会などもそうです。そのような場合には、「今年はまだオンラインにして来年対面にしよう」ということもできるでしょうから、これは各自が決めていくことだと思います。問題は、この6週間の間でどれだけの人がドイツ国内で感染したか。その数は恐ろしいほど高いです。取りこぼしの分も入れると、数千万人の域に達するのではないでしょうか。そして、その人たちは、感染回復者、となるわけですが、この感染して回復した人たちが、「これからもっと自由に行動できる」と思うのではないか、ということ。これがこれから数週間後に、感染から回復したての若い世代の行動様式に影響を与えるだろう、と思われます。

感染から回復したて、というのもまずあると思いますが、中期的、長期的にみると、やはり再感染もありますし、行動も感染者数によって変化すると思われます。今は感染者数が大変高いですが、また下がっていくことを願います。ドロステン先生、先生は、秋、そして冬にまた対策が必要になるだろう、とおっしゃっていました。よく、さらなる変異株が現れなければ、状況は改善されるのではないか、とは言われています。しかし、進化というものは予測できないものです。感染ケースが多くなれば多くなるほど変異が起こる機会は増えます。変異株が出てこなかったとしても、今後生活様式が大きく変わらなければ、引き続き感染者数は高いまま、ということになるのでしょうか?というのも、ワクチンの未接種層がまだ存在し、集団での免疫が十分に獲得できない、という理由からです。

クリスティアン・ドロステン まずは、ウィルスはまだ安定しないだろう、と思われます。私は引き続き変化していく、と思っています。というのも、今、ウィルスが中国に渡りました。中国の人口は大変多いですし、抑え込みに成功するとは思えません。そのような状態はウィルスにとっては大きな進化の機会を与えます。常に明確にしておくべきことは、インフルエンザには誰もが人生のなかで何度も感染を経験している、ということです。そして感染は、粘膜、喉の粘膜で起こります。私たちの粘膜のなかには局部の独立した免疫システムのようなものが存在するのです。かなり簡単な説明ですが、そのように想像してもらえるかと思います。そして、子供を除く集団、、子供はまだ感染経験が少ないですから、、感染経験がある人たちの粘膜には免疫が存在し、そのおかげで大人の粘膜内のウィルス量が子供よりも少ないのです。ざっくり比較をすると、ですが。それが、大人の層、、割合でみると大人の割合のほうが多いので、、それが大人のほうが感染伝播させない理由です。これがエンデミック的にみると、インフルエンザのシーズン、つまりクリスマスからカーニバルまでくらいですが、その間にR値が1から1、2くらいまで上がってまた下がる、ということに繋がります。大人が獲得している粘膜免疫のためにそこまで高くない感染伝播性ですが、低い気温、というものが少し追い風になる、という感じです。SARS-2では全く状況が異なります。今の段階では、全体の少しの割合しか粘膜でのウィルス接触を経験していません。集団での免疫はワクチンによるものであって、免疫を持たない、ワクチンも打っていない人も存在します。さらに、予防接種をしていたとしても粘膜に特化した免疫はつくられません。ワクチンを摂取した後、2ヶ月くらい、IgAや他の粘膜免疫を刺激する成分がありますがそれもやがて消滅して、持続するのは粘膜の免疫ではなくて、筋肉から全身に広がるものです。ですから、今、ほとんど感染伝播に対する保護効果がない状態で秋に入ってまた寒くなってくるとまた感染拡大が起こるだろう、ということです。そこでのR値は今のウィルスだと、対策をしない状態下ではまた2から3であると思われますから、感染者数はまた急激に増え、伝播免疫をつくるためには多くの感染による鼻と喉の粘膜免疫の獲得が必要となります。生ワクチン、という手段があれば別ですが、、今のところそれはありませんから、ここで議論する意味はありません。とにかく、夏の間に起こる感染だけでは多分十分ではないと思われます。勿論、夏に多くの若い人が2回目、3回目の感染をする可能性はあります。パーティー世代、ということですね。もしそうなれば、秋に感染伝播の抑圧効果が現れるかもしれませんが、、私はそうならないのではないか、と思うのです。というより、期待していません。そのためには、かなりの感染者が夏に出る必要がありますので。

かなりの感染、と仰いましたが、どの程度の規模の話なのでしょうか?先ほど、パティーピーポーが2回、3回感染すれば、といううことでしたが。

クリスティアン・ドロステン これは単なる私の想像です。数的には、、今の時点では誰にもわからないと思います。

新しい変異株も可能性、というのもあげていらっしゃいましたが、新しい変異株が出てきたとして、それが今よりも軽症であるとすると、ワクチン未接種層があっても、エンデミックに移行することは可能なのでしょうか?今の時点でも何かみえてきていることはありますか?

クリスティアン・ドロステン どちらにしても、今日の明日でそうなる、というものではありません。一段階先の話ではなくて、そこまでに至るまでにはまだ何段階もあります。そのプロセスのなかにはすでに突入している、ということは話しましつまり、致死率が下がった、ということは大変重要な点です。ワクチンがない状態では、ドイツ国内の致死率は大体1、5%、ワクチンとオミクロン株で、約0、1%になったと思われます。ざっくり、ですが。致死率の域ではすでに、インフルエンザの大流行時くらいのところまできていますが、ここでやはり分母と分子を忘れてはいけません。ここに分母、というものがあり、この分母の規模が大変大きい、ということ。感染伝播を抑えることができないからです。インフルエンザでは、全体数がそこまで大きくはありません。全国での感染伝播自体がそこまでおこらからです。勿論、感染致死率が0、1%、というのは許容範囲ではあるのですが、致死率は同じであっても、Covid-19の全体の感染者数からみると許容できる規模ではない、と言えます。今話しているのは、死者数だけであって、その他の欠勤、病欠などの他のことは含まれません。つまり、そのまま野放しにする、という選択肢はない、ということなのです。もしそんなことをすれば、秋には恐ろしいことになるでしょう。もしかしたら、次の秋がなんらかの対策をとらなければいけない最後の秋となるかもしれません。というのも、致死率も低くなりましたし、秋にはもっと下がる可能性もあります。室内、店内でのマスクの着用を始め、緩やかに緩和していく。しかし、これが容易ではないことは確かで、致死率のように簡単には数値にできないものだからです。つまり、感染伝播の削減、という点でです。ある時点で、R値がどのくらいなのか、そこから接触制限によってどこまで抑え込むことが可能である、というのを数値化する必要がありますが、それは困難です。今のように広範囲での検査、というものもされなくなるでしょうが、それはそれでよくて、そこからサーベイランスシステムで補っていく、ということになるでしょう。

状況の把握を可能にするためには知識が必要です。ロベルト・コッホ研究所のウィークリーレポートがかなり具体的な数を出すようになっていますので、そこを少し取り上げたく思うのですが、そこにタイムラグが生じるのは仕方がないにせよ、病院での入院時にSARS-CoV-2感染の診断がされた場合、入院理由が別の疾患であった場合にはそこでの区別がされるようになっています。このポッドキャストでは知識を提供、情報を提供しようと勤めてきました。このようなかたちでのポッドキャストが一旦終了しても、ツイッターに熱心なリスナーがツイートしていたように、「この二年間、手取り足取り教わってきたことを、私たちは今度は自分の足を使って歩んでいかなければいけない」と。私も全くその通りだと思っています。私もこのパンデミックを通じて大変多くのことを学びました。プレプリントサーバーをはじめとする、自分でリサーチする作業も含め、です。科学に対する興味と情熱自体は素晴らしいものの、そこには謝った理解をされる、というリスクも潜んでいると思うのです。ソーシャルメディアでよく、論文の結果だけを取り出して危機感を煽るような発信がされていたりしますが、このポッドキャストでは、そのような論文の読み解き方、というものを実際に存在する論文を例にお伝えてしてきたと思います。そのような機会がなくなる、ということで、基本的な面での、「自分での歩き方」のヒントがあれば、と思います。ドロステン先生、ウィルス学や免疫学の研究を解釈する際に、素人が陥りやすいミスにはどのようなものがありますか?

クリスティアン・ドロステン それら一つ一つを全て挙げることは不可能だと思うのですが、、例えば、すぐ、全てに当てはめようとすること、です。少人数からとったデータを大きな規模に計算しなおす、とかですね。そこでの一人一人の患者の条件であったり、特徴が、実際の社会構造を反映するのかどうか。そのようなところもあります。論文は、頻繁に縛りが出ているものです。ここを常に明確にするべきなのですが、患者が入院する、ということは、そもそも入院する理由を持っている、ということですから、そこからすでに一般人全般には全ては当てはまらない。このような単純な理由と統計的な問題以外にも、例えば、病理的な研究、、動物をウィルスで感染させたりとか、免疫学的な計測であったりとか、、そのような技術的なものにはまた全く別な点が隠されていますから、行間を読むことは大変重要になってきますが、そのためには科学システムに精通している必要があるのです。つまり、研究の根本的なところで、単純化が図られる、、モデルに当てはめたりしてできるだけ明確な白か黒の結果が出るように、このような実験型の研究ではそのようなスタイルがとられることが多いです。しかし、だからといって、現実はこのよう白か黒か、というわけありません。私が何を言わんとしているか、というところが伝われば良いのですが。

サンドラ・チーゼック ラボでの研究、ビトロ研究で気をつける点は、勿論これが、イン・ビトロシチュエーション、つまり人体に完全に当てはまるわけではない、というところです。ラボでの研究を理解するためには、使われている方法と、ラボでの作業を熟知している必要があり、弱点も知っていなければいけません。つまり、ポジティブコントロールというものが何か。ネガティブコントロールというものは何か。経過は正しかったのかどうか。このようなことは、自然科学の分野に従事していない一般人にはなかなか理解することは困難だと思われるのです。その他で、、一般的に言えることは、、例えば、今までの知見を覆すような論文が出てきた場合。つまり、今までとは真逆のデータが出た場合には、メソッドをきちんとみて比較する必要があります。根本的には、研究論文、というものは、現実のパズルピースのようなものであって、完全な事実を反映するものではない、ということです。ひとつひとつを単品で検証していく必要があります。そこからピースを繋いでいくと最終的に現実がみえてくる。後もう一つ、患者による臨床試験について。いくつか、研究のクオリティの目安となる点があります。ゴールドスタンダートとしては、例えば、医薬品の治験でランダムなコントロール試験が行われているかどうか。つまり、比較グループはあるのかどうか。患者は偶然選別され、分けられたグループなのかどうか。ブラインド試験、つまり、治療にあたる医師もどの患者に治療薬、もしくはプラセボが与えられるのかがわからない状態で行われているかどうか。これらが、ゴールドスタンダートに基づいて実施されているかどうか。SARS-CoV-2で考えてみると、PCR検査がされているのか、それとも自己申告、つまり患者が「コロナに罹患しています」と言っているだけか、もしくは抗原テストのみなのか。そして、どのような患者が対象になっているのか、というところも重要です。例えば、50代、60代の男性だけなのか、それとももっと広範囲なのか。18以上か、など。そのようなところで、研究データの説得度も変わってきます。追跡調査はどのくらい期間行われたのか、臨床試験の最終地点は妥当なのかどうか。コホートの規模も重要ですし、治療薬を使った場合の入院時のリスク削減比較なども同様です。ファクターは大きいのか、小さいのか、そのようなことも関係してきます。最終的には、常に「これは実際に現実的に当てはまることなのかどうか」という点を問うべきで、医師として治療薬を処方したい場合、論文を読んだ後に、これは例えば、ミュラーさんには適しているのか否か。この治療薬は使えるのか。それとも、ここでのカテゴリーには全く合わないのか。そのようなところからも、研究の重要度の判断もできるでしょう。

つまり、、素人の知見的恩恵には限界がある、ということですね。専門家がすでにその論文の評価をしているか、というところをみたほうが良いと思います。しかし、少なくとも、基本的な面で早合点しなくてもすむような知識は今までで学んできた、とは思います。私が気になったところは、、頻繁に、結論データの相互関係と、因果関係が混同されているのではないか、ということです。例えば、ビタミンD、Covid-19の疾患経過とビタミンD濃度との関係が話題になった時もそうでしたが、ビタミンD濃度がこれくらいあったから、疾患経過がこうだった、というような話ではありませんでした。警告もされていましたね。

サンドラ・チーゼック ビタミンDの血中濃度を測る、というのは、典型的な例ですね。老人ホームや介護施設の老人には頻繁に欠乏がみられますが、それは、あまり外に出なかったり、寝たきりで日になかなか当たることがないからです。それはわかっていることであって、ここからCovidの重度の疾患経過とビタミンDの相互関係に結びつけることはいけません。さまざまな理由が関係していると思いますが、どちらの結果も出ているわけで、これらを一緒にすることはできないのです。

一般人のほとんどが、どちらかといえば自然科学の背景を持たない人で、そこまで科学システムには深く入らない人のほうが多いと思います。そのような訓練がされていないので行間を読める人も少ないと思いますが、それでもリスナーのみなさまに自分で論文を読む際に何かアドバイスはありますか?専門家のお墨付きがない時点で、、これもよくある問いなのですが、、査読前にすぐに全てを公開することに意味があるのかどうか。現時点で、ですが。

クリスティアン・ドロステン 私からはじめましょうか? 私は、基礎的な知識を学んでいない人にはお勧めしません。お気づきだったかもしれませんが、、このポッドキャストのはじめのほうでは、かなり論文を噛み砕いて説明していました。あの頃はまだそんなに文献もありませんでしたから、プレプリントを取り上げたりもしました。それが、いつの段階か、、多分、去年の夏だったと思うのですが、、そこまで掘り下げる気がしなくなりました。数がありすぎるのと、詳細まであげてしまうと、混乱を招く、ということに気がついたからです。全体的にまとめて説明するほうがわかりやすいですし、それでも理解は十分にできますし、一般人的には、今の知見の最新地点を知りたいのだと思うからです。誤解から生まれた混乱を招くようなニュースがあまりにも多すぎます。それが拡散されるのはソーシャルメディア上だけではありません。これが特にタチが悪い。一部の専門家が間違った意見を主張していた場合に、その意見と一致する論文がもしあったとしても、その内容が間違っていることには違いはないのです。しかし、「それを証明する論文があるから」といって、それがメディアで拡散されてしまった場合。突然、早朝のラジオのニュースになってしまう。最悪です。 信頼できる報道媒体、そこにはラジオを含まれると思うのですが、、このポッドキャストを始めたのも、ここでは少し長く話すことが可能だからです。このポッドキャスト以外にも別の番組もありますから一聴の価値はあると思います。このような少し長めのラジオ番組は、ネットで後から聞くことができる、というメリットがあります。ここもとても良い点だと思います。そして、勿論、紙媒体のジャーナリズムです。信頼できるジャーナリズムは、特に科学ジャーナリズムにおいては一般人へのフィルターとなっているのだと思います。そこではやはり、論文の詳細に触れるのではなくて、、プレプリントなどはまだ査読という審査を通っていないわけですから避けた方がよいですし、、著名な学術誌に掲載されたものなのか。さらに、ハイクオリティなレビュープロセスがあったのかどうか。それとも、どこからか誰かが出してきたものなのか。

やはり、きちんと査読されて評価されるのを少し待った方が良い、ということでしょうか?

サンドラ・チーゼック 付け加えていのですが、私が常に言っているのは、「信頼の置ける科学ジャーナリストの意見を聞いてみる事」です。みなさんは、それをこの数ヶ月間、数年間それを実行してきてくださったと思います。判断が難しいことは多々あります。私には、リスナーがどのような疑問を持っていて、何が知りたいのか、ということはわからないのです。その代弁をお二人はされてきた、と。素人でもわかるように質問を厳選してくれた、という点で、です。きちんとした科学ジャーナリストで、自然科学を専攻した人であれば、メソッドの判断もできると思いますし、どちらにしても、一般の素人が自分でプレプリントサーバーのなかから情報を探し出す、自分に都合が良い情報だけを取り出す、ということよりは良いことは確かで、科学ジャーナリズムのクオリティがどれだけ重要か、ということも、この数年間で学んだことの一つでもあります。

そう言っていただけて大変光栄です。もし、自然科学を専門としない科学ジャーナリストであっても、真摯なジャーナリストであれば何かを決めつけることはしないだろう、と思うのです。私たちも、まずは専門家の意見を伺ってから書く事をはじめますし、それはこのポッドキャストでもそうでしたし、それ以外の仕事でもそのようにしています。 先生方にはこの二年間、本当に大変な作業をこのポッドキャストのためにしていただいてきました。番組のために新しい論文を読み、分析し、解説する。ご自分の研究も中断しなければいけなかったこともあったことでしょう。先ほど、作業机からマイクに走ってきた、とおっしゃっていましたが、仕事机やラボではなくてマイクの前に座るのは今日が最後です。ですから、私たちの興味としては、先生方の今の研究の重点はどこなのか?コロナ関連ではどうなのか?というところです。この収録の後でラボにお戻りになった際に、ドロステン先生、先生は何をされるのでしょうか?どのような研究をされていますか?

クリスティアン・ドロステン 今日はもうラボには帰りませんが、、というのも、今日の午後には別のアポがびっしり入っているからです。勿論、今朝はラボにいました。ラボでの作業はかなり長い間やっていなかったのですが、数週間前にまた再開したところですが、それをここで短くまとめることは難しいです。私の研究所は拡大して大変大きな組織となってしまいました。私の研究チームも3つのチームからなりますし、その他にもいくつも研究チームがあり、全員ウィルスの研究をしています。私の研究所の話をするならば、ここではウィルスの研究、、他の研究所よりもより多くのウィルスの研究をしていると思うのですが、、勿論、別の研究所のサポートもしています。例えば、ベルリンには別の免疫学、人体免疫学の研究をしているチームがありますが、その研究のサポートもしています。科学という分野では、誰が研究テーマを出し、誰がサポートするのか、ということがとても重要なのですが、それは研究プロジェクトでは常にそうで、そのような場合のテーマは勿論常にウィルスです。まだ研究中なのは、そしてまだ明らかになっていないことは、どうして、アルファ株があそこまで感染力が強かったのか、というところです。デルタ株に関しては大体わかっています。分子的な説明がつくのですが、アルファに関しては、分子生物学的にも、分子ウィルス学的にも、その理解をするのがいまだに困難です。これはかなり長い間続いているプロジェクトですが、いまだに新しい面がみえてきています。それと同時に、研究試験のサポート、基本的に特殊な検査をしたり、通常のラボではできないような調査を請け負ったりします。この場合には、患者やコホートをオーガナイズしたりもします。そのように少し想像していただけるでしょうか。

チーゼック先生はどうでしょうか?

サンドラ・チーゼック 大きな違いはない、と言えるでしょうか。似てますね。私たちは二人とも免疫学者ではないです。私もウィルスの研究をしています。例えば、オミクロンとデルタの違い、であったり、いくつもの試験もしてきました。最新のものでは、老人ホームで免疫応答の研究をしましたし、宿主因子や治療薬に効果的なウィルスの弱点を探るべく日々探究しています。

ほかの研究所から何か、これは今後の研究に有益ではないか、というようなデータが出てくる予定はありますか?

クリスティアン・ドロステン 次に重要になってくるのは、オミクロンに対応したワクチンでしょう。ここでも何度も話しているとは思うのですが。今のところ、オミクロンワクチンを接種しても今までのワクチンと比べてそこまでのベネフィットはない、というデータがでていて、つまり、ブースターを今までのワクチンでするか、オミクロンワクチンでするか、という比較です。しかし、このデータもまだまだ初期のものです。アカゲザルでのデータも少しあるのですが、このサルは小さい動物ですが、成人用の容量のワクチンを与えられて比較的短い間隔で接種されていますので、この影響もあると思いますし、人間ではまた違うかもしれません。勿論、治験もされているところで、数ヶ月後には発表されると思われます。その結果は大変楽しみにしているところです。というのも、これによって、秋からのワクチン計画に影響が出るからです。そして、楽しみなのは、生ワクチンの治験結果ですね。これは今後長期的にも実践的に大変重要になってくるものです。

もう少しかかりそうですよね?

クリスティアン・ドロステン まだかなりかかると思います。これは私たちが研究していることではなく、私たちの研究は、技術的な発展につながる分野のものです。例えば、循環するウィルスのウィルス量を調査し、遺伝的浮動が今後どのように変化していくのか、ということを見極めることですが、これもかなり技術的には特化した分野です。そうですね、、例えば、自動車業界に、「業界での新しいことは何ですか?」と聞いたら、「電気自動車」と答えるのではないかと思うのですが、企業のなかには、何か別のセンサー、車のどこかの部品で名前も一般人は知らないようなところの開発をしているところもあるでしょう。そのような開発もかなり大掛かりなものですし、その企業はそこに特化しているわけです。さまざまなレベルがある、ということです。

ちょっと、我慢ができないので言いますが、、最終回でも、先生が車の比較を出されたのは最高です。笑 チーゼック先生、先生はどうでしょうか?

サンドラ・チーゼック 生ワクチンと、適応ワクチンについてはもう十分だと思います。免疫の持続期間、というものが重要になってくると思われます。どのくらいの間隔と頻度でワクチンを打っていかなければいけなくなるのか。ブースターは必要なのか、ある時点で必要なくなるのか。そして、私が知見としてみたいのは、Long Covid関連です。頻度はどのくらいか。そのメカニズムと治療法です。これを解明する研究がどんどんでてくることを望みます。とはいっても、直接は私は関わっている研究ではありません。別の研究チームの研究です。しかし、新しい知見は出てくると思います。

パンデミックが落ち着いてきたら、、数ヶ月後に夏になったら、、そこからもコロナの研究は続けられるのでしょうか? ドロステン先生は、勿論パンデミック前からコロナウィルスが専門でいらっしゃいましたが。

クリスティアン・ドロステン 私には他に出来ることがないですからね。笑

SARS-CoV-2の研究を続けられるのでしょうか?それとも、また他のコロナウィルスの研究をされる予定ですか?

クリスティアン・ドロステン 今、ラボではMERSの研究をしていますが、、これも以前からしていたことです。

チーゼック先生、先生はどうですか?先生もそろそろまた、通常の、、と言ってよいのかわかりませんが、通常業務に戻られますか? 肝炎など、ですが。

サンドラ・チーゼック 勿論です。その研究の支援を受けていますから、肝炎ウィルス、例えば、D型肝炎、C型肝炎の研究を続けて新しい知見を集めていかなければいけません。そういう面では少し通常の研究に戻る、と言えるかもしれません。とはいっても、SARS-CoV-2はまだまだ数年は研究の重点にはなるでしょう。

少しだけ話がそれましたが、、チーゼック先生、先ほど、ワクチンの効果が得られないハイリスクグループが存在する、というお話でした。病院で勤務する人から聞いたのですが、これは医療面でも大きな問題であって、今後のテーマだと言うことで、ハイリスクをもっと細かく分類していって、どのようなプロフィールが当てはまるのか、例えば、治療法であったり、予防面で、です。このポッドキャストでは、経口治療を取り上げたことがありますが、外来での治療方法、診療所でも治療可能で処方できるものなのか、その体制は整っているのでしょうか?

サンドラ・チーゼック 地域によってかなりの差があると思います。とてもよく整っているところあれば、、大都市などはそうだと思いますし、感染学などの設備が整っているところです。しかし、少し郊外になるとまた困難だとは思います。医師が薬を処方したり、モノクロナール抗体での治療をするには、どの薬を、どの抗体をどのような患者に使うのが適切であるか、というところを熟知している必要がありますから、そこにはかなりの差があるのは当然のことだと思います。

モノクロナール抗体が出ましたが、これは治療法でもあり、受動免疫としても使われるものです。つまり、自ら免疫をつくることができない場合に予防的に抗体を入れる、ということですが、これが最近行われ、ハイリスク患者にとっては希望が持てる展開になっています。 EMAは、モノクロナール抗体、同梱製剤のようですが、、これを、長期間、数ヶ月に渡る予防としての使用を承認しました。これは、ワクチン応答が十分ではないハイリスク患者にとってこの高い感染状況を乗り切るための手段だ、と考えられますか?

サンドラ・チーゼック Evusheldのことですね。これを使うのは簡単ではありません。筋肉注射で、2本の注射をつかいます。このモノクロナール抗体のメリットは、半減期が長い、ということ。6ヶ月です。これを免疫不全などでワクチンの反応が得られない人たちに使う、というものです。臓器移植をした場合とかに多いのですが、そのような場合にはワクチンを打つことはできません。重度のアレルギー反応が出る場合がありますので。12歳以上で最低体重が40kgあれば、、これがこの抗体を使う条件ですが、、これを予防として使うことが可能です。データによると、自分では免疫をつくることができなくても、6ヶ月はかなり良い保護効果が得られる、と。これは勿論、4回予防接種をしても効果が得られなかった人たちにとっては大変朗報です。ただ、言っておかなければいけないことは、モノクロナール抗体というものは、新しい変異株が出てくると問題が出てくるものだ、ということです。変異株によって、効果が全くなくなる可能性がある、ということはいままででも明らかになってきたことです。アメリカのFDAは、BA.2が優勢となってきた地域に関しては、あまり効果がない、として使用をまた制限するように、としています。。それは突然起こり得ることです。しかし、勿論、これはハイリスクを守る、疾患時のリスクを大幅に削減するためにも大変大きな進歩だと言えると思います。

しかし、Evusheldにはまだオミクロンでのデータがありませんよね?イン・ビトロだけですよね?

サンドラ・チーゼック そうですね。BA.2に対しては効果があり、BA.1にはあまりない、というラボのデータがありますが、BA.2が優勢になってきていますから、そちらの効果があれば良いでしょう。しかし、ウィルスは変化していきますし、運が悪ければまた数週間、数ヶ月後にはまた状況が変わってしまう、ということもあり得ます。

小さな希望の光ではあります。数多くの医薬品が短期間で開発されてきましたが、113回のポッドキャストのなかでさまざまなCovidへの効果が期待される治療薬、ワクチンを取り上げてきました。この2年間で、驚きの知見、発展などはありましたか?

クリスティアン・ドロステン 驚いた知見はたくさんありました。私としては、変異株に特に驚いています。このようなツールをもって、ウィルスの拡散を追跡し、カテゴライズし、この規模のパンデミックを経験したウィルス学者はいままでいなかったわけですが、、ここまでの速さでウィルスが変化する、というのは思ってもみなかったことでした。初めの免疫回避なしでの変化もそうですし、今の免疫回避での変化も同様です。これには驚きの連続です。何か1つの研究が画期的だったのではなくて、この全体のプロセスがつくりあげたものでしょう。

チーゼック先生はどうでしょうか?

サンドラ・チーゼック 似たような感じですね。ウィルス学的に一番驚いたのは、教科書には、「コロナウィルスはC型肝炎ウィルスなどと比べるとそこまで短期間で変化をするウィルスではない」と書いてありますが、かなりの速度のさまざまな変異株ができて淘汰していった、というところです。いまだに、驚くべきことだと思っています。みなさんはどうでしたか?どこに驚きましたか?

シュールマン 私はこれだけ早くワクチンが完成した、というところでしょうか。こんなにはやくできるとは思っていませんでした。

へニッヒ 私は、人々のリアクションと向き合ってきて、コミュニケーション、というのは私たちの専門分野でもあるのですが、、やはり、ワクチンに対する不信感、というものを持つ人がいる、というところに驚きました。反ワクチン派、というものが存在する、ということは知っていましたが、ここまで大きなものだとは思っていませんでした。コミュニケーション面で起こったミス、というのも今では少し理解もできます。

この2年間で先生方の生活にも変化があった、と思います。公で発言する立場になった、ということで、厳しい批判を受けることもあったでしょう。どのような変化がありましたか?

クリスティアン・ドロステン 私的には、また徐々に普通に戻ってきたのではないか、という印象はあります。大変良い傾向です。道端で罵倒された時期もありましたからね。気持ちの良いものではありません。しかし、世間というものは、忘れっぽいものだ、とも思います。 

チーゼック先生はどうでしょうか?

サンドラ・チーゼック 私はドロステン先生のように酷くはありませんでした。全体的に思ったことは、どんなにはっきりと明確に言っても、誤解したい人は誤解をする。悪いようにとる人はいるのだ、ということです。これが、私がどちらかというと、書式でのインタビューをライブインタビューよりも優先したい、という思った理由でもあります。というのも、耳から入る方が誤解が大きいように思ったからです。

クリスティアン・ドロステン 私もそのように思いました。ソーシャルメディアでもそうですし、フォーマルなメディアでもそうですが、そのなかでとても影響力がある人物が存在します。こちらはできるだけ深くその分野と向き合おうと思っている時に、そのような人たちは水面を叩いてできるだけ多くの人に水飛沫をかけて濡らすことだけを考えている。水のなかには潜らずに、です。どのくらいの深さが実際にあるのか、ということなど、そのような人たちにとってはどうでも良いことなのです。

良い例えですね。 これでもう最後の質問となってしまいました。私たち素人は、この二年間で科学を理解する、ということを学んできました。先生方にとっても、科学コミュニケーション、という面で学びはありましたか?よりよく説明する方法など、気づきはあったのでしょうか?

サンドラ・チーゼック あったと思います。反応から学ぶことはたくさんありますし、話し相手からも学ぶことがあります。ポッドキャストは1対1の対話で学びは多いですが、どの部分をもっと詳しく説明するべきなのか、という点がはっきりしない場合もあるかもしれません。インタビューに答えることで得ることも多いですし、大学生と話す際にも同様です。

クリスティアン・ドロステン 科学コミュニケーションは大変重要なテーマだと思います。現代において、コミュニケーション能力も科学者にとって重要な術だ、ということが明らかになってきました。科学自身も、この部分も専門分野の一部だ、ということを認識し、定義をはじめとるするさまざまな指標を発展させていく必要があるでしょう。勿論、科学者全員がする必要はありません。そんなことをしたら、大変なことになります。では、誰がするべきなのか。そこが重要な問いで、そこにプロセスはあるのか。科学分野ごとに誰が発言するか、ということを決めた方が良いのか。その場合、どのように決めるべきなのか。ジャーナリズムとの兼ね合いもあります。今は、ジャーナリズムがどの科学者が発言するか、という決定権を持っていますが、選別の仕方はかなり主観的です。時には、メディアの露出度にっよって決まりますが、露出度が高いだけで実際にはそこまでの専門家ではなかったりする場合もあるでしょう。これはこのようなメカニズムであって、別のメカニズムにするには科学が決めていくべきだと思うのです。これは今の時点ではまだネガティブなことである、と残念ながら言わざる得ません。いままででも、数名、学者が、、場合によってはその分野ではなく科学者でもない人が登場したりしたこともありました。このような人たちが声をあげることによって、大きな影響、、悪い影響もあったことは確かですし、政治を混乱させ間違った選択に導いたのです。それは疾患負荷にも置き換えることができますし、やはり、重要な問題ではあります。これは、別に科学だけの問題、ウィルス学や免疫学だけの問題ではなくて、社会的、精神的、法的な、コミュニティ全体の問題であって、科学の不正行為、です。つまり、学者がデータや論文の捏造をしたり、悪用したりした場合には、これは明らか不正行為であり、これが立証された場合には大変重い罪に問われます。ドイツ国内の研究協会の中にもメカニズムはあり、そのなかで、科学的な不正行為を取り締まり、対策をするセクションによって違法した場合には制裁が課せらるのです。例えば、ドイツの研究協会からの支援が打ち切られる、などです。そのようなことはいままでにもあるのですが、コミュニケーション分野での科学的不正行為に関してはまだ定義がない状態です。すでにそのような不正行為が行われ明らかに立証できるものあるのにもかかわらず、そこの取り締まりは全くされていません。ここでも問いは、このようない機関、ドイツ研究協会などがこのテーマの規約を決めて、制裁対策などのメカニズムをつくっていくべきなのではないか、ということです。というのも、ここでは裁くこと自体が目的ではないからです。しかし、時には警告することも重要ですし、その可能性がなくてはいけません。それによって、公で発言する前にもう少し思慮深く考える機会が増えるのではないかとも思います。

科学ジャーナリストとしても、大変重要な議論だと思います。一番最後の質問になりますが、こちらは簡単な質問です。内容的にポッドキャストで一番大変だったことは何でしたか?専門分野をベースにお話ししていただいていましたが、定期的にポッドキャストをする、ということは専門ぎりぎりのラインでの話も時にはあったと思うのです。チーゼック先生、一番説明するのがむずかしかったことは何だったのでしょうか?

サンドラ・チーゼック 一番難しい、というよりは、一番興味深かったのは、アストラゼネカのワクチンが静脈洞血栓症を引き起こす、というテーマでしょうか。これに関してリサーチしたり調べたりするのは、、大変興味深く、私の研究にも関連するものであったからです。勿論、ウィルス学的にもそうですが、内科医療としても、です。放送の後で、私が昔お世話になった研修先の内科の先生から電話があり、とてもよく説明ができていた、と。きちんと内科医として勉強をしていることが聞き取れた、と仰ってくださったのがとても嬉しかったです。このように、以前の経験を活かすことができたのも楽しい経験でした。通常のウィルス学の研究ではそのようなことはほとんどありませんので。

私もとても興味深く感じていました。ちょっと暴露をすると、、私がなかなか理解できなくて頑固に食い下がったのを覚えていますので、、そこで覚えている、というのもありますが、最終的にはかなり濃い内容で満足のいく回になったと思います。しかし、私にとってはかなりハードな内容でもありました。ドロステン先生、先生はいかがでしたか?何か記憶に残っているような内容はありますか?

クリスティアン・ドロステン 細胞免疫応答の老化に関しての論文を覚えています。かなり詳細まで説明しましたので難しい内容だったと思います。いままで表面的にしか説明してこなかったことは、免疫の刷り込みについてです。ウィルスの進化のメカニズムについても、進化自体が大変複雑な内容ですし、それを一般の人にわかるように説明する、というのはなかなか困難な作業です。どこでどのような例を出すか、という点でもそうですし、メカニズムを一般的に理解できるように、という点でもそうです。ウィルスというものは、空中に浮かんでいる球体のようなものではない、という理解ですね。そこから話をつなげていくのが、なかなか困難な作業だと思います。

私たちも冷や汗をかいたことはありますよね。先生方がどれだけの労力をポッドキャストに費やしてこられたか、準備のために論文を読んだり本当に大変だったと思うのですが、先生方のおかげで救われた人たちがこのパンデミック渦で大勢いるのです。1000回の感謝の言葉をここで言う前に、編集部に寄せられたメールの一部を読みたく思います。
まずは、フライブルグの近くにお住まいのリスナーの方から「コロナウィルスアップデートは、私にとってパンデミックの道標、となるものでした。両先生は、私の嵐のなかの灯火であり、黒い森を超え、フライブルグまで照らしてくださいました。専門分野に精通しない者としては全てを理解することはできないしても、先生方のご説明により、複雑な関係性、そして、科学の知見が出来上がるプロセスがわかり、先生方の分析は、私の科学への信頼をより一層強めた、と言えます」   Mission accomplished と言えるでしょうか。もう一つあります。短いですが、「この番組は、パンデミックに置いて客観的な行動を取る上で土台となるものでした」「先生方はそうは思っていらっしゃらないかもしれませんが、私にとっては精神的な拠り所であり、それはこれからも変わりません」最後に「ウィルスの世界に誘っていただいてありがとうございました。数々の質問に返答していただき、勇気のある発言と時には楽しい例えを交えていただきました。たくさんのことを学んだだけではなく、不安を取り去っていただいたことに感謝しています。ここで学んだ関連性、ということを理解することを私も広めていきたく思っています」 これには、私も同感です。本当にたくさんのことを学ばせていただきました。今後、この火曜日がなくなることを寂しく思います。しかし、何かがあればいつでも連絡しても良い、との承諾をしていただきましたよね!もし、何か重要なことが起こったりしたら、、また戻ってきていただける、と。ちょっと、プレッシャーをかけておきますね。笑 本当にいままでどうもありがとうございました。またお話しできる機会を大変楽しみにしております。その機会がポジティブなものであるほうが良いですし、その可能性も勿論あると思っています。

サンドラ・チーゼック 私からも感謝を申し上げます。

クリスティアン・ドロステン 私からも、です。いままで素晴らしい質問をしていただきありがとうございました。





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