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苦手な「交渉」を得意技にするために

てりたまです。
監査法人で30年強、うち17年をパートナーとして勤めました。

どんな仕事をしていても、仕事でなくても、交渉事はつきまといます。
私も交渉する機会はたくさんありましたが、いつも後で「こう言えばよかったのに…」と後悔することしきり。
そもそも、自分が得するために弁を弄して相手を言い負かす、というのがどうも性に合いません。

そんな中、一冊の本に出会います。

交渉はディベートの場ではないし、裁判でもない。聴衆にアピールする必要もない。説得すべき相手は目の前の交渉者である。
あえて裁判にたとえるなら、二人の裁判官が共同で判決を考えるようなものだ。そのような場面を想像して、一緒に判決理由を考えているところを思い描いてみるといい。そうした状況で相手を非難したり声を張り上げたりしても、何の役にも立たない。むしろ見方に違いがあることを明らかにして、問題の解決のために力を合わせたほうがいい。


「ハーバード流交渉術 必ず『望む結果』を引き出せる!」
ロジャー・フィッシャー/ウィリアム・ユーリー、三笠書房

俗っぽいタイトルがついていますが、アメリカの大学で研修を受けたときに、必読書に指定されていたものです。
この本で学んだことを、私なりにまとめます。

「ハーバード流交渉術」

敵対しあうのではなく、同じ方向を向いて話す

交渉、というと、こんなイメージがありますよね?

古典的な交渉のイメージ

交渉当事者が、相手を向きあって議論を戦わせる。自分の「立場」を主張すると、こうなります。
「(買い手としては)値段は下げてもらいたい」
「(売り手としては)その値段では売れない」
これでは折り合えません。

先ほどの引用にもあるように、交渉に向かう姿勢を変える必要があります。

あるべき交渉の姿

当事者が肩を並べ、同じ方向を向きます。さらに、交渉する対象を客観的に見て、目的を共有しあう者として冷静に議論するイメージ。
売買の交渉でも、価格以外の要素があります。品質、数量、納期、支払条件などなど。ひょっとすると、売り手としては品質を下げてよければ価格をかなり抑えられ、買い手はその程度の品質低下は気にしない、ということも。合意点が見つかれば、お互いハッピーです。

交渉事ではないですが、私が監査法人にいるときに、スタッフから「退職を考えている」と相談を受けることがありました。
このとき、「辞めたい」「辞めてほしくない」と言いあっていても仕方ありません。同じ方向を向いて、退職することが本人にとって、また監査チームにとって、どのような意味を持つのか、を話しあうことを心がけました。

準備がすべて

言うまでもないですが、準備を念入りにやればやるほど、交渉がうまく運びます。
準備とは、情報収集と、シナリオのプランニングです。

私が監査マネジャーだったとき、ほかのマネジャーたちとシニアやスタッフの配属を決める会議がありました。
マネジャーはだいたいこの会議を嫌がっていましたが、私はそれほど苦にしていませんでした。なぜなら、準備をして臨めば、ある程度イメージする方向に議論を持っていくことができたからです。
例えば、同じ週にスタッフのAさんとBさんに私のジョブに来てほしいと思っていて、二人とも別のマネジャーの要求と重複している場合。
事前に、そのマネジャーはどちらかといえばAさんを優先したいようだ、といった情報を探ります。
そのうえで、「Aさんはあきらめて、 Bさんを死守する。そのうえで、空いているCさんを3日だけ要求する」といったシナリオを作ります。

ちなみに、日本人は一本のシナリオに「当たって砕けろ」と賭ける傾向があるそう。
思い通りいかない場合を想定して、複数のシナリオを準備しておくとあわてずに済みます。

「譲れない線」を決めておく

十分に準備をしても、どのシナリオとも違う展開になるかもしれません。
そんなときに「譲れない線」を決めていなければ、気がついたらとんでもない譲歩をさせられているかもしれません。

前述の本では、「Best Alternative To a Negotiated Agreement」(略してBATNA)という概念が出てきます。BATNAは、「交渉がうまくいかなかったときの代替案」です。
例えば、売り手が同じ商品を100万円で買ってくれる人がほかにいるのであれば、今の交渉相手に100万円未満で売る必要はないかもしれません。この場合のBATNAは、「別の買い手に100万円で売る」です。

ちなみに、BATNAを交渉相手に見せてはいけません。
「そんなこと、するわけないだろ」と思われるかもしれませんが、相手を信頼しているからか、隠しておくプレッシャーから早く楽になりたいのか、手のうちを最初から全部見せてしまう人もいます。
見せられたほうは、「この人、大丈夫?」と、かえって不信感を抱くかもしれません。

おわりに

交渉の場では、「感情的にならない」ことが一番重要だと思います。
そのために、感情がぶつかり合わないように同じ方向を向き、想定できるシナリオを頭に入れ、そこから外れてもBATNAを持っておくことで、取り乱したり感情的になることを防止できます。
「感情的な相手に主導権を握られた」ということもあるかもしれません。意図して感情的に見せることはあってもよいかもしれませんが、本当に感情の思うがままにさせてしまうと、交渉も自分自身もコントロール不能になってしまいます。

皆さんがこれからの交渉で、少しでもお互いによい結果を得られることをお祈りしています。


最後までお読みいただき、ありがとうございます。
この投稿へのコメントや、Twitter(@teritamadozo)などでご意見をいただけると幸いです。
これからもおつきあいのほど、よろしくお願いいたします。

てりたま

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