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海外子会社に連結パッケージをスムーズに出してもらう方法【連結決算担当者向け】

親会社の連結決算は、連結パッケージが集まってからが勝負のはず。ところが全部集めるのだけでへとへとになる会社が多いのではないでしょうか。


監査法人で30年強、うち17年をパートナーとして勤めた「てりたま」です。
このnoteを開いていただき、ありがとうございます。

もういつだったか忘れてしまいましたが、Xでスペースをやったときに、海外子会社から連結パッケージ入手に時間がかかってしまうので、どうすればよいか、というご質問をいただきました。

本当は子会社のガバナンス向上策についてのご質問でしたが、ちょっとテーマが大きくなってしまいますので、例として挙げていただいた連結パッケージの方を取り上げることにします。

私は監査人という立場でクライアントの親会社や子会社の経理部門と関わってきました。
クライアントの中の人でないと分からないことがあり、私の知らない秘策があったりするかもしれませんが、外から見てきた経験からご回答します。

<連結決算に詳しくない方へ>
連結決算とは
企業グループ全体の決算のことです。親会社、子会社それぞれで決算した後、結果を合算し、必要な調整を行います。

連結パッケージとは
連結決算のために、対象となるすべての子会社の情報を入手する必要があります。各子会社は連結パッケージというテンプレートに自社の情報を入力し、親会社に送ります。
連結決算のメインの作業はこれがすべてそろってから始められますので、連結パッケージをタイムリーかつ網羅的に入手することはとても重要です。



連結パッケージの提出が遅れる理由

遅れる理由はだいたいが複合的です。次のいくつかの組み合わせになっているケースが多いと思います。

❶ 子会社経理部門のリソース不足

単純に人手不足で、作業が進まないということがあります。
経理部門は月次、四半期、年度などのサイクルで動くため、忙しいときとそうでないときの差が大きくなります。決算のピークに合わせて人手を確保できない、というのは経理共通の悩みです。

もう一つのリソースの問題は、経理能力不足。
子会社では優秀な経理人員の確保が難しく、ベテラン1人に業務が集中したり、誰もいないので日本からの駐在員が徹夜して作っていたりします。

❷ システムやプロセスが非効率

システムに問題があって、時間がかかってしまうこともあります。
古いシステムのまま使っていると、融通が利かないので手作業でカバーしている部分がどんどん増えてしまいます。
また、システムが遅くて処理に時間がかかることも。

システム外の人間系のプロセスに問題があることもよくあります。
他部門が協力してくれないためにしわ寄せが経理に行っているとか、情報の経路が複雑すぎて経理になかなか到達しないとか。

❸ 段取りが悪い

「経費の請求書が1週間待たないとそろわない」とあきらめていたのが、取引先に頼んでみると1営業日以内に出してくれた、といった話をよく聞きます。

また、経理部門内の段取りが悪く、手待ちやポテンヒットが発生して、少ない人手がさらに足りなくなることもあります。

中国の春節、タイのソンクラン、欧米のクリスマスなど、会社が何日も閉鎖される場合は段取りが難しいですが、時期はあらかじめ分かっているので対応できている会社もあります。

❹ 連結パッケージの優先順位が低い

子会社トップの意識が低い、子会社の中で経理部門の地位が低い、経理部門内でも親会社向けの業務は後回しにされるなど、連結パッケージを正確かつタイムリーに作成することの優先順位が低いことがあります。
ほかに優先することがなければ連結パッケージ作成を進めてもらえるのかもしれませんが、同時並行で多数の業務があることが通常。

❺ 親会社サイドの理由

個人的には経験は少ないのですが、親会社に問題があって提出が遅れる場合もあります。

  • 親会社経理から期日がちゃんと伝わっていない

  • 連結パッケージの作成が著しく面倒で時間がかかる

  • 連結パッケージの作成方法や新会計基準対応などについての指示が不明確だったり、子会社の質問への回答に時間がかかっていたり


連結パッケージの提出をスムーズにするために、親会社経理ができること

5つ挙げたうち、❺ 親会社サイドの理由は親会社自身が改善するしかないですが、ほかの4つについて、親会社主導でできる対策を考えていきましょう。

親会社または別の子会社から手伝いに行く

リソース不足を子会社が解消できなければ、どこかから手を借りるしかないですね。親会社もほかの子会社も、決算時期に手を割かれることは痛いですが、全体最適を考えてやむをえない場合があります。

この派生形として、子会社が外部アドバイザーを契約したり、親会社が外部アドバイザーを現地に派遣して、決算支援をしてもらうこともあります。
ただし、会社やビジネスのことを知らない人が支援する可能性が高いので、社内で調達するよりは立ち上がりに時間がかかります。

なお、中長期的には採用や育成によってリソースを充実させていかないといけませんね。
あるいは、シェアード・サービス・センターに機能を集約して、より少ない人数で回すようにする手もあります。

システムや手順を改善する

システムの入れ替えには時間がかかりますが、ちょっとした手直しや人間系の手順の改善で効率化し、決算を早くすることができるかもしれません。
親会社から子会社に乗り込んだり、外部アドバイザーを派遣したりして改善を促しましょう。

内部統制もしっかり構築すれば、間違ったまま決算作業が進んで大幅な手戻りになるリスクを小さくすることができます。

プロマネをちゃんとやる

経理部門外や社外も含めた決算のための作業を棚卸して、担当者と期日を決め、進捗を管理する、という当たり前のプロジェクトマネジメントができていない場合は、まずはしっかりと導入しないといけませんね。
親会社がほかの子会社の好事例を横展開するなどして、プロマネ構築を支援できます。

プロマネが機能するようになると、どこで遅れたか、遅れそうかが明確になるだけでなく、親会社からもモニタリングしやすくなります。

優先順位を高くしてもらう

担当者レベルで「優先順位を上げてくださいね」と一言いうだけでは何も変わらないので、次のようなことをできるだけやっておきましょう。

  • そもそも連結パッケージがなぜ必要なのか、提出が遅れたり正確でなかったりするとどのような問題が発生するかを伝える

  • 日ごろからライブのコミュニケーションの機会を持つ

  • 日ごろから困りごとがあれば助けてあげて恩を売っておく

  • 子会社を訪問して、担当者と対面で話す

  • 親会社の役員クラスから、子会社のトップに厳しく言ってもらう

【2024/5/29 9:00追記】
HORIさんからコメントをいただき、最初の項目を追加しました。
HORIさん、どうもありがとうございます!


おわりに

子会社なりにがんばっているのに、決算が遅いのであれば、本格的な決算早期化に取り組む必要があります。
決算早期化の決定版と言える武田雄治さんの本を読んで、自社では手に負えないと思ったら外部の手を借りましょう。(PR案件ではありません!)

連結決算を担当されている方、過去に担当されていた方、アドバイザーとして入られている方から、ご意見があればぜひお聞かせください!


最後までお読みいただき、ありがとうございます。
この投稿へのご意見を下のコメント欄またはX/Twitter(@teritamadozo)でいただけると幸いです。
これからもおつきあいのほど、よろしくお願いいたします。

てりたま

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