ドイツ@Sars-CoV-2 コロナウィルスアップデート(号外編)  2021/12/3(和訳)

物理学者 フンボルト大学 生物学教授 ディルク・ブロックマン
聞き手 ベーケ・シュールマン

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今日はまた号外的なポッドキャストです。昨日、連邦と州が感染防止対策の強化においての合意がされました。大きなイベントとワクチン未接種者への制約が行われ、予防接種のキャンペーンの強化、様々なところへのアクセスが2G規制になります。これらの対策がどのくらい効果があるのか。予防接種者と未接種者への制約にどのような意味があるのか。パンデミックを加速させるものは何か。そして、パンデミックにブレーキをかけるものは何なのか。今日は、物理学者ディルク・ブロックマン教授とその研究チームが出したモデリングについてとりあげます。聞き手 ベーケ・シュールマンです。

フンボルト大学の教授であり、ロベルト・コッホ研究所にご勤務のブロックマン教授とお電話がつながっています。ブロックマン先生、現在の感染状況は厳しいものである、と言えると思うのですが、ここ数日の感染者数自体は減少傾向にはあるものの、専門家の間ではこれは統計の取りこぼしもあるだろう、という意見もあります。先生はどうお考えでしょうか?

そうですね。これは分けて考えるべき事であると思うのですが、全体の数値的には確かに登録漏れもあるかもしれません。しかしそれ以上に地域での状況、州によってかなりシチュエーションが異なります。高い発生指数なのはザクセンとバイエルンですが、その周りでも感染者が減っているところとまた増えているところが存在します。 平均的にみると横ばいであるようにみえますが、地域ごとにみてみるとそうでもないのです。バイルンのなかでもかなり減ってきているところもありますし、それと同時に別のところではまた増加しています。

ロベルト・コッホ研究所も現状の把握に苦労しているようです。全体的な感染者の減少傾向はあるものの、医療への逼迫、ラボへの負担も引き続きあります。先生はどのようにみていらっしゃいますか?

その点に関しての評価は私にはできませんが、全体的に横ばい傾向であったとしても、地域的な違いがありますので対策は引き続き不可欠だと思っています。確実に削減していくことが重要ですので、第2波に犯したミス、つまり、ソフトロックダウンを行なって横ばいになった状態で対策を打ち切ってしまう、その結果また感染が増加してしまう、というような同じ過ちは繰り返してはいけません。

先生は、パンデミックの初めからずっとモデリングをされていて、例えば、今対策をすることをやめたらどうなるか、などの試算をしていらっしゃいますが、今回、政治家たちが「第4波が来るなんて知らされていなかった。こんなにひどくなる、ということは誰も言わなかった」と発言しました。そのような事を聞くとショックではないでしょうか?

ロベルト・コッホ研究所は様々な試算を夏の段階で出していました。ここで言っておかなければいけないことは、モデリングというものは「これからこうなる」という予報ではない、ということです。ここが、批判されがちで誤解されているところでもあると思うのですが、モデリング、というものは、これからこうなっていく、こうはならない、というような予測予報ではありません。そうではなくて、様々なファクターを考慮したシナリオモデルの考察です。そのモデルのなかに現実的な可能性が含まれる、ということになりますが、そのなかに、デルタ株での感染が増加し第4波になる、という可能性もありました。実際のデータをベースとしたシナリオとして可能性があるのであれば、現実になる可能性も十分あるのです。それが夏の時点でもうすでに計算されていました。そのようなシナリオがあって、それが現実になる可能性がある。そして、その議論がされているのであれば、、勿論、必ずそのようになる、という保証はないにせよ、、可能性がある限り真摯に受け止めるべきです。そして、実際にそのようになって、、低い発生指数から4週間の間で急激な増加して、、そうなった時、夏の段階でシナリオの一つとして考えられていたことが現実になってしまった、という点ではショックなことではありました。勿論、もっと早い段階で手を打たなければいけなかった、という点では言わずもがな、ですが。

先日、今後の感染対策についての決断が下されたところですが、ワクチンに関してはまた詳しく後でお伺いします。まずは、接触制限についてとりあげたく思います。大きなイベントについてです。室内では最大5000人に限定されました。これは意味があることなのでしょうか?

人数的な制限もそうですが、%的に削減がされる、というところも重要です。というのも、感染の拡大的には2つの要因があるからで、まずは、接触の絶対数。平均接触回数です。そしてもう一つに、、こちらは忘れられがちですが、、接触の多様性です。これは一体何なのか、ということですが、これを説明すると、、私たちの1日の接触回数が皆同じだ、としましょう。そうであるとすれば大変均一な行動様式であり時間的にも均一に行動していることになります。しかし、1人はほとんど接触がなく、もう1人はものすごく接触がある、とすれば、、例えば、多くの人があまり接触しなくても、極わずかの人が多く接触する、という場合ですね、、そうなれば接触分布、というものが大変幅広くなります。これが接触多様度、です。接触は頻度だけではなくて、その多様度も重要なポイントです。この2つの点が同じくらいの比重で全体の感染拡大に影響します。ここから、接触を削減する、となった際に、まずは均一に接触を少なくする、という方法が考えられます。各自が30%、40%の削減をする。もしくは、別の視点からアプローチするならば、例えば大きなグループの接触を削減する、という方法をとることもでき、こちらのほうがより大きな効果を得ることができる、というデータも出ているほどです。同じように接触を削減するのであれば大きなグループの方が良い。例えば、100人が室内で集まる、としたら、そこでは10万通りの接触が行われることになりますね。100人が100通りの感染伝播経由を持つことになるので。根本的にです。これを50人にすれば、2500です。4分の1ですね。規模を半分にすれば、接触は4分の1になる。グループを3分の1にすれば、接触は10%まで削減できることになります。ですから、この「集団を小さくする」ということは接触の削減に適している、と言えます。それをこの、5000人、という規模で考えると、対策として何が期待できるか、という点では大変疑問です。勿論、2万5000人の替わりに5000人、と考えれば削減には違いないのですが、、兎に角、全体の規模を小さくすることが感染の経路を削減するという意味では重要なことです。

規模的に「このくらいであれば大丈夫」という人数はありますか?

それはありません。接触範囲はかなり幅広く分布しているものですから、「ここからはリスクが高くなる」という基準を設けるのは困難です。ですから、できるだけ大きな数での接触を避けるようにすること。ロックダウン中には、10人以内とか、5人以内などという規模で接触制限が行われていましたが、どちらにしても、もし私が感染していた状態で3人と会えば、3人全員に感染させてしまう可能性はあるわけです。特に相手がワクチンを接種していなかったりしたりすれば尚更そのリスクはありますが、それが30人になった場合にはリスクもさらに大きくなる。その事を常に念頭において行動することが重要だと思います。 この接触の多様度は夏の間に増加した、ということは実証試験からもデータが出ています。これは、行動様式、接触データの調査ですが、、

GPSを使ったものですか?

私たちは直接GPSのデータは取りませんが、研究協力機関から接触データ、1日にどのくらいの接触があるのか、というデータを提供してもらいます。それを州別に統計にしたり、です。そこから、接触頻度は勿論のこと、多様度も夏から上がって、今の冬の流行につながっている。それは去年の秋でも同じ現象が起こっていました。その時にもこの2つのポイントでの増加がみられています。

頻度に関しては、1週間でどのタイミングでどれだけ接触があるか、というデータを出されていますよね。いつに多くて、いつ少ないのか。その辺りをご説明いただけますか?

この接触頻度もみてみると、ここにも頻度と多様度の2つのポイントがあって、1週間全体の平均でみると横ばい傾向がみられますが、平日と週末とを分けてみてみると、平日の接触頻度はテレワークなどで削減されているものの、週末には、頻度と多様度の両方が増加傾向にあります。プライベートの域でレストランにいったりイベントに参加したり、、といった大人数での接触があるのです。

大体、そのようなイベントは週末に開催されますし。

大体週末ですね。そこでの増加があります。しかし、朗報としては、ザクセンとバイエルンのここ2週間のデータでは接触削減が明確にみられていて、それは週末でも同様です。これは危機感と意識の変化によるものだと思いますが、効果は確実に現れていると言えるでしょう。それで十分かどうか、というのはまだわかりませんが。

人々が自主的に自粛している、ということですね。発生指数が高い地域では、映画館やレストランに行くのを控えたり、、と自分を守る為の行動でしょうか。

それはそのなかの一部でしょう。接触頻度は、2回の接種が終わってから増えていきました。予防接種をしていれば守られる、という認識のもとに起こった傾向です。確かに、重症化からは守られますから間違ってはいないのですが、徐々に、予防接種をしていても感染する可能性があり、感染拡大につながってしまう、という事がわかってきたわけです。勿論、確率的には低いですが。これに関してはまた後ほど触れます。私もそうでしたが、夏に2回目の予防接種を終えたら、また日常が戻ってくる。自由に行動できる、と思っていました。このデータでは、予防接種者と未接種者の区別はできていませんが、これも大変大きな要素の一つなのです。それが、予防接種をしていても感染する可能性があって、ブレイクスルー感染、重症化は大変稀ではありますが、、予防接種者の行動がその事実により慎重になってきた。自分の周りでも、「〇〇さんは予防接種したのに感染したらしい」などと聞くようになれば、危機感はうまれます。

予防接種者だとしても感染のリスクがある、と。

予防接種者同士での感染もあるでしょうし、未接種者にもうつしてしまうでしょう。感染は見境なく起こります。とにかくこの意識の変化が実証試験のデータからも読み取れるのです。

平日と週末での接触頻度ですが、例えば、ロックダウンの代わりに大きなイベントを全てキャンセルする。週末は家にいるようにする、というのは効果がある対策ではないでしょうか?

勿論、効果が大です。しかし、効果があるからといって全てそれを実行しなければいけない、ということではないと思います。今までの感染流行、、第1波は別ですが、、それ以降の第2波、第3波では、「この対策で十分だろうか」「こちらを少し強化しようか」「学校はどうするか」「テレワークにするか」「レストランはどうするか」「クラブはどうか」「買い物は大丈夫か」という点での議論があって、これらは全てファクターではありますが、このなかで重要なファクターはどれか、という考察がされてきました。そのなかで、特に厳しくしなくても大丈夫なファクターはあるのか。実際にファクターを測ることは大変困難です。ですから、このような議論をするのは難しく、さらに、それぞれの分野に属する人たちは、「自分たちのところは安全だ!」と主張するでしょう。「私たちのところは感染防止対策も万全にしている!」と。ここが困難な点です。勿論、最小限に抑えることがベストなことではあります。しかし、それは、ミュンヘンからベルリンに車で移動する際にガソリンの量を最後の1滴まで正確に計算するようなものです。そんなことをする人はいないでしょう。ガソリンを多めに入れて、確実に目的地につくように用意しますよね。パンデミックにおいても似たようにしていく必要があります。完璧な対策を考えるところに莫大な時間をかけていてはもう遅い、ということなのです。勿論、最小限のことしかしない、というのも間違いです。第2波の時のように、横ばいになった途端に対策を解除して、直後にまた増加させてしまう、というような。そのような状態になってから、また対策を強化することになれば失望も大きいですし、そこからなかなか這い上がることはできません。ですから、少し多めに見積もって実行し、確実にR値を1以下に抑えていく必要があります。1以下にすればするほど、感染ははやく収まるのです。少ない対策でも少しずつ収まってはくるでしょう。しかし、ベルギーやポルトガルでもそうであったように、いくつかの対策を並行して行うことによって効果的に感染を抑えることができますから、そのようにしてく必要があります。

先生は、基本的にロックダウンをするよりも、、ミュンヘンから出発する際に満タンにするほうを取りたい、というご意見のように聞き取れますが、、

基本的なロックダウン、というのはあまりにも抽象的ですが、、

基本的に日常品のみの買い物とテレワーク、という意味で、です。

いままでのロックダウンでは学校も閉鎖していました。私は今、学校は閉めるべきではないと思っていて、、この感染をコントロールする鍵を握っているのは大人です。しかし、過去にはその責任を子供に押し付けてしまう、ということが起こってしまったのです。大人がしっかりとできなかったから、大人が我慢することができなかったから、買い物やクラブへ行くことや色んなことを諦めることをしなかったがために、子供達が学校にいけなくなってしまった。今は特にワクチンによる保護がないのでそこも問題ですが、やはりできることはしっかりとしなければいけないと思います。それは政治側からだけではなくて、各自がそれぞれ考えるべきことです。自分で何ができるのか。感染を抑え込むためにできることは何か。これは大変重要なことで、個人個人の責任も重要であることは、選挙の際とも同じです。選挙でも、個人がもっている票は1票で、それは億単位のなかの1ではありますが投票に行きますね。それが個人の責任です。接触制限には可能なところとそうではないところはあると思います。しかし、2G、2Gプラス、3G、などの規制、大きな集団での接触はさけて、特に未接種者同士の接触を削減する、、ここが感染拡大の大きなファクターになるところですが、、これについてはまた後で話します、、とにかく、接触を少なくすることが一番重要なポイントなのです。

一番重要な接触の削減ポイントはどこなのでしょうか? 先程、大きなイベントについては取り上げましたが、先生は2020年にも行動様式の分析をされていて、その際に夕方の時間帯の移動性の指摘をされていました。例えば、今、22時から朝の5時まで外出しないようにするなどの対策は効果があると思われますか?

そこの数値を出すのは困難ですが、移動性というものは確かに接触との関連性はあります。誰かに会う為に移動しますので。移動している車は全員が全員森に散歩をしにいくために車を走らせているわけではなくて、目的地にはほとんどの場合に人間がいます。それは買い物が目的であっても同じです。そこに向かって移動するのです。つまり、多くの人が移動する、ということはそれだけ接触が増える、ということになります。マスクの着用も大変重要です。先程の移動性の調査は部分的ではありますが、そこからも夕方からの移動性、特に大人数での接触が夜の時間帯に起こることがみえてきました。全ての接触が同じ、ということではなくて、室内での大人数での接触、例えばクラブなどと、プライベートな集まりであったり、自宅で友達数人と会う、というのではリスク度は違います。それでも、そこでも勿論、規模を小さくして接触頻度を抑える、ということは可能ですし、自宅でも10人招待するのではなくて3人にすることもできます。ここでも大きな違いがでますから、プライベートでの接触もそのように小規模にしていくことができるでしょう。そのように全ての領域で規模を削減していけば大変大きな効果が期待できます。

そこにもう一つのファクター、予防接種済みか未接種か、というのが加わります。最近のメディアでよく目にするタイトルに、「10のうちの8の感染が未接種者によるものだ」というものがありますが、割合的には全体の3分の1です。そのようなモデリングが出されていますが、モデリング、というものはパンデミックの初めの頃から耳にするようにはなったものの、理解するにはなかなか難しいと思います。グラフや図があれば少し理解もしやすくなるのかもしれませんが、とりあえず初めからご説明いただけますか?どのようなデータを元にしたモデリングなのでしょうか?

まず、この分析は学術的な研究調査で、今のところプレプリントサーバで公開されているものです。私のチームのベンジャミン・マイヤー等の論文で、これはモデルですが、基本的には試算です。感染状況を新しい視点から計算することを試みていて、様々なファクターを加えています。例えばR値は1以下でなければいけなく1以上であってはいけません。まずはこれは単なる数字です。数週間の間R値は1,2で、これは危険な域であって指数関数的な増加に繋がる数値ですが、ここではこれを、様々なファクター、、実証試験のデータのワクチンの効果率であったり、ワクチンの保護効果の低下率であったり、そのようなものを加えていって最終的にはどの要素がどのような感染状況下でR値に反映されていくのか、ということを割り出します。ちょうどケーキが4つに切られている、と思ってください。1切れ目は、ワクチン未接種者が未接種者に感染させる。2切れ目は、ワクチン未接種者が接種者に感染させる。3切れ目が、接種者が未接種者へ、4切れ目が接種者が接種者に感染させる場合です。この4つの感染伝播の可能性がありますが、この計算のなかでは、接触が同じ年齢層間では行われないことなども考慮されていて、、

若い世代のほうが高齢者よりも接触頻度が高いですよね

そうです。そのようなところも実証試験データから数値で入れることができて、データはたしか2005年のものだったと思うのですが、イギリスのデータがあって、ここから年齢層別の接触頻度が大変よくわかります。このような部分も入れていますし、重要なファクターとしては、ワクチンがどのくらいの保護効果を持つか。ワクチンの効果は約90%ですが、そのように計算をすると、R値の50%、つまり半分の感染がワクチン未接種者によって起こっていることがわかります。ケーキの一番大きな部分が、未接種者が未接種者に感染させるケースです。そして、全体の9〜10%、ケーキの小さなほうの1切れ、10等分されたケーキであれば普通の1個分くらいでしょうか、、その小さな1切れ分が、ワクチン接種者が接種者に感染させるケースです。それよりももう少し大きな1切れが、接種者が未接種者に感染させるケース、そして、未接種者が接種者に感染させるケースです。この研究をしました。この計算をすることによって、明確な図がわかるようになりました。よく、「ブレイクスルー感染があるから、ワクチンを接種していても感染するし、周りに感染させる」と言われていて、勿論、それ自体は正しいのですが、私たちが知りたかったのは、それがどのような割合で起こっていることであるか。そのあたりをきちんと計算で出し明確にする。それがベンジャミン・マイヤーの案でした。結果は、高い感染状況下において、全体の10%が予防接種者間で起こっていて、その他の90%は未接種者が関わっている。つまり、R値の90%が、ワクチンを打っていない未接種者が周りに感染させるか、もしくは、周りから感染させられるか。その両方だ、ということなのです。ここからも、ワクチンが個人の重症化を阻止する効果があるだけではなくて、全体の感染状況、パンデミックの加速にも影響がある、ということがわかると思います。未接種者が悪い、と言う人もいますが、ワクチンをしていない人たちが感染を受けてしまう側です。他の未接種者からもうつりますが、予防接種者からも、です。これも感染状況に影響します。この計算の要は、ワクチンの効果率で、これが低下すれば勿論数値も変化していきます。例えば、それによって予防接種者が予防接種者に感染させる率も高くはなりますが、その差はわずかです。未接種者の域に近くさせるためには、ワクチンの効果がほとんどなくなるまで削減されなければいけないでしょう。

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もう少し詳細をみていきたく思うのですが、先生は悲観的なバージョンも試算されていますよね。ワクチンの保護に関してですが、どのような数値を使ったものなのでしょうか。

様々なファクターが重要です。まずは2つの異なる効果率で計算していて、90%という高い効果率と、80%という削減された効果率です。これを接種率と年齢層別にみていって、例えば、0歳〜11歳はワクチンを接種していない年齢層ですし、その他の年齢層でも接種率と効果率は異なった分布状況ですので違う数値が出てきます。実証試験からのデータをもとにパラメータをつくり、時間とともに削減されていくワクチンの効果、そしてブースター接種による効果率の上昇も配慮されいて、ここが重要です。モデリングをする際に重要なのは、様々なシナリオをつくって結果検証の比較をする、ということですが、パラメータを変えて計算した場合に其々かけ離れた結果が出てくるのであればそれはデータとして意味がありません。しかし、今回の試算では、パラメータを上下させてもかなり安定したデータが出てきていて、結果はR値の大部分に、未接種者が関与している。感染する側、そして、感染させられる側の両方で、です。

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予防接種者の感染は無症状のことも多いですから、自覚症状がなく陽性確認もされないので、その取りこぼし率がこのモデリングに影響を与える、ということはあるのでしょうか?

それは大変重要なポイントです。このモデリングのなかでもそのような取りこぼしは配慮されていますし、他の要素も入れながら結果の安定度の検証をしていきます。モデリングでは絶対数から計算をしているわけではありませんので、様々な要素が重要になりますが、例えば、「集中治療が必要になる予防接種者が増えてきている」と発言した政治家がいましたが、これも、全体的な予防接種者の数が増えて絶対数からの割合で考えると当然のことではあります。

そこから、ワクチンが効かない、ということにはなりませんよね。

勿論です。ベンジャミン・マイヤーの案は、集団の規模とは関係なく、どのグループがどれだけR値に影響を与えているのか、というところの検証です。全体のR値はどちらにしても1以下に抑えていかなければいけませんので、先程もいったように、全体がホールケーキだとすれば、その割合が変化するとどのような影響があるのか。例えば、予防接種者の割合を70%から90%にした場合にケーキの分担がどう変化するのか。それらの仮説の比較をした際には、90%になった場合にはR値が明確に1以下に下がり、未接種者が未接種者に感染させる割合が劇的に削減され、予防接種者が感染させる割合が必然的に増えます。「増えるのであれば、全く意味がないじゃないか」という人もいるかもしれませんが、そうではなくて、これは全体の割合から出た割合ですから、、

ほとんどの人が予防接種をしている集団からの割合、ということですよね。

そういうことです。

モデリングをみてみると、2Gのほうが3Gよりも効果がある、というようにみえますが。

そうですね。2Gというのは、予防接種をしているか、感染を回復したか、のどちらかで、免疫がある、ということが前提ですから、この場合、免疫を持たない未接種者が関与している感染活動が行われません。ワクチンの効果率とは無関係に、です。勿論、きちんとワクチンパスポートのチェックが行われている、という条件下での話ですが。RKIのヴィーラー氏も言っているように、この2G規制は効果があるものだが、きちんとしたチェックが行われないと意味がない、と。それがいい加減に行われてしまうと、実際に大きな集団のなかに未接種者が紛れ込んだ場合に感染源になる可能性があります。勿論、予防接種者間でも感染伝播はあり得ますが確率としてはずっと低いのです。ただ、2G規制を実行した際にも、感染リスクはゼロにはなりません。その点を理解しなければいけないのですが、ここが議論の際にも不明確で誤解されている部分でもあると思うのです。いままでも、抗原テストに関しても、感度がどうだ、精度がどうだ、100%安全なのかと言われて行きましたが、これは、黒か白か、という話ではないのです。再生産値をゼロにすることは不可能です。しかし、1以下にすることは可能です。2G規制で、予防接種者と感染回復者だけに絞ったとしても、絶対にそこで感染が起こらない、という保証はありません。感染は起こる可能性はあります。しかし、確率的にずっと低い。ここが重要なポイントです。これは、シートベルトをしていても交通事故にあう可能性はある、というのと同じ理屈です。しかし、リスクの削減という面では大変大きい。そういうことです。

先生は、今の状況がワクチン未接種層によるものだ、と分析されていますが、ワクチン義務が解決策だ、とお考えでしょうか?

ワクチン接種の隙間部分は大変大きな問題です。どのくらいの問題か、というと、それを補う為にはかなりの接触制限をしないと足りない、ということです。この隙間を補う必要はない、このままの接種率で良い、というのであれば、誰もがステイホームをして外部との接触を断つ必要が出てきます。

このまま数ヶ月間、ということですよね。

ずっと、ということですね。予防接種の隙間はゼロが理想的です。その部分が少なければ少ないほど制約をする必要がなくなります。そのような例はヨーロッパのなかでもありますが、ドイツ国内での比較をしてみても、接種率が高い州の感染状況と、低い州のとでは差があるのです。詳しい数値は出ていませんが、明確な相互関係がここにあります。ですから、予防接種の隙間は埋められなければいけません。厳しい接触制限をしないためにはそうするしかないのです。そして、この点をまだ言っていなかったと思うのですが、そうしなければ、どれだけの犠牲がでるか、ということです。ここも忘れてはならないところで、現在、集中治療病床はいっぱいで医療に大きな負担がかかっています。Covid患者は別の病院に搬送されなければいけない、という状態です。私は医療については詳しくはわかりませんが、それでも本当に大変な状態になっていることは理解しています。大切な手術が行えなくなったり、、状況は深刻です。3つの柱をあげるならば、1つ目はブースター。これはワクチンの保護に含まれますが、次に、未接種者の接種を進めることで予防接種の穴を埋めること。そして、接触制限です。このなかで一番安定しているのはワクチン効果です。これが一番長期に渡って効果が持続するものです。接触制限は、数週間したとしてもまた緩和すればまた元に戻ります。それに対してワクチンは、半年後にブースターしなければいけないにしても、、長期間続く効果なのです。手間もかからず、リスクも低い。そして効果は絶大です。ウィルスにとっては災難ですが。笑 ウィルスは、、これは自然の摂理ですが、、感染が可能なところを探して増えるわけで、それが今、予防接種での免疫を持たない未接種者層に集中している。ドイツにおいて、ワクチンの義務化、というのは、長い間タブーとみられていたことです。しかし、現在の状況、現在の医療現場の状況からみても、この「義務」というのは、社会の一員である私たち一人一人が、周りがCovidに罹らないようにする義務でもあり、もし、私が誰かに感染させてしまって、、その人が重度の疾患になって、、死んでしまった、としたら。そんな事は考えたくもない悲劇です。ですから、連帯という意味でも、お互いのために請け負う義務、ということであると思うのです。自分のためだけの予防接種ではありません。私たち人間は社会性を持つ生き物です。接触なくしては生きていけません。そこをウィルスは利用して増えていきます。ウィルスはこの接触、宿主としての人間の存在なしには生きていけません。私たちは、独立した個人の集合体ではなくて、共同体なのです。その部分に入り込んでくるのがウィルスですが、それに打ち勝つためにはワクチンしかありません。現在の医療現場は過酷を極めています。そこで働く医療従事者は勿論のこと、そこで亡くなっていく人たちがいて、、、少し感情的な言い方になって申し訳ないのですが、、病院で働いている人の話では、集中治療が行われる時、、喉に呼吸器がつけられる時には、、コインの裏か表か、という割合での、生きて戻って来れるか来れないか、そういう状況です。そんなのは酷すぎます。なるべきではないです。それが起こらないようにやれることはあるのですから、それをしなければいけないのです。ですから、私の意見も方向的にはワクチンの義務化にあります。他に方法がないからです。代案はみつかりません。私が願っていたことは、、私たちが共同体として、ウィルスを共通の敵とみなし力を合わせて打ち勝っていこう、と協力しあうことでしたが、、それが無理であれば残されたみちは1つだけです。個人的にはそれを受け入れることをまだ困難に感じていますが、それでも、他の可能性をみつけることができないのです。予防接種の隙間を埋めなければ、延々とこの状態が続くことになります。繰り返し、繰り返し、これからずっとです。

予防接種者と未接種者の感染状況への関与割合をみていき、予防接種を完全なものにする、という重要性を理解しました。しかし、先日新しい困難が現れてきました。オミクロンです。オミクロンは速攻で懸念される変異株に指定されました。感染力の増加が懸念されていますが、これが重症化を引き起こすのか、軽度の疾患経過なのか、まだはっきりとしたことはわかっていません。免疫回避型の変異株だ、とも言われています。このニュースを聞いた時に先生のチームではどのような反応がありましたか?

研究チームの反応も、一般の人とは変わらなかったと思います。「あぁ、なんてことだ。また出てきたか」というリアクションですね。現時点では情報がまだ限られていますから、専門家、ウィルス学者とか、生物進化学など、ウィルスの系統樹の研究、シークエンジングからゲノムの解析をしてどのように進化してきた変異株であるか、という点での解明と、デルタ株、アルファ株との比較などの結果を待つしかありませんが、一部の国での急激な増加、今回は南アフリカでしたが、そのようなところでの爆発的な感染があれば、勿論、感染力が高い変異株なのではないか、免疫回避型ではないか、という心配は出てきます。しかし、それと同時に、このような変異株が出てきた、ということ自体は不思議ではありません。というのも、アルファが出てきて、デルタが出てきて、、デルタがものすごい勢いでアルファを追いやって、、今まで起こってきたことをみていくと、新しい変異株が出てくること自体は自然な成り行きでしょう。ただ、それがいつのタイミングか、というところです。免疫回避型が出てくるのもわかっていたことですし、もう今年の頭の段階でそのような変異株が出てくるだろう、という話はしていました。パンデミックの全体的な流れからすると、特に驚くべきことではないのですが、毎年、2回、大きな感染流行を繰り返さないためにも、やはりワクチンの義務化は考えていかなければいけない事なのではないかと思いますし、免疫回避をするのであれば、ワクチンの効果がどの程度有効なのか。場合によっては、毎年、変異株に適応したワクチンを打つ必要が出てくるかもしれません。世界中で、です。

この新しい変異株が他の国ではどのように拡大しているのか。はじめにみつかったのは、南アフリカとボツワナですが、11月30日の時点ではすでに11カ国で発見されています。その日に、先生のチームのモビリティリポートも発表されましたが、航路とウィルスの関係、どのくらいの割合で国外から入ってくるのか、という試算も行われていますよね? どのようにされたのかご説明いただけますか?

これは、パンデミック初期にも使われた方法なのですが、初めは野生型が中国にしかなくて、そこから世界中に拡がっていきました。今のグローバル社会においては、ウィルスの拡大はほとんどが飛行機での移動によるものです。太平洋を徒歩で渡る、ということはできませんし、ウィルスには足はありません。人間が飛行機に乗って移動する必要があります。ですから、飛行機が大変重要な役割をするのです。グローバルな世界では、航路はネットワークになっていて国と国を繋いでいます。AからBへの移動です。このネットワークは大変複雑ではあるのですが、もし、どこかで感染が起こって、、別にコロナである必要はありません、、私たちはエボラでも同じ分析をしましたので、、なんらかの疫病が発生した場合に、発生した国、今回は南アフリカですが、、そこからドイツに来るまでどのくらいかかるのか。南アフリカから出国する人数はわかっていますので。一昨年の2月は中国でした。そこから、他の国に入る割合はどのくらいか。イギリスとドイツとスペインでの比較、などというものが行われました。分析方法としてはその時と同じです。変異株は違いますが、計算の仕方は同じで、簡単にいうと、誰かがどこかの国から飛行機に乗れば、必ずどこかの国に到着しますね。その確率をだしていくのです。そこから、この国で次に感染拡大が起こるだろう、などという予測を立てていきますが、必ずしもその予測が当たるとは限りません。統計的にみると確率は低くはありませんが指標となるものです。これは、例えば、ボルシアドルトムントと3軍チームが試合をした場合に、必ずボルシアドルトムントが勝つという保証はないものの、かなりの確率で勝つであろう、という予測はつきますよね。それと同じです。

ということは、南アフリカから直接の到着便が多い国に拡がる可能性が高い、ということですね。

勿論、直行便が多い国もそうですが、乗り換え便もありますから、両方です。計算自体は簡単ですが、難しいのは大きなハブ空港の場合に、どのくらいの割合が乗り換え客なのか、どのくらいが最終目的地で空港から出ていくのか。そこが少し複雑ではあります。

分析結果はどうだったのでしょうか?どの国のリスクが高いですか?

結果は極めて明確で、まず、他のアフリカ諸国ですね。ヨーロッパでは、アフリカとのコネクションが根強くある国々、今、ちょっとリストのランキングが思い出せませんが、、これはエボラ熱でも同様でした。エボラでは、フランスやイギリスでした。ドイツもランキングに入っています。とにかく、南アフリカへの便がたくさん飛んでいる国です。

そこから、入国制限をしてウィルスを入れない、という対策をしたほうが良い国も出てくるのでしょうか?

うーん。これはパンデミックですから、どこかで新しい変異株がみつかった時点ですでに世界的な意味あいを持ちます。思いも寄らない展開になることもあります。この分析をした理由というのは、地理的に遠い国で起こっていることでも、グローバルな時代では「どこか遠くで起こっている出来事だ」と他人事で片付けることはできなくて、かなりの速度で近くまで来る。その事実を数量的に出すことによって存在するリスクを明確にすることが目的でした。

これからどのようなモデリングをされる予定なのでしょうか?例えば、オミクロンが30%、40%感染力がアップしていたとしたら、、どのようになっていくと思われますか?

いくつか大きなプロジェクトはありますが、そのメインとなるものは、そのような予測的なモデリングではなくて、現状の把握。つまり、今現在、どうなっているのか。どのような状態であるのか。そして、行動の要素です。そこから、ロックダウンは必要であるかどうか。移動性などの変化を分析していきます。平日と週末の違いなども現状を把握するには大変重要な情報です。とにかく、予防接種をして接触を少なくする。そうすれば、感染は収まります。簡単に言いましたが。私たちのプロジェクトで明確にしたいのは、どうして今このような状況になっているのか。社会の変化と原因の追求です。感染状況は、常に感染の元となるウィルスと、その宿主である私たちの行動様式の相互関係で決まります。そこで加速度も決まるのです。ウィルスだけが勝手に行なっていることではありません。一番の原因は私たちなのですから、そこの分析をしっかりとする必要があります。そのために、移動性の調査と、接触の調査を行いますが、先程も言ったように、予防接種者と未接種者の割合が変化するとどうなるか。ワクチンの効果が減少していくとどう変わっていくか。小さな子供達に予防接種をするとどうなるのか。現在はワクチンでの保護効果がありませんから。その他にも大きなプロジェクトとしては、コロナデータ寄付制度です。スマートウォッチなどからフィットネスデータを提供してもらうことによって様々な分析をもう2年ほどしています。対象コミュニティをつくって、Longcovidについての分析などもそうですし、PCR検査の結果、症状などを集めて、それをデータ寄付の内容と照らし合わせる作業もしていますが、データ寄付をしている人たちは基本的に若くて健康でアクティブな層が多いわけですが、そこでも長期に渡るなんらかの後遺症が出ていることがわかっています。またもとの状態に戻るまでに平均的に90日から120日かかるケースも多く、これはアメリカからのデータにも一致しますが、やはり、このような点もしっかりとみていく必要があって、このパンデミックの健康上の影響が来年に続かないようにしていかなければいけないのです。後遺症、という面で、ですね。このようなプロジェクトをやっています。

今までの対策の分析、オミクロンの出現など、それらを総合して、今後の展開について、先生はどのように感じていらっしゃいますか?

複雑ですね。良い気持ちではないことは確かです。抑え込むことができないのではないか、という懸念も勿論ありますし、、気分には波があります。様々な可能性があることは自覚していますし、オミクロンも心配です。感染力が増していたら、と。私が願うところは、、これは本当に私の希望、という意味での願いですが、、予防接種の隙間が埋まり感染を抑えることができる、ということ。ドイツだけではなくて、他の国でも同様です。そして、病院での状況がこれ以上悪化してしまうのではないか、ということも懸念するところです。

今日はお時間をいただきありがとうございました。











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