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ケーキ屋さんの前の看板をみる時に気をつけて欲しいこと

「Happy Birthday たけるくん ゆうかちゃん おさむくん まことくん さきちゃん」

ケーキ屋さんの前でよく見る看板。


これを見るたびに思う。

「たけるくんは、何歳なんだろう?」と。


お分かりだと思うが、看板に名前が記されるのは、お店で誕生日ケーキを頼んでもらっている、バースデイボーイやバースデイガールたちである。

誕生日ケーキをわざわざ注文してもらえるのは、子どもである確率が高い。


ただ、世の中に絶対はない。

果たしてたけるくんが、55歳の中間管理職だという可能性は残されていないだろうか。


中学校を卒業し、そのまま弟子入りして修行を積んだ、その道30年のベテラン板前という可能性は1mmも残されていないのだろうか。

入社当時からの真面目な仕事ぶりが評価され、部長職にまで昇りつめたものの、飲みニュケーションを大切にする性分で、どうも最近若手から少し距離を取られているように感じている、小太りロマンスグレーという可能性は残されていないだろうか。


たけるくんには妻と娘がいて、たけるくんの誕生日を、妻と娘がサプライズでお祝いするために、ケーキを注文したという可能性は、その看板には残されていないのだろうか。


だとすると、ケーキ屋さん側も

「たけるくん」表記でいいのだろうか。


たけるさん

もしくは

たける様

いや、いっそ苗字の佐藤表記にして、様をつけるべきか。


・・・佐藤健・・だと・・・?

もしくは、たける部長。いや、その場合やはり苗字に「部長」とつけて、佐藤部長と呼ぶべきか。
たける部長呼びでは、部長に親近感を抱かれて飲みニケーションに誘われる可能性もでてくるし。

個人的には飲みニケーションは大好きだ。ただ、ネーミングが少しダサいなとは思う。


もしくは、たけるの若い愛人が、妻を差し置いて誕生日を祝うために注文したケーキの場合
黒板には「たけちゃん」という愛称での表記をする必要が出てくるかもしれない。

妻はたけるのことをあなたと呼ぶが、愛人はあえてたけちゃんと呼ぶ。



そう考えてみると、ケーキ屋さんってつくづく大変な仕事だ。


そんなことを妻に話すと

「ケーキ屋はろうそくの数で、年齢わかるやん。」とすごく冷静な返答があった。


確かにそうだなーと思ったその瞬間、次の疑問がわいてきた。


もし、たけるくんが本当に55歳の誕生日を迎えてお祝いする場合、ろうそくをケーキに全て立てることはできるんだろうか。

仮に立てられたとして、全てに火を灯すことはできるのだろうか?

火をつける過程で、別のロウソクの火に手が触れて「あちち」とならないだろうか。

全部に火がつく前に、最初に火をつけたロウソクが燃えきってしまうという可能性はないだろうか。

というか、もはやロウソクとロウソクの距離が近すぎて、火が合体してしまい、すごい炎が立ち上がる可能性はないのだろうか。

鬼滅の刃の煉獄さんもびっくりの、すごい火力になってしまわないだろうか。
その場合、水の呼吸とか言って、一息で全てのロウソクを消しにかかるくらいのお茶目さを、たけるは持ち合わせているのだろうか。

そもそも、たけるは鬼滅の刃を読んでいるのだろうか。

ちなみ、私は読んでいない。だから水の呼吸ってなにと問い詰められても「知らん」としかいえません。



と妻に言ったら
「そういう場合、だいたい数字の形したロウソクでまかなうやろ」
と冷静に言われた。


これ

確かに。


どうやらケーキ屋業界も、店前の黒板でおじさんに失礼をはたらいたり、おじさんのケーキが原因で家が燃えるなんてことの対策は万全なようである。

素晴らしき世界。



ただ、たけるも時にはたけるくんと呼ばれたい日があるかもしれない。いつも部長では、物足りないこともでてくるだろう。


あえて自分の息子のケーキを頼むふりをして、自分のケーキを頼みに行くのかもしれない。

ケーキ屋「息子さんのお名前は?」

たける「あぁ、たけるっていいます(息子の名前、実はたけし)」

ケーキ屋「では、誕生日当日に黒板にお名前をお書きしてもいいですか?」

たける「そうですね、たけしも喜ぶと思います」

ケーキ屋「あれ?たけるくんではなくたけしくんでしたか?」

たける「あぁ、すいません。間違えました。たけしは私です。息子と一文字違いなもので、紛らわしいんですよね。お恥ずかしい話だ。ははは」

ケーキ屋「そうでしたか。こんな素敵なお父様と一文字違いだったら、たけるくんは誇らしいんじゃないですか。ところで、ロウソクの数はどうしましょう?たけるくん何歳になるんですか?」

たける「あぁ、55歳です」

ケーキ屋「55歳?」

たける「あぁ、すいません。5歳です。最近呂律がまわらないことが多くて」

ケーキ屋「では、5本でいいですか?」

たける「あのー、数字をかたどったロウソクがあるじゃないですか?あれの5を2つ入れておいてもらえますか?」

ケーキ屋「2つですか?」

たける「えぇ、ホールのサイズの時に1本立ててやってお祝いし、その後切り分けたケーキにもロウソクを立てて、もう一回祝ってやりたいんです。だから2つ。追加で料金が必要ならお支払いします」

ケーキ屋「まぁ素敵。2回もお祝いされるんですね。お金は大丈夫ですよ。では、2本入れておきます」


これで無事に、たけるは自分の誕生日を「くん」付けで祝われることに成功したわけだ。


というわけで、まだまだケーキ屋の店前の看板が全員子どもだという保証はどこにもない。


明日ケーキ屋の前を通るとき、思いをはせてほしい。

その看板には、童心に帰って誕生日を祝われたい、おじさんの名前が1つか2つ含まれているかもしれない。



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