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監査人とクライアント、立証責任はどっちにある?

監査を受ける会社が、採用する会計処理や開示の内容を決定し、決定した理由を説明し、監査人が監査する。
当たり前のことのようですが、このようになっていないことが多く、監査人の負担が増え、クライアントのイライラにもつながっているように思います。


てりたまです。
監査法人で30年強、うち17年をパートナーとして勤めました。

監査人とクライアントの会話、二つのパターン

監査の現場で、監査人とクライアントが会計処理について協議している場面を想像してください。

監査人とクライアントとの会話 パターン1
監査人「この会計処理の適用は難しいと考えています。なぜなら、A、B、Cだからです。」
クライアント「それは納得いきませんね。そもそもCは当社に当てはまらないんじゃないですか?」
監査人「Cは貴社に当てはまると考えています。なぜならC1だからです。」
クライアント「Dは考慮してもらっていますか? DによってOKになるはずです。」
監査人「失礼しました。Dについて検討した上で、またご連絡します。」
クライアント「いつまでに検討できますか? そろそろ決めないといけないので。」

よくありそうなケースですね?
補足しますと、ある会計処理について、監査人の検討結果をクライアントに伝えているところです。
A、B、Cという3つの論点から、この会計処理は認められない、という結論ですが、クライアントからもう一つの論点であるDについて提示がありました。

同じ背景で、次のようなパターンもありえます。

監査人とクライアントとの会話 パターン2
クライアント「この会計処理を行った理由は、Dです。」
監査人「A、B、Cは検討されましたか?」
クライアント「CはC2により、当社には該当しないと考えています。A、Bは検討していません。」
監査人「会計基準に沿ってA、Bの検討も必要です。いつまでに検討いただけますか? それまでにこちらでも、DとC2を検討しておきます。」

パターン1では監査人が攻められていますが、パターン2では攻めに回っています。この違いはどこから出てくるのでしょうか?

まず明らかなことは、最初にどちらから説明するか、が違っています。
パターン1では「なぜダメか」を監査人が説明しているのに対し、パターン2では「なぜOKか」をクライアントが説明しています。

あるべき姿は、パターン1、パターン2のどちらでしょうか?
意見が対立するときに、どちらが立証責任を負うか、と言い換えることもできます。
クライアントが正しい財務諸表を作成し、監査人がそれをチェックする、という立て付けからは、私はあるべきはパターン2だと考えています。
皆さまはいかがですか?

あるべき姿にするために

パターン2があるべき姿、との前提で話を進めます。
パターン1になってしまう背景に、次のような事情があると思います。

❶クライアントと監査人の役割
クライアントは会計事象と会計処理の内容を説明し、監査人が会計基準に照らしてそれでよいか確かめる、という役割分担になっている

❷クライアントの会計処理検討の深度
クライアントは、会計基準を参照し、会計処理を決定するが、その判断の過程は明確でないことが多く、文書化もされていない

「❶クライアントと監査人の役割」では、会計基準の準拠性を検討するのは監査人であってクライアントではない、という前提になっています。
この理由として、クライアントが「専門家である監査法人に教えてもらえばよい」と思っていることに加えて、監査人の中に会計について考えることが好きな人が多い、ということもあると思います。

そうなると、「❷クライアントの会計処理検討の深度」のように、クライアント側での検討は浅くなり、文書化されることもありません
その結果、クライアントの方でなぜこの会計処理にしているか分からなくなり、何年か経って「うちはどうしてこの処理なんでしたっけ?」と監査人に聞いたりすることになります。

これをパターン2にもっていくためには、次の二つが必要になります。

・クライアントに、会計処理の検討過程を説明する文書(ポジションペーパー)を作成するように促す
・ポジションペーパーがなくても口頭で説明できればよいが、説明できなかったり、重要な論点を考慮していなかったりすれば、内部統制の不備とする

この二つをいきなり全面的にスタートさせると混乱しますが、まずは特に重要な会計処理についてのポジションペーパーの作成から始め、徐々に内容を充実させつつ、ほかの会計処理に展開するのがよいと思います。
不備とするラインもすり合わせしながら、時間をかけて移行していきましょう。

誰も得しないパターン3

ところで、パターン1よりももっと監査人が苦しみ、誰も得しない、こんな状況におちいったりいないですか?

監査人とクライアントとの会話 パターン3
監査人の独り言「(この会計処理をサポートするのは難しいなあ。A、B、Cで簡単にアウトだ。でも、いまさらダメとは言えないし… そうだ、Dを前面に出して、CはC2により該当なし、という調書を作ろう。AとBはあえて説明しないようにしよう)」

~1週間が経過~
監査法人内の審査「AとBの検討はしていますか? Dは微妙だけど、Cは該当なしとはしづらく、この処理の適用はA、B、Cの3つの理由で難しいと思いますよ。」
監査人の独り言「(もう逃げられないなあ。クライアントに言うか…)」

~クライアントにて~
監査人「今ごろまことに申し訳ないのですが、この会計処理が通らないことになりまして、変更をお願いできませんか?」
クライアント「え、これまで何も言わなかったじゃないですか? さっきトップにも説明しちゃいましたよ。うちの決算発表の日は分かってますよね?」
監査人「存じております。申し訳ございません…」

終わりに

パターン2は、あるべき姿という以上に、監査人もクライアントも余裕のあるうちに検討でき、お互いのストレスを減らすことができると考えています。

皆さんが監査人であっても、監査を受けるクライアントの立場であっても、スムーズに監査が進むことを祈っています。


最後までお読みいただき、ありがとうございます。
この投稿へのご意見を下のコメント欄またはTwitter(@teritamadozo)でいただけると幸いです。
これからもおつきあいのほど、よろしくお願いいたします。

てりたま

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