会計ポジションペーパーの作り方
何年も続けている会計処理について、誰がどんな検討をして決めたのか分からなくなることがよくあります。
ちゃんと文書にして残しておけばよかったですね。その正式版が「ポジションペーパー」です。
てりたまです。
監査法人で30年強、うち17年をパートナーとして勤めました。
前々回、監査人とクライアントとの間で会計処理についてよくもめる、という話をしました。
その中で「ポジションペーパー」なるものに言及しています。
ポジションペーパーとは、会社が決定した会計処理や開示について、その根拠を説明した文書。
IFRS(国際財務報告基準)の導入時に話題になることが多いですが、どの会計基準を適用していても、本当は作成しておく方がよいものです。
今回は、企業の経理の方向けに、ポジションペーパーの作り方について考えていきます。
と言っても、決まった要件やフォーマットがあるわけではありません。
会社ごとに内容を決めることになります。
ポジションペーパーに最低限必要な項目
まずはスタートとして、最低限必要な項目を4つ取り上げます。
❶関連する情報
会計処理などを判断するために、必要な情報を集めましょう。
例えば、複雑な取引があるとすると…
取引の概要
タイムテーブル(いつ、何が起こるか)
金額規模
契約書からの引用
過去の類似する取引
❷関連する会計基準
検討が必要な会計基準、適用指針、開示規則などを収集します。
関連する条項も特定し、特に重要なものは抜粋しておきましょう。
関連する会計基準が網羅的に把握できていないと、結論を間違ってしまうこともあります。
❸会計処理・開示の検討
関連する情報と会計基準に基づいて検討し、結論を導きます。
まず、検討するべき論点を網羅的にリストして、それぞれについて検討を加えましょう。
連結と単体、それぞれの検討も必要です。
ここでのポイントは、関連する情報と会計基準をベースにして議論を展開すること。
言い換えると、会計判断は、関連する情報と会計基準によって支えられているはずです。
そのような裏付けなく、持論を延々と語っても、意味のあるポジションペーパーにはなりません。
ここでは、「熱い思い」よりも「客観性」が重要です。
作成していくと、情報が足りなかったり、別の会計基準を参照する必要があったり、ということに気づくのが通常です。その都度、❶と❷に追加しておきましょう。
❹結論
検討した結果として、どの期に、どのような会計処理、開示になるのか、を具体的に記載しましょう。
勘定科目番号や仕訳分類コードなど、仕訳を切るために必要な事項も含めて記載しておくと、実際に会計処理を行うときに便利です。
追加を検討するべき項目
必要最低限、ということで4つ挙げましたが、盛り込んでおく方がよい内容はほかにもあります。
会計論点の充実
以下のような内容も追加することで、より充実したポジションペーパーになります。
選択した会計処理・開示について、ネガティブな情報とそれでも選択した理由
選択した会計処理・開示をサポートする情報だけできれいにまとめたい、という気持ちは分かりますが、それと矛盾するような情報がある場合も、事実である以上は検討に含めましょう。選択しなかった会計処理・開示とその理由
特に「一見すると、ほかの会計処理を選択する方がよいように見える」場合には、なぜ選択しなかったのか、十分な説明が必要です。過去の会計処理との整合性
「前々期の処理と違うよね?」と他部署から問い合わせがあったり、ひょっとすると経営陣から質問が来るかもしれません。
これらはいずれも、監査人が批判的に検討する中でよく出てくるものです。
会計処理・開示以外の検討領域
案件によっては、会計処理と開示以外にも重要な影響がありえます。これらについても最初から検討しておけば、あとであわてずに済みます。
キャッシュ・フロー計算書への影響
ポジションペーパーを作成する案件は、新しい取引だったりイレギュラーな取引が多くなりますが、これらはキャッシュ・フロー計算書で間違えやすいところです。
キャッシュ・フロー計算書の誤りは見つけにくい(≒あまり注目されないので見つからない)ので、早いうちに検討しておきましょう。財務諸表以外の開示への影響
会社法の事業報告、有報・四半期報(経理の状況以外)、決算説明資料、統合報告書などへの影響も見ておくとよいでしょう。
定性的な説明と矛盾したり、財務諸表に出てこない数値に思わぬ影響があるかもしれません。予算等への影響
年度計画、中期経営計画、その他管理会計への影響も、ポジションペーパーに盛り込んで一緒に検討しておくとよいでしょう。
その他の記載事項
本案件に関する次回の検討時期
一回処理して終わりであればよいのですが、以後の期にも継続する場合、毎四半期検討するのか、何かイベントが発生したら検討するのかを決めておくと、検討漏れの防止に役立ちます。経理プロセスや内部統制への影響
特に今後継続して処理が必要となる場合、そのためのプロセスを構築することがあります。A部署の担当者が数字を作成し、その上司が承認後、経理でチェックする、といったプロセスです。
ポジションペーパーを運用するルール
ポジションペーパーを導入し、安定的に運用するためには、ルールを決めておく必要があります。
次のような項目を定めておくとよいでしょう。
保管方法と期間
採番
作成者と承認プロセス
作成の要否を決める基準
次の点を考慮して決めることが多いでしょう。
・金額的に重要か、将来重要になるか
・一過性か今後も継続するかフォーマット(テンプレート化)
ポジションペーパー作成のコツ
最後に、何点か補足します。
最初からすごいものを作ろうとしない
これまでポジションペーパーを作ってこなかった場合、最初から気合が入りすぎると息切れします。
まずは必要最低限から始め、必要に応じて徐々に充実させていくのがよいでしょう。
監査人を巻き込む
ポジションペーパーを導入すると、分からないことがいろいろ出てくると思います。
そのときに監査人を巻き込んで、アドバイスをもらいましょう。
なお、監査人の都合としては、ポジションペーパーを作成中に拝見することがあっても、監査法人としての合意は作成後に改めて検討させていただけると助かります。
人材育成に活用する
経理経験の浅い方にドラフトを任せることで、会計面での人材育成に役立ちます。
ゼロからの作成がハードルが高ければ、上席者と一緒に❶~❹の概要を箇条書きしてから始めるとスムーズです。
ただし、慣れないと際限なく時間がかかってしまうかもしれません。最大の所要時間も決めておいて、それを超えそうなら手伝ってあげるのがよいでしょう。
終わりに
「うちの経理にそんなものを作っている時間はないよ~」という声も聞こえてきそうですが、ここに時間を投資することで、経理部門のレベルアップにつながり、引き継ぎのときに使えたり、監査人とのコミュニケーションでのストレス削減にも寄与します。
貴社の業務改善のヒントになれば幸いです。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
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これからもおつきあいのほど、よろしくお願いいたします。
てりたま
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