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ようやく大手監査法人4社の決算が出そろいましたね。


監査法人で30年強、うち17年をパートナーとして勤めた「てりたま」です。
このnoteを開いていただき、ありがとうございます。

EY新日本有限責任監査法人の説明書類と計算書類が公表され、Big 4の決算が出そろいました。
主な数値を比較してみます。

マエショウさんがまとめられた4社の決算数値を参考にさせていただきました。マエショウさん、どうもありがとうございます。

なお、数値の正確性を含め、この記事の文責はてりたまにあります。



📈1. 監査法人の決算公表

この記事は「監査ガチ勢」以外の方にも向けて書いていますので、若干の補足説明。

監査法人には「有限責任監査法人」と「無限責任監査法人」があり、「有限責任監査法人」は監査済みの財務諸表(計算書類)を公表する義務があります。
4大監査法人はもちろん、規模の大きい監査法人は「有限責任監査法人」を選択しています。

もともと気心の知れた仲間同士で設立することが前提となっていた監査法人ですが、規模が拡大して500名を超えるパートナーを擁する法人も現れました。
全員が無限連帯責任を負う仕組みでは立ち行かなくなり、問題となった業務に関与していない場合は責任を限定することを選択できるようになりました。これが「有限責任監査法人」です。
なお、自ら監査報告書にサインした監査の場合は無限連帯責任を負うことに変わりはありません。

有限責任監査法人」制度は、大手法人を中心とする業界の主張が認められ導入されましたが、思わぬ副産物がありました。それが、「監査済み財務諸表の公表義務」です。
おかげで、有限責任監査法人については比較的詳しい財務数値が誰でも入手できるようになりました。

なお、4大監査法人の正式名称、この記事で使う略称、財務数値を入手したWebページは以下のとおりです。(略称の五十音順)


📈2. 大手監査法人の規模の推移

まず、各監査法人の規模を比較しましょう。
PwCを含めると他の3法人間の差が分かりづらくなるため、グラフからは除外して文章で補足します。

🔹2-1. 売上高(百万円)

監査法人に勤めている方も、クライアントの売上高はすらすら言えても、自社の売上高は意外に知らないのではないでしょうか。

トーマツは、監査以外の業務の売上が大きいため全体も大きくなっています。
監査業務のみの売上では、新日本トーマツあずさの順になります。

なお、PwCは前期610億円、当期726億円でした。当期PwC京都監査法人を合併したため、大きく増収となっています。

🔹2-2. 監査対象会社数(社)

新日本が微増傾向、トーマツが微減傾向の中、あずさの減少が目立っています。
上場企業が中心となる金商法・会社法監査に限ると、新日本トーマツあずさの順。ただし3社とも当期は減らしています。

PwCは前期1,182社、当期1,490社。やはり合併により増えています。

🔹2-3. 公認会計士(試験合格者を含む)の人数(人)

公認会計士(パートナー及び職員)と、まだ公認会計士を名乗れない公認会計士試験合格者の合計での比較です。

前期と当期の推移をみると、あずさ新日本が増やす中、トーマツが減らしています。

PwCは前期1,654人、当期1,951人です。


📈3. 1人当たり数値の推移

🔹3-1. パートナー1人当たり職員数(人)

パートナー1人当たりの職員(従業員)数をレバレッジと呼ぶことがあります。パートナーでないと興味がない数値かもしれません。

PwCが突出していますが、PwC京都監査法人の合併により他の3法人に近づきました。

🔹3-2. パートナー1人当たり売上高(百万円)

PwCトーマツが大きくなっていますが、これは両社とも非監査業務の割合が大きく、非監査業務の方がパートナー1人当たりの報酬が大きいことによると考えられます。
PwCはさらに、レバレッジの高さも効いています。

🔹3-3. 1人当たり人件費(百万円)

監査法人で働く職員にとっては、一番興味のあるデータかもしれません。
ただし、4社とも人件費は、パートナーと職員との合算でのみ開示しています。
上記グラフの元になる数値は、パートナーと職員の合計人数でこの人件費を割って算出しています。

上位2社が下がることで、全体として差は減少傾向です。


📈4. 1社当たり監査報酬(百万円)

監査を受けている会社にとっては気になるところでしょう。
全体として増加傾向です。PwCが下がっているのは、合併の影響と思われます。


📈5. 決算のトピックス

財務諸表の注記から、当期の決算のトピックスを拾います。

🔹5-1. あずさ

顕著なイベントはなかったようですが、会計方針の変更が1件あります。

退職給付会計に係る数理計算上の差異は、従来、発生年度に全額費用処理する方法によっていたが、当会計年度より発生年度の社員及ぶ職員の平均残存勤務期間以内の一定の年数(5年)による定額法により按分した額をそれぞれ発生した会計年度から費用処理する方法に変更している。

「会計方針の変更に関する注記」より抜粋

人員増による年金資産の大幅増加と、年金資産の運用環境の変化を理由に挙げています。

🔹5-2. 新日本

前期に引き続き、係争事件の注記があります。

元監査対象会社である株式会社東芝の監査証明業務に関して、同社の元株主から1,017,495百万円の損害賠償請求(株主代表訴訟)を受けているが、当法人は法的責任の存在を争って係争中である。

「貸借対照表に関する注記」より抜粋

損害賠償請求の金額に変更はありません。

🔹5-3. トーマツ

当期中に一部事業のスピンアウトを行っており、その会社の株式をパートナーに現物配当しています。

2023年11月3日の臨時社員総会において次の通り決議している。
配当財産の種類 デロイトトーマツリスクアドバイザリー株式会社の普通株式
帳簿価額 91百万円
基準日 2023年12月1日
効力発生日 2023年12月2日

「社員資本等変動計算書に関する注記」より抜粋

社員資本等変動計算書では、確かに利益剰余金が91百万円減額されています。

🔹5-4. PwC

前述のように、期中に合併がありました。

当法人は、2023年12月1日に当法人を存続法人としてPwC京都監査法人と合併し、同日付でPwC Japan有限責任監査法人に名称変更をいたしました。

財務諸表に含まれている被取得法人の業績の期間
2023年12月1日から2024年6月30日まで

企業結合日に受け入れた資産及び引き受けた負債の額並びにその主な内訳
流動資産 4,432百万円
固定資産 1,049百万円
資産合計 5,482百万円
流動負債 4,384百万円
固定負債    192百万円
負債合計 4,576百万円

「その他―企業結合等に関する注記」より抜粋

社員資本等変動計算書によると、合併により資本剰余金が536百万円増加しています。

そう言えば、PwCだけ注記が「ですます体」で記載されています。
どうでもよい情報でした。


🐣おわりに

公表された情報をまとめただけではありますが、ご参考になれば幸いです。

できるだけ客観的な情報に基づいて中立な表現を心掛けましたが、いかがでしょうか? もし何かお気づきの点があればお知らせください。


最後までお読みいただき、ありがとうございます。
この投稿へのご意見を下のコメント欄またはX/Twitter(@teritamadozo)でいただけると幸いです。
これからもおつきあいのほど、よろしくお願いいたします。

てりたま

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