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#4.声帯手術を乗り越えて

Photo@Kengo.Abe
生え抜きショークラブ現役歌手、平山てりです。

30代になり、発声の追及にも、やりがいを感じてきた頃、歌の仕事以外に自分のオリジナル曲のライブをしようと企画して、頑張りはじめていた三十五歳のある日、カスカスの声が戻らない感覚がありました。それから何日にもわたって、高音が出なくなっていきました。なかなか治らず専門医を受診。三週間様子を見ても変わらず、その後の診察で、先生は暗い顔で、「慶應大学病院に紹介状を書きましょう」と言われました。実はこの時、喉頭癌の疑いがあったのです。症状は、結節とは違い、声帯の片側が全く動かなくなっていました。当時喉頭癌のスペシャリストの福田先生に診察していただくことができました。「癌じゃないから大丈夫だよ〜」と言っていただき、ものすごくホッとしたのを覚えています。しかし、原因不明の症状なので、先生も困惑しているようでした。動かなくなっている声帯が、硬化しているのか、それとも浮腫という柔らかく腫れている状態なのかで、対処が違うとのこと。手術でその部分を突いて見ないとどうするかわからないという珍しい症例でした。三日間の入院で手術。結果、動いていない方の声帯は、硬化ていました。そこで、声帯の上表面を薄く切り取って、声帯自体を薄くすることにより、波動しやすくするという手術をして大成功。三日間は絶対筆談なのですが、手術日次の日に、福田先生は、「ちょっとだけ、『あっ』て言ってご覧?」と言われて、発すると、「大丈夫!綺麗な声になっているよ」と言って頂き、涙が出る思いでした。ここまでで、歌えなくなって一年余が経過、喜びも束の間、ここからがまた更に一年半暗闇のトンネルを彷徨い歩くような日々となります。

筋肉を柔らかくするリザベンという薬を毎日服用。三日目から歌って良いと言われていましたが、声がゴロゴロひっくり返り、とても歌えたものではありませんでした。一からボイトレをしなければと、先生を探しましたが、声帯手術後のリハビリ専門の先生は見つかりませんでした。それで、藁をも掴む思いで、発声の先生を紹介してもらいましたが、レッスン料が、高額すぎて断念。その上私が知りたいことは教えていただけませんでした。

まともに声が出ない私は不安でいっぱいでした。前のように歌えるようになるとは思えないほど、声は出ませんでした。そこで、「自分が学んだ、体の筋肉を使った発声法を確立する時にしよう」と決めました。

舌根を下げて出す裏声で声が出なくなったので、地声を強化していこうと、呼吸中心に考えたメニューでエクササイズしていきました。

そして、まともに歌えるようになったと思えたのはそれから一年半後でした。

それから10年以上経ってから、地声の鍛錬法の画期的な方法を伝授して頂き、今では自信を持って、結節などにならない発声法を指導でき、自分も声帯に負担なく歌えるようになりました。

声を生業にしている人にとって、声が出なくなることほど、辛いことはありません。それは、死を宣告されたに等しい。それは、恐怖以外に何物でもありません。いつ出るようになるのか、また出なくなるのではないか、いつ元通りの声が出るのか、全くわからないストレス。わかります。まずはお医者様の判断が絶対必要ですが、お医者様が「声は出ます」とおっしゃるなら、必ず出るようになります。それを最短期間で実現できるようにお役に立てたらと思います。