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国分寺でも砂漠でも爆笑は起こる【THE SECOND 2024感想】

 THE SECOND 2024 ガクテンソク優勝おめでとう!!!!!! 

 いやあ……、ほんっとに全部面白かった。ランジャタイが参戦するから見始めたのですが、彼らが途中で敗退してからも、熱を入れて最後まで見てしまった。(自分のお笑い歴については、過去記事参照

 東京選考会初日CBGKシブゲキでの観覧、32抽選会配信、ノックアウトステージ32→16、16→8、決勝抽選会配信、フジテレビ地上波の決勝、そして、ヨシモト∞ホールでの「オズワルドさんたら、もう! 5/22 ゲスト:ザ・パンチ、ガクテンソク」の配信(配信延長していて、5/29の12:00まで購入できます!!! 見ていない人はぜひ!!!!)まで、約4ヶ月間、駆け抜けた。

 M-1は、予選が膨大すぎて追いきれなかったが、THE SECOND(以下、ザセカと略す)は、配信でしっかりやってくれるおかげで、無理なく見切ることができた。まあ、配信だって買い続けたらキリないので、無理なく自分のペースで追うのが良いと思う。(自分も、全てのランジャタイのコンテンツを追うのは、既に諦めている)
 お笑いなんてたかが娯楽だし、生きている人間のコンテンツなんて、無限に増えるわけだし。
 ザセカについては、今回予選も全部見てしまった分、フジテレビ地上波決勝でのネタが、最後のザ・パンチとガクテンソクの決勝戦以外は初見じゃなかった、という損もあるわけで。漫才なんて大抵初見が一番面白いし。地上波の決勝しか見てないって人も、もちろんザセカ面白かったと感激していいわけです。逆に、羨ましさすらある。

 今回は、がっつり見たからこそ感じた、今年のザセカの総括を語れたらな、と思う。本当に良い大会だったので、次年度以降の盛況を願って、個人の一感想としてここに記しておきたい。

・ランジャタイ国崎だけ、勝つ気がなさすぎる

 2月2日(金)の選ザセカ考会初日、チケットが取れたので行った。完全にランジャタイ目当てだった。応援の気持ちはあったが、何が何でも優勝して! というよりは、とりあえず32組に残ってくれて、ノックアウトステージに進めたらいいなと思っていた。あと、賞レースで、ランジャタイがどういう戦い方をするのか、知りたかった。

 ランジャタイの漫才を生で観るのは、この時点で、2回目だった。1回目は、ここから約一ヶ月前の1月14日、ルミネtheよしもとでのWEEKEND寄席に、ゲスト出演していたのを観にいった時だ。(この時、国崎は右眉を剃り落としてから初の公の場であり、当時は向井秀徳との事情など、全くわからなかったので大変困惑した。また、吉本鎖国前でもあった)

 会場に入った時、既にTHE YELLOW MONKEYの『バラ色の日々』が流れていたと記憶している。フジテレビ地上波でも、テーマとして使われていた曲だ。(是非、流しながら、これからの文章を読んでくれると嬉しい)

 19時スタートで、休憩を挟みつつも、全19組ぶっ通しの2時間半。かなり骨太の漫才寄席だった。勿論、観客の笑いの量は選考の参考にはしているようだが、ノックアウトステージのように、観客による点数審査があるわけではない。
 スタッフによる他会場を含めた32組の選考方法の話はとても興味深かった。(有料noteですが、興味があれば是非)

 19組は、知らない芸人が殆どだったが、知っている芸人もいた。馬鹿よあなたよや、フルーツポンチ、ダイノジなども生で観られて嬉しかったが、容赦なく落ちているので、知名度は選考基準には関係ないと知る。ウケ量なんだな。その時点で、賞レースとして信頼できると感じた。

 さて、ランジャタイは、前半ブロックの最後、9組目だった。ロビンフット→どりあんず→ランジャタイの連続である。前の二組で楽しく笑って、さあ、いよいよランジャタイだ、と少し緊張する。

 ザセカは、1ネタ6分間である。ノックアウトステージや本戦では、6分30秒を超えると、減点があったが、選考会ではまだ点数を付けない。
 超過がどのくらい選考に影響しているかはわからないが、選考会では、6分を超えると、舞台後ろの照明が青く点滅し、6分半を過ぎると徐々に暗転していき、最後には真っ暗になるという仕様だった。

 ……国崎って、時間守る気あるんかな。
 2021のM-1決勝でも、ネタをしないというボケをして、廊下で終わろうとしていた生粋の狂人である。全部めちゃくちゃにしたいという国崎の発作は、M-1でも現れていた。
 伊藤も普段は国崎のことを全肯定しているが、賞レースになると、ちょっと目の色が変わる(だからと言って何かをするわけではないが)。ザセカの出場資格は、M-1に出られなくなった結成16年目以上の芸人であり、歴代の地上波賞レースで優勝していないことが条件である。いわば、売れていない芸人を救うという名目がある。
 そう考えると、ランジャタイは他のザセカエントリー勢に比べて、多少名が売れている。事実、ランジャタイが出るこの選考会は、他の日に比べて、チケットの捌けが早かった。

 既に売れているランジャタイがザセカに出る動機は、伊藤がチャンピオンになりたいからだ。
 じゃあ、国崎は?

 あのM-1 2021から既に3年が経っている。今のランジャタイは、こういうところで、どのような戦い方をするのか。
 一抹の不安を抱えて顔を上げると、ランジャタイの二人がサンパチマイクの前に立っていた。片眉のない国崎は、M-1の時のように白いTシャツを着ている。(ちなみに国崎は、やるネタによって、黄色ジャージかTシャツのどちらにするのか決めているらしい。自分の動きが見えやすいように色々考えているそうだ!)
 そして、ランジャタイのネタが始まった。

……。

……!?

…………。

………………。

 終わった…………。終わりやがった……。
 途中までは爆笑していたのだが、後半から記憶が飛んだ。

 ランジャタイのあとも勿論、10組の漫才師をちゃんと集中して見た。
 みんな、観客を笑わせるために手段を選んでいなかった。かなぐり捨てている。芸歴16年目以上、今までの鬱屈や苦悩を全部、全力で自虐して、笑いを取りにいっていた。人生の全部を賭けて漫才をしている。その強かさな人間力に、物凄く魅力を感じたし、爆笑した。
 2時間半の選考会、無事に全部終わって会場を出て、渋谷の喧騒を歩きながら、思った。

 国崎だけ、勝つ気、ゼロだったんじゃないか!?!?!?!?!?

 朧げな記憶を引き摺り出して、何が起こったのか思い出してみる。
 ランジャタイのネタは、
「国崎が東京で二輪の免許取ろうとしたら、何回跨っても京都で蕎麦屋に入ることになってしまって、蕎麦の代わりにイルカを提供したら国崎が三人に分裂して、みんなでカーリングしていたら、免許合格した」
という、(ランジャタイにとっては)いつも通りの漫才だった。平日の金曜日にわざわざ選考会にくる人など、お笑いファンでしかないので、みんなランジャタイのことは当然知っている。かなりウケていた。後半ではダントツでタモンズだったが、前半ではロビンフットと同等か、それ以上のウケだったかもしれない。

 事件は、国崎が免許を取得した瞬間に起きた。

 突然、国崎はそれまでの流れを終わらせ、観客の方を向いて両手をあおぎ、拍手を煽り始めた。観客は、それに乗せられ、拍手を始める。当然、拍手の波が起こる。自分も倣って叩いた。叩き続けた。煽って、煽って、煽って……かなり煽っただろうか。叩き続けているので、手が痛くなり始める。

 その瞬間、国崎が動かなくなった。直立不動。ピクリとも動かない。

 大拍手が国崎を包む。だが、観客と、勿論、伊藤も困惑している。
 次第に拍手が小さくなっていく、と思ったら、国崎はまた拍手を煽る。そして、また再度ピクリとも動かなくなる。

 かなりの時間、無、が存在した。笑いはなく、拍手しかない。

 動かない国崎に対して、隣にいる伊藤が慌て始めた。「ねえ」「ちょっと」などと声を掛ける。しかし、完全に無視。伊藤の存在は消されていた。
 そして、6分が経過したのだろう。二人の後ろのランプが青く点滅した。

 これ、このまま、締めないつもりか。その可能性が過ぎった瞬間、伊藤が大声で叫んだ。

 「あなたの悪いところ全部出てる!!!!!」

(そこで会場はドッと湧いたらしいが、正直マジで自分の記憶がない。多分、真顔で、ランジャタイのことを見つめていたと思われる)伊藤の叫びがあっても、観客の爆笑があっても、国崎は全く動かなかった。
 6分半が過ぎたのか、若干舞台が暗くなり始める。暗がりになりかけたところで、真顔の国崎の顔が、突然破顔した。「あざした〜」と、何事もなかったように、にかっと笑って国崎は去っていった。伊藤も去った。

 呆然とした頭で考えた。
 ああ。やっぱり国崎って、頭がおかしいんだな。狂ってる。
 やってはいけないことでも、やりたければやれちゃう人間なんだ。世界中を敵に回しても。

 あんなにも、他のみんなは真剣に漫才やってるのに、こんなことができてしまうんだ。それでも爪弾きにされない、笑いの地肩の強さと、とびきりの愛嬌が羨ましい。
 これを見て、ランジャタイがノックアウトステージに行けるかどうかなんて、自分には何も判断できないし、正直決勝に行くかどうかもどちらでもいいや! もう好きにやってくれ! と思った。
 こんな、ランジャタイ国崎の全力の狂気をくらってしまったおかげで、今後ザセカを視聴していく上で、国崎とは対極に位置する、総合的な人間力というか、人生賭けた泥臭さみたいなものに魅力を感じるようになったんだろうなと今、振り返ってみて思う。

 末恐ろしいことに、こんなことやったくせに、32組には残ったんだから、怖い。
 ちなみに国崎は、32抽選会配信でも平場で大暴れした。ヘンダーソンには謝った方がいい。

 結局、ランジャタイは、ノックアウトステージ32→16で、ラフ次元に惨敗して、敗退した。選考会のような拍手煽りはなく、完璧な『iPhoneの作り方』のネタをしたのだが、1点を付けた観客が9人もいた。(総合点数は比較的高めだったのが怖いところ)結局、1点の数は、ノックアウトステージから決勝含めて、ランジャタイが一番多かった。
 勝ったはずのラフ次元が「ランジャタイの残り香を感じる……」とあわあわしていたのが、可哀想だった。

 好き放題できて、良かったね、国崎。M-1の時にも思ったが、やっぱりランジャタイが優勝したら、世界の方が狂ったことになるのかもしれない。
 世界の平穏のためには、このままでいいかも。来年も出るなら、また頑張ってください。自分はランジャタイの大ファンですが、ザセカの応援はもうしないかもしれません。だって、国崎は結局ずっと、こうなんだから。そういうところが好きでファンやってるんだから!
 これからも、やりたいことやってめちゃくちゃしてください!!

・賞レースで推しは作らない方が良い、とわかっているができちゃう

 ランジャタイが(無事?)敗退したので、ノックアウトステージは、かなり穏やかに視聴することができた。

 2023 M-1の時や2024 R-1の時にも思ったが、「この漫才師、頑張れ!!!!」と強く思い続けていると、本人たちの一挙一動が気になり、低い点数が付いた時にはやっぱり落ち込む。本当はそんなこと考えたくはないのだが、審査員にも思うところが出てきてしまったりして、笑うために見てるのに、妙なジャッジでいちいち心が濁ってしまう。
 そういうことを踏まえると、特段応援する芸人がいない方が、賞レースは純粋に楽しめるような気がする。事実、M-1も、本戦より敗者復活の方が心穏やかに見られた。

 しかし、ジレンマなのだが、そうやってたくさん賞レースを見ていくと、様々な芸人を知ってしまい、好きな芸人も増えてしまって、結局、応援したくなってしまう。純粋に、勝ち上がった方がたくさんネタが見られるからだ。面白い人のネタは、もっと見たくなるでしょう。
 やっぱり、好みの芸人が勝って評価されたら、嬉しくなるもの人間心理だ。
 だから、お笑いと自分との距離感は、定期的に見つめ直す必要があると思う。巷では推し活が流行っておりますが、皆さんも無理なく応援していきましょう。

 個人的に、印象に残ったネタや対決について、メモしておく。

・ザ・ぼんちvsハンジロウは、凄かった。ザ・ぼんち師匠は、ちょっと格好良すぎる。来年叶うなら、ザ・ぼんちvsランジャタイが見てみたい。ランジャタイは歳を重ねたら、こんな感じになってくのかもしれないと思った。死ぬまで漫才してくれ。
・個人的には、リニアの一本目が衝撃的だった。ツッコミがボケに華麗に変わった瞬間、面白すぎる。好みです。配信で二回くらい見た。

・恐怖!インポッシブルvsななまがり! インポッシブルのサンパチ心臓マッサージ、一体なんだったんだ。
・M-1ラストイヤーからのななまがり、あのまんまで強かったのよかった。32→16の1点0人も何?ですが、16→8の1点7人で決勝に上がるのも凄すぎる。地上波の決勝で、ななまがりが見られたのは大興奮した。雨大好き女などのヤバ女たちが、公共の電波に乗るのはバグすぎた。

・COWCOWvs金属バット、ちょっとあまりにも面白過ぎた。オチのところで、COWCOWのポーズを金属バットが奪った瞬間、クソ笑った。こういうのが、タイマンならではの対決だなあ。この『趣味』が、そのCOWCOW込みで良すぎたから、決勝戦2本目よりも、この32→16の時の方が面白かったように自分は感じた。また、16→8と地上波一本目でもやっていた、金属バットの『大阪交通安全カルタ』は本当に面白い。何回でも見たい。

・32→16のかもめんたるが末恐ろしいほどに面白かった。流れ星⭐︎対策で、対戦が決まってからネタを作ったらしくて、驚き。
・ザ・パンチの面白さ、32→16、16→8と、どんどん増していくのすごかった。純粋に漫才がうますぎるし、浜崎も松尾も、なんでこんなにも表情が面白いんですか?(ザ・パンチについてはさらに後述する)
・東京ダイナマイトは、このザセカでザ・パンチに敗退した後に、漫才師としての活動休止を表明した。その理由については、ハチミツ二郎さんのnoteで壮絶で赤裸々に語られている。

 東京ダイナマイトを知っている知っていない、ザセカを見てるとか見てないとか関係なしに、少しでもお笑いに興味があるなら、お金を払って読んでほしい。自分は、この東京ダイナマイトの活動休止を踏まえた上で、ザ・パンチは決勝へ行ったんだな、ということを、ガクテンソクが優勝するまでずっと噛み締めていた。
 ザセカって、16年以上を笑いに捧げてきた人間の生き様が詰まり過ぎている。

・マシンガンズ、昨年準優勝。自分はお笑い歴が浅いので、2023の初回ザセカは見れていないのだが、マシンガンズが勝ち進んだ理由がよくわかった。人としてたいへん魅力的だし、すべての空気を持っていってしまう。ランジャタイとは全く別の意味で、「漫才ってこんなんでいいんだ!!!!」という人間讃歌を感じた。見るだけで、とっても元気が出る。
・それはそうと、ガクテンソク面白すぎんか????? 『国分寺』のネタ、面白過ぎてびっくりした。あと、16→8で、マシンガンズが二人して「俺らはめちゃくちゃだもんね!!!! 次はガクテンソクの上方漫才!!!!!!」って盛大に空気荒らしていったのに、涼しい顔して出てきたガクテンソク奥田が、ネタの中盤あたりで「あなた(よじょう)の髪型変だから、確かに我々は髪型漫才ですね」ってさらっと回収したのあまりにも痺れた。そういうアドリブカウンター以外でも、奥田のツッコミのワードセンスがよじょうのボケに毎回ハマり過ぎてて、めちゃくちゃ笑ってしまった。去年はマシンガンズvsガクテンソクでマシンガンズが勝ったらしいし、無事にリベンジ果たしたのも、ちょっと格好良すぎやしないか……。個人的にノックアウトステージの時点で、ガクテンソクのことが本当に好きになってしまったので、ザセカ終わるまではファンにならんでおこう……と、あえてYouTubeとかの検索を避けていた。そうしたら、優勝しちゃって本当にびっくり。予選見て一番好きになった芸人がそのまま優勝するの、精神衛生上、あまりにも健康すぎる。(ガクテンソクについても後述させてくれ)

・フジテレビ地上波での決勝戦は、過去vs日常だった

 5月18日、決勝8組によるトーナメント。先述したが、配信も全部買ってここまで見たので、全員のネタはわかっていたし、キャラや人となりもかなり把握していた。ここまで真剣に賞レースを見たこともなかったので、その高揚感も人一倍だった。
(現時点ならばまだTverで見られるので、また見たい人、もしくは興味を持った人はぜひ見てほしい)

 だからこそ、決勝戦は震えた。今、ここまで書き進めて思ったが、何やかんやノックアウトステージから、ザ・パンチとガクテンソクはとりわけ面白かったように思う。
 東京ダイナマイトに勝ったザ・パンチと、マシンガンズを倒したガクテンソクは、やはり凄みがあった。タイマン形式のザセカならではだろう。

 決勝戦、結果としてはガクテンソクが優勝したわけだが、ザ・パンチもめちゃくちゃ面白かった。自分があのボタンを握っていたら、間違いなく両方3点付けていた。ザセカは絶対評価だからね。
 結果はどうあれ、自分は自分なりにそれぞれの面白かったところ思い出して、書いていきたい。

 先攻、ザ・パンチ。
 予選から、計5本ネタを見たのだが、見れば見るほど、どんどん面白くなっていったように感じた。もう二人のニンを好きになっちゃったんだろうな。最後、決勝戦3本目のネタは本当にずっとゲラゲラ笑っていた。
 ザ・パンチが、ノックアウトステージに上がってきた時点で、「あ! 昔テレビで見たことある! 爆笑レッドカーペットによく出て、首に紫のネジネジ巻いてた人だ!」と懐かしさを覚えた。当時、自分はテレビをそんなに真剣に見ていなかったので、一発屋のような印象を強く抱いていたと思う。
 M-1 2008で、オードリーが華やかに敗者復活から準優勝まで駆け上がる中、ラストイヤーだったザ・パンチが「ラストチャッチャチャーンス」という適当なキャッチコピーをつけられて、最下位で大敗したことなど、全く記憶に残っていなかった。
 そのM-1の時点で結成10年、その最下位から16年後の賞レース決勝。ザ・パンチは、昔よりも、断然面白かった。本当に漫才が上手くなっていた。

 ナルシズムの浜崎に縋って、松尾が言う「ねえ〜お願いだから死んで〜」のあとに「楽屋でメンズノンノとか読まないで〜」とか「村で神と崇められてる大木切ろうとして〜」とか「お米送るから家で寝てて〜」というツッコミが定番だった。M-1決勝まで行けたということは、それで一度、自分たちの芸風を確立したはずだ。なのに、その上で負けた。そこからコンプラも厳しくなり、時代も変わっていった。お笑いに興味のなかった自分だから、ザ・パンチは消えた芸人だと勝手に思い込んでいた。

 一度評価されたもので負けてから、形を変えて16年間続けられる人は、どのくらいいるのだろう。きっと、いないよ。言葉も衣装も変えて、解散せずに、漫才を続けていたこと自体が凄すぎる。変わる勇気と、続ける気力。
 何よりも、漫才している二人は、楽しそうだった。

 ザ・パンチの決勝3本目。
 ボケてすっとぼける浜崎に対して、松尾が言う。

「俺はお前を殺めてしまうかもしれない」

 なんか、これってちょっと「ねえ〜お願いだから死んで〜」っぽいなと笑った。そして、しばらくの掛け合いのあと、松尾は浜崎の方を向き直る。
 くしゃくしゃの情けない顔で縋りながら、ツッコんだ。

「砂漠でラクダに逃げられて〜」

 あ!! あの時の、ザ・パンチのネタだ!!!!!!
 瞬間、ぶわっと、爆笑レッドカーペットにタイムスリップした。会場も拍手笑いが起こる。今までの4本では、一度も言ったことがなかった。あの瞬間は、きっと、みんなが同じ気持ちだったと思う。
 みんながザ・パンチを忘れても、あれから二人は、ずっとずっと16年間漫才続けて、この決勝の場で、ワンツッコミだけ蘇らせた。そこで爆笑を掻っ攫うの、あまりにも格好良すぎるだろう。
 お笑いに人生賭けすぎだよ。伏線回収すぎる。こんなの、オタクならみんな好きになっちゃう。
 何よりも、マジで漫才好きでやり続けてた、ザ・パンチの27年間の積み重ねを感じた。一途すぎる。
 過去に勝ったよ。だって、みんながそれで笑ったんだよ。エモすぎるだろ。

 それでいて、最低点取っちゃうのも、めちゃくちゃ笑った。ザ・パンチ、二人とも負け顔が似合い過ぎている。負けたのに、こんなにも笑わせてくれてありがとう。本当に格好良かった。大好きになりました。

 そして、「オズワルドさんたら、もう!」の配信で言っていたのだが、ガクテンソクよじょうが終わった後の打ち上げで、「あのラクダを連発されていたら、ほんまやばかったのに、一回だったのはなんで?」と、松尾に聞いたら(ちなみに浜崎も連発してほしかったらしい)、

「ウケたくてやってるのに、あそこ良かったね、みたいな感じにしたくなかった。ただ、ウケたいだけだからね」

と、言っていた。ごめんな!!!!!! エモを感じてごめんな!!!!!!!!!! だから本当に、エモ関係なしに、5本とも面白かったです。この配信で披露してくれた魔法のランプのネタも、めちゃくちゃ面白かった。
 ちなみに浜崎は、3本目だけあの紫のネジネジを付けようと持ってきていて、松尾に止められたらしい。二人ともなんだかんだM-1を引きずっているのも、人間らしくて良い。

 エモはいやだったと、松尾は言っていたのは知っているのだが、ザセカが終わった後に『バラ色の日々』を聞いていたら、ラスサビのところで、こんな歌詞が耳に入ってきた。

砂漠の荒野に倒れても 長い鎖につながれても
明日は明日の風の中を飛ぼうと決めた
バラ色の日々よ バラ色の日々よ

THE YELLOW MONKEY『バラ色の日々』 作詞:吉井和哉

 砂漠じゃん!!!!!!!!!!!! ちょっと!!!!!!! 倒れたってことは、ラクダ逃げてるじゃん!!!!!!!!!!
 あまりにもザ・パンチすぎる。過去のエモ、めちゃくちゃ感じちゃって引き摺っちゃって、文章にしたためちゃってすみません。また、新鮮な最新のザ・パンチの漫才たくさん見せてください。そのうち、沼津の劇場にもいきたいです。
 来年のザセカ、もし出場されるならば、とても楽しみにしております。


 後攻、ガクテンソク。
 先述したけど『国分寺』で、腹抱えて笑った。個人的に一番好みの漫才だった。3ステとも大爆笑した。二人の掛け合いがとても自然で、まさに日常会話みたいだった。
 と思って、色々調べたら、こんな記事や動画が引っ掛かった。

 本当に、ガクテンソクは日常会話が漫才なんだ、とわかった。コントインなザ・パンチに比べて、ガクテンソクはしゃべくりだけど、時事ネタとかっていうよりも、二人の関係性が滲み出ている。漫才が日常で、日常が漫才だ。
 その何気ない日常が、こんなにも面白いのはすごい。だって日常って、大抵面白くないから。

 日々を大切にして、生活して、日常を重ねていくことが、どれだけ難しいことか!

 自分の生活を肯定しないとできないネタだと思った。無理して脚色してるわけじゃなくて、まるっと取り出したネタだから。よじょうは本当に国分寺を愛しているし、その相方が変だと奥田は本気で思っている。上京生活も相方との差異も、そういうの全部まとめて肯定して、ガクテンソクは、日常を大切にしているんだ。
 この国分寺のネタで惚れたから、自分がガクテンソクの漫才が好きになった理由がわかった。

 日常を大切にする、関係性を大切にする。そんなあったかい漫才だから、好きなんだ。

 優勝の瞬間、ガクテンソクの二人は肩を組み、笑っていた。
 そして、奥田は、最後に赤裸々に叫ぶ。

「何者かになれたんですけど、漫才、やめません!!」

 夢を叶えても、人生は続く。やめませんと叫んだガクテンソクは最高に格好良かった。

 ザ・パンチのように過去を乗り越えること、ガクテンソクのように日常を重ねていくこと。どちらも人間の営みだ。
 確かに勝敗はついたが、ザセカを通して何に人生を賭けるのかということを思い知らされた。過去と日常で、二組は戦った。

 ガクテンソクやザ・パンチだけじゃなくて、そういう人生を乗せた漫才を、今年のザセカではみんなしていたように思える。無茶苦茶したランジャタイ国崎にだって、勿論信念があるし、32組、全組そうだった。あと、きっと解散したプラスマイナスだって、そうだったと思っている。そう、信じたい。

 過去も日常もひっくるめて、これからも人生は続いていくんだな。

 おじさんたちの人生を賭けた漫才、本当に堪らないほどに面白かった。
 THE SECOND、来年も楽しみにしてます!!!!!!!!!! 本当にありがとう!!!!!!!!!

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