ドイツ@Sars-CoV-2 コロナウィルスアップデート(31) 2020/4/14(和訳)

話 ベルリンウィルス研究所 ウィルス学教授、クリスティアン・ドロステン
聞き手 コリーナ・ヘニッヒ

2020/4/14

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学校を徐々にまた再開する。 このような提案を、国立科学アカデミー・レオポルディーナがしています。 ロベルト・コッホ研究の発表によると、今の時点で、感染者の半分が完治した、とのこと。これが、イースターの週末までの良いニュースでした。 私たちは、これからも新型コロナと共存していかなければいけません。対策をしなければ、また新しい感染者の数が増えていくことでしょう。 また先週末にいくつもの論文が発表されました。 そのなかでも、ウィルスの再活性化、という内容のものがあります。 それと、ハインスベルクで発表された、国内での集団免疫率についての発表が議論を呼んでいます。  今日も、ウィルス学教授、クリスティアン・ドロステン氏にお話を伺います。聞き手は、コリーナ・ヘニッヒです。

連邦政府は、制限対策中の違法行為については数が少なく、殆ど旅行者もでなかった、との発表をしましたが、私はイースターの期間中に、ハンブルクでは、いつもよりも多くの人が外にでている、という印象を受けました。 人混みを避けようと場所を選んでもかなりの人がいて、、、ベルリンのイースターはどうでしたか?

似たような感じでした。 私はジョギングに行ったのですが、、たくさんの人が通りを歩いていました。特に、公園などで。勿論、たくさん人はでていますが、私が見た限りでは、できるだけ距離をとろうと努力はしているようです。距離をとりつつも、お日様にはあたる、という。

先生も距離をとりつつ、、、日にはあたれましたか。

勿論です。

ジョギング、スポーツについて、リスナーから質問が届いでいます。今、いつもよりもはるかに多い人達がジョギングをしていると思うのですが、スポーツ愛好家の間では、距離を5〜6mとった方が良い、と言われています。そして、真後ろではなく、少し斜めにずれて走ったほうがよい。 スポーツ時には激しく息を吐くから、というのが根拠のようです。 エアロゾル、です。 どのようにお考えでしょうか。

うーん、それに関しては、十分な知識を持ち合わせていません。図解図のようなものをみたことはありますが、、吐く息とエアロゾルの雲が風で拡がっていく、、、それでも、はっきりしたことは言えません。 しかし、野外では、ウィルス濃度が薄まる速度がはやいです。 飛沫感染と並んでエアロゾル感染の認識は高くなっていますが、野外でのリスクは高くはないでしょう。というのも、エアロゾルは、小さな飛沫が放出されて、空気中で乾燥してもっと小さな粒子になり、そして、この粒子が空気の流れがない場合は、そこに留まります。 野外では、空気が止まっていることはほとんどないでしょう。 そして、エアロゾル感染が飛沫感染と比べてどのくらいリスクがあるか、ということもわかっていません。

先生は、ジョギングのときに、やはり距離をおきながら走っていらっしゃいますか。

私も、他の人と同じように、条件反射はありますから、、自動的に距離はとります。 そして、公園などの人がたくさんいる場所も避けますし。 私のお気に入りで、東ベルリンにとても素敵な建物などがある道路があるのですが、そこは、広い道路です。

ここ数日、周りを騒がせた見出しがいくつかありましたが、その一つが、ハインスベルク論文、です。 正確には、ガンゲルト論文、と言わなければいけませんが、これは、新型コロナの感染者が多いガンゲルトという地域での調査です。人口は1万二千人、そこで、アンケートと抗体検査と行い、その結果を会見で発表しました。 これについては、先生も意見を求められていましたが、その際に、まずは、この結果の元となっている、論文をみてみないと、なんとも言えない、とコメントされていました。 どのような疑問点が残ったのでしょうか。

このことでは、もうすでに、公の場で多くの議論がされています。政治的な決断をするには、事実をはっきりさせることが重要、だと。このように、結果だけが発表された場合、どのような調査と分析がその背景にあるのか、ということがわからなければ、こちらも判断しかねます。 学術分野では、通常は、どのような方法や手段を使って、何を調べたのか、ということが明確に提示された上で、そのことに関する議論がおこなわれるのです。 それは、書類形式になっていて、どのように書くか、ということも決まっています。 何をいれるのか、何をいれてはいけないのか。それを徹底してやらなければいけません。 今のような緊急時では、発表を早めるための近道もあり、例えば、原稿を査読前の状態で、プレプリントサーバなどで発表して、情報を共有する。もしくは、自分のHP上で発表することも可能です。 簡易形式にしても別に構わないのです。 このように、大々的に発表されて、しかも、政治的決断に大きな影響を与えるようなポジションで発表されたのであれば、原稿もしっかり公開されなければいけません。 同じような内容の論文は他にもあって、それらの主旨のひとつに、未把握数の割合、というのがあります。 実際の感染者数の割合についての論文は、ドイツ国内に数多くありますが、このように公に発表されたことはいままでありませんでした。 研究が進められていくうちに、、他の研究者のめにもふれる、という感じです。

抗体検査の話題に行く前に、、、このように、地域を限定にした統計は、感染者の死亡の割合、疫学的には致死率と言いますが、、それは、全国レベルで応用することはできるのでしょうか。 特別なパラメーターを考慮する、などして。

このような数字は、、地域、、、州ごとに全く違います。 それは、州ごとに調査方法が違うのと、PCR検査の数をとっても違いますので、ここで、インターナショナルな数値との比較をしようとしても難しいのです。 2つのパラメーターがあって、致死率と感染死亡率で、致死率は、感染者として把握された数のなかから、何人死亡したか、という数で、世界中で、この数はPCR検査での結果に基づいています。 感染死亡率は、実際に感染している人のなかで死亡した割合、で、これを知りたいのですが、実際の感染者を把握できないので、、、わかりません。 この、、そうですね、、この差を、、隠れた未把握数と言って、本当のところ、どのくらいの人が感染しているのか、ということですが、ドイツ国内でも地域によっての大きさ差があります。 西ドイツと東ドイツの差はありますし、ノルトライン=ウェストファーレンと、、どこでもいいですが、、、メクレンブルク=フォアポンメルンの、、では、PCR検査で把握された感染者数の公の数字も違いますから、致死率も異なりますし、死亡率などはわかりません。 基本的には、このようなエピデミックが長引けば長引くほど、この差というのは縮んてきます。 それと同じように、ドイツ国内でも差が狭まってきている数値があって、それは、年齢分布です。 はじめは、若い中年層が多かったのですが、今では、少しずつ、高齢者に移っていっています。このように、偏りがとれて、なだらかになって、まんべんなくなっていきます。 それと、地域の差も同じです。 その段階になって、はじめて、ドイツの致死率をだせるようになりますし、それまでの感染状態の分析がひと段落したら、、、これは、抗体検査で調査しますが、それがでるようになったら、い全体の感染死亡率を計算することができるのです。初期の段階では、地域ごとの差が大きすぎますし、調査の規模が小さければ小さいほど、地域が狭ければ狭いほど、そこから出てくる数字は参考にはできません。 この点に関しては、ガンゲルトの著者もわかっていると思うのですが、、、少なくとも、後の報道では、この点を強調されていました。 ドイツ全体に当てはまるデータではない、というところ、です。 問題なのは、そこがその前の週の段階では全く言われておらず、強調されていたのは、事実を追求し、政治に何が正しいのかを掲示する、という点でしたので。そのような主張では、ドイツ全体のデータである、という印象ができてしまいます。

よくある、クエスチョンマークがついている数値ですね。 その他にも、出回った数値は、ガンゲルトでは14%が抗体を持っている、というものですが、そのことに関しても、先生は、これを判断するには情報が足りなすぎる、とおっしゃっていました。ここで、どのような方法がとられたのか、というのをみていくと、、まずは、抗体検査、、このポッドキャストでもお話いただきましたが、エライザテスト、です。 ここでの問題点は、新型コロナ特定の検査方法ではなく、他のコロナウィルスの抗体にも反応してしまう、ということでしたが、ガンゲルトでは、99%の特定性がある検査方法だ、と。 これはどういうことでしょうか。

たぶん、、、まずは違うことから説明したほうがいいでしょう。 私が、ホイテ・ジャーナル(TVニュース番組)のインタビューでお話したのは、、(このデータを)疑問視しているのではない、ということです。 この論文を批判したくはありません。 批判するための材料がありませんから。 抗体検査がされた、ということでしたが、これは、免疫グロブリンGのテストで、この会社のエライザの機械は、ベルリンで検証されていますので、よく知っています。 ですが、、、問題は、確認の検査をしたのか、どうか、ということ。 もしかしたら、やっているかもしれませんので、批判めいたことは言いたくありませんが、この血清学的な検査しか行っていないのか、それとも、それ以外の検査もしたのか。 他の検査も必要です。そして、その技術的なところでの説明。 これは、この論文の内容とは関係ありません。 基本的に、エライザを使ってどのように検証するか、ということの説明ですが、この(エライザ)機械は、最近、新型コロナ用に開発されたもので、これを作っている会社は、以前からMERSウィルスのためなどに、技術的にはかなり似ている機械を開発しています。その機械では、とても丹念に検証作業、例えば、サイジアラビアの大大規模な調査をするためにつかいましたし、家族内での感染調査など、、数多くの調査をこの会社としています。 新しいコロナウィルスの場合も同じで、一緒に、検証作業をしました。何をしたか、というと、輸血用の血清を使った検査です。 これは、はっきりとしたる結果がでる方法で、結果は一定しています。というのは、直前に病気をした人は輸血できませんし、輸血の血は風邪の流行している月だけではなく、一年中集められます。 この輸血用の血清をつかった検証は1度きりでしたが、100件の検査のうち、1件だけ誤判定、偽陽性がでました。偽陽性とは、抗体がないのにもかかわらず、陽性反応がでることです。しかし、これを、、実際の国民でやろうとしたとき、、しかも、今の季節に、、そこでの、偽陽性率は高いであろうと思われます。今の時期には風邪が流行りますし、2週間前まではインフルエンザもありました。寒い時期には、普通の4種類のコロナウィルスに感染する可能性も高く、IgG、免疫グロブリンGだけではなく、IgM、免疫グロブリンMができている可能性が高い。 免疫グロブリンは粘着質の抗体で、ウィルスにくっつきます。 普通の風邪コロナウィルスに感染した場合、6週間〜2ヶ月くらいの間、この免疫グロブリンMが体内にできていて、SARS-Cov-2ウィルスの抗体検査が偽陽性になる。 今の時期に検査をする場合のリスク、私たちも今検査をしていますからよくわかっています、、2000ほどの検査をもうしましたが、そのなかで偽陽性になる割合は、今のところベルリンで約3%でしょうか。 しかし、この数値はあまり重要ではありません。 この誤判定を確認するために違う検査をするからです。 エライザテストをする際には、エライザからでてくる数値をそのまま表に書きいれたり、結果を依頼人に知らせるのではなくて、もうひとつ違う検査をします。中和試験です。ここでは、血清内の抗体をとりだして、細胞培養で、細胞がウィルスに攻撃されるかどうか観察するものです。 抗体ができているのであれば、この抗体が細胞にウィルスが侵入するのを阻止するはずですので、これは、とても実用的な方法です。抗体の確認の検証は、エライザテストをした後で、中和試験での陽性が確認された場合です。 もっと、掘り下げていくこともできますが、、、抗体の確認は、中和試験だけではありません。 丁寧にされた研究では、さまざまな追加試験がおこなわれます。サウジアラビアでのMERSの研究では、偽陽性になった場合に、原因は、風邪コロナウィルスの免疫グロブリン、IgGや、IgMではない、ということも検証できています。 調査が比較的小規模の場合は特に、このように偽陽性の原因をつきとめることができます。

クロスチェック、ですね。

そうです、クロスチェックをします。 勿論、どのくらい徹底的にするか、というところは、論点でしょう。 そこまでの検査をしないで、中和試験だけでも十分だという見方もあるでしょうけれど、どこまで徹底して対比しているか、というところで論文の結果内容の質に差がでるのです。論文を判断する際に、何重もの試験を重ね、徹底的な検証が行われている論文なのか、それとも、そこまで徹底はしていないけれど、大規模な数なのか。 その場合も、データとして使えるときもありますが、このように研究者が各自、判断と評価しながら議論していきます。 しかし、そのためには、どのような方法で何をしたのか、何をしなかったのか、どこを省略したのか、ということが説明されていることが前提なのです。 どのような試験方法であっていいのです。それをきちんと説明しなければいけません。 全てがスピーディに行われる、現在において、でも、です。 今、その説明を、、、待っているところです。 ここで、、、もう一度、念のために、言っておきますが、、私は、この論文を批判したいのではありません。しかし、はじめから、現在の状況の把握に大変大きな影響を及ぼす発表内容でしたし、なによりも、政治的判断の根拠として使われようとされていた、このデータをもとに、政治的判断がされようとしていたわけですから、、、、はっきりとさせなければいけません。

一般的な抗体検査において、クロスチェックや微調整は、医療スタッフの場合などは重要なポイントだと思いますが、大規模な調査の場合はどうでしょうか。

これは、、それぞれです。 血清検査でも異なる結果がでるのです。 輸血バンクなのか、一般募集なのか、でも。 例えば、同じ肝炎ウィルスでも、そうです。 どのような患者で試験するのか、という背景を理解しなければいけません。 私の見方はウィルス学的ですが、疫学的な視点もありますし、論文形式も様々です。 平均値から感染の未把握数をだしたいのであれば、独立した個別の人たちなのか、それとも、家族なのか。 そして、志願者なのか、ランダムなのか。 というのは、家族内で感染する確率は高い。なので、家族構成員の抗体は、普通の場合とは違うカウントのされかたをします。 どのような修正ファクターがよいのか。 これは、細かい統計の調整です。家族の抗体結果は1つだけとカウントするのも、全員カウントするのも両方理想的ではありません。 例えば、抗体検査の募集があります。 これは、とても普通の反応ですが、興味があるひとと、ない人がいます。 もし、私の周囲に陽性のひとがいたなら、検査をしてもらいたいので行きますよね。自分も感染してるかも、と思うでしょうから。 でも、全く、いままで何も関係がなく生活していたら、、たぶん、行かないでしょう。 このようなことも、結果に影響を与えるかもしれない。定かではありませんが。しかし、このようなことも、常に疫学的な調査では議論されます。 もちろん、ボンの研究者もこの点は考慮した、とは思います。そして、もう少し修正をしたら、インターナショナルの学術雑誌にも発表することができる内容になるでしょう。新しい情報は常に興味深いですし、まだこのような内容は発表されていませんので。 しかし、通常であれば、まずは、他の研究者が分析できるようなかたちでまとめる。 そこから、政治的な判断データにする、というのが順番です。

例外的な状況ですよね。ボンの研究グループから、これから説明があるのでしょう。 少し、理解を助けるために、短く質問させていただきますが、、、先ほど、IgG とIgMをさらり、とおっしゃっていましたが、これは、抗体の種類でIgMははじめにできる抗体で、IgG、免疫グロブリンは免疫の確認に必要な抗体、ということで正しいでしょうか

IgMは、感染後に一番はやくできる抗体で、今回のSARS-Cov-2感染では、IgGよりそこまではやくはありませんが、他のウィルスの感染では、数週間前につくられます。

他のコロナウィルスでは、でしょうか。

うーん、、そうとは言えません。他のコロナウィルスでは、IgMを初期の発見を目的とした検査に使う意味はあまりありません。IgMは、ただつくられるだけなので。 IgMがはじめにできて、IgGがそのあとでつくられ、IgMは、ウィルスに付着しますが、そんなにぴったりとはあわない。未熟です。IgGはもっときちんとフィットする。それも、免疫が進むにつれてもっとフィットしていきます。成熟していくのです。そして、長く持続します。 IgMは、6週間〜2ヶ月くらい、もう少し長いこともありますが、、、教科書で確認しないでくださいね、笑 そこには3ヶ月、と書いてあるかもしれませんし、、 感染症の種類では半年も持続かもしれません。どちらにしても、短期間のものです。IgGは長く持続します。ウィルスの種類によっては一生残るもありますし、コロナウィルスの種類では、3〜5年、SARS、MERSなどもそのくらいです。 しかし、これは、抗体が確認される期間、ということで、その後でも、免疫記憶が残っていれば、そこから抗体をつくることができるので、免疫が全くなくなるわけではない場合も多いですが、それでもどの程度の免疫が残るのか、、、ということはわかりません。 新型コロナもわかりませんし、他のコロナウィルスでもそこまではわかっていません。

少し前の質問に遡りたいと思うのですが、検査、先ほどは抗体検査、そして、PCRも少し出ましたが、週末、PCRについての報道がありました。 完治した患者が退院後に再度陽性だと診断された。抗体検査、ではなくて、ウィルスが検出された、ということですが、ウィルスの再活性化、というのはあるのでしょうか。 ミュンヘンケースでも調査されたと思いますが

これは、もうすでに話し合われていることで、、このポッドキャストでも論文取り上げたと思います。 今、またそのことが話題になっているのは、中国の論文がいくつか発表されたのと、韓国の保健省からの発表があったからです。それは、、このようなケースです。 患者が陰性確認によって完治したと判断されて、退院した。数日後、3〜4日か、7日、そのくらい後で、もう一度検査をしたら、陽性反応がでた。PCR検査で、ウィルスが検出された。 これは、再感染したのか、完治したのに免疫ができていなかったのか、ウィルスが再発したのか、、、なんども再発するウィルスはあります。ヘルペスウィルスなどですが、、、新型コロナもそうなのか。 残念ながら、いまのところ、様々な方法によるウィルスの排出の経過を記録した詳しい学術文献の数が少ないのです。喉からとる、肺からとる、もしくは検便、など、ウィルスが検出される、とわかっている方法で、病症の進行経過での変化などの内容が記述されたものがほとんどない。 私たちは、一度だけ(ミュンヘンケース)で調べました。この論文は公開されていますから、これをデータとして使うことはできるでしょうけれど、ここで、PCR、ポリメラーゼ連鎖反応の限界をみることができます。 病状の最後のほうで、、、患者が完治にむかっている段階では、ウィルスの検出は可能ですが、数日間反応がでて、またでなくなって、またでて、、ということがおこったりします。 反応限界値が上下するのです。 統計的な現象です。 PCRでは、検査に必要な分量、というものがあって、ウィルスが存在しても、テストとして読み取ることができない。統計的に、このようなことが一定の確率でおこります。 例えて説明するならば、、、ここに池があったとします。そこに、金魚が泳いでいます。 そこに金魚がいる、ということは明らかです。そこの水をバケツで汲んだとしましょう。目隠しをして。 バケツのなかに金魚が入っている場合もあるでしょうが、入っていない場合もあるでしょう。入っていなかったとしても、金魚がいない、という証拠にはなりません。

ということは、PCR検査で反応がでない、という場合もあるわけですね、本当は感染しているのにも関わらず

金魚と池の例をまた持ち出すと、、、まずは、たくさんの金魚がいます。バケツで汲んだ時に金魚が入っていますから、あぁ、ここには金魚がいるんだな、と確認できます。 しかし、段々と金魚の数が少なくなっていったら、、病状が進行するとウィルスの数は少なくなっていきますから、、その段階では、バケツで水を汲んでも金魚がはいっていないかもしれない。このようなことが、2回続けておこることも考えられます。2日続けて。 ここで、2日続けて陰性だった。患者は治った、ということで退院。そこで、退院後にまたコントロールチェックや、研究などの一貫、もしくは、保健所が家族の状態を確認するために検査をした場合、、、また、ウィルスの反応が出る場合があるのです。 もう一度バケツで汲んだら、金魚がはいっていた、というわけです。そういうことだろう、というのが、私の見解です。 退院直後におこっていますから。なんども検査すると、また陽性反応がでます。 そこで、この問題をどう対処するか、ということですが、、 ドイツでは、このようなことはおこりません。 ドイツでは、そのような結果が出た場合、すぐにこれは例外かもしれない、と疑う習慣があります。 ドイツの保健省でも、あぁ、そのようなことはありうるよね、で済ませますが、アジアではそうではありません。公の機関には、もっと厳格な規則に対する姿勢があります。これ自体は悪いことではありません。 批判をするのではなく、これは、文化的な違いです。 こうだ、と決められたら、厳しくその通りにする。退院の基準として、PCR検査で陰性反応がでた場合、となっていますから、それが統計上の確率で起こる偽陰性だったとしても、そこの確認は行われません。 徹底的な規則の実行です。ですので、例外、ではなくて、結果として記録する。 2回検査して陰性、そして、もう一度検査して陽性、と。 そして、他の100件の検査結果も同じ様に記録する。 そして、一番最後に全てのデータが揃った時点ではじめて分析される。 そして、その記録をもとに論文を書く。 これが、ここでおこったことです。 この論文は、今、一般公開されて議論段階にはいっているところなのですが、これを、専門家ではなくあまり詳細を理解していない人が読んだとしたら、、、え、これは、まさか、再感染ということか! と思うわけですよね。そして、またそれが広まっていって、人々の不安を煽ることになる。 そして、専門家も、このウィルスは再活性化できないのか、と。  これが、今、幅広く専門家の間で起こっていることで、科学ジャーナリズムも例外ではありません。 しかし、そのなかには、客観的で冷静な記事もあります。 週末に、ツァイト紙に掲載された記事は、その点とても的確な視点でかかれていて、とても良いと思いました。 もちろん、この記事を書いたジャーナリストが言えないことを私は言えます。 私は、自分でだしたデータは知っていますし、学者として納得がいかない。実際にとった臨床結果から、病状経過の最後の段階での喉からのサンプルを使った検査では、偶然的な確率で陽性の場合と陰性の場合がある。 これは、私だから言えることで、ジャーナリストはもう少し違う言い方をしなければいけないでしょう。それでも、この記事のなかで行間を読むことができます。

先ほどの中国の論文は、武漢のもので、例えば深セン市の病院で、症状がもう全くなかったか、軽症だった場合ですよね

そうです。 多分、2つの論文をあげることができるでしょう。1つ目は、小さな試験で55人中5人にそのようなことが認められた、というものです。ここでは、技術的な面ではっきりとしないところがあります。 喉からのサンプル、と書いているところもあれば、気道から、となっている箇所もあります。ここからみて、いろいろと混同してしまったのではないかと思われます。 退院の際に、喉からサンプルを取った場合と、咳などをしていた違う患者からは喉ではなく、肺の分泌物から採取した、など。そのようなことは、起こる可能性がありますが、サンプルとしては種類が違います。 肺からのサンプルは退院後も長く陽性になることはわかっています。ウィルスに感染性はない、と思いますが。 私たちが発表したなかにも、細胞培養でのウィルス試験で確認した結果がのっています。 そのことからも、この時期にはもうすでに感染はしない、と思います。 感染力のあるウィルスを分離することはできませんでしたので。 この(中国の)論文では、どのようなサンプルが使われたのか、というところが明確ではありません。
もう一つの論文は、もっと明快です。 172人が、退院後も検査が続けられました。 そのなかの25人が、平均5,23日後にまた陽性でした。 メモをしたのですが、、ここでは、退院の条件が2回続けて陰性反応がでること、だったようです。 ということは、退院した人たちは、2回陰性結果がでていたわけです。 しかし、私たちもわかっているように、喉からのサンプルは一番はじめに陰性になります。 病状経過2週間目からは、ほとんどの患者の喉からは陽性反応はでません。しかし、便と痰からは、陽性反応がでます。 この25人のうち、24人は重症患者でした。 ここから理解できることは、重症患者、ということは、それだけ長く治療にかかっていたということですので、入院期間も長かったでしょう。 そのような長くかかっている患者の喉にはウィルスはいない、ということがわかっています。喉ではもう退治されているからです。 25人から確認された、とありますが、そのうちの14人からは、退院後、喉からのサンプルではなく、便から陽性反応がでた、と。 ここでも、たぶん、混合されたのでしょう。便からはかなり長くウィルスが検出されます。 もちろん、ここでもいっておかなければいけませんが、感染性があるウィルスではありません。 ここでは、死んだウィルス、ウィルスの一部、です。 そして、また喉のサンプルで陽性でた、と。 ここでは、咳とともに出てきた肺の粘膜が喉にあった場合もあると思います。咳をした場合に、肺からのウィルスが喉に付着します。 このように、どのような検査方法が、どの部分でおこなわれたのか、そして、長い間入院していた重症患者、というところで、この混合がおこったのでしょう。というか、たぶん、この著者も、ここのミスには気がついていると思うのです。 失礼な言い方になるかもしれませんが、アジア特有の徹底した姿勢でそのまま発表した。これは、文化的な違いです。これは、私が何年もアジアの研究者たちの疫学的な研究に協力したことがあるのでわかります。このような姿勢は、疫学データの信頼性にもつながりますから、共感はもてます。

最後に、、、金魚に戻りたいと思うのですが、、、これは、たぶん、多くの人も知りたいことだと思いますが、、、どのくらい、感染性はあるのでしょうか・どのくらいの間、隔離されていなければいけませんか。偽陽性、偽陰性反応は? このような疑問は、ウィルスの再活性化問題であがってきましたが、バケツで金魚をすくう確率と、水だけの確率は、喉のウィルス濃度と関係があるのでしょうか。 今日陰性で、2日後には陽性がでる?

そのような質問は、よく医師たちからきます。患者からも聞かれますが、、ひとりひとりに返事を返す時間はありませんが、、、誤結果が出た場合、一番はじめに疑うのは、、ウィルスの数が少ないのであろう、というところです。例えば、喉で。ウィルスの数が少なければ、反応がでるか、でないか、ということは、統計的な確率です。 そのほかにも、説明はあります。今、お話したのが可能性的には一番高いでしょう。 そして、これは、可能性的には低いですが、、、私は常に、2つ例をだします。 1つ目は、ラボでの検査ミス、もしくはサンプルミス。 例えば、サンプルを取るときのミス。 上咽頭でとっていなかった場合、などです。 鼻の穴の前のほうを少し擦っただけでは、サンプルとしては使えません。あとで、きちんとしたサンプルをとって検査すれば陽性反応がでます。
勿論、ラボでも、ミスはおこります。頻繁にはおこりませんが、サンプルが他のウィルスに汚染されることもあります。検査は一つずつではなく、100単位でおこなわれますから、ウィルス濃度が高いサンプルの隣に移ってしまうかもしれない。 ちゃんと蓋をしめなかった、などの人為的なミスもあるでしょう。機械のなかでもなにかおこるかもしれません。 自動的な検査機器は、きちんと検証されてはいますが、そのようなことがおこらない保証はありません。 これらは、技術的な偽陽性率としてカウントされます。完璧なラボはありません。ミスはおこります。
もうひとつの例は、生物学的にとても興味深い現象なのですが、、ある患者の肺内のウィルスが、ほとんどなくなったようにみえたのにもかかわらず、そのあとで、突然、ウィルスの量が増え、どんどん増え続けたのです。それと同時に、患者の病状はどんどんよくなっていきました。変な話です。普通に考えると、ウィルスの量が多い、ということは、病状が悪化する、はずです。しかし、実際は反対でした。 肺のなかに、あまり酸素が供給されない部分があったり、気管につながっていない部分がある場合、そこに痰などが溜まることがあります。 たくさんの死んだウィルス、、、生きているウィルスである必要はありません、、、が入っている痰がたまってしまう。 そのような部分に痰が入り込んで、うまく外にでていかない。 そのうちに、患者の病状がよくなって、息もしやすくなっていくと、循環もよくなりますから、咳とともに痰がでてくる。数日間に渡って溜まった、高いウィルス濃度の痰です。

感染性がない、痰ですね。

そうです。 感染性はありません。 ないのですが、検査では、高い陽性反応がでます。 そのようなケースは稀にあります。 臨床経験が多ければ多いほど、ラボの経験が豊富なほど、例外的なケースへの感覚も磨かれていくのです。しかし、医学で言われる様に、、、頻繁なことが一番多く、稀なことが一番少ない。

素敵な締めの言葉です。 このポッドキャストでは、すべてが白と黒にわかれるのではなく、決めつけることはできない、ということを学べます。 このポッドキャスは、これから、2日ごとに発信されることになりました。 今日もどうもありがとうございました。

ベルリンシャリテ

ウィルス研究所 教授 クリスチアン・ドロステン

https://virologie-ccm.charite.de/en/metas/person_detail/person/address_detail/drosten/


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