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中間財務諸表会計基準をサクッと解説

2024年3月22日に「中間財務諸表に関する会計基準」が発行されました。時間のない皆さんのために、軽く解説します。忙しい人は、見出しだけでも見て行ってください。


監査法人で30年強、うち17年をパートナーとして勤めた「てりたま」です。
このnoteを開いていただき、ありがとうございます。

企業会計基準委員会(ASBJ)より「中間財務諸表に関する会計基準」が発行されました。(以下、「中間会計基準」、同適用指針を「適用指針」と呼びます)

とっとと本題に入ります。

忙しい度合いによって、3つの読み方ができます。
1分しかない方:下の目次をさっと眺めてください
5分しかない方:各項の冒頭部分(【補足】以外)を読んでください
10〜15分くらい取れる方:【補足】も含めてお読みください。



中間会計基準について押さえておくべき点

四半期報告制度の見直しの復習

中間財務諸表の話に入る前に、制度の何が変わるか、念のための復習です。
必要な方のみご覧ください。

【補足】
上場会社を前提に説明します。

<開示制度>
四半期報告書は廃止され、以下のように変更
 第1四半期:決算短信のみ
 第2四半期:決算短信+半期報告書(中間財務諸表)
 第3四半期:決算短信のみ

<監査制度>
 第1四半期:不要(任意でレビュー)
 第2四半期:レビュー
 第3四半期:不要(任意でレビュー)

四半期会計基準から変更なし

新しい会計基準ができたものの、これまでと何も変えないでおこう、という方針で作られています。
これまでの第2四半期と同じ、と考えていただいて構いません。

【補足】
会計基準を作成するにあたって、議論の焦点は第1四半期決算の影響が第2四半期決算に及ぶとき、どうするかという点にありました。
具体的には次の処理です。

❶ 原価差異の繰延処理
❷ 子会社を取得又は売却した場合等のみなし取得日又はみなし売却日
❸ 有価証券の減損処理に係る切放し法
❹ 棚卸資産の簿価切下げに係る切放し法
❺ 一般債権の貸倒見積高の算定における簡便的な会計処理
❻ 未実現損益の消去における簡便的な会計処理

例えば有価証券で、四半期ごとに切放し法で減損処理を適用していたとします。
第1四半期で減損処理を行った場合、中間財務諸表では次の二つの処理が考えられます。
a 第1四半期減損後の簿価を引き継ぐ
b 第1四半期での処理は取り消す

aは、第1四半期では金融商品取引法に基づく財務諸表の開示がないのに、その影響が中間財務諸表に及ぶはちょっと変です。
しかし、bであればこれまでの四半期決算と処理が変わってしまいます。

結論はbを採用。
割り切ってこれまでの実務と変わらないようにしよう、ということです。

ちょっと注意が必要なのは、6つあるうちの❶と❷は会計基準本文にばっちりと書きこまれた一方で、❸~❻は適用指針の経過措置として記載されたこと。いずれ廃止されるのか、と気になります。
公開草案へのパブコメでも「適用が認められる期間を結論の背景などで示すべきではないか」との意見がありましたが、将来的な検討課題とするにとどまっています。

ちなみに、固定資産の減損会計はどうなんだ、と思われるかもしれません。
固定資産は、期中のどこでも兆候があれば減損する建前なので、四半期であろうと月次であろうと月中であろうと、減損したら戻せません。

比較情報としての前期の損益計算書、キャッシュ・フロー計算書も中間会計基準により開示

当期から適用になりますので、比較情報をどうするかが問題となります。次の3つのパターンが考えられます。
a 前期数値は新しい中間会計基準による
b 前期の第2四半期累計期間を参考情報として出す
c 比較情報は出さない

結論はa。新しい会計基準による、です。

「え、作り直さないといけないの?」
ご安心ください。前項でお話ししたように、結局何も変わらないので、前期のままでよいはずです。

【補足】
中間財務諸表を新たに作るので、洗替え法と切放し法を堂々と変更してもよいのか、という(あまり実務的でない)疑問もわきます。
これについてはパブコメ回答ではYes、しかも会計方針の変更には該当しない、とのことです。

この場合、当然比較情報として開示する前期数値もやり直さないといけません。
これまでずっと洗替え法/切放し法を変更したいと考えていて、しかも前期はどちらの方法でも減損などがなかった場合にのみ検討する価値がある論点だと思います。

特定事業会社(銀行、保険など)の中間財務諸表は引き続き中間作成基準等を適用する

これは関係のある会社は限られるので、興味のある方だけ。

【補足】
「半期報告書」「中間財務諸表」と言うと、私のような古株には懐かしい響き、若い方々には新鮮な響きがあると思います。
しかし、銀行、保険などの特定事業会社と言われる会社や、非上場の有報提出会社は、これまでも中間財務諸表を含む半期報告書を提出し続けています。

これらの会社は、中間会計基準は適用になりません。
従来と同様に、中間財務諸表作成基準が適用になります。

ちなみに、中間会計基準、中間作成基準という2種類の会計基準による中間財務諸表が世に出ることになるため、金商法では前者を第一種中間財務諸表、後者を第二種中間財務諸表と呼んでいます。

この辺りはASBJの資料に分かりやすい表が出ていました。
「本公開草案」は「本会計基準」に読み替えてください。↓

ASBJ「企業会計基準公開草案第 80 号『中間財務諸表に関する会計基準(案)』等 の概要」より

第1四半期、第3四半期のレビューが義務付けられる場合がある

冒頭で、レビューが強制されるのは第2四半期のみと書きました。
しかし、中間会計基準からは外れますが、イレギュラーな場合に第1四半期、第3四半期でも義務付けられることがあります。

【補足】
東証が以下のような場合に求めるとしています。(太字は筆者)

a 直近の有価証券報告書、半期報告書又は四半期決算短信(レビューを受ける場合)において、無限定適正意見(無限定の結論)以外の監査意見(レビューの結論)が付される場合
b 直近の内部統制監査報告書において、無限定適正意見以外の監査意見が付される場合
c 直近の内部統制報告書において、内部統制に開示すべき重要な不備がある場合
d 直近の有価証券報告書又は半期報告書が当初の提出期限内に提出されない場合
当期の半期報告書の訂正を行う場合であって、訂正後の財務諸表に対してレビュー報告書が添付される場合

最初に適用されるのは12月決算会社

中間会計基準をもって決まったわけではありませんが、12月決算会社が最初に半期報告書を提出することになります。

【補足】
3月~8月決算会社は期首から新制度フル適用でシンプルです。

9月~2月決算会社は、期中から適用になるため注意が必要。
例えば9月決算会社では、2024年6月第3四半期は突然四半期報告書がなくなり、短信のみになります。
2月決算会社の場合、2024年5月第1四半期は旧制度の四半期報告書を提出、2024年8月第2四半期に新制度の半期報告書を提出します。

図で見ていただく方が早いですね。スマホの方は拡大してご覧ください。↓

企業会計審議会監査部会(第55回)事務局資料より

監査上の留意点は…

適用指針の経過措置により、第1四半期に適用した切放し法を中間でも戻さない会計方針としている場合で、第1四半期は任意のレビューを行わない場合、監査人として注意が必要なことがあると思います。
それは、第1四半期の切放し法に対してどれくらいの手続を実施するか、ということです。

【補足】
有価証券を例に考えましょう。

第1四半期で有価証券を減損している場合、中間レビューで検証すると思います。
問題は減損していない有価証券について、第1四半期で減損しなくてよかったか、検討が必要ではないか、ということです。
第1四半期末に株価が大きく下落していて、第2四半期末には戻しているような場合に問題となります。

同様に、第3四半期で減損していない場合も、減損しなくてよかったのかを期末の監査で見る必要があるように思います。


参考資料

ASBJ

  • 企業会計基準第33 号「中間財務諸表に関する会計基準」(2024年3月22日)

  • 企業会計基準適用指針第32 号「中間財務諸表に関する会計基準の適用指針」(2024年3月22日)

  • 企業会計基準公開草案第80 号「中間財務諸表に関する会計基準(案)」等に対するコメント(2024年3月22日)

  • 「企業会計基準公開草案第 80 号『中間財務諸表に関する会計基準(案)』等 の概要」ASBJ専門研究員 山田正顕(2023年12月21日)

その他


おわりに

金商法の改正が遅れたため、中間会計基準は相当バタバタの中で作られたようです。
実務への負担を考慮して何も変えない、と割り切って突貫工事を行い、それゆえに検討が不足していた点はパブコメから拾って補い、何とか間に合わせたというところだと思います。

関係者の皆さま、お疲れさまでした。


最後までお読みいただき、ありがとうございます。
この投稿へのご意見を下のコメント欄またはX/Twitter(@teritamadozo)でいただけると幸いです。
これからもおつきあいのほど、よろしくお願いいたします。

てりたま


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